その出会いは間違っていないだろう   作:GENZITUTOUHI人

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初投稿で、処女作です。拙い文ですが、ご覧いただければ嬉しいです。

9月18日 23時45分
最後の方、少し書き直しました。




第1話 はじまりはじまり

 とある日―――

 まだまだ幼さを窺わせる小さな子供、その泣き声が響いている。

 夕日の赤に染まる長い野道。伸びる二つの人影。

 

 ポロポロと涙を溢し、ひとりの小さな子供は嗚咽を上げながら、隣を行くその自分よりも大きな手に縋り付き、懸命に足を動かしていた。

 

『ひっぐ…うっ、うえぇん……っ!』

 

 涙で頬を絶えず濡らす子供には、複数の擦過傷。

 小さく短い肢体、その肘と膝からは血が滲んでいる。

 子供特有のシミ一つない肌に付けられたそれは、大人のそれより一層痛々しく見える。

 

 そんな子供の左頭上から声が一つ、響いた。

 

『ほら、男の子なんだから、泣いてばっかりは格好悪いわよ?』

 

 穏やかで、優しい声だ。少々茶目っ気もあり、それをその何倍もの慈愛で包んだような、そんな声。

 その声は隣を歩く、自らの失策で転んでしまい縋り泣く子供に向けられていた。

 

『ひっく…、ずぅっ、ぐっ…、ぐうぅううううう―――――っ!』

 

 その声に反応し、鼻水を啜り、さらに涙を溢れさせながらも、歯を食いしばって耐えようとする子供。

 子供の隣を歩く美しい女性はその様子見て微笑み、よしっと頷いた後にまた声を一つ、響かせる。

 

『いい子いい子。お家までもう少しだから、もうちょっとだけ頑張ろうね』

 

 声はどこまでも優しさに溢れ、微笑みは温かく包み込む陽光のように。子供もまた、溢れる涙を腕で弱々しく拭いながらも、その声に、うん、と囁くように小さく、だが確かに首を縦に振り頷いた。

 その姿を認めた女性は子供を勇気づけるようにもう一度大きく微笑みかけ、しっかり手を握る。

 二つの繋がった影は、ゆっくりと、真っ赤に燃える夕焼けに包まれていった。

 

 

 

 場面は変わり、簡素な造りに見える木屋の中。

 陽が落ち、暗くなった家の中をランプの明かりが仄かに照らす。

 そんな中先程とは打って変わって、子供は手当てをしてもらったのか元気に家の中を動き回って遊び、頬を緩ませていた。

 そして、先程から見守っていたすぐ傍の大きな揺り椅子に座る女性に呼ばれると、さらにその顔に喜面を映し、とても嬉しそうに笑みを輝かせる。

 小走りでそちらに向かい、同じ椅子に座り、女性に背を預け、そこに女性が一冊の本を手に広げてくる。

 

 紡がれるひとつの物語。

 忌み子と呼ばれた少年が、ある日の夜、出会った小さな妖精の少女。

 静かな森の中で起きた偶然の邂逅の中で、少年は初めて人の暖かさに触れた。それから夜になるたびに森に行き、少女とふれあいながら少年は徐々に心を開いていく。

 だがある日、いきなり現れた魔物に少女は連れ去られてしまう。

 魔物に連れ去られた彼女を助けることを少年は誓い、冒険し、戦い抜いて救い出す。

 再会した二人は涙ながらに抱きしめ合い、永遠の幸せを掴む。

 

 『英雄譚』。

 

 慣れたように流麗に、それでいて物語の登場人物の感情が乗り移ったかのような迫真さで女性が紡ぐ物語に、幼い子供は笑って泣いて、怒ったり、無言で食い入るように見つめたりとまるで百面相だ。

 物語が終わり、興奮冷めやらぬ子供に、女性は尋ねた。

 このお話はおもしろかった? と。 子供は頷いた。

 それを認めた女性が言った。 ――あなたもこの少年のような優しい子になりなさい、と。

 それを聞いた子供は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、次の瞬間には瞳を輝かし満面の笑みを咲かせ、興奮気味に女性に顔を近づけさせながら、

 

『――うん! それでいつか―――――――――………!』

 

 最後まで聞いた女性は最初驚いたように目を見開く。だが次にはその瞳に慈愛の光を(たた)え、子供に勝る満面の笑みを咲かせながら、

 

『……じゃあ、待ってるわね?』

 

