図書室の天使さん   作:史上最強のラーメン

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お久しぶりです。一年以上ぶりに戻ってきました。そして、本編の更新は約2年ぶりくらいです。やはりシリアスを書くのは苦手みたいですごめんなさい。
ただ、もう1話、一万字くらいの続きが9割完成しているので、1週間以内にもう1話更新させていただきます。
ラブライブサンシャイン最高!!


堕天使とAqoursとwithB part5

 

 

 

 映画館。それは比較的安価で且つ気軽に行くことが出来るため学生から社会人まで、幅広い年齢層のカップルから人気を誇っているデートスポットである。今日は休日ということもあり、周囲にはカップルと思わしき男女がチラホラと見受けられた。

 

 

「うぉ!?」

 

 

 チケット売り場へ向かおうと人混みをかき分けながら進んでいると、突如脛の辺りに衝撃が走った。原因を確かめるため、足元に目を向けると小さな女の子が尻餅をついていた。どうやら、周囲の人の多さに気を取られて、走っていた幼女に気がつけなかったようだ。

 しゃがんで幼女の手を取り立ち上がらせると、幼女は礼儀正しく頭を下げ、「おにーさん、ごめんなさい」と謝罪したのだった。

 

 

うむ!礼儀正しく素晴らしいロリだ!!!わっしょい!!!!!

 

 

「お兄ちゃんも前見てなくてごめんね。でも、映画館は人がいっぱいで危ないから走っちゃダメだよ」

 

 

 そうやって、できる限り優しく幼女に伝えると幼女は「はーい!わかりました!」と元気いっぱいに答えて去っていったのだった。素直ないい子だ。親の教育が良いのだろう。危うく頭をナデナデしてしまい、「YESロリータNOタッチ」の原則を破ってしまうところだった。いや、手に触ったから破ってしまったのでは?これはまずい。ロリリズム過激派(幼女の写真を主食とする変態共)に粛清されてしまうかもしれない。しかしな...

 

 

 

 

ロリノテ...スゴク...チッチャクテヤワラカカッタ...(犯罪者予備軍並感)

 

 

 

 

それにしても良いなぁ、幼女は。我々が年齢を重ね、社会の荒波に揉まれている内に忘れてしまったピュアな心を持っている。どうかあの純真無垢な女児の未来に幸あれ。

 

 

 

「子供、好きなのね」

 

 

 しゃがみながら、幼女が母親らしき人物に寄っていく姿を眺めていると後ろにいた善子が呟いた。

 

 

「あぁ。良いよなぁ、純粋で」

 

 

 将来ああいう可愛らしい子供がいれば幸せに暮らせるんだろうなぁ。そう、具体的には赤い髪の毛を両サイドで結んだちょっと気の弱そうな女児か綺麗な栗色の髪の大人しそうな女児に元気いっぱいに「パパー!だいしゅきー!」って言われたいなー!あり得ない未来なのになんかオラ、ワクワクしてきたぞ!イェイ!未来最高!未来最高!俺の名前も未来最高!!

 ってイカンイカン。素晴らしい未来を想像していると、ついつい頬が緩んでしまう。幸せな妄想もいいが、しかし、いつまでもこんな往来の激しい道でしゃがんでいては迷惑になるため、立ち上がる。

 

 

「ってどうしたの?」

 

 

チケットを買いに行こうと歩を進めようとしたが、何故か善子がモジモジとしているようで、気になったので声をかける。

 

 

「その...未来は、将来結婚して子供が欲しいとか考えたりしてるの?」

 

 

視線を逸らしながら善子はそう言った。心なしか、頬は少し赤みを帯びているようにも見える。

 

え?急になんだ?別に良いけれども。

 

 

「ん?そりゃ、出来れば結婚して子供とか欲しいなって考えてるよ。野球のチームが組めるくらいに自分の子供が居たら毎日楽しそうだし、幸せだろうな」

 

 

ちなみに男の子四人に女の子五人が理想である。

 

 そんなふうに考えながら、隣にいる津島に目を向けると、先程よりも顔を紅潮させ、唖然とした様子で口をあわあわと震わせていた。いや、そんなに驚かなくても。ジョークだし。そりゃできるならそれくらいは欲しいとは思うけれど今のご時世、子供を九人も養っていくとかめちゃくちゃキツイだろうから、せいぜい出来ても三人だろうなぁってちゃんと割り切ってるから。ツラいぜ、少子高齢化社会!物価高!走行距離税!インボイス制度!

 

 

「きゅ、きゅきゅ、九人って、そ、そんな!?」

 

「いや、ジョークだわ」

 

「じょ、ジョークって...!もっとたくさん欲しいってこと!?」

 

「いやちげーし。大丈夫かお前?」

 

 

 恐らく今、津島は俺のことを性欲旺盛なケダモノだと思っているのだろう。

 確かに俺は、年中エロい事考えてる変態という名の紳士を自称する者だが、子孫をより多く残す、ということは、我々人間にとって遺伝子レベルで刻まれた最重要タスクであり、例え心では望んでいなくとも身体は知らず知らずのうちに異性を求めてしまうものなのだ。つまり性欲とは原始的な欲求でありヒトがヒトとして生きる上で避けて通れず、そして当然持つものなのである。以上のことから私は、私たち人類は性的な欲求を包み隠すことのない開かれた社会を目指すと同時に、はるか昔の時のように、みな全裸で過ごすことの出来る社会を実現するべきだと考える。最近何かと話題のえすでぃーじぃーず?ってやつだよ。タブンネ。

 

 

「そもそも俺には将来結婚できるのか、という大きな問題があってだな」

 

 

 近年の若者の結婚離れもあって、あれ?これ結婚とか無理ゲーじゃね?と思っている。そして世の女性が結婚相手に求める条件、高身長高収入高学歴の所謂「3高」、これらを満たし、婚姻にまで辿り着くのは非常に困難だと考えている。世辞辛い世の中なんやで、全く。

 

 

「未来なら結婚できるわよ」

 

 

何を根拠にそんな事を言っているのだろうか、こいつは。

 

 

「いやいや、最近の女性は年収一千万でイケメンで高身長で高学歴な男を結婚相手にしたいってどっかのサイトで見たし。現実は無情だな...はぁ...」

 

 

 実際、勉強を頑張って三年後に良い大学に入学出来れていれば年収一千万高学歴の部分はクリア出来なくもないが、やっぱ結局は顔なんだよなぁ......俺とズッ友の諭吉(あだ名:キッチー)が「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。人は生まれながらにして平等である」とか言ってたけど、そんなん戯言だから!

