龍と夜叉   作:雪音

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【第三幕】2人の男、2人の伝説≪後編≫

「銀さーんッ!!」

「何だぁ、新八ィ!!」

 

現在、銀時と新八は攘夷志士と幕府が何らかの取引をすると思われる場所へ向かっている。銀時が運転する原付の後ろに、新八がノーヘルで乗ってる状態だ。スピードもそこそこ出ている。しかしそんな中で…新八はあるものを見つけた。というか…見つけてしまった。

 

「隣を走っているトラックの後ろに、何か引っ付いてるんですけどォ!!」

「おーい、新八くぅーん?神楽を助けに行く前に1人、夢の中ですかァ~?」

「アンタだって見えてるでしょうが!!現実を見ろ!!てか、メッチャこっち見てるんですけどあの人!?」

「目を合わせるな。合わせたら呪われるぞ…」

「アンタは何の話をしてるんですか…!!」

 

呆れながら…しかし、気付いてしまったものは仕方が無いし、見て見ぬフリも出来ない。トラックの後ろに引っ付いている“何か”。それは…

 

「“何か”ではない、桂だ…」

 

攘夷志士の1人、桂 小太郎だった。

 

「おい、ヅラァ!!お前、どういうつもりだコノヤロー!!」

「ヅラじゃない、桂だ!!どうもこうも、目的はお前達と同じだ!!」

「同じって…俺らが何しに行こうとしてるか分かってるわけ?」

「リーダーを助けに行くのだろう?」

「なんで知ってんですか、桂さん!?」

 

ビシッと新八が指差して問えば、フッと得意げな顔をする桂。桂が口を開こうとするが…

 

「新八、お前気付かなかったのか?天井裏に隠れて俺達の話を聞いてたんだぜ、コイツ…」

「え、マジっすか!?てか、アンタ人ん()で何やってんだァァァ!!??」

「すまない新八君、あの場に真選組が居なければ堂々と侵入していたのだが…」

「え、この人サラッと不法侵入発言しましたよ銀さん!?」

「今更だろ、今更!!」

 

何とも異様な光景である。トラックの後ろに捕まっている人物と並走しながら喋るなど…普通ならば考えられない光景だ。

 

「それに…お前達の話を聞く以前に、俺達の元にも情報は来ていた。高杉(やつ)が…手下を使って何か取引をすると…」

「へぇ、幕府が絡んでる割には随分と情報が流れてるなァ!!」

「…銀時、気付いているとは思うがこれは…」

「あぁ、俺達をおびき出してる…。それは間違いねぇな…」

 

それを伝えようと桂は万事屋に向かったのだが、万事屋はもぬけの殻。お登勢に聞けば、銀時は分からないが新八は実家に帰っているという情報を得た。それならそこに銀時も来るかもしれないと思い、新八の家へと向かったのだが…玄関には見知ったパトカー。もちろん、堂々と入る事ができるはずも無く…天井裏に忍び込むという方法を取ったのだ。

 

「しかし、何故リーダーを?」

「神楽は俺達の仲間であると同時に夜兎だ。確かに俺を釣る餌にもなるが、金にもなるんだよ!!ったく、一石二鳥って素晴らしいね!!」

「チッ…何処までも腐っているな…」

「全くだぜ!!それに、あのジャジャ馬が大人しく幕府の言う事なんか聞くかよ!!」

「神楽ちゃんなら…幕府を内側からものっそい勢いで破壊しちゃいそうですね…」

 

想像してゾッとした新八である。そこらに居る攘夷志士達なんかよりも凄いことを仕出かしそうだと思ってしまう。

 

「………銀時、ここは作戦を変更してリーダーを幕府にくれてやらんか?そうすれば、我々の国が戻ってくるやもしれん…!!ここはあえてリーダーを幕府に送り込んで…!!」

「「黙れ、このテロリスト!!却下!!」」

 

名案だと言わんばかりの桂の提案を、光の速さで却下する2人である。真顔で言ってくるから、何処までがマジで何処までが冗談なのか判断に困る。

 

「というのは冗談で…」

「嘘吐け、今のはマジだっただろうが!!」

 

ギャンギャン怒鳴る銀時に「前を向いて運転してください!!」と必死に新八が説得をする。新八の最もな意見に、反論も出来ず…小さな声で「後で覚えてろよ」と言って、視線を前方へと戻した。

 

「ところで新八君。君の家に見知らぬ男が居たが…あれは誰だ?お妙殿の想い人か?」

「違いますよ!!対ストーカー用に雇ったボディガードです!!」

「ほう…。あの男、中々の腕を持っているようだが…」

「何か、元々“喧嘩屋・斬左”って呼ばれてたらしいですよ?」

「喧嘩屋の…斬左…?」

 

その名に、桂は心当たりがあった。斬左の名はそれなりに知れている。まぁ、興味の無い人間にしたら全く知らない名前だろうが、攘夷活動をしている桂は別だ。当然、斬左という腕の立つ喧嘩屋がいるという事も把握していた。

 

「なんだァ?そんな奴居たかァ?」

「って、銀さん気付いて無かったんですか!?」

「お前の家に居た奴らつったら、ゴリラと多串君とお妙とお前と俺と…そういやもう1人居たな…」

「気付いてんじゃねぇか、オイィィィ!!!」

「おい、銀時!!俺を忘れるな!!」

「そしてアンタは張り合うなァァァ!!!」

 

ビシッといつも通りの鋭いツッコミが入る。そういや居たなぁなどと呟きながら、ちらりと桂に視線を向ける。何か…考えているようだった。

 

「ヅラァ、お前器用だな~!!トラックに掴まったまま考え事たァ…!!」

「喧しい!!攘夷志士たるもの、いかなる時でもどんな状況でも冷静に物事を考えねばならんのだ!!そんなことより…新八君の家に居た斬左という男…。確か、赤報隊の生き残りだぞ…?」

 

赤報隊という言葉に銀時は「ん?」と首を傾げた。

 

