あといくつか質問をいただいたのですが、剣心と左之の出会いは書かないの?という…ごもっともな質問について!!ストーリー開始の時点で既に剣心と左之は出会っていて、尚且つ剣心と左之の仲は互いの力を認め合っている仲です。ただ、原作でもお分かりの通り左之は元赤報隊で維新志士を非常に嫌っていました。それはこの小説でも同じ扱いで、幕府を非常に毛嫌いしている設定です。喧嘩屋・斬左は幕府や天人に喧嘩を売る…銀魂風に言いますと土方や銀時と同じ“バラガキ”。それを止めさせたのが剣心だった…というエピソードがあるのですが、もちろんいずれきちんとストーリーとしてUPします^^その時に、津南を登場させるかもしれません!!
あくまで噂程度でしか聞いたことがなかった。
攘夷戦争中も、そして今も。
攘夷戦争が始まるより以前、江戸にはいくつもの攘夷思想を持った藩が存在しており、その中でもとりわけ長州藩はとてつもなく強かったと。
長州藩が強かったと言われていた理由は、ある存在のおかげだと。
それが、“人斬り抜刀斎”だった。
彼が一度剣を抜けば、血の雨が降り、辺りは血の海と成り果てる。彼と剣を交えて生き延びた人間は、数えるほどしかいないと。
攘夷戦争の英雄達の名前になんか更々興味のなかった銀時でさえ、“人斬り抜刀斎”の名前はそれなりに知っていた。それは、万事屋という
戦争中、そして今。
こんなにも頻繁に“人斬り抜刀斎”の名前が出てくれば、いくら名前を覚えるのが不得意な銀時でも覚えてしまう。
だがしかし、あくまでそれは都市伝説程度の噂でしか知らなかった。
まさかその人斬り抜刀斎が…実在していたなんて。
思いもしなかったのだ。
「何だ、銀時も知っておるのか?お前にしては珍しいな…」
「知ってるも何も、依頼の先々で噂に上がるんだぜ!?むしろその名前を聞かないことの方が珍しくね?っつーレベルで聞いてんだよ、俺ァ!!」
しかしそこまで考えて、自分の持つ“白夜叉”の二つ名もまた…“人斬り抜刀斎”同様、都市伝説として扱われている。実在しているなんて夢にも思っていないだろうし、その生存を知る人間もごく僅か。
「え、銀さん…緋村さんってそんなに凄い人なんですか?」
何も知らない新八は首を傾げる。彼等の話からおおよその事は分かった。銀時同様、攘夷戦争を切り抜けた人物で、彼もまた強かったのだろうと。
しかし…目の前にいる、この見るからに人のよさそうな男が、都市伝説レベルで語られるような豪傑にはとても思えなかったのだ。
「…っあ~~…そうさなァ……。けど、うん…とりあえず新八、その話は…」
銀時がチラリと剣心に視線を向けると、剣心も承知の上だといわんばかりに頷いた。
「ここですべてを話すと雑になってしまうでござろう。何より、今は最優先に考えるべきことがあるはず…」
「そうだな。まぁとりあえず、剣心とオメェら全員の詳しい事はこの喧嘩が片付いたらってことでどうよ?」
剣心と左之助の言葉に、銀時と新八は頷き、難しい顔をしている桂も頷く。
「改めて…拙者の名は緋村 剣心。志士名の方ではなく、こちらの名で呼んで貰えるとありがたいでござる」
「俺ァ、相楽 左之助だ」
剣心と左之助の簡単な自己紹介を受けて、それに習うようにして銀時達も続ける。
「坂田 銀時。まぁ、俺もなんっつーか……昔の二つ名で呼ばれるのは好きじゃねーんだ…。適当に名前で呼んでくれ」
「僕の名前は志村 新八です。左之さんにはいつも本当にお世話になっています!!」
「おろ、左之の知り合いでござるか?」
「おう、俺の雇い主って所だな」
「私は…」
「ヅラ、もうその私キャラやめろよ、キモイ」
「銀時貴様、俺に向かってキモイとは何だ!!……まぁ確かに私キャラは俺には似合わんな。…改めて、俺の名は桂 小太郎。攘夷志士だ」
自分で攘夷志士を暴露するのもおかしな話だと桂は内心で小さく笑ったが、そんな桂を見て剣心は微笑む。
「よく…似ておられる…」
桂ほどはちゃけた人物ではなく、彼の評価は生真面目で堅物だった。しかし…真っ直ぐと
「俺が、ですか?」
「あぁ…。あの人に…桂さんに…そっくりでござるよ…」
ふと、剣心はあることを思い出す。桂 小五郎と高杉 晋作の仲はとても良く、酒を酌み交わしながら国の行く末を語っていたと聞いたことがあった。
今の、桂と高杉の関係は…どうなのだろうか?
