その出会いは間違っていないだろう   作:GENZITUTOUHI人

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前回の第1話目、少し書き直しました。

遅くなりましたが、第2話です。



第2話 発現

 『ダンジョン』。――そう通称されるのはオラリオの中心に位置する穴から地下に向かって数多の階層に分かれ伸び広がる無限の迷宮。その4階層の一角で現在戦闘が行われていた。

 四足歩行でこちらに突進して飛び掛かってくる二匹の犬頭のモンスター『コボルド』を迎撃するために、白髪で深紅(ルベライト)の瞳をした少年――ベル・クラネルは短刀を握った手を後ろに引きながら相手に向かって疾走し、先に飛び出してきた一匹に振り下ろし両断する。時間差で襲ってきた二匹目には一匹目を屠った勢いのまま伸びた腕を斬りつけつつ走り抜けて距離を取る。

 

『ガアアァ!』

 

「はあっ!」

 

 腕を斬りつけられたコボルドは再び吠えながら襲い掛かってくるが、一匹目と同様に単純な動きを見切り隙を突いて短刀を首に突き刺し、そのまま刃を滑らすようにして首を切断し、絶命させた。

 一拍相手を見て動かなくなったことを確認した後、短刀を鞘に納めて振り返りながらベルはすぐ近くで一緒に戦闘していた相棒に声をかけた。

 

「ソウジ、そっち終った~?」

 

「…ん。終ったよ」

 

 かけた言葉に応えたのは黒髪に蒼玉色(サファイアブルー)の瞳をした少年――ソウジと呼ばれた少年は、たった今戦闘が終ったのか左手に握った剣を下に振ってモンスターの血糊を落とし、背負った剣帯にチンと納めていた。

 

「……あれ? そっち三匹いたの?」

 

「うん。戦ってる途中に近くの壁から生まれて、一匹増えた」

 

 戦闘開始時には一人二匹の計四匹で始まったのにと疑問に思ったベルにソウジは答える。

 

「じゃあ魔石、回収しよう」

 

「うん、そうだね」

 

 ソウジが提案し、二人はそれぞれ倒したモンスター達の死体に足を運ぶ。ベルは先程の戦闘で使った短刀を、ソウジは予備のナイフをそれぞれ腰から引き抜き、物言わぬ屍となったモンスターの胸部に振り下ろす。そこを抉り出すと、指の爪程の大きさの紫紺色に輝く結晶が摘出される。これが『魔石』。

 この魔石は大きければ大きいほど、純度が高ければ高いほど高い値段で換金できる。この石には魔力が込められており、明かりとなる魔石灯やコンロなどに使う発火措置、食材などを冷やして保存する冷凍器など様々なものの動力源として活用でき、この魔石を『核』として生まれてくるモンスターを倒すことで冒険者は生計を立てている。そしてそのモンスターを無限に生み出すダンジョンを唯一所有するこのオラリオが、その魔石製品で莫大な利益を上げているのがこの都市を大いに栄えさせている理由の一つだ。

 

 魔石をモンスターから引き剥がせばモンスターは急速に灰化し、霧散する。その現象にいまだ軽い感動を覚え、続くもう一匹も同様に処理し、終ったところで立ち上がって、三匹目の魔石を取り出そうとしている隣の少年を視認しながら、ベルは回想にふけっていた。

 

 

 

 ベルはダンジョンに出会いを求めている。両親の顔は知らず、物心ついた頃から田舎の村で祖父一人に育てられてきた。幼い頃から育ての親である祖父に『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』やその他数々のお伽噺を聴かされ、その度に『出会いの偉大さ』、『男の浪漫』、『ハーレムは至高!』等と聞かされてきたために、その影響を多大に受けている。

 14才になった年に祖父がモンスターに襲われ亡くした後、思い切って家を飛び出しこのオラリオに来た。この都市に来て初めはどこの【ファミリア】にも入団拒否され悲観に暮れていたが、ある日、慈悲深い今の主神に拾っていただき、そこから案内される過程で最初の仲間ができた。『神の恩恵(ファルナ)』を貰い、主神は優しく、同じく眷族になった少年は歳も一緒で話も合い、すぐ仲良くなれた。ギルドに冒険者登録しに行った時は受付嬢の美人のハーフエルフが担当で、その女性がそのまま専属アドバイザーとなった。約2週間前に初挑戦したダンジョン攻略では『ゴブリン』を初めて自分で倒せたことに二人してはしゃぎ、今は二人で軽く相談して5階層に足を踏み入れていた。

