「ここ……どこ?」
変なおじいさんに声をかけられ、あたりが眩しくなったなぁ__ってぼぅってしてると、気がつけばさっきまでとは違う所にいた。
空にはけたたましい騒音を轟かせながら途絶える事なく飛び去って行く爆撃機。
そして焼夷弾が落とされる先には、街の人達が悲鳴を上げながら彼方此方を右往左往していた。
本能だろうか。
僕は何が起こっているのか
あの小さいジェット機達は街の人達を殺す為に飛んでいるんだ、と。
叫んだ。
必死になって叫んだ。
__どうしてこんな事するの!
やめて__!と。
無論そんな願いなど爆音に掻き消され聴こえる訳がなく、聴こえたとしても叶えられる訳がない。
諦めずに街に向かって走り続けている間にも、たくさんの人が死んでいった。
今度は僕の上を過ぎさった戦闘機がミサイルを発射した。
爆発範囲が極めて広い対建築物、対人用の爆撃ミサイル。
これが着弾すれば一度に百人程の命が奪われるだろう。
__もう神様でも悪魔でも死神でもいい。とにかく皆を助けてっ!!
万願の思いを込めて祈った、その時にそれは起こった。
数多の命を奪わんと容赦なく疾走する爆撃ミサイルは、目標に到達する前に一筋の光線に貫かれ、上空数百メートル地点で爆発したのだ。
爆風を潜り抜けて地に舞い下りた何かは……一瞬
黒の軽装の上に紅い外套を身にした騎士__貫禄漂う覇気からは英雄を連想させたからだ。
けどそれも一瞬で崩れ去った。
その騎士は侵攻する爆撃機を数多の剣群で次々と撃ち落とすと、今度は街にいる人達をも殺戮し始めたのだ。
これではただ、視界に入る物全てを殺しにきたようなものじゃないか!
頭の中で何かが弾けると、僕は堪らず騎士に向かって駆け出した。
今思うとどうかしていたと我ながら呆れている。
ただそうしなければいけないという使命感が勝手に身体を動かしていた。
当然の結果ではあるけど……無意味だった。
彼は僕を認識すると、排除すべき対象として取られたのか突風のように疾走し詰め寄り僕に向かって黒い剣を振り上げた。
殺される__そう覚悟しつつも、最後の意地を見せて瞳を開き相手を見据え続けた。
けれど、いつまで経っても彼は剣を振り下ろす事をしなかった。
そればかりか何かに気づいたように咄嗟にその剣を消したのだ。
怪訝に感じ、ゆっくりと騎士の顔を見直すと、彼は呆然とした様子で僕を見つめていた。
interlude out
(私を世界の鎖から解き放った……だと?)
何なんだこの少年は。
人にしては異常に白い肌に血のような瞳。
___死徒か。
自我を持っている為、操られてはいないと見るが……。
いや、この際死徒かどうかなんてどうでもいい。
そもそも
だが実際に今の私は意思というものを明確に持っている。それが世界に隷属していない何よりの証拠だ。
この少年は死徒であるが故、人よりは力は強いようであるがそれだけだ。まだ死徒の本来の力にさえ遠く届いてはいまい。
では何故……。
改めて少年を観察するとある事に気がつく。
___不思議な瞳だ。
紅い、だが死徒のようにただ血のように紅いわけではない。
ルビーを思わせてそれでいて見るものを
__これは魔眼の類か?
いや、魔眼でさえこんな芸当は出来ない。とすると神眼が妥当か。
というより何故この子は怯えている?
そこで私は未だに莫耶を振り上げたままな事に気づき慌てて投影を破棄した。
「中々に面白い少年じゃろう、エミヤよ」
背後から聞こえた笑いに思わず体が硬直する。
こ、このおどけた声はまさか……忘れるわけがない!
「大師父!?」
「あ!宝石のお爺さんだ」
何故こんなところに貴方がいるんだ!?この少年は貴方の知り合いなのか?
