ダンガンロンパ If Heart Compasses 作:ミュウト
※以下のキャラは募集に応じて下さったユーザー様となります。
香西&戸遠田:雪光ジャックさん、牧苗&ジャスミン:天竜さん、ロベリア:甘夏みかんさん、持月:ガーネットさん
※細かなキャラ紹介については、後日掲載となります。
Prologue 『夢現のトビラ』 Part.1
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
希望と、絶望。
その概念は、決して分かり合えない二つの因子。
かつて、一人の冴えない少年が
生き残りと共に“希望”を打ち付け――
黒幕を、“絶望”を拡散していく目的を……
打ち崩したと聞かされている。
でも、本当にそうだろうか?
内なる意志に眠る、もう一つの因子“心の力”。
目には見えなくても、血の繋がりは確かにあったんだ。
例え、その因子によって引き裂かれるにしても。
僕は――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
絶望と、希望。
その概念は、永遠に相反し合う二つの因子。
かつて、一人の天災的美少女が
この世の“希望”を無に帰す為に“絶望”を提唱し――
世界に、一人の冴えない少年により否定され……
打ち崩されて消散したと聞かされている。
果たして、本当にそうだと云えるのか?
“心の力”、目に見えぬどちらにも属しない不思議な因子。
血の繋がりも、絆も越えて、その力は自身の限界を超えていくもの。
その因子によって、例え自身が破滅の道を辿るとしても。
私は――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
誰かの怒号が聞こえる。それも、かなり切羽詰った様子で。
「走れ、兎に角走れ! アイツらが来る前に!!」
「わ、分かってるって!」
人類史上最大最悪の絶望的事件。――2年前に起こった、あの忌まわしい事件の影響により、現世に暮らしている多くの希望が蝕まれてきた。詳細は未だに分かっておらず、復興作業も停滞したままだ。
街中では白黒半々のマスクを被った人たちが屯していて、今も見受けた一般人を区別なく襲い掛かっているようだ。
外壁にひび割れのある建物は依然そのままとなっている。マクジョナサンと描かれているフード店も、全くと云って良い程機能を果たしていない。
「はぁ、はぁっ…!」
無力な一般人たちの悲鳴が響き渡る中、僕はスマートフォンを手に一心不乱に走り続ける。
この状況から打開策を求めるにしても、一度立ち止まれば“反絶望因子”の者として暴徒による人間狩りの対象となってしまう。
「家から学校に通うだけでも、これ程命がけとは……!」
目指すは希望ヶ峰に向けて出発するバスのある合流地点。
家族は海外に行っている為安否も便りすらも見受けない、全ては到着するまで一人で何とかしなくちゃだ。
どうしようもなく荒れ果てた外観に悪態を付きたい気持ちを抑えつつ、僕は地図アプリを確認しながら走り出す。
そうだ、自己紹介が遅れてしまった。
僕の名は、舞凪琴絵。希望ヶ峰学園の本校で勉強していた、選ばれし生徒の一人だ。
自慢ではないが、代々ダンサー一族による舞踊経験と、自我流ながらの軽い身のこなしによるリズム刻み。更に咄嗟の空気対処――アドリブ適応力によって舞台を完遂に持ち込めた能力を、希望ヶ峰学園長から直々のオファーにより、臨時で入学を果たす事が出来た“ある意味幸運”と云っても差支えないはず。
才能には努力と元よりの天才の二つから開花すると聞いているが、僕はどちらかというと前者の方の――
「わっと! あっぶなぁ……!」
思考を遮るかのように、仕事に行くと思われる自家用車が強いブレーキ音を出しながら電柱にぶつかったようだ。どうやら、先程の暴徒による妨害攻撃に巻き込まれたとみて間違いなさそうだ。
ひどく衝突したのか車のボディは悲惨な鉄屑へと変貌してしまっている。しかしその前に、油断していればその故障車からの破片に僕も巻き込まれていたかも分からない。
危険を回避できた事に安堵するように額の汗をぬぐい、中にいる運転手の無事を祈りながら、僕は走りを再開させる。
それから5分程走った時、唐突に道は開け始めた。バス停のある広場、ようやくたどり着けたらしい。
