鼻歌が聞こえる。
その鼻歌は暗い迷宮に響く。それを聴いたものは一度足を止めるだろう。なぜなら、この迷宮には魔物が出る。侵入者を殺すために。
そんな殺伐とした場所で鼻歌が聞こえるなんて怖い、怖すぎる。そして鼻歌を歌っている奴のことを考えるともっと怖い。おそらく狂人であると推測できる。そしてその推測は正解の正解、大正解である。
「~ん、このおくすりなかなかの効果だったな」
現れたその者は、高身長で奇妙というか夜道で遭遇したら泣いてしまいそうな格好であった。全身黒でフードを被り、顔には鳥のくちばしのような特徴的な部分がある仮面をかぶっていた。
そう、彼が彼こそがこの物語の主人である。
彼の名はミディージィーム。
ここ迷宮都市オラリオに現れた狂人が敵をおくすりの実験に使う物語。慈悲はない。なぜなら、よりいいおくすりをつくるにはモルモットが必要だから。
私がこの迷宮都市に来たのは一週間前のことだ。
おくすりをつくるためにやって来た。それも最高のおくすりをつくるために。最高のおくすりと言ってもいろんな種類のおくすりがある。だから、最高のおくすりというのは間違えがあるかもしれない。しかし、高みを目指すというのは間違えていない。だから私は...
「よりよいおくすりを作り続ける」
おおっと、意識の向上を謀っていたら我が家...我が『ファミリア』のホームに着いたな。私は『ミアハ・ファミリア』に所属している。どの『ファミリア』でも一緒だと思いテキトーに選んだ。そして、あとで知ったのだが『ファミリア』によってやっていることが違うらしい。物をつくるとこがあれば、迷宮攻略を目指すとこもある。偶然おくすりをつくれる『ファミリア』で、私は幸運だったと言えるだろう。...運を上げるおくすり?つくってみるか。
「ミアハ帰ったぞ」
私がそう、声を出すと奥から男がやってきた。
「あぁ、お帰り。どうだった?新しい薬は」
「まぁまぁだな。更なる高みへ行けそうだ」
「それは重畳だ」
むっ?そういえば
「ナァーザはどうした?」
ナァーザとは私を含めて二人いる眷属の一人だ。
そして、なかなか無愛想だ。
「彼女なら買い物だよ」
そうか、私はまたおくすりをつくらなければ。
「君がきてから客が増えて、嬉しい限りだよ。しかし、無理をしたらいけないよ」
この男神は相変わらず優しいな。...いや、甘いのか?しかし、その言葉しっかり受け取っておこう。
「あぁ、ありがとう」
まぁ、多少無理をしても私のおくすりで一発だからな。
「そういえばステイタスの更新はしておくかい?」
ステイタスの更新か...やっておくか。
ステイタスの更新とは我々眷属たちはそれぞれの神に与えられた恩恵を経験値によって更に強化するものだ。...確かな。正直興味がないからあまり覚えてない。私は興味が無いことはすぐ忘れる男だ。
「さぁ服を脱いでうつぶせになって」
私は言われた通りに服を脱ぎ、うつぶせになった。ついでに仮面は取っていない。
そして、ミアハは針を自分の指に刺し、私の背中に血を垂らした。そうすると文字が浮かび上がり、ステイタスを更新していく。神の血か、おくすりをつくるのに使えるか?
「うん。できたよ」
ミアハはそう言うと私にステイタスを書いた紙を渡した。
ミディージィーム
Lv.1
力:90
耐久:20
器用:148
敏捷:60
魔力:100
《魔法》
生命よ染まりたまえ 黒く黒く黒く染まりたまえ
これは死 黒き死 生命を黒く塗り潰す病 《ペスト》
《スキル》
おくすりの効果上昇
副作用がなくなる、または減る
天国にいけるおくすりの場合確率で即死
ふむ、よりよいおくすりつくるために精進しなければな。
「相変わらず恐ろしいスキルだね。天国にいけるおくすりってなに?」
苦笑いしながらミアハは言う。
そのままの意味だ。天国が一体どこにあるのか考えるとわかる。
「ただいま戻りました」
むっ?ナァーザが帰ってきたようだ。
「ナァーザが帰ってきたようだね。さっそく晩御飯を作ろう。ミディー君の稼ぎでね」
今のは言う必要はあったのか?
おくすりまだです。ハイ。