オーバーロード惨地直送便 作:性惨者
今度のあなたには仲間は居ない。しかし、決して孤独ではない。むしろ独りの時間が懐かしいくらいだ。
世界のことを知ろうと書物を漁った学習タイム、心沸き立つ娼館の行き帰りの妄想タイム、ぶるまぁの構造を思い出しては書き留めた情熱タイム。前世で孤独そのものだったあなたは、こちらでは独りの時間を楽しめるほど心に余裕ができていた。それが、今は懐かしい。
あなたは街から街へ、街道から街道へ、たった一人で走っていた。野生の獣にでもなったかのように今の身体は驚くほど軽いが、やはり走るのは好きではない。逃げるより隠れる方が正解ではないかと思うのだ。
【それじゃ風花聖典に見つかるって何度も言ってるでしょーが! 行きずりの女から身勝手に大切なものを奪っておいて今更何を寝ぼけたこと言ってんのよ】
奪ったのはあなたではない。あなたの知る限り、裸みたいな格好をした幼女から、こともあろうに額飾りだけを奪ったのはこの女の所業だ。本当に勿体無い。
【あなたは私のカラダを奪ったでしょーが!】
あなたが奪ったのは美味しそうな女の子の身体ではないのでノーカンである。あなたにとっての適齢期を過ぎているのだ。
それにしても惜しむらくはあの幼女だ。額飾りなんかより本体を担いで逃げるべきだったのに、この女ときたら! 本当にけしからん。そして何より勿体無い。
【ぴっちぴちのこのクレマンティーヌ様のカラダを強引に奪っておきながら、ノーカンとか適齢期過ぎとか酷すぎない? ちょっとこのロリコンさいてーなんだけど】
このうるさいのはクレマンティーヌという宿なしだ。あなたのストライクゾーンを外れているにもかかわらず、あなたにずっとくっついてきている図々しい女だ。とっくに身体を失った宿なしのくせに、昼夜を問わずやたらとうるさい。
【くっついてきてるのはてめぇだろ糞が! ああもう、ふざけんなっての。なんでてめぇみたいな変態が私のカラダを動かしてるわけ? そういう神器でも盗んだの? だったら人外のあんちくしょうでも乗っ取って暴れなさいよこの役立たず!】
あなたは笑みを浮かべて聞き惚れる。
罵倒が心地よい。何より、声がいい。この声で罵倒されるならもうずっとこの身体に留まっていたい。発声はしていなくとも、脳内に響く声がいいのだ。
これで身体の方があなたのストライクゾーンから外れていなければ心が腹上死して今話あたりが最終話となってしまうに違いない。
【喜ぶな変態! だいたいストライクゾーンって何なの? このぴっちぴちの極上美女クレマンティーヌ様で興奮しないって、人類のオスとして失格だと思うんだけど】
あなたは、この女が適当な街の宿に路銀が無くなるまで閉じこもって自分の身体を弄り続ける展開を望んでいたことに軽く驚く。
活動的でアウトドア志向に見えるこの女がそんな淫猥な快楽漬けの生活を望むなど、あまりにギャップが大きく、その部分だけはさすがのあなたでも若干萌えなくもない。
【てめえは猿か!】
あなたは最高の笑顔で女にこたえる。この身体は少し口が大きいので、歯をキランと光らせるのも簡単だ。
もし憑依した先が好みの女であればそれくらい当たり前のことだろうに、この女は何を驚いているのか、あなたは本気で理解に苦しむ。
【ふー。もういいや。ちょっと納得いかないけど、この変態の餌食になったら廃人になるまで自家発電してやつれ果てたところを風花に発見されるとか笑えねー未来しかなさそうだからね。そんなのその場で死にたくなるし、運ばされる風花も気の毒だわ】
女のあまりに失礼な発言にあなたは驚き戸惑ってしまう。
あなたは美少女が相手ならばきちんと栄養を与え健康な状態を保ちながら合意のもとで何年でも楽しみ続けたいと思うほどの紳士だ。紳士の嗜みに理解の無いこの野蛮な女の言葉には心を痛めざるをえない。
【年単位かよ!!】
ところで、あなたは自分の身体の純潔がどうであるか、少しだけ気になっている。
これは喫緊の課題だ。果たしてこの女はどちらなのだろうか。
【……普通そういうこと聞く? ホントもうこのロリコンさいてーだね。私のカラダに興味無いんじゃなかったのかよ】
誰も露骨に聞いてなどいない。声に出すことさえなく、ただ思い浮かべただけだ。