「赤報隊つったらアレだな…俺達が攘夷戦争に参戦する前に戦ってたっつー…」

「あぁ、少人数の部隊で戦い続けたというあの赤報隊だ」

「あ、それなら僕も聞いた事があります!!確か、赤報隊を率いていた隊長の名前は相楽 総三という…ひ、と……!?」

「どうした、新八君?」

 

新八は自分の口で赤報隊の隊長の名前を言って、あることに気付く。そう…

 

「左之さんの苗字も…“相楽”でした…」

「左之さん?…斬左のことか?」

「はい、本名は“相楽 左之助”さんです!!」

「おいおい、どういうことだよヅラ。赤報隊の隊長さんは子持ちだったのか?」

「いや、それはありえんぞ?結構な若さだったと聞いている…。とてもあんな大きな子供がいるとは思えん…」

「まー、乱れきった世の中ですこと!!」

「アンタが言うなよ!!」

 

左之助と、赤報隊の隊長の苗字が同じだという事に。苗字が同じということはよくある話だが、同じ赤報隊に同じ苗字の人物がいるという偶然が…果たしてあるのだろうか?

 

「まぁ、とりあえずその話は後だ!!直接本人に聞きゃいいだろ!!どぉーせ、お妙の家にしょっちゅう居るんだろうし!!」

「それもそうですね…」

 

しかし、今は赤報隊よりも鬼兵隊だ。目的地もそろそろ近い。

 

「えっと、場所は江戸外れの港でしたよね…?」

「あぁ、そうだ!!ったく…あんなところで何をしようってんだ、高杉の奴は…」

「それは分からん。だが…良からぬ事だろう。ならば、我々が止めねばなるまい…」

「だな…」

 

幼い頃からの友、そして攘夷戦争で背中を預けあって戦った同志。それが…“ある人”の死によって、壊れてしまった。桂は穏健派とは言えど攘夷志士に、高杉は鬼兵隊を再結成して超過激派の攘夷志士に、そして銀時は…自由に生きる万事屋に…。

 

「銀時よ…人とは、本当に分からぬ生き物だな…」

「そーだねぇ…」

「俺はな…お前が一番の危険人物になるだろうと思っていた」

「はぁ?ふざけた事言うなよ、ヅラ!!こーんなにやっさすぃー銀さんが過激派のテロリストなんかになるかっての!!」

「いや、自分で優しいとか…言ってる時点でありえないし…」

「新八くーん?風の音でよく聞こえなかった~!!」

「アンタの耳は本当に都合がいいな、オイィィ!!!」

 

そう…桂がそう思うのには理由があった。

 

「…お前は……」

 

高杉・桂・坂本・銀時。この4人の中で世界を恨んでいるとすれば…坂本を覗いた3人だ。この3人には共通の事件が起きた。しかしこの3人の中でも、最も世界を恨んでいるのは…他の誰でもない、銀時だということを桂は知っている。それを口にしようとしたが…

 

「どうしたんですか、桂さん?」

 

今は新八が居る。そして…銀時は何も言わない。ただ前を向いて運転をしているが…その表情は冴えない。桂が言わんとしていることが分かっているのだろう。それ故に、「今は何も言うな」と…その表情が物語っていた。

 

「いや、何でもない…」

「……?」

 

恐らく、誰にも何も話してはいないのだろう。ただ、自分が攘夷戦争に参加していた事と白夜叉と呼ばれていたということしか。だからこそ、銀時は桂の言葉を濁すようにふざけて返事をしたのだ。新八は相変わらず不思議そうに桂を見つめていたが、フゥと小さく息を吐いて銀時の調子に合わせる。

 

「考えてもみろ。お前は白夜叉と言われた男だぞ?高杉なんかよりもずっと危険人物だと思っていた」

「言ってろ、ヅラ!!実際、俺よりも高杉の方がずっと過激になっちまったじゃねぇか!!しかも、鬼兵隊を復活させただと?ったく…本当に何を考えてやがるんだアイツはよォ!!ヅラ、何か知らねぇか?」

「俺が知るわけ無いだろう!!それからヅラじゃない、桂だ!!」

「同じ攘夷志士なのに知らねぇのな」

 

幼馴染の中でも感情に素直だった高杉。だからこそ、彼は今、過激派攘夷志士として世界を壊そうとしているのかもしれない。師を殺された恨みを晴らす為に。しかし、分らない事も多々あった。

 

「大体よォ、なんで今更俺達をおびき出してんだ?」

「それは分からん。あわよくば、鬼兵隊に入れようという魂胆なのだろう。かつての同志であれば…裏切りのリスクも少ないと考えたか、それとも“白夜叉”としてのお前の力を欲しているか…」

「ありがた迷惑だっつーの!!」

 

それは何故、今更になって銀時をおびき寄せるような事をしているのかということだ。直接万事屋に訪れるのではなく、神楽を誘拐してまで銀時を誘き出す理由。攘夷志士達に情報を垂れ流しにしてまで桂を誘き出す理由。高杉の考えが分からない。あまり迂闊に動く事は出来ないが、かといって仲間を見捨てることも当然出来ない。

 

「ま、なんにしても俺達はただ神楽を奪還できればそれでいい!!なっ、新八!!」

「もちろんですよ!!」

「うむ、俺も同感だ」

 

顔を合わせれば、お互い素直になれず何だかんだと言い合いにもなるが、誰か1人掛けても万事屋は成り立たない。それは、神楽然り、新八然り、そして当然ながら銀時然りなのだ。

 

「ところで銀時、お前…まさか木刀しか持ってきていないわけではあるまいな?」

「あぁ?俺の武器はいつだって“洞爺湖(こいつ)”に決まってるだろ!!」

「真剣を持ってきておらんのか!?」

「それだったら新八だってそうだろうが!!」

「はいぃぃ!!??なんで僕にまで飛び火するんですか!!大体、真剣なんて持ってるわけ無いじゃないですか!!廃刀令のご時世ですよ!?」

「そうそう、攘夷志士じゃあるめぇし!!」

 

