龍と夜叉   作:雪音

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はい、タイトルの通りです(笑)ちょいちょい話には名前だけ登場しておりましたが…一度視点をこちらに移してみようと思います^^今回の話はあまり長くなりません!!(たぶん←)


【第五幕】壬生狼と呼ばれた男

銀時達、そして剣心達がそれぞれ動き始めた頃。

 

幕府の官僚が集まり仕事をしている施設に、その男はいた。

 

「…上の連中、今度は何をやらかすつもりだ。随分慌しいじゃねぇか」

「さぁてね。オジサンも大体の事しかしらねぇよ」

「ふん、まあいい。俺には関係の無い話だ」

「ったくよぉ、オメェもうちょっと人生楽しんだ方がいいぜェ?なんならオジサンとキャバクラいくか、ああ?」

「くだらん」

 

松平の誘いを“くだらない”という一言で一刀両断した男。この男こそ、警視庁副長官にして元新撰組隊士だった男…藤田 五郎(ふじた ごろう)だ。鋭い目つきでギロリと松平を睨めば、軽く肩を竦める。本来ならば松平は藤田にとっては上司。しかし、元長州藩志と元新撰組という相対する2人にとって、こんなやりとりは日常茶飯事なのだ。

 

「それで…幕府(あほう)共は、今度は何を考えている?」

「それがなァ、何でも攘夷志士に金を横流ししようってぇ魂胆らしいぜェ?」

「ふん、本当に腐った阿呆ばかりだな」

「まぁまぁ、そう言ってやりなさんな。幕府(こっち)も大きな戦力が欲しいってぇのが本音なのよ」

 

戦力と聞き、藤田は吸っていた煙草を揉み消しながら松平に視線をやる。それは、説明しろと…そう物語っていた。それを受け、松平は小さく肩を竦めると「正確な情報じゃあないが」という前置きを付けて話し始める。

 

「何でも、めずらしいもんを見つけたらしいのよ」

「めずらしいもの?」

「あぁ、オメェも攘夷戦争に参加してたんだァ。“夜兎族”は知ってるだろォ?」

 

夜兎族。

 

その名を聞き、藤田は元々細い目を更に細めた。

 

「ほう、随分と懐かしい響きじゃねぇか。その夜兎族がどうした?」

 

攘夷戦争時、開戦と同時にこの国に侵略して多くの人間を片っ端から殺し、後に続く天人達の士気を高めたのが、宇宙最強にして最凶の傭兵部隊、夜兎族だった。その夜兎族討伐に当たったのは、新撰組でも最強部隊とされた一番隊と三番隊。藤田はその夜兎討伐部隊の一員だった。名前を聞くだけでも思い出す、あの恐ろしいほどの力と血に染まりながら楽しそうに戦う異様な光景。冷徹非道と名高かった藤田でさえ、恐怖を感じたくらいだ。

 

「今、その夜兎族がかぶき町のとある所に住んでてなァ。それを上が見つけちまったってなわけ…」

「それでその夜兎を幕府側に引きこむと?」

「まぁー、そうなんだろうねぇー。ただ、厄介な事にその夜兎族の保護者ってぇのがまた…馬鹿強い奴でよォ、しかもこっちも迂闊に手を出せねェし、真選組もできれば手を出したくねェ相手なのよ。オジサンも結構世話になってるしぃ?将ちゃんも何だかんだで気に入っちゃってる奴らだからなァ…」

「ふん、噂に上がる“万事屋”とやらか?」

「そそっ、そいつ」

 

時々藤田の耳にも入っていた、真選組が親密な関係をもつ相手。それが、万事屋でありそこのオーナーである坂田 銀時であることは、既に藤田も耳に入れていたし双方の関係が友好的であることも把握していた。馴れ合いを嫌う藤田は、「だからお遊び部隊なんだ」と何度も真選組の連中に吐き捨てた。そのたびに、土方・沖田両名が食って掛かってきたが、それすらも藤田は鼻で笑って相手にしなかった。

 

「どーしたもんかねェ…。その夜兎族の事を、上が知っちまったらしくてなァ…。攘夷志士達に金をくれてやる代わりにィ、その夜兎の娘をとっ捕まえてくれってェ頼んだってぇのが今回の騒ぎよ…」