「こっちよ!」
時刻表に書かれているバス停の当たりに、送迎バスが留まっているのが見えた。
バスの自動ドアの前に、女性の教職員が手を振って僕を出迎えている。この人の事は、僕も良く知っている。
「佐之宮先生!」
「兎に角、バスに乗って!」
先生こと、佐之宮ルチア先生――本校においても僕のクラスの担任をしてくれている、頼りになるお姉さんのような存在だ。
このまま外にいた所で、いつ危険がまた襲ってくるかは分かったものではない。飛び乗るようにして、僕はバスの自動ドアまで勢いよく突進していった。
――――――――
「よ、琴絵! 主役は遅れて登場ってか?」
「遅いよ、舞凪」
「無事でよかった、琴絵くん!」
送迎バスの中には、先生の他に既に乗り込んでいた人――クラスメイトを何人か見掛けた。その数、16名。
それぞれが興味本位で僕をじっと見ている。中には顔だけチラリと見てすぐにそっぽを向く者もいたが。
「舞凪くん! 大丈夫ですか、ここに来るまでに何もありませんでしたか!?」
中でも、頭に黄緑色のバンダナを被った制服の上にエプロンを付けている女の子から過剰なほど心配された。
僕は苦笑いしつつも、一言「大丈夫だよ、何も起こらなかったよ」と彼女を落ち着かせる。
「ふふふ、人気者ねぇ。――あの子ね、ずっとあなたがケガしてないかって、祈るように心配してたのよ」
「はい。えぇ、それはどうも……」
『ちょっと、冷やかすのも大概にしといたら?』
先生はくすくすと笑いを浮かべながら、僕が到着するまでの事情を軽く話してくれる。
と、先生の左肩から凛とした鈴のような声が。
『枢さんの顔が真っ赤ですわよ、ルチア。その位でやめときなさいな』
「あらあら、悪かったわねカエコ」
その声の主は、緑と白の皮膚を持ったカエル…?
いや、先生御付きの助手ロボットこと、“カエコ”先生だ。
過去に、見た目を本物のカエルとどこぞの軍曹とを準えて先生が造ったのか、オタマジャクシの様なしっぽが特徴付けられている。
「……感動の再会に浸るのも良いですが、一先ずは走らせませんか」
「アイツらが来ちゃうでやんすよ!」
「えぇそうね、了解よ」
『もう…… あら、ごめんなさいね。置いてけぼりにしちゃって――舞凪くんは一番最後の席に座って頂戴な』
「あ、はい!」
その後、なし崩しに僕の待ち席となる場所は決められる事となった。
佐之宮先生の話によると、茶髪に真ん中が雪ウサギのように白く掛かっている、タンクトップと革鎧を着た少女と、水色の髪に水兵服と帽子を被った少年の間の席に、との事。
中学生と思わせる子達と待ってるのを少し恥じらいを感じたが、皆を待たせている手前、やり直しをせがむ事は出来なかった。
僕は、そっとバスの最後尾席に向かって歩き出す。
道中は幸いと云うべきか、特に信号に行き当たることなく順調に進んでいた。
バス自体はそう広くはないものの、座席のシートがフカフカしてるのもあり、到着するまでの居心地良さは十分である。
「あの、真ん中大丈夫……かな?」
最初は戸惑われてしまうかと心配していたが、それは杞憂に終わり、二人の男女クラスメートとすぐに仲良くなれた。
「えへへ……一緒の席で嬉しいな、琴絵くん!」
「ボクっちこそ、今日はよろしくなのだー!」
……見た目は中学生でも、実は同じクラスメートである事には驚いたけどね。
とは言っても、ただ待ってるだけでは暇になってしまうのは否めない。
気持ち前に体を伸ばしながら、僕は皆の様子並びに他愛話を伺ってみる。
「ねぇねぇ、そこのおねーちゃん?」
「は、アタシの事かい?」
「待ってる間、お腹でも空かないかーい。バスに乗る前に買ってきたチップスとコラコーラ、どう?」
「良いでやんす、ナンパなら間に合ってるし……」
「のども渇いてないというなら、せめて皮膚に純度を持たせてあげようじゃないのー。もちろんオレちゃんのサービスで♪」
「てか、寄るんじゃない! さり気なく近づくなこの変態!」
最前方左の席には、飲み物を進める序でにボディタッチを計ろうとする茶髪の白半袖シャツの青年と、それを力ずくで止めようとする琵琶を持った白と灰色の髪の振袖少女がいて。
「えっと、わたちの教科書と医療道具でちょ、キャンディーでちょ…… あと、それから……」
「……バスに乗る時くらい、きちんと道具を整理しといて下さいよ。貴様のリュック漁りの雑音、耳に付いて仕方ないのですが」