「桂殿、お伺いしたいことが1つ…」
「何でしょう?」
「鬼兵隊を率いている
剣心に問われ、桂の表情が…曇る。
桂自身も高杉が何を考えているのか検討がつかないのだ。時々江戸の街ですれ違って会話をしても、彼の言葉から真意を知ることができない。昔はあんな男ではなかったはずなのに、幕府が天人に下ってから…高杉はまるで変わってしまった。
「今の俺と高杉の縁は恐らく、貴方の知っている桂と高杉の縁とは程遠いかと…」
「そうでござるか」
桂がそう言えば、剣心は静かに目を閉じる。
「桂殿とこうして出会えたのも、何かの縁だと思っていた。だから、高杉殿と出会えるのもきっと何かの縁だと…そう思ってはいたが…」
そして、剣心は鬼兵隊の本陣と思われる船を見上げた。
「どうやら、本当に…高杉さんの意志とは
残念でならない、と剣心は小さく息を吐くが直ぐに気持ちを切り替えて、銀時に視線をやる。
「だが、こんなところで過去を振り返っている場合でもござらんな。神楽殿が心配でござる」
「あー…まぁ、なんっつーか、ウチの馬鹿娘なら大丈夫だとは思うが…」
頭を掻きながら、銀時もゆっくりと船を見上げた。
「その神楽が大人しくしてるっつーことは、神楽が暴れられない状況下にあるってことだろうよ。ザキの話じゃ、“鉄の箱”っつー部屋に閉じ込められてるらしいしな…」
それぞれ視線を交わし合い、そして頷く。
不思議なもので、出会ってまだ間もないというのに…たったこれだけで彼等の意思は伝わったのだ。
早く助けに行こう。
高杉の事は俺に任せてくれ。
気を抜くな。
きっと大丈夫。
背中は預ける。
そんな思いが…それぞれ交わされる。
そして…
「そんじゃまぁ…折角こうして本陣の入り口まで来たわけだしィ?」
「ごめんくださーい、高杉君いますかー」
「馬鹿だ…あの人本当に馬鹿だ…!!何やってるんですか桂さん!?何そんな“ちょっと鬼兵隊に来たよ☆”的なノリで敵の本陣に乗り込もうとしてるの!?」
動き始める。
「ったく、本当に忙しねぇ奴らだな…」
「だがずっと滅入った気分のままでいるよりかは、こちらの方が楽でござるよ左之」
「ま、それもそうか…」
全員の決意が固まっている今、やるべき事はただ一つなのだ。
「高杉、コノヤローッ!!出てきやがれェェェェ!!」
「うるせェェェェ!!テメェら侵入者のクセに何堂々としてんだァァァァ!!!」
銀時が馬鹿でかい声で叫べば、恐らくは見張りの者だろう。非常識な銀時達を見て思いっきりツッコミを入れながら斬りかかって来た。それを見て、銀時はニヤリと笑う。
「攘夷戦争の英雄のお手並み、拝見といきますか…!!」
「奇遇でござるな、銀時殿。拙者も同じことを思っていたでござるよ」
「あ、そうだ…。兄ちゃん、これを使えとよ」
そういえばすっかり忘れていたと言いながら、左之助は銀時に一振りの刀を差し出す。その間、左之助を狙って鬼兵隊の志士が飛び掛ってきたが、蹴りを入れて黙らせる辺りはさすがといったところだろう。
「んー?これ真剣じゃん。え、何?俺に廃刀令違反で捕まれってか!?どんな嫌がらせだよ!?」
「いや、これは真選組の土方からだ。お前さんに餞別だとよ」
土方の名を聞き、銀時は目を丸くした。
「へぇ、トシからの餞別ねぇ…」
そしてククッと小さく笑う。
「真選組が刀を渡すなんざ、正気の沙汰じゃねーな。けどまぁ…トシの計らいに感謝するしかあるめぇ!!」
正直な話、高杉と対峙するのに木刀では力不足だと思っていたのは事実。だから、適当にその辺に転がっている刀を拝借して使おうと思っていたが…どうやら、その心配は要らないらしい。
(この騒ぎが落ち着いたら、マヨなり煙草なり礼に持っていくか…)
左之助から受け取った刀を腰に携え、銀時は木刀を抜く。
