光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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キャーーー!!お久しぶりです皆様!
更新遅くなり申し訳ありませんと同時に久しぶりの投稿!

皆さんはヒロアカ16巻買いましたか?
自分はですね、16巻とすまっしゅ!買いました!
いやぁ面白い!

けど悲しいことに、もうすまっしゅ!は終わりなんだよなぁ……敵連合の日常やヒーローの話も面白かったのに…個人的にはオーバーホールの絡みも見たかったなぁ…なんて。

最新作の小説投稿に熱心してしましたが、もしかしたらまた此方に注ぐかもしれません。熱がめっちゃこもってます。これも全て弔くんのお陰ですね、有難う!!


では、続きやっていきましょう!




108話「動き出す運命」

 

 

 救けたい。

 

 そのたった一言に、室内は沈黙と化し空気が重くなる。

 喧騒に満ち溢れてたであろう空間は、飛鳥の言葉に静寂と成り果てた。

 

「飛鳥さん……」

 

 雪泉は物悲しげに飛鳥を見つめる。

 こんな姿になっても、どれ程打ちのめされても、苦しもうと、それでも飛鳥は仲間を救いたいと、宣言した。

 平和ボケした日常を過ごして来た自分たちが、今でも恥に思う。

 何もなかった林間合宿に、突如敵連合が攻めて来るなど、誰も予想してなかったとは言え彼女達は命を懸けて本当の悪と戦い抗ったのだ。

 

 それなのに…負けてしまったのに……

 飛鳥は救けに行くと宣言したのだ。

 それなのに自分たちはどうだ?

 行くか行かないかで悩み、微塵たりとも動かないこの体たらく。

 行くか行かないかで言い争ってる自分たちは一体、何をしてるのだろう。

 そう思えてしまうほどに、自分たちが口の言い争いでしか出来ない自分たちが、何よりも情けなかった。

 

「飛鳥まで、無茶を言うのね」

 

 両備は呆れを通り越して怒りもドSも湧いてこないようだ。

 飛鳥が元から無茶をする忍だと言うのは、嫌でも理解してるつもりだ。

 両備だけじゃない、飛鳥と関わって来た人間もそうだ。

 だが、今回は本当に無茶以前に行かせてはならない。

 

「気持ちは分かるけどさ飛鳥…今回は本当に無茶だって。

 アンタ殺害対象にされてんのよ?オマケに言い様のない重傷負っちゃって、もう迂闊に戦うことすら出来ないんでしょ?だったら、アンタはちゃんと安静にしてないと駄目だって。

 

 まあ、悪忍の私が何言っちゃってんだかって思うのも無理ないけどさ、私も元は雪泉たちと同じ善忍だったんだから……」

 

 死柄木の殺害対象ゆえに、黒佐波による深刻なダメージ。

 それは、飛鳥にとって行動不能をさせるを得ない状況に作り上げていた。

 これがもし、死柄木の思惑通りとならば、本当に驚異的だ。以前とは比べ物にならない。

 

「わ、私も……です……もし、私が飛鳥さんと同じ立場なら……た、立ち直れない……かも……」

 

 紫の根暗な声。

 元々気の弱い彼女は、何をやるにしても無気力ゆえにネットの引きこもりだ。

 だから、彼女がこう言うのも必然だろう。

 

「両奈ちゃんは、痛いの好きだし気持ち良いから連合ちゃん達はウェルカムだよ!!」

 

 かなり不謹慎だが、それでも本性を隠せない彼女はドMの鏡だろう。

 怒らせたいのか、単に口から漏れた本音だろうか。何にせよ、蛇女の皆んなは断固反対と言った空気が読み取れる。

 

「皆さん良い加減にして下さい!

 どうして、どうして飛鳥さん達がこんな悲惨な目に遭ってると言うのに貴女達は――!!」

 

 場の空気が偏って行く中、雪泉の怒鳴り声が病室に響き、一同は静かになる。

 これだけ怒りを露わにするのは、保須市のヒーロー殺しの時以来だろうか、あの時は飯田の弱音に雪泉は怒らざるを得なかった。

 

「もう良いです…皆さんは家に帰ってて下さい、私一人で行きますから」

 

『えっ!?!』

 

 流石の一同も、彼女の言葉に驚嘆の声が上がる。

 とても、冗談に聞こえないその言葉に、目を丸くし唖然とする。

 雪泉はバカが付くほど大真面目であり、頑固だ。夜桜と似た性格があり、冗談を付くようなタイプでは無い。

 だから、今の言葉が本当だとすれば、それは余りにも無謀過ぎる。

 

「待ってよ雪泉ちん!幾ら何でもそれは……!」

 

「そうだよ雪泉ちゃん!ダメだよ悪い人たちの所に攻めに行くなんて!