しかし…と銀時は思う。高杉相手に、万が一戦う事になったら…木刀では勝てないだろうと。

 

「ま、何とかなるさ」

「お前はいつでも楽観的だな…。攘夷戦争の時も、お前は勝手に進軍して…」

「あーっ、あーっ!!何でそんなどうでもいい事ばっか覚えてるんだよ、テメェは!!だからヅラなんだよ!!」

「ヅラじゃない桂だ!!というか、何の関係があるのだ!?」

 

そんな会話を繰り広げている間に、目的の場所へと到着する。銀時は適当なところに原チャリを停め、桂はスタンとトラックから飛び降りる。

 

「ところで桂さん、今日…エリザベスは…?」

「エリザベスは集会場に置いてきた…。今回はあまりにも危険すぎるからな…」

「つーか、目立つだろ。あのオバQ…」

「オバQじゃない、エリザベスだ!!」

「あーはいはい、分かりました。とりあえず…どこかに身を潜めて様子を伺いましょう…」

 

新八の言葉にそれぞれの気が引き締まる。

 

「さぁて…高杉は来るかねぇ…?」

「それも奴次第だ。手下しか動いていないのであれば、来る事はないだろう。しかし…」

「桂さんと銀さんを狙っているなら…」

「心配するな、新八!!とっとと神楽を見つけて、とっとと帰ぇるぞ」

「はい…!!」

 

そして3人は、一足先に取引が行われる港へと足を踏み入れた…。

 

 

 

「おーい、剣心いるかー?」

 

その頃、一通りの話を終えた左之助は志村家から自分が身を置いている長屋へと戻っていた。もちろん、剣心に先ほどのことを伝える為だ。

 

「おろ…左之…?お主、今日は道場に行くと言ってはござらんかったか?」

「それがよ、予定変更だ。迎えが来てるぜ?」

 

クイッと左之助が顎で外を指す。首を傾げながらもそれに促されるように剣心が外に出れば、そこには見知った真選組のパトカー。

 

「…近藤殿、それに土方殿も…。何か緊急事態でも…?」

「あぁ、旦那。例の件だが、急遽変更になっちまった。今から取引が開始されるらしい…」

「今から…!?何故(なにゆえ)そのような事態に…?」

「とりあえず、話は現場に向かいながら話すって事で…。今は時間が惜しい」

 

土方に促されると、剣心は頷きパトカーの後部座席に乗る。それに続くようにして、左之助も乗った。

 

「何だ、斬左よ。結局お前も来るのか?」

「ったりめーだろ!!こんな面白そうな喧嘩を剣心1人に預けられるかってんだ!!」

「おい、喧嘩じゃねぇつってんだろうが…!!」

 

ハァと溜息を吐きながら、土方は煙草に火をつける。

 

「それで…一体何が起きたでござるか?」

「あぁ、実は…監査方の山崎から報告が入ってな。奴ら…“特上品”を手に入れたらしい」

「特上品…でござるか…?」

 

イマイチ話の掴めない剣心は首を傾げる。しかし、ミラー越しに見える近藤と土方の表情は、真剣そのものだ。

 

「実はとある筋からの情報でな…。昼間、旦那が助けたという天人の女から情報を得ることが出来たんだ。旦那、昼間にチャイナ服を着たバカ強ェガキと一緒に攘夷志士を片してくれただろ?」

「確かにそうでござるが…それとこれと、何の関係が…?」

「旦那が倒した攘夷志士と今回の取引には関係ねぇんだが…どうやら、その一部始終を今回の取引に関係する幕府の人間が見ていたらしく、天人の女にそのガキのことについて詳しく聞いていたらしい」

「…神楽殿のことについて?」

 

不審げに歪む剣心の表情を見て、いったん…土方は言葉を止める。そして…再び、静かに口を開いた。

 

「聞き出した内容というのは、神楽の特徴についてだ。傘を差して戦う滅茶苦茶強いガキ、そしてその肌は透き通るような白さ…。奴らが欲している情報は“夜兎族”の情報だ」

「……では、まさか特上品というのは…!?」

「あぁ…あの神楽だろうって事で結論付いた」

 

確かに、神楽は自ら夜兎族だと言っていた。聞いて、神楽の強さに納得したぐらいだ。それに、夜兎族が攘夷志士や裏の世界で生きる者達の格好の餌食になっていることも知っている。

 

「それで、神楽殿は…!?」

「神楽を預かってる男の話によれば、行方不明らしい。こりゃもう、奴らに攫われたと考えて間違いねぇだろ…」

 

クッと剣心が表情を歪める。神楽と分かれたとき、もう日も暮れかけていた。自分が家まで送っていればこんなことにはならなかったのではないかと思うと…悔やまれる。

 

「まぁよ、何であろうと助けりゃいいだけの話だろ?」

「あぁ、斬左の言う通りだ。言う通りなんだが…」

 

近藤が言葉を濁す。土方の表情も…あまり冴えない。

 

「何か他に問題が…?」

 

あまり、いい予感はしなかった。剣心の問いに、土方が口を開こうとした時…

 

『局長、副長!!山崎です!!』

 

攘夷志士達の動向を見張っていた山崎から無線に連絡が入る。

 

「おう、そっちの様子はどうだ」

『ついさっき、万事屋の旦那と新八君が到着しました!!』

「そうか…って、もうかよ!?早くね!?ちょ、早くね!?アイツら原チャリで向かったんだよね!?」

「あの野郎…原チャリ何キロぶっ飛ばしやがったんだ…!!」

『さすが旦那ですねぇ…』

「馬鹿野郎、感心すんな!!」

『す、すみませんんんっ!!!』

 

こりゃ後でしょっ引く必要があるな…などと内心思いつつ、土方は山崎に先を促す。

 

『現在はまだ、旦那達も動きを探っている状態で動いていません。ただ…』

「ただ…なんだ?」

『どういうわけか、この場に桂も居まして…』

「桂だぁ!?なんで奴が居んだ!!」

『わ、分かりませんよ!!ただ、旦那と一緒に行動しています!!』

「万事屋の野郎、桂を呼んだのか…!?」

「いや、冷静になれトシ。いくらなんでも、この短時間で何処にいるかも分からない桂を呼ぶにはあまりにも手際が良すぎる…。これは、桂側も何らかの情報を得ていたと思うほうが妥当だろう…」