「おろ、刀は使わぬでござるか?」
不思議そうに剣心が聞けば、ニッと銀時は笑う。
「アンタと同じだ。俺ァ殺すことに酔っちゃいねぇし、出来ればこんなもん使いたくはねーんだよ。アンタが何を思って
飛び掛ってきた志士達を木刀で殴り飛ばしながら…
「アンタの
ニヤリと笑った。その姿を見て、剣心も思う。
この男もまた、護るために木刀を抜いて戦っているのだと。
「フハハハッ!!どうだ、俺の爆弾の威力は!!新作だぞォォ!!」
「桂さん、まだ爆弾持ってたの!?いや、ホントいくつ持ってんだよアンタ!!」
「ほー、こりゃ
騒がしく、しかし確実に…
彼等は鬼兵隊の本陣を壊しに掛かる。
そんな様子を、1人高杉は自分の部屋でモニター越しに見つめていた。
「あの男…」
その目に留まったのは、1人の男の姿。
赤い髪で左の頬に十字傷を持つ優男。
「江戸で最強と言われた英雄のおでましか…」
さすがに予想外だったのか、その表情には驚きの色が見える。と同時に、子供の頃に高杉 晋作に言われたことを思い出した。
『いいか、これから先も戦は激化するだろうぜ。俺ァ…多分、国の行く先を見届けるまで生きちゃいねぇだろう。けどな…俺ァ信じてんだ。
それは病に臥せっていた時に、高杉 晋作が言った言葉だった。
その言葉から暫くして、高杉 晋作は息を引き取る。国の行く末を、未来を担う若者達と友であり仲間である桂 小五郎に託して。
「あれが…噂に名高い“緋村 抜刀斎”…」
身辺警護についていた者達から、銀時達とは別に侵入者がある事は聞いていた。大方真選組の連中か、この騒動に乗じて自分達をなき者にしようとしている別の攘夷党だろうと思っていた。
しかし…その高杉の予想は大きくはずれ、皮肉にも自分を倒しに来たのは…
自分の血縁が頼りにしていた、伝説の人斬りだった。
「だが、その伝説の人斬りと謳われた野郎もまた、幕府とつるんでるというじゃねーか…」
自分の血縁の意志を受け継ぐどころが、血縁が頼りにしていた男は今、真選組と協力関係にある。そんなことは、とっくにリサーチ済みだ。
「だったら俺が目ェ覚まさせてやるぜ。銀時共々、アンタもなァ…“人斬り抜刀斎”さんよォ…」
人斬り抜刀斎と恐れられた獣を潜めているというのであれば、叩き起こせばいい。
白夜叉が眠りについているのであれば、また目覚めさせればいい。
「ククッ…今夜は楽しめそうだァ…」
煙管を吹かせながら、高杉は小さく笑う。
これからの戦いが楽しみだと言わんばかりに。
「おーい、雇われの用心棒。こっちだー」
その頃、鬼兵隊の船内も侵入者有りの情報にバタバタと動き始めていた。そんな中、神楽を捕らえている“鉄の箱”周辺は更に警備が強化される。なにせ、今この場所に侵入してきた連中は、捕らわれている神楽を救い出そうとしている者達。その神楽は、幕府との取引で莫大な金と共に引き渡すことになっている。ここで奪われるわけにはいかないと、下っ端の志士達は忙しなく動き回っていた。
そんな中、鬼兵隊の下っ端達も下っ端なりに頭を働かせて用心棒を雇った。といっても、料金は後払いで、あくまでも仕事に成功したら払うという条件でだ。
「おい、あれが今回雇ったっていう用心棒か?」
「あぁ、何でもあの喧嘩屋・斬左にも引けを取らないとか…」
「けどよぉ、
「俺は知らん」
「俺もだ」
その用心棒の名前は、
兄の喜兵衛はどこにでもいる老人に見えたが、その表情からは何を考えているのか読み取れない…一番厄介なタイプの曲者。
そして弟の伍兵衛は強面の…見るからに豪傑と分る巨漢。
なるほど、斬左と同等と言われるだけの事はあると全員が息を呑んだ。
「それで、その警備対象というのは?」