 雪泉ちゃん一人じゃ危ないよ!美野里だってたった一人の悪い人に殺されかけたんだよ!?」

 

「儂も同意見です…

 相手が強かれ弱かれ、厄介な個性を持っています…儂一人ですら太刀打ち出来なかった…そんな輩が何人もいる中、一人で行くのは余りにも危険過ぎる…」

 

「我もだ。

 雪泉が憤る気持ちは解る、連中が許せないのも理解出来る。

 だが勇気と無謀は違うぞ、我も行く気ではあったが、お前がその気なら止めなければならん…」

 

 雪泉以外の四人は言語両断と言った形で止めに入る。

 

 四季は知っている、敵が如何に強いか。

 夜桜は知っている、敵がどれだけ執念深い連中か。

 美野里は知っている、敵の圧倒的な悪意と強さを。

 

 経験した三人だから言えること。

 尤も、夜桜、鉄徹、拳藤の三人がマスタードを倒してくれたお陰で毒ガスを消すことは出来たが、それでも被害が出てしまったのも確か。

 不幸中の幸いなのが、これ以上被害が出なかったことに安堵の息をつくべきだろう。

 今でもB組の面子やA組の葉隠と耳郎は目を覚ましてないと聞く。

 

「貴女達が、行かないと言うからでしょう?」

 

「じゃーさ雪泉!アンタは上の許可なくして連合のアジトへ行けんの!?

 しかも向こうはオールマイト殺そうって言ってた馬鹿げた連中よ!?忍の捜査網に引っかからない訳わかんない連中の居場所突き止めること出来るの!?

 

 アンタにそんな力無いでしょ!?」

 

 両備の怒鳴り散らかすような大声に、空気が益々重くなる。

 確かにそうだ。

 両備の言ってることも間違いじゃない。

 居場所が解らない以上、下手に動くのは愚策。聞き出そうにも上忍や上層部の連中がそう簡単に忍学生に吐いてくれるハズも無く、ましてや許可が下ることもないだろう。

 忍学生が下手に動いて良い案件では無いのは、言われなくても解るはずだ。

 それだけじゃない、忍を対抗できる力も術も、奴らは身についている。

 もう昔のような雑魚集団では無いのだ。

 あろうことか向こうはオールマイトを倒すべく、力を培って来てる。

 

 とても、敵うとは思えない。

 

「上の許可も無い癖に、私達がしゃしゃり出たってね…どうにもならないのよ…」

 

 この正論に、誰もなにも言えない。

 自分たちは忍であり、忍学生の身だ。

 今回、爆豪と雲雀の救出の件に関しては重要な任務であり、最上忍の方のみが寄せ集められてるのだ。

 許可なく忍活動を行なって良いわけがない。

 

 無いのだが――

 

「では、仲間を救けるのに許可は必要なのでしょうか?

 

 正義を貫くのに、許可は必要なのですか?」

 

 雪泉の言葉もまた正論。

 己の正義に他人に許可を貰わなければ成し遂げれない正義など、最早正義では無い。

 それこそ、偽善だ。

 

 雪泉の低い声に、両備の目付きも変わる。

 図星だからだ。

 少ない時間だったが、自分も同じ学び舎の下で一緒に暮らして来たから、少しでも雪泉たち善忍の気持ちは理解できる。

 たからこそ、懸命に止めているのに…

 雪泉達を止めているのに、彼女は止まらない。

 

「私は黒影お爺様に誓ったのです…私は私なりの正義を貫くと…

 信念を、夢を、そして…月の光で悪を討つと――

 

 ここでジッとしてはいられないんです」

 

 そんなの、私が赦さない。

 

「いても立ってもいられない、救けたい。

 それの何がいけないのですか?

