ホウエン地方で始まる日常 作:kazusaichinomiya
朝起きると、いつも通り背中の辺りがチクチクしている。草の上で起き上がったタツキは朝日に向かって思いっきり背伸びした。日の光を浴びると全身がキラキラと輝くが、朝日を眺めるその顔は生気を失っていた。
「死にたい」
いくら願っても人間の体が本能的に生きる道を選んでしまう。だけど今のタツキには生きることに意味を感じられなかった。
*
「タツキく〜ん、また外で寝て〜。夜は部屋で寝なさいって言ってるだろ〜?」
面倒なヤツがきたよ、無視するに限るな。
「タツキくんってばー、ちょっと聞いてるの?」
無視だぞ、オレ、無視d…
「タツキ君!聞いているのかい?」
「るっせぇ、クソジジイは黙ってろ」
「ジジイったってまだこう見えても24だぞ?」
「オレは年のことなんて突っ込んでねーんだよ」
「ハイ、言葉遣い改めないとね。毎回言ってるのに。園のルールで丁寧な言葉遣いをしようってあるでしょ?」
『園』、それは今いる孤児院のことだ。いや正確には
オレの記憶は森の中から始まった。どうしてだかわからないが、森の中に捨てられていたんだと言う。ってかオレはそのまま森で過ごした方が「シアワセ」だったのかもしれない。森の中で出会った小さな友達が、俺にとっては唯一信じられた相手だったし、実際人の言葉より先にソイツの言葉を理解してしまった。ソイツとはずっと一緒に過ごしてきたが、7年前にここに連れてこられて以来、ずっと会っていない。園の入口に置いてある車は前が凹んでいるが、アレはソイツがオレを守ろうとして撥ねられた時にできた跡だ。そのまま手当できずに連れてこられた。だけどオレは無事で生きている。
そのことが悔しくて何度も抜け出ては連れ戻され、抜け出ては連れ戻された。
ーソイツは無事でいるだろうか。
「もう7年も経ったんだよ、そろそろ先生たちを信用してくれよ」
…ッ!フザケやがってぇ!
「誰が信用するかよ、偽善者集団が!」
気がつくとオレの足は自然と動いていた。
森のある方に走って行った。オレが落ち着きたい時は決まって森に行く。アイツを思い出せるからか、心が落ち着けるんだ。森の中で過ごしてきただけあって、走るのは大分早い方だ。スタミナにも自信がある。クソジジイどもが車使わなければ勝てるのにな。
…今日はアイツいるかな。いたら覚えていてくれてるかな。7年前のことだしな。
アイツのこと考える程に思いは強くなって、走る足を更に速めた。
*
「…が森にいて入れない?それをボクが解決すればいいんだね?」
「お願いね、元チャンピオンさん」
そういってヒガナと言った少女はポケモンセンターを出て行った。ダイゴは溜め息をこぼす。かつてチャンピオンの地位を降りた時、ホウエンの危機とも言える事件が起きた。その事件で敵対したのがヒガナで、結局最終的にダイゴとは和解できないまま事件は終幕した。
元チャンピオンということもあってか、困っている人々の依頼を受けることもしょっちゅうである。しかし今回はヒガナ自らが依頼をしに来たのだった。その事実にダイゴ自身が驚いている。ただ、依頼を受けた以上はきちんとやる。ダイゴは誰にでも親切なのだ。
「まさか、ヒガナがボクに依頼してくるなんてね。しかもよりによってはがねポケモンか。ボクははがねタイプのポケモンとできれば戦いたくないんだよな〜」
「まあまあ、ダイゴさんのお陰で過ごしやすくなるんですから」
”請け負った以上はやるけど、でも何でヒガナが…?”
ダイゴの中にはどうしても腑に落ちない点がありながらも
*
この森にはいくつもの道があり、木の実がよくなる木が多くある道もオレは知っている。アイツが大好きだったサンのみも実はここだけで自生している(一般的に知られていないが)。数が少ないから採っておかないと他の人に採られちゃう。
「ん?(おかしい、いつもならもう少しあるんだけど)」
違和感を覚えながらもかつて自分が友と寝食を共にした場所へと走った。
なぜか金属片が飛び散ったかつての生活場所に驚きを隠せないが、それでも採ってきた木の実を置いて全力で叫んだ。
「おーい」
この声に森全体が震えたー。
*
「この声ー。」
ダイゴは森の奥へと急いだ。
マズイぞ、この森の中に子供がいる。せめて
*
「あー、タツキのヤツ、またこの森に入ってきやがった。」
っとつい4年前まで成人ではなかった孤児院の先生は車を走らせている。
「お、いたいた」
*
「キミ、そこは危ないから今すぐ離れて!」
「イヤだね、オレの家だぞ、ここは」
「訳分からないこと言ってないで、早く離れて!ここはボスゴドラの巣なんだ。キミが襲われるのも目に見えてる」
「ぼ、ぼすごどら?」
初めて聞いた名前だがそんなことどうでもいい。オレはアイツn…
そこで二人はガサガサッという草むらの揺れる音を聞いた。それも近くで。
「またかよ、ここで捕まる訳にもいかねえしな」
といいつつも、タツキは内心怯えていた。大人には対抗できない、自分の無力さをまたここで知ることになるなんて。
予想通り、草むらから前面が凹んでいる車が飛び出してきた。また何もできなかったと泣きそうになるタツキの真横を巨大な影が通り過ぎるのを、ダイゴは見た。
「ボグォオーーーーーーー!!」
車が止まった、いや、止められたのだ。巨大なポケモンの手によって。
「ボスゴドラだ、早く逃げて!」
しかし、足が動かなくなり、タツキは固まったように止まった。次の瞬間、ボスゴドラがこっちを向く。タツキと目が合った。その刹那、ゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。
「やめろーーーーーーーーーーー!!!!」
ダイゴは叫んでタツキの前に立ち、かばうように構えたが、ボスゴドラの左腕に弾かれ、右方向へと飛ばされる。
そしてタツキの目の前に立った。じっと目を見つめる。タツキは動けずにいる。先に動いたのはボスゴドラだった。右腕と左腕をゆっくりと持ち上げて…
………ゆっくりと抱きとめたー
おそるおそるタツキが顔を上げると、顔をクシャクシャにして涙を流すボスゴドラの顔がすぐそばにあった。そして、尖っているボスゴドラの体の内、頭の角だけが凹んでいた。
「角が、凹んでる…?」
この状況に困惑している24歳の孤児院職員にダイゴが話しかけた。
「よう、ユウじゃないか、どういうことだ、これ?」
「ダイゴ?うわ、えーとその、俺にもよくワカンネ」
そして一番困ってるのはトゲトゲしているボスゴドラに抱かれている、また涙に濡れているタツキである。
「えと、うーんと、凹んでいる…!?」
タツキが弾かれたかのようにボスゴドラの顔を見ると、ボスゴドラも頷くのである。
「嘘…でしょ…」
そういうと自分自身もまた、泣きながら抱き合ったのだった。
「フーン、まさかあんなヤツがいるなんてね、シガナ、戦争になるかもよ」
「ごにょにょ〜」
それでもヒガナは納得がいかない。
……あのタツキってヤツ、なんでだろう、レックウザと同じニオイがする。
ヒガナはポケットからひとつの木の実を取り出し、こう言った。
「でもまたサンのみが食べられるからいいかな。」
ボスゴドラはタツキが大好きで、7年間ずっと想いながら森で生活してた。恋愛感情にも発展していきます。閲覧には十分お気をつけてください。