光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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あらすじの概念を失った作者。
何か些細な事でも良いので、良ければ感想カモーン!(今更言う作者、




112話「巨悪、起動」

 

 

 遠い遠い記憶の中、真っ白のような空白の、忘れられない記憶。

 その記憶は余りにも懐かしく、思い出すだけで心が暖かくなる…大切な思い出の1ページ。

 

 

『俊典くんは、何になりたいの?』

 

 それはまだ、学生時代の頃だった。

 敵の活性化が頻繁的に増え、まだヒーロー社会がそこまで成り立っていない時代の頃、二人はまだ学生だった。

 一人は金髪でいて、痩せ細ってる弱々しい見た目をした男、八木俊典。

 もう一人は長い髪を下ろ、こちらの様子を伺うようにソッと見つめてる少女、陽花。

 セーラー服に身を包み、香水なのか、和らぐような良い匂いが鼻に利く。

 何になりたいのか…ヒーローになる事は前にも話した筈だが、彼女が問てるのは、どんなヒーローになりたいのか、という純粋な疑問の言葉だった。

 

『僕は…お師匠のような優しいヒーローになって、お師匠を超えるような、皆んなを笑顔に出来る、そんなヒーローになりたい…そのためには、象徴が必要なんだ…だから僕は…』

 

 

 ――平和の象徴になりたい。

 

 

 その為に、血反吐を吐くような鍛錬を積んできた。師匠からはとんだクレイジーな弟子だと言ってるが、無個性だった自分を選んでくれた、俊徳にとっての最高のヒーローでもある。

 俊徳がソレを言う前に、陽花は「そっか…」と心の底から安心したような言葉を漏らした。

 

『平和の象徴になる…か。

 凄いなぁ、俊典くんは…奈々さんも言ってたけど、俊徳くんは他の人と違う…凄い目標を持ってるよ』

 

 平和の象徴。

 この時代は殺伐としており、善忍悪忍の争いも絶え間無く続き、血で血を争う何とも血生臭い世界だった。

 当時は、ヤクザの死穢八斎會なんて組織が暗躍してたし、忍性戒と呼ばれる闇売買を目的とした商売組織も出回り、社会は秩序と意味を失いつつあった。

 特に、最近ではワイルドヴィランズなんて組織が暴れ出していると聞く、何でも偉い企業の上層部が殺されたとか。世間はとても物騒な世の中だ。

 いつ、誰が敵に殺されてもおかしくない世界に、救いなんてものは数少ない。

 そんな世界に、俊典が平和の象徴として表へ出れば、世間は彼の存在だけを知ってるだけで、心は救われ、敵は慄き悪意は消える。

 

 

 平和の象徴。正義のシンボルにして、そこらのヒーローとは違う、格も覚悟も何もかもが違う、頂点を目指す者が与えられる称号。

 これこそ、ヒーローの本質。

 平和の象徴になれば、人々を笑顔に咲かせ、心を救い、全てを支える。

 この世界には象徴と呼ばれる柱が存在しない。

 だから、自分がその柱となる。

 

 

『俊典くんがいるから、私も頑張れるんだよ。一緒に頑張ろうね俊典くん!!』

 

 

 その笑顔に、思わず頬が桜色に染まってしまう。

 その言葉が、彼女の笑顔が、存在が、太陽の如く私を照らし、導いてくれた。

 そんな彼女が、とても強く誇らしく、尊敬もすれば…青春なのか、恋もしていた。

 そんな彼女に、微かな特別な感情さえも抱いた。

 

 

 何を言うんだい…

 君が、凄い人だから……君のその笑顔が好きだから、私は陽花くんを尊敬してるんだ。

 だから、一緒にここまで頑張れたんじゃないか…

 

 平和の象徴だけじゃない、お師匠の為だけでもない、君がいたから…

 

 

 ――今の私がいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいたが過ぎたな敵連合!!ここで終わりだ!!!」

 

 悪鬼滅殺。

 凄まじく、直でいるだけで、肌で感じるだけで震え上がるその圧倒的威圧感は、誰もが恐怖で軽く戦慄していた。

 

「こ、これが…ステインが認めし……ほ、ほほ、本物のヒーロー……!

