転生した者は喜びの声を上げ   作:ガビアル

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おじいさまも喜びの声を上げ

 安直、だったのだろう。

 魂を壊せば逃げられると思っていた。

 そんなもので、そんな手段で、そんな理解で、逃れられるはずがなかった。

 それでも私はもう私でいたくなくて、一刻も早く自分から逃れたくて。

 親を殺し、友を殺し、隣人を殺し、殺し、殺し、殺し尽くした、愉悦のために、ただそれだけのために死ぬより辛い目に合わせ、魂を陵辱してのけた私から逃げたくて──

 

 逃げられなかった。

 魂を壊し、霧散させるはずの第七聖典。そんなモノでは死ねなかった。

 

 白亜の神殿がある。

 空気は人にとって害にすらなるほど清浄、あの世界の基準で言うなれば事象の果て、あるいは根源、それとも『外』の世界だろうか。魔術師ならば狂い死ぬ程求める場所かもしれない。あるいは案外、ただの異界という扱いか。どちらにしてもどうでもいい。私には興味も、意味もない。私のような何でもないただ一人の凡人には両手で掴める程度の世界で良い、ただそれだけで良かったのに。

 純白の視界に、いつしか女性の姿があった。

 いつか見た女性、美しく、凛々しい。そして今ならば解る。決して見てはならない存在だったのだと。その神々しさに人は耐えられない。耐えられるはずがない。神を少しでも理解してしまえば人の身は人の身たり得ない。

 

「我が祝福を拒絶するか」

 

 玲瓏とした声が響く。温度を伴わない、聞いただけで全ての存在が凍り付くかのような声。

 

「なれば」

 

 女神は微笑んだ、微笑みかけていた。恐怖という感情さえ悲鳴を上げて消え去りそうな微笑み。そして何かを言うと同時に私の視界は暗く、黒く──

 

   ◇

 

 ぎちぎちと音がする。きいきいと声がする。

 腹の底から、口の中から、骨髄の中から、血管の中から。脳髄に弾ける痛み、痙攣する胃から逆流する胃液が蟲に堰きとめられ、喉を焼く。神経があまりに交錯する信号に耐えきれず弾け飛ぶ、心臓が機能不全を起こして止まり、それを這いずる蟲が無理やり機能させる。急に血が流れだし、食いちぎられた肌から血がしぶいた。魔術回路が苦しく呻き、開き、書き換えられていく、置き換えられていく。ゆっくりと。

 

「急に大人しゅうなりおったのう、あれほど泣き喚いておったというのに。気を失えるようになどしとらんはずじゃが、のう茜や」

 

 人型の蟲が笑う。呵々と。呵々と。

 ああ、思い出した。思い出してしまった。

 蟲倉に入れられてちょっと早めな経験のショックで思い出すなんて。もっと捻った理由でもあれば良かったのに。なんて普通で、当たり前な思い出し方だろう。平凡さを一歩たりとも踏み出していない。何て私らしい。

 

「この子は葵……君への感謝も込め、対となる名、茜としたい」

 

 そんな、お父様、昨日までそう呼んでいた人の言葉も思い出した。母の胸の中で聞いた言葉。

 葵という言葉の源は下(あ)ふから来ている、対照的に茜は上(あ)ぐ。葵が合い、協調し、理想の伴侶であるなら、茜は正方向に優れ、勝り、至る。そんな話もしていたっけ。体を労るように言い、父が病室を出た後、母は小さく溜息をついて、それでも嬉しそうに、肝心な所でデリカシーが足りないわね。などと言っていたものだった。

 

「この子は……何という事だ。よもや三人目までとは……禅城の血と我が家の血はこれほどに相性が良いと言うのか」

 

 からりと宝石が落ちる。幼い私は父の様子がただおかしくなった事が心配で、何となく不安になって、父の服の裾を掴んだものだった。そんな私の頭に手を置き、ゆっくり撫で、言った。

 

「属性は水、それは取り立てて変わったものではない。しかしこの大海を思わせる程の魔術回路、大成すればいかなるものになろうか。惜しい、桜も、茜も……凡俗に落とすには余りに惜しい」

 

 そしてしゃがみ、ベッドで寝ている私と視線を合わせて微笑む。

 

「この父もよくよく考えてみよう。茜、君の未来を潰す事の無いようにな」

 

 人の幸福ではなく魔術師としての幸福を願った父、その思いがどんな事をもたらすものか、小さい私はまったく解らずに、ただ微笑んだ父がうれしくて、きゃっきゃと笑っていたのだった。

 

 間桐の家に養子に出す、なんて言われた時はどうだっただろうか、きょとんとして聞いていた覚えがある。何しろ子供だ、養子の意味すら判らないのだから。

 三人でリボンを交換、私が作ったものを一つ上の姉に、一番上の姉が作ったリボンを私に。

 いつもと違う洋館に連れて行かれ、今日からこの家の子だよと言われる。泣いたかもしれないが、それ以上によく意味が判らず、ぽかんとしていたかもしれない。

 そしてどこか怖いお爺さんに連れられ、地下の一室へ。

 

「茜よ、ちいと痛いが間桐の者となるためじゃ、我慢するのじゃぞ」

 

 そう微笑みながら言うお爺さんに、私はやはりわけが判らないながらも、こくりと頷いていた気がした。

 

 諦念と疲れた精神の中、苦痛に身を任せる。肉を潰し、魂まで陵辱するこのたぐいの痛みはよく味わった、ある意味親しんだものだった。聖堂教会で殺され続けた時だったろうか。概念武装での魂の昇華、あらゆる摂理を撃ち込まれ、あらゆる異端殺しの道具を使われたものだ。

 無論苦痛に慣れたなんて言えない、ただ、この蟲の翁を喜ばせる反応をするのを止めただけだ。

 骨がかりかりと蟲に囓られ、肉の一筋一筋に絡みつく。掻痒感、狂う寸前の痛み、もう少しで狂ってしまう、その一線の一歩手前を行く手腕は大したもの。

 神経を弄られれば体は反応する、電気を当てられた蛙のようにビクビクと跳ね、失禁し、表情筋が歪められた。それでも頑なに声は上げない。

 

「ぬう……ここまでしても音を上げぬか」

 

 魔術の調練であるべきが、間桐の翁はどうやら苛立ちを募らせているようだ。

 否、初日なのだからこれはきっと体を少々馴染ませ検査する程度に考えていたのだろう。魔術回路を探っている様子があった。魔術の調練などとはとても言えない。しかしそれでも、この五百年を生きたはずの老魔術師を苛立たせたのにはちょっとした暗い喜び、やりこめたような感情を覚える。

 だからだろう、私も、そしてこの魔術師も、私の肉体の限界を考えるのを忘れてしまっていた。

 

「……さか、初日で命を奪ってしまうとは思ってもおらなんだわ。尤も、ここまで精神が頑強であればむしろ肉体のみの方が──む、何と、何とな、蘇生しおったか」

 

 時が千切れた感覚。世界が異常と判断し、体を再生させてゆく。真祖の復元呪詛じみた有り得ぬ不死。これもまた以前の私が慣れ親しんだ感覚。そしてこの現象が起こるという意味、それを考え、理解し、理解してしまい──私は笑いの衝動が腹の底より湧くのを感じた。