「まぁ、確かにな…」

 

高杉との問題もあるというのに、その場所に桂も居合わせたとなれば事は更に大きくなりそうだと溜息を吐く近藤だったが、それとは相反して土方はニヤリと口角を吊り上げている。

 

「まぁ、丁度いい。高杉も桂もまとめてしょっ引くいい機会だ…」

「まとめてって、お前簡単に言うけどなァ…」

「万事屋が言ってただろうが。高杉の方はサシでケリをつけるって。だったら俺達はその後に、奴らを逮捕すりゃいいだけの話だ」

「だが桂はどうする?万事屋と一緒にいるとあっては、下手に手出しが出来んぞ?」

「なぁに、港から離れた場所で非常線を貼れば…引っ掛かるだろう。総悟辺りに行かせりゃ、張り切るぜアイツ?」

 

フーッと紫煙を吐きながら言えば、それもそうかと近藤が笑う。

 

「ザキ、お前はそのまま敵の動きを見張れ。動きがあったら逐一こっちと…万事屋にも伝えろ。…その時、桂はあえて見て見ぬフリで構わねぇ。ちなみに緋村の旦那は既に俺達が連れてそっちに向かってるから、その件については動かなくて大丈夫だ」

『分かりました』

「あとお前の言っていた“特上品”だが…どうやら万事屋んとこの神楽のようだ」

『え、神楽ちゃん…ですか!?』

「正しくは“夜兎族”を欲していたってところだな。そっちについてはまだ確信を突いてねぇから、もう少し調べてくれ」

『了解です。その情報も旦那達に伝えますか?』

「むしろ、優先的に伝えてやれ。奴らも気が気じゃねぇだろうよ…」

『はい!!』

 

無線を切ると、ガシガシと頭をかきながら心底めんどくさそうに土方が溜息を吐いた。

 

「高杉だけかと思ったら桂も一緒だと…?ったく、なんでアイツはいつもいつも、こう面倒ごとを増やしやがる…」

 

しかし、それを絶好のチャンスに変えるのもまた銀時の凄さだ。故に、口で言うほど近藤も土方も悲観はしていなかった。

 

「近藤殿?今の話からすると、神楽殿を攫ったのは…」

「あぁ、すまん。話が途中だったな。チャイナさんを攫ったのは、超過激派の攘夷志士…高杉 晋助の一派だ」

 

高杉という名に、思わず剣心は何とも言えない感情を抱く。以前、松平に会ったとき…今、暴れまわっている高杉と桂は、剣心がよく知り恩を感じていた、高杉 晋作(たかすぎ しんさく)桂 小五郎(かつら こごろう)の血縁と聞いていたからだ。攘夷志士として動き回っている事は知っていたが、真選組がこんなにも敵視するほどとは思っても居なかった為…内心は複雑である。

 

「よぉ、お2人さんに聞きてぇんだが…」

 

今まで黙って近藤達の話を聞いていた左之助は静かに口を開く。土方が「何だ?」と先を促せば、少し思案した後…聞く。

 

「アンタらの言ってる、万事屋ってぇのは…さっきの銀髪の事か?」

「そういえば、斬左は新八君の家でも結局万事屋とは話さなかったな…。そうだ、銀髪天パのあの男が万事屋こと坂田 銀時だ」

 

坂田 銀時の名に、僅かに剣心は反応を見せたが…そこにいる誰もが気付かないほどの小さなものだった。いや、何となく予感はしていたのだ。神楽から渡された名刺にも万事屋と書かれていた。そしてその神楽が攫われた。その神楽を救う為に動いている万事屋。必然的に、銀時に辿り着く。そのまま、剣心は口を挟むことなく会話に耳を傾ける。

 

「その男…強ぇのか?」

 

左之助の表情は真剣そのものだ。当然といったら当然だろう。これから、超過激派で名高いあの高杉と一戦交えようというのだから。しかも、その高杉張本人とサシの対決をしようとしているくらいだ。生半可な強さでは返り討ちに遭う。そうなってしまっては、救えるものも救えない。それを危惧して左之助は問うたのだ。しかし、間髪入れず…近藤と土方が断言する。

 

「「強い」」

 

ほぼ即答の答えに、流石の左之助も目を見開いて驚く。

 

「そ、そんなにか!?てか、即答って…!!」

「万事屋は強いぞ。そこいらの攘夷志士達なんかよりも…遥かに」

「もし、今…高杉と対等に戦える奴がいるとすりゃあ、緋村の旦那か万事屋くらいだろう。もっとも…桂の強さがどれほどのものか分からねぇから、そっちに関しちゃ何も言えねぇが…俺や近藤さんを含めた真選組の誰よりも…強い」

「マジかよ…!!何モンだそいつ…!!」

 

あの鬼の副長と攘夷志士達から恐れられている土方が、自分を含めた“真選組の誰よりも強い”と言っているのだ。相当なものなのだろうという事は、左之助にもすぐに伝わった。一連の会話を黙って聞いていた剣心は…静かに口を開く。

 

「“銀色の髪を血に染め、戦場を駆けるその姿はまさしく夜叉”」

「剣心?」

 

その言葉にハッとなって近藤は剣心の方に顔を向ける。運転している土方も、ミラー越しに剣心の方に視線を向けた。剣心もまたそんな2人を真っ直ぐと見つめている。その視線はとても強く…

 

「その者、“白夜叉”であろう…?」

 

その言葉も、とても強いものだった。剣心の言葉に、近藤・土方両名は何も言葉が返せなかった。暫く…沈黙が続く。だが土方の小さな溜息で、それは崩れた。

 

「旦那の言う通りだ。坂田 銀時…アイツは、攘夷戦争後期で“白夜叉”と呼ばれていた馬鹿強い伝説の男だ。今じゃ、見る影もねぇ掴み所のねぇ野郎だけどな」

 