 とてもとても、幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

 空には一面の蒼穹が広がり、二時ほど前に顔を出した太陽は、その自ら生み出す恩恵を地上へ送り続けていた。

 その下で祝福を浴び、静謐で清らかな空気と温もりに満ちたとある大きな森。

 その中のひときわ大きな大樹の根元に、一人の少年が小さく息を溢しながら、丸めたからだをモゾモゾと動かし、気持ちよさげに横たわっていた。

 

「……すぅ、……すぅ、……――」

 

 陽光がほどよく遮られ、心地の良い微風が少年の黒い髪を揺らす。樹木の間を通って吹く風に乗る草花の香りや清廉に流れる小川のせせらぎの音、枝葉で羽を休める鳥のさえずりなどは(まさ)に天然の揺り籠といった風で、まるで諸人(もろびと)を眠気に誘う魔性を放っているようにさえ感じる。

 また一つ風が吹き、大樹の葉が一枚ゆらゆらと舞いながら少年の頬に落ちた。くすぐったさを覚え、規則正しい呼気を中断し「…ん」と息を溢して、少年はうっすらと目を開く。

 宝石のような青い瞳。まだ眠たげでほとんど半開きだが、右手を上に(かざ)し、見上げるように太陽の位置を確認した。

 しばらくしてようやく頭が覚醒してきたのか、ゆっくりと上体を起こし、伸びを一つした。

 

「そろそろ動かないと……」

 

 もう少しこの微睡(まどろ)みに身を委ねていたかったが、今後の予定を頭に描き、そうも言っていられないと、頭を左右に振り、残った眠気を振り払う。

 発起するように立ち上がり、傍の大樹に手を当てた。目を瞑り、今までお世話になった森へのお礼を大樹を通して心の中で唱える。

 そう、少年はこの後、旅に出るのだ。

 幼少の頃から走り回って遊び、狩り、水浴び、昼寝などさまざまな恵みや安らぎを与えてくれたこの場所はとても特別で、大好きな場所だ。

 しっかりと感謝と思い出を心に刻み付けて、ゆっくり目を開ける。

 

「……じゃあ、ばいばい……」

 

 手を下ろし、一抹の寂しさが()ぎるが、それを振り切るように身を(ひるがえ)し、歩き出す。

 少し強い風が吹き、樹々の葉がサァッーー…と音を立てて揺れる。

 その様が、これからの自分の門出を祝福してくれてるようで、自然と笑みが零れた。

 

 

 

♦︎

 

 

 

 先程までいた森を抜け、歩いてほど近くにその――なかなかの年季を感じさせる家は、ひっそりと佇んでいる。

 長年過ごした小さな農家で、外観同様に手入れはされているものの、その(なか)も相応に古びた雰囲気を醸している。玄関――というか出入口から足元は土間となっており左側には釜戸の付いた台所、その奥にいくつか立てかけられた農具。中央に置かれたテーブルに、すぐ傍には大きな揺り椅子が置かれている。右側には足元からヒザくらいまでの段差があり、そこから木床となっている。

 ござが敷かれ、そこに座り込んでいる少年は、目の前の大きなカバンに入った荷物を一つ一つ確認し、旅支度の最終チェックを行っていた。路銀、少しの着替え、保存食に、遺品やその他諸々、紙に書いたリストと見比べながら見落としの無いように、目を皿にして視線を動かしている。

 

「……ふぅ、大丈夫、かな」

 

 無事忘れ物がないことを確認し、森でやや潰してしまった時間を取り戻すため、すぐ土間に足を降ろし、立ち上がる。荷物の入ったカバンの肩紐を手に持ち、頭の上から通し、たすき掛けに背負う。

 出入り口に向かい扉を開けるが、そこで立ち止まり体を反転させて家内を見渡す。

 森を出る時以上の哀愁が胸を過ぎり、心を沈ませる。ほぼ誰も寄り付かないような場所にひっそりと建つこの小さくて古いこの木屋は、七年ほど前から自分しか暮らしておらず、これから手入れをしてくれる人間もいないので、ゆっくりとだが、段々と劣化が進み、朽ちていくだろう。旅に出て目的地に着いた後、ここに帰って来れるかもわからない。

 だが、決めたのだ。小さい頃からの憧れで目標だった『冒険者』になる為にはここを出て、行かなければならない。

 凶悪なモンスターの蔓延る無限の迷宮に飛び込み、武器を手に取り、戦って冒険し、いろいろなものと出会う。そんな、ずっと読んできたお伽噺の英雄や、あの日誓ったような存在に、自分はなりたい。なりにいくのだ。