「あ、改めてリュックの中身を確認してたんでちゅ! あなたは緊張しまちぇんか、本校から分校への御引っ越し……」
「別に。ただ勉強する環境が変わるだけ、それだけの事です――聞いた俺がバカでした」
「そんな蔑まなくても良いじゃないでちゅかぁ! うぅ、何だか胸が痛いでちゅ……」
「…………」
二番目前方右の席では、リュックの中身を確認してるであろう白髪の橙フードパーカーを着た少女が、茶髪をオールバックにしている白シャツの少年に厭味を叩かれており。
「しかしまぁ、随分と陰惨な世の中になったもんだねぇ」
「あぁ…… “人類史上最大最悪の絶望的事件”が起きなけりゃ、オレたちも今まで通り本校で勉強してたはずだがよ」
「あらかじめ先生たちが避難場所を指定してくれたのもあって、俺たち皆が生き長らえてる訳か。希望ヶ峰の先生様様、見捨てる先生無しってね」
「何だよそれ……ま、そりゃそーだ。今こうして穏やかにバスに乗ってられるのも、ルチア先生たちのおかげだな」
「一期一会、人の輪合って鬼はなし。――犠牲になった生徒たちのも、頑張っていかなきゃな」
「……唐突にマジになるんじゃねーよ、お前」
最前方右の席に腰かけている、灰色のチョッキを着た赤茶髪の青年と、狼に似た金髪のスーツを着ている美男子が現在の環境を深刻に語り。
「あの、写真落としましたよ?」
「……謝謝。それ、メイの、家族写真。拾って、くれて――感謝」
「家族、ですか。わたしにも、両親を残して分校に行くの少し不安でしたけど…… でも、誇りを持たなくては、ですね」
「誰だって、不安は、ある……。ニィも、幸運を」
「……えぇ、そうですね」
「…………」
三番目前方左の席で、写真を拾ってにこやかに手渡し、家族談義と持ち掛けている先程のバンダナの女の子と、花飾りを付けた灰色の髪のスレンダーな女性――中国語を話している当たり、国籍が中国のクラスメートなのだろうか。
「ねぇ。分校に着いたらまずは何処を探検しようって……もう考えたの?」
「私はもちろん、音楽室の場所を知ってそれからかなぁ。知らない楽器がいっぱい揃ってるの、早く見てみたいよ!」
「ははは… 君らしいね。ぼくは、図書室があったら真っ先に突撃したい……かな」
「鳥図鑑探し――でしょ? そうでなくても、あなたのリュック羽根がいっぱい付いてるもんねぇ」
「本の虫、て訳でも無いけど、ね。皆は、どの教室に興味…ある、かな」
「それは後で皆に聞いてみないと、かな? 私以外にも、音楽好きがいると良いけどなぁ……」
二番目前方左の席に着いている、紺色の髪をしたロングTシャツとメガネを掛けた男の子と、赤茶髪のロングヘアーにシャープとフラットの髪飾りを左右に付けた少女が分校に着いた時の打ち合わせをしていたり。
「あんた、よく窓の景色眺めてられるね。前から言おうとは思ってたけど」
「別に……バスの中、暇をつぶせる才能なんて私には無いから」
「良く言うわ。あたしからしたら、謙遜にしても性質の悪い冗談にしか聞こえないよ」
「何せ事実だから、仕方ないでしょ。そういや、貴方の持ってるそのカードって……」
「あんたのバッグから落ちてたわよ。確か、“運命の輪”だったかしら――それより、陰気くさいのもなんだから、スピードでもしない?」
「……改めて、ありがとう。もちろん、付き合う」
三番目前方右の席では、明るい茶髪をポニーテールにしたセーラー服の少女がタロットカードを拾い、もう一人の薄紫色の髪を左上にまとめたフードパーカーを着込んでいる少女に手渡してカードゲームを申し込み。
「外、ビジョン、すゴく赤い……」
「本当でございますね。実に目の保養とは言い難い……あの事件が無ければ、今頃は――」
「でも、ワタシ達のクラス、オール無事。過去よリも……ミンナと今を、楽しミタいヨ!」
「君は、怖くはないのですか? 今まで親しんでいた本校とは、恐らく環境も違うと思いますが……」
「ホンコウとブンコウ、きっと無イ、大差! ワタシ、信じル!」
「……そう、暗くなってる場合ではないですね。私も、気持ちを明るく持たなくては。今は無事に、分校に辿り着ける事を、祈るばかりです」
運転席の近くでは、薄茶色のくせっ毛のある黒のロングコートを着た青年と、肩まで届く赤髪の灰色混じりの緑ジャケットを着た少女が、吊革につかまりながら外の窓を見つつ目的地到着に備えていた。