 寧ろ、ここで私が動かなければ、きっも後悔する…私は、悔いのない正義を貫きたい。

 

 二度とあんな悲劇を繰り返さないのなら、私は許可が無くとも行動に赴きますが?」

 

 もう、誰も彼女を止められない。

 ここまで、張り詰めた雪泉は初めて見る。

 それは、彼女が覚悟を決めたから。

 

(それに…ここで立ち止まっては、黒影お爺様に叱られてしまいます…)

 

 きっと、黒影お爺様もそうしてると思うから。

 だが、自身の想いが一番強い方だ。

 許可がなければ何もできない正義など、正義ではない。上からの命令で正義を全うすることは別に構わないが、仲間が危険な目に晒されてるにも関わらず、許可が必要というのはどうなのだ?

 そして、許可をもらえない立場もまたどうなのだ?

 

「ほんまに、行く気なんやな?」

 

「……雪泉が、悪を赦せないのも解るよ…でも――」

 

 日影と未来が語りかけたその時――

 

 

「あの〜スミマセン君たち、悪いけど…飛鳥くんの診察始まるから部屋から出てくれるかな?」

 

 病室の扉が物静かに開く。

 ここの病院の先生だ。どうやら診察時間のご様子…ここは大人しく話を辞めて病室から出るのが利口だろう。

 何しろ病院の先生は彼女らが忍だという真実を知らない。

 皆んなは渋々と帰って行く。

 

 雪泉は氷のような凍てつく目で、皆んなよりも早く先に出る。

 その事に不満や怒りを覚える一面(両備はかなり不機嫌)など合間見える。

「じゃ、飛鳥また今度な…」と葛城が軽く頭を下げる仕草を取り、飛鳥も思わず頭を下げてしまう。

 かなり物静かになった飛鳥も、内心混乱してるとはいえ中々に見ない光景だ。

 

 

 診察が終わった後、病院の先生は溜息をつきながら、カルタに目を通す。

 

「ん〜…リカバリーガールにかなり強めの治癒を施してもらったから動かせるとは思うけど…それでも無理はしない方がいいね。

 

 内臓によるダメージ、何本かの骨折、筋肉離れ、どれもこれも酷かったよ…生きてるだけでも奇跡だって言うほどにね」

 

 先生の言葉に飛鳥は何も言えない。

 絶・秘伝忍法で覚醒しても、黒佐波には敵わなかった。あの時は生伝忍法という術があったから勝てたものの、もしあの術が無ければ結果は解らなかった。

 あの時で、多分かなり負傷してしまったんだろうし、いつ死んでも可笑しくは無かった。

 まあ、最上忍を幾多も殺して来た抜忍なのだから、当然と言えば当然なのだろうが、あんな理屈の通じない強者を死柄木が手駒にして従わせてるのだから、何があっても可笑しくは無かったと考えると胸が痛む。

 このまま、連合が強くなっていってしまう…

 そうなってしまえば、次は本当に死人が出そうだ。

 

「君は緑谷くんに似てるねぇ…」

 

「え?緑谷くんと……ですか?」

 

「うん、見た目の問題じゃなくて傷の問題ね。

 彼の方がかなり酷く重傷でさ、君もそうなんだけど。

 

 でもさっき見に行った時は起きてたから、意識も回復してたし退院だね。

 君のも見た感じ、大丈夫…と言えばアレか…説得力ないけど…それでも普通の生活には支障は出ない程回復したから、よっぽどの無茶さえしなければ大丈夫さ」

 

 確かに体のあちこちは痛いが、前回の頃に比べれば全然マシだ。

 体に電流が走るような痛みは筋肉痛なのだろうか?そう言えば敵連合開闢行動隊が襲撃しに来た時からすっと無茶しっぱなしだったし、筋肉が疲労してるのも無理はないか。と飛鳥は丸呑みにする。

 

「あっ、そうそう君が退院する前に渡しておくべきものがあった」

 

「はえ?私宛にですか?」

 

 見覚えのない彼女は素っ頓狂で可愛ら声を発しながら、首をコテンと傾げる。

 白衣の胸ポケットから、小さな白い紙が折りたたまれて出てきた。

 先生が飛鳥に手渡すと「確かに渡したからね」と言いそのまま去って行った。

 飛鳥は呼び止めることなく、貰った紙を広げる事にした。

 

「えっ?」

 

 開いた紙には、文字が書かれていた。

 鉛筆で書いたこの手紙、文字も見慣れぬもじで、平仮名なのがまた可愛らしい。

 だが、問題はそこではない…その送り主が洸汰である事に、驚いていた。

 どんな内容なんだろうか、と疑問が心を扇ぐ。

 早速目を通すと、その文にはこう書かれていた。

 

