その出会いは間違っていないだろう   作:GENZITUTOUHI人

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 前の投稿から一ヵ月。誰ですかね早く投稿するみたいなこと言ってたのは。→(自分)

 相変わらず拙い文ではございますが、どうぞお願いします。



第4話 豊饒の女主人

 今朝のちょっとしたハプニングから突発的にできた約束のため、いつもより少し早めに探索を終え、ギルドで魔石を換金し本拠へ帰ってきた後の恒例の【ステイタス】の更新。

 昨日はベルからだったので、順番で今日はソウジからやることになっている。

 

 そしてその結果、

 

 

 

 ♦

 

 

 

アマヨリ・ソウジ

Lv.1

力 :I99→H106

耐久:I30→I40

器用:H126→H137

敏捷:H153→H162

魔力:I0→I46

《魔法》

【グロリアス】

付与魔法(エンチャント)

・無属性

【】

《スキル》

【】

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力 :I82→H120

耐久:I13→I42

器用:I98→H141

敏捷:H172→G225

魔力:I0

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

「「………………………………………………………………………………………………………………………………………………なんで?」」

 

 

 開口一番、二人の呟きが見事にハモった。

 

 

 

「……ベル、昨日の夜に一人で『中層』行ってミノタウロスでも倒してきたの?」

 

「いやいやいやいや、そんなのゼッタイ無理だからっ!?」

 

 

 【ステイタス】は恩恵を賜った者の名前と、『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』と五項目の基礎能力値を表した基本アビリティ、特殊及び固有能力である『魔法』や『スキル』、階位であるLv.という三つの諸能力から構成されている。神の恩恵(ファルナ)を受けた者が行動し経験した様々な事象を神が【経験値(エクセリア)】として汲み取り【ステイタス】へと引き上げ、能力を上昇・発現させていく下界の者達にとっての成長促進剤にして無限の可能性を与える正真正銘の恩寵。

 基本アビリティは熟練度があり0~99がI、100~199がHという風に上からS、A、B、C、D、E、F、G、H、Iと十段階評価で能力の高低が示される。Sの999が限界値(カウンターストップ)で、能力は上がるごとに伸びも少しずつ悪くなっていく。

『力』なら重いものを持ち上げたり支えたり、『敏捷』なら全力で走ったり体の挙動を素早く行ったり等とその項目に関した行動を起こすことで【経験値(エクセリア)】としてその各能力を上げていくのである。そしてこの【経験値(エクセリア)】にも質と言うものがあり、モンスターとの戦闘ならより格上な敵を相手にすることでより大きな【経験値(エクセリア)】を稼ぐことができる。

 

―――以上のことを踏まえて考えると、ぶっちゃけおかしいのだ。

 

 

「……今日は俺も伸びが良かったし、初めての『魔力』も物凄く伸びたけど……その五項目のトータル熟練度上昇値より、『魔力』の上がってないベルの四項目のトータル熟練度上昇値の方が倍は伸びてる」

 

「うん……どれも大概おかしいけど、『敏捷』なんか50以上伸びてるし、『耐久』なんかゴブリンに一撃しか貰ってないのに一気に三倍以上に伸びてるよ」

 

「コッチはモンスターの攻撃を素手で弾いたり魔法の制御を誤って合計三回くらい壁に激突したりしたのに10しか上がってない……そこまで痛くはなかったけど」

 

「――これやっぱりおかしいよ!? か、神様っ、これどういうことなんですかっ?」

 

 今日はいつもよりは奮闘した自覚はあるものの、別に何日もダンジョンに籠って大量のモンスターを狩ったわけでも、自分より格上の強大な相手をジャイアントキリングしたわけでもない。約半月積み上げてきた努力は何だったのかと思わせるような成果だった。

 ヘスティアに、ベルは慌てたように疑問を投げ掛け、ソウジも声を出してはいないが少し落ち着かない様子で怪訝な気持ちの視線を向ける。

 だが、当の主神様は難しそうな顔をして、もっと言えば若干不機嫌そうな顔をして質問したこちらをジト目で見据え、ブーたれたような表情を浮かべていた。

 

「……さぁねっ、成長期でも来たんじゃないのかい?」

 

 ブスッとした対応をとるヘスティア。

 そんな彼女はベルの急成長ぶりに心あたりがあった。

 背中に刻まれる神聖文字を共通語に訳して紙に書き写す際に意図的に隠しているベルが昨日発現した成長を促進させる前代未聞のレアスキル。

 

(【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】。早熟する、懸想(おもい)が続く限り効果は持続し、懸想(おもい)の丈により効果は向上する。となればつまり原因は……あのヴァレン何某っ!!)