喜兵衛が問えば、1人の志士が扉を指差す。
「あの中に閉じ込めている夜兎族の娘だ」
「ほう、あの戦闘種族と名高い夜兎族…」
「分かっているとは思うが、絶対に逃がすな?逃がしたらお前らへの報酬は無しだ」
「その分、成功したあかつきにはそれなりの報酬を頂きます故」
喜兵衛はニンマリと笑みを浮かべる。「気色悪ィ」と苦い顔をして、志士は下がった。と同時に、他の志士達にも下がるように促す。
「え、アイツらだけに任せるのか!?」
「あぁ、十分だろ。あの巨漢…伍兵衛だったか。見てみろよ…いかにも強そうですって感じじゃねーか」
「けど、相手は夜兎だぜ?」
「ははっ、そもそも夜兎は“鉄の箱”に入れてんだ。アイツらが外から開けない限り、出てくることはできねーよ」
さっきまでは中から凄まじい音と、凄まじい声が聞こえていたが…それもピタリと止んで静かになっている。最初は逃げ出したのかと焦ったが、鉄壁を誇る“鉄の箱”が破られる事はまずない。
その名の通り、この部屋は特別製で四方を分厚い鉄で覆っている。唯一、小さな格子窓があるが、そこは人一人が通るにはあまりにも小さすぎるし、何より通れたとしてもかなりの高さがある。夜兎ならば地面にたたきつけられても、強靭的な防御力とその回復力でやり過ごせるかもしれない。しかしその高さはなかなかのもの。いくら夜兎でも無事ではすまないだろう。
「“鉄の箱”が破られるとしたら、比留間だかダルマだか知らないがあの兄弟が外から扉を開けたときだけだ。大の男5人がかりでやっと閉めた重い扉だぜ?万が一誰かが助けにきたとしても、人間の手でこじ開けるなんざ無理だな、無理!!斬鉄剣でも使えるってぇなら話は別だけどな!!」
「ぎゃははは、それこそ有り得ねぇ!!」
唯一、扉を開けるチャンスがあるのは比留間兄弟だが、その比留間兄弟も完全に金に目がくらんでいる。自らその金を手放すような真似はしないだろう。
とにかく下の侵入者を排除することに人員を裂かなければならない。どういうわけか、向かった志士達は誰一人として戻ってこないのだ。いくら“鉄の箱”に監禁しているとはいっても、夜兎族の飼い主は攘夷戦争で高杉と肩を並べて戦った者。しかもそのうちの1人は、あの伝説とまで言われた“白夜叉”というではないか。
束になって掛からなければ、足止めは出来ない。
「いいか、絶対に死守しろよ?もし成功すれば、晋助様にお前達のことを伝え、正式に鬼兵隊の一員になれるよう掛け合ってやる」
「それはそれは…こちらとしてもありがたい限りですな。では、我々はここを何が何でも死守するとしましょう」
喜兵衛の言葉に「ケッ」と一部の志士が履き捨てる。だが、胡散臭くても嘘くさくても、今はこの比留間兄弟を頼るより他に方法が無いのだ。志士達は最後にもう一度比留間兄弟に念を押してその場を後にする。
「チッ、いけ好かねぇ連中だぜ。俺らの腕を買っておきながら、信用しねぇとは…」
伍兵衛が不服そうにそう言えば、喜兵衛は飄々と笑う。
「まぁ、暫くの辛抱だ。これが成功すれば、ありったけの金と同時に鬼兵隊という最高の就職先が決まるのだからなぁ!!」
数ある攘夷党の中でも、鬼兵隊は特に金の羽振りがいいと…裏社会ではもっぱらの噂だ。そんな鬼兵隊の一員になれるのであれば、暫くの疑いの目など痛くも痒くもない。
「このご時世、すべては金だ。そしてその金を手に入れることができるのは、力あるもののみ!!」
己の頭脳と伍兵衛の力があれば恐れるものなど何もない。
喜兵衛は高々と笑い、そんな喜兵衛を見て伍兵衛もまた同じように笑った。
一方、その“鉄の箱”に閉じ込められている神楽はというと…
「お腹空いたアルー。晩飯はまだアルかー?何だヨ、誘拐しといて何のアフターケアーもないアルか?カツ丼出せヨ、白飯食わせろヨ」
