魔術と死徒の姫と召喚獣《凍結中》   作:那由多20

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第15話

 

 ──うっ……。

 

 先程までの世界が淡く溶けるように崩壊してゆき、ゆっくりと瞳を開ける。その行為によってその世界が夢であったと分かるが、懐かしい物だったので嫌ではなかった。

 開けた視界に見えるのは武家屋敷のような木製の天井に背中に感じる畳。

 そして黒髪を長く伸ばした綺麗な女性に銀色に鈍く光る白髪の褐色の男性。

 

 

 ………ん?

 

 

「アーチャー?」

 

 ──黒髪の女性が吹き出すのが分かった。

 

「ぷぷっ……良かったじゃない士郎。それだけアイツの背中に追いついてきたって事じゃない?」

「…冗談でもやめてくれ遠坂。追いつきたい…いや、追い抜きたいのは守る力だけであってアイツそのものじゃない」

 

 彼女――凛さんのからかいを含んだ言葉に男性は心底嫌そうな表情をする。

 ……ああ、思い出した。

 姿こそ驚くほど似てきてるけど、彼はもうアーチャーとは別人だ。

 

「士郎さん?」

 

 半ば呆けた状態での問いかけに彼は微笑みながら頷いた。

 

「ああ。久しぶりだな、明久。──お前もあの頃より更に変わったようだ」

「あはは……まだまだ骨子の想定が甘いから、ね」

 

 干将莫耶と弓の投影については完全と言っていい程問題は無い。それこそタイムラグなど無視して投影出来る程だ。

 だがそれ以外の宝具級の刀剣となると、早くて五秒遅くて十秒はかかってしまう。一般の人間相手には秒単位でも十分対応出来るが、魔術師や人外、英霊となると最低でも一秒以内に投影が出来ないと命が無いものと思ってもいい。

 故に投影の鍛錬を怠るわけにはいかなかったのだ。

 

「――分かっているなら精々足掻け。忘れたわけではないであろうな。(オレ)の愉しみで無くなったその時が貴様の最後だという事を…」

「──ギルガメッシュ」

 

 隣で腕を組んでこちらを見下ろしている金の英霊――ギルガメッシュ。

 忘れるわけがない。

 傲岸不遜であり、果たして契約関係ですらあったのか疑問に思ったほどの…他ならぬ吉井明久のサーヴァント。

 初めの方こそはこんなサーヴァントを引いてしまった事に後悔していたが、いつしか彼以外など有り得ない──そう思い込むようになってしまうまでに信頼するようになっていたのだ。

 

「心配するまでもないよ。あの時交わした言葉のまま、僕は君の愉しみなんだから」

「当然だろう、明久? 我のマスターであるならな」

 

 不敵に笑い合う僕ら。

 ギルガメッシュは強さでマスターを選ぶわけではない。

 半分が神、半分が人間の原初の王。

 故に彼は人間という物を見極める王であるのだ。

 そして最後に交わした問答。

 ──それはギルガメッシュにとっての吉井明久はどういったものなのか。

 そういうことだった。

 

「あの英雄王にそこまで言わせるなんて。──吉井君って本当に恐ろしい人ね…」

「いや。明久には人間としては模範といっていいほど惹きつける力があるからな。その在り方が人間を裁定する原初の王の目に止まったのだろう」

 

 言っている意味は理解できないけど、とにかくもう一度ギルガメッシュと行動を共に出来る。

 ──それだけで僕の気持ちは高鳴っている。

 ……どうして未だに現界出来ているのかは謎だけど。

 

「たわけ。未だに我と明久の契約は繋がっている。霊体維持の魔力供給くらいは我が宝物庫で賄えるのが必然よ!」

 

 ……あ、そうですか。

 随分御無沙汰してたせいか、君のデタラメさをすっかり忘れてたよ。

 ていうかそれほどの宝持ってるのに、刀剣類のオークションに行った時なんて一銭も払ってくれなかったよね。

 一生を過ごすのに困らない金運持ってるくせにドケチなんて最悪な性格してたよね。

 ──ってイケないイケない。

 これ以上続けると彼…多分拗ねるだろうし何より後が怖い。

 

「……そろそろいいか?」

「何だ?まだいたのか雑種」

 

