雑文まとめ帳   作:いぬたろう

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ある人形のお話

 とある町にある、珍しくもない人形屋。その店の奥で、店頭に並ぶ前の人形たちを整列させて、店の店主はえへんおほん、と、もっともらしくせきをすると、えらぶった調子でしゃべり始めました。

 

「いいか、お前たち。お前たちは人形で、お前たちは商品だ。誰かに買われて、買った相手を楽しませて初めて、人形としての意義を果たしたと言えるんだ。だから、どうすれば自分が売れるのか、どうすればお客様を喜ばせることが出来るのか、それぞれよく考えて、実行しろ。いつまでも売れずにいると、ごみとして処分するからな。それが嫌ならがんばるんだ。分かったな」

 

「はいっ」「わかった」「ごみなんて嫌だぁ」

 

 人形たちが思い思いに返事をしたのを確認すると、もう一度、えへんおほん、とせきをして、男は開店の準備をするために、さっさと部屋を出て行ってしまいました。悲鳴のような声もあったことは、気にもしていないようです。

 男が立ち去るのを見送った人形たちは、ざわざわと騒ぎ始めました。何人かで集まって話し合ったり、一人で考え込んだり。どうすれば売れるのか。ごみにならずにすむのかと、みんな必死で考えています。

 

「僕は手に何か持つよ」

 

 一人の人形が言いました。棒を手に取り、えいやあ、と威勢よく振り回します。

 

「どうだい、かっこいいだろう。この勇ましさ、きっと男の子たちは喜ぶぞ」

 

 そう言って、人形は得意げに笑いました。

 

「私はきれいに着飾るわ」

 

 別の人形が言いました。洋服を着てリボンを付けて、にこりとかわいく笑ってみせます。

 

「ほら、とてもきれいでかわいいでしょう。女の子はかわいいものが好きだもの、きっと私を手に取ってくれる」

 

 そう言って、人形は誇らしげに笑いました。

 ある人形は、道化師の格好をして見事な宙返りをしてみせました。オルゴールの曲に合わせて美しい歌を歌ってみせる人形もいます。そうして思い思いに、見事な衣装やすばらしい技術を見せ合いながら人形たちは笑いあいました。

 

――大丈夫、これなら自分は選ばれるだろう。

 

――よしよし。これなら自分は処分されずにすむ。

 

 内心ではそんなことを考えながら、ともかくどうにかなりそうだと人形たちは一安心。そろそろお店の開く時間だと、駆け足気味に、陳列棚やショーウィンドーに並びに行きました。

 

 

***

 

 その夜、店が閉まった後のこと。

 店主も人形たちも寝静まり、明かりも落ちて静まり返った店内に、ひとりだけ残っている人形がいました。よく見るとその人形は、他の人形たちのように、色々な衣装を着たり、何かを持っていたりしません。あえて言うなら、他の人形より少し大きいだけのその人形は、浮かない顔でため息をつきました。

 

「ああ、困ったなあ。こんなことになるとは思わなかった。このままだとまずいことになる」

 

 そう言って、自分を目立たせる手段が何も思いつかなかった人形は、頭を抱えました。他の人形より大きい体をしているから大丈夫だろうと高をくくっていたのですが、それは全く的外れな考えでした。お店が開いている間、大勢の人がお客としてやってきて、たくさんの人形が売れていったのですが、少し体が大きいだけのその人形は、売れるどころか注目すらされなかったのです。

 

――これでは駄目だ。明日以降も、きっと自分は売れ残ってしまう。

 

 それはつまり、自分がゴミとして処分される可能性が高いということです。自分が処理される場面を想像してしまい、その人形は震え上がりました。

 

「冗談じゃない。ごみのように捨てられるなんて真っ平だ。なんとかしないと……!」

 

 どうしたらいいだろう。どうすればいいだろう。

 その人形は、頭をひねって考えました。中々いい考えは浮かびませんが、それでもやめるわけにはいきません。考えて考えて考えて、突然、人形はぱっと顔を上げました。さっきまでこの世の終わりのような顔をしていたのがウソのように、その顔には満面の笑みが浮かんでいます。

 

「そうだ……!いいことを思いついたぞ!!」

 

 他の人形の考えを真似ればいい。いや。いっそのこと真似るのではなく、アイディアごと奪って自分のものにしてしまえばいいのだ。そうすれば、きっと大丈夫だ。自分が処分されることはない。我ながらなんていいことを思いついたんだろう!

