魔術と死徒の姫と召喚獣《凍結中》   作:那由多20

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第12話

あぁ……これは夢だ、こんなのは現実にはあり得ない。

こんな……炎が渦巻く空中に歯車が回っているような荒野に、墓標のように突き立つ多種多様な刀剣。

そんなおぞましくも寂しい世界に、白と黒の対になる双剣を手に佇む紅い騎士。

一目見ただけで分かる。アイツは人間ではない何かだ。俺どころか常識すらも相手にならないだろう。

そして向かい合うように満身創痍で膝を付いている茶髪の少年。

全身傷だらけなのに、ソイツの瞳は闘志に溢れていて、表情は嬉しげ。まるでその騎士に鍛錬を師事してもらってるみたいだ。

……姿形は明確に視認できても、夢の中なのか認識は出来ない。

…ただ、ソイツが何故か…何時も行動を共にしているお人好しに似ている気がした。

 

世界は切り替わり、場所は文月とは異なる街に移り時刻は夜。

その郊外の森の最果てに聳える古城の中で、地に描かれた魔法陣のようなアートの側で手をかざしているのはまたしても茶髪のアイツ。

心なしかその茶色から色素が少しばかり抜け落ちている気がした。

やがて魔法陣が光を帯び、現れたのは黄金の鎧に包まれた騎士……違う。これは王だ。

この世の全ての理を具現しているかのような王気(オーラ)を放つ絶対の王。

そんな奴が自身以外に従うわけがない。

…なのに、なのにお人好しは物として見られながらも、そんな奴を理解しようと、ただ不器用に走り続けて行った。

 

分からない。

どうして自分を物として見るような奴なんかを理解しようとするのか。俺には到底出来そうには無いが一つだけ分かる事がある。

ただお人好しが底無しの馬鹿だったという事だけだ。

 

 

 

 

 

 

__夢、か。

 

文月学園の屋上で仮眠を摂っていた雄二は目を覚ました。

夢にしては生々しすぎるがそれでいて非現実的な世界。

夢とは過去の出来事を再現する事があると聞くが、俺はこんな不可解な過去なんか持ち合わせてないので、俺の記憶ではまずない。

改めて鮮明に思い出そうとするが、全くもってどんな夢だったのかが思い出せなくなっていた。

何時迄も思い出せなくては埒があかないので、一先ずこの事については思考を放棄し、状況を整理する。

 

確か、常夏制裁(俺も巻き込まれた)の後に、決勝戦の対戦相手が翔子と木下姉だと判明した為、それに備える為、屋上で仮眠を摂る事にしたんだったな。

腕時計を確認すると決勝戦まであと僅か。

 

……一先ず隣りで寝ているお人好しを起こすか。

そう思い、隣りを見るや慌てて視線を逸らす。

 

な、ななな、ななななななな___ッッッ!!?

 

____なんっツゥ格好で寝てやがるんだこの馬鹿はぁぁぁぁ!!

 

ていうか忘れてた!

コイツがまだメイド服のままだってことを森羅万象まるまる忘れてた!

 

肩もとやスカートが半分以上捲れ、雪のように白く艶かしい鎖骨や太腿が露わになっているのを見て、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。

 

ダメだ。

これ以上この状況だと俺の理性が壊れかねん。

というか本当に男なんだよな?

今更だが女装の域を超えてるぞ。

女体化の域に入ってるぞ!?

 

鼻から熱いものが込み上げてくるのをグッと堪えて、やっとの事で明久を起こす事に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

「それでは召喚大会決勝戦を始めます」

 

高橋先生の声が会場に届く中、翔子と優子に明久と雄二は互いに向き合っていた。

 

「やっぱり来たわね、吉井君に坂本君」

「……未だに女装姿なのも計算通り」

 

二人は真正面にいる僕達を闘志の籠った瞳で見据える。

一方僕は、この先に感じる微妙な違和感が何なのかを考えあぐねていた。そして先ほどから間接的に感じるこちらへの視線。

取り敢えず高橋先生の開始の合図と共に召喚獣を呼び出すが、その時にその違和感が何なのかが判明した。

 

「どうした?明久」

「……弓が出せない」

 

そう、今まではシステムが僕の投影技術を考慮して可能にしていた召喚獣による擬似投影___それがここに至ってできなくなっていた。

システムの偶発的な故障か?