 

 ……おもしろくない。

 

 ヘスティア(自分)と言うものがありながら他の女に現を抜かし、それが要因でベルが成長し(変わっ)てしまった事実が悔しくて、とても嫌だった。

 それに加え、この下界にいる神々は皆娯楽に飢えている。こんなレアスキルの存在がうっかりと外に洩れたりでもしたら、「レア」だとか「唯一」とかいった単語に過剰反応してはしゃぐ神々の玩具(おもちゃ)にされてしまう。

 そんな憂いもあってこちらは頭を悩ませているのに、改めて視線を二人の眷族に向ければいつものように肩を寄せて互いのステイタスを見せ合い、先程自分が言った成長期という言葉に反応したのか「成長……。スゴいね、ベル……天才?」「そ、そうかな、えへへ……」などと、ほのぼのとした能天気な会話を繰り広げている。

 

(同時に発現したソウジ君の魔法も一気に『魔力』が伸びているし……。それは関係なかったとしても、ベル君の方はほぼ間違いなく……ぐぬぬぬぬぬっ!!)

 

 

 やはりおもしろくない。

 

 

 

 無言で腰かけていたベッドから立ち上がって部屋の隅にあるクローゼットへ足を向ける。扉を開いて特注のコートを取り出して羽織り、出口へ歩みをすたすたと早める。

 

「……神様?」

 

「バイト先の打ち上げに行ってくる。君たちは二人だけで羽を伸ばして豪華な食事でも楽しんでくればいいさっ」

 

 この行動に疑問に持ったソウジが不思議そうに声をかけてくるが、目を合わせずすげなく返した。

 えっ……? と戸惑ったような声を上げる二人を尻目にヘスティアはいじけた感情のままに扉をバタンッ! と乱暴に閉め、本拠である廃教会を走って飛び出していった。

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

 もう日がほぼ沈み、今朝通った時とは見違えるように沢山の人が往来する西のメインストリート。

 一日の仕事を終えた太陽に替わるように浮かぶのは、薄い雲の流れからチラチラ顔を覗かせる淡く輝く月。

 そんな勤務交代の行われてる空のように、地上でもまた一日の仕事や探索を終えた労働者や冒険者達が仕事道具や武器を食器やグラスに持ち替えて、今日はまだまだこれからだとでも言うように通りに建ち並ぶ住宅街や酒場の外内で酒盛りに興じ、笑い声を上げて談笑に耽って夜を満喫している。

 どこからともなく流れてくる楽器の音色と人々の活気が合わさって奏でられるBGMは相乗効果を生んでより一層熱気を底上げし、当てられた者達が酔った勢いに任せて違う種族同士で肩を組んだり他の視線を気にせず大声で歌を歌ったり闊歩したりして大いに盛り上がっている。

 そんなこのメインストリートに現在ベルとソウジも足を踏み入れ、話しながら歩を進めていた。

 

「僕達、神様を怒らせるようなことなんかしちゃったかな?」

 

「……分からない」

 

 だが、こんな活気の中にいても二人からは困ったような低い声が出てしまう。

 原因は今話してる内容。

 自分たちが本拠から出てくる前に唐突に不機嫌なオーラ出して先に本拠から出て行ってしまった神様の、その不機嫌さの原因が分からなくて相談し合っているのだ。

 

「特にいつもと変わったことをしたつもりもないし……。いつもと違うって言ったら、スゴく【ステイタス】が伸びたこと、くらい?」

 

「それが理由で怒る、かな? 神様ならむしろ、喜んでくれそうな気がする…」

 

「だよねぇ~。本当にどうしちゃったんだろ?」

 

「……」

 

 ベルは肩を落とし、ソウジは顎に指を添えて考える。

 普段から明るく優しい神様が突然機嫌を悪くするなんてこれまではなかった。

 二人は敬愛する主神を知らず識らずのうちに傷付けてしまったり、粗相をしてしまったのかと、割と本気で悩んでしまう。

 

