魔術と死徒の姫と召喚獣《凍結中》   作:那由多20

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第6話 戦いに勝利などいらない

 日も静まり返った深夜の森。その奥地にそびえている古城の前、そこには白と黒の対となる双剣を手に、同じく数歩離れた所に黒の長剣を手にして向き合っている者がいた。

 片や死徒の姫の護衛の騎士であり死徒でもある吉井明久。

 そして対峙しているのは同じく死徒の姫の護衛の騎士であり――そして、27祖の第六位にまで君臨しているリィゾ=バール・シュトラウトである。

 

 対峙してから幾分も経っているというのに、二人は動かなかった。

 

 双の剣をだらりと足らしているのにつけいる隙が見えない明久の構え。

 反対に上段に構え、何時でも剣を振り抜ける構えをしたリィゾ。こちらは明久とは反対に攻撃の構えをしている。

 

 対となる構えをとる二人を中心に殺気が急速に張りつめ、周囲を満たしていく。

 

 そよ風により主の木からはぐれた木の葉が一枚――その中心に軽やかに舞い降り、そしてふわりと地面に着地する。

 

 そんな些細な事が契機となったのか、瞬間、リィゾが砕くように地面を蹴り明久に肉薄すし漆黒の剣を振り抜いた。

 

 

 

――――――

 

 

「ただいま」

 

 久しぶりに千年城にやって来た明久は、その外壁から庭園、雰囲気と何から何まで変わらぬ自分のもう一つの住まいを見て胸が温かくなるのを感じた。

 住んでいたのは一年弱。それからは旅に出て、ここに暮らすことなど無かったのではあるが、それでも明久にとってそれほど印象深い場所だったのだ。

 

「クゥン……」

「ただいま、プライミッツ。長い間会えなくてごめんね」

 

 中に入ると、瞬きする間に前には巨大な白い犬が現れ明久へと擦り寄ってくる。

 といってもただの犬では無い。その瞳には人間ならば見つめられただけで錯乱されそうな程に死の気配と殺意が渦巻いている。

 第一位のガイアの魔犬にはそれほどの神秘に近いような自然現象が秘められている。

 この魔犬は死徒の姫であるアルトルージュを除けば人どころか、人外にも懐くことなどないのだが、明久には心を許していた。

 

「プライミッツったら、ずっと寂しそうにしていたのよ」

「そんなに僕を待ってくれてたんだ。ありがと、プライミッツ」

 

 明久は柔和な微笑を浮かべて愛しそうにプライミッツを撫でていたのだが、ゾクリと背筋を撫でるような気味の悪い感覚に襲われ、それが何かを考えるより先に本能的に飛びずさった。

 すると先ほどまで明久がいた場所に凄まじい音を響かせながら着地する白い騎士一名。

 

 

 

……なんかハァハァ言ってる。

 

 

 

「おかえりぃん明久ぁ♪」

「あぁうん、ただいま。そして地獄に落ちろ、フィナ」

 

 体をくねくねさせながら出迎えてくれたフィナに明久は帰宅の挨拶&永遠の罵倒を浴びせる。

 ありったけの殺気を放っていたのだが表情は引き吊ってる辺り、余程苦手なんだろう。

 

 フィナ=ヴラド・スヴェルテンは美少年・ショタ好きな吸血鬼として有名である。

 さらに加えて同性からしか血を吸わない変態としても一目置かれている。

 

 ここで重要な事が一つ。

 吉井明久はカッコいいとも言えるような容姿は持っていないが、代わりに傍から見れば美少女にも間違われそうな女顔負けの中性的容姿を備えている。

 そんな彼が引き吊った表情を浮かべても、頭のイカれた白騎士にはそれが魅惑の笑みにしか見えないわけで

 

「それは僕を誘ってるんだね!?」

「なんでさっ!?」

「何も言わなくていい。今こそ僕と本懐を遂げよう!!」

「いやぁぁぁあああ!!??」

 

 ほら、こうなってしまう。

 堪らず助けを求めて頼りになるアルトとリィゾを見る。しかし二人は所用があったみたいでそこに姿は見えなかった。

 

……呪うぞ運命。

 

 そう明久は自分の不幸値を嘆いたそうだ。   とにかく自分の貞操を奪われないように、干将・莫耶で身を守りながら方法を探し出す。

 

―――何もない広間。ハァハァ言ってるフィナ。鼻を鳴らして僕を見てるプライミッツ。

 

 

―――何もない広間。鼻穴を大きくしてるフィナ。お座りして僕を見てるプライミッツ。

 

 

―――何もない広間。両腕を広げ始めたフィナ。愛らしい顔で僕を見つめるプライミッツ。

 

 

 

 

…………あ。

 

 

 

 

「(フィナを)殺れ、プライミッツ」

「ガウッ!!」

「グボォア!?」

 

 何で気づかなかったんだろう。

 明久は良くやったとプライミッツを撫でながら深くため息をついた。

 

「む、その双剣と戦法はどこで手に入れた?明久」

 

 何時の間にいたのか、振り向いた先には僅かに目を見開いて驚きの表情を浮かべていた。

 

 ……なんか、ややこしい事になってきた。

 

「……企業秘密ってのは?」

「当然却下だ。お前の剣の師として聞き出すぞ」

「……分かったよ。一先ず先に料理作っておくからさ、それを食べている時にでも話すさ」

 

 とりあえず、夕飯……作ろう。

明久は夕飯作るべく厨房へと姿を消した。

 

 

 

 

「成る程……投影魔術、か」

 

 リィゾは上品に料理をつまみながら、そして顎に手を添えて呟く。その眉間には少し皺が寄っていた。

 隣にいるアルトも同じように難しい表情をしている。心なしか僕を睨んでいるような気がする。

 

