魔術と死徒の姫と召喚獣《凍結中》   作:那由多20

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第9話

 「ようこそ。中欧喫茶へ!」

 

 文月学園で清涼祭が開催し、各クラスが出し物で賑わっている中、Fクラスも先日決まった喫茶を開き、教室改善費のために一丸となっていた。

 何故、教室改善費が出てくるのかと言うと……飾り付けをする際、教室の清掃をしていた事によって、畳の八割が腐れ爛れていた事が発覚したからだ。

 代表である雄二は、それを見つけ次第すぐに学園長に改修の要求を伝えに行ったが、それは叶わなかった。

 学園長とて改修してやりたいのは山々だったのだが、一度決めた格差制度をそうあっさりと覆してしまっては他クラスに示しがつかないのだ。

 無論ここで引き下がるようでは、雄二は過去に神童とは称されなかっただろう。

 十八番の交渉術を巧みに駆使し、結果、清涼祭で稼いだ額を改善費に費やしてもいいと何とか許可を得られたのだ。

 

 この事を伝えることによって、クラス全員が活気づき出し、その成果あってか現在のFクラスは予想以上に客足が増えていた。

 これも彼らの努力によるお陰なのではあるが

 

 (まあ、それだけじゃないんだよな……)

 

 雄二はある一点を、ただただ苦笑しながら見つめていた。

 

 「お待たせしました、お嬢様。ご注文のスリーピングジンジャーでございます」

 「あ、ありがとう……っ」

 「只今から湯を注ぎますので、熱の冷めぬうちにお飲みいただきますよう」

 「――っっ!」

 

 そこには執事姿をした明久が、目前の客のカップに湯を注ぎ込んでいるのが見えた。

 それだけならそこまで周囲から視線を集める事は無かったであろう。

 ……そう、彼が素人であったならば。

 

 だが明久は素人などでは無かった。

 彼の紅茶を蒸す姿は――そう、洗練されていた。

 まるで何処ぞの名門貴族に属していた執事かのように、茶葉を蒸す所から湯を注ぎ込む姿までが完成された動作だったのだ。

 ここまでくれば当然だが、客をもてなす立ち振舞いも丁寧で、案の定、当の客は顔を真っ赤に染め明久の顔を見つめていた。

 

 「一体何処から修得して来たんだか…」

 「………同感。料理もだけど明久のは既に学生の域を超えている」

 「確かに……な。けどよ、これだけは分かる。あれは才能なんかじゃない。血の滲むような努力があってこその技量だな」

 

 そんな会話が交わされている事を知っているのかいないのか、次々と行をこなす明久は、一人、また一人と女性を陥落させていった。

 この様子では、姫路と島田の二名は当然黙っていないのだが、そこは悪鬼羅刹の強さを誇る雄二が目を離さなかった為、有事に至ることは無かった。

 

 その時、緋色の髪をした女性がこの教室に入ってくる。

 明久は何故かそれが誰かが気になってしまい、視線を移し

 

 (うげっ!?)

 

 心の中で盛大に悲鳴を上げ、教室の出口へ全力ダッシュ。

 当の彼女もそんな明久に気付き

 

 「何処に行くのよ? 明久」

 

 目にも止まらぬ速さで彼の襟首を掴んでいた。

 あまりにも懐かしき声に、明久は冷や汗を浮かべながら、ギギギ――と音をたてて首を向ける。

 

 「ひ、久しぶりだね……青子」

 「うん、久しぶり。――じゃないわっ!? 貴方あれから何処に消えてたのよ!」

 「は、はは……ちょっとね。(不機嫌そうな表情は相変わらずだね…)」

 

 五年前の彼女の面影がそのまんま今でも感じられたのが嬉しかったのか、つい顔を綻ばせてしまう。

 このままだと自分に危険が及ぶので、彼女と別れてからの事を、他の人には聴こえないように彼女に明かすと

 

 「あの宝石爺、本当滅茶苦茶ね……」

 「でしょう?」

 

 聞いていて頭が痛いとでも言うように、額を手で押さえはじめた。

 明久はうんうんと頷く。

 

 「明久、その人は?」

 

 そこに雄二がやって来る。

 

 「紹介するね。幼なじみの蒼崎青子……あ!フルネームで呼ばないでね。それ言うと怒っちゃうから」

 「よろしく。呼びたいなら苗字で呼んでね。フルネームで呼んだら‥‥‥‥殺すから」

 「お、おう……」  

 

 やけにフルネームを強調して自己紹介する青子の迫力に、雄二は一歩後ずさって頷く。

 と、そこで何かを感じたのか明久が横に首を傾けると、すぐ側を拳が通り抜けた。

 

 「いきなり殴りかかってくるなんて女の子のする事じゃないよ。島田さん?」

 「あんたはいつもいつも避けて…! 大人しく殴られなさいよ」

 「美波ちゃんの言う通りです!」

 

 どうして明久と島田達の会話は成立する事が無いのだろうか?