土方も、白夜叉としての銀時を詳しく知るわけではない。ただ、攘夷戦争で恐ろしく強かったということぐらいしか知らないのだ。それは土方だけではなく、近藤もまた然りだ。

 

「しかし旦那、何故奴が白夜叉だと分かったんだ?万事屋とは会った事ねぇだろ?」

 

今朝も、銀時は剣心が屯所に訪れる前に帰って行った。故に、顔を合わせることは無かったはずだ。だが、剣心は首を横に振る。

 

「屯所の前ですれ違ったでござるよ。腰に木刀を携え、着流しを着た銀髪の男と…」

「じゃあ丁度、旦那と万事屋が入れ違いになったって事か…」

「よくすれ違っただけで分かったな剣心?俺なんて、今お前が言わなかったら思い出せなかったぜ?」

 

確かに新八の家で、攘夷戦争で有名になった男が居たはずだと思案はした。だが結局思い出せず、考えるのを諦めたのだ。改めて左之助は新八の家に途中から入り込んできた銀髪の男を思い出す。

 

「感じたでござるよ、あの男の強さを。見てくれは確かに、ただの侍のようにも思えたが…内に強い思いを秘めていると…。それに、白夜叉のことは何度か新聞で見たことがあったでござるからな…」

「なるほどねぇ…。だが、とてもそんな強そうな男には見えなかったけどなァ…」

 

確かに、どこか強い信念は持っているように感じだ。だが、気だるそうな()とその口調からはとても、伝説の男“白夜叉”は連想できない。いや、そこから銀時と白夜叉を結び付けろという方が無理な話なのだ。

 

「まぁ、奴は基本ダラダラした生活をしてるからな。俺達も始めて知ったときは、そりゃ驚いたさ…」

 

ハハハッと豪快に笑いながら近藤は言う。しかし次の瞬間、その瞳は真剣なものとなり…改めて口を開く。

 

「だがな、アイツはここぞというときには…変わる男だ。いつも死んだ魚のような目をしてるがな、あれがギラギラと輝く時がある。どういうときか分かるか?」

「想像も出来ねぇ。どんなときだよ…」

 

死んだ魚のような目が輝くなんて想像もつかないと左之助が言うと、土方が紫煙を吐き出しながら言った。

 

自分(テメェ)の大事なもんを傷付けられたり、かっ攫われたりしたときだ。そして、絶対に護ると決めたもんを護るときだ…」

 

その時の銀時は、まるで別人のように瞳が変わる。それは時に、恐ろしく感じるときすらあるのだ。

 

「攘夷戦争で“白夜叉”と恐れられたアイツが、今…何を思っているかなんて俺達には分からんよ。だがな…」

 

近藤は思いをはせるように、窓の外に視線を向けた。

 

「時々、どこか遠くを見つめながら何か想いに耽っているときがあるらしい。万事屋の子供達がそう言っていた。理由は分からねぇ。いや…聞けねぇって言ってたな。その表情があまりにも悲しすぎて…」

 

銀時の過去を知るものは、殆ど居ない。ごく僅かなことしか知らないのだ。彼が白夜叉であること、攘夷戦争に参戦していた事、攘夷志士である桂・高杉がかつての仲間であったこと、快援隊社長の坂本と攘夷戦争で共に戦っていた事…。この程度のことしか分かっていないのだ。何故、攘夷戦争に参戦したのかも、桂達との繋がりが一体どのようなものなのかも、その繋がりが何を理由に途絶えてしまったのかも。

 

一切、銀時は語ろうとしないのだ。

 

「ただ…チャイナさんと新八君が一度だけ、万事屋に心の底から恐怖を感じたことがあるらしい」

「新八と…」

「神楽殿が…?」

 

暫くの沈黙、そして…

 

「奴の中に眠る“白夜叉”を見たときだ…」

 

静かな声で、近藤がそう言った。イマイチ理解が出来ない左之助は腕を組み、首を傾げていたが剣心には何となく…その意味が分かるような気がした。

 

(…彼が“白夜叉”に姿を変える…。それは即ち、拙者が“人斬り抜刀斎”に姿を変えるということと同じ…)

 

攘夷戦争を終えた後、剣心は刀を捨てたため…もうずっと人を殺めてはいない。だがもしこの手に真剣を持ち、人を殺めれば…またズルズルと人斬りの道に引きずり込まれるに違いない。

 

「何だよ、万事屋ってのと白夜叉は同一人物なんだろ?」

「何というか…同じであって同じじゃないと言うべきか…」

「意味が分からねぇな…」

 

ますます頭を悩ませる左之助に、今度は土方が口を開く。

 

「理性がぶっ飛んじまったんだと。ただ目の前の敵を殺す事しか考えねぇ…それこそ“夜叉”のような姿になっちまったと…。どうやら、敵がガキ共を手に掛けようとした時らしいんだが…その時に、完全に理性がぶっ飛んじまったんだろうな…。ガキ共が止めに入って我に返ったときは、自分は満身創痍、辺りは瀕死の重傷を負った敵だらけだったそうだ…」

「…なるほど…」

 

納得したように剣心は頷く。自分の場合が真剣で人を殺めた時に理性が切れてしまうなら、銀時は仲間を目の前で傷付けられたり殺された時。

 

「どうやら…拙者とその者…考え方だけでなく、そういった所(・・・・・・)も似ているようだ…」

「ん、どういう意味だよ剣心?」

 

何でそうなるんだと左之助が聞けば、剣心は苦笑を零す。

 

「拙者もいつ、“人斬り抜刀斎”に戻ってもおかしくは無い…ということでござるよ」

「…けど剣心は剣心だろ?今は人を殺してるわけでもねぇんだし…」

 

やはり納得が出来ないと腕組をする左之助に、やっぱり剣心は苦笑する事しか出来なかった。こればかりは言葉では表現がしにくい。恐らく、どんなに口で説明しても分からないだろう。その姿を、実際に見ない限りは…。

