2017/8/19 一部文言の修正
1. Grateful Days
「では速水奏さんの撮影は以上となります。お疲れ様でしたー!」
多くのスタッフが見守る中、速水奏の本日の仕事は終わった。
今日はうちのプロダクションお抱えのスタジオで赤文字系雑誌のモデル撮影が行われていた。本来なら出版社指定のカメラマンや撮影所を利用するところだが『アイドルたちを守る』というのがうちのモットーのため、すべてこちらが指定するスタッフや場所で行われることになっている。
そして今回モデル撮影に臨んだのは、俺がプロデュースを担当する速水奏であった。
さすがプロと言うべきかカメラを前にしても堂々と立ち振る舞い、カメラマンのリクエストを淡々とこなす姿には目を見張るものがあった……のだが。
「さすがに疲れたわ」
撮影が終わった途端、彼女はそんなことを言いながら俺の元へとやって来た。
「結構長時間だったからな」
「でもソロでのファッション誌の撮影って視線や身体の魅せ方とかどれも自分の納得行くまで向き合えるから結構好きよ。それと同時にカメラマンさんを納得させなきゃいけないって部分もあるけども」
先程までカメラに向けていたアイドルとしての顔は無く、趣味に没頭して思わずはしゃぐような高校生の顔がそこにはあった。
スイッチの切り替えもまたプロの証と言ったところだろうか。
「それが仕事ってやつだ」
「当然それだけの労力を費やしたのだからそれ似合った対価を払ってくれるわよね。プロデューサーさん?」
そしてまた奏のスイッチが切り替わるのがわかった。
「もちろんその分の給料ははずませてもらうぞ」
何を言いたいのかはわかっている。だからこそ俺は見当違いのことを返してみせる。
「お金の話じゃなくて……」
そう言って奏は扇情的な眼差しを向けおもむろに自身の唇を指で撫でていた。
「何のことだかわかりませんな」
俺は頑として白々しい態度を取る。
「これでも?」
次はこちらの胸を、円を描くように撫で始めた。
「どちらかと言えばくすぐったいのだが、周りが見てるからやめろ。どこで文春されるかわかったもんじゃないぞ」
「自社ビルなのに居るわけないじゃない。ま、私は構わないけどっ」
「こっちは仕事クビになりかねないから困るっての」
「もう、プロデューサーさんったら。意地悪な人ね」
「はいはい。ほら、いいから早く着替えてこい。風邪引くぞ」
季節先取りの春夏コーデ特集のため、今の時期よりも薄着の恰好で撮影を行っていた。
空調が効いた室内とはいえその格好では少し体が冷えるだろう。
「そうやってサラッと気遣いの出来る人って……いえ何でもないわ」
あえて聞こえない振りをすることにした。もちろん奏にもわかっていることだ。
これでいい。これがお互いにとっての日常なのだ。
付かず離れず、軽口を叩き合う。だけど、お互いを信頼しているそんな関係性。
そう、これは速水奏との"何気ない日常"を描いた物語である。