 

 

「そんなに理想の高い人なんて滅多にいないわよ。あんた頭良いのにどうしてそんな偏った情報ばかり信じるのよ.....それに...」

 

「それに?」

 

 

 いやまぁ、確かに改めて考えると間に受け過ぎてる気はしなくもないが。だって学校でたまに行われるインターネットリテラシーの講習、基本寝てるし。あるあるだよね、あるある。

 

 

「気がついていないだけであんたの良いところ全部、ちゃんと見ている人は存在してるわよ、きっと...」

 

「津島...お前...」

 

 

 

 

 

トクン...トクン...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?これなんてギャルゲー?いや、乙女ゲー?もし俺がチョロインだったら危うく攻略されてるところだったわ。チョロイン乙wwwとかいつもギャルゲーのキャラに思っていたが、確かにこれは乙るわ、恋に。

 正直今のはかなり効いた。なんか...すっげー嬉しかった...今も心臓がドキドキして止まないし。止まれ!心臓!...って心臓止まったら死んじゃうぢゃん!

 

 

 

「......え?どうしたのお前?熱でもあんの?」

 

 

 少し冷静になった俺は、謎に優しい津島に対し非常に困惑していた。普段だったら「あんたは一生独身の童貞よ〜wwwプププ〜www」とか言ってくるやつなのに。いや、流石に童貞とか口にするような下品な女ではなかったな。

 

 

「〜っ!せ、せっかくフォローしてあげたのに何よそれは〜!」

 

 

 津島の奇行は体調不良によるもの、と推測した俺はそう尋ねると、津島は怒ったのかその白い肌を赤くし、こちらに詰め寄ってくるのだった。

 

 

 

しかし、今日のコイツはやけに変だな。なんか調子狂うわ...

 

 

 

 

●●●

 

 

「なに見る?」

 

 

一悶着あったが、ついにここまで辿り着く。

 映画館のロビーの壁には上映中の映画のポスターが掲示されており、特に何を見るか決めていなかった俺たちは十分ほどあれこれ相談していた。

 

 

「そうね、未来はどれが見たいの?」

 

「最近の映画の情報とか調べてないから、面白いのとか分からないんでお任せするわ」

 

「わかったわ。ならこの闇の波動を感じるやつを見ましょう」

 

 

 そうして津島が指差したのは、謎のキノコの化物がデカデカと写っているポスターだった。隣のア○パンマンやカラスの戸締りとかいう映画のポスターと比較するとなんとも禍々しい雰囲気を感じる。

 

 

「『恐怖!キノコ男』?流行ってんの?これ」

 

「最近ネットでこの映画についてのスレをよく見かけるし、流行ってるんじゃないかしら?」

 

 

 ホラー映画か。俺、普段あんまり映画館に来ないし、来たとしてもアニメ系の映画しか見ないから、大きなスクリーンでホラー映画を見るのは初めてだな。女子と二人でホラー映画とか、漫画等でよく見かけるヒロインが怖がって主人公の腕に抱きつく展開を想像してしまうがあれは二次元の中だけなんだよなぁぁぁ(クソデカため息)。ほんと、三次元には希望を抱けねーわ。流石は子供の幸福度先進国中ワースト二位の国、ジャパン!

 

 

「ビビって映画館で大声出すなよ〜」

 

「それはこっちのセリフよ。怖いからって途中退場したいよ〜とか言い出さないでよね!」

 

 

そもそも、津島にそんなことを期待することがいけないんだな。津島は堕天使を自称する位だしホラー耐性はあるだろう。それに腕に抱きつかれるなら花丸みたいなサイズじゃないと夢がねーよな!!津島のその慎ましい胸部に挟まれても嬉しくな...まぁちょっとは嬉しいけど嬉しくないんだよな。あれ?なんか矛盾してる気がしねぇ?

 

 

「何か失礼なこと考えてない?」

 

「.....なわけ」

 

「今の間は何よ!」

 

 

また心を読んできたよこいつ。女の勘ヤベー。

 

 

「学割で1000円...あ、生徒手帳忘れた」

 

「私も忘れちゃったわ」

 

「ぐぬぬ...おっ、小学生なら1000円だってよ!よっしゃ!今日の俺たちは小学生だ!ほらヨハネ様!若返りの魔法とかないの?ぷりーず!」

 

「えぇ!?えっと...そうね...ヨハネの最終奥義の一つを使えば出来なくもないけど!?」

 

「いや出来ないだろアホか」

 

「意地悪!」

 

 