『おねえさんへ

 

 あのひ、おねえさんにひどいこといって、ごめんなさい。

 おねえさんはひとり、とおくであんなこわいひととたたかってたのに、ぼろぼろだったのに、おねえさんはさいごまでたたかってたの、ぼくはちゃんとかげでみてました。

 もうひとりのおにいさんはきづいてなかったけど、ぼくはとおくでちゃんとみてました。おねえさんとてもかっこよかったです。

 

 だから、わるいこといってしまったのをすごくこうかいしてます。

 ほんとうにごめんなさい。きえちゃえっていってごめんなさい。

 だから、またあったらちょくせつしゃざいとおれいをいわせてください。

 

 こうたより』

 

「…………」

 

 

 言葉が出なくなる。

 まるで喉に何かが詰まったような…でも、息苦しくはない。

 頭が真っ白になり、視界は歪曲率のようにぼやけ、自然と頬に涙が伝わる。

 まるで一つの動作に手順を思わせるように、涙が流れ落ち、洸汰の手紙に涙がしみる。

 

 ポタポタ、ポタポタ。

 まるで雨のように泣き止まない。

 

 ポタポタ、ポタポタ。

 自然と涙が溢れてくる。止めたくとも、止めれない。

 

 自分は、仲間を救えなかったのに。

 雲雀ちゃんを、爆豪くんを、救えなかったのに。

 誰も救えなかったのに…

 こんな自分に、有難うと言ってくれる人がいてくれて、嬉しくて、涙が止まらない。

 

 

 飛鳥は今まで皆んなの影で人を守り、支えてきた。

 誰かに見てくれなくても良い。

 誰かに守られなくても良い。

 仲間のために、力を尽くしてきた自分は、報われなくても良い。

 

 そう思ってきた。

 

 けど……でも……

 

「――洸汰くん……」

 

 洸汰くんは、見ててくれてたんだ。

 微かな時間の中でも、それでも…私を見ててくれた。

 二人を救えなかった…でも。

 あの子と緑谷くんは、救えたのかな?

 

 もし、私が黒佐波に負けたら…緑谷くんや洸汰くんも殺されてたのかな?

 それは凄く嫌だ…でも、私一人で誰かの命を守れたのなら、救えたのなら…

 私は………

 

 

「――うッ…ぁぁあ………ぁぁ…あぁ゛あ゛あ゛あ ぁ ああ゛あ゛!!」

 

 

 その後、飛鳥は泣け叫び続けた。

 悲しくて、嬉しくて、彼女は泣き叫んだ。

 救えなかった辛さと、救われた嬉しさ、それがシンクロするかのような複雑な気持ち。

 自分を責めてきてた中、洸汰くんの手紙を読んで、迷ってた心が晴れた。

 まるで靄掛かってた迷いは、洸汰のお陰で吹っ切れ前に進むことが出来る。

 

 でも、今はどんと泣こう。

 その涙が枯れるまで…私は、洸汰くんから貰った手紙を、大事に握りしめた。

 破けないように、優しく包み込むかのように……

 

 これは飛鳥にとっての勲章であり、人を救えたという証拠だ。

 この手紙が、あるのなら…

 

 

 敵連合なんてヘッチャラで、全然怖くない。

 そんな錯覚にさえ見舞われてしまう程に、心が強くなった気がした。

 

 

 それは、洸汰の手紙が飛鳥の背中を押してくれたから。

 

 今まで個性を嫌悪してた小さな子どもが、お礼の言葉など思いつくものか?

 手紙を書いてまで出す子なんて早々いないだろう。

 

 

 もし、次にあの子にあったら私もお礼を言おう。

 その時は、ヒーローや個性を恨まずに、明るい笑顔を見せてくれると嬉しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の病院は、嫌に静かだ。

 闇夜に漂う暗雲は、月を遮るように浮遊する。三日月の光が差し込むような気がして、どこか神秘的な気分になったりもする。

 病院前は明かりが点いており、何処かホッとさせられる。

 もし明かりも何もない病院であれば、廃病棟の黒いホラーとなってしまうのでそれはやめて頂きたい。

 

 林間近くの病院の前に、外で佇んでいる四名は、浮かない顔をしていた。

 

 

「悪いな、こんな物騒な事件に手を貸してくれて……でも、手伝ってくれるのなら心強い…有難うな雪泉」

 

「い、いえ……私は全然……それに、私も敵連合のことでつい頭に来てしまい…その……他の方達と喧嘩してしまいまして……

 

 轟さんこそ、動いてくれるなんて驚きです…てっきり否定するものかと……」

 

「まあ俺たちぶっちゃけ蛇女に乗り込んじまってる身だしな!今更法だのなんだの気にしてちゃいられねーよ!