 

「まぁ、何となく旦那の言わんとすることは分かるよ」

 

シンとした空間に響くのは近藤の声。ポリポリと頭を掻きながら…

 

「時々…総悟がそういう状態に陥るからな…」

 

少し言いにくそうに、そう言った。沖田は真選組の中で(ひい)でて強いが、それと同時に感情の起伏も激しい。特に近藤の命が掛かると、誰彼構わず刀を振るう。それは直結して近藤への忠誠にも繋がるのだが、ギラギラとした目はまるで獲物を狙うハンターのようにも思える。

 

「流石に、副長官殿に刃を向けた時は肝が冷えた…」

 

今思い返してもゾッとすると近藤が言うと、それを思い出したらしい土方はフンと小さく鼻で笑う。

 

「俺ァ…あの時ほど、総悟を褒めたいと思ったこたぁねぇがな」

「トシ…」

「元新撰組だかなんだが知らねぇが、近藤さんを侮辱した…。総悟が刃を向けなかったら、俺がそうしていたところだ…」

 

思い出しただけでも虫唾が走るとハンドルを握る手に力が篭る。そんな土方の言葉に反応したのは、他の誰でもない剣心だった。

 

「元…新撰組、でござるか…?」

「あ、あぁ…俺達の方じゃなくて旦那がよく知る方の新撰組だ」

「ということは…あの頃の…」

 

新撰組隊士の殆どは攘夷戦争で命を落とし、生き残った者は幕府の手によって処刑されたと聞いていた。しかし、その生き残りが幕府の…しかもあろうことか、今の真選組の直属の上司とは一体、どういうことなのだろうか?

 

「てぇかよ…、ソイツも誇りってもんがねぇのかねぇ…?言ってみりゃあ、仲間を殺した奴らにヘコヘコ頭を下げてるってワケだろうが…」

 

自分だったら絶対に無理だと左之助が吐き捨てると、近藤は「いや」と首を横に振る。

 

「あの方は…大人しく従っているというわけではないらしい。あの目は…何かとてつもない事を考えている…そんな目だ…」

「内側から幕府を消そうってかい?まぁ、それも有りだな」

 

ククッと楽しげに笑う左之助を「笑い事ではないんだがなぁ」と近藤は肩を落とした。そんな彼らのやり取りを聞きつつ、剣心は考える。

 

(新撰組の生き残り、か…。果たして誰だ?一番隊組長だった沖田 総司(おきた そうじ)は剣の腕は凄かったが、肺を患っていたはず。他の隊の者達ももちろん強かったが…拙者が聞いた限りではことごとく戦死、あるいは処刑されたと…)

 

そこまで考え、ふと…1人の男の姿が脳裏を過ぎった。何度も剣を交えた三番隊組長の男。その男だけ…生死が分かっていない。単に自分の情報不足だと…そう思っていたが、もしやと剣心は思う。

 

「近藤殿、その副長官殿の名前は分かるでござるか?」

「あぁ、もちろんだが…どうした、旦那?」

「拙者と新撰組は切っても切れぬ(えにし)でござったからな。もしかしたら知っている者かもしれぬと…」

「なるほど…」

 

剣心の言う事も最もだと近藤は頷く。かつての新撰組と剣心の関係を例えるならば、今の真選組と万事屋のようなものだろう。もっとも、前者と後者では敵対云々では違うので、根本的には全く別なのかも知れないが妙な(えにし)で結ばれていることは確かだ。

 

「どの隊に所属していたかは知らんが、名は“藤田 五郎(ふじた ごろう)”だ。どうだ旦那、知った名か?」

「藤田…五郎…」

 

予想とは違う名前に若干戸惑う剣心である。少なくとも、そのような名の隊長は新撰組には居なかった。

 

「どうやら、その様子じゃ知らねぇらしいな…」

「左之の言う通りでござるよ」

 

ならば、各隊の下についていた隊士達の中の誰かかもしれない。各隊の隊長とはそれぞれ刃を交えたことがあるため、全員の顔と名前を把握している。だから、すぐに知らない者だと分かったのだ。

 

「まぁ、新撰組つっても結構な人数いたんだろ?」

 

土方の問いに剣心は「あぁ」と頷く。

 

「だったらいちいち名前なんざ覚えちゃいないだろうよ。まぁ、隊長格となれば話は別だろうが…そんな名前の隊長はその様子じゃいなかったみてぇだしな」

 

剣心がかつて、新撰組と壮絶な死闘を繰り広げた事は松平を通して話に聞いたことがあった。だから、隊長格の顔と名前を覚えていないという事は流石に無いだろうと思ったのだ。

 

「もしくは名を変えているか…」

 

思案しながら呟く近藤に、確かにその可能性もあると…同じように思案する剣心である。剣心の持つ“緋村 抜刀斎”が志士名であるように、“藤田 五郎”という名も偽りで有る可能性が高いのだ。ただでさえ、元新撰組という立場。そのままの名では、幕府が決して新撰組の介入を許したりはしないだろう。

 

「まぁ、分からんことを考えても仕方ないだろうよ。今は…」

「そうでござるな」

 

近藤の言葉に全員が頷いた。今は得体の知れぬ副長官の事を考えている場合ではない。これから起こるであろう戦いについて考えねばならないのだ。

 

「とりあえず、あまり近づきすぎると流石に俺達も言い訳が厳しくなるからある程度離れたところで2人にはパトカーから降りてもらうが…いいな?」

「承知」

「ま、しょうがねぇわな…」

「これから後のことは旦那と斬左に任せるが…」

 

一度、土方はそこで言葉を止める。どうした?と近藤が問えば、思案しながら溜息を吐いた。

 

「問題は万事屋達と桂だ…」

「あぁ、そっち…」

 

すっかり忘れていたと近藤が苦笑する。どうしたものかと思案する。

 

「ただでさえ万事屋は幕府から目を付けられている。それに加えて桂が絡んだとあっちゃ…流石にな…」

「ここは暗闇でよく見えなかった、相手は偽名を使っていて分からなかったということにしてはどうだろう?」

「それは無理がねぇか、近藤さん…」

 