 

 「君達、自分の言ってる意味分か「明久。言うだけ無駄だ」…雄二?」

 「それよりこれから召喚大会行かないといけないだろ」

 

 召喚大会。

 それは清涼祭の名物イベントで、文月学園を世間にアピールする重要な行事である。

 雄二は学園長に改修の許可を貰ったが、それには条件があった。

 

 ―――それは召喚大会で優勝する事。

 

 ただ、この召喚大会はタッグでの戦闘なので明久に協力してもらうことになったのだ。

 無論、そうなった事情は包み隠さず話した。

 

 「そういえばそうだったね」

 

 明久は難しい顔をすると

 

 「だけどさ、雄二。そんな条件出されて何かオカシイとは思わなかったの?」

 「おかしい……だと?」

 「そ。そもそも必要最低限の設備は法律に定められてるんだし、それを学園が拒めるわけがないじゃん」

 「そういえばそうだな。 となると、何かあるのだろうが……どうせ教えちゃくれねえだろ。行こうぜ」

 「そうだね。青子も見においでよ」

 

 振り返って、島田達の明久への攻撃を一つ残らず受け止めている青子にも呼び掛ける。

 二人の首筋に手を添え、軽い魔術をかけて気絶させた彼女は

 

 「そうね。この学園の事もまだ知らないしそうさせてもらうわ」

 

 更に二人が身動きできないように縄で束縛した。

 結構な性格破綻者である。

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは召喚大会第一回戦を始めたいと思います」

 

 「頑張ろうね、律子」

 「そうだね、真由美」

 

 向こうから仲睦まじく出てきた二人は、頷き合うと召喚獣を召喚する。

 現れたのはランスとハンマーが武器の、なのに可愛らしい召喚獣。

 

 「頑張ろうね、アキちゃん」

 「殺すよ」

 「……ノリだ。本気にするな」

 

 対峙して不敵な笑みを浮かべている雄二と、不機嫌な表情を浮かべている明久。

 …早速噛み合っていなかった。

 召喚して現れたのは、薄い防具の上に青の外套を羽織った無手である明久の召喚獣と、白い改造学ランに武器が深紅の手甲である雄二の召喚獣。

 と、そこで明久が瞳を閉じ

 

 「――投影(トレース)開始(オン)

 

 使い慣れた自己暗示の詠唱を紡ぐ。

 すると召喚獣の手元が輝き、現れたのは

 

 「……弓?」

 

 そう、和洋を合成させたような……漆黒の弓だった。

 

 「武器が剣だけだなんて言ってないよ」

 「そういやお前弓も得意だったな。一年の弓道の大会で県大会優勝してたし」

 「……その後怪我して棄権したけどね」

 

 深くため息をつくと、流れるように弓を構える。

 

 「それでは始めてください!」

 

  「律子!」

   「真由美!」

 「「行くわよ!!」」

 

 開始の合図と共に、息ピッタリで突攻する二人。

 

 (うーん。息は合ってるんだけど、戦い方は素人だね……)

 

 それを明久は苦笑しながら、足下に弓を放ち動きを止めると

 

 「おらぁ!」

 

 雄二が右ストレートで片方を弾き飛ばし、一対一に戦局を持ち込んだ。

 こうなってしまえば、操作に慣れていないBクラスに勝機は少ないだろう。

 

 ハンマーと手甲。

 どちらが接近戦で有利かは、重量で振りずらいハンマーよりは軽くて的確にダメージを負わせられる手甲に決まっている。

 真由美の召喚獣は雄二の召喚獣に有効打を与えられないまま消滅した。

 

 一方明久と律子の勝負は一瞬で決着がついていた。

 

 「……フッ!!」

 「……嘘…」

 

 ふわりと地を跳躍した明久の召喚獣は弓を構え、律子の召喚獣に向けて弾丸のように連射したのだ。

 狙いは一つ一つが正確。

 腕、足、そして頭。

 そのどれもに寸分違わずに(あた)り、律子の召喚獣は光の粒子となって消滅したのだ。

 

 「勝者、Fクラス 坂本雄二 & 吉井明久ペア!!」

 

 こうして召喚大会第一回戦は幕を閉じた。

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