 

 なっ、八百万!」

 

「あ、アレは私たちが完全に判断を見誤っただけですわ切島さん!今後あのような事はしません!

 

 それと、柳生さんから連絡が来ました。

 直ぐに行くと仰ってましたし、もう直ここへいらっしゃるかと…」

 

 轟焦凍、雪泉、切島鋭児郎、八百万百、この四名が今集まっていた。

 柳生は雪泉と気持ちが同意だった為、皆んなの視線を掻い潜り抜けながら、合流するそうだ。

 

「後は緑谷と飛鳥だよな…」

 

「飛鳥さんもですか?」

 

「ああ、何でも切島が連絡したそうだ。

 連絡先はあの三人しか知らねえし、無駄に数が多すぎりゃあバレちまう危険性が高い」

 

 同じクラスにいるのは飛鳥、柳生、雲雀の三名だけ。

 雲雀は現在爆豪と共に捕まってる身だ、そのため連絡なんて論外。

 柳生は雪泉と八百万が手を打って話し合っていたので、連絡に関しては彼女二人に任せるだけ。

 となると、残るは飛鳥だけとなる。

 だから、最後に切島が飛鳥に連絡したという形になったわけだ。

 

「けど、結局はアイツらの気持ち次第だ…俺たちが今回やろうってのは正直、誰にも認められねえエゴだし、危険なのも百も承知…だからこそ、重傷のアイツら二人が動くってのは些か――……」

 

 視線の先に映る姿に、轟の言葉が止まる。

 不思議に思い見てみると、病室の扉から三名の人影が姿を現わした。

 

「おっ!来てくれたか!」

 

 切島の歓喜に満ちた声が、夜の静けさを打ち消してくれる。

 来てくれたのは、柳生、飛鳥、そして緑谷の三名。

 三人とも包帯や湿布が張られており、まだ完治したとは言えない危なっかしさを秘めている。

 

「飛鳥さん、柳生さん!」

 

「ゴメンね雪泉ちゃん、私…悩んでたけど、もう大丈夫。

 吹っ切れたよ」

 

「俺は、雲雀を救けたい…ただそれだけだ。

 雲雀をもう、手放さない為にも、今度は友の手を掴みに行く…」

 

 清々しい太陽の瞳。

 冷徹に見えて情熱の瞳。

 

 飛鳥の表情は、朝の病院の時とは全く違う。

 晴れやかで、生々としていて、それでもって…いつも真っ直ぐで頼りになる彼女の顔。

 柳生は最初こそ何処か憎しみに近い黒い感情を抱いていたが、今となっては連合こそは許してないものの、雲雀の手をつかもうと、友を救けようとする覚悟を決めた顔だ。

 

 そしてもう一人の少年、緑谷出久は――

 

 

「僕は…「何でだ――」!?」

 

 

 決意を固めた緑谷の言葉を、遮った言葉に視線が集中する。

 後ろから声が…と振り向くと、切島達の後ろに飯田天哉が立っていた。

 

「飯田さん…」

 

「何で…よりにもよって君達なんだ!!」

 

 憤る声、湧き上がる怒り、抑えられない衝動。それらが飯田の心を苦しめ傷つける。

 まるで大鍋に煮込むかのように、グツグツと煮え切るような音が、心に鳴り響いている感覚だ。

 

「俺の私的暴走を咎め、共に特赦を受けたハズの四人が……何で俺と同じ過ちを犯そうとしている!?あんまりじゃないか!!!

 

 僕たちは学生なんだぞ!?!