 券売機でチケットを発券し、売店でドリンクとポップコーンを購入する。ポップコーンは大きめのサイズのものを購入し二人でシェアすることにした。なんかちょっとカップルムーブっぽいが気にしてはいけない。学生の財布は常にひもじいのだ。こういった細かいところにも倹約の精神を向けることが頭の良い人間のすることであり、津島もそれを理解しているが故に俺の提案を了承してくれたのだろう。ここで節約した分を最近始めた『ルビたそ年貢貯金箱』に入れておこうと思う。そう、近年日本は増税ブームである。そのためいつこの世の至宝、もといワンピースであるルビィちゃんのキューティフェイスを拝見する度に税金が発生するシステムが確立されてもおかしくはない。そのために貯金箱にて備えているのである。それにこうして備えておけば、いつルビィちゃんに「うゆゆ?未来くん、今日の友達料金の支払いまだ?今までの滞納分とあわせて1000万ペリカね!あと延滞手数料と振込手数料と慰謝料と手間賃と迷惑料とーーーーーー」「あ、あのー?ルビィ?手間賃と振込手数料ってほぼ同じものなんじゃ...」「債務者が口答えしないの!地下行きだよぉ!」と言われても大丈夫だ。いやもしくは、払えないし、地下行きも嫌という事にして俺の身体で支払いたーーーーーー

 

 

 

「ん?どうしたんだよ、変な顔して」

 

「な、なんでもない!」

 

 

 ポップコーンを購入してからというもの、津島はなぜかソワソワしていた。きっと映画が楽しみなのだろう。

 シアターへの入場まで十五分ほど余裕があった為、ロビーで適当に駄弁りながら時間を潰していた。

 

 

「ん!?『恐怖!キノコ男』評価2.1?え?マジ?なんか地雷臭がしてきたんですが、津島さん」

 

「ヨハネ。そうね、流石にその評価は不安になってくるわね...もしかしてあの大量のスレは駄作すぎるのが原因で立てられたのかしら?」

 

「ま、まぁ、もうチケット買っちゃったから後には引けないし、それにネットの情報は鵜呑みにし過ぎるなって学校でも習ったから大丈夫だよな.....え?大丈夫だよね?約二時間も無駄にするとか嫌だぞ俺?」

 

 

せっかく千円払ったのに映画が終わった後の感想が「ポップコーン美味しかった!」だけになるのは流石に避けたい。

 

 映画の入場アナウンスがかかった為、俺と津島はスタッフにチケットを渡してシアターに入場する。

 俺たちの席はシアターの後ろの方と、人気な箇所であったにも関わらず、周囲には誰も座っていなかった。

 

 

「人、誰もいないわね」

 

「...そうスね」

 

 

 客の多い休日の昼にも関わらずこの人気の無さ。俺津島は地雷を踏んでしまった事を理解した。そも、先程チケットを渡したスタッフさんにも、コイツらこれ見んのか...みたいな目で見られてたし!納得の結果である。

 しかしながら、時間の無駄になるとはいえこのまま引き返すのも映画代が勿体無いため席に座り、ポップコーンをつまみながら後悔の念に浸る。しばらくすると灯りが消え、頭部がビデオカメラのスーツ姿の男がキレのあるダンスを踊る映像(小さい頃は結構怖かった)も終わり、本編が始まった。

 

 哀れにもわずがな望みを抱きながら映画に集中する。しかし、その望みはあっさりと裏切られることになった。

 

 

『グワァァァァ!!』

 

「ひっ...!」

 

ちょ、痛い痛い!怖いのは分かるけどそんなに強く俺の手を握るな!

 

 

「うぅ...」

 

 

 って直接伝えられたらいいんだけど映画館は私語厳禁だから無理なんだよね、他に客いないけど。俺、モラルや法律はしっかりと守る人間なんで。まぁ脳内は犯罪者予備軍的な考えで溢れてるんだけど(笑)

 

 

『食っちまうぞぉぉぉぉ!!』

 

 

 それにしても、なんだこの映画は。お粗末なセット並びに違和感ありまくりのCG。ホラー映画なのに全然怖くないし。それに尺稼ぎもワンピースのアニメみたいに酷ーーーーーーってイカンイカン。これを言ったらワンピースファン及び集◯社の関係者から批判が殺到してしまう。

 

 

 うん、でもとりあえずだ、この映画、ネットの評価2なのも納得だわ。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 

 津島もよくこんなのでビビれるな。こんなのでビビられると、からかう気持ちも失せてむしろギャップ萌えするくらいだわ。

 

 

「ひゃぁ...!」

 

 

 おいおい津島よ、中々可愛い声出すじゃねぇか。しかもこんなに手を握ってきて...もしかしてコイツ、俺のこと好きなんじゃね?

 

 

 ...って無い無い。童貞あるあるな勘違いですね。そんな惚れられるようなことしてないしね。それにコイツ、性格は残念だけどめちゃくちゃ美人だからな。こんな平凡な容姿の男に惚れるなんてあり得ないだろ。こういう女はイケメンで高収入の男とゴールインするんだろうな。

 

 グワァァァァァ!花丸やルビィちゃんがイケメンと手を繋いでいる姿を想像したら、屋上から来世は性格・容姿共にイケメンになれる強個性が発現する事を願ってワンチャンダイブしたくなってきたぞ!!

 

 

「ちょっ、未来!手、強く握り過ぎ...!」

 

 

 横で津島が何か言っているようだったが、この世の不平等さを嘆き、途方に暮れていた俺の耳には一切の言葉が聞こえることはなかったとさ...

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

さっきからかう気が失せたとか言ったな。

 

 

「や〜い!ビビリの善子ちゃ〜ん!!」

 

「う、うぅ〜!って善子言うな〜!」

 

 

 嘘です、やっぱりからかいます。弄りまくります。小学生みたいにからかってやります。やーい!お前の母ちゃんでーべそ!マンモーニ!!ولد الأم!!!