 まさしく順風満帆と言え、期待に胸を膨らませていた念願の冒険者生活は好調な滑り出しとなっていた。

 

 

…………だからまぁ、要するに……端的に言うと……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………調子に乗ってたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「うぅわあぁぁあああぁぁぁああああっ!!」

 

「~~~~~~~~~~~ッッッッ!!!」

 

 

――死ぬ。

 

 ちょっと幸運が長続きして調子に乗ってたからって、さすがにこの仕打ちはないと思う。

 

『ヴォオオオオオオオオッッ!!』

 

「ムリムリムリムリムリムリっ!! ねえソウジアレ何!? なんでこの階層にミノタウロスがいるの!!?」

 

「知らない……ッ!! というかしゃべる暇があったら少しでも足を動かして……ッ!!」

 

 洞窟を震撼させるような咆哮に、踏み込んだ地面を陥没させるかのような轟音。それらをまき散らしながら追ってくるその巨大な怪物から、現在全力で逃走中。

『ミノタウロス』。「中層」と呼ばれるもっと下の層の15階層を主に縄張りとし、荒縄のように盛り上がった筋肉質の牛頭人体型のモンスターで体長は約3M。中層最上位の『力』と『耐久』を持ち、管理機関(ギルド)が相対的脅威度でカテゴライズしたそのLv.は2。対して二人は冒険者になって日の浅いLv.1。双方には絶対的な力の壁が存在し、すすんで戦うなどはっきり言って論外だ。

 鼓動がかつてない速さで脈打ち、呼吸が乱れ、恐怖に足やら何やらが竦んで何度も転びそうになる。

 

『ヴォオオッ!』

 

「「うわあぁっ(~~ッッ)!!」」

 

 とうとう直ぐ後ろにまで迫ってきたミノタウロスの蹄が走っていた足元の地面を巻き込みんで砕いた。直撃は避けたもののその衝撃で地面をゴロゴロと転がり、広いフロアの壁際まで追い詰められてしまう。

 寝転がったままではあっさり殺されてしまう。二人とも直ぐに起き上がり、なけなしの勇気を振り絞って恐怖心を抑え込みながら武器を抜き構える。

 

「ソ、ソウジ。僕が気を引くから、そそ、その隙に逃げてっ!!」

 

「だめ……! ベルを見殺しになんて…、そんなの、絶対でき、ない……っっ!!」

 

 余裕のつもりか、ミノタウロスはゆっくりとした歩調でこちらに近づき、後ずさって壁を背に付けたこちらを見て獲物に向けてその顔を嗜虐的に歪ませる。

 武器を構えていてもどうにもならない、絶望的状況。さらにミノタウロスが接近してきて、とうとうその筋骨隆々な腕を上げ、拳を握りしめる。あと数秒後の未来を想像し、恐怖で体が硬直し目を閉じることさえかなわない。その殺人的拳が後ろに引かれ、こちらに撃ち出されようとして、

 

――瞬間、その体に無数の銀線が奔った。

 

 血飛沫を上げ、断末魔すら発せぬままミノタウロスがバラバラの肉片となって崩れ落ちた。上がった血飛沫が二人を頭から濡らす。緊張が切れた影響でベルはその場で尻餅を突き、ソウジは壁に背を預け溜まっていた息を荒く吐き出した。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 その直後、現れたのは女神と見紛うような一人の少女だった。

 銀と蒼色の軽装に包まれた細身の体。伸びたしなやかな肢体は眩しいぐらい美しく、程よく自己主張する胸のふくらみを抑える胸当てと右腕を保護する手甲には同じ紋章(エンブレム)が刻まれており、その先の右手にはサーベルが握られていて先端から血が滴っている。腰まで真っ直ぐ伸びる髪は純正の砂金を溶かし込んだかのような黄金。あどけなさと純粋さを湛えた童顔に髪と同色の瞳。

 

