オーバーロード惨地直送便 作:性惨者
異世界転移。それもファンタジー世界。とりあえず裕福な身分。
それは、世界を救うような特別な能力を持たなかったとしても、充分にハライソだ。
キリッとした顔で娼館から出てきたあなたはそれを実感している。
この世界でのあなたは、そこそこ裕福な家の生まれの人間に成り代わっており、その資産もそれなりに活用できる。
ファンタジー世界にしては良心的な法が整備されているこの国だが、ヒステリックで余計な部分は無い。よって、娼館ではきちんと魅力的な年齢の少女と楽しむことができる。それも、少女の方が安い。初物はもっと安い。まさにハライソだ。
そう、これこそあなたに与えられた異世界チートに違いない。この世界の人間にはインターネットなどというイカ臭いインフラが無いので、性的な知識が乏しい。そうなれば、面倒な初物やこなれていない少女など商品価値は低くなる。娼婦といえども人間であればそれなりに尊重されるこの国では、少女に必要以上の恐怖や苦痛を与えずに「水揚げ」を済ませてくれるあなたは娼館にとって上客であり、安価で様々なサービスを受けることができた。
思い上がらないでほしい。あなたの技術はかつてイカ臭いインフラから長い時間をかけて修得しただけの拙いもので、ひたすら時間をかけるだけの退屈なものだ。それでも、性的な知識が乏しい社会の娼館で優しく「水揚げ」ができるあなたは貴重な存在だ。
もちろん、あなたほど裕福で、夜の行為を優しく行える者もいないわけではない。しかし、そういう者は普通は異性に困らず、この国では育ちが良ければそれなりの宗教教育を受けることになる。そこでは、あなたのように貪欲な人格が形成されにくいのだ。まして、善良でありながら少女に対してのみ執拗な性欲とねっちょりとした優しさを併せ持つ人材など稀有にも程がある。
また、ただ幼ければ良いのであれば、この国には奴隷とされているエルフという種族がいる。あなたと近い嗜好の者であっても、乱暴に扱うことが許され成長も遅いエルフが売られている以上、あなたが居た世界の歴史と違って「水揚げ」が得意な客が育ちにくいのだ。あなたも、財布を委ねてくれている楽隠居状態の親父様が奴隷すら家に入れたがらない異種族嫌いでなければ、迷わず幼いエルフを買っていただろう。
そして、あなたは金を使いすぎた。
少女だけなら一生買い続けることができた。しかし、その少女の身体を包み込むための夢の値段がまずかった。
あなたが仕立て屋で特注した袖口と襟口が紺色の綿のシャツは白地ということで値段が一段上がり、リアルな触感を求めると特上綿という素材になってしまった紺色のぴったりとしたショーツ型下半身衣料はさらにとんでもない値段になった。そもそも、工業化されていない世界で趣味のための服を数着発注するなどとんでもないことだ。金額の桁数を確認し直した時には全てが手遅れだった。
そう、異世界転移とは一面で賢さを、そして一面で愚かさを持ち込むことなのだ。逆チートのリスクを把握せねば簡単に詰む。モニターや書籍に向けてクラウチングスタートのポーズを取って後に続かんとする者たちは<能力向上><能力超向上>などと身勝手な祈りを捧げる前にそういうことを肝に銘じておかなければならない。
こうして、あなたは初めてこの世界での立身出世を考える。幸い、娼館での信頼は厚く、しばらくはツケで楽しめる。そして仕立て屋もその娼館からの紹介なので支払いを急かすことは無い。しかし、その限られた時間に国が募集する実入りも良い仕事が見つかったとなれば、それに飛びつかざるをえない。
◆◆◆
何の変哲もない武器と防具を用意し、あなたは神官とは思えない金髪丸刈りマッチョに跪く。はっきり言って怖い。彼の名はニグン・グリッド・ルーイン。あなたが元いた世界ならば反社会的勢力の若い連中の頭を張っていそうな人相だが、彼は任務に忠実な特殊部隊の長であり、敬虔な神官だ。