「明久……その魔術、決して協会には見せないこと。良いわね」

「……それは分かってるよ」

「何故だ?お前が魔術を使えるってこと自体も初めて知ったのだが……まあいい。それを入れた上でも明久もその分野に関しては素人だろうに」

 

……悪かったね。

 どうせ僕は何を選んでも一流にはなれないんだから。

 その事に関しては自分が一番理解してる。

 そしてこの投影魔術についても、だ。

 

「平行世界に行ったときに、もう一人の師である人から教えてもらったんだ」

「ちょっと待ちなさい明久。あなた今、平行世界って言った?」

「…?言ったけど」

「何故強化と投影しか使えないあなたが平行世界に行けたのよ」

「え?ゼル爺から手紙届いてなかった?」

「ゼル爺から?手紙?」

「そ、手紙」

 

 そこでアルトは過去の記憶を振り返ってみた。

 しばらく探っているうちに、明久がいなくなる前日に彼の机にあった魔法使いからの手紙を映像として捉える。

 

 

『元気にしとるかアルトルージュ?出来ればアルクェイドとも仲良くやって欲しいものじゃが……もうそれは諦めたわい。そうそう、お前さんとこの明久という子供。中々に気に入ったわい。しばらくこちらで預からせてもらうから宜しく頼むぞい』

 

 

 

 

「あれかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 一瞬、千年城に姫の叫びが木霊したという。

 思わず頭を抱えているアルトルージュを他所に、リィゾは未だに目を細めて明久を睨んでいる。

 

「つまりアレか?お前は私以外の者にも師と称しているものがいて、さらにその者からも剣術を教わっていたと?」

「うん」

「ほぅ…」

 

 リィゾの目がすっと細まる。

 おや?なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。

 ここは機嫌を損ねないようにおだてないと。

 

「その人もリィゾと同じくらい尊敬してるよ」

「よし、確かめてやるから外に出ろ」

 

逆に機嫌を悪くさせてしまったみたいだ。

 

「ちなみに拒否権は?」

「無い。実を言うとお前がどれくらい強くなったかこの身で確認するのが楽しみなんでな」

 

 ニヤリ、と女性なのにゾッとする笑みを浮かべる黒騎士。

 この時明久は「あ、これ死んだな」と

 

 

 

 

 

 そしてまた撃鉄音が一つ響く。

 双方一度も引くことなく、剣戟を繰り返していた。リィゾが地を蹴り凄まじい速度で明久に魔剣を斬り込む。それを明久は滑らすように莫耶で弾き、外へと威力を霧散させる。

 元々明久には彼女の剣撃を受け止められる程の筋力を有していない。例え肉体強化していてもだ。

 故に一撃一撃をいなすように弾くしか、彼には防御する術がない。

 

「……せぃっ!」

 

 合間をぬって干将で袈裟斬りを繰り出すが、リィゾは後方に跳躍しそれを難なく避けた。

 

「自らは攻めこまず、常に守りに徹する型……それがお前の剣か」

「攻めも勿論いれるよ。だけど護りこそが僕の型なんだ」

「そうか。だが、それでは何も決定打をいれることはできないぞ」

「……あの人が教えてくれたんだ」

 

 再度繰り出された剣撃……それを双剣を交差させ受け止める。足元の地が窪み、両腕の毛細血管が破裂し、筋肉が幾度となく悲鳴を上げるが、明久は歯を食いしばって耐えきる。

 目を閉じた彼の瞳に映るは赤の騎士。

 正義の味方を志し、只一人で数多の人間を救うべく世界を、戦場を駆け抜けた男。

 最後には救った人間に裏切られ殺された救いようのない運命だったが、明久には彼が羨ましく思えた。そして瞳を開ける。

 

「僕達のようなものには『勝利』なんて一度も無くていい。ただ目の届く人達を救える力を持て……てねっ!!」

 

 渾身の力をもって、彼女の剣を弾き後ろに跳躍し莫耶を投擲する。

 そして明久自身も干将を構え、距離を詰めた。

 

「あれは……」

 

 アルトルージュはこれには見覚えがあった。

 かの召喚獣勝負の時に明久が自分へと仕掛けた剣技だからだ。だとしたらあの剣は戻ってくるはず。

 

 何時の間にか、莫耶を再度投影していた明久はリィゾの動きを双方で押さえ込んだ。

 そしてニィ…と唇を吊り上がらせる。

 後方から黒騎士の背中を刺さんと迫ってくる莫耶。それを――

 

「甘いッ!!」

 

 リィゾは更に押し込むようにして避けることもせず前に踏み出し、明久ごと押し倒す。

 行き場の失った刀はそのまま二人の上を通過し、そして姿を消した。

 

「いっ……。やっぱり勝てないや」

「いいや。確かにお前の負けだが……この勝負、私も勝った気がしない」

 

 頭を押さえている明久に、リィゾは手を差し出して起き上がらせる。

 先ほどまで剣呑に満ちていた彼女の瞳からはそれが消え、今は穏やかな色を称えていた。

 

「お前の言う師とやらは……理想を叶えられたのか?」

「ううん。…でも、もう後悔だけはしていないと思う」

「そうか。久々に剣を交えて分かった。確かにお前の剣に勝利などいらない。……いるのは守りの剣だけだとな」

 

 

 

――会ってみたいものだ。お前がそれほどまでに尊敬する師とやらを――

 

 

 

 空を仰いで呟いたリィゾの顔は、月日に照らされて本当に綺麗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リィゾに性別の設定はありませんので女性、ということにしました。
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