すでに幕府のお偉方の事だ。桂と銀時の関係についても調べはついているはず。銀時には幕府が絡んだ取引だと言ってあるから、下手に動いたりはしないだろうが…そこに桂が加わったとなれば話もまた別だろう。

 

「とりあえず…」

「トシ、何を…?」

 

土方はおもむろに無線を取り、誰かに繋ぐ。相手は…

 

「おい、総悟!!聞こえるか!!」

『そんなデカイ声を出さなくても聞こえてますぜィ、土方さん』

 

沖田だった。めんどくさそうな声に頬を引き攣らせる土方だったが、ゴホンと咳払いをして気持ちを切り替える。

 

「ザキから連絡があった。万事屋と一緒に桂が動いているらしい」

『それ、俺も聞きやした。どうするんでィ?旦那と桂が一緒にいるとあっちゃ、無理に桂を捕まえる事はできやせんぜィ?』

「あぁ、そこでだ。一番隊と二番隊で港から少し離れたところに非常線を張れ。万事屋達と桂が別れたところで奴を捕まえる」

『なるほど、そいつァ名案でさァ。ただ、土方コノヤローに言われて動くってのが気に食わねぇ…』

「総悟、テメッ…!!」

 

無線を握りつぶしそうな勢いの土方である。後部座席で土方と沖田のやり取りを見ていた剣心と左之助は「相変わらずだなぁ」などと暢気なことを考えていた。近藤は隣で「また始まった」と頭を抱えている。

 

『けどしょうがねぇや。土方さん…手柄は俺達が貰いやすぜィ』

「好きにしろ」

『そして副長の座も俺が貰いやす』

「ふざけんな、バカヤローッ!!!!」

 

今、沖田がどんな顔をしてそんなことを言っているのか手に取るように分かる。それ故、土方の怒りにも拍車をかけた。ガチャンと投げるようにして無線を切ると、「絶対に殺す」などと物騒な事を呟く土方である。まぁ、これも毎度の事なのでパトカーに乗っている者達は「あぁ、またか」程度にしか思っていない。

 

「喧嘩するほど仲がいい、でござるか…」

「旦那、冗談でもよしてくれ…」

 

土方の言葉に思わず苦笑を零す剣心である。

 

「ま、まぁとりあえずこれで…桂の方は総悟が何とかしてくれるだろう…」

 

あとは銀時が全てを一任してくれと言っていた高杉だけだ。

 

「そもそも、高杉と万事屋殿は元々仲間だったのではござらんか?」

 

ふと…これまでのことを考えた剣心は疑問を抱く。桂、高杉、坂本、そして白夜叉こと銀時は同じ(こころざし)の元、天人を殲滅していった同志だったはず。話からするに、桂と銀時が共に行動している事からして、まずこの2人の友好関係は途絶えていないのだろう。ならば、高杉はどうなのだろうか?

 

「確かに…万事屋から攘夷戦争の時のこたぁ殆ど聞いた事ねぇが、前期の攘夷戦争で長州藩・薩摩藩・土佐藩・新撰組、中期で赤報隊と名が上がるように、後期では奴らの名前と高杉が率いていた鬼兵隊が有名だ。この事からしても、万事屋と高杉は確かにその当時は仲間だったんだろう。だが…」

 

ふと、新八の家で交わした時の銀時の言葉とその様子が土方の脳裏を過ぎる。

 

 

――万が一、高杉と俺が接触した時は…俺達には一切関わるな。これは…俺1人でケリを着ける…

 

 

「今は…そうでもないらしい…」

 

あの時の銀時からは僅かながらに殺気すら感じた。少し前の夏祭りで高杉一派がけしかけた機械(からくり)技師との騒動。そこに銀時が絡んでいたことを知ったのは、事件から数日経ってからの事だった。探りを入れていた山崎が偶然目撃した時の、高杉と銀時の様子は…とても再会を喜んでいるようではなかったと言う。その事からしても、高杉一派と銀時は既に決裂していると見て間違いないのだろう。

 

「桂と万事屋は…まぁ仲良くというわけではないらしいが、それなりの関係ではあるようだしな。桂が過激派から穏健派になったのも万事屋の影響らしい」

「へぇ…あの銀髪がねぇ…」

 

人は見かけによらないもんだなぁと呟く左之助に、「テメェも似たようなもんだろうが」と呆れたように土方が言う。

 

「更に…坂本との関係は…まぁ、友好といった感じなんだろうな。もっとも坂本は、現在攘夷活動は行っていないから真選組はノーマーク。奴は快援隊の社長となり、天人と人間の間で売買取引を行っている。それにより、違った方法で世を正そうとしている……らしい」

「らしい、というのは?」

「万事屋に聞いた話だ。野郎の話はいつも肝心な部分が抜けてやがるから解釈すんのに手間がかかんだよ…」

 

その度に、「もっと詳しく」「これが精一杯」「いやまだ何かあるだろう」「そういえばあったような」「それを教えろ」「思い出せない」…の繰り返しだ。1つのことを聞くのにこの会話を何度繰り返すだろうか?思い出しただけでも溜息が漏れる土方である。

 

「まぁ、万事屋も大概いい加減な男だからなァ!!」

 

豪快に笑う近藤であるが、その話を引き出す土方にしてみれば正直笑えない。勘弁して欲しいというのが本音だ。

 

「最も…本当に思い出せないのか、思い出せないフリ(・・・・・・・・)をしているのかは定かじゃねぇが…」

 

いつも肝心なところで思い出せないとか、そんなことあったかなとか…そういって銀時ははぐらかす。それは本人が意図的にそうしているようにしか思えないのだ。

 

「人にはそれぞれ語りたくない過去もあるでござるよ。万事屋殿にもそういったものがあるのでござろう…」

「野郎に語りたくない過去、ねぇ…」

 