 

 ――何で、君たちは!!自分達の行いに自覚が足りないんだ!!!」

 

 悔やみ、苦しみ、悲しみ、怒り、罪悪感、様々な負の感情が、言葉と共に放たれる。

 

 何故、自分の誤ちを正してくれた友が

 何故、自分を守ってくれた友が

 何故、身を呈してでも咎めてくれた友が

 何故、自分を救けてくれた友が

 

 よりによって、保須市の自分と同じ行動に移るのか。同じ過ちを、繰り返すのか。

 それだけは、あってはならないのに――

 

「俺たちはまだ保護下にいる…タダでさえ学校側が大変な時に、君らの行動の責任は一体誰が背負うのか解っているのか!?」

 

 言葉を発するたびに、胸が締め付けられるかのように苦しくなる。

 正さねば…

 皆んなの誤ちを正さねばならない。

 

 

  「飯田くん違うんだよ、あのね…僕らだってルールを破っていいなんて――」

 

 

 バキッ――

 

 

『!?!』

 

 緑谷の弁明など聞く耳持たず、飯田の固い鉄拳が彼の頬に炸裂する。嫌な音を立てながらも、緑谷はフラつきながらも、痛みを堪えて自分の頬に手を置く。

 殴られた緑谷を見た一同は、息を詰まらせる。

 

「俺だって悔しいさ!!

 俺たちはクラスメイトだ!委員長なんだ当然だろう!?

 雲雀くんも元々は雄英とは違う…けど今じゃ僕らは仲間だ!

 心配しない訳が無いだろうが!!!

 

 それに君が怪我を負い床に伏せる姿を見た時!兄の姿を思い重なった!!!

 

 

 君らが暴走した挙句に兄と同じ取り返しのつかない事態になれば誰が責任を負うのだ!?!僕の心配はどうでも良いのか!?

 違うだろ!?」

 

 怒り荒ぶる声に、一同は何も言えなくなる。

 あの雪泉でさえも、罪悪感と気不味さに心が埋め尽くされてしまう。

 今回、保須市を学び通して飯田は二度と同じ誤ちを繰り返さないと心に誓った。

 だからこそ、二度と同じ誤ちを繰り返さないためにも、飯田は止めなければならない。

 

 

 それが、友なのだから――

 

 

「だから……やめてくれ………」

 

 

 その言葉は、とても痛々しくて弱々しかった。先ほどの強情な彼とは違い、涙を堪えてるような、辛さ。

 緑谷の両肩を掴む飯田の手は、離れない。

 

 これで、自分の言葉で友を止められるのなら……

 

 

 

 

「なあ、飯田」

 

 ふと、低い声が飯田の耳に届く。

 表情を一切ブレない轟は、相も変わらず何の動作を見せる事なく語り告げる。

 

「俺たちは何も真正面からかちこむ気はねえし、無謀に突っ込む気なんて更々ない」

 

「?」

 

 なに?と飯田の悲しく辛い表情が、疑問を訴えかけるような顔色に変わった。

 轟に続いて

 

「確かに梅雨ちゃんの言う通り、法を犯すって事は、敵とやってること同じようなもんだ…てか俺は法とかルールとか全然解らねえ……

 

 けど何も策が無いわけじゃないんだよ飯田、このまま突っ込んでったて危険なのはバカな俺でも解るぜ」

 

 切島も答える。

 

「私たちの今回の行動は…隠密活動。

 つまり個性を使わず、相手に私達の存在を悟られないよう行動する…

 

 これが、私達に出来ることです!」

 

 法やルールで最初に咎められる罰は、無許可で個性を使用すること。

 例え相手が敵だろうと、個性を私欲私怨で使うなどあってはならないこと。

 ならば、個性を使わずに二人を救ける。

 

 たった、それだけのことだ。

 

「ただ、前回の蛇女子学園の時みたいな無茶はさせません…取り返しがつかなくなる前に、私が監視しておきます…私が同行するのは、万が一の時に備えて止めるため。

 私も、実を言えば飯田さんの気持ちに大きく同意です」

 

 八百万は救出と言うよりも、監視に近い感じだ。

 いくら効率の良い策とはいえ、危険性が消えた訳ではない。

 ならば、止めることも副委員長の務めだ。

 

「隠密行動は私達忍の専売特許ですからね」

 

「それに、目的地も見つかったんだ…

 八百万のお陰だ」

 

 通信機。

 八百万は林間合宿にて敵連合開闢行動隊が攻めてきた際に、B組の泡瀬洋一とペアで対処してたものの、連合の秘密兵器・脳無と鉢合わせとなり頭部に傷を負ったものの、逃げられる際に発信機を付けたことで、何とか居場所を特定することに成功した。