 そんなことを思いついた自分は、やはりすごい。そんな風に自画自賛をしながら、人形は、しばらくの間笑い続けたのでした。

 

***

 

 次の日の朝。今日も人形たちは思い思いの格好をして、店先に並び、店が開いてお客さんが来るのを待っていました。大事な道具の具合を確認しなおしたり、備え付けの鏡で服装の最終チェックをしたり。それぞれ準備に余念がありません。

 そこに、他の人形たちを押しのけるようにして、大柄な人形がやってきました。どこで手に入れたのか、手には大きくて立派な、諸刃の剣を持っています。

 

「ほらどうだ、こいつを見てみろよ。強そうでかっこいい剣だろう」

 

 得意そうにそういって、自分の身長よりも長い剣を、これ見よがしに派手に振り回します。他の人形が迷惑そうな顔をしていることなど、気にも留めません。

 

「こんなに目だって人目を引いているんだ。これなら俺は売れるだろう」

 

 そんな人形の考えは、外れました。店に来たお客たちは、大きな剣を振る人形に目を止めはしましたが、彼を買うどころか手にとろうとすらしなかったのです。

 

「なんで誰も俺を買わなかったんだ?もっともっと目立たないと駄目ってことか?よーし、それなら……」

 

 次の日、人形は派手な衣装を着て店頭に立ちました。

 きらきら光る飾りがたくさん付いた、豪華できれいなスーツを着た人形は、それを見せびらかすように、得意げに歩き回ります。

 

「どうだい、こいつを見ろ。倉庫にあった高い生地で作ったんだぜ。いいだろう」

 

 愉快そうに嬉しそうに笑いながら、人形はスーツを自慢します。こんな豪華なスーツを着こんで、立派な成りをしている自分なら、誰が手に入れるかお客さんが取り合うに違いないと思っていたのですが、その日も人形は売れませんでした。

 

「これでも駄目なのか。ようし、それなら……」

 

 次の日、人形は腕を取り替えて店先に並びました。狼みたいに毛むくじゃらで、熊のように大きくて、虎のように鋭い爪がついた腕は、前の腕より太く大きく、仕立てたばかりのスーツが無残にビリビリになってしまっているのですが、人形は気がついてすらいないようです。

 

「どうだい、この腕!大きくてたくましいだろう。こんな腕を持っている人形は俺だけなんだぞ」

 

 そんなに珍しい人形なのだから、こんどこそ自分は買われるはずだ。人形はそう考えていたのですが、何故だかさっぱり売れません。店を訪れたお客たちは、みんな、なんともいえないものを見るように人形を見るだけで、手に取ろうとするものは一人もいませんでした。

 

「俺はこんなに立派で、強そうで、豪華で、目立つのに。何で誰も俺を買おうとしないんだ。もっともっと目立たないと駄目なのか!?ならば、見ていろ……!」

 

 そして次の日、店に出てきた人形を見た人たちは、皆目を丸くして驚きました。大柄な人形は、頭部を別のものに取り替えていたのです。 そしてその反応を見て、人形は得意げに笑いました。

 なにせ、ぎらぎらと強い光を放つ目や牛のような立派な角、烏の濡れ羽色をした絹糸のような髪の毛などをそなえた、この世に二つとないであろう立派な立派な頭です。これならば、今度こそ間違いなく自分は買われるはずだ。みんなが自分を欲しがって、言い争いが始まるかもしれない。だが、それも当たり前だ。それほどまでに自分はすばらしいのだから。

 心のそこからそう信じて、人形は高らかに笑いました。

 

***

 

「店長、あの人形を捨てるんですか?」

 

「そうだ」

 

 店員の質問に、在庫表から目を離さないまま、店長はうなずいた。

 

「大きくて邪魔な剣を持ってきて店の備品を壊したり、最高級の布を勝手に裁断したり……。それでもなんとかおおめに見てきたが、もう限界だ。不格好な腕に、怪物人形用の頭なんてつけて、まるで子供がふざけたあとみたいだ。お客様が気味悪がっていたのをお前も知っているだろう」

 

 陳列棚の最も目立つところに居座る、色々な人形を適当につぎはぎしたような不気味な人形に、眉をひそめるお客は少なくない。あんな気持ちの悪い悪趣味な人形を置いている店にはもう行かない、などという者までいるくらいなのだ。

 

「あんなのはもう人形ですらない。もういらんよ」

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