彼の声はダンディで厚みがありながら粘っこい。そのあたりからそこはかとなく嫌な予感が漂うが、この仕事に危険は無いはずだ。隣国の騎士の鎧を身につけ、ろくに武装もしていない別の隣国の村々を襲って罪をなすりつけるという卑劣な任務。高い報酬はその卑劣な内容の口止め込みということだろう。家族には過酷な軍事作戦だと伝えられるばかりか高額の前金を預けてもらえるため、その任務の卑劣さが周囲に知られることはない。それどころか、生きて帰れば英雄扱いかもしれない。いまいち使えない跡取りを心配するような親父様の見る目も変わってくるだろう。そうなれば、家の敷地内にエルフを連れ込むことだって許されるに違いない。
そうだ、この戦いが終わったら庭に小さな離れを建てよう。
そこで、可愛いエルフの女の子たちと楽しく暮らすのもいいかもしれない。
あなたは、出発の日まで必死に繰り返した剣術と馬術の特訓を思い出す。元いた世界ではしたことが無いような努力も、少女たちを思えば辛くはなかった。それどころか、その特訓を特殊部隊の関係者に目撃されて評価が著しく高まったくらいだ。家柄の良さと、宗教的な良心による躊躇がないことも幸いし、あなたは隊長に抜擢された。非常に幸先が良い。
◆◆◆
あなたはゲスではあるが、少女が大好きだ。可憐な少女が無垢なまま錬金術油をかけられ家ごと焼かれるなどという非道な運命を到底見過ごせるはずもなく、あなたは行く先々で少女たちを助けた。
もちろん、金髪丸刈りマッチョで魔法まで使うチート野郎が率いている特殊部隊に逆らう勇気があるはずもなく、正面から命令違反はできない。事が終わるまで大人しくしていれば助かると言うと、覆いかぶさるあなたの下で少女たちは子鹿のように震えていた。そして事が終わる頃には別人のようにキリッとしたあなたが少女の命を救う手段を冷静に模索し粛々と実行していく。
あなたにゲスを見る目を向ける狂信者どもは、平然と家々に錬金術油をかけて住人ごと焼き払っていく。人間、ああなったらお終いだ。あなたは本能に従って自分自身のためだけに助けたいものを助けつつ小市民的な良心の呵責に苛まれているが、彼らは他人を傷つけ自らの心を傷つけ、自らがその傷に耐えていることを免罪符にしているのだ。良心の呵責を乗り越える部分がマッチポンプだという、何とも救いのない連中である。祈られる神もさぞ迷惑なことだろう。
幸い、二つ目の村からはあなたの心の赴くままの行動に感化された一部の部下たちがあなたと同様の行動をとるようになった。あなたが隊長として金髪丸刈りマッチョの言葉を捻じ曲げた怪しげな理屈で行為を正当化しなければ、この部隊は空中分解してしまっていたかもしれない。
そして、この下卑た任務も最後の村に差し掛かる。気が付けば、あなたの同調者は増え、競争率は上がっていた。どうせあなたがやらなくとも誰かがやる。そして最も気の小さいあなたが一番優しく少女に接していたのは明らかだ。そういう言い訳ばかりが頭に浮かぶ時点で、まだまだあなたは小者なのだろう。しかし、小者だって欲もあれば出世もしたいのだ。
あなたは思わず村の制圧もままならないうちから手近な村娘に襲いかかり、その両親の反撃を受けて地に組み伏せられた。部下のうちゲス仲間たちを使って相手を引き剥がし必死に反撃をしたのは、怒りからの行動のように振る舞ってはいたが、本当は恐怖からのものだ。好みの村娘は別の部下達が追っていってしまったが、その行方を確認するほどの余裕も無かった。
あなたを攻撃した者たちが動けなくなり、あなたが平常心を取り戻した時、地の底から鳴り響くような禍々しい咆哮があなたの鼓膜を揺さぶった。
「オオオァァァアアアアアアーー!!」
恐怖。あなたの中でその言葉と直結していたのは、あの金髪丸刈りマッチョだ。
あれは危険な迫力のある男だが、あなたが幾多の創作で培ってきた人物鑑定能力はその先を見抜く。これも一つのチートかもしれない。
あの男は――あの声は、調子に乗りやすい。そしてあれはああ見えて召喚を得意とする神官と聞かされている。
すなわち、この咆哮は金のマッチョが呼んだ白いマッチョだ。任務最後の大盤振る舞いに違いない。これでもう安心だ。きっと効果は抜群だ。
あなたは颯爽とマントを翻し、後ろを振り返ることもなく戸惑う部下たちを叱咤して村人の間引きを指揮する。この瞬間、あなたはまさしく隊長だった。