 沈んだ心を、改めて掲げた決心で引っ張り上げる。

 今度こそ外に向き直り、扉に手を掛け、最後くらいはと小さく笑みを作り、今はいない、かつて一緒に暮らしていた人物へ思いを馳せながら言葉を口に乗せ、活き良く足を踏み出した。

 

 

 

「……行ってきます、お祖母(ばあ)ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

 迷宮都市オラリオ。

 世界の中心、今最も熱い国、と謳われる広大な面積を誇る円形状の形をした都市。

 約2週間前に故郷を飛び出し、数日歩いた後、半月定期でこの都市を往復する馬車に乗り継ぎ、やっと到着した少年の目的地であり、今の現在地である。

 始めに入国する馬車を迎えるのは、この広大な都市を囲む見る者を圧倒するような巨大な白亜の巨塔に堅牢な市壁。衛兵のいる門を通り過ぎ、馬車を降りてあたりを見回せば、活気に溢れ、整然と建造物が建ち並び、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、小人族(パルゥム)、獣人等のさまざまな種族が入り交じって往来(おうらい)を行ったり来たりしている。

 初めて目にする溢れそうな人波や、田舎とは違う発達した文化を思わせる街並み。それは長旅で疲労した少年の心労を吹き飛ばし、胸をドキドキと高鳴らせるには十分だった。

 

 

 

 

 ――そう、()()()。だが、そんな昂ぶった心情は、もう昨日のこと。

 太陽が頂点を少し過ぎたあたりに入国し、ひとしきり感動した後、まずは宿を取ろうと考え、街を散策し、苦労して見つけた宿にチェックインした後、食事処を見つけ少し早めの夕食を取り、宿に戻り、備え付けのシャワーを浴び、次の日に備えて早めに寝た。明くる日、念願の冒険者になる為、定番とも言える『ギルド』へと(おもむ)き、情報を得て、いざ【ファミリア】探しへと乗り出した。

 ――ここまでは良かった。そう、()()()()()()()()()()()()()

 冒険者となるには神の恩恵、『恩恵(ファルナ)』と呼ばれるものを神から授かる必要があり、【ファミリア】とは、この下界に降りてきた各神々が、自身の『恩恵』を与えた人々を集めて組織化・派閥化したものである。

 【ファミリア】探しとは、その【ファミリア】へ足を運び、そこへ入団するために自分を売り込みに行くということなのだが、これが全くうまくいかなかった。

 自分の種族は純粋なヒューマンであり、力に優れているドワーフでも、魔法の適正が高いエルフでもない。年も14と若く、特別体が逞しいわけでも、売り込めるような特技があるわけでもなかった。

 ほとんどの【ファミリア】の前で門前払いを喰らい、ときには心無い言葉を投げられたりした。入団拒否された数が二十を超えてからはもう数えておらず、朝早くから行動し始めたはずなのに、太陽は大幅に傾き、今はオレンジ色に染まっている。

 そうして現在少年は、街の西側の、小さい通りを抜けた先に鎮座していた噴水の(ふち)に、肩を落として座り込んでいた。

 

「………」

 

 無言の嘆息が漏れる。

 俯き、垂れた黒色の前髪で青い瞳が(かげ)り、悲しそうに背中を丸め座り込むさまは傍から見ても迷子の子供のそれとほぼ同じ。 

 

 胸中には寂寥感(せきりょうかん)が漂い、旅前に決意した想いにさえ、暗々としたものがたち込めてくるような感じがしてきてしう。

 もう今日は諦めて、宿をまた取りに行こうかという考えが頭の中で()ぎった、

 

 ――直後に。

 

 

「――やぁ、少年!」

 

 

 頭上から快活そうな声が聞こえてきた。

 吃驚(きっきょう)し顔を上げると、いつの間にか小柄で長い黒髪を両方で結んだ一柱の女神と赤目白髪が印象的なヒューマンが目の前で佇んでいた。

 

 目が合い、笑みを浮かべた女神は一歩前に足を踏み出すと、こちらに右手を差し出しながら問いかける。

 

「……君()、【ファミリア】を探しているのかい?」

 

 

 

 

 ――――これは、一柱の女神と、二人の子供達から始まる物語。二人の少年が織りなし、女神が記す、

 

眷族の物語(ファミリア・ミィス)

 

 




ポンポン連載上げる人、すごいですね。
自分はいっぱいいっぱいです。


頑張って、続き投稿したいと思います。



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