 

「ぐ、く、ぶ、ふ、あ、ははぁ」

 

 蟲に口内も陵辱されたままだ、当たり前には笑えない。それでも笑った。痛みで出たものとは違う涙を流しながら。

 こんな事になるなんて、有り得るとすればそれは魂のラベルが未だにロアのものだということ、そして同一の存在が滅びていないという事。平行世界という単語が頭をかすめる。ならばシエルさんもいるのだろう、もしロアがまだ滅ぼされていないとしたら三重に同じ名前の魂がある、いとも珍しい三つ子という事になる。成長したのは何故だろう、魂に肉体は引きよせられるはず。通常の赤子として生まれた事でさらなる矛盾を抱えた存在にでもなってしまっているのだろうか。

 笑いが止まらない。

 

「ぬう……これはどうしたことか」

 

 ミュリエルという私、あれだけの被害を出して、殺しに殺して、それでも一人だけは確実に、不幸にはならなかったと思っていた存在が居たのだ。それはロアを滅ぼす、その時までのただ一つの拠り所だった。おこがましくて到底口には出せないけれども、あの世界ではシエルさんはおらず、ただのエレイシア。普通に生きて、美味しいパンを焼いている看板娘だった。

 そんな、たった一つだけ得たと思っていた事。

 

 無かった事にされた。

 

「い、ひひ、は、ぎ」

 

 力の入らぬ体を震わせ笑っていると、何かが体に注ぎ込まれ、急速に意識が薄らいできた。毒か、麻酔か。今はかえって、ありがたい。

 

   ◇

 

 気がつけば、ベッドに寝かされていた。見慣れない布団、清潔だが温もりのない病院で使うようなシーツ。薄暗い部屋にはカーテンの隙間から夕日が差し、ほとんど物が置いていない、片付けられたばかりと見える部屋を照らしている。

 私が遠坂に生まれ間桐に入れられたのは何でだろう。案外、因果律でも裏返ったのだろうか。メドゥーサが呼ばれるからこそ私がこの位置に収まった、なんてところかもしれない。アテネの怒りを買った事といい、蛇の繋がりといい、あまりに似たもの同士に過ぎる。

 そういえばメドゥーサを蛇に変えただけでは飽きたらず、ペルセウスに加護を与えて首を取ったのだったか。アテネの盾であるアイギスにはメドゥーサの首がはめ込まれているなんてお話だったはず。

 

「は、あはは」

 

 知恵と戦の女神は念入りだ。二度三度と呪いがかかってきてもおかしくはない。

 あるいはそこまで興味もなく、適当に放り投げたら縁を辿ってこう生まれたのかもしれないけども。

 笑ってしまう。本当に笑ってしまう。いろいろこそげ落ちたあげく、笑うしかなくなってしまった。

 

「どうすれば真っ当に死ねるのかな」

 

 記憶もぼんやりだけど何となく覚えている。大聖杯にこの世すべての悪なんてものを背負ったアンリマユが居るんだっけ。

 ああ、一つ思い出した。

 殺すという方向性にならそれなりに聖杯も使えるのだった。

 

「願うだけ願ってみようか」

 

 世界に孔を開ける程度の奇跡や神秘では届かない。そんな事も思いながら、口に出すだけは出してみた。

 

 夜になると、疲れた目をした男性が食事を部屋に持ってきてくれた。味はよく判らない。もそもそと食べ終えると、無言で待っていたらしいその人は、躊躇うように口を開いた。

 

「間桐鶴野、この家の家主で一応の当主だ。動けるようならついてきなさい。邸のどこに何があるかを案内する」

 

 私は頷き、ベッドから身を下ろした。体の調子は悪くない、蟲が体に入れられている違和感はあるが動くのに支障はないようだ。そんな私の事を鶴野さんがどこか驚いた顔で見る。二秒遅れで気付いた。そういえば普通の子供は、いや、思い出す前の私ならきっと蟲倉での経験なんてしたら自失状態か、怯えに怯えている頃だ、すっかり忘れていた。今の私の精神はどういう状態なのだろう、記憶に影響されているとはいえ、そこだけは元の遠坂茜だった存在の持っていたモノのはず。泣き虫で、一番上の姉にからかわれ、よく一つ上の姉に泣きついていた。到底強いとは思えない精神。

 

「何をぼうっとしているんだ」

 

 考え込んでしまったらしい、空の食器を持ってキッチンに行く鶴野さんの後を追った。

 

   ◇

 

 一ヶ月が過ぎた。私はマキリの魔術に合うように体を作り替えられている。

 何度か私を殺し、蘇生の様子を確かめた後、間桐臓硯は喜悦の笑みを浮かべて言った。

 

「最高の素材よ、魂が矛盾存在とは、なるほどこれは死なぬ訳よ、矛盾せぬが故に腐れるワシとは違うモノとなっておる、なにゆえこのような事になっておるのか。しかしなるほど、これは良い。これは良い掘り出し物じゃ、望外のモノを引き当てたわ」

 

 そしてぐちゃりと、私をまた少し壊して笑う。くつくつと。きしきしと。

 

「これなら余程の無茶も出来ようなあ」

 

 一週間に一度、一時間だけ蟲倉の外に出ることを許されている。一ヶ月という時間の経過が判ったのはその為だった。鶴野さんは最初はどこか私に対する申し訳のなさを含めたような目をしていたが、変わってくる私の姿を見て、段々それは化け物か汚物を見るような目になってきた。

 無理もないと思う。

 人間は寝ないで三十日を過ごせない。

 休みなく蟲に全身を浸されながら気が触れずになどいられない。

 水と蟲だけで命は繋げない。

 記録者が居たからこそ判った事だったが、精神が壊れてしまった事も何度かあったらしい。ただし、それも世界は矛盾と見なすようで、寸前の状態に巻き戻されるようだった。

 魔術の属性が水なだけに同属性のマキリの業が馴染むのは思ったより早かったらしい。今では髪の色も、目の色もすっかり変わり、肌の色すらより白くなっている。

 おねえさんは元気だろうか。

 私が泣かされると決まって頭を抱いて優しくさすってくれたおねえさん。

 名前の通りの綺麗な肌のままなんだろうと思うと、こんな境遇を引き受けるのも別にいい。

 きっとそれでも、また死ぬのに失敗すれば、こんな苦労の意味など存在しなかった、そんな世界に投げ込まれてしまうのだろうけど。それでもいい。

 

 間桐臓硯はやはりロアであった時の私などより、よほどサディストとしては一流だった。

 苦痛より快楽、私の嫌う場所をよく心得ている。愉悦の心で殺した事を思い起こさせる。嗜虐の笑みで殺した事を思い起こさせる。快楽に蕩けた顔で親友に跨りながら殺した事を思い起こさせる。

 正直に言えば何度か蟲倉を潰して、逃げてしまおうという衝動に駆られた事もあった。

 ミハイル・ロア・バルダムヨォンの魔術の記憶は未だに持っているのだから。そして聖堂教会の代行者モドキをしていた時の経験、場を整えての洗礼詠唱などこの間桐の翁にはよく効くだろう。信仰心の限りなく薄い私の詠唱でどれほど効果があるかはさておき。