 そこにいるはずのない人物の声が聞こえて、僕の時が静止した。

 

「………雄二は雑種じゃない」

「くだらん意地を張るな。我から見れば我が認めた物以外雑種に変わりない」

 

 あー…、色々ツッコミたい事はあるけど、取り敢えず

 

「──何で雄二達がいるのさ」

「…俺に聞くな」

 

 見慣れた野性味溢れる雄二は疲れ切ったように溜め息を吐いた。

 平行世界にいる可能性としての雄二達と考えたくもあったが、向こうは紛れもなく僕の事を認識して話しているためそれは有り得ないだろう。

 というより雄二、霧島さん、秀吉、康太、工藤さん、優子さんがこうして一緒にいるんだから絶対僕のいた世界の彼らだ。

 ──問題はどうやってここに来たかなんだけど……。第二魔法なんて絶対に無理だろうし、漂流とか?

 

「雄二達はここが別世界だって事、理解してる?」

「信じられんが…まあ、な」

「ええ。ここ…冬木っていう街みたいだけど、そんな所日本に無いもの」

 

 顔をしかめさせながら呻く雄二に変わって、優子さんが冷静に代弁した。

 ──なるほど。

 確かにそういう見分け方もあるか。

 でもここまで来てしまったからには彼女達には知らせなければいけないことがある。

 

「──じゃあ僕達が魔術師だって事も理解出来る?」

「「「………………………は?」」」

 

 

 ……うん。それが普通の反応だよね。

 

「どうして平行世界に来たことは信じているのに私達が魔術師である事は信じられないのよ…」

「言うなリン。雑種の頭ではその程度だろうよ」

 

 凛さんとギルガメッシュが呆れたようにポカンとしている雄二達を見る。

 どうでもいいけど君達。

 僕が留守にしている間に随分と仲が良くなってやいませんか?

 あれか?あれですか?

 互いのドケチ精神が意気投合して──

 

「あら吉井君。何か言いたいことでも?」

「いえなんにも?」

 

 遠坂凛……恐ろしい人だ。

 まあそれは置いといて今は雄二達に説明しないと。こういうときは論より証拠だね。

 

「──…投影(トレース)開始(オン)

 

 慣れた詠唱を呟き、投影した西洋剣を雄二達に手渡す。魔剣でもなく何の伝承も無い無銘の剣なので、投影の際に生じる負担も無いに近い。

 

「……綺麗」

「ほんとだネ。でもこんな大きいもの、どこから出したの?」

 

 ──やはり手渡すだけでは無理があったか。

 もっと納得させるに足る物でないと……。

 ……仕方ないか。

 

「──トレース・オフ…」

「「「!!??」」」

 

 投影物を破棄する事によって、優子さんの持っていた剣が粒子となって消え去ったことに全員が驚愕した。

 けどこれぐらいはしないと納得してもらうのは難しい。

 

「──工藤さん。今の西洋剣は最初からあった物ではないから取り出したわけではないんだ」

「え?…でも、じゃあどうやって――」

「それを納得してもらうためにも先のように剣を消したんだ。──あれは取り出したんじゃなく僕が空想によって鍛え上げた物なんだから」

「なーんだ。作ったんだったら納得だネ────ってえぇぇぇーーー!!??」

 

 今は僕達が魔術師である事を知ってもらうためにそう話したが、彼女の言ってた『取り出した』というのも間違いではない。いや、むしろそっちの方が正解だ。

 僕達は起源である固有結界《無限の剣製》から取り出しているに過ぎないんだから。

 

「順応なさい。まだ信じられない気持ちも分からなくはないけど、人の常識から外れた神秘を行使するのが私達魔術師なのよ」

 

 ここまで見せてもまだ納得しきれてないような皆に、凛さんが溜め息を吐きながらも理解出来ないのも仕方がないものだと説明する。

 要するに割り切れと言うことだ。

 

「──で、どのようにしてここに来たの?」

 

 平行世界へ漂流させるほどのエネルギーだ。

 もし僕達の世界にそれほどの自然現象があるのだとしたらとても見過ごしていいものではない。

 

「………吉井が高そうな宝石みたいなナイフをもらったあたりから後をつけてた。そしたら変なお爺さんと出会って」

 

 

 ……何だろう。嫌な予感しかしない。

 

「………『そんなに気になるのだったらお前達も行ってくるがよい。──良い旅をな』って。──その後気づいたらここにいた」

「「やっぱりかぁぁぁああーーっっ!!??」」

 

 僕と凛さん、今日最大の絶叫。

 ──っていうかあのハッチャケ爺さん何しでかしてくれてんの!?神秘秘匿する気無しなの!?