 あと小学生あるあるといえばスカートめくりだな。ただそれを今やったら終わりだから、人生が(倒置的表現)。まったく、俺みたいな人間には生きにくい世の中だぜ......でもほんと、教室でスカートめくりし合ってる女子達はもっとやれ...自重してほしいものだ。

 

 

「いやぁ〜、まさか堕天使ともあろう者があの程度のホラー映画でビビるとは思わなかったわ!こんな事なら隣のシアターでやってたアンパ◯マンでも見た方が良かったなぁ〜!あっはっはっはっ!!」

 

「ち、違う!あれはただ...」

 

「何がどう違うの〜?」

 

「えっと...その...そ、そうだわ!あの映像からこのヨハネと同じ闇のエネルギーを感じ取って共鳴していただけよ...あの時のヨハネは確かに怖がっているように見えたかも知れないけど実は共鳴によって体内に過剰に蓄積された闇物質、所謂ダークマターに心を蝕まれないように体外に放出していただけで決して怖がっていた訳ではないの...そんな事も分からないなんて衰えーーーーーー」

 

「食っちまうぞぉぉぉ!!」

 

「きゃああああっ!」

 

「あっはっはっはっ!!」

 

「!?あんたねぇ〜!!」

 

 

 普段強がっている娘が実は怖がりだったとかめっちゃ萌えたけど、今日はコイツにやられっぱなしだから全力でやり返してやる。

 

 

「あ〜、笑った笑った」

 

「ぐぬぬ...怖がってなんか無いんだから!勘違いしないでよね!」

 

 

 ツンデレ構文キタコレ!勘違いしないでよね!って付けるだけで不思議なことにどんな文でもツンデレっぽくなるのだ。薄々感じていたが、やはり津島にはツンデレの才能があるな。死ぬ前に一度でいいから『か、勘違いしないでよね!べ、別にあんたの為にやったんじゃないんだから!』って台詞をリアルで聞いてみたいものだ。

 

 

「あーはいはい。わかりましたわかりました」

 

「信じてないわね〜!」

 

 

 でもあまりにもツンデレ好きをこじらせ過ぎると廃人のように目が虚ろになり、『マキチャン...マキチャン...』とか呟き始める奴もいるから気を付けろってどっかのサイトで見た覚えがある。で、その症状を治すためには東京にある西木野総合病院精神科ってところに行かなきゃいけないんだってさ。なんかコワイネー。

 

 

「んん〜、それにしても腰が...」

 

 

 ふと、映画館でずっと座っていたせいか背中から腰にかけてに違和感を覚えた為、腕を上げて身体を伸ばす。横で津島がギャーギャーとなにか言っているようだが知ったことでは無い。

 映画を見終えた俺と津島はショッピングセンターを後にし、最寄り駅の周辺を適当にぶらぶらしていた。

 時刻は十八時を過ぎ、あたりは暗くなり始めており、また、遊んだ帰りであろう子連れの家族の姿がチラホラと見受けられた。

 

 

「よし、もう暗くなりそうだしそろそろ帰るか」

 

 

 俺がそう言うと津島は、さっきまでの勢いは何処へ行ったのやら悲しさや寂しさの色を含んだ声を挙げ、こちらを見つめていた。

 

「えっ、もう帰っちゃうの...」

 

 

「明日からまたランタン製作とダンスの練習が再開するんだし、早く帰って明日に備えた方が良いだろ?」

 

 

 珍しい津島の様子に少し戸惑った俺は、諭すようにそう問いかける。それでも津島の表情からはまだ帰りたくないという意思が感じられた。

 

 うーん...昨日遅くまで遊んでたせいで練習に身が入らない、なんて事になったらAqoursの皆さんに申し訳ないんだよな。

 しかし、こうやって、俺とまだ一緒に遊んでいたいっていう気持ちが伝わってくるのはなんだろう......不思議な気持ちがする。承認欲求が充足されて脳汁が溢れてるのか、良い気分だ。

 

 

「まぁなんだ...津島の帰りたくないって気持ちも分からなくもない。俺も今日は楽しかったからな。だからさ、また練習が無い日にこうやって遊びにこれば良いだろ?」

 

 

 最初はなんのプランも無く先行きが不安で仕方なかったが、しかし、津島との時間は普段花丸やルビィちゃんと遊ぶ時とはまた違った楽しさがあり、終わってみればなかなかに充実した良い休日だったと言えた。だから少しだけコイツに感謝している俺がいた。

 

 

「そうね......えぇ、わかったわ。約束よ?もし約束を破ったらヨハネのきっつーーーいお仕置きが待ってるんだからね!」

 

 

 俺がそう言うと、津島は先程までの表情から一転し、心の底から嬉しそうな表情をしていた。

......本当にコロコロと表情が変わるな。やっぱりコイツ、色々残念な奴だけどめちゃくちゃ可愛いーーーーーー

 

 

 ってなんか今日はドキドキさせられてばっかでムカつく!恋する漢かよ俺は!!!こんな時は花丸とルビィの写真を見て落ち着くしかない!

 

 

「急にスマホなんか見つめてどうしたの?」

 

「ふーっ、ふーっ」

 

「あんた、それやめなさい。ちょっと気持ち悪いわよ...」

 

 

 何か言われているようだが知らん。ただ一点を、目の前の天使たちの写真に注目せよ。ルビィちゃんのキューティーフェイス...花丸の国木田山脈...ルビィちゃんのロリロリボディ...1、3、5、7、11、13......ふぅ、なんとか落ち着いた。

 

 

「ねぇねぇ未来、次はどこに行こうかしら!」

 

 

 津島は目を輝かせながら、嬉しそうに次の予定を考えていた。

 次が何週間後、いや、何ヶ月後になるかも不明なのにもう予定を練ってるよ...いや、全然いいんだけれども。

 

 

「今度は熱海の方に...いいえ、少し足を伸ばして神奈川っていうのもありね......そうだわ!アウトレットに行きましょう!」

 

「アウトレットっていうと、御殿場の?」

 

「えぇ!」

 

 

 アウトレットか。沼津からそこそこ近い場所にあるが、俺はそんな、ザ・オシャレみたいな場所には行ったことがないんだよな。

 せっかくの提案であるが、自身にとって全くと言っていいほど未知な場所のため、拒否すべく口を動かそうとした刹那、突然のインスピレーションが五臓六腑を駆け巡った。

 

 

 

待てよ...