 ただ、そこまでする熱意が浮かんでこなかった。

 今の私を蟲の巣と例えるならば、その真ん中にはひときわ大きな虚無の蟲が潜んでいたのだろう。

 あの人が世界を殺しちゃいたい程の憎悪、そんなものを抱けるだけの意思があることをただ、凄い人だったんだな、と妙な感心の仕方をしていたりもした。憎むのだって、悲しむのだって、怒るのだって疲れるのだから。

 

 いつものように蟲倉で無感動に埋もれていると、見知らぬ人が入って来た。どこか鶴野さんにも似ている。いや、確かそうだ、たまにきて、私達と遊んでくれた人。一番上のおねえさんに馬にされていたりした人。

 

「雁夜おじさん?」

 

 母の幼馴染み。たまに来て遊んでくれる人、そんな事しか覚えていない。その人はずかずかと無造作に蟲の中に分け入ると、私の頭を抱きしめた。

 ああ、色々な汁だの液だの蟲の体液だのでべとべとでぐちゃぐちゃなのに。何をやっているのか。私は押しのけようとし、結局大人の力に勝てず諦めた。

 

「汚れるよ、服が」

 

 当然の事を言っただけと思ったのに、雁夜さんは何故か強く私をかき抱いた。泣いているのだろうか、慟哭しているのだろうか。その姿を見せたくないのかもしれない、体が震えている。

 困った。

 仕方無く背中をぽんぽんと叩いて慰める。何か悲しい事でもあったのかもしれないし。

 震えはますます酷くなった。口の中で噛みつぶしてるつもりらしい、すまない、すまない、という声も聞こえる。どうしよう。

 説明を求めて臓硯を見ると、凄まじい愉悦の笑みを浮かべていた。

 そして噛み合う。なるほどと思う。そう言えば母は間桐の名を言った事が無かっただろうか。

 

「雁夜おじさんはこの家の人だった?」

「……うん、おじさんはね、本当はこの家の人だったんだ。ずっと逃げ出してた弱虫でね、茜ちゃんに一人背負わせちゃった悪い大人なんだよ、でも、これからは、これからは──」

 

 声にならなくなったのか啜り泣くような音、そして強く抱きしめられた。

 何なのだろうか。

 

「やめて下さい」

 

 何度も言った。

 

「こんな所に下りてこないでください」

 

 何度も言った。

 

 でもその度に寂しそうに笑って首を振るのだ。

 おじさんはこういう生き方しかできないと。

 罪が増える。

 こんな私を助けようなどと思っている人がいる。

 それに応えようがない自分が居る。

 

 蟲の翁がほくそ笑んでいるのも承知している。面白がっているのだろう、楽しんでいるのだろう。それを私が察している事をさえ揶揄してみせるのだから。

 

「のう茜や、あやつが来てから巌のようであった心が開いてきたのう。幾度責めようと開かぬ心を開くとは、見込み無しと思っておったが、存外使い所があるものよ」

 

 蟲に犯され、神経をずたずたにされ、耐えきれずに気を失っているおじさんを楽しそうに見る。

 蟲の翁は全てを明かしてくれた。それはもう楽しそうに。

 雁夜おじさんはあろうことか、私なんてものを助けるために聖杯戦争に参加するのだという。

 勘弁してほしい。本当に勘弁してほしい。

 あろう事かこの人は、私を救いたいというただ一念でこんな薄暗い場所に来てしまったというのだ。あまつさえ命を賭ける、などと。

 その優しさは私が受け取っていいものではない。その感情は私が受け取って良いものではない。

 誤魔化していたのに。

 気付いてしまう。

 苦痛ならまだ良かった。

 しかしこれは私が受け取って良いものではないのだ。

 それはきっと一つ上のおねえさんが受け取るべきだった感情。

 もうこれ以上重くもならないだろうと思っていた罪科の重みが増す。支える鎖は悲鳴をあげ今にも千切れそうだ。

 全て流しきったと思っていたのに、一すじ涙が流れた。

 

   ◇

 

 私は動く事にした。

 それはちょっと遅かったのかもしれない。ただ、きっとまだ手遅れじゃない。

 間桐臓硯は今回の聖杯などには興味がない。あれが正常に機能しない事など判りきっているから。

 ただ雁夜という、魔術師としては不肖の子孫を使ってかき乱し、観測したいだけ。

 だから正面から助命を願うなんて下の下。きっとそれを面白がり、調教に利用するだけ。

 ならばどうしよう。

 私と雁夜さんの二人が逃げ出すだけなら全く難しくはない。

 翁は蟲倉ごと葬送すれば良い。教会で教えられた浄化の儀式は相性がとても良さそうだ。

 ただ、その程度で滅びてくれるような緩い存在でもない。

 間桐が管理している十七箇所の霊地。その場所全てに存在する予備の脳虫。魂の容れ物を一箇所のみにするなどという迂闊さはこの翁には存在しない。どこまでも周到であり、魔術師。予測のできる不測の事態には考え得る全てに対応できるようになっている。

 私の居ない世界、本来あるべき世界では、殺されたと見せかけ、何十年かした後にひょっこり姿を見せ「よき子は生まれたか」などと笑い、絶望に暮れる姿を見て愉しんだのかもしれない。

 ただ、それだけ用意周到であった間桐の翁であっても、五百年を生きた魔術師であっても。さすがに私のような存在は想像はできなかったのだろう。

 間桐臓硯は私の矛盾している魂を幾度も観測していた。何の防性も持たずに、無思慮に覗きすぎた。覗かれているならば覗く事はかえって簡単。ただ、得られた知識には頭を抱えたくなったのだが。

 おそらくこの蟲の翁は文字通り人ではないものになりかけている、ゾォルケンという蟲の種類そのものになりつつある。

 魂は腐っていっているのではない。長く存在しすぎ、魂そのものが変質しようとしている。あくまで人であろうとしている本人は決して認めないだろうが、ガイア寄りの存在として規定されかけている。人であろうとするために人を食っているが、もし人を食わずにあと百年ほども存在していれば、蟲が成り果てた精霊種の一つとなるかもしれない。

 本人は気付いているのだろうか、人で在る事さえやめてしまえば、今現在の望みである不老不死などといったモノになってしまえるという事に。

 それとも、それでもなお不老不死にはほど遠い、星の寿命ほどではまだ遠い、とでも言うのだろうか。

 私は蟲に食い荒らされながら内心で溜息を吐く。

 私が逃げ出せば恐らく遠坂家に違約の責めが行く。そして今度こそ逃げ出さないように、念入りに鎖を繋ぐだろう。間桐臓硯からすれば次代に繋げる胎盤であれば良いのだから。

 では間桐臓硯を滅ぼせるかといえば、否だ。それこそ汚れた聖杯を使って殺す事でもしない限り、滅ぼせるものではない。それに、私自身があまり憎いとも思っていない。魔術師の業など幾度も見てきたからかもしれないし、外道と言うなら自分もそうだ。

 

「お爺さま。私の中の虫を雁夜おじさんにあげたいです」

 