ひたすら空腹を訴えていた。外で神楽を巡る闘争が繰り広げられているというのに、その本人は暢気にも腹が減ったと床に寝転んでふてくされているのだ。
「腹減ったって言ってるだロ――ッ!!」
ずっとシカトを決め込まれて、あまりにも腹が立った神楽はガンッと思いっきり扉を蹴り飛ばす。これがもし、万事屋の玄関だったら数百メートル先まで扉が吹っ飛んでいるところだ。しかし、“鉄の箱”の通称を持つその部屋は、夜兎族の蹴りでもビクともしない。それがまた無性に腹立たしくて、寝転がったままガンガンと扉を蹴り続けた。
「飯出せヨー、酢昆布出せヨー、ここから出せヨー!!」
ちゃっかりここから出せなんて言ったりもしているが、当然扉は開かない。だが、今までうんともすんとも言わなかった扉の向こうから初めて声が聞こえてきた。
「お譲ちゃん、ちょっと静かにしていた方がいいよ。ここの人達を怒らせると厄介だからねェ」
声からして中年ぐらいと思われる男の声が聞こえてきたのだ。一瞬ポカンと呆けた神楽だったが、男の忠告は完全無視でむしろ蹴り方が激しくなる。
「扉の前に居て無視とはいい度胸アルな!!かぶき町の女王が腹減ったと言ったら、大人しく酢昆布を持ってくるヨロシ!!」
ガンガンガンガンと鉄を容赦なく蹴る音が響く。それを黙らせるかのように、ドカッと激しく鈍い音が聞こえた。恐らく、外にいる誰かが鉄の扉を殴ったのだろう。
「煩いといっているだろう、ガキ。少し黙っていろ」
中年の男とはまた違う…少し厳つい声に、神楽はケッとはき捨ててゴロゴロと床を寝転がった。
「暇アルー。腹減ったアルー。ここから出たいアルー。あー、ピン子見そびれたネ。テレビ見たいアルー!!」
今の神楽は捕らわれていることに対する恐怖よりも、この狭い空間に捕らわれていて尚且つ腹が減っていることへ対する不満の方が大きいらしい。そんな駄々をずーっとグチグチと続けていたら、外から凄まじい音が聞こえてきた。立て続けに聞こえるそれは、爆発音だ。
「……?花火でも上がってるアルか?」
自由になった手足で格子窓まで飛び上がって外を見てみる。すると、外は先ほど見た静寂さなど微塵もなく、土煙や行き交う人々でごった返していた。
「何事ネ?船の外で何が起きてるアルか?」
と、そんな疑問が口から零れた…その時だった。
「どけどけどけェェッッ!!万事屋銀ちゃんのお通りだ、コノヤロ――ッッ!!」
よく知る声が聞こえてきたのだ。その瞬間、神楽の表情がパッと明るくなる。
「銀ちゃん、来てくれたアルか!?銀ちゃーん!!私はここヨー!!銀ちゃ――ん、ぱっつぁ――ん!!」
しかし、どんなに叫んでも爆発音の方が大きいらしく神楽の声は銀時には届かない。それがまた無性に腹立たしくて、神楽も自棄になる。
「おいこら天パに駄眼鏡!!無視ですかー、お前らも無視ですかーコノヤロ――ッッ!!」
銀時の口真似をしながらギャンギャンと叫び続ける神楽。しかしそれでも、神楽の声は銀時には届いていないらしい。
「大体誰ネ!?こんなバンバン煩くしてるのは!!静粛にするアル!!静粛にー!!工場長が黙れっつってんだろゴルァ!!」
鉄格子にしがみ付いたまま叫び続ける神楽だったが、その声は結局最後まで銀時達のところに届く事はなかった。
ただ1人…“鉄の箱”の外に潜んでいる者を除いて…。
「伍兵衛…大丈夫か?」
「て、鉄の箱とはよく言ったもんだぜ、俺の手がこんなに…!!」
神楽を黙らせる為に、伍兵衛が鉄の扉を殴ったまではよかったのだが、その鉄が予想以上に固く、伍兵衛の手はかわいそうなくらいに膨れ上がっていた。夜兎の神楽が全力で蹴り続けても破れなかった扉を、巨漢とはいえ普通の人間が殴ってタダで済むはずがない。そこまで頭が回らなかったらしい伍兵衛は、目に涙を浮かべながら腫れ上がった手にフーッフーッと息を吹き掛けていた。