 ほら普段被ってる凛さんの猫の皮が剥がれ落ちちゃってるじゃないか!士郎さんも苦笑いしてるし……。

 

 

「まあその話はまた今度にしよう。もう夕食の時間だからな。君達の分も用意するからそこでくつろいでいてくれ」

「あ、手伝います士郎さん」

「それは助かる。君が来てくれれば桜も喜ぶだろうしな」

 

 第六次以来の三人での料理。

 ──うん。楽しみだ!

 それにしても気がかりなのはこの世界と僕のいた世界――時間軸が大幅にずれている。

 確か僕がこの世界に来たのは三年前だったはず。でも士郎さん達にとっては五年ぶりの再開らしい。

 ……これからはちょくちょく顔を合わせに行こう。──士郎さんもその為に無茶をして宝石剣を投影してくれたんだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

「明久。俺は野菜を切っておくからお前は肉を切ってくれ」

「今やってます。表面を焼いておきたいんで小麦粉取って頂けますか?」

「持っている。隣に置いておくけどいいか?」

「はい。ありがとうございます」

 

 厨房に立つ僕と士郎さんは阿吽の呼吸でカレーの準備を整えていく。

 長い間厨房を共にした僕達だからこそ互いが何をしてほしいかが分かるんだ。……まあ魂の根源が士郎さんと同じであるエミヤさんにしごかれていたのが一番大きいけど。

 

「それにしてもまた腕を上げたみたいだな」

「一人暮らしだからね。そりゃあ上手くはなるよ」

「……そうか」

「──でも今は千年城で暮らしてるから賑やかなものだよ」

 

 前と違ってあそこにはアルトがいる。リィゾがいる。プライミッツがいる。

 

 ……………………フィナがいる…。

 

 いやいかん、いかんぞ吉井明久。

 家族は家族でも彼だけは警戒を怠ってはいけない。

 

 ──とその時インターホンが鳴る音がした。

 

「全く……桜のやつ。家族も同然なんだから勝手に上がってもいいって何度も言っているのにな…」

 

 士郎さんは苦笑しながら深く溜め息を吐いた。

 …ああ。そう言えば彼女、律儀な性格だったね。

 

「ちょっと迎えにでるから料理の様子を見ていてくれ」

「分かりました」

 

 士郎さんが居間から出て行くのを見届けると、僕はそのまま煮込んでいる最中のカレーを睨む。

 

 ……さて、料理とは戦争と同義だ。例えちょっとした事でも目を離すことは許されない。

 それに彼がいない中で試してみたい事もあったからね。

 僕は隠し持っていた大蒜(にんにく)と生姜を取り出すと細かく切り刻み鍋に投入する。そして士郎さんには食後のデザートの為にと偽って沸かしておいた本格的なコーヒーを三分の一カップ程同じく投入した。そして味が染み渡るまでじっくりとまぜはじめる。

 

 ──そう。一切の油断も許されない。

 視線を外すなど論外──

 

「お久しぶりです明久さんっ!」

「………………ノォウ」

 

 抱きつかれた反動によって思いっきり視線が逸れてしまった。

 

「あはは。ダメじゃないか桜さん。料理から目を離してしまったじゃないか」

「……明久さんは私よりも料理の方が大切なのですか?」

「はっはっは!そんな上目使いで見上げても効果なんて的中じゃないかチクショウっ!」

「……お前って本当に嘘がつけないやつだな」

 

 いや、綺麗な異性からの上目使いって凶器という物なんだよ士郎さん。それが温厚な桜さんのものだったら尚更。

 ともあれこれで三人揃った事だし、カレー以外をちゃちゃっと終わらせるとしますか!

 

「姿もあの頃のままで可愛いです♪」

 

 ───そろそろ離れてほしい。料理が再開できないではないか。

 

 

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