「……あ、でも…」

 

「ん?」

 

 ソウジがふと思い出したかのように囁き、ベルが目線をソウジの顔に向ける。ソウジは視線を宙に浮かべ指を添えたまま言葉を口にした。

 

「神様からは、触れないほうがいいようなオーラが漂ってた気がする……」

 

「え、どういうこと?」

 

「……うまく言えないけど、女の人の触れないほうがいいところ、のような……? なんか、ダメ、感覚的に」

 

「ん、んんっ~?」

 

 ソウジは今、自分を育ててくれた祖母が過去に英雄譚を読み聴かせてくれた後にちょくちょく挟んでいた『お話し』をする場面が脳裏に浮かんでいた。ちなみにその時の祖母の目はハイライトが全消し。

 だから何だとは言えないが、幼少の頃から本能のレベルで刻まれた、自然と背筋をスーッと冷やすような感覚が、訴えてくる。あまり触れない方がいい、と。

 だがベルはと言うと、ソウジの言うことをあまり理解できてない様子だ。

 

「だから……一旦置いておこう。たまたま機嫌が悪かっただけかもしれないし、それにこれからお礼としてお店に行くのに、難しい顔をして入るのも良くない」

 

「そうだけど……大丈夫かな?」

 

「……もし本拠に帰って神様がまだあの様子だったら、また改めて考えよう?」

 

「う~ん、けど、ソウジがそう言うなら分かったよ」

 

 

 

 ♦

 

 

 

 

 そうやってしばらく喧騒の絶えない道を歩いていると、ようやく目的のお店が見えてきた。

 石造りの二階建てでカフェテラスもあるどこか趣きを感じさせるようなお店。他の酒場と比べてもなかなか大きく、入り口の上に飾ってある看板には『豊饒の女主人』と書かれている。

 

「なんか、結構おしゃれな感じだね……」

 

「うん、料理もおいしそう」

 

 入り口の前に立ち、ベルとソウジはおぉーっと外観と店の中の雰囲気に感心していると、朝のウエイトレスさんが店の中からこちらに気づいて小走りで寄ってきた。

 

「冒険者さんっ、いらしてくれたんですね!」

 

「ど、どうも……」

 

「……お邪魔します」

 

「自己紹介がまだでしたね。私、シル・フローヴァです。貴方達のお名前は?」

 

「はい、僕は……ベル・クラネルって言います」

 

「アマヨリ・ソウジです。よろしくお願いします」

 

「ベルさんに、ソウジさん? ですね。ソウジさんは極東の出身の方ですか?」

 

「はい、名前は極東の方式らしいです」

 

「そうですか……? では、お席にご案内しますねっ!」

 

 自己紹介を終え、シルと名乗った店員さんはソウジの物言いに少し疑問を覚えたようにコテッと首を傾げたが、すぐにぱっと笑顔を浮かべて店を案内してくれる。

 店内に入って改めてよく見てみるとスタッフは全員女性で、カウンターには恰幅のいいドワーフの女将さんに、従業員は皆見目麗しい美女美少女ばかりでシルと同じウエイトレスの格好をしていて、ヒューマンだけでなく、猫人やエルフの人まで働いている。

 そんな慣れない雰囲気に二人は気後れし、ベルは赤面して特に萎縮した様子で店の中を歩く。

 こちらの心情を察してくれたのか、シルさんが案内してくれたのは店の隅のあまり目立たないカウンター席だった。

 

 奥からソウジ、ベルと二人並んで木イスに座り、置かれていたメニュー表を手に取って目を通すと、品名の隣にはなかなかいい値段が載っている。

 

「うっ、た、高いね……」

 

「うん、一番安い料理でも三〇〇ヴァリスくらいする……っ」

 

 二人揃って口元が少し引き攣った。

 発足したばかりで経済的に余裕があるとは言い難い自分達のファミリアの財布事情を考えると、ホイホイと注文するのを躊躇う金額だ。

 でもとにかく注文しようと、一番安いラインナップにあるパスタに目をつける。

 二人ともそれにしようと、決まったところで注文の為に女将さんに声を掛けると――――

 

「アンタたちがシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるじゃないか。聞いたよ、二人揃ってアタシ達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢らしいじゃないか。じゃんじゃん料理出すからたらふく食ってどんどん金を使っていってくれよぉ!」

 

「「――!?」」(バッ!?)