「希望ヶ峰の分校かぁ……一体どんな所だろ」
「本校ほど華やかじゃないけど、学園生活を送れるのに不十分は無いって聞いてたよ?」
「へぇ、それじゃあ体育館とかも心配はなさそうだね。到着したら、一番先にボクが探検してみたいよ!」
「ボクっちも――いや、皆だってお互いにそう思ってんじゃないかな? 楽しみなのは全員共通、なのだー!」
「御最も、だね! あー、待ち遠しいなぁー」
「ははは、僕もだよ。それより、このバスは一体どこの道進んでるんだろう?」
『さぁ、国道を走ってるのは間違いないでしゅけど……』
「今のはペネロペちゃんだね? まぁ、深くは考えない方が良いんじゃない? まだこれからなんだしー」
一通り大体の話を小さく聞き終えた所で、僕は座り直すなり鞘に納めている剣とハムスターのぬいぐるみを持つ白雑じり(本人曰くメッシュとの事)の茶髪の女の子と、水兵帽を被っている男の子の話に入り込む。
期待と不安に満ちた時間ながら、皆はそれ程窮屈にも感じていないようだ。僕たちは座席に腰かけながら、バスが分校に辿り着くのを待っていた。
「変ね。この静けさは……」
どれ程時間が経ったのだろう。スマートフォンを見る当たりだと、おおよそ40分程過ぎた頃だろうか。
揺れるバスの中で、佐之宮先生がふと感じる違和感に疑問を抱く。
「カエコ、道は合ってるのは間違いないわね? だったらどうして……?」
『予定通りに進んでると云えば聞こえは良いけど、ちょっとばかし上手く行きすぎてる気がしない?』
「えぇ、信号も青のまま、一度も止まっていないのは確かね。それに私たちのバスに寄り付く悪党たちも見かけない……」
『まるで、このバス自体を伏兵に当てるような――さすがに気にし過ぎですわねぇ』
「伏兵……?」
しばし腕組みをして考え込む先生。
「ッ! マズいわ! 皆、伏せなさい!!」
一人と一匹の話から一転、ふっと悪い予感を察知して飛び出すかのように、叫び声を上げて注意を促す佐之宮先生。
と同時にバスがいきなり急停止し、僕たちは慣性の法則に従う羽目になりつんのめってしまう。
「わっ、何だ!?」
「いったたたぁ……頭ぶつけたよぉ……」
「急にブレーキ掛けないで欲しいのだぁ……」
「何なんですか。急に停車とは、穏やかではないですね」
「もうちょっと丁寧に止めて欲しいもんでちゅよ……」
「あ、トランプがバレちゃったよ!」
「せっかく良い雰囲気だったのに……打ち止めにしないで欲しいものね」
何人かが痛みに声を上げている。一方は涙をこらえて頭をさすり、もう一方は顔をしかめて運転席にしかと睨みつけている。
「いってて…… わわっ、ご、ごめん!! その……わざとじゃ、なくて……」
「あぁこちらこそごめんね! あなたこそ、ケガはしてない?」
「おっとと。ごめんよラッキータッチと来たもんで」
「謝る位ならさっさと腕をどかしな、下心まる見えなんすよ!?」
一部、事故による覆いかぶさる形となった席組みの男女達もいるが、それは置いといて――
「ったく、こちらの都合はお構いなしかよ――運転手さんよ?」
灰チョッキの青年が訝しげに、車を急停止させた運転手に難癖をぶつけると、その人はこちらを振り向くなりニタリと眉を吊り上げる。
「運転手? って、あなたも!?」
「ふふふ…… 佐之宮先生、気付くの遅すぎですよ」
顔を青白くして運転手の方に振り向く佐之宮先生。
運転手は腕時計を確認しながら指を鳴らすと、突然運転席側の扉から白黒マスクの暴徒たちが乗り込んできた。
『あ、アンタ達は!!』
「ワタシ達ハ、《絶望》ノ使徒。オマエ達ヲ、迎エニ来タ」
カエコ先生の問いに、その暴徒たちの代表が答えを返す。感情の無い淡々とした声で。
「“絶望”……ッ!!」
トランプ拾いに専念していたフードパーカーの少女が、暴徒たちにはっきりとした怒りを見せる。拳を握りつつ、でもカードは潰さないように加減しながら。
「“絶望学園”、ト云エバ…… 分カリマスネ?」
女性と思わしき声で、やはり淡々と語る暴徒の一人。運転手もいつの間にか白黒マスクを被って次の行動に移ろうとしている。
バスの中に、重厚な緊張感が包み込む。同時に、双方とも沈黙。