あなたは、何故かこの世界の娼館に少し詳しい。少し大きな街の娼館なら女の客が女を買うための道具だって用意してある。あなたは金さえあればどんな身体であっても機会さえあればすぐにそこへ飛び込んでいきたい。
ただ、あなたは少女を買うことをライフワークにするのは
【死ね!! 今すぐ死ね! ……ってか真面目に逃げてよホント。捕まったら拷問なんだからね。私も痛いんだから】
どちらが意識の手綱を握っていても、すっ転べば二人とも痛いことはわかっている。それを途中の街の石畳で証明したのは、もちろんあなたの側だ。
それはともかく、あなたは先に希望があれば頑張れるタイプだ。痛い思いをせず少女たちのハライソを楽しめる確証があれば、きっと逃げ足も早くなるに違いない。嫌らしい笑みを浮かべながら手鏡を求めて市場を彷徨ったり、下半身裸で宿に篭ってじっくりと研究したりもしないで済むだろう。
【うるっさいなー。……はぁぁ。そうだね。今さら痛みとかは無いだろうね。ふん、別に男には関心は無いけど仕事柄色々あったんだよ。兄貴をこの手で殺すまで男とかどうでもいいし】
なんと、クレマンティーヌはヤンデレ妹属性持ちだった。あなたは時の流れの残酷さを呪わずにはいられない。これが少女の体であれば本当に第四話までもたなかったかもしれない。
【何言ってるか全然わからないけど、まーた胸糞悪い話をされているような気がするなー】
その声であなたのことをお兄ちゃんと呼んでくれれば、そのことが理解への第一歩になるに違いない。
【わっかりたくもないわ。気持ちわるー。死ねば?】
あなたは少し落ち込むが、やはりこの声、罵倒を貰い続けるのも悪くない。声だけでも元の世界へ連れて帰りたい逸材だが、こちらの世界の方が快適なので連れ歩くだけで我慢する。そもそも超自然的な理由でこうして声が聞けるだけでも儲けものなのだ。たとえ実際には、この女の脳に残っている自分の声のイメージが再生されているだけであっても、ごはんのお供としての性能は普通の音声と何ら変わることはない。
こんな形で精神が共存する理由は彼女の精神の強さか、あるいはあなたの弱さか、その両方かもしれない。この女の強靭な精神によって、あなたごときの脆弱な精神が押し潰されないで済んでいるのは、やはりチートなのだろう。
もしチート抜きの状態でこちらの世界で出会ったらあなたなど気分転換に殺されるだろうし、元の世界で出会ったらあなたなど彼女の口の悪さで精神的に殺される。あなたがクレマンティーヌとまともに会話ができるのは、脆弱なあなたをすり潰さずに残してくれる憑依というチートと、彼女があなたのいた世界のJC・JKスラングを習得していないという幸運のおかげでしかないのだ。
クレマンティーヌの言っていた城塞都市エ・ランテルは、もうすぐだ。走り慣れている身体で走るというのは意外なほど心地良い。元の身体では一生知ることができなかった世界ではあるが、高揚する気分の方はランナーズハイではなく罵倒ハイなのだろう。元の世界には特定の声優の罵倒音声をプレーヤーに溜め込んでリピートしながら長距離を走るランナーもいるというので、どちらも似たようなものかもしれない。
街の入口には商人が行き交い、平和そのものだ。前世のゾンビ・パンデミックの地からそう遠くないことから、あなたはゾンビが街に溢れていたら一も二も無く逃亡すると予め宣言していたのだが、拍子抜けだ。
◆◆◆
ありのまま起こったことを思い返す。
あなたは恥ずかしくなって最初の作戦を放棄したら、いつのまにかワーカーたちの大半を殺し尽くしていた。
なめられないように最初はスティレットを持って、というのはクレマンティーヌから出された最低限の条件だった。それでも、やることは女の武器を使っての説得のつもりだった。
これはお仕置きのつもりでもあった。金も払わずにワーカーを使おうなどというクレマンティーヌのずさんな計画にあなたは頭を抱え、何人か殺して脅すか武器に込められた魅了の魔法でどうにかすればいいというクレマンティーヌの外道脳筋ぶりにドン引きしていた。あなたは自身の事を棚にあげつつ、このゲスな女を一度懲らしめてみたいと考えた。だからこそ、クレマンティーヌが一番嫌がるであろう方法を実行したのだ。