 

 男としてちょっと心に刺さるコメントと共にいきなり衝撃の事実が明かされた。

 

 戦慄しながら給仕でホールを歩き回って働いているシルさんに慌てて顔を向けると、すぐこちらに気付き、てへっと舌を出して小悪魔チックな笑顔を浮かべる。

 その様子にベルは口をあんぐり開けて愕然とし、ソウジは慌てて女将さんに訂正を入れるが「もう、若いのに遠慮しなさんなっ!」とこちらの意思を汲み取って貰えない。このままじゃいけないと言葉を重ねようとするがその前に女将さんは、ドワーフらしく豪快に笑って料理を作りに行ってしまった。

 

「ハ、ハメられたッ……!?」

 

「……もうこのお店がブラックじゃないことを祈るしか、ない……」

 

 ベルは焦り、ソウジは早くも諦めたような雰囲気を醸し出している。

 

 そしてあっという間に料理がやってきた。注文していた二人分のパスタに、頼んでもいないのに今日のオススメらしい魚料理とエールが、追加でドドンッ! と置かれる。

 

 

「……」(ガクッ)←値段を確認して項垂れる音。

 

「……」(ズゾゾッ)←死んだ目でパスタを啜る音。

 

 

「……ソウジ、所持金っていくらあったっけ?」

 

「……二人合わせて、九五〇〇ヴァリス。武器や防具のローンと整備代、ファミリアへの貯金も考えると――――――フッ……(モグモグ)」

 

「待ってソウジ。現実逃避したまま食事を再開しないで」

 

 確かに料理は絶品。

 だが既にもういっぱいいっぱいだった。主に頭が。

 

 

 ♦

 

 

「楽しまれてますか?」

 

「「圧倒されてます、いろんな意味で」」

 

 仕事の間が空いたのであろうシルさんがこちらに来て声をかけてくると、ベルとソウジは息ピッタリにジト目を送って返事した。

 その二人の様子にシルさんは「あ、あはは…」と苦笑いで誤魔化しながらベルの隣のイスに腰を下ろしてくる。

 

「さ、さぁ、いっぱい食べてくださいねっ! ここのお料理の味とボリュームは素晴らしいですよっ!」

 

 胸の前で両手を合わせ、無理矢理浮かべたような笑顔で話しを続けようとしてくるシルさん。

 この人……さりげなくスルーしてこのまま何事もなかったかのようにする気のようだった。

 

 その様子を見て二人はさっと素早くアイコンタクトを交わし、意思疎通を図る。

 

「……いつから僕達大食漢になったんですか? 僕自分のことなのに初耳ですよ?」

 

 誤魔化したまま反省の色が窺えないシルさんに、ベルが先制でジャブを入れた。

 

「えっ!? えっ、とぉ……、ミアお母さんに知り合った方達が来るから、たくさん振る舞ってあげてって、伝えたら――」

 

「……百パー、故意」

 

 ベルの口撃にギクッと顔を逸らしながら答えるシルさんに、ソウジが最後まで言わせず言葉(みじか)に追撃を放つ。

 

「うっ!うぅ……あっ! あー、お、お腹が空いて力が出ないー」

 

「罪悪感に訴えたかったら、まずその棒読みどうにかしたらどうです? あと汚いですよ」

 

「…………あー、明日からどう生きて行けばいいんだー、神様もいるのにー」

 

「うぅっ!? うっ、えっと、えっと……」

 

「…………」(ジー)

 

「…………」(ジー)

 

「…………うぅ~…」

 

「…………」(ジィ~~)

 

「…………」(ジィ~~)

 

「……うぅぅ~~~っ、ごっ、ごめんなさぁああ~~いっっ!!」

 

 やっと謝罪したシルさんに、ベルとソウジは口と視線を使った連携攻撃を解く。

 涙目になって謝ってくるシルさんを見て、少しやりすぎたかもと思いながらも二人はお世話になったことは事実なので、そのことについてはしっかりとお礼を述べる。

 

「シルさん、朝ごはんの件は、本当にありがとうございました」

 

「……おかげでダンジョン探索、とても助かりました。ありがとうございます」

 