 

 

 

「そうだ。アウトレットに行くなら、今度は花丸とルビィも誘うか」

 

 

 スーパー田舎もんの花丸にとって、アウトレットなんて場所は未知なはず。故にもしかしたら、「花丸ー!これこれ!これ似合いそうだよ!」俺が丹精込めて選んだクッソどエロい服を掲げるように見せつける。「え、えぇ!?そ、そんな服恥ずかしいから着たくないずらぁ!」当然花丸は真っ赤な顔で拒否するが、そんなことは想定済みの俺は、「わかってないな〜花丸は。この服は最近大流行してるんだぞ。そんなことも知らなかったなんて花丸には呆れたよ...ほんと、骨の髄まで田舎もんだね。でも今ならやり直せる!さぁ着るんだ!このビッグウェーブに乗らずしてどうするか!今ここでこれを着なければ、一生田舎もんのままだぞ!いいのか花丸!」当然この服は流行りなどではないが、生粋の田舎娘の花丸には現在の流行など分かるまい。「い、一生田舎もん......うぅ、わかったずら...着るずら...」「そう、それでいいんだ。これで花丸も立派なシティーガールになれるぞ」俺の巧みな誘導により、花丸は渋々といった様子で試着室に入っていく。数分後、カーテンが開き、新たな服に身を包んだ花丸が姿を現sえっろ.........えっろ。「ど、どうずらか?似合ってるずらーーーーーーずらぁ!?み、未来くん!?大丈夫!?」色んな部分が露出ヤバすぎてヤバい。太ももがヤバい。鎖骨がヤバい。くびれがヤバい。おっぱいがヤバい。ヤバいがヤバい。「あ、あぅぅ...は、花丸......ありが...と...う...」「未来くーーーん!!!」

 なんて展開が起こり得るかもしれん。テンション上がってきた!となると、問題はどうやって花丸と2人になるかだな。服に関してはきっとすぐ見つかるだろ。なんせアウトレットだしね!知らんけど!!!

 

 

「え?」

 

 

 一瞬、津島が発する声の雰囲気が変わったような気がしたが、気にせずに話を続ける。俺のIQ53万の脳内は現在、どの様にして花丸を先程考えたシチュエーションまで持っていくかについて、思考を巡らせていた。

 

 

「あの二人がいればきっと、もっと楽しくなるだろうな!」

 

 

更に天城未来は花丸とルビィちゃんがパーティーメンバーの場合、財力(財布のゆるさ)と腕力(荷物持ち力)が強化されるのだ!やったね!都合の良い男の完成だよ!!!

 

 

「ん?」

 

 

 くだらない思考を終え、そこで俺は、ようやく目の前の異変に気がつく。

 

 

「どうしたんだよ?急に静かになって」

 

 

 津島の表情が先程帰ろうと言った時と同じくらい、いや、その時以上に悲壮な面持ちをしていたのだ。

 そんな目の前の相手の様子に本日何度目か分からぬ戸惑いを感じた俺は、何と声を掛ければ良いのか分からずその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

数秒間、互いに無言の時が流れる。

 

 

 

 そんな沈黙の時を打ち破る為に、はじめに言葉を紡いだのは津島であった。視線が交差する。

 

 

「ねぇ、未来」

 

 

 向けられた瞳からは、確かな焦燥が伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

●●●

 

 私と未来は中学2年の春、駅近くにある集団塾で知り合った。当時は互いに色々患っていて、お互い他に気軽に連める友達なんていなかったため、自然と一緒にいる事が多くなっていった。

 未来は私の事をぞんざいに扱ってくるが意外と優しくて気が利いて、私が悩んでいる時は文句を言いながらも相談に乗ってくれる。それに普段ふざけてはいるが、実は器用だし勉強も出来て体力もあるしで、めちゃくちゃハイスペックだ。彼女とか今までいたことがなかったのか結構初心なところも可愛い。そのくせ時折急に見せる気遣いや男らしさのギャップがズルい。あと私と趣味も合うし、私のノリにも最近は悪くなったが合わせてくれる。一緒にいると楽しくて落ち着く、そんな存在が未来だった。

 そして、いつしか私の中で、未来と一緒に勉強をして、一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、一緒になんでもない話をする時間が日常になり、だんだんそんな日常がとても楽しくて...大切なものになっていった。

 

 

 

「ねぇ、未来」

 

 

 しかし、そんな日常は唐突に終わりを告げる。

 

 

 中学3年の春、いつものように塾へ行くと未来はおらず、待てども待てども未来が姿を現すことはなかった。当時は塾に行けば当然のように会えて、加えて未来は携帯を持っていなかったこともあり、私たちはお互いの連絡先を知らなかった。

 もう会う理由もチャンスもなくなり、故に、私が人生ではじめて経験したこの気持ちにも、区切りをつけなければならないのだと諦めていた。中学生の恋愛なんて所詮、些細なきっかけで終わってしまうものなんだ。きっと、一週間か一ヶ月もすれば忘れて、何事も無かったかのように生活しているだろう。人生出会いがあれば別れもあるんだって。そんな風に、諦めようとしたから...

 

 

 

 

 

 

 

 

だから......また会えたのはちょっと大袈裟かもしれないが、奇跡だと、運命だと思った。

 

 

「私と...」

 

 

 でも未来の隣にはズラ丸とルビィがいて、しかもその仲の良さは名前で呼び合う程のもので、それを知った時から私の中で焦りや不満、嫉妬、様々な醜い感情が生まれてしまった。

 

 

 

なんで、あの2人とは名前で呼び合うのに私のことはいつまでも名前で呼んでくれないの?