と一瞬考えるがすぐさま打ち消す。

こんなタイミングの良すぎる偶然なんてそうそう起こらない。

数十秒程考え、ある結論に辿り着くと僕は深くため息をついた。

そしてこの会場を中継しているビデオカメラに視線を合わせるとある事を呟いた。

 

 

 

 

 

 

___ワケガワカラナイ。

 

 

 

会場の様子をモニターで見ていた教頭の竹原は不可解な事に恐怖に陥っていた。

 

この召喚大会の景品である腕輪は欠陥品だ。

それも高得点者が使用すると暴発するという筋金入りの欠陥品。

私がこの学園の長に就くには、何としても藤堂の存在が邪魔だった。

故に彼女の発明品の不備を、あのAクラスの二人によって世間に知らしめる必要があったのだ。

無論その為に、様々な策を講じた。

推薦を餌に、三年の二人を扇動し着々と勝ち進めている学年最底辺のクズ二人を妨害させたり他クラスに悪評を広めさせたりもした。

 

だがそれでもFクラスは決勝戦まで勝ち上がってきた為に、最後の手段として、戦況を左右している観察処分者の召喚獣をシステムを変更する事によって大幅に能力を低下させた。

 

ここまでやれば万全だろうと満足気に頷いた時にそれは起こった。

奴はカメラ越しに視線を合わせると、まるで私に話しかけるように口を開いた。

 

「___()()()()()()

 

そう、確かにアイツは呟いたのだ。これまでしてきた事は無駄なんだよ___そう宣告しているかのようにも見えた。

 

 

 

 

……バカバカしい。

こんなに能力を制限されて相手はAクラスの代表に上位者。

勝てるわけがない。

 

そう落ち着かせて、冷静にモニターを見つめ直した。

 

 

 

 

 

 

さて、色々と試してみたところ干将・莫耶を始め槍や長剣も出せない所から擬似投影自体が使用不可のようだ。

手持ちにあるのは僕の召喚獣本来の装備である木刀のみ。

流石にこれでAクラス相手に向かうのは厳しいものがある。

 

……ここは一つ、魔術を使いますか。一応刀を傷つけずに操る鬼才の剣士に心当たりはある事だし。

 

瞳を瞑り、自己を心の中に埋没させる。

 

憑依経験(トレース・オン)

 

模倣するのはあの群青色の袴を着た侍の剣技。

投影物ではなく記憶の中の『記録』から経験を憑依させている為、精度は数ランク程低下するが、あの人なら耐久性の低い日本刀の扱いを知り尽くしている。

それが木刀であってもだ!

 

 

 

 

 

こんな展開を誰が予想しただろうか。会場全体が息を飲んでその様子に見惚れていた。

それはそうだろう。翔子と雄二の場合は点数がそうそう離れていないから納得できる。だが明久の場合、優子の点数の三分の一にも満たないのだ。

そのはずなのに、木刀でランスに互角で渡り合うなんて常識から逸している。

明久は召喚獣を巧みに扱い、まともに打ち合う事をせず、円の軌跡を描くように木刀を振るい相手のランスを華麗に捌く。

いや、捌くだけではない。

相手の力を利用して木刀を翻し着実にダメージを与えていっている。

 

一方優子は優子で別の事で焦り、冷や汗を流していた。

 

(冗談じゃないわよ!?どうやったらこんな芸当が出来るのよ!)

 

この場合、優子の言う芸当とは明久の剣捌きだけではない。

相手の殺気の事を言っているのだ。

通常殺気とは相手を怯ませる為に全身から放つもの。

だが明久のそれは違う。

表情は涼しげではあるが、優子の召喚獣の首元にのみ殺気を当てている。

故に優子は常に自分の召喚獣の首を両断される結末を幻視しているのだ。

 

「……そろそろ決めますか」

 

そう呟いた明久は一旦後方へ下がり、そして木刀を水平に構える。

それを好機と見た優子は一息に間合いを詰めるが、それが悪手となった。

 

「___秘剣・燕返し!」

 