 

 八百万百。

 彼女の個性は名前の通り、あらゆる有機物のものを創り出す事の出来る、万能者。

 期末試験の一件で、何処か冴えたように吹っ切れたソレは、確実に成功の証として成り果てた。

 

「無論、オレも極力そうする。

 雲雀を奪ったアイツらを叩き潰したい処だが……」

 

「悪を見逃す…というのも些か、可笑しな話ですが…いずれ連合を討つことが可能であるならば、今が耐え時と言ったところでしょう」

 

 柳生も雪泉も、一歩前を踏み出す。

 どれだけ相手が気に入らなくとも、今は耐えなければいけない。

 救出するのと、殴り込みに行くのとでは全然意味が違う。

 今回の目的はあくまで救出活動なのだから。

 

「しかし…」

 

「なあ飯田。

 お前がさ、クラスメイト大事にしてんのは解るんだよ。それは俺たちも同じなんだ。

 どれだけプロヒーローがいようとさ、オールマイトが現場に赴こうがさ、不安は消えねえ……

 でもよ、ここで行かなきゃ、俺が俺じゃ無くなっちまう…

 

 もう、何も出来ねえ自分は――〝嫌なんだよ〟!!」

 

 

 これ以上、俺は後悔したくないんだ――!!

 

 

『雄英目指すって言っても、高望みし過ぎたかなぁ……』

 

 ――また

 

『スプリンガーヒーロー事務所は何処ですか?』

 

 ――あの時みたいな

 

『何やってんだよ…俺、バッカじゃねえの……

 

 

 

 

 

 

 何も出来なかった………』

 

 

 ――後悔はしたくねえんだ

 

 それは、中学時代の頃の記憶。

 何も出来なかった…あの時の自分。

 恐怖を植え付けられたあの瞬間、俺は一生の悔いを残した。

 

「俺が俺じゃなくなっちまうのは嫌なんだ…ここでやらなきゃ、動かなきゃ、アイツのことダチなんて呼べねえよ…

 

 例えコレが悪くてもな、俺は……後悔のねえように生きたいんだ――」

 

 それは、あの過去があったからこそ、今の自分がある、オリジン――

 

 

「僕も……切島くんに〝まだ手は届くんだ〟って言われた時、どうしても、どうしても…頭の中に考えが抜けきれなかった……

 

 

 考えるよりもまず先に、体が動いたんだ……!!」

 

 まだ手を届くと言われたら、無理だろうと重傷だろうと、関係ない。

 救う。

 手を差し伸べて、救い出す。

 

 あの時は救えなかった…

 でも、次は救う。

 必ず、救ける。

 

 

「私も。誰も救けれなかった…二人の手を掴めなかった…でも!

 守れることは出来た。

 私に、ちゃんと守れた人間がいたって、分かったんだ!」

 

 洸汰と出会ってそこまで日も経たなかった…

 けど、今は違う。

 あの子から、元気を貰った。

 今なら、二人を救えそうだ。

 

 

 初めて、あのロボット敵に飛び込んだ時も、小さな女の子から、感謝された。

 あの時の自分と、今の自分が重なる。

 

 

「……俺は、まだ納得していない……

 だが、俺も同行させて貰う……」

 

 

 飯田の言葉に、一同は驚嘆する。

 認めた訳ではない。だが、幾ら言葉で止めようとも無駄なのであれば、危険と判断した際に自分で止めさせる。

 八百万もそのつもりで来たのなら、こっちもそれに越したことはない。

 

 

 

 運命は動き出す――

 

 

 

 

 

「よし、良い顔ぶれが集まって来たな」

 

 一方で学生達とはかけ離れた場所では、塚内刑事を始め、名のあるヒーローと忍が集まっていた。

 

「何故よりによってこの俺があんなメリケン男と一緒にいなければならんのだ全く!!」

 

「そう言わないでよエンデヴァー!まぁだ体育祭のこと怒ってたの?あ、ひょっとして葛餅…」

 

「オールマイト、静かにしましょう…これから行うは、悪鬼滅殺。

 そしてその作戦だ…時間が潰える」

 

「複雑だな…世界で五本指に入るヒーローの顔ぶれがこうして集まるとは……

 尤も、この案件に私が出ない訳がない。爆豪少年を矯正したハズだったんだが…」

 