「夜兎の娘…?なんだ、まだ餓鬼なのか?」

「おー、これからが楽しみな娘さんよ。ありゃ口は悪ィが大きくなったら別嬪になるぜェ」

 

オジサン楽しみだわ、などと言ってる松平を綺麗に無視し藤田は考えるように手を顎に当てる。口角は、緩くつりあがっていた。

 

「何だァ?オメェ、ロリコンかァ?」

「阿呆、何でそうなる。俺はただ、夜兎族に興味があるだけだ。その戦力はすげぇ。それが幕府側につくとなれば…ククッ、そりゃますます天導衆(てんどうしゅう)が図に乗るな」

「はー、ホントにオメェは何考えてるのかわかりゃしねぇな。間違っても、上層部(うえ)には手を出すなァ?そんなことになったら、オジサンの首も飛んじまうんだからよォ」

「知るか。俺はただ、俺の正義のままに動くだけの事」

 

松平を真っ直ぐと見据え、藤田が口を開く。

 

壬生狼(みぶろ)と恐れられた我ら新撰組の、絶対にして唯一の正義。(あく)(そく)(ざん)。これに反する輩は誰であろうと切り捨てる。真選組だろうと、天導衆だろうと、万事屋だろうと、将軍だろうと…松平、お前だろと容赦はしない。肝に銘じておくんだな。」

 

藤田がむき出しにした殺気は、決して今言った事が嘘ではないと…そう物語っている。ただ、それだけを残して藤田は部屋を後にした。残された松平は小さく溜息を吐きながら天井を仰ぐ。

 

「ってぇことは、まだオメェの中でオジサンも…そして真選組も、テメェの悪・即・斬(せいぎ)には反しちゃいねぇってことかァ…」

 

かつては敵対していた2人。しかし運命の悪戯とは皮肉なもので、今では長官・副長官という関係だ。今でも藤田の考える事は、松平にはよく分からない。だが…長年この関係が続けば、言葉は無くともある程度は分かるようになってきた。

 

「そりゃ、オメェが新撰組を…あの時の近藤・土方を、隊士達を…そりゃあ大事にしてた事は知ってるぜェ?長州藩志達の間でも、新撰組の結束が強かったことは有名だったからなァ…」

 

しかし、それは今の真選組とて同じ事。しかし藤田は、それを“仲良しごっこ”と吐き捨てる。

 

「ま、無理もねぇ。アイツらはあの頃の江戸の動乱をしらねぇし、本当の意味での殺し合いってぇのを殆どしらねぇ連中だ…」

 

それは確かに、かつての新撰組に比べれば劣るだろう。

 

しかし、松平は彼らを幕府に迎え入れ、真選組を結成した事を後悔した事は一度たりともない。むしろ、真選組(かれら)を誇りにすら思っていた。

 

「なーんも変わらねェ…。新撰組(むかし)真選組(いま)も…この国を思う気持ちは一緒ってこったァ…」

 

独りになった長官室で呟いた松平の言葉は、誰の耳にも届くことなく消えていった。

 

 

 

一方藤田は、資料室へと足を運んでいた。

 

(…どうやら、噂は本当らしいな…。しかし、同一人物か否か…判断ができん。それにもしこの情報が事実なら……何を考えてやがる…?)

 

これまで真選組が関わり、そしてある男が関わってきた事件の資料を一つ一つ隅々まで見る。そう、藤田はある男の所在を突き止めようとしていた。と、そこに…

 

「藤田副長官殿、真選組より攘夷志士残党の捕縛報告がありました!!」

 

部下が真選組より預かった資料を持ってやってくる。「サインをお願いします」とだけ言い残し、部下は資料室を後にした。

 

「やれやれ、あの程度の攘夷志士もまともに捕まえられんのか…」

 

小さく舌打ちをしながら、部下の持ってきた新しい資料に目を通す。すると…そこに、藤田の求める情報が書かれてあった。

 

赤い髪、小柄な男、左の頬に十字傷、刀を持った男…

 

それを見て、藤田がニヤリと口角を釣り上げた。

 

(これだけ同じ情報が何度も上がっていて、尚且つ松平が俺に口を割らない理由…。ククッ、やはりこの男…間違いないな…)