 冒険者になって半月ほどの駆け出しであるベルとソウジでもわかる。【ロキ・ファミリア】に所属し、オラリオの中で最強の女剣士と謳われるLv.5の第一級冒険者。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「あの……大丈夫、ですか?」

 

 時が止まってしまったかのように反応できないこちらを見て、心配になったのだろうか、両者を見てまず、座り込んでしまっているベルに手を差し出し、もう一度尋ねてきた。

 

「立てますか?」

 

 またも反応できないベル。だが様子がおかしい。首から頭にかけて顔が段々紅潮していき、息もしているようには見えない。視線が差し出されている手とアイズの顔を行ったり来たりしていて、ようやく声を発したかと思えば――

 

「だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 全力で逃げた。

 

「「……え?」」

 

 手を差し出していたアイズも、相棒であるソウジでさえも頭が追い付かずポカンとしてしまう。

 その後残された二人の間に漂った空気は、とても気まずいものであった。

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

「エイナさぁああああああああああん!」

 

「ん?」

 

 その声にダンジョンを運営管理する『ギルド』の窓口受付嬢、エイナ・チュールは机の上にある書類を抱えながら反応し、顔を上げた。そして、自分を読んだ声の主を察して、安堵の息を洩らす。半月前か、二人の少年のギルドの冒険者手続きを担当し、そのままダンジョン攻略の専属アドバイザーとして担当することとなったのは。

 ベル・クラネル、アマヨリ・ソウジ。赤目白髪と蒼目黒髪のヒューマンで、雰囲気も元気な感じと静かなクール寄り。容姿の色彩と性格が正反対そうな少年達は、同じように瞳を盛大に輝かせながらやって来た。二人とも歳は14才で、自分より年下の子供が、その職業柄日々犠牲者の絶えない冒険者になるということに当時内心は凄く難色を示したものだ。

 その後も自分の担当冒険者ということもあって、日々その二人の身を案じているエイナだったが、ふたりのうち片割れの少年の声を聞き安否を確認して、頬を緩ませる。そして、声の方へ振り向くと、

 

「エイナさぁあああんっ!」

 

 全身をドス黒い血で染めた少年が()()()走って飛び込んできた。

 

「きゃああああああああああああああああああああああ!?」

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を教えてくださぁあああああああああああいっ!」

 

 エイナは卒倒しそうになった。

 

 

 

 ♦

 

 

 

 あの後、大急ぎで駆け込んできたソウジが姿を現した後、まず体を洗ってさっぱりし、現在はギルドのロビーに設けられた小さな一室で、ベルとソウジ、エイナは長机を挟み椅子に座って向かい合っていた。

 

「とりあえずベル君、言いたいことが山程あります」

 

「は、はいぃぃ……」

 

 エイナはこめかみをピクピクと痙攣させ、ベルは完全にビビッて萎縮してしまっている。そこからは長い長いお説教だった。事の経緯をすべて話し、5階層に降りたあたりの話からソウジにも怒りが飛び火した。

 柔和な線に縁取られた緑玉色(エメラルド)の瞳。光沢が溢れるセミブラウンの髪。容姿端麗で知られるエルフと人間のハーフで、尖った耳少し丸味を帯びている。ほっそりした顎、綺麗な鼻筋。その美貌は純粋のエルフのように冴え渡っているのではなく、どこか角の取れた風貌。纏っている雰囲気は人懐っこくて、親しみやすい。

 だが、綺麗である女性ほど怒った時は怖い。

 いつも優しくて見目麗しいお姉さんが目を吊り上げ憤慨する様に二人は終始恐怖で圧倒され、一時間以上続いた説教が終った時には『ズーン』と揃って心身共々沈下していた。

 

 説経が一通り終ってようやく落ち着いたエイナは、落ち込んでいる二人を見て苦笑いし、鼻をちょんと押さえると、「もうこんな無茶しちゃダメだよ?」と微笑んでくれた。

 二人はコクコクと頷き、やっと最初の話に戻る。

 

「それで……アイズ・ヴァレンシュタイン氏の情報、だっけ?」

 

「は、はいっ!」

 