「ぐすっ…………はいっ、どういたしまして!」

 

 ……切り替えがなかなか早かった。

 すぐ立ち直ってこちらの毒気を抜くような憎めない笑顔を浮かべるシルさんに、二人はついつい苦笑いしてしまう。

 根っからのお人好しである二人はそれで許してしまった。

 

 そんなやり取りを含めてしばらく談笑と食事を楽しんでいると、店員の歓迎の声と共に一気に二十人近い団体客がゾロゾロ入店してきた。

 赤髪の女神を先頭に、小人族(パルゥム)、エルフ、ドワーフ、双子のアマゾネス、狼人(ウェアウルフ)とただならぬオーラを纏った集団が、その登場にどよめく周りの客をまったく気にしてないという様子で、予約していたであろう店の中心にある空いた席に着いていく。その中には昨日助けてもらった【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの姿もあった。

 堂々とした佇まい、見るからに漂ってくる強者の風格。

 畏怖と尊敬の感情を伴ってひそひそとベルとソウジの耳にも流れてくる称号は――階層主(巨人)殺し、【フレイヤ・ファミリア】と並ぶオラリオ最強の二大巨頭。

 

その派閥の名を―――【ロキ・ファミリア】。

 

 

「ダンジョン遠征ごくろうさん! 今夜は宴や! みんな飲めぇ!」

 

『おおォーッ!!』

 

 主神である女神が叫ぶように乾杯の音頭を取り、それに乗って【ロキ・ファミリア】の団員達のジョッキが一斉にぶつけられた。

 それを契機に、今まで以上の活気に店内が包まれる。

 お酒を豪快に呷り、料理を皿に取って口に運び舌鼓を打ち、給仕される品々の味の感想や遠征であったであろう出来事などを話題に歓談に華に咲かせ、騒々しく盛り上がっている。

 目を回すようにしてウエイトレスが忙しなく動き回り足音を立て、周りの客も先程のどよめきから立ち直って新たに現れた話のネタを酒の肴に各々の語らいに戻っていきと、【ロキ・ファミリア】のテーブルから伝播していくかのようにどんどんと昇るように喧騒が満ちてくる。

 

 

「なんか……いろいろすごいね、ベル。あとアホ面になってる」

 

「……うん………ハッ!! って、えッ!?」

 

 周りの客に倣うように【ロキ・ファミリア】を見た感想をソウジが話題として振るが、横を向いた先の相棒の弛み切った顔面事情に思わず二の句を継ぐ指摘が口から零れた。

 

「ど、どんな顔になってる?」

 

「口が開いてポケーってなってるよ。あと少し赤い」

 

 十中八九アイズ・ヴァレンシュタインさんに見惚れていてこうなったであろうと察してソウジは呆れと微笑ましさが半々くらいのバランスで構成された表情を浮かべる。

 耳から入った情報が左から右へと頭を素通り状態だったベルは生返事を返し、その一瞬後ようやく言われた内容を理解したのか、慌てて両頬に手を持ってきて自分の顔面の矯正作業に入った。

 

「【ロキ・ファミリア】の方々に興味がお有りですか?」

 

「はい。興味って言うか……昨日ダンジョンで危ないところを助けてもらったので、そのお礼がしたいなって……」

 

「……ベルは逃げちゃったしね。それに……それだけじゃないでしょ?」

 

「い、今はいいんだよっ!」

 

「うふふっ、ご興味ありそうですね」

 

 こちらが興味深々なことを察したシルさんが「【ロキ・ファミリア】さんはウチのお得意様なんです。彼等の主神であるロキ様がこの店をいたく気に入られたみたいで」と教えてくれた。

 

「……だって、ベル」

 

「な、なに? その含んだ言い方」

 

 シルさんからの言葉を引き継いだソウジが普段の無表情気味の顔に薄く悪戯っぽさを浮かべている。

 さっきから少し自分の恋路をイジられてることを自覚したベルはソウジに恨めし気な目を向ける。

 その視線を受けてソウジは「……ごめん」と小さな苦笑いに表情を変える。そしてやや唐突に、優しく微笑んだ。

 

「だから……頑張ろう?」

 

「え……?」

 

「強くなって、いっぱい稼げるようになって、このお店に普通に来れるように。目標に手が届くように」

 