 

松平が1人の男に帯刀許可を下ろしたことは藤田も知っていた。それすらもどうでもいいと吐き捨てたが、それから後…真選組の報告書に上がるようになった、この目立つ特徴を持つ男の素性がずっと気になっていたのだ。松平にも直接聞いたが、ただ知り合っただけだとしか言わない。

 

(つまり、元仲間だった…長州藩士だったということだ。そして…俺と絶対に会わせたくないというわけだな…)

 

松平が藤田とその男を会わせたくない理由など分かっている。

 

(あの頃…江戸の動乱で何度も刃を交え、ずっと決着がつかないままだったが…ちょうどいい…)

 

藤田は書類にサインをし、それを松平の元に持っていくために資料室を後にする。

 

松平に書類を渡すと、面倒だなんだと言いながら分厚い書類に目を通し始める。そんな彼の様子を、少し離れた場所で…壁に背を預けた状態で眺めていた。

 

「ご苦労さん。こいつァオジサンが処理するからァ、オメェは別の仕事をしろォ」

「そうさせてもらう。が…ひとつだけ答えろ」

「あァ?何だ?」

 

胡乱気に松平が聞けば、わずかに…藤田から殺気を感じた。それに松平は気付いていたが、あえて気付かぬふりをする。

 

(あーあ、こりゃまた聞かれるなァ)

 

何度目か分からないこのやり取りも、そろそろ面倒だと思い始めた松平。しかし、今を平穏に過ごしている“彼”の事をこの男に伝えれば…間違いなく、この男は“彼”と決着をつけにいく。それだけは、“彼”のためにも何としても避けたいと…そう思っていた。

 

それが…“彼”の人生を狂わせてしまったせめてもの償いだと、そう思っているのだ。

 

だが、藤田はそんなことはお構いなしに口を開いた。

 

「その資料に上がっている男…。奴は“人斬り抜刀斎”なんだろう?いい加減吐け、松平。」

 

もうこれ以上は我慢の限界だと言わんばかりに、藤田は殺気を叩きつける。

 

(こりゃさすがにやべぇかァ…?)

 

それは、返答次第では切り捨てると…そう言いたげでもあった。藤田の言葉を最後に、長官室は静まり返る。暫く続いた静寂を破ったのは…

 

「はぁ、わーったァ…話せばいいんだろィ…」

「そういうことだ」

 

松平の、降参の言葉だった。資料に視線をむけたまま、意識だけを藤田に集中させ松平口を開く。

 

「だが…オメェ、何か勘違いをしてやがるなァ?」

「どういう意味だ?」

「この資料に上がってる協力者の男ってェのは…“緋村 剣心”っつー流浪人よ。オメェの探してるのは“人斬り抜刀斎”…。人違いだァ」

「ぬかせ。抜刀斎の特徴…十字傷以外は、江戸の幕末を駆け抜けたあの頃の抜刀斎と瓜二つだ。隠しだてはするな」

「だぁから…」

 

面倒だと言わんばかりに声を荒げる松平を、藤田はただ冷静に冷めた目で見つめていた。

 

「“抜刀斎”は死んだ。今は“剣心”っつーただのプーだ。これで満足か、あァ?」

「…ククッ…それでいい。が…解せん」

「あ?何がだァ?」

「抜刀斎は攘夷戦争の最中(さなか)に姿を眩ませたらしいじゃねぇか。その抜刀斎が何故、流浪人なんぞ下らねぇ生き方をしてやがる」

 

この江戸にはいろんな攘夷党が存在している。あるいは生きてれば、そのどこかに属しているのかもしれないと…そう思っていた。しかし藤田の予想は見事に外れ、“人斬り抜刀斎” は“緋村 剣心”と名乗り一般人として生きている。

 

理解に苦しむと言いたげな表情で藤田が言えば、松平は深いため息を吐いた。

 

(オメェにとっては下らねぇ生き方でも、アイツにとっちゃそれが、アイツらしい生き方なのよ、なーんて…こいつに言ってもわかんねェだろうなァ)

 

刀を決して手放さなかった藤田と、刀を手放し護るための逆刃刀(かたな)を手にした剣心。

 