 そしてエイナは『こういう個人の情報を話すのはあまり良くないんだけど……』と前置きして一般で知られるようなアイズ・ヴァレンシュタインさんの情報を語り、ベルがそういうのではなく趣味や好きな食べ物などを聞きたいと言うと、エイナは『もしかしてベル君。ヴァレンシュタイン氏のこと……』と少しニヤニヤした顔で返し、ベルは顔を真っ赤にして口ごもるように小さく肯定した。

 

 そんな感じで盛り上がっている話の最中に、今まで見守っていたソウジの鋭い突っ込みが入る。

 

「――でもベル。助けて貰った後、お礼も言わず全力で逃げたよね」

 

「うっ!」

 

「……それって、男としてと言うより……人としてどうなの?」

 

「ううぅ!」 

 

「そもそも、【ロキ・ファミリア】の幹部を務めているヴァレンシュタインさんとお付き合いするのは……厳しいと思う」

 

「ぐっふぅうううっ!!」

 

 ベルが再び沈んだ。涙目になり、ヒドイよ…と頭を下げて項垂れる。

 その後はもう時間も遅くなってきたということで立ち上がって魔石を換金し、帰り際にエイナさんがベルにフォロー入れ、元気になったベルとソウジはエイナにお礼を言い、走って帰路についた。

 

 

 

 

 

 ギルドを出た後、北西と西のメインストリートに挟まれた区画に入り、しばらくして見えてきた廃教会に足を踏み入れる。最奥の祭壇まで行くと右に扉があり、開くと地下へと延びる階段がある。

 階段を下りて、目の前のドアを開け放った。

 

「神様、帰ってきましたー! ただいまー!」

 

「ただいま帰りました、神様」

 

「ふたりとも、おっ帰りー!」

 

 挨拶をしながらその隠し部屋に入っていくと、この部屋の住人がソファからバッと起き上がって元気な声で飛びついてきた。幼女と少女の間のような小柄の外見に、それに不釣り合いな程自己主張する大きく実った胸。艶のある漆黒の髪はツインテールで長さは腰まで届き、結っているリボンには銀の鐘の飾り。円らな瞳は透き通った青色。我らが主神、ヘスティア様である。

 エイナさんに説教で帰りが遅くなってしまい、理由を聞かれると今日ダンジョンで死にそうになったことを話す。ヘスティアは心配そうに二人の体をペタペタ触って怪我がないか確認した後、微笑んで、こちらに尋ねてきた。

 

「えぇと、今日はベル君の【ステイタス】更新が先だったかな?」

 

「はいっ、お願いします!」

 

 ベルが装備を取って上着を脱ぎ、ベットにうつ伏せに寝転がってヘスティアがベルの腰に跨るように座る。ソウジはその間ソファに座って待機だ。

 ヘスティアは懐から小さい針を取り出し、人差し指に刺してベルの背中に血を一滴落とす。すると背中に刻まれている【ステイタス】に波紋が広がり、【神聖文字(ヒエログリフ)】が浮かび上がってくる。それを針を刺した指でなぞり、更新していくがその途中、手を止めて絶句してしまう。

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力 :I77→I82

耐久:I13

器用:I93→I98

敏捷:H148→H172

魔力:I0

《魔法》

【】

《スキル》

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

 

 

「……そういえば死にかけたって言ってたけど、一体何があったんだい?」

 

 動揺を抑えながらベルに尋ねる。その後ベルは顔を少し赤くしながらも、今日の出来事の詳細をソファに座っていたソウジと一緒に話した。

 更新を終え、《スキル》の欄のところを消して共通語(コイネー)に翻訳したステイタスの詳細が書かれた紙をベルに渡す。受け取った後起き上がり、「敏捷、結構上がったね」「うん。でも、相変わらず『魔力』はゼロかぁ」なんて肩を寄せて仲良く話している自分の眷族達を見て、おもわず頭が痛くなるようだった。

 

「さて、次はソウジ君だね」

 

「お願いします」

 

 言うまでもなく嫌な予感がし、さっきと同じ要領で【ステイタス】を更新していく。案の定、その予感は的中し、今度こそ声を出して動揺を洩らしてしまった。

 

「……どうかしたんですか、神様?」

 

「魔法が、発現しちゃってる……」

 

「「…え?」」

 

 

 