もちろん、あなたがクレマンティーヌの声帯から出る媚び声を存分に堪能したいという揺るがぬ目的もあったのだが、これは当然の役得というものだ。
しかし、媚び声というのは魅力的な媚び演技が伴わなければどうにもならない。あなたにそんな才能は一片たりとも無かった。
世の男性諸氏よ、世界の半分は女性である。ゆめゆめ忘れることなかれ。
特に異世界転移(憑依タイプ)をお考えの諸兄は是非とも演技の練習をしておくべきだと、あなたは真摯に呼びかけたい。それも、主に過去のあなたに対してだ。
そして、棒読みの萌え台詞をそこらの男へ向けて乱打して無事でいられるほど、あなたの精神は強くなかった。これは他人の身体であっても、他人事ではないのだ。精神耐性に至っては相変わらず全てのダメージが貫通している。豆腐メンタルどころではない。その防壁は隙間の部分しかないザルだ。
あなたはすぐに耐えられなくなって取り乱し、腰の鞘にスティレットを戻すと男たちを殴り倒した――はずだった。
【こうすることが正しいって信じて握っている……だから、簡単には離さないよ!】
クレマンティーヌは強い心であなたに抵抗し、スティレットを握り続けていた。
周囲は血まみれ、手に残るのは肉と骨を貫く嫌な感触。あなたの奥底に封じ込められているはずのクレマンティーヌのドヤ顔が目に見えるようだ。
あなたが腰の鞘に戻したはずのスティレットは、あなたの指が食い込むのではないかというほど強く強く握られたままだ。
あなた以上に耐え難い精神的苦痛を浴びせられたクレマンティーヌは、チートすら破る脅威の精神力でスティレットを握る手に、ひねる手首に全力を傾けた。すなわち、あなたの殴打を刺突に変えた。
元々、あなたの身体にとってはその場に居るだけで胸糞悪い存在(下手な演技を見せて勝手に恥じらうあなたが悪いのだが)を殴り飛ばすこととスティレットで刺殺することは等価だった。素手なら殴り、スティレットなら刺殺する、人を殺し慣れたこの身体にとってその違いはじゃんけんでグーを出すかパーを出すか程度の些細なもので、そこにクレマンティーヌのつけ入る隙があったのだ。
つまり、あなたが大量殺人を行ったのは、この殺人狂の日々の研鑽の成果ということになる。
そうなるまでのクレマンティーヌの日頃の行いを考えるとあなたは頭が痛くなるが、最初から夜逃げ中だったのが不幸中の幸いだ。幼女の額飾りなんぞ盗らなくてもこの女はいくらでも罪科を貯めこんでいたのではないだろうか。
あなたは敗北者らしい死んだ目のまま、生き残ったワーカーにクレマンティーヌ指定のスティレットを突き刺し、言われるがままのイメージで魔法を発動する。
結局、血まみれの路地裏も、仕事を言いつけられてふらふらと去る男も、全てが脳筋の計画通りになってしまった。あなたは敗北感に打ちひしがれながらも、逃亡資金として死者の財布を確保する。その際なんとなく懐を確認すると、なんと普通にワーカーに依頼できるほど金貨を持っていた。
【んふふ、あんな雑魚に金払ってもしょうがないじゃない?】
あなたは深く溜息をつくと、金を払うべき先を心に決めてフラフラと歩きだす。あなたはグロを見せられ体感させられ、消耗した。今ここで必要なのは、癒やしだ。
【ちょっと、どこ行くの!?】
わかりきっていることを聞かないでほしい。あなたの目的地は娼館という建物の形をした癒やしそのものだ。
【わけがわからないよ! そんなことしてる場合じゃないよね? 馬鹿なの? 死ね!】
時間ならある。あなたはクレマンティーヌの言いなりに、墓地の中で怪しげな儀式をしている陰気な禿と手を組み、ある男をさらって裸にひん剥いて薄衣一枚の変態みたいな格好をさせるという実りのない仕事の準備を始めているが、今はその男の帰りを待っている状況だ。
勿論、あなたの性愛方向が変化したわけでもなく、禿もそういう趣味があるわけではない。
あなたたちがやろうとしているのは、高い位階の魔法を使えるようになるというマジックアイテムを使ったテロ行為だ。どんなアイテムでも使用できる能力を持つというその男に使わせ、不死の軍勢を呼んで街を滅ぼすという計画だ。そこまでする理由が単に騒ぎを起こして追跡の目をくらますためだというのだから、本当にこれはとんでもない女だ。