かつての好敵手(ライバル)であり宿敵。

 

しかし、今の江戸では…この2人の立場はあまりにも違い過ぎている。

 

「まー、とにかくアイツはもう殺人剣は振るわねェらしい。だからちょっかい出すなァ?」

「………」

 

返事はない。

 

その代わりに、フーッという紫煙を吐き出す音だけが聞こえた。そして、そのまま藤田は長官室を後にする。結局、藤田からの返事はないままだった。

 

「はァ…すまねぇな、緋村ァ…」

 

できればずっと黙っていたかった。しかし、それが無理であることは…松平も重々承知の上だった。

 

だが、思った以上に…藤田に見つかるのが早かったのだ。

 

知ってしまった以上、藤田が剣心に接触する日もそう遠くはないだろう。もし接触すれば、藤田の事だ。会うだけで済むはずがない。

 

「あとは、オメェの強さに賭けるわ…」

 

だとすれば、ここはもう剣心の強さに賭けるよりほかないのだ。さっきから何度もなっている携帯を「うるせぇ」とぼやきながらソファーに投げ捨て、何度目か分からないため息を吐いた。

 

 

 

一方の藤田は、自分に宛がわれている副長官室で、これまで真選組と剣心が関わった事件の資料を調べていた。

 

剣心の戦い方や、その強さなど。

 

わずかでも分かることがあればと…そう思ったのだ。思ったのだが…藤田の表情はただ曇るばかりである。

 

(死人はゼロ。外傷は刀の峰で打たれたと思われる打撲とそれに伴う骨折。どれも急所は外れてやがる。……平和ボケしすぎて腕が鈍ったか?)

 

解せないと…その表情が物語っている。ページをめくると、また別の情報があった。

 

「これは…」

 

それは、今までどの資料にも載っていなかった剣心の獲物について。

 

「なるほど、新井 赤空最後の一振り…逆刃刀か…」

 

刃と峰が逆の刀、逆刃刀。これで、今までの事件、そして今回の件で死者が出なかった事には納得が出来た。だがやはり…剣心が…人斬り抜刀斎が、この(なまくら)とも言える刀を携えている理由が、藤田には到底理解出来なかった。

 

「だったら直接聞くまでだ…」

 

クッと口角が吊り上がる。松平には余計な事をするなと言われた。それに、藤田の身分は幕府直属の副長官だ。一方、相手は幕府が刀の帯刀を許可している一般市民。下手に手を出せば自分の首が飛びかねない。それだけは何としても避けたかった。

 

(そういえば…)

 

数日前、松平が不在の時にその代わりにと、藤田が天導衆に呼ばれた事があった。その時に天導衆から、腕の立つ剣客を見つけるようにというお達しがきた。あの言葉の意味が分からなかったため、松平にも言わず…次の催促が来るまで放っておこうと思ったが…。

 

「ククッ、これを利用しない手はねぇな…」

 

“天導衆からの命令”という名目であれば、松平も止めることはできないし、何かと突っかかってくる真選組の連中も文句は言えない。

 

「まぁ、今はまだその時ではないらしいが…いずれ…」

 

至極楽しそうに藤田は笑う。

 

「新撰組三番隊組長・斎藤 一(さいとう はじめ)として…貴様を始末してやる…」

 

男の名は藤田 五郎。しかしそれは、幕府の副長官となった時に付けた別名にして偽名。

 

本名は斎藤 一。

 

かつて剣心の前に何度も立ちはだかった、壬生狼(みぶろ)と呼ばれた新撰組三番隊組長…その人だった。

 

 

 

何も知らない剣心は、ただ神楽を救うため、そして金の横流しを阻止するために左之助と港をひた走る。

 

すべてを知った(おとこ)は、窓の外を眺めながらただ怪しく嗤っていた。




はい、一応今後を匂わせる書き方にしました(笑)斎藤と剣心の再会は、るろ剣本編と同じ感じで書く予定です!!予定なんですが…どこで戦わせるとか、だれを川路と大久保のポジションに置くかとか…その辺りはまだ考え中(=∀=;)もしかしたら、川路は松平、大久保はそのまま…になるかも?うーん、もうちょっと悩んでみます(笑)

(にじファン初掲載 2012年4月7日)
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