 

 格が違う……そこらの贋物とはレベルが違う…!!」

 

 オールマイトの威圧に早くも弱音を吐き出すスピナーは、畏縮していた。

 テレビや新聞記事ではオールマイトの写真はアップされてるし、雄英の教師を務めてるとは言え、日に日に時間を解決してるのは確かだ。

 だが、直で見るのと噂で見るのとでは、天と地の差が付くほどに違っていた。

 何よりもオールマイトの画風が違うならまだしも、ここまで怒りに身を焦がすオールマイトなど、あの憧れを抱いた爆豪ですら知らないのだから。

 

「終わりだと?ふざけるな!始まったばかりだ……

 

 正義だの平和だの…ヒーローだの忍だのとてあやふやなもんでフタされたこの掃き溜めを……

 

 どたまのそこからぶっ壊す!!その為に、オールマイト(フタ)を取り除く……」

 

 ヒーロー社会と忍社会は常に支え合って現在(いま)が出来ている。

 ならば、それを壊すには両方欠かさず崩壊せねばならない。

 

 この社会が気に入らない。

 秩序だの掟だのルールだの法だのと、面倒臭いものは全部ぶち壊せば良い。

 気に入らなものを壊すことが出来るのなら、尽力を尽くす。

 その為に、仲間を集めた。

 

「折角さ、こっちには漆月以外の忍が集まってきたんだ…

 敵も忍も、襲撃事件に嗅ぎ付け仲間はどんどん増えていく!

 ようやく、仲間が集まって来たんだよ…俺の邪魔をするんじゃねえよオールマイト(社会のゴミ)がぁ…

 

 良いか?俺たちはここから始まるんだ……!!」

 

 噛み殺すかのような覇気のある眼は、ただならぬ殺気と憎悪を浴びていた。

 異質だが、死柄木はこの通り仲間を通して着々と強くなってきてる。

 それが、ヒーロー側にとってどれ程脅威なのかは、皆まで言わなくても解るはず。

 ヒーローの憎悪、漆月と関わり深く根に持つようになった忍への嫌悪。

 日々、悪意を募らせることで死柄木は強くなる。

 そして、不敵な笑みを浮かべ

 

「黒ぎ「うらぁ!!」――!」

 

 黒霧と彼の名前を呼び始めた瞬間、雷を纏った撥が黒霧の腹部に炸裂する。

 

「――ぐっ…!」

 

 強烈な電撃、突然たる攻撃、黒霧のワープゲートよりも早く対処された彼は、電源が切り落とされたかのように呆気なく意識を途絶える。

 黒霧はくたぁ…と意識を失ったまま、起き上がることも動くこともなかった。

 

「え…?――キャアアぁぁぁあああァァああぁーーーーー!?!!

 なぁにい殺したの!?黒霧ちゃんが!黒霧ちゃんがああぁぁ!!」

 

 マグネの悲鳴に、まさかとここにいる皆んなもソワソワと気を立てる。

 死人が、死人が出るのか?忍ならまだしも、黒霧は敵だ。正式な手続きで敵は刑務所へと放り込まれるわけで、殺されることは無いのだが、目の前の光景にマグネの悲鳴で、まさかとあり得ない意識を芽生え始める。

 

 

「ったく、ピーピー喚いてんじゃねえよ!ひよこかテメェは!

 別に殺しちゃいねえよ、気絶させただけだ。ホラ、少しでも怪しい動きをしたらぶっ飛ばせば良いって、こういう事だろ?」

 

 

 巫神楽三姉妹の蓮華は、江戸っ子口調でおうおうと語り出す。

 因みに蓮華は長女、次女が華毘、その次が華風流だ。

 先ほど黒霧に投げつけた太鼓の撥は彼女の武器であり、ブーメランのように帰ってきた。

 

 これで、出入り口は完全に防がれた。

 荼毘に続き黒霧もダウン。

 これは流石に不味い。

 ワープゲートさえなければ、この状況を脱出することも、逃げることさえ叶わない。気絶から回復するのには数十分はかかる。

 脳無でもいない限り、この状況を打破するのは、不可能と言っても過言ではない。

 

「だから何度も言わせんな若造供が……大人しくしといた方が身のためだって…なぁ?」

 

「ええっと待ってね…」

 

 グラントリノの心底呆れた声色に、合図の視線に似た視線に気付いた華風流は、資料をポケットの中から取り出し読み上げる。

 

「マグネ――引石健磁、

 

 Mrコンプレス――迫 圧拡、

 

 スピナー――伊口秀一、

 

 トガヒミコ…は、そのまんま…渡我被身子ね。

 

 トゥワイス――分倍河原 仁。これ、何の意味か分かりまちゅか〜?」

 

 華風流の幼稚な言葉遣いなどなんのその、この場にいる敵は全員、背筋が凍りつく。

 これは間違いなく彼らの本名、つまり…素姓がバレてるという明白な証拠。

 彼女の手に持ってる資料は、敵連合の個人情報に纏わるデータ資料だった。

 ただ、詳しく詳細すら不明な完全な裏社会の住人のデータだけはどれも取れなかった。

 死柄木弔、黒霧、荼毘がその住人に当たるのは、もはや当然と言っていい。

 そう、それだけなら――

 