「…………できるかな?」

 

「……できるよ。二人でなら」

 

「ははっ。うん、そうだね!」

 

「うん」

 

 

『おいアイズ! お前そろそろあの話し披露してやろうぜ!』

 

『……あの話……?』

 

 

 心が暖かくなるようだった。

 

 神様に拾って頂いた日にたまたま一緒にファミリアに入ることになった親友。まだ半月そこらの付き合いだが、ソウジが一緒にファミリアに入団してくれて良かったと思わない日は1日たりともなかった。一緒に英雄譚の話をして、迷宮で頼もしく感じるその背中同士を合わせて一緒に冒険し、はしゃいで笑ってかばい合って、苦楽を共にしてきた。

 そんな最高の相棒が応援してくれる。一緒に頑張ろうと言ってくれる。

 

 憧憬は果てし無いと思うほど遠いが、この暖かさがあればどんな困難な道のりでも走っていけるだろうと。

 

 

――そんな心情だったからこそ、不意に店の中心のテーブルから耳に流れてきたその言葉は、より深く胸に突き刺さった。

 

 

『あれだって、帰る時に何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹をお前が始末した時いただろ! ほら、無様に震えてたトマト野郎共が!』

 

 

「「―― 」」 

 

 

 頭が真っ白になった。

 

 

「それって、17階層で返り討ちして集団で逃げ出してった?」

 

「あぁ。それで、いたんだよ、最後の一匹を仕留めるところにいかにも駆け出しって感じのひょろくせぇ冒険者が二人!」

 

「そんでよぉ! 壁際に追い詰められて震え上がってたところをアイズが細切れにして、そいつら、ミノの血を浴びて、真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ!」

 

「うわぁ……」

 

「しかもだぜ? そのトマト野郎の片方が、叫び出してどっか行っちまってよぉ……くくっ、うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」

 

「……ふっ」

 

「アハハハッ! そいつは傑作やー! 助けた冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!」

 

「ふ、ふふっ……ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できないっ……!」

 

 身体が固まってしまっても、一度意識してしまえば明瞭に次々と自身の心を突き刺す言葉やどっと沸く笑い声が嫌でも耳に入ってきてしまう。

 俯いている顔が確実に赤面しているだろうと分かるほどの羞恥と、膝の上で握った拳に爪が深く食い込むぐらいの悔しさが胸の内に広がっていく。

 同じような形で俯いてるソウジも含めておかしい様子の僕らにシルさんが声をかけてくるが、それに答えられない。

 心にぽっかり穴が開いてしまったかのような感覚。

 

「しっかしまぁ、胸糞悪ィぜ。野郎のくせにびくびくと情けなく泣き喚いてよぉ、あんなやつがいると俺たち冒険者の品位が下がるってもんだぜ」

 

「いい加減にしろ、ベート。ミノタウロスを取り逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年たちに謝罪こそすれど、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。アイズ、お前はどうなんだよ? ドン引きもんだよなぁ?」

 

「あの状況では、仕方なかったと思います……」

 

「ハッ、じゃあなにか? そんな軟弱野郎にお前は好きだなんだと言い寄られて受け入れるのか?」

 

「……ッ」

 

 こちらを庇うかのような声も、今は全く意味がない。ガリガリと心が削れていく音がする。

 えぐるような言葉の数々。

 

 そしてその言葉が、我慢の限界だった。

 

 

「――雑魚じゃ釣り合わねぇんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!」

 

 ガタッ! と音を立てて、僕は店から飛び出した。

 

 

 

 ▼ ▲ ▼

 

 

 

 ベルが店を出て行った。

 

 その気持ちは痛いほど分かる、自分だって当事者なのだから。そして、出て行った後どんな行動を取るかもベルの性格を考えて予想はつく。

 飛び出して行ったベルを追うように、シルさんとヴァレンシュタインさんが店外へ出て行く。

 できるなら、自分もついていきたい。だが、その前にやるべきことがある。

 今にも爆発しそうな激情を抑え込み、行動を起こす。

 まずはお勘定。ベルが突然走り去ってから周りから食い逃げの疑念が囁かれている。まずはそれを解決してから、

 

「女将さん、二人分のお勘定です。ごちそうさまでした……」

 

 そして、本命である次。

 

