速水奏にまつわるエトセトラ   作:ふぉるせな

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~速水奏との何気ない日常~ 後日談

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2017/8/19 一部文言の修正



SEQUEL:Where Is The Punch Line?

「すがすがしい気分だ」

 先日の音楽番組の収録がテレビで放送されるやいなや「奏を取材したい」と言ったオファーがわずかながらに舞い込んできた。

 深夜帯の番組にも関わらずそれを見て頂けたということは非常にありがたいことだ。

 ネットのSNSでも反響があったようで、その日の放送回の動画がすぐに出回って再生回数も瞬く間に数万件にも上っていた。

 俺もその動画を観ながらあの日のことを思い出して満足すると、すぐに動画の削除申請を出した。

 少しずつだが着実に評価され仕事も増えてきた。奏の努力が生んだ賜物である。

 しかしそのおかげで俺の査定もうなぎ登りになることと間違いない! 確実に次の評価は高いに違いない! 

 俺は自分のデスクから、人類を補完そうな司令官のような見た目をしたうちの部長の方に目をやる。

 一瞬目が合ったような気がして焦ったが、『何事も無いですよ』のアピールをしてうそぶいてみせた。

『今に見てろよ。このまま一気に出世してあのガミガミうるさい部長にギャフンと言わせてやる』

 普段部長にどやさせている日頃のうっぷんを晴らしたくてたまらなかった。あくまで心の中でだが。

 そしてふと自分にも出世欲というものがあったことに気付く。少し前までは出世には微塵も興味も無く、ましてやこの業界をいつ辞めてもいいとさえ思っていた。

 これも奏や他のみんなに影響されてのことだろうか。

 などと思い、少し可笑しくなってきた。

 するとちひろさんが何か用があるのか俺の元にやって来た。

「あ、プロデューサーさん」

「どうも」

「部長がお呼びのようですよ」

 もう一度部長の方を見ると、一瞬こちらを鋭い目つきで睨みつけ席を外していった。

「やべ、バレたか」

「どうしましたか、プロデューサーさん」

「いや、お気になさらず」

「すぐに第3会議室に来るようにとのことです」

 会議室にわざわざ呼び出しとは何か大事な話があるのか。もしかしてもしかしてだけど、出世のお達しだろか。それなら居ても立って居られない。

「ありがとうございます。じゃあ早速いってきます」

 俺はにんまりとしながら会議室へと足を運んだ。

 

「部長さんなんか怒っている感じだったことをプロデューサーさんに言い忘れました」

 そんなちひろさんのつぶやきは俺の元に届くことは無かった。

 

 

 会議室のドアをノックし部屋に入ると、部長とそして何故かそこには奏の姿もあった。腕時計を見ると確かに学生は下校していてもおかしくない時間帯だった。

「あれ、なんでお前が」

「さぁ、どうしてかしらね」

 と言うものの奏は何か訳知り顔をしていた。ならば奏絡みの大きなプロジェクトが舞い込んだのだろうか。それはそれで出世への第一歩なので良しとすべしか。

「それで部長、何の用でしょうか」

「なにをニヤニヤしている」

 どうやら顔に表れていたようだ。

「いえ、申し訳ございません」

 駄目だまだ笑うな、我慢するんだ。

「だらしない顔しているわね。プロデューサーさん」

「黙っとけ」

 部長は遮る様に小さく咳をして、

「ふん、これを見ろ」

 と、茶封筒を渡してきた。

「なんすかこれ」

 思いがけないものを渡され、茶封筒の中身を取り出すと、数枚の写真が入っていた。写真の背面には日付が書いており、その日付はどれも先の収録日の前日であった。

「どういうことだ」

 と、写真を見るとそこに写っていたのは……。

「おい、これ!?」

「どういうことか説明してもらおうか」

 奏は抑えきれずクスっと笑い出した。

 あの夜、駅前で俺が結果的に奏を抱き締めた時の写真であった。

「ある週刊誌から今朝確認のために届けられたものだ」

「これは違うんです!」

「何がどう違うと言うのだ」

「深ーい事情が」

「はぐらかさず具体的に説明しろ」

 すでに奏はこの写真を見ているだろうから、俺がいちいち説明するまでもないだろうと思い奏に促した。

「奏から言ってもらえないか」

「プロデューサーさんに抱き締められました」

 奏の意外な回答に俺は面を食らった。

「奏、お前何を言って!」

「速水くんはこれが事実だと認めるわけだな」

「だから部長ってば」

「お前は黙ってろ」

「うっ……」

 でも大丈夫だ、安心しろ。いつものように「なんてね、部長さん」って言うはずだ。

「その通りです、部長さん」

 ほら、ちゃんと言……わない?