いや、それよりも
「何故もっと早く来なかったんだ!危うくこの子の命に手をかけるところだったのだぞ!」
「無茶を言うでない。ただ狂っただけのお前ならば止められん事も無かったが、世界一つ分の魔力を供給されたお前を止めるとなるといくら儂でも無謀極まるわい……」
確かにそうだ。
抑止の守護者とは魔法に至りそうな魔術師を滅する為にも世界から使役される事がある。
例え根源に至った魔法使いでも守護者に勝てるかどうかは分からない。のらりくらりと逃げ切る事は容易いだろうが……。
実際目の前のハッチャケ爺さんは平行世界に行ったり来たりしてそうしてるわけだが……。
「それでこの子の力を頼ろうと?」
「うむ」
「全く、貴方という人は……」
相変わらずの無茶振りに頭を抱えたくなる。一歩間違えれば大師父はともかくもこの子は間違いなく死んでいた。
「あの、エミヤさん。僕は大丈夫ですよ。あと僕は吉井明久といいます」
驚いた。
多少怯えてはいるものの、それは死に対してではなく私の殺気に当てられてのもの。
この子……いや、明久は今までに死を見た事があるのだろうか。
「実を言うとなエミヤシロウ。ここへ来たのはお前に頼みがあったからだ」
「……頼み?」
___猛烈に、嫌な予感がする。
「明久の面倒をしばし見てやれ」
……それはもうお願いではなく命令なのでは?
「いや、その…だな大師父。それはいくら何でも」
引き受ける訳には……
「明久の根源がお前と同じだと言ってもか?」
「なっ!?」
何を言っているんだこの爺さんは!?私の根源と同じだと!
「流石に信じられん話ではあるがな。でもほれ」
そう言って渡されたのは鉄の鎖。
「因みにちょっとしたナイフで試させてみたのじゃが、そちらの精度は比較的良かった」
それに剣の属性まで同じとは……。
どうやら根源が同じだというのは真実らしい。思い当たるのは平行世界で本来その力を持つ衛宮士郎が明久の世界にはいなかった事から、修正として明久に備わったのかもしれんという事だが……こればかりは分からんな。
それならば大師父が私に任せたのも頷ける。
「分かった。私は構わないが…君はいいのか?」
だが明久が良いならばという条件付きだ。それが駄目ならば協力はせん。
「え?う、うん。アルトには伝えてあるってお爺さんも言っていたし」
「……アルト?」
妙に聞き馴染みのある名前に思わず聞き返してしまう。
真っ先に思い浮かんだのはアルトリアだが、この場合彼女の事では無いだろう。それに略名のようだ。
<その頃のアルトルージュはゼルレッチの置き手紙を見て絶叫していた。>
「アルトルージュの事じゃエミヤよ。して明久の恋人でもある」
「……頭が痛くなってきた」
一体何を言っているんだ。
この子はかの死徒の姫君と知り合いだと。それも恋仲?
幾ら何でもまだ十歳に届いたばかりの子にそれは無いだろう。
「『光源氏大作戦ですこと!』と言っておったが……ん、どうした?」
「いや、なに。……姫君の残念な一面を知って落ち込んでいるんだ。気にしないでくれ」
先ほどの事は忘れるとして、明久は私に着いて行くことを是としている。これは良い判断だろう。
魔術協会に狙われる事となった場合、今のこの子の力では自分自身を守る事など出来ないからだ。
いつか自分で自分を守り切る力を持つその日まで……私が見ていかなくては。
クッ、我ながら甘すぎるな。
思わず苦笑してしまう。
「……分かった。この子の世話は引き受けよう」
「うむ。明久よ、時が来れば迎えに来るからの。では頼んだぞわが愛弟子、エミヤよ」
「ああ。任された。では行こうか、明久」
「うん!」
こうして大師父は平行世界に姿を消し、私は明久を連れ二人が身を安住出来そうな知人の所へと向かった。
今回は明久の過去話ですね。