ゾンビ・パンデミックで命を失ったばかりのあなたは抵抗したが、この体なら逃亡も容易
しかし、今はそんなことはどうでもいい。
あなたは大きな口にだらしない笑みを浮かべて娼館へと入っていく。
【そんなのってないよ! ……こんなの絶対おかしいよ!! 出てけ!! 死ね!!】
それは先程のワーカーたちの、そして数日後のエ・ランテルの人々の台詞であるべきだ。そして、計画を聞かされた瞬間のあなたの感想でもある。あの時、額飾りごと幼女を持ってきていれば、男なんぞひん剥かなくても済むのだ。逃げ足だって幼女を抱えたあなたなら五割増しで速く走れただろう。
◆◆◆
そして、久々にやってきた娼館、それは金さえあればわけ隔てなく客として快楽を得られる素晴らしきハライソ。
それはクレマンティーヌの肉体に入っているあなたとて例外ではない。
あなたは、入店直後にノータイムで広げられる男娼のリストを断り、いささか鼻の穴を広げ気味の表情からニンマリとした笑みを作って若い娼婦を要求する。
幸い、娼館の従業員は誰一人としてあなたの性別を訝ることはない。あなたの浮かべる肉食獣の笑みが、あなたの嗜好を雄弁に物語っているからだ。
そして、この場所のプロフェッショナルたちはあなたの想いに充分に応えてくれる。当たり前のように娼婦を用意してくれるだけでなく、あなたが今の身体で愉しむための道具までもがきっちりと料金内で用意されたのは軽い驚きだ。
◆◆◆
この天使が、十八か。あなたの心は沸き立っている。
【本気? 本気で私がコレやんの!?】
あなたは少女に飛びつくと、少女は無抵抗にベッドに倒れ込む。
やはり異世界、栄養が足りていないのか身体が薄く、年齢の割にずいぶんと未成熟な感じがする。上背だけが、かろうじて十八と言っても通用するかどうかという印象だ。
少女を押し倒した形になったあなたは、そのまま自然に態勢を整えた――つもりでいたら、なぜか少女に馬乗りになっていた。
体を自然に起こしただけのつもりで、膝で少女の両腕を抑え込んでいた。
次にどこを殴れば行動力を奪えるかまで、なんとなく理解できた。
あなたは自分の行為に大いに戸惑う。この身体は余計な所が高性能だ。
なぜ娼館で少女娼婦を相手にマウントポジションで打撃を与えようとしているのか。
この身体はやさぐれている。愛が必要だ。あなたはそう考える。
【や、いらないから。お断り。サヨウナラ。むしろ今すぐあんたを抑え込んで動かなくなるまで殴り続けたいね】
あなたはツンデレという言葉を思い出し、白い歯を見せて嗤った。
きっとクレマンティーヌも気持ちよくなるさと、気持ち悪く嗤った。
そして少女の横へ我が身を転がし、少女の身体を念入りにまさぐっていく――。
◆◆◆
こんな子が十七だって? あなたの心は沸き踊る。
【え、ちょっと、まだヤんのぉ……】
大丈夫だ。あなたの身体は道具を介した行為に結構慣れてきている。
そもそも、この身体にはインターバルなど必要ないのだ。
もちろん、あなたの心の芯棒は少女の中を埋め尽くし溢れんばかりに魂の飛沫をびゅるびゅるとほとばしらせていたつもりだが、肉体的な消耗自体は殆ど無い。むしろ、時間をかけたことで道具との接点の潤いが増え、色々とラクになってきたくらいだ。
【もう駄目だよ。こっちの心はボロボロだよ……】
あなたは女の無尽蔵の体力に感謝しながら、年齢よりずっと幼い少女をベッドへエスコートする。
◆◆◆
あなたは瞠目する。こんな、こんな十六があっていいのか!
【あーのさー、さーっきから思ってたけど、そんなわけないでしょーが。面倒臭いって思われるからごまかしてんのよ童貞】
黙れっ!! 夢を壊すなっっ!! 邪魔をすると路上で脱ぐぞ!!
【あーハイハイ、もう死んでよー】
あなたは少女の全身を舐めるように見る。またも、幼い。
あなたは神に感謝する。あなたの知るあらゆる神に感謝する。こちらの世界の六大神にも感謝する。
せっかく年齢より幼く見える少女が続いているのだ。この豪運が続くうちに、体力の続く限り行為に及ばねばならない。最高の気分の所へ興が覚めることを言う女に憤慨しつつも、あなたはいそいそと少女の服を脱がしていく。
◆◆◆
十四だと!!
あなたは魂を震わせる。こんな未発達な……異世界にしても何たることか!