 理由はわからないが奏は当てにならないので自分の口で説明することになった。

 奏を駅まで送った帰りの別れ際に、自転車が突っ走って来たので、咄嗟に奏を守ろうとした結果だと懇切丁寧に部長へと説明した。

「でもあなたの説明で誰が納得するかしら? いくら前後に理由があれってもこの写真ではあなたが私を抱き締めているということそのものは覆りようが無いわ」

 未成年にストレートな正論を突きつけられてしまった。

「やれやれ」

 部長は溜息をつき、呆れ返っていた。

「まあ、お前が来る前に速水くんから事情を聞いて同じ回答だったからある程度信憑性はある。予め示し合わせているかとも疑ったが、今のお前の反応を見る限りそれも無さそうだ」

 俺は気が抜けたように長い息を吐いた。そういう人を試すようなことは心臓に悪いのでやめてもらいたい。奏も奏でわかっているなら、回りくどいことをしなくていいのに。

「だって、その方が面白いじゃない」

 奏さん、さすがの意地の悪さでございますね。

「とりあえず今回の写真は週刊誌から買い取ったから安心しろ」

 そこまで深刻な話にならなくて済みそうで何よりだ。

「でも、買い取った分の額はお前のボーナスから引くそうだ」

「……はぁ?」

 なにそのびっくりするほど寝耳に水なお話は。今日一番のショッキングな内容ですが。

「あと始末書もすぐに提出だ。我が社がモットーとしていることはなんだ、言ってみろ」

「アイドルを守ることです」

「にもかかわらずお前は担当アイドルを週刊誌という危険に晒した」

 自転車という物理的な危険からは守りましたがそれは無しですか、さいですか。

「査定にも響くかもな。アイドルに手を出したってことで」

 出してないって言いたいところだが……言葉が出ない。

「ねえ、プロデューサーさん」

「なんだ」

「私とのデートのことは忘れていないでしょうね」

 奏はそう言って流し目でこちらを見てきた。このタイミングでそれを言うのか。

「嫌ならそれで構わないけど、"あのこと"を部長さんに言ってもいいわけね」

 あのこと?あのこと……あのこと!

「それはだめだ」

「何だ、まだやらかしたことがあるのか」

「無いです。何も無いです」

 さすがに部長に現場で男泣きしたことがバレたら、部長が退職するまでいじられ続けるに決まっている。そうなることは是が非でも阻止すべし。

「まぁ、プロデューサーとアイドルが仕事のパートナーとして交流を深めるのも構わんが、今度はマスコミ対策をしっかりするんだぞ。次は無いからな」

 と、言って部長は会議室を出て行った。おい、部長。あんた何を言っているんだ。

「部長さんの公認ね」

 話が出来すぎてはいないだろうか。

 開いた口が塞がらず情けない顔になった俺を見かねたのか、奏は声を掛けてきた。

「プロデューサーさんにひとつ良いことを教えてあげる」

 俺はゴクリと喉を鳴らし、その答えを待った。

「デキる女はテーブルに着く前にすべてを決定しているものよ」

 ……なんだよ。"そういう"ことか。俺が会議室に入る前にすべて決着していたのか。それでいて部長からデートの許可ももらってしまった。

 ならばもう『奏とのデートを断る』という選択肢は無くなるわけだ。うまいこと奏の手のひらの上で踊らされてしまったようだ。

危機すらもチャンスに書き換えてしまうこの手腕。相変わらず恐るべし、17才。

「楽しみだわ。プロデューサーさんとのデート」

「映画で良いのか?」

「そうね」

 やられっぱなしも悔しいので、せめてもの抵抗で見に行く映画は奏の苦手な恋愛映画に決まりだ。どこかで恋愛映画のリバイバル上映しているところあったような。

 冴えない小説家の元に、自分の小説に書いた女性が現実に現れて恋をする物語。喧嘩別れしたカップルがお互いの思い出を記憶から除去する手術をする物語。運命の恋を信じる男性と真実の愛を信じない女性の500日を描いた物語。などなど盛りだくさんだ。

「観ていて恥ずかしくなるような激甘の作品を食らわせて、カロリーオーバーにさせてやるからな」

「お好きにどうぞ」

 と言って、奏はウインクをしてみせた。

 

 まぁ、こんな具合だと出世はまだまだ先と言ったところだろうか。

 当分は"今のまま"が続くのだろう。

 でも、いつかこの"関係"に終わりが来る。

 "永遠"など存在しない。始まりには終わりが付き物だ。

 だからせめて俺は"今"という瞬間を充分にかみ締めるしかない。

 プロデューサーとしての"今"を。

 速水奏との"今"を。

 

 

 この後、滅茶苦茶始末書書いた。

 

 

 




~速水奏との何気ない日常~ 後日談  Fin
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