 

 

 

私の方が先に未来と出会ったのにどうして?

 

 

 

なんであの時、私も衣装を着てたのに褒めてくれなかったの?

 

 

 

 

なんで花丸とルビィだけ...

 

 

 

 

 私は幼い頃より不幸な体質で、どちらかといえばアンラッキーな目に合うことが多かったが、偶然が重なった結果、休日に2人きりで出かける機会が出来たことは珍しく幸運だったと喜んでいた。

 待ちに待った当日。私が持っている中で一番可愛い服を着て、濃すぎず薄すぎず、自分の魅力を最大限に活かしたメイクをする。すごく恥ずかしかったけど、頑張って手も繋いだ。頑張った甲斐もあってか、未来も今日は楽しかったって言ってくれて...凄く嬉しかった。だからいい雰囲気で終われたと、少しくらい私のことを意識してくれたんじゃないかと思っていたのに、結局未来はあの2人のことばかり考えている。その事実が、より一層私の中にある感情を爆発させてしまったのだ。

 

 

 

 

 

ズラ丸とルビィは大切な友達だ。でも...

 

 

 

 

 

「私と付き合わない?」

 

 

 

 

 

未来のことは渡さない。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

「私と付き合わない?」

 

 津島が発したその言葉に、一瞬俺の脳はフリーズした。付き合う?付き合うってなに?なにかの隠語?棒のような長い物で突っつき合うことのこと?つまり突き合う?フェンシングでもしようってこと?私と一緒にキ○キの世代を全員ぶっ倒してフェンシングで全国優勝しようって言いたいの?津島が影で俺が光なの?

 

 

「えっと......ごめん、付き合うってどういうこと?」

 

「...そのまんまの意味よ」

 

 

 え?コイツ俺のこと好きだったの?マ?俺今人生初の告白されてる感じなの?告白なうなの?

 待てよ。てことは、今日デートとか言って誘ってきたのも、手を繋いだのもそういうことだったのか......はへぇ、驚いたっぺさ。

 

 

「ほら、私たちももう高校生なんだし、一回くらい誰かと付き合うって経験をしておいた方が良いんじゃないかって思ったの。だから、試しに私と付き合ってみない?」

 

 

 試しに?......あー成る程ね。そういうことか。危なかった。危うく童貞あるある勘違いをしてしまう所だった。つまり津島は、別にアンタのこと異性として好きって訳ではないけど友達としてはまぁまぁ好きだし、それに周りの子は彼氏彼女がいて自分だけいないのはちょっとアレだから付き合いましょうって言いたいのか。

 

 

「成程...成程なぁ...」

 

 

 なんか凄く複雑な気分であるが、確かに津島の気持ちもわかる。内浦の方はそうでもないが、沼津の方に行けば同年代っぽい男女が仲良さそうに歩いてる所をよく見かける。そんな光景を見てたら誰でもいいから付き合いたいっていう気持ちになるのも理解出来る。加えて、お互い男子校と女子校に通っているせいで出会いも少ないしな。

 それに、この話は俺にとっても有益な話なのだ。今ここで津島と付き合えば、俺は多分世間一般で言うところの勝ち組になる事ができるだろう。それくらいにコイツは美人だ。浦の星は顔面偏差値お化けの学校だから例外として、もし普通の学校に通っていればクラス1、いや学校1の美人と呼ばれるであろうレベルで津島の容姿は整っている。津島と付き合うであろう男は周囲の同性から凄まじい嫉妬と羨望を向けられることになると自信を持って言える。故に、ここで津島の提案に同意をすればこの先の高校生活がさぞかし華やかなものになることは明らかである。クリぼっち回避。バレンタインチョコ獲得数ZERO。恋人と過ごすお正月。彼女のいる夏休み。カップルチャンネル。SNSにて色々とリア充達の自慢が流れてくるがそれに憎悪を募らすことも無くなる。少なくとも俺にデメリットはない。

 

 

 そう考えを纏めた俺は、返事を待っている津島に目を向け、同意の旨を告げる為に口を開こうと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天城君、ありがとう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーした瞬間、何故か花丸とルビィ、二人の笑顔が頭に浮かんだ。

 

 

 

 

 これは、あの二人がAqoursに入って直ぐのこと、名前で呼び合うようになった時に魅せてくれた笑顔だ。何故今思い出して......でも、可愛かったなぁ...

 

 

 

そうだ...俺はあの時...

 

 

 

「未来?」

 

 

津島が不安げな表情でこちらを見つめている。ごめん、もうちょっとだけ待ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、あの日の事を思い出すと、いつも思う。

 

 

 

 

「津島」

 

 

 

 

 

花丸とルビィと出会えて良かったって。

 

 

 

 俺には特になにも、高校に入ってから何がしたいとか、夢中になれるものとか、将来の夢とかも特になかった。だからいつか目標ができた時に、より優位に立ち回れるように勉強を頑張っていた。

 でも俺はあの日、あの清純無垢でどこまでも真っ直ぐな子たちが夢を叶える瞬間を見てみたいって思って......そのために彼女たちを出来る限りサポートし応援すること、それが高校生活における今の俺のやりたい事であり夢なのかもしれない。

 たまに放課後、松月とかで甘い物でも食べながら花丸とルビィから今日こんな練習をした、とか今度のライブの衣装が可愛い、とか今度のライブも絶対見に来てね!、とかそんな話を聞くのもすごく青春っぽくて、ものすごく幸せな時間かなって思う。そういう時間を夢想していると活力が湧いてきて、そしてなんだか胸がポカポカしてきて、心地良い感じになるから好きだ。