そんな様子をこっそりと見ている人物が1人…。
(ここが高杉の言っていた“鉄の箱”…。神楽ちゃんの叫び声も聞こえてくるし、まず間違いない…)
そう、潜入を土方に命じられていた山崎だ。敵の行動に注意しつつ内部を探っていたら、たまたま通りかかった志士達の話を聞くことが出来たのだ。
(けどこんなに簡単に見つけることが出来るとは…)
これは不幸中の幸いだと思った。しかし、扉の前に立つ護衛の者達2人を見て山崎は難しい顔をする。
(あの2人は確か、攘夷浪士の……えっと、ダルマ…?確かそんな名前の兄弟だったな…)
記憶が曖昧なのか、山崎は首を傾げながら名前のようなものを呟く。しかし、大事なのはそこではないのだ。
(あの兄弟は金には汚く、そのやり口も非道。もしこんな奴らが高杉一派に…鬼兵隊に加わったら、更に厄介なことになる…)
今ここで潰しておくべきだろうか?しかし、伍兵衛の方は左之助とも並ぶほどの強さだと鬼兵隊の連中が言っていたのを思い出す。
(確かに見てくれは粗暴な感じで強そうだが…本当に左之さんと同じくらい強いのか?それは謎だな…)
しかし相手を侮ってはこちらがやられてしまう。観察方の仕事は、相手の動向をさぐり、そして的確に動くこと。時と場合によっては敵を制圧することも大事だが、力量を見極められない敵に突っ込んでいくのはただの無謀であり、観察方の仕事ではない。
(ここは一度引いて、旦那達と合流するか)
既に剣心と銀時が合流している事は志士達の話で把握できている。どこにいるのか…その場所までは把握できていないが、一番騒がしい所に行けば、間違いなく会うことが出来るという確信があった。
(ごめんね、神楽ちゃん。必ず旦那達を連れてくるからもう少しだけ待ってて…)
内心でそう謝りつつ、山崎はその場をあとにする。
“鉄の箱”付近でそのようなことが起きている間にも、銀時達は確実に鬼兵隊の志士達をなぎ倒していった。
「邪魔だァァァ!!!」
銀時は木刀を振り回しながら敵を確実に仕留めていく。完全なる我流のため、その太刀筋は非常に読みにくく、受け流す事はおろか避けることも出来ない。
「クソッ!!銃だ、銃を使え!!」
見かねた志士の1人が、仲間に銃を使うように促す。その指示を受けて、数名が銀時目掛けて発砲した。
「うおっ!?」
しかしそれを間一髪のところで銀時がかわす。これでは迂闊に飛び込めないと、全員が物陰に身を潜めた。
「おい、どーする剣心?敵さん、やっかいなもんを持ち出してきやがったぜ?」
喧嘩に本人なりのルールを持っている左之助にとって、銃は一番許せない代物。忌々しそうに舌打ちをしている左之助を見ながら、剣心は冷静に答える。
「確かに銃は厄介でござるな。敵の間合いに安易に入れぬ…」
「間合いに入れないと、剣の攻撃なんて届きませんよ…。どうします?」
新八の心配はもっともで、銀時もそこを考えていた。剣客にとって間合いはとても重要になってくる。間合いを制すものに勝利の女神が微笑むと言っても過言では無いだろう。銃を持ち出された時点で、完全に銀時達の間合いはあちらに制された…かのように思われた。
しかし、こちらにも間合いを制することが出来る方法がある。
「そっちの…ロン毛!!」
「ロン毛ではな、桂だ!!む、どうした?」
「もう手投げの爆弾はねぇのか?」
「あるにはあるが、室内で使うにはリスクが大きすぎると思ってな…」
「まぁ、ヅラのその判断は正しいな」
「だからヅラじゃない桂だ!!」
桂の必死の訴えもいつもの如く綺麗に流され、さてどうするかと銀時が思案する。しかし、直ぐに剣心が銀時の肩を叩いた。