アマヨリ・ソウジ

Lv.1

力 :I96→I99

耐久:I30

器用:H124→H126

敏捷:H130→153

魔力:I0

《魔法》

【グロリアス】

付与魔法(エンチャント)

・無属性

【】

《スキル》

【】

 

 

 

 

「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ――――…………、お?」」

 

 少年二人が目をキラッキラにして本日最高のテンションで歓声を上げる。だがそれは後半失速し、疑問や困惑のトーンに変わっていく。

 確かにヘスティアもいろいろツッコミたいところだ。

 

「――無属性って、何?」

 

 真っ先に感じた疑問を、ベルが口にした。

 魔法の詳細が書かれた項目、『付与魔法(エンチャント)』は一応分かるし、知っている。直接敵にブッ放す方式の一番ポピュラーで一般的な形式の魔法ではなく、様々な属性、火や雷などを発し体に纏って攻撃であったり、防御であったりと自身の行動を補助し、強化してくれる魔法。だが、次に書かれている『無属性』なんてものは見たことも聞いたこともない。

 ベルとヘスティアがうぬぬっと唸り、ソウジが続けて疑問を口にする。

 

「……神様、この魔法……詠唱がありません」

 

 そう、全ての魔法にはそれを発動するための呪文、詠唱がある。魔法は詠唱の紡ぐ長さが長ければ長いほど規模や威力、効力が増すという傾向があるが、どんな魔法であれ長いなり短いなりに詠唱式というものが存在するのだ。それがこの魔法にはない。

 先のベルのスキルのことと言い、ヘスティアは本当に頭痛がしてきた。

 

「………………じゃあ、神様。ちょっとダンジョン行ってきます」

 

 突然ソウジがそんなことを言い出した。足はもう既に出入口の扉まで向かっている。

 ヘスティアは慌てて立ち上がって扉の前でインターセプトし、心なしか目が輝いている少年を止めにはいった。

 

「ちょちょ待ちたまえソウジ君! 今日はもう遅いから明日にすればどうだい?」

 

「ここで悩むよりも、実際に使ってみた方が効果は分かるはずです。……それに早く自分の魔法、使ってみたいです」

 

「99.99%後者が本音だろう……」

 

 ヘスティアはこれみよがしに溜息をついた。

 

「いいかい? どんな魔法かも分からない上、魔法なら当然精神疲労(マインド・ダウン)の危険性がある。それを警戒するためには同伴者を連れて行く必要がある。君はこんな時間から無理矢理ベル君をダンジョンに引っ張っていくのかい?」

 

「うっ、そ、それは……」

 

 ソウジが悲しみと、少し期待を混ぜた視線をベルに向ける。ベルは苦笑いし、自身の興味もあって同行を申し出ようとするが、口を開く前にヘスティアが追い打ちをかける。

 

「それに、これを見たまえ。じゃじゃーんっ!」

 

 ヘスティアがテーブルに先程から置いてあった謎の物体の上のふろしきを取り払う。現れたのは、皿に大量に盛られたじゃが丸君。

 

「バイト先の露店の売り上げに貢献したというこで、大量のじゃが丸君を貰ったんだ。さぁ、ソウジ君。君はボクが汗水垂らして調達してきた夕食を、これ以上冷まして無駄にするというのかい?」

 

「うぅ、明日にします……」

 

「よしっ、良い子だ!」

 

 ここまで言われては、そうするしかない。路頭に迷っていた自分を拾ってくれた大恩に、今も心から心配して声を掛けてくれているこの(ひと)の厚意を無碍(むげ)にするなど、それこそ人として最低の行為だ。

 ソウジが思い留まると、ヘスティアは頬を緩ませてソウジの頭を撫でながら言う。

 

「今日の所はじゃが丸君パーティとしゃれ込もうじゃないか? そして、早く寝て、明日早起きして行ってきな?」

 

「分かりました」

 

 ソウジは返事をした後、ベルに近づいて顔の前で手を合わせ、懇願した。

 

「……ベル、明日はもっと早く起きてダンジョンに行っていい?」

 

「うんっ、もちろんっ!」

 

 ベルは笑顔でそう返し、了承する。その後、三人で談笑しながら夕食を囲む。

 そんなこんなで、楽しく夜は更っていった。

 

 




ありがとうございました。

次も頑張って投稿したいと思います

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