ハイスクールD×Dif 悪魔紋章   作:エステバリス

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夢想暗夜

 

 

「はぁ?」

 

堕天使が笑った。唐突な横槍、自身への殺害宣言、王女という肩書きetc. 彼女はきっとそれが可笑しくて堪らないのだろう。

 

「なに、王女って? 仮にそれが本当だとして、その王女様がこの堕天使レイナーレを殺すって言うの?」

 

「二言はありません。相手の力を見定める事をせずに嘲笑する暇があるのなら試してみたらどうですか」

 

右手にかかる重量が気掛かりだ。鳥の羽根が如く軽かった夜刀神と比べるとどんな剣も重いのは当たり前だけれど、ガングレリや訓練用の青銅の剣よりは断然軽いだけマシのはず。

 

バチ、と剣の光がサンダーのように走る。それを見て思わず笑みを浮かべてしまって、笑みが癪に障ったのかレイナーレが手元に光の槍を出現させる。

 

「その顔を潰してくれる!」

 

槍が放たれる。私は空いた左腕を顎に変えて挟み込むようにして受け止める。

 

「ふぅん、口だけじゃないみたいね」

 

饒舌な堕天使を無視して突っ込む。あのシスターはもういつ死んでもおかしくない。もしかしたら今この瞬間には既に死んでいるのかもしれないのだけれど、いずれにせよ彼女に時間を取られている暇などないのだから当然の行動ではある。

 

牽制に水弾を発射。当然ロクに力も込めていないのだから光の槍に相殺されるが、行動を起こさせる事が目的なのだから悔やむも歯噛みするもしない。

 

「近接戦闘、仕掛ける!」

 

左腕を即座に剣状にして光の剣と竜穿で同時に攻撃を仕掛ける。レイナーレは槍の生成に一瞬遅れたらしく反応はしつつも間一髪のところで受け止める。

 

一瞬鍔迫り合いになったが向こうが即座に槍を手放して飛翔して距離を離さんとして来た。だがそれは遅い。

 

「ふっ━━━」

 

右手の剣を手放して槍に変化。急速に長さを増す右腕は宙に逃れようとするレイナーレ目掛けて伸びた結果、ギリギリ今の伸縮限界辺りで彼女の左翼を貫いた。

 

「ふっ、がぎ━━━!?」

 

明確な隙を見せた。ギリギリ跳躍で届く場所だったので空気抵抗を少なくするよう竜穿を解除してから筋肉のバネを最大限まで生かして跳ねる。レイナーレは慌てて両手に槍を持って腕から来る竜穿に備える。

 

わかりやすい。

 

「隙だらけぇ!!」

 

「な、脚━━━ギャッ!?」

 

腕の竜穿しか見ていないレイナーレは不意討ちじみた脚からの攻撃に対応できず、剣化したそれで左脇腹から右肩まで一直線にバッサリと裂かれた。

 

身体を支え切れずに落下していいながらシスターの少女から奪ったが、そんなわかりやすいチャンスを逃す程私は馬鹿でもお人好しでもない。

 

「消え、ろおおお!!」

 

「ひっ━━━やめ、たす」

 

バグッ。形容するとこんな感じだろうか。顎へと変貌した左腕は容赦なくレイナーレの頭部に喰らい付き、レイナーレの身体が腕から離れた。数瞬遅れてバギュッという気味の悪い音が左腕から響き、レイナーレだったそれは壊れた等身大の人形のように不時着した。

 

一拍置いて私も着地する。ちらりと男性の方に目を向けると、彼は初めてその光景を目の当たりにしたかのような困惑と恐怖が入り雑じった表情を浮かべている。

 

竜穿が解ける。頭を喰らった左手には緑色に光る透けた物質が収まっていた。

 

「……これでしょうか」

 

神父と堕天使が神器(セイクリッド・ギア)と呼んでいたモノ。これを使えばシスターを救う事ができるはずだが……息遣いも見られず、だらりと垂れた腕から察するにもう十中八九手遅れだろう。

 

「……ま、待て」

 

ふと、彼が話し掛けて来る。

 

「どうかしましたか」

 

対して私は平生通りの佇まい。できる限り敵意を削ぐような接し方をしたかったのだが、生憎私は助けたかったのであろう人が死んでしまったという状況に陥っている人を諭すような言葉を知らない。

 

「そ、それ……この子のなんだ。返してくれないか……なぁ、頼むよ」

 

彼はあろう事か見知らぬ人間であるはずの私に頭を下げてきた。しかもそれは白夜王国特有の風習である土下座と相違点が見当たらない程に似通っていた。

 

「あ、あの。私も元々そうするつもりだったので、どうか顔を上げて下さい。男性が見知らぬ女性に自分の位を落とすような真似をしないで下さい」

 

彼の目の前に来て、目線を合わせるべく正座をする。そして神器と呼ばれた力の籠った物体を彼の前に差し出して、語り掛ける。

 

「これは貴方が返してあげて下さい。大切な方の遺品なら、然るべき人の意思を尊重すべきですから」

 

実のところ、私は死んだ兄弟の『御葬式』には出られなかった。兄弟と私の関係は決してきょうだいのしていていい関係ではなく、彼らを殺してしまったのは他ならぬ私であるからだ。

 

そもそも、兄さんと弟を殺した私が死を悼む儀に参列する資格なんてないから。せめてその資格のある人は心往くまで、言い残した事がないように悼んで欲しい。

 

彼が「ありがとう」と泣きながら力の塊を受け取る。でもそれをどうやって返せばいいのやらと四苦八苦していると、後ろから聞き慣れない声が聞こえてきた。

 

「イッセー、無事ね?」

 

「え……部長!? なんで、ここに」

 