「ん、どうした?」
「間合いを制されても、こちらが敵の間合いを攻められぬとはかぎらぬ…」
「いや、そりゃそうだけどよ…。敵の間合いに入るっつっても、この状態じゃ間合いに入る前に蜂の巣だぜ?」
そんな銀時の、最もな言葉にも剣心はただニコリと笑うだけだった。
「心配は無用。必ず道は作る…!!」
「え!?ちょ、おい…ッ…!!」
剣心はそう言い終えるとバッと物陰から飛び出した。それを慌てて止めようとしたが、伸ばそうとした手を銃弾が狙う。慌てて手を引っ込めて、銀時は剣心の姿を探した。
しかし、その一瞬の間に剣心は敵と距離を詰めていた。そして銀時に言った通り、剣心は敵の間合いを一気に攻める。
何もかもが一瞬の出来事で…
「一体…何が起きた…!?」
「た、たった一撃で…仕留めた…!?」
気付いた時には、銃を使っていた志士達は横に吹っ飛び気絶していた。
剣心が何をしたのか、桂も新八も分からず呆然と剣心を見つめている。ただ1人…
「鞘に収めた刀を超高速で抜刀して、まずは銃を真っ二つにして使い物にならないようにする。んで立て続けに、鞘を使って一気に敵を吹っ飛ばしたってか…。なるほど、二段抜刀術ってわけね…。しっかし、あの状況で本当に間合いを制しちまうたァ…驚きだぜ…」
一瞬を見逃さなかった銀時だけが、その剣筋を見極めていた。
「飛天御剣流・
静かに剣心が技名を告げ、刀を鞘に収める。突然のことに、その場がシンと静まり返った。そんな中、剣心はチラリと銀時の方を見る。
(流石は…白夜叉と謳われていただけの事はある。拙者の剣筋をたった1度見ただけで見極めたのは、彼が初めてだ…)
そんな剣心の思惑すらもまるで気付いているといわんばかりにヘラリと笑いながら手を振っていた。そんな銀時を見て、剣心もまた笑みを零す。
(本当に不思議な男でござるな…)
剣心の様子から、もう出ても大丈夫だと判断した各々は物陰から出てきて辺りを見回す。殆どの志士達は剣心の双龍閃を目の当たりにし、自分達では敵わないと悟ったのか既に船内の奥深くへと逃げ出していた。
「剣心の技を見て逃げ出したってか?はぁ、こりゃ歯ごたえのあるような奴は居なさそうだなァ…」
ガクリと肩を落とす左之助に苦笑を漏らしつつ、新八は改めて銀時に聞く。
「銀さん、さっきの緋村さんの剣…えっと、飛天御剣流…でしたっけ?それって…」
聞きなれない流派に首を傾げる新八である。しかし、どうやら銀時も剣の流派には詳しくないらしく「俺に聞かれても」というような…あからさまにめんどくさそうな顔をしていた。
「飛天御剣流とは古流剣術のひとつで、実在する流派の中では極めるのが最も難しいとされる神速の剣…だったか…」
そんな銀時に変わって説明したのが桂だった。とはいっても、桂とて特別詳しいわけではない。ただちょっと聞いたことがあるというレベルでしか知らないのだ。桂の説明に、剣心はコクリと頷く。
「桂殿の言う通りでござる。
新八が思わず息を呑む。新八の知る中で、最も強いのは銀時だと…そう思っていた。真選組の連中も皆強いが、それ以上に銀時は強い。白夜叉とまで恐れられたぐらいだから当然だと、そう思っていたが…
(この人は多分、銀さんよりも…強い…ッ…)
足元を見ると無数に転がる銃だったもの。それらのすべては銃身とグリップが綺麗に切り離されていた。つまりこれは剣心が逆刃刀を反して抜刀したということだ。あるいは剣心の得物が逆刃刀ではなく真剣だったら、こうなっていたのは間違いなく今横で伸びているあの志士達だろう。
(これが…攘夷戦争を切り抜けた人達の…強さ…)
ならば、銀時が今からサシで対峙しようとしている高杉はどのくらいの強さなのだろうか?