想像がつかないと思う反面、白夜叉と呼ばれることを極度に嫌う銀時を思い出す。心底嫌そうな顔でやめてくれと言っていた。それに、攘夷戦争以前の話は頑なに話したがらない。聞こうとしても銀時が適当に話をはぐらかしてしまうのだ。

 

「まぁ、人間誰しもそういう話はあるだろうさ。トシ、お前にだって話したくない過去の1つや2つあるだろう?」

「……そうだな…」

 

近藤に言われ、脳裏を過ぎったのは総悟の姉である沖田 ミツバとの事。武州の時から共に居る近藤や沖田ですら、2人の関係はあまり深く知らない。それを見越して近藤はあえてそう言ったのだ。言われればもちろん、否定できるはずも無く苦虫を噛み潰したような表情で肯定する。

 

「ほぉ~、鬼の副長さんにもそういうもんがあるんだねぇ…」

「悪ぃかよ」

 

左之助に茶化され、更に不機嫌に拍車が掛かる土方である。

 

「………!!近藤殿、土方殿!!あれは…!?」

 

土方が左之助に何か言い返そうとした時、剣心が声を荒げた為それは中断となる。と同時に、全員の視線が剣心の指差した方へと向けられた。土方は前方を見つつ、チラリとそちらに視線を向ける。

 

「宇宙船…だな」

「あぁ、もしや…鬼兵隊か!?」

「ほぉ、立派なもんを持ってるねぇ…」

「あの旗印は何でござろうか…?」

 

旗印?と近藤が首を傾げると、舟の側面に何か刻印されていると剣心が説明する。しかし、残念ながら現在地からそれを確認することは出来ない。

 

「剣心、お前…視力スゲェな」

「そうでござるか?」

 

正直な話、宇宙船の旗印まで確認が出来たのは4人の中で剣心だけだった。別に他の者達の視力が低いというわけではない。剣心が特別良すぎるのだ。

 

「旗印は分からんが…まぁ、高杉一派の船と見てまず間違いないだろう」

「こりゃ、先に万事屋達が動きそうだな…」

 

できれば剣心達と合流し、共に行動というのが近藤と土方の作戦だったのだが…それを銀時に伝えていない。動きがあればすぐにでも銀時達は行動に出るだろう。

 

「山崎を使って万事屋達を待たせるか?」

 

近藤の言葉に思案する土方である。本来であれば待たせるのが得策だが、今の銀時の心情を思うと…待たせるというのはあまりにも酷だ。何せ、未確認とはいえ仲間である神楽を人質に取られている可能性が高いのだから。

 

「いや…ここは万事屋の判断に任せる。野郎も神楽をかっ攫われて、冷静でいられるほど出来た奴じゃねぇことぐらい、近藤さんも分かってんだろ?」

「…だな」

 

新八の家ではいつものようにノラリクラリと話していた。しかし、そこそこの付き合いである近藤と土方は見抜いていた。銀時が…余計な心配を掛けないようにしているということに。あの場には、戦いとは全く無縁の妙が居た。それを思い、銀時は悟られないようにしていたのだろう。揺らぐ気持ちを必死に抑え込んでいたに違いない。

 

「まぁ、万事屋は心配いらねぇだろ。桂も一緒だし、新八もいる。…新八の剣も中々だ」

 

たった3人、されど3人。この3人は決して弱くは無い。高杉一派の力がどれほどのものか分からないが、それでも大丈夫だと…そう言い切れる。

 

「よし、ポイントに到着だ。旦那、斬左…悪いが…」

「ここまでの案内、かたじけない」

「いっちょ暴れてくるからよ!!」

 

そう言って走り出そうとした左之助を土方が寸前で止めた。

 

「んだよ!!まさか、今更になって行くなとか言うんじゃねぇだろうなァ!!」

 

どんどんと離れていく剣心の背中を見つめながら問い詰めるように土方に聞けば、彼は無言で刀を差し出した。

 

「…おいおい、俺ァ刀は使わねぇぜ?」

「誰がテメェにくれてやるって言った。…万事屋に渡してくれ」

「あの銀髪にか?いいのかよ、廃刀令のご時世に…」

 

驚いたように聞けば、土方は「あぁ」と短く返す。そして…

 

「万事屋……いや、銀時だから(ソイツ)を預けられる。それに、高杉と接触するかもしれねぇのに…木刀じゃ流石に無理がある」

 

だからこれを渡してくれ、と土方は左之助にそれを託す。

 

「スゲェな、真選組にここまで見込まれる男ってぇのもよ…」

「緋村の旦那、それから銀時だからこそだ」

 

フーッと紫煙を吐きながら笑う土方になるほどと左之助も笑った。

 

「確かに預かった!!じゃーな!!」

「斬左!!暴れるのはいいが程ほどにな!!」

 

走り去っていく左之助の悪一文字を見つめながら、近藤と土方は思う。

 

「悪一文字なんざ似合わねぇ野郎だ」

「あぁ、トシの言う通りだ」

 

先を走っていた剣心に何とか追いついた左之助。その手にしている刀に、剣心は胡乱気に尋ねる。

 

「左之、お主…刀を使うでござるか?」

「いーや、俺用じゃねぇよ。銀髪に餞別だとさ」

「…万事屋殿に?」

 

驚いたように左之助が握る刀を見つめる。彼は腰に木刀を下げていた。それは自分と同じく不殺(ころさず)を貫くためだと思っていた。しかし、真選組が当たり前のように刀を託すという事は…恐らくは違うのだろう。

 

「そういうところは拙者と違うのでござるな…」

「ん、何か言ったか?」

「いや…」

 

とりあえず急ごう、と剣心と左之助は走る速度を上げる。目的地はもちろん、取引が行われる港。

 

「宇宙船は迷うことなく港に向かっているでござるな」

「あぁ、あの戦艦に高杉ってヤローが乗ってるのか?」

「どうでござろうか…」

 

アスファルトを駆け抜けながら、剣心は思う。

 

 

かつての仲間と刃を交えなければならないその心中(しんちゅう)は…いかなるものなのかと…。

 




(にじファン初掲載 2011年6月30日)
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