 No.1ヒーロー、オールマイト

 No.2ヒーロー、エンデヴァー

 No.4ヒーロー、ベストジーニスト

 No.5ヒーロー、エッジショット

 

 以下の四名束になったグループのプロヒーローが集まり、また隣の一軍グループは

 

「こりゃあ、儂も久しぶりに本気を出すしかないのう…

 

 コンビを組んでからあれから何年経った?小百合」

 

「詳しいことは覚えとらんよ。ようやく尻尾を掴めたんじゃ…まさかこんな形で半蔵と一緒にまた任務に励むとは思わんかったのう……じゃが、今回は儂らだけじゃないわい。

 巫神楽三姉妹もいる、まだまだ増援は来るんじゃろ?」

 

「へぇ、これが本物のプロヒーローかい。

 生で見るの初めてだ…ワクワクして来たぜぇ!取り敢えず服脱ぐか!」

 

「だから何で服脱ぐのよ『蓮華お姉ちゃん』!!全く、『華毘お姉ちゃん』は取り敢えず難しい話聞くとドッカーンしちゃうから、後で私がやる事言うで考えことしないでよ?」

 

「『華風流ちゃん』そんな事言われてもウチ困りますよ〜……考えるなって言うと、余計考えちゃうし…」

 

 巫神楽三姉妹。

 各地を巡る彼女達は一応、上忍と同じく敵連合を探し回って来た、護身の民だ。

 護身の民とは、古くから伝わる民族のことであり、今は日本地図には載っていない。

 貧しいかのような村で、三人は修行し巫女として活躍するようになったのだ。

 

 伝説の忍にして飛鳥の祖父、半蔵

 元カグラの称号を持つ忍、小百合

 巫神楽三姉妹の蓮華、華毘、華風流

 

 以下の五名が束になった忍グループを足して、合計九名の実力者揃いが、今回爆豪救出作戦に赴く。

 今回、マークされてる箇所は二つある。

 一つは市民から聞いた話と相澤が目撃した人物、荼毘の目撃例によりマークされた薄暗いバー。元々使われてない古い廃屋は、今も使われてるらしく、恐らく敵連合のアジトと見なして間違いはない。

 今朝の調べにより、ようやく情報の詳細が解ったのである。

 またもう一つは八百万百から貰った発信機。

 この発信機か見て信号は、バーとは少しかけ離れた場所に反応している。

 彼女の証言からして、発信機を付けたのは脳無と呼ばれる改造人間によるもの。

 つまり、そこに脳無の格納庫があると話が挙げられてるため、二手に分かれる算法だ。

 

「爆豪くんに雲雀くん…辛いだろう苦しいだろう怖いだろうよ……だが!

 あと少し、待っててくれ…!それまでにどうか、無事でいてくれ!」

 

 オールマイトの怒りを押し殺す悲鳴に似た苦痛の声。

 拳が自然と震える。

 当然だ、なにせこれから少年少女達を傷つけた連中へ殴り込みに行くのだから。

 

 

 

 ――覚えてるだろうか?USJ襲撃時のあの言葉を

 

 

 

 

 

「さぁてと…感動の再会を祝って、先ず早速だが…

 エリート学校に住まうヒーロー志望の爆豪くんと、カグラを目指す善忍志望の雲雀くん。

 

 

 

 俺の仲間にならないか?」

 

 〝後に起こる大事件〟が、始まろうとしている。

 

 

 薄暗いバーは、異常な空間に飲み込まれてた。

 敵連合のリーダーにして主犯格、死柄木弔。

 そしてその下に付く以下の13名の敵。

 小規模の犯罪集団の中に、爆豪と雲雀が金属製の椅子で拘束されていた。

 

「雲雀は絶対ぜ〜〜ったいに、仲間にならないもん!!」

 

「寝言は寝て死ね糞カス連合供がぁ!!!」

 

 運命は止まらない。

 留まることを知らない。

 良かれ悪かれ回り出す。

 

 この先の行方や如何に――?

 

 

 

 

 




今回はいかがでしたでしょうか?
久しぶり過ぎて思ったより筆が捗った気がします。かなり熱心に、ペースよく出来たので、この調子で頑張っていきます。
やっぱり休むことって大切なんだなぁ…やる気と休息は必要…

よし、私も学び得たぜ!


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