 

 そして、津島も今や立派なスクールアイドル。もし今俺が津島と付き合った場合、恐らくAqoursの活動に悪影響を及ぼしてしまうだろう。アイドルに恋愛関係の話はご法度で、勿論アマチュアとはいえスクールアイドルも例外ではない。

 そんなリスクを考えるならば、そもそも男である俺があの子たちと関わるなって話だが、それはちょっと許してほしい我儘である。

 

 

 

まぁ、色々と述べたが、つまり俺はーーーーーー

 

 

 

 

「そういうの...なんか違うと思う」

 

 

 

俺は、その魅力的な提案に同意する事は出来なかった。

 

 

「違うって...なにが違うのよ?」

 

 

俺のどこか曖昧だが、Noと取れる答えに津島は不愉快そうな面持ちを浮かべ、そう疑問を呈してくる。

 

 

「そりゃさ、俺もそういうことに興味が無い訳ではないんだけど......ただ、そういうノリで付き合うっていうのは...なんか嫌なんだ」

 

 

 先程の考えを少し訂正して、もし本気で津島が俺のことが好きで、俺が津島のことを本気で好きだった場合、しっかりと明確にYes or Noで返事をする。例えAqoursの活動に悪影響を与えてしまうとしてもだ。何故なら恋愛をする自由は憲法で保障されている自己決定権の一部であり、実際は、アイドルとはいえその自由を侵害することはできないからだ。そう俺は考えている。しかし、今回はそういうレベルの話ではないようので、津島には本当に申し訳なく思うが、この様な形で断らせて貰おうと思う。

 

 

「提案はありがたいけど、気持ちだけ受け取っとくな。ありがとう」

 

 

出来るだけ角が立たないよう、自身の考えを伝える。自分の考えと言える程、しっかりとした物ではないが。

 

 

 

「そう...よね...」

 

 

 だが、津島の表情は客観的に見ても、俺の考えに納得しているといえるものにはならなかった。もっと気の利いた言葉を使うべきだったか...

 

 

 

 

しかし、次の瞬間、津島の口より驚くべき言葉が発せられる。

 

 

 

「あんたはズラ丸かルビィと付き合いたいって考えてるものね」

 

 

「......ん!?」

 

 

 

 まさに茫然自失。津島から発せられた衝撃の言葉に一瞬頭が真っ白になる。

 

 

「い、いやいやいや!!お、俺があの二人と付き合いたいってそんな!?」

 

 

 

 え?まさか傍から見れば、俺ってそんな(花丸とルビィを恋愛的な意味で大好き)風に見える?

 

......冷静に今までの行動を振り返ると、確かに俺は異性の友人である2人のために色々やってたかもしれん。それは第三者からすればそういう感情の基の行動に見えなくもないか...恥ずかしくなってきた。いやまぁ、あの二人のどちらかと付き合えればとか考えた事もなくは無いが、そんな恐れ多い事、今では全然考えてないし、考えたとしても宝くじ当たらないかなー的な冗談レベルの話だし。あの二人は、いつか俺よりももっと優しくて頼り甲斐のある良い男と出会って幸せになるんだ。あんなにも優しい子達には、そんな素敵な未来があって然るべきなのだ。

 

 動揺しまくりだが、そう思いながら俺は再び津島に視線を向ける。津島は、そんな俺に対してムッとした表情を浮かべ、更に何か言葉を発しようとしていたのだった。

 

 

 

「だって私の事はいつまでも苗字で呼ぶくせに、あの二人のことは名前で呼ぶじゃない!!」

 

 

 

 津島による激しい心情の吐露に、現在進行形で感じていた羞恥心を全て消し去られる。

 

 

 

「お前...」

 

 

 

数瞬、先程のように思考を停止してしまったが、徐々に津島の発言に込められた意味を理解していく。理解した結果訪れたのは、再度の驚きだった。

 

 

「ふんっ、なによ。驚いた顔して...」

 

 

津島はそう言い捨てて、顔を背ける。

 

 

...もしかして、嫉妬してるのか?津島は俺と同じで友達少ないし、数少ない友人である俺があの二人と知らぬ間に親密になっていて嫉妬しているのでは?だからさっきルビィちゃん達の話を出した時、ちょっと不機嫌そうになってたのか...それなら全てが繋がる気がする。

 

 

「まさかお前、俺と花丸達の仲に嫉妬してるのか?」

 

 

「なっ!?そ、そんなわけないでしょ!私はただ、先に契約を結んだはずのあんたが契約に違反してあの2人と仲良くしてたからーーーーーーっ!」

 

 

 やはりこれが本音なのだろう。勢いでつい口を滑らせてしまった、そのような焦りが表情から読み取れる。

 

 

 

「そうよ...してたわよ。悪い?」

 

 

 

とはいえ、もう全てが遅いと悟ったのか、今度は口を尖らせて拗ねたようにそう口にした。

 

 

 まさか、津島がこんな事を思っていたなんてな。だけど、考えてみると津島の気持ちも理解出来る。花丸とルビィちゃんのことは名前で呼ぶのに自分だけ名前で呼ばれない、四人でいる時は特に疎外感を感じてしまうだろう。自分の友達が後から仲良くなった子と自分よりも仲良くなっていたら、少なくとも良い気分はしないだろうと思う。同じ立場になって考えてみると尚更共感できる。

 

 

「私の方が先にアンタと仲良くなったのに、ズルいわよ...」

 

 

 

そう呟く声は震えていた。

 

 

 俺と津島は知り合って既に2年半くらい経つ。今までの呼び方から急に変えるっていうのも少々恥ずかしく感じる。とはいえ、ここで思い切らなければ多分ズルズル行ってしまい、この先このような関係性を発展させる機会は限りなく少なくなる予感がする。津島の気持ちに共感できるだけに、それは俺も差し控えたい。まさか、俺が津島に対してこんな感情を抱くことになるとは思わなかったが、端的にいうと俺は、津島に対して心苦しく思っているのだ。