イッセー、そう呼ばれた彼は驚いたような顔で彼と一緒にいた二人と黒い髪の女性を携えながら紅い髪の女性がやって来た。彼女は紅い髪を片手で払いながら母性というものを感じさせるような言葉遣いで彼の疑問に答える。

 

「言ったでしょう? 外せない用があると。そろそろ私の土地で好き勝手をする堕天使にイラついてたから、そこを片付けに行ってたの」

 

私にはよくわからない会話だ。堕天使、悪魔。どれも私の知識にはないのだから、それに関する話題を出されてもわからないのは仕方がないのかもしれないが。

「それで、そこの女の子は一体誰?」

 

ふと、視線が私に移る。私はなんて答えようかと言葉を選ぼうとしていたら彼が即座にフォローに入ってくれた。

 

「えっと、よくわかんないけど、俺達を助けてくれました。少なくともアイツらの仲間じゃないはずです」

 

「私の事よりも、あのシスターを先に。どうか丁重に弔ってください」

 

私も聞きたい事があるので逃げはしませんから、と付け加えると彼女は「そう、わかったわ」と答える。

 

部長、という彼女がシスターを抱えた彼に近づく。すると彼は途端に申し訳なさそうな顔をして、消え入るような声で謝りだした。

 

「ごめんなさい、部長、みんな……折角協力してくれたのに結局、アーシアは……」

 

「……イッセー。これ、なんだと思う?」

 

彼女がそう言うと、紅に染まったチェスの駒を取り出した。階級は『僧侶(ビショップ)』。

 

「え……?」

 

「これは貴方を悪魔に転生させるのに使った悪魔の駒(イーヴィル・ピース)よ。階級は違うけれど、本来のチェスと同じように兵士(ポーン)八、騎士(ナイト)二、戦車(ルーク)二、僧侶二、女王(クイーン)が一つあるの」

 

「は、はい」

 

「これをシスターに使うのは前代未聞の事だけれど、回復能力のある神器の希少性を買って彼女を悪魔に転生させるわ」

 

━━━! 転生……!? それはつまり、()()()()()()()()()という事!?

 

私が転生という言葉に驚きを隠せないでいる中、ブチョウと呼ばれた彼女はなにやら呪文のような言葉を紡ぎ、僧侶の駒と神器と呼ばれた力の塊をシスターと一体化させていきやがて━━━

 

「……あれ、私……」

 

「……アーシア!」

 

シスターが、本当に目を覚ました。あまりにも現実性と人間の道理を無視したその様を見せつけられ、私は声を出す事ができなくなっていた。

 

「……さて、次は貴女についてを聞きましょうか」

 

「………」

 

「……聞いているかしら?」

 

「……あっ、ご、ごめんなさい。今すぐ説明しますけど、その前に聞いておきたい事があります」

 

完全に放心していた。だって死者転生だなんて、私じゃなくても驚くに決まっている。

 

ともあれ、これから私が話す事が荒唐無稽な事は承知の上として。もっとここの事を知らないといけない。あの時とは違って自発的に裂け目を通ったわけじゃなく、帰れる保証なんてないから絶対に。

 

「……今、何年ですか?」

 

「ふざけているの?」

 

「大真面目です」

 

「……嘘ついてる顔じゃないわよね。西暦二千八年よ」

 

「……そう、ですか。ありがとうございます」

 

年号も年代もまるで違う。これはもう、クロだろう。

 

「そんな事を聞いてどうするの? まさか記憶喪失なんて面白くもない冗談を言うんじゃないでしょうね」

 

「多分、もっと面白くない冗談じみたことかもしれません」

 

静かにそう呟く。なんて言おうか少し逡巡したが、そんな事をする意味もないとすぐに決心し、右手を胸元に当てながら包み隠さず言うことにした。

 

「私の名前は暗夜王国第二王女カムイ。この世界とは違う異世界から来訪しました」

 

ちょっとだけ白い目で見られたのはきっと気のせいだと思いたい。

 

◆◇◆

 

「……なるほど。白夜王国と暗夜王国、そしてその両国の戦争……確かにどれも聞いた覚えがないわ」

 

「これだけで証拠足り得ない事は承知しています。ですが私にはこれ以上語れる事はありません」

 

ごめんなさい、と謝る。あまりにも不明瞭な事しか言えないのだから当然だ。もっと筋道を立ててしっかりと物を言わないと信頼に足るとかそういう事は出来なかったのかと自責の念に駆られる。

 

「……そうね。確かにこれだけじゃなんとも言えないわ」

 

やはりか。でも普通はそれが当たり前だ。ダメ元だったのだから気に病む必要もない、と自分に言い聞かせる。

 

そう思っていた。向こうもそう言うだろうと決めつけていたから、次に出てきた言葉には心底驚いた。

 

「━━━でも、何を言っているかもわからない上に人間の身で堕天使を殺害した貴女を野放しにできるわけじゃないわ。だから貴女を暫く監察下に置くことにします」

 

「━━━え?」

 

「貴女の言葉を信用するかしないかは貴女の動向を見てからでも遅くはないはずよ。それに、貴女すむ場所はどうするの」

 

「あ、有り難いですけど、宿くらいは野宿を何度も体験していますので」

 

「それは貴女の世界での話よ。こっちの世界じゃ家がない女性だなんて格好の的もいいところよ。だいたい王女が野宿慣れしてるってどういう事なの」

 

「……すみません。そういうことならお世話になります」

 

他にアテがないのだし、自分より詳しいのなら大人しく向こうに従うべきだ、なんていう短絡的な考えをしながら私は彼らの後を付いていく事にした。

 

きっとこれが、私の行く道なのだと信じて。

 

 

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