「おいアンタ、馬鹿な真似するんじゃないよ」

 

「……ご心配、ありがとうございます」

 

 こちらを見て、察したような表情を浮かべるミアと呼ばれる女将さんに、軽い会釈で返す。

 そして中心のテーブルへゆっくり歩きだす。

 すぐに辿り着いてそのまま突っ立っていると、それを怪訝に思った【ロキ・ファミリア】の団員が徐々にこちらに視線を向けてくる。

 

「やあ、こちらになにか用かな?」

 

「……あァ?」

 

 不思議そうにファミリアの首領である金髪の小人族が尋ね、それで立っているこちらに背を向ける形で座っていたベートが最後にソウジに気づき、視線を向けた。

 その視線に目を合わせ、

 

 

「……どうも。先程ご紹介にあずかりました、トマト野郎の片割れです」

 

 

 そう言った瞬間、【ロキ・ファミリア】の団員の何人かが気まずそうに視線を背けた。

 まさかさっきまで自分達が笑っていた話題の本人がいるとは思わなかったのだろう。

 だが、そんな周りのことなど今はどうでもいいこと。用があるのは唯一人。

 

「……撤回して下さい」

 

「あ?」

 

「先程の侮辱を撤回して下さい、【凶狼(ヴァナルガンド)】」

 

 自分の中の譲れないモノ。静かにだが、さっきから胸の内で渦巻く激情を言葉にし、目を鋭くする。

 それを受けた目の前の狼人はそれを、ハッ! と鼻で笑って返した。

 

「ガキがなにを言うかと思えば、ピーピー泣き喚く雑魚野郎が悔しくて一丁前に文句付けに来たってか?」

 

「はい」

 

「ハッ、失せろ。テメェみたいな雑魚を見ていると虫唾が走るん「ベート!」、」

 

 そこに厳しい声で叫んでベートの言葉を遮ったのは翡翠色の髪の絶世の美貌を持つエルフ。オラリオ最強の魔導士にして【ロキ・ファミリア】の副団長を務める【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

「チッ、んだよババァ」

 

「本当にいい加減にしろ! こちらの不手際で命を危険に晒したその少年の怒りは正当なものだ。それを謝罪に応じないばかりかあまつさえ罵るとは何事だ!!」

 

「俺は事実を言ったまでだ。ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

 段々と【ロキ・ファミリア】だけでなく他のテーブルからも視線が向かってくる。口論を始める二人にソウジは無表情に言葉を挟んだ。

 

 

「……はい、事実です。概ねは」

 

 

 ピタ、と口論が止まった。侮辱の撤回を要求しておいてそれを肯定したのが意外だったのか僅かに目を見開き口を開いたまま呆けている。

 

「……だから俺への侮辱はいい。ですが、俺の相棒への侮辱は撤回してください」

 

 そう、これだけは譲れない。

 大切な者を傷つけられて何もしないのは幼い頃に聞かされ続けてきた言葉とあの日の誓いが許さない。

 

「……あいつは、圧倒的絶望下のあの状況でも、真っ先に俺を逃がすために恐怖に耐えて立ち向かってくれました。

情けなくなんか、ありません……っ!」

 

 相手が強者だろうが関係ない。誇れる大切な親友への侮辱は、絶対に取り下げて貰う。

 

 

「――だから、相棒への侮辱は……撤回してください」

 

 

 ソウジの言葉に【ロキ・ファミリア】のテーブルに着いてる多くの者は口を噤み、雰囲気に当てられてか他の客も声のトーンを幾らか落とし、店内は一時的にさざめくような空気に包まれている。

 

 そんな中でベートは酒に当てられているせいか周りを頓着しない様子で、先程からと変わらない調子で痛罵した。

 

「くだらねぇ、口だけならなんとでも言えるんだよ。ダンジョン()でも地上()でもピーピー喚く事だけしかできない能無しが、俺に口答えするんじゃねえ」

 

 ギリッ、と。ソウジの奥歯が鳴った。

 ならばといよいよ激情が表面に漏れ出したソウジは、心のままに特大級の爆弾を落とした。

 

 

「――分かりました。だったら今すぐ表に出てください。……出ろ」

 




 次話は骨組みは出来上がってるので早めに投稿できると思います(フラグ)
 これからもお付き合いのほどよろしくお願いします
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