 

 

 それにまぁ、今日は津島のお陰で楽しめたし、なんやかんや知り合って長いし、今日は津島に絶対服従しなきゃいけないみたいな所あるし...だから、覚悟決めるしかないか。

 

 

「契約なんてした覚えないけど...でも、確かに友達契約?みたいなのがあるとすれば、俺は違反しちゃってるのかもな。だから契約違反の償いとして、仕方なく!特別に!今日からお前のこと名前で呼びます!」

 

 

俺の宣言に、逸らしていた顔をこちらに向け、こちらを見据える。

 

 

「え?本当?嘘じゃ...ないわよね?」

 

 

その瞳からは、驚愕や期待、羞恥など様々な感情が籠っていることが読み取れる。しかし、ここまで下の名前で呼ばれることに焦がれていたとは思わなかった。確かに、今日で所謂YUZYO度みたいなやつは結構上がったと思うが......でもまさか、こんなにも嬉しそうにするなんて...もしかして、こいつ......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、今考えるのはやめておこう。

 

 

「本当本当。俺が嘘つくわけないだろ」

 

「どの口が言ってるのよ」

 

「ベスフレである俺の言う事が信じられないないのか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

「うわー、マジかー。今の言葉で俺の心は深く傷ついたので、やっぱり名前で呼ぶのは辞めときます」

 

「う、嘘よ嘘!信じてるわよ!ベスフレフォーエバーよ!」

 

 

 なんとなく、津島の調子がいつも通りに戻ってきた気がする。良かった。

 

 だが、いざ名前で呼ぶとなると急に恥ずかしくなってきた。やっぱ今のなし!とか言いたいけど、それは普通に最低な人間だし、例の件を拡散されるかもしれないからダメだ。選択肢は一つである。今日この時より、津島のことを名前で呼ぶようにする、それだけだ。

 

 

「じゃあいくぞ...」

 

「ば、バッチ来いよ」

 

 

心を決める。この感覚は、以前花丸やルビィ達をはじめて名前呼びした時と似ている。これはマズイ。

 

 

「よ、善子...」

 

 

やはりやってしまった。

 

 はじめて紡いだその言葉は、羞恥と共に発せられ、なんとも情けないものだった。そしてそれに目の前の人物が気が付かないわけもなく...

 

 

「あらぁ?もしかして未来、照れてる?」

 

 

 最悪のタイミングで、ポケモンのジムバッジ少ないのに手持ちのレベルが異様に高い時みたいに、自分の意に反して技名『DT』を発動してしまった。それを津島も感じ取ったのか、先程までのお返しをするように顔をニヤつかせていた。

 しょうがないだろ!花丸とルビィちゃんで少し慣れたとはいえ、やっぱり以前として女子を下の名前で呼ぶとかレベル高いんだよ!現状が奇跡みたいなもんなんだよ!!

 

 

「は、はぁ!?照れてないし!バーカ!善子バーカ!!」

 

「ぷぷぷっ、悪口にいつものキレがないわよ?それに顔も真っ赤よ?可愛いわね」

 

 

立場逆転。ついさっきまで俺が善子をイジる構図だったのに、今では俺が完全にイジられる側になっている。非常に屈辱的な事態である。

 

 

「ち、違う!これは別に恥ずかしいとかそう言うのじゃなくて、夕陽のせいだ。そう、夕陽のせい。よく文学でもこんな表現があるだろ?夕陽に照らされてるせいか、彼女の顔が普段よりも一層赤く見えた、みたいなやつ。それなんだよな!いやー、情緒あるな!やべーな!情緒!!!ジョウジジョウジ!それはテラフ○ーマーズだろ!」

 

 

今のお前は情緒不安定である。NICE1人ノリッコミ。

 とはいえ、焦っているせいで上手く頭が回らない。ここまで取り乱したのは久しぶりだ。また、このまま弄られ続けるのは、犬にでも食わせてきたちっぽけな俺のプライドが許容できない。そのため、別になにか新たな言葉を紡ごうと必死に脳を回転させる。その途中、やけに目の前の人物が静かなことに気がつく。普通ならここで追撃をかけて弄ってくるのがセオリーというものだろう。それに、さっき俺もめっちゃ弄ったしこんな絶好の機会は逃さないはずだ。きっと今も仕返ししようと顔をニヤつかせているはずだ。そう考え、少し冷静になった頭から出た疑問と共に、視線前に戻す。

 

 

「...えっ?」

 

 

 

しかし、俺の予想とは裏腹に、善子は穏やかに口元を緩め、そして、まるで愛おしいものを見つめるような表情を浮かべていた。

 

 

「ふふっ、ほんと、あんたと一緒にいると飽きないわね!」

 

 

「〜っ!」

 

 

 

 これは、これはズルいだろ。こんな顔されたら男なら誰でも、嫌でも意識してしまう。

 

 

 

「...そりゃどうも」

 

 

 

 

 

 

 

そう、俺は魅了されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「未来!今日はすっごく楽しかったわ!また行きましょうね!約束よ?」

 

 

 

 それは多分、自分のことを堕天使なんて呼ぶくせに、無邪気に可愛らしく、まるで天使のように綺麗な笑顔を見せる善子の魔力に、少しだけ当てられてしまったからだろう。

 

 

 今も煩く止まない胸の鼓動が、嫌でもそれを認めさせてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ...帰るぞ、善子」

 

「ヨハネ!」

 

「いやお前が呼べって言ったんだろうがっ!!!」

 

 

 

前言撤回。やはり善子はアホ堕天使だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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