新八には…予想すら出来ない。
「おーい、時間が惜しい。さっさと行こうぜー」
まだですかー?なんて暢気に銀時は言っているが…
本当に大丈夫なのだろうかと、不安になる。そんな新八の不安に気付いたのか、剣心はポンとその肩を叩いた。
「緋村さん…?」
「大丈夫でござる。銀時殿の背中を見てきたお主なら…誰よりも銀時殿の強さを知っているのではござらんか?」
「…はい…」
「だったら、信じるでござるよ…お主の見続けてきた背中と、そしてその強さを。歪んだ攘夷などで折れるほど…銀時殿の刃は脆くはござらん」
まだ出会って間もないというのに、剣心は全て分っていると言わんばかりに微笑んだ。緊張していた身体から、一気に力が抜ける。
「そうですね…銀さんなら、きっと…!!」
マダオの代名詞みたいな男、けれど…いざという時には頼れる男。
それこそが、新八のよく知る“坂田 銀時”なのだ。
「おーい、剣心、新八!!さっさと行こうぜー!!」
既に銀時は先に行ってしまったらしく、左之助はそちらを指差している。そんな左之助に「あぁ」と頷いて、剣心と新八は視線を交わす。
「拙者達も行こう」
「はい!!」
そんな彼等のやり取りの最中、桂はさっきの剣心を思い出していた。そう、双龍閃を放った時の剣心をだ。
(あの剣筋…銀時は見極めることが出来たらしいが、俺にはさっぱり見えなかった。なるほど、最速の遥か上…まさに神速の剣。だとすれば、緋村殿は飛天御剣流を極めたということなのか…?)
なるほど、だとすれば江戸で最強と謳われたことにも納得がいく。
しかし、だからこその謎も浮上した。
(何故…緋村殿は逆刃刀を…)
剣心が逆刃刀を持つ理由。そして…
『最強にして最凶の殺人剣…』
そう言いながら己の剣について説明した時に見せた、一瞬の表情。
あの一瞬見せた悲しそうな表情は一体…何だったのだろうか?
「おいこら、行くっつってんだろうが」
と、そこまで考えたところで、銀時にスパーンと頭を殴られて強制的に現実へと引戻される。
「銀時、貴様ァ…!!」
「気になる事は後で聞きゃいいだろ?それより今は神楽と高杉だ」
ほら行くぜ、と言って先を急ぐ銀時に苦笑を漏らしながら桂も銀時のあとに続く。
桂 小五郎が言っていた“
しかし次の瞬間、すべての疑問は吹っ飛んだ。
「うへっ、どこにこんな数隠れてたんだよ!?」
「やれやれ、高杉までの道のりは長そうだな、銀時…」
今は分からないことをあれこれ考えるより、目の前の敵を何とかしなければならない。
追いついてきた剣心達と共に、再び志士達の殲滅へと取り掛かった。
ダルマ兄弟…もとい、比留間兄弟はちょっとした小悪党的立場で登場してもらいました。ギャグでもシリアスでも扱えるこの手の敵キャラはとても扱いやすいです、はい(笑)今後もチョイチョイ出します(笑)この兄弟のしぶとさは、るろ剣原作でも描かれてますからね(笑)
そしてついに剣心の飛天御剣流が出ましたが…初出しの技は双龍閃と決めていたので、このようになりました^^どのタイミングで出すかは非常に悩んだんですけどね(笑)てか…この話で出せてよかった、本当に…!!
久々に神楽ちゃんにも登場してもらいましたが、完全にイジケモード突入です。そして使いたかったフレーズ、“かぶき町の女王”と“工場長”を使えて、私は満足…!!(おいww)
今回はちょっとシリアス色が強かった……いや、そうでもないか(笑)