放たれるは凄まじい速度での三つの弧を描く連撃。

優子の召喚獣は防御すら出来ずに全てを身に受け、光の粒子となって消滅した。

燕返しとは本来槍のような長さを誇る佐々木小次郎の愛刀、『物干し竿』を持ってこそ真の威力を発揮する。

もし優子があそこで間合いを詰めなければあるいは、リーチの短い木刀では結果が変わっていたかもしれない。無論、こうなることも明久の計算の範疇であるが。

 

「やっぱり三つ同時になんて無理か。……これをあの人は何なくやっちゃうんだものなぁ」

 

やっぱり化け物だよあの侍さん。

そう心の中でため息を吐きながら、動きを止めずに木刀を横に投擲する。

 

それは体制を崩した雄二の召喚獣と、それにとどめを刺そうとしている翔子の召喚獣の間に突き刺さり、鉄甲作用によって地面ごと爆ぜた。

 

それによって翔子は一瞬怯むが、雄二はそうではない。

彼は明久と長く行動を共にしている為、突然の援護に内心驚きはしたものの動きを止める事はしなかった。

 

こうして急所を叩き込まれた翔子の召喚獣は光の粒子となって消滅し、召喚大会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

清涼祭の後の打ち上げは、雄二と翔子の提案によりA、Fの合同でする事が決まり、騒々しく賑わっていた。

そんな中、明久、アルトルージュ、青子の三人は離れの場所で少しばかり静かな休息を楽しんでいた。

無論これを見た姫路に島田は飛び出して行ったが、愛子や優子達に止められていた。

そこでふと思い出した青子が怖い笑顔で明久に詰め寄る。

 

「ねぇ明久。何か言い残す事はあるかしら?」

「いきなり死刑前の遺言催促!?ていうか何で!」

「とぼけないで。貴方、決勝戦の時に魔術使ったでしょ」

「存じ上げません(キッパリ)」

 

爽やかな笑顔でキリッと言い切った明久。

……勇者である。

それを見た青子はフルフルと肩を震わせ

 

「魔術使用の痕跡が残ってたのよこの大馬鹿ぁぁぁ!」

 

吼えた。それはもうクラス中の全員が驚いて振り返るくらい吼えた。

幸いなのは内容までは誰もが聞き取れなかったくらいか。

流石にこの時ばかりはアルトはフォローはしない。明久の投影魔術が協会側に知られる恐れがあったからだ。

 

「まあ良いではないか、ミス・ブルーよ。いざとなったら記憶を改竄すれば済むことじゃて」

「良くない!そんな問題じゃない……って__」

 

そこでようやく三人はいつの間にか一人増えていることに気づいた。

 

「「「大師父(宝石爺)(ゼル爺)!?」」」

「うむ。三人とも元気そうで何よりじゃ」

 

ふぉっふぉっふぉと笑いながらそれぞれの頭をぽんぽんと叩いていく。

 

「じゃなくて大師父がどうしてここに!」

「うむ。その事ではあるが」

 

ゼルレッチは懐から取り出した手紙をひらひらと明久の前で振り、

 

「明久よ。そろそろ彼らに会いに行ってもいい頃合いじゃろう。皆がお前を待っておるぞ」

 

それを聞いた明久の表情が一瞬明るくなるが、すぐに陰ってしまう。

 

「ですが大師父。僕には未だに平行世界に行く術を得ていません……」

「そんな事じゃろうと思ったわい」

「え?___うわっ!?」

 

俯いた顔を持ち上げ、目の前に放られた物を慌てて受け取ると明久は驚愕の表情をする。

 

「__!大師父……これは」

 

その手に握られていたのは、一見何の切れ味も無さそうな刀身が宝石で出来た剣。

そう、宝石剣だ。

 

「向こうの世界の衛宮士郎に感謝するんじゃな。二度目の無茶までして投影した物じゃぞ。まあ……あやつもそこまでしてお前には会いたかったのじゃろうがな」

「はっ、はい!」

 

今度こそ輝くような笑顔で明久は頷いた。

ちなみにアルトと青子はその笑顔に当てられ顔を紅くしていたのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでお前は何時迄女装したままでいるのかの?」

「……あ」

 

それはこれが原因であった。

 




はい。
ひとまずバカテス編はこれにて終了です。
また竹原の出番も終了ですね。
次回からはfate編にはいっていきたいと思います。
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