BLEACH Blade crest   作:井上木下三上

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一歩

 

 

 

 

「道は閉ざされたぞ一護」

 

 

 

 抜けるような蒼天――神を墜とした黒月と白空が解けたそれを見上げ、ユーハバッハは声が吸いこまれていくような果てのない青を見て言う

「恐怖無き世界への道が」

 その身体は半分以上が消失し、今も尚わずかずつ消滅していた。その瞳は天を映し、そしてそれを一歩離れた場所で一護が、その数歩後ろに織姫が立って最後の言葉に耳を傾ける

「現世も尸魂界(ソウルソサエティ)虚圏(ウェコムンド)も一つになるべきだ――生と死は混じり合い、一つになるべきだったのだ」

 自身の――人の願いの敗北を噛みしめ、惜しみながらユーハバッハは無力感を噛みしめるように言う

「だがそれも最早叶わぬ」

 その一言で語気を強めたユーハバッハは、瞳を動かして自身を睥睨するオレンジ色の髪の死神を見る

「お前のお陰でな一護」

 卍解を解き、死神の姿となった一護と視線を交わしてユーハバッハは、その瞳に宿る感情を見透かしたかのように嗤って言う

「無念だ」

 そう言いながら、不思議と悔恨の念を感じさせないユーハバッハは、それでもなお手に入らなくなった願いに思いを馳せて、その瞳で()を殺した死神――黒崎一護を射抜く

「お前のお陰で生と死は形を失わず、命あるすべてのものはこれから先も死の恐怖に怯え続けるのだ」

 嗤いながら最後まで言い切ったユーハバッハは、力尽きたようにゆっくりと瞼を落とす

 

「永遠に」

 

 

 自身が叶えられなかった世界、そして一護が護った世界の未来に思いを馳せるように瞼を落としたユーハバッハがそう告げた瞬間、世界が軋み空に亀裂が走る

「なんだ!?」

 突然の事態に一護と織姫が困惑して天を仰ぐ中、その身体が失われていくユーハバッハが口端を吊り上げて嗤う

「今の私は、霊王そのもの。私が滅びるということは、現世、尸魂界(ソウルソサエティ)虚圏(ウェコムンド)――世界の全てが崩壊することを意味している」

 霊王を取り込んだユーハバッハは、今やこの世界を支える支柱。それが失われるということは、三つの世界を分ける境界の崩壊と世界の滅亡を意味していた

 

 

「残念だ一護。世界を滅ぼしてしまったな」

 

 

「……ッ」

 護ったはずの世界を失う事実に顔を歪める一護に一矢報いたことを悦ぶユーハバッハが、そう言い残して消えていく

「これを使いな、チャン一!」

「!」

 その時、その言葉と共に遥か後方から飛来した一振りの太刀が一護の前に突き刺さる

「あんたは――」

 それを見て背後を振り返った一護は、そこに立っている人物――零番隊の一人であり、斬魄刀の生みの親である「二枚屋王悦」の姿を見て息を呑む

 そしてその周囲には、戦いの終局を感じ取り駆けつけてくれたのだろう、それ以外の零番隊も顔を揃えていた

「急ぎnaよ。でないと、肝心の(ユー)(ハー)が消えちまうze」

 王悦のその言葉に目の前に突き刺さった刀へ視線を移した一護は、それを見て声を発する

 

「浅打」

 

「そう。()()()()()()()()最強の斬魄刀。これに(ユー)(ハー)を写し取るんda」

「!」

 王悦の言葉に全てを理解した一護が浅打の柄に手をかけると、いつの間にかその傍らに現れていた兵主部(ひょうすべ)一兵衛(いちべえ)が解放した一文字を手に佇んでいた

「……」

「やるんじゃ、一護――おんしが、世界を護るんじゃ」

 それに怯んだ一護だったが、一兵衛のその言葉に頷いて浅打の刃をユーハバッハへと突き立てる

「兵主部一兵衛……」

「胸を張れ、ユーハバッハよ。今日からおぬしが――」

 そう言って、ユーハバッハと浅打の全てを一文字の墨で塗り潰した一兵衛は、次いでその筆を白く染め上げ、黒くなったそれに名を刻む

 

 

 

 

「〝霊王〟じゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 それから一年後――

 

 

「ギャアアアアッ」

 断末魔の声を上げ、(ホロウ)が消滅していく

「うし」

 その姿を見送った一護が斬月を背に戻すと、そこに間の抜けた声が届いて来る

「い、一護さーん」

「おせーよ」

 その人物達――十三番隊に所属し、空座町の担当を任されている二人の死神「行木(ゆき)竜之介(りゅうのすけ)」と志乃を見た一護が呆れたように言う

「あんた達が早すぎんのよ!」

 しかし、その一護の言葉に志乃の反論が飛ぶ

「私達が空座町(ここ)の担当死神なの! 死神代行はおとなしくしてなさいよ! っていうか、そんなに強いなら、もういっそ尸魂界(ソウルソサエティ)に行って隊長にでもなりなさいよ!」

 仕事をあっさり取られたこともだが、そもそも一護をはじめとして空座町には隊長と遜色のない実力者たちがひしめいている。思わず一隊士に過ぎない志乃の口からそんな言葉が出てしまうのも無理からぬことだ楼

「あー。それ言われたわ」

「言われたの!?」

 その言葉に一護がしれっと答えると、志乃はまさかそんな打診が本当に行っていたとは思わずに思わず声を上げる

「断ったけどな」

「断ったの!?」

 ついでさらりと続けられた言葉に、志乃が驚愕の声を上げる

「ぷぷっ、志乃さん漫才のボケみたいです」

 それを見ていた行木竜之介が噴き出すと、当然のように志乃の鉄拳制裁が加えられる

「なんで?」

 拳で竜之介(うるさいやつ)を黙らせた志乃は、一護にその理由を訊ねる

「なんで、って言ってもな」

 護廷十三隊に所属する死神とは違い、特に隊長になることや出世に興味がない一護は、軽く思案を巡らせてわずかに表情を和らげる

 

「まあ、もうしばらくは人間として生きてたいんだ。そんで、ちゃんと生きて、ちゃんと死ぬ――それが、俺の生き方だからな」

 

 

 その視線を、背後で見ていた織姫に向けた一護は、かつて父に言われ、そして母に託されたであろう想いを思い返して言う

「え? あんたまともな人間のつもりなの?」

「おい」

 その言葉を聞いた志乃が目を丸くして意外そうな表情を浮かべるのを見て、一護が抗議の声を発する

「――ま、そういうわけだ。行こうぜ、織姫」

 そこまで言った一護は、小さく息をついてその話を終わらせると待たせていた織姫に声をかける

「は、はい。い、一護くん」

 一護に呼びかけられた織姫は、顔を真っ赤に赤らめて一護の名を呼ぶ

「お前、付き合って三カ月になるんだから、いい加減名前呼ぶ度に照れるのやめろよ」

「だ、だって……」 

 二人で他愛もない言葉を交わしながら帰っていくその姿を見送った竜之介と志乃は、視線を交わして夜の闇にその身を翻させる

 

 

 そして、それに続くように黒い翅を持った蝶が夜の闇に羽ばたく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我らは姿なきが故に(それ)を恐れ、恐れるが故に前へと歩み出す

 

 

 護るために剣を取り、その先に希望があると信じ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 斯くて刃は振り下ろされる

 

 

 

 

 




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