「では、始めましょう」部長が言った。
「はい」部員が元気に答える。
「おう」備品がつぶやく。あれ、何かがおかしい。
「時系列で整理しましょう。補足があればそのたびに」部長はPCのキーボードに両手を置いた。「まず五月三日。彼は家を出ている。午後1時。このとき部屋から持ち出しているものは、彼がいつも旅行に持っていくもの。大きめのかばんに荷物を詰め込んで、自転車で旅立った。特におかしなものを持ち出してはいなかったようだけれど」
「その後、部屋に戻ってないのか」俺は気になっていたことを聞く。「例えば荷物をとりに戻ったかどうかなんか、わからんだろ」
「被害者の父親が、連休じゅう、ずっと自宅にいたそうよ」雪ノ下が答える。我が家とはずいぶんと、大黒柱さんの就業状況が異なるようだ。「寝袋やサバイバルナイフなどは、少し変わっているものにあたるかしら。自殺願望なし、おかしな性癖なし。ウェブサイトの閲覧履歴も変わったものはなかったようね」
「友達とも、ちゃんと仲良くしてたみたい」由比ヶ浜がこちらを見る。なんですか。誰かと違って、とか言うつもりですかそうですか。
「つまり、巻き込まれたと考えるのが、やはり妥当ということね」雪ノ下が俺に視線を動かす。確認の意図だろう。必ずしもそうではないと思うが、ひとまずそう考えることに異論はない。軽くうなずくと彼女は確認作業を再開した。「それから死体が発見されるまで、誰とも連絡を取り合っていない。友人が彼に連絡をしてもそれを返していない。ただ、もともと日常的にメールのやりとりをするタイプではなかったそうね」
「普段からメールとかちゃんと返してなかったらしいよ」メールをまめに返す代表(たぶん)が補足する。「だから友達とかも、電話か学校で直接話すのが多かったって。特に休みの日は一人で旅行してるし、連絡つかないことが多かったって」
「周りにはどこに行くって言っていたんだ?」気になって確認する。
由比ヶ浜は、うん、と頷く。「また出かけるって、何人かには言っていたみたい。でもどこに行くかとかは言ってなくて、でも普段から、その日いきあたりばったりででかける子だったみたい」
「彼が発見されたのが、五月十日。家族には遅くとも5日には戻ると言っていたので、すぐに捜索願いが出されたわ。電話はつながるけれど応答なし。現場から発見された携帯電話へのメールや電話は、すべて発信者が同定されているわ」
「携帯はその場で発見されたのか? 電源もそのまま?」気になって質問すると、雪ノ下はうなずいた。
「えっと、携帯の場所って、アプリとか入れたらわかるよね? なんだっけ、GDP?」アホの子がアホな質問をする。
「GPSのことね。システム上、外部から携帯電話を操作する機種ではなかったらしいわ。最近は、廉価で機能が制限されたものが流通しているから」
「レンカ? 恋愛の歌のこと?」
「そっちのほうが使用頻度低いだろ。どんだけスイーツ脳なんだよ」
「すいーつのう? とりあえずなんかバカにされてる!?」
「由比ヶ浜さん、廉価というのは価格が安いことよ。比企谷君、自分に縁がない言葉だからと言って使用頻度が低いとは限らないわ」部長はため息をつきながら、バカとアホのおもりをする。どうもお世話になりますね(笑)。いつもありがとうございます(笑)。「発見された場所は千葉県A市の山林。簡単にいえば打ち捨てられた一軒家」
「結局、その家の中がどんな感じだったのか、よく知らないんだよね。いろいろ噂はされてるけど、どれがほんとなのかわからないし」由比ヶ浜は眉をひそめる。気持ちのいい話ではない。
「では、それを整理しましょう」無表情で雪ノ下は続ける。