【ぷぷぷ、だからガキすぎて面倒だって客に思われないように適当言ってんだよ。いいかげんわかりなよ糞童貞】
な、ななな何だと、もももももう一度言ってみろ。
【あ? えーと、くそどうてい?】
あなたが聞きたいのはそこじゃない。
そもそもあなたも前世でやることやっているのだから言いがかりであるし、そこは問題ではないのだ。
【んん? あー、だからガキが自分を高く売るために上の数字言わされてんだよ。何でそんなこともわからないわけ? 童貞こじらすにも程があるでしょーに】
【娼婦のガキが上以外どっちに誤魔化すのよ。横? 斜め? あんた本当に頭悪いんじゃないの?】
ぶばああぁぁぁぁっ!!
「お、お客様! 大丈夫ですか!?」
さながら赤い噴水。あなたは盛大に鼻血を吹いた。血まみれの幼い
【ちょっと何? 死ぬの? やっと死ぬの? 死ぬなら体は巻き込まないで!】
気が遠くなりかけるが、魂の存続を賭けて途切れそうな意識にしがみつく。今この意識を手放したら、二度と戻れないような気がしたのだ。
そして、あなたは小鹿のように震える体を起こし、心配そうに覗き込む
◆◆◆
【糞が……この変態淫獣……一晩中とか頭おかしいだろ……童貞色魔……ほんと殺したい……このキチロリ野郎……】
キリッとした顔で娼館から出てきたあなたは、止まらない罵声のご褒美にご満悦だ。一晩中、幾人かの少女を楽しみながらひたすら罵倒され続けるという稀有な体験は、あなたの心と魂の汚れをすっかり洗い流した。少女たちに告げられた偽りの数字もあなたの妄想力を大いに刺激し、魂の芯棒は勃ちっぱなしだ。路銀さえ考えなければ三日三晩でも七日七夜でも不眠不休で楽しめそうな感じがする。
あなたは、このすがすがしい朝に陰鬱さを漂わせるクレマンティーヌが心配でならない。こういう呟くような罵声を戴けるのも悪くは無いが、気分が悪いのなら無理をしてくれなくても良いのだ。
【誰のせいで心が折れかかってると思ってんのよこのクズ童貞】
あなたはいつまでも童貞呼ばわりが続くことに納得のいかない部分もあるが、あなたがあなたであった頃は確かにそういう状況だった。憑依先では状況は違うのだが、心が男でありながら生えていない以上は一生この言葉と付き合っていかなければならないのだと理解はしている。そもそも、この声でそう呼ばれることは嫌いではないのだ。
【……死ねよ変態、マゾ豚、ロリコン、チン○脳、種なし、エロ猿、◎★▽×、◇■◎※▲!!】
あなたはあなたの中のクレマンティーヌが元気になってきたことで安心する。近頃は彼女の罵声を浴びられない人生など考えられないほどに馴染んできているからだ。
与えられる罵倒は非常に多岐にわたっているが、心の奥底では童貞を捨てたつもりのあなたは余裕で受け流せる。惜しむらくは、その中に「ヤ○チン」という類の表現が無いことだろうか。
【いや、だってあんた自分の入れてないから童貞だし】
嫌いではないのだ。本当にクレマンティーヌの罵声は嫌いではない。むしろ愛していると言ってもいい。なのに、
目の端に涙が浮くのはなぜなのか。
スレイン法国でひたすら娼館に通った日々を思えば、素人○貞だと訂正したくもなるところだが、そんな気力さえ出ないのは生前の自分に思い当たる所があるからだろうか。
法国での魂を癒す数々の経験さえも、自分の身体ではないのだからノーカン、などと弱気の虫が顔を出したりもする。
そして、理解はしている。あなたはちょっと背伸びしたくなっただけなのだ。完膚なきまでに叩き潰されれば嫌でもわかる。
あなたは耐え忍び、受け入れ、この罵声に慣れることにした。
慣れれば気持ち良いのだ。罵声全体では既に気持ち良い方が勝っている。これは性癖だ。性癖に取り込みさえすれば、あなたは負けない。
とにかく、あなたは適応することに専念する。それだけでいい。
この女は強い。心が適応さえすれば、あなたの未来はバラ色だ。
様々な危険から身を守り、娼館に行けば一晩中戦える強靭な肉体、娼館通いに困らない程度の小遣い、そして日々の
あなたの求めるものは何でも揃い、あなたが知らなかった気持ちよさまで得られる、最高の異世界ライフがここにある。
エ・ランテルでのあなたの休暇は残り少ないが、あなたと娼館とクレマンティーヌの素晴らしき未来はまだまだ続く。
続くものだと、思っていた。
クレマンカワイソス