「い、いやあぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと……! 嫌だ、こっちに来ないでよ!!」
「不行! 救命!!」
先に沈黙を破ったのは、僕達クラスメートの方だった。
突然の不慮の事態には慣れておらず、皆の表情が恐怖へと支配されていくのが分かる。僕とて、迂闊に動く事ができない。いや、動けなかったのだ……
「このぉ……! 皆を、いじめるなぁ!!」
『待って、気持ちは分かるけど今は堪えなさい。犯人は多人数よ、とても太刀打ちできる相手じゃないわ!』
白混じりの茶髪の女の子は、勇敢にも暴徒たちの前に出て剣を引き抜こうとする。と、カエコ先生がバタバタと手を広げながら彼女に制止を促す。
状況を見て諦めざるを得ないと判断したのか、女の子は顔を伏せつつも剣の柄から手を放した。
「皆、後ろの方に避難扉があるわ、そこから脱出しなさい!」
暴徒たちとにらみ合いをしながらも、バスの中を目をしきりに動かし、そして冷静に指示を出す先生。
「先生!!」
「私なら平気よ、心配しなさんなってね」
僕にそう言葉を返し、先生はカーディガンの内ポケットから小型の銃器を取り出した。器用に指先で回しながら、暴徒に銃先を突き付けて。
「あなた達を先に脱出させる――それが、私の、担任としての責任だからッ!!」
「任務、開始」
佐之宮先生は、先程の女の子が腰かけていた所から脱出口として外に出られると、ウィンクしながらそう言い切った。
暴徒たちは手に武器を取り、クラスメートたちを捕まえようと間合いを詰めながら動き出す。そして戦いは唐突に幕を開ける。
佐之宮先生と謎の誘拐集団との攻防が続く中、僕たちは最後尾の避難扉から外に一旦出る事となった。
数と個では後者に勝るものがあるのか、先生の華麗なる射撃により、暴徒たちは次々と撃ち抜かれ倒されていく。残った暴徒たちも想定外の戦士にまごついている様子。
クラスメートは落し物がない事を確認した上で、シートベルトを外し我先にと最後尾に集まっていく。誰もが、無事に脱出できる!
「……きゃあぁっ!」
「命苫さん!! 今、助け――あぁっ!?」
いざ脱出と思った瞬間、リュックを背負った橙のフードパーカーの少女が段差につまづいて転倒してしまった。
クラスメイトに危機が迫ったとみるや先生がその少女に手を伸ばす――と一寸の隙を突かれて暴徒による武器のみね打ちを受け倒されてしまう。
「邪魔ヲスルナ…… 抵抗スレバ、命ノ保証出来ナイ」
低く無機質な声が響き、倒れたその少女を抱えて警告を発する暴徒代表。
僕たちは、その場で硬直してしまった。何とか、動きを作りたいのに、体が言う事を聞かなかった。
「くうぅっ……」
「先生ッ! 佐之宮先生ッ!!」
『ルチア!! しっかりして、ルチア!!』
うつ伏せに倒れ弱々しく呻く佐之宮先生をカエコ先生が呼び起こす中、暴徒たちは何を思ったのか、左手に灰色のボールを持ち換える。
「ウプププ…… ウプププププ……」
そして、僕たちの足元にそのボールを投げ付けた。小さく爆発音を発したかと思うと、白く無味無臭の煙がバスの中に充満していく。
「な、煙玉かよ!? こんな煙――くそ、力が…抜けて…く……」
灰のチョッキを着た青年が必死に振り払おうとするも、その煙の効果にまかれて意識が朦朧となり、次第に膝から崩れ落ちていく。
僕を始めとした他のクラスメイト達も、煙を吸い込むまいとするも――
「うぅっ…… こんな、所で……」
「お父さん、お母…さ……」
「ダメ…… 何だか、眠くなってきた……」
「ボク達…… どうなっ……ちゃう…の……?」
「油断、しすぎも…… 良い所…です…よ……」
「イや…だ…ヨ…… ワタ…シ……マだ……」
息が切れて少しでも吸い込もうとしたのが運の尽き。強烈な眠気と共に意識を常闇に持って行かれてしまう。
充満した煙の正体――睡眠ガスと気が付くのは、残念ながら僕も含めたクラスメイト達が力尽きてしまった頃だった……
「皆は、生きて…… 絶対に、望みを、捨てちゃダメよ……」
『皆、寝ちゃダメよ、しっかりしてよ……! ねぇ、みんなぁー……!!』
薄れゆく意識の中、僕は、佐之宮先生が、カエコ先生が…… 皆に、必死に呼びかけるのを聞いていた。
「あなた達は、そのままのあなたでいて――」
『起きてえぇぇぇー……――』
そして、反響する声をよそに…… 僕の意識は、途切れていった。