 全てを救う最高の一手なんてなかったので、私の考えた次善の手を打つ。あまりいい手でもないのかもしれないが。

 私の中でなみなみと魔力を吸って肥えたマキリの刻印虫、まだ馴染んでもいないが、それ故に私以外でも何とか適合するだろう、体の中のものだけに仕込みも出来た。そして何よりこの翁の性格。案の定、たまらぬ、と言ったようにニタリと笑い。

 

「おうおう、何といじましい事を言ってくれる事よ、良かろう、良かろう。茜や、おぬしの刻印虫を雁夜めの力にしてやろうの。のう雁夜よ、喜ぶが良い、茜の体中を犯し抜いた一虫を受け入れる事が出来るのじゃ。思い人の影を忍ぶならなおさらに望外の幸せであろうなあ」

 

 その言葉に雁夜さんはぎしりと歯を噛みしめ、臓硯を睨み付ける。涙が流れていた。ごめんなさい。

 魔術師というものは存外自分の流派以外のモノには疎い。古い魔術師ほどその傾向がある。まさか、刻印虫に数秘紋の術式を刻むなどとは思わなかったのだろう。虫の見た目も違っていたが、私の体に適合する過程で変化を起こした程度に思っていたんじゃないだろうか。

 刻んだ象徴は蘇生、活性、生命。マキリの魔術刻印として活動すると同時にカバラの魔術刻印としての機能も果たす。魔力から活力への転換。これで、そう。魔力切れでも起こさない限りはしぶとく生き残れるはずだった。

 

   ◇

 

 養子に入れられて一年、私の体はほぼ作り替えられていた。恐らくもう細胞の一片とて遠坂だった時のものはないだろう。臓硯も言っていたが、予想以上に早い仕上がりらしい。それはそうだ。何しろ死ぬ心配がないので何でもできる。

 不死の特性を利用しての調教はそれはもう、何というかアレなものだった。愚痴の一つもこぼしたくなる。遠慮を無くした蟲の翁の本気は凄かった。もうぐっちゃぐっちゃにされた。人の形を留めた日の方が少ない。間近でそんなスプラッターシーンを連日見せてしまって、雁夜さんには本当に申し訳ない。聖杯戦争までこの人の精神が持つのか、そちらの方が心配だった。肉体の方はカバラの魔術が正常に機能してくれているようで、今の所五体満足なのだけど。

 

「ああ、眩し」

 

 自室の窓のカーテンを開け一年ぶりに太陽の光を浴びた。体の中の蟲がちょっと騒いだけど無視。考えてみれば、自室に戻れる時間も夜のみだった。蟲倉と真っ暗な自室、ここ一年はその二部屋の往復しかしてない。体力も多分相当落ちているのだろう、階段を昇るだけでも息切れを起こすことがあった。

 ぼんやりと街を眺める。間桐邸が結構な高台にあるので、それなりに景観は良い。

 この地で行われる聖杯戦争については正直半端な知識しかない。かつての朧な記憶と、教会に居た時に聞きかじった知識。どれも参考程度にしかならない。

 私は手の甲を見る。小さい手。やはり令呪は存在しない。ぼんやりとした「消え去りたい」なんて願いは願いのうちには入らないのかもしれない。雁夜さんの右手にはしっかり令呪が刻まれていたというのにだ。

 あの人は止まらないだろう。あの人が欲しいのはきっと遠坂家に居る当たり前な家族の私の姿だ。過去にしか存在しない、有り得ないものを求めるあの人の願いはやはり奇跡でもなければ不可能、聖杯も十分に資格を認めるというものかもしれない。

 

「もう一つ、二つは……」

 

 手を打たないといけないだろう。ああいう人は真っ直ぐ走って死んでしまう。良くも悪くも魔術なんかに関わっていい人じゃない。

 サーヴァントは何を呼び出す事になるのだろうか。参加する魔術師はどういった人達だろうか。

 いずれにせよ私にできる事はそれほど多くない。魔術と不死の体というものがあれど、この体はやはり脆弱。雁夜さんについて回っても力になるどころかただの足手まといになるのだから。

 

 気付いたら眠りについていたらしい。

 そういえばまともに眠ったのも久しぶりだったかもしれない。

 ベッドから身を起こす。ぼんやりした頭がはっきりしてくるに従って、今何時だったろうかと思い、時計を見て、しばらく前から止まっていた事を思い出した。夜であるには違いない。夜行性の虫達の音色がちりちりと聞こえている。

 ──背筋に電流が走ったような感覚があった。

 大気の魔力が凄まじい勢いで流れ込んでいる。屋敷の一点に。屋敷の一画に。まるで嵐、台風、天災規模の異変が収束している。

 

「……これが」

 

 サーヴァント、英霊の召喚。

 のそりと起きて、サーヴァントが召喚されたらしい虫倉へ行こうとすると鶴野さんが廊下で私を止めた。

 何を見たのか、酷く顔色が悪い。

 

「……自室に戻っていなさい」

 

 様子がおかしい。いつもはもっと私を幽霊か何かを見るような目で見るのだが。もっと酷いものを見てしまったような。

 黙っていると眉をひそめる、小脇に抱えられ、自室に戻されてしまった。

 どうしようか。

 何となく窓から外を見、月を眺める。ふと感覚がいつもと違う事に気付いた。

 結界、間桐の敷地に張られている結界が破られている。

 それもそうか、英霊なんて規格外の神秘が形を成すのだ、なまじの結界なんてひとたまりもない。

 

「Die sammeln(集え) zu duft(香りに)」

 

 いい機会なので、結界を張り直される前にやることをやっておく。

 魔力探知も兼ねた結界はさりげに厄介だったのだ。窓を開け放し、羽虫集めの香りの魔術。感知さえされなければ私自身には監視の目は無い、雁夜さんの体には臓硯の使い魔が入り込んでいるが、私にそんな事をしていたら鍛錬が特殊なだけに一々面倒臭すぎるのだろう。

 集まった羽虫を片っ端から使い魔にし、周囲に散らす。これらはあくまで餌、本命の鳥を探す。森の中に散らす羽虫が蜘蛛の巣にかかり、夜行性の鳥の餌食になる。食べた鳥の方は使い魔に仕込んだ軽い暗示で間桐邸の窓、ここが巣だと錯覚し、入って来た。

 予め紙に書いておいた「魔女、支配」の数秘を以て梟を縛り、血の交換により契約。使い魔とする。マキリの魔術の方が使い魔を使うには向いているとはいえ、絶対に臓硯に気付かれてしまう。いずれ私にも臓硯の脳虫が入れられてしまうかもしれないが、その前に別種の術による目が欲しかったのだ。

 同じ要領で五羽の梟を使い魔にし、冬木市に散らし、窓を閉めた。ベッドに入り具合を見るために視界の転移を行い、梟の目を借りる。

 魔法使いには梟、おとぎ話のイメージそのままとはいえ、それなりに理由はあった。

 なにせ梟は目が良い、猛禽類は皆目が良いものだが。その上夜目が効き、立体視ができる。モノクロの視界ではあるものの、距離感というものを感じ取れる梟の視界は人間にほど近いもので、理想的な目でもある。もっとも、あまりに知られてしまっている事から魔術士達からはかえって忌避の念があるらしい。