「他にも…私立蝶姪高校一年忍学科、鎌倉――血ノ原美紗子。

 

 秘立蛇女子学園一年選抜補欠メンバー筆頭代理、蒼志――蒼火 香惠。

 

 死塾月閃女学館志望推薦者、龍姫――竜胆沙知。

 

 敵はさておき、忍のアンタ達が素姓知られちゃあ、忍なんて終わりよねぇ?どんな気持ち?やりたい事やらかして、自分たちが追い詰められてるその気持ち、聞かせてよ抜忍さん」

 

 華風流の煽る言葉に、視線を逸らし、俯き、歯を食い縛る。

 ここまで、計算的に調査されていたとは微塵たりとも思っていなかった。

 そもそも、林間合宿の襲撃をかましたとはいえ、生徒たちと体面こそしたが、情報漏洩になる事は決してなかった。

 況してや、顔こそ情報漏洩の一つになり兼ねないものの、学生たちとは初対面なので、素姓が明かされることは無いのだが…

 

「少ない時間、警察と忍がたゆまなく捜査して突き止めたんだ。

 そんでも、オメェ等の中にまだ知らないヤツはいるが…芋づる式にしきあげりゃあ問題はねえだろうに」

 

 他にも闇や漆月の素姓は一切明かされておらず、本名も家柄も不明な点は数多く存在するが、拘束してる今ならそんな事どうでも良い。

 それ等の情報に関しては上忍や警察が何とかしてくれるだろう。ヒーローと忍は、与えられた任務を全うすれば良いのだから。

 それに、警察や上忍がこの取り調べや調査に詳しいことも、何ら不自然ではない。

 

「この意味が解るか?もうお前等に逃げ場はねえって事だよ。

 諦めな連合諸共、もう終わったんだよ。勝負はケリ着いたのさ…

 

 んで本題だ死柄木、教えてくれねえか?

 連合の親玉にしてお前さんのボス、オール・フォー・ワン。ヤツは今どこにいる?」

 

 その言葉に、死柄木の顔色が段々と青ざめていくように悪くなる。

 冷や汗が首筋から垂れ落ち、呼吸も少しずつ荒くなる。

 癇癪でも何でもない、初めて自分たちがヒーローに追い詰められたという屈辱感、敗北感、そして自分たちが捕まるという恐怖の概念が、死柄木弔の心を荒み、追い詰めていた。

 

 

「俺が……俺らが……?終わり……?」

 

 

 見渡せば、警察は銃口をこちらに向けており、上忍達は抜忍や敵へと近付いていく。

 

「取り敢えず死柄木と話したい、だから他のメンバーは速やかに移動牢式で」

 

 グラントリノの言葉が合図となるかのように、迅速な対応で敵を連行していく。

 

「さあ来い!」

 

「ッ!離せ!離せよ!僕に触るな!

 やめろ!お前らなんかに触りたくない!()()()と一緒に復讐するって決めたんだ!!」

 

「……蛇女の襲撃を受けたことを良い機会に逃げ出しても、平和からは逃れられないのか…」

 

 鎌倉と蒼志の悲痛と呼べる叫びが、弔の心に突き刺さる。

 自分がせかせかと努力してかき集めた精鋭が、駒が、自分の手の元から去っていく。

 それはまるで、正義が悪の大切な宝を奪い去るような、そんな光景。

 次々と、メンバー達が警察や上忍に拘束されてく光景を見て、奥歯を噛み締める。

 

「………こんな…こんな呆気なく……」

 

 弔の小さな声が小刻みに震え、上手く喋れない。

 

 吐き気がする。

 目眩がする。

 心が痛い。

 

「俺たちが……こんな所で……!!」

 

 重々しく憎悪を孕みながら、負け犬のようにしか吠えることが出来ない自分に、嫌気が刺す。

 いやだ、イヤだ、嫌だ…

 これから、これからが始まりだったのに…まだ始まったばかりだったのに…

 こんな形で、こんな呆気なく、自分たちはここで終わってしまうのか?

 折角、駒の使い方も分かってきた。

 仲間を集める術も、仲間にしたい人間の心当たりだって幾つかあった。

 にも関わらず、ヒーローという無条理が、忍という理不尽が、自分の手から次々と奪い去っていく。

 

「お前らが…ヒーローなんているから…!いつもそうやってェ…!!!」

 

 訴えかける言葉の反面、頭の中がフラッシュバックを引き起こす。

 

 遠い記憶。

 ボロい道端に、ゴミ袋が積まれた山の隣で、自分が壁に背を向けてもたれかかってた、まだ自分が幼い