 順々に視界を切り替えて行く、使い魔とはいえ、いざという時行って欲しい場所に行ってもらう程度の緩い縛りにしてある。三羽目はどうやら鼠を捕らえたようだ。食らいついているが、迂闊に興味本位で味覚も借りてしまうと酷い目に合ったりもする。虫よりはマシだろうけども。

 

「あ……」

 

 五羽目の視界に映ったのは遠坂邸だった。心臓が早鐘を打ち、汗が吹き出た。

 不意打ちだった。

 あの庭で、あの椅子に座って、私はおねえさんと。

 違う。

 違う。

 違う。

 それは私ではない遠坂茜という少女の終わってしまった幸せだ。

 なんて。

 うん。何の事はない。

 蟲倉の事に耐えられなかった私はミュリエルという人格で身を守っていたのだろう。二重人格にすらなっていないただのペルソナ。一人劇場。どこまでいっても私は普通。一番上の姉のような輝きもなければ一つ上の姉のような秘めた激情もない。

 だからきっと、流れた涙も気のせいなんだろう。ミュリエルは泣いたりなんてしないのだから。

 

   ◇

 

 聖杯戦争が始まってからは臓硯もそちらに興味が行っているのか、蟲倉での鍛錬はかなり短いものとなった。少なくとも一日放り込んだままという事は無くなった。鶴野さんと話している感じでは、そろそろ学校に通わせるために一般常識も教えておくべきという事らしい。

 

「しかし、あの人形はそこまで頭を働かせられますか」

「呵々、おぬしは茜が壊れていると見るか、あれは壊れてなどおらぬよ。顔は動かぬが心は動いておる。雁夜が来てからなど面白い程に揺らいでおったわ」

 

 多分まだ、かろうじて生きているのだろう。多分外側は人の形を留めてないだろうけど。

 結局この鍛錬、肉体をすり潰して蟲に置き換え、それを魂にフィードバックさせているだけだ。馴染ませながら最後に殺せば、魂からまた少しマキリに染まった肉体が再生される。

 

 

 臓硯の趣味的なものもたまに入ってくるが、効率はこちらの方がいいようだ。慎二君もこんな姿見ればさすがに嫌気が差すかもしれない。

 

「では、手配を……」

「……う……ように……」

 

 声が遠くなる。

 時間が途切れ、覚醒した。蟲の中。今日は後何回だろうか。

 

 蟲倉に居ないで良い時間、自由な時間というものができるようになった。

 自室でぼんやりしている事が多い。

 使い魔の梟の視点を借りて空から冬木市を見ている。

 結界も内側の魔力感知はごく大雑把なようだ、既に魔力のパスが繋がった梟くらいなら感知されることはなかった。それだけが少し心配だったが、良かった。

 

 英霊達の気配を察する範囲は半端なもんじゃない。遠目でもって梟に観察させる程度だったが、やはりこと戦いという事に関しては英霊は凄まじい。アルクェイド・ブリュンスタッドも大概だったけども、あれは根本的に力任せだ。

 視界の中で槍騎士がその双槍を振るう、音速すら超えた衝撃波をものともせず、騎士王がその見えぬ剣をいなし、捌く。神話の再現。使い魔の目ではその剣閃の一筋すら捉える事ができない。

 勝負が決まるかというところで破天荒な登場をした戦車のおじさん、誰がどう見てもライダーだ。耳は借りてないので判らないが、何か呼びかけている様子。

 そして誘われるように現れた、どこかで見かけたような英霊、やたら偉そうに喋っている。しかしまさか、こんなにサーヴァントが一堂に会するなんてどんな混戦だというのか。

 そして唐突に出現した黒い騎士、使い魔の目を通してすら瘴気が見える。

 その二騎の戦いは何と言えば良いものか。武器を撃ち出してはそれを掴み取りして打ち払い、などという冗談のような光景だった。

 そんな中、私は使い魔とは別のパスで結んだ存在の異変に気付いた。

 刻印虫が激しく蠢いている。

 私の中で、ではない。雁夜さんが取り込み、魔術回路の一部となっているものだ。もっともパスを結んだといっても魔力を直接やりとりできるようなものではない。ただ、状態は判る。これはひどく不味い。

 どちらかが、今戦っているどちらかのサーヴァントが雁夜さんの魔力を吸い上げている。いや、この吸い上げ方は普通じゃない、有り得ない目減りだ。そうだ、そう言えばそんなクラスがあった。

 バーサーカーを呼ばせたのか。

 どうやら本当に臓硯はこの戦いで雁夜さんを使い潰すつもりらしい。そんな事だろうとは思っていたものの、あそこまで手をかけ、しかも魔術回路を急造したにせよ、健康面でも問題はなかった。惜しむ気持ちが少しは出たのではと淡い期待もしていたのだけど。

 体の中できいきい鳴く蟲共に静かに苛立つ。

 そろそろ私は決めなくてはいけないかもしれない。

 臓硯に警戒されれば恐らく私は始末されるだろう。この場合の始末は、すなわち精神の封印だ。最終的に母胎としてのみ役立てば良いのだから。

 そうなればいつか同一のラベルの魂を持つシエルさんが寿命で死に、私も同じ時間に死ぬ事だろう。

 それも楽でいいかと思わないでもない。

 メドゥーサとは縁がありそうだったので、一度会ってみたかったけども。

 ただ、それでまともに死ねるのかという恐怖がある。

 有るとも無いとも判別できない恐怖。

 本当に私の不死はロアによるものなのだろうか、という疑念。

 少なくとも今の不死は、成長している。不老ではないようなのだ。確かにロアの魂とされていた時も私の魂は停滞していたが決して不変ではなかった。しかし今はその停滞すらない。果たして私はどんな存在となっているのか。臓硯は矛盾した魂と言っていた。もしそれが、私の想像しているものの外だとしたらどうなるのか。

 それは怖い。

 どうしようもなく怖い。

 生きる事ができないなら死ぬ事ができない。

 そんな矛盾でも孕んだ存在としたら。

 杞憂だろう。きっと杞憂なのだろう。天が落ちてくるのを心配するほど馬鹿げた事はない。

 私は頭を振り思考を払った。

 

   ◇

 

 いつものように無感動に蟲倉での鍛錬を終わらせ、自室で作業を始める。

 臓硯は今の所私に警戒している様子はない。それはそうだろう、何時なりとも何とでもできる存在を警戒しても仕方がない。無駄というものだ。

 ただ、私が今から始める作業を見れば、間違いなく警戒の域に達してしまうだろう。かなりの綱渡りな気もする。それでも天秤にかければ私の生などより、ただひたすらに人間らしい雁夜さんの生の方が重かったので仕方無い。

 姉から貰ったリボンを解き、真ん中で切る。

 少し感傷が残っていたのか、はさみを持つ手は震えてしまった。

 

「Frere Jacques, Frere Jacques」

 

 昔聞いた覚えのある子守歌を口ずさみ、心を平静に保つ。失敗ができない。

 

「Dormez-vous, Dormez-vous」

 

 リボンに血で描く術式は十三、洗礼詠唱の意味も兼ねた浄化の術式、自律移動。そして制御に補助、正直とってもありえない。あの馬鹿吸血鬼も魔術師としては超一流であり、その知識を継いだからこその離れ業。

 

「Sonnez les matines, sonnez les matines」

 

 そしてリボン、この頃からすでに才能を発揮していた一番上の姉のお手製のリボンはとても魔力転換と相性が良い。

 

「Ding dang dong, ding dang dong」

 

 最初の一つを描ききり、静かに息を吐く。

 髪を一本抜き、縫い針を探したがそんなものはなかったので、馬鹿らしい事ながら、髪そのものをちまちま強化しながら縫い付け模様とする。

 半分ほど完成させた頃には既に良い時間になっていた。机に仕舞い込み、一階の食卓に向かう。

 ここのところ家政婦さんの作ったまともに人が食べるものが食べられるのでありがたい。

 

 聖杯戦争の行方はどうなっているのだろうか。

 礼装を作り始めたのでここの所まったく確認していない。

 雁夜さんもここのところ私と会わないようにしているのか、姿を見た事がなかった。

 礼装そのものはほぼ完成している。というか数秘の神秘は本来こういった魔術礼装を作るのが一番向いているのだ。黒鍵に魔術付与して死徒を狩り出すような使い方の方がむしろ異端、逆に言えばそんな使い方をすることで、ロアの魔術を貶めている気持ちも少しはあるのかもしれないが。

 リボンを加工してお守り袋のようにしたそれ、中身にはびっしり術式が描かれ、編み込まれている。かなりの複雑な魔術をして、あまりに限定的な用途にしか使えない礼装。多分、正当な魔術師が見たら、目を剥いて怒る。何という無駄な事に神秘を使うのかと。

 ただ、最後の仕上げは行っていない。かなり強い魔力反応が出てしまうはずなので、結界内だと中々仕上げられないのだ。

 

「といっても──」

 

 梟の視界を借りてその異常を眺める。

 巨大な魔、タコかイカか、何だろうあの邪神的な触手。取り込まれれば私みたいなのでも分解してくれるだろうか。

 そんなものとぶつかりあっている英霊達、空では黒く染まって無茶な軌道をする自衛隊の戦闘機と空想の世界から飛び出てきたとしか思えない妙な飛行機がドッグファイトを繰り広げている。何というお祭り騒ぎ。

 そしてそんな英霊達と魔物の饗宴から離れたところで戦う一人の魔術師と一人の急造魔術使い。

 どうしてそーなってる。

 かつてお父様なんて呼んでた人と雁夜さん、ことに雁夜さんの様子はおかしい。あれほど憎しみを剥き出しにする人だっただろうか。人間らしすぎる人ではあったけど、臓硯に何か妙な弄られ方でもしたのだろうか。

 梟の一羽を寄せ、聴覚も借りる。

 何やら雁夜さんが、なぜ私を間桐に預けたかを問いただしていた。

 我が父の台詞は予想通り。魔術師らしい魔術師だ。人として歪み、魔術師として正しい。

 ただ思わぬ情報が聞けた。一つ上の姉は時計塔から講師の一人を招き、直弟子にするらしい。どれほどの代価を支払ったのか、少し憂鬱そうだったが。ゆくゆくは遠坂から分家筋として新たな家門を立ててくれればという考えのようだ。

 少し安心、架空元素の虚数なんて宝石魔術とは相性も悪いだろうし教えようもなかったのだろう。ちゃんと考えてくれている。くすくす笑ってごーごーなんて事にはならなさそうだ。

 なんて考えているうちに雁夜さんは激昂しはじめた。聞いているとどうも魔術師に対する抑圧? 臓硯に対する抑圧のようなものが爆発してしまったのだろうか。ただ、殺してやると息巻くその目はどこかおかしい。

 さらに聞いていると我が父は「間桐の魔術は娘に渡る事となった、感謝する筋合い──」などとも言っていた。

 ああ、と私は深く頷く。同調している梟も頷いたかもしれない。

 これが遠坂の呪い、うっかりか。

 おとーさま。刻印蟲は次々埋め込まれているものの、魔術らしい魔術の知識はまるで教えられてないです。というか臓硯さんは教える気も無さそうです。魔術の秘匿なんて基本の基本すら言われていない。今の所家から出すつもりがないからだろうけど。養子にするイコール魔術の後継者にする、なんてうっかり思い込んでしまったのか。

 やがて二人は戦い始めたが、当然ながら圧倒的に雁夜さんに分が悪い。炎の防御陣に次々と蟲を突っ込ませていくのだ。のみならず最後は強化を自分にかけて殴りかかっていった。

 あまりに魔術師らしくないその行為に意表を突かれたか、魔術行使か、ただ躱すか、瞬時の悩みが出たようだ。かつてのお父様は横面を殴られ、思い切り吹き飛び、雁夜さんは力を振り絞ってしまったのか、そのままの勢いのまま、防護フェンスを突き破り落ちていってしまった。

 あんぐり、と言う言葉が一番正しいか。

 梟を慌てて追わせると、何とか息があった。ぷすぷすと燻ってはいたが、意識を失っているだけで私の仕込んだ魔術はまだ生かせている。しかしそろそろ臓硯もこの異常に気付いてくる頃かもしれないが。梟に頬を突かせ起こそうとしていると、じゃりと足音がする。

 

「間桐の魔術ではないな、梟の使い魔とは……別口か?」

 

 僧衣を纏った男が現れた。

 見覚えがある、そう遠くない記憶だ。確か第八秘蹟会に居た、かつての代行者でもあった男。聖堂教会ではそれなりに有名だった。そうだ、言峰綺礼。そうだ、何で思い出さなかったのか。写真と名簿を見て、ああ麻婆神父が若いとか思った事があるのに。

 まるで重心のぶれない嫌な歩法で近づかれ、あっという間に使い魔が殺された。

 

「……まいった」

 

 半ば駄目かと思いながらも、近くに居たもう一羽の梟を飛ばし、見てもらう。

 何故か言峰綺礼は雁夜さんを治療していた。訳がわからない。問答無用で攻撃してきたって事は敵扱いなんじゃないのか。一体どういう立ち位置なのか。不思議に思って見ているうちに抱えて間桐邸の前に置いていく。

 使い魔との同調を切ると、玄関口で小さく音がする。倒れた雁夜さんを見つけて鶴野さんが運び入れているのだろう。

 しばらくすると私にもお呼びがかかった。

 蟲にたかられる時間らしい。

 

   ◇

 

 ある夜、鍛錬という名の何かが終わって、自室でいつものように窓を開け、月を眺めていると、結界が揺らいだ気がした。

 ──いや、結界が破られた。

 侵入者らしい。どちらさまに用だろうか。

 誰かは知らないがありがたい、雁夜さんも持ち直したとはいえ、最後の手が必要だった。これでやっと礼装が完成させられる。

 いそいそと机から二つの守り袋を取り出し、パジャマのポケットに突っ込む。敷地の霊脈が噴出するポイントは把握している。視力、聴力を強化し、一階へ。鶴野さんはまた食堂で飲んだくれているのだろう。そっとスルーして玄関を出ようとする、そのとき、銃声が響いた。

 魔術師の家で銃声? なかなか有り得ない組み合わせ、それはそれとして食堂に駆け込むと、無くなった右手を押さえて悲鳴を上げる鶴野さんと、どこか幽鬼めいた着古したコートの男が居た。硝煙の臭い、そして馴染みの血の臭い。

 殺し屋めいたコートの男は私に気付くと無造作に銃を構え、目を細めるとその銃を下ろす。苦悶している鶴野さんを爪先で蹴ると詰問調で言った。

 

「遠坂の娘が間桐に入ったと聞く、この娘か?」

「そ、そそ、そうだ、茜、茜だ。そいつが引き取った養子だ、ああ手が、手が。助けを、助けを!」

 

 そんな鶴野さんを無視し、コートの男は無言で私を小脇に抱えると間桐邸を後にし、凄まじい勢いで走りだした。

 ……あれ、攫われてる?

 男は無言で走り続け、坂の上の遠坂邸の前で止まった。

 結界の手前で解析魔術を使い、確認すると、軽く頷く。

 

「血筋による選別、やはり仕掛けられているか」

 

 裏門に行き、かなり高度な結界破りの技を見せる。どうやら遠坂邸への侵入手段として私を使う為、誘拐してきたらしい。マキリとして大分変質してはいるものの、大本は同じなので大分短縮できるのだろう。

 聖杯戦争に関連した人には違いない、今の所私は放置されているものの、騒ごうという素振りを見せただけで殺しにかかるかもしれない。あるいは眠らされるか、どのみち私の目的には都合が悪すぎる。さらにはマスターだとしたら当然サーヴァントが居るはずで、私では絶対に勝ち目がない。

 進退を決めかねていると、かつて慣れ親しんだ遠坂の結界に仕込まれた機能、中の人が居るか居ないかという確認になっているだけの、ドアに飾り付けられた翡翠の色に気付いた。不在らしい。

 それでもなお、この身の生まれの親を裏切るのもどうかと数巡悩み、いずれにせよこの男の手際からすれば無理やり結界を破壊して入ってしまうだろう事を考え、一つ頷き、言った。

 

「開け方は、変わってなければ、ルビーをケテルの位置へ、ダイアをビナー、サファイアをコクマー、です」

「……セフィラを模した宝石の位置取りか? しかし君は……いや」

 

 男は余程切羽詰まっているのか、疑問は後回しと言いたげに、結界の一つを解く。そしてどうもその、お父様のうっかりはここでも優雅に炸裂しているようで、娘を間桐に出したというのに、結界の構成は変えていなかった。少し頭が痛くなる。次は──

 さすがに聖杯戦争中らしく、私が居た頃にはなかった仕掛けも相当数仕掛けられていた。物理的なものから霊的なものまで、様々だ。しかもえらく完成度が高い。そんなトラップはこの男が無理やり紐解いていった。こちらも相当な手腕だ。魔術を解体するという事にかけては超一流なんじゃないだろうか。

 やがて二階まで昇ると、まただ。また、慣れた香り。血の臭い。

 テーブルの上には放置されたティーセット。カーペットには大量の血痕。こんなに流しては魔術師だって生きてはおれないだろう。大量の。

 まるで、殺人がこの場で行われたかのような。

 

「──え?」

 

 そういえば、あの姉妹に親は居たのだっけ?

 私は見逃していた?

 誰が、どうして、誰を殺した。

 それに、答えるわけでもないだろうに、邸内を探索し終えたらしいコートの男は再びこの場に戻り、何かを推測するように、考察するように、目を細め、無意識かもしれない言葉を小さく吐いた。

 

「言峰、綺礼」

 

 ちょっと後で文句の一つくらいは言ってやろうと思っていた相手は、死んだ後でした。

 聖杯戦争だし、それはまあ、死者の一人も出る。ただ、あの人がそんなにあっさり死ぬとはまったく思っていなかった。目の前に今にも死んでしまいそうな雁夜さんがいたからか、あるいは私にもやはり遠坂伝来の呪いが継承されてしまっているのか。

 気付けば遠坂邸に一人残されていた。

 コートの男は何者だったのか、何も言わず語らずに、風のように消えてしまった。

 思考を切り替える。

 礼装を完成させるには願ってもない条件でもあるからだ。

 

「親不孝者でごめんなさい」

 

 一言呟く。今度は自分の手で殺したわけじゃない、それでもやはり、血肉を分けてもらった子供としては失格だっただろう。本来居るべきはずのない子供だとしても。

 一度も入れてもらった事のなかった工房に入り、見つけた宝石箱を開ける。魔力の込められていないアクアマリンを二つ取り出し、手の平へ。

 久しぶりに行う宝石への魔力注入。失敗しないよう慎重に。手順を踏んで。

 魔術回路を起動、暗闇に舞う蛍が次々と多くなる。忘我の中、人の身には必要のない痛みが魂に走る、いつもの痛み。マナを汲み取り我がモノとし、ただ一つだけ遠坂の象徴として教わった基礎魔術、宝石への魔力定着──

 目を開け、正常にアクアマリンに宿った魔力を感じると安堵の溜息を吐く。海に入れると溶けてしまうと言われるほど、水や海との親和性の高い宝石。魔力を込めた宝石にさらに工房に置いてあった針を強化し、宝石に起動用の式を入れる。守り袋にそれを入れ、紐で留めた。

 同じ作業を繰り返し、できた礼装を使い魔の梟に運んでもらう。

 力が抜ける。

 ひとまず私にできることはここまでだろう。

 霊脈を利用して最後の仕上げをしようとしていたが、動力源に蟲を使う事になるので、臓硯に気付かれる可能性もあったのだ。どうせ遅かれ早かれ次代の蟲の苗床になるだろう身なので、最終的にはそれでも構わないとも思っていたが、気付かれないならそれに越した事はない。

 遠坂邸の庭先で待っていると、暗い臭いが漂ってきた。きちきち、きいきいと音も聞こえる。

 どうやら、迎えが来たようだった。

 

   ◇

 

 その日は一きわ暑い日だった。

 まるで重い澱みが熱を持ち、宙に舞っているかのよう。

 敏感な人は気付いていたかもしれない、大気の魔力の濃密さに。

 ごく一部の人は感じていたかもしれない、終結の予感を。

 

 鶴野さんは右手を砕かれ病院に入院しており、臓硯は私を蟲倉に放り込んだまま、どこぞへ姿を消してしまった。精密な制御を失い、自由気ままに蠢く蟲達が私を食らい、這いずっている。

 私は慣れ親しんでしまった快楽と苦痛に反応している体をさておき、ただぼんやりとしていた。

 使い魔の目を借りられれば時間も潰せるというものだが、ここは間桐家の工房でもあるのだ、分野の違う、極めて極小のパスであっても、感知されてしまうかもしれない。多分されるだろう。それでも危険を冒して見てしまおうか、なんて気紛れも起こしそうになる。

 最後の一手、偶然の要素もあれど、宝石魔術の出力に数秘紋の汎用性、蟲に犯し抜かれたおかげで優れた触媒となってしまった私の髪、三種混合させた阿呆みたいな礼装だ。教会の秘蹟も入っているから四種か。それだけ使って効果は一度きり、雁夜さんの刻印虫の反応が無くなる事が発動のキー、バーサーカーに使い潰されると同時にあの人間らしい人間を魔術から切り離すためだけの礼装。

 呼び寄せるための片方は冬木市の外へ、もう片方は雁夜さんに梟が届けているだろう。

 発動すれば刻印虫の死骸を浄化し、肉に補填、魔術に対する防御や物理的な防御もある程度は兼ね、意識が無くても片割れに招き寄せられ、揃えば暗示がかかる。綺麗さっぱり忘れて貰おう。補填の際に魔力が足りない場合のフィードバックは私に来るようにもしてあるし、これで駄目だったらもう正直無理だ。

 あとは祈るとしたら、暗示が解けないように、だろうか。体は助けられても私に心は助けられない。雁夜さんの思う遠坂葵の娘はもう二重の意味でどうにもならない。

 

「もうこんな世界に関わらないように」

 

 湿った蟲臭い空気を吸い、小さく呟く。

 呼応したわけでもないだろうが、一際蟲たちが元気に群がった。

 

 どれほど時間が経ったろうか、何度か死んだらしい。記憶を辿ると何回か体感時間がズレ込んでいた。私の魔力がごっそり持っていかれる感覚がある。転換効率が良くなかったようだ、あれだけ術式が重なれば無理がないが。多分普通の魔術師だと五十人くらい干からびる量が持っていかれていた。ともあれ安心した。上手く発動してくれたらしい。かつて私の中にあった刻印虫も死んだのだろう。その存在を感じない。

 ふと蟲の動きが変わった。体が勝手に反応を返す。蟲倉にはいつの間にか臓硯の姿があった。

 いとも楽しげな、好々爺とした笑みを浮かべ、言う。

 

「のう茜や、どうやら雁夜めが死によったわ、惨めにのう、情けなくのう。呵々、おぬしは期待を外してくれるでないぞ」

 

 答えは返さない。ただいつものように冷えた感情のまま見上げた。

 

 自室に戻された時は深夜を回っていた。どうやら蟲倉の蟲を大量に使って何やらするらしい。臓硯にしては珍しい事だ。梟の視界と聴覚を借り、後の様子を探る。聖杯戦争の余波にでも巻き込まれたか、使い魔としての梟は二羽にまで減っていた。街は救急車、消防車がひっきりなしに行き交い、サイレンがところかしこで鳴り響いている。そして動物の鋭敏な感覚ゆえだろう、梟の目は新都の大火災に立ちこめる何かを捉えているようだ。火勢に照らされる濛々とした空を見ていた。

 梟に頼んで深山町の南、隣接する町との境にある森に飛んでもらう。国道にほど近い林道、大きな木の根元に私の作った礼装と、人の倒れていた跡がある。礼装の片方は雁夜さんが持っていってしまったらしい。足跡はさらに南の国道に向いていた、冬木市には何となく来たくない程度の暗示はかかっている。弱いものだけに長く保つだろう。

 残された礼装を回収。そのままにしておくと、多分無作為に色々なものを呼び寄せてしまう。間桐邸の窓に使い魔の梟を寄せ、礼装を受け取り、中の宝石の魔力を吸収する。コートの男に結界を破られてからまだ張り直してないので助かった。少し逡巡したのち、宝石だけ梟に川にでも捨ててきてもらい、守り袋の形になった元リボンは机にそっとしまった。

 

   ◇

 

 魔術師とて表向きは人間と偽らないといけない。

 社会に混じるための仮初めの姿、その為に私は小学校に通わされていた。

 赤いランドセルを背負い、誰に声かけるともなく学校に通う。正直面倒と疲れしか感じていない。臓硯が手を回したのか、学校側には軽度の精神病と説明されているらしい。教師は壊れ物を扱うように私に接してくる。

 梟の使い魔はしばらく前から触れていない。聖杯の欠片を刻印虫として埋め込まれ、その様子を観察するためか、臓硯が脳虫を心臓に寄生させてきたのだ。もっとも、あちこちの霊地を管理しているだけあって、常にこちらを監視しているわけでもないだろうが、そう迂闊な事もできない。出来れば次の聖杯戦争までは自分の意思を残しておきたい。

 脳虫と聖杯の欠片を入れてからは死ぬ程の無茶な鍛錬は無くなったが、逆に言えば臓硯からするともうマキリの肉体としては合格点に達する程度にまで変質していたのかもしれない。

 

 淡々と無機質な毎日が続く。

 三年程経った頃だったろうか。

 ある日学校帰りに、買い物をしているのか、赤毛の少年に引っ張られる、どこかで見た覚えのある男性を見つけた。どこで見かけたのか、あまり親しい人も居ないというのに。

 

「──ああ」

 

 思い出した。確か結界破りの達人。あの時は助かった。

 

「あの時の人攫いのおじさん」

 

 ちなみに学校帰りだ。子供も多い。これから一緒に夕飯の買い物に行こうという親も多い。私の呟きに反応し、視線が、視線が、視線が、伝染するように男性に集中する。ざわつく周囲。慌てる男性。

 やってしまった。遠坂の呪いはここまで変質しても健在だった。

 

「お、おい、うちの爺さんに限ってそんな事しないって、人違いだろ」

 

 赤毛の少年が私に詰め寄る。私は少し考え、頷いた。男性に頭を下げる。

 

「すいません、人違いでした、騒がせてごめんなさい」

「いや……うん、いいんだ」

 

 その男性の目を見て、私は何故か酷くショックを受けた。

 何を失い、何を得たのだろう。

 その目はどこか私にも似ていて、でも私には持ち得ないものを持っていた。

 諦めて、疲れてしまった目。でも何かを持っている。何だろう。

 

「なあ、大丈夫かお前」

 

 ぼうっとしていると今度は少年に覗き込まれた。真っ直ぐな目、空っぽだけど、それだけに誰よりも真っ直ぐな。

 ああ、そうか。

 拠り所はこの少年。

 この少年に救われたのか。

 いや、そうだ。頭が回ってなかった。

 ここ数年、虫の苗床か学校か家でぼんやりしてるだけだったからか。

 

 つまりこの赤毛の少年が──衛宮士郎。

 

 感慨は少なく、なぜかすとんと落ちる。

 二つ上の少年は不思議そうに私を見ている。

 特に話す事もなく、別れ、蟲倉へ。

 想像をはべらす。

 一つ上の姉はこんな境遇でなくてもやはり彼に惹かれるのだろうか。

 一番上の姉は妹が気にかけている存在でなくともやはり彼に惹かれるのだろうか。

 私には何もないと思っていたけども。結構気になっていたらしい。終わってしまっている私と違って前途洋々たる二人だ。あの二人ならきっと衛宮士郎の歪みを知りつつ導いてくれるだろう。だとすれば、そうだとすれば、私もまた、彼に爺さんと言われたあの男性のような目になれるのだろうか。

 

 だとすれば──それはきっと救いなのだろう。




完結したお話に追加するなど蛇足もいいところなのですが、浮かんできてしまったもので。
短編連載という形なので、今回がZERO編、次回がSN編で終了という形になると思います。
薄暗い話ですが、お暇潰しをお探しの方はどうぞ

捏造設定分として間桐の爺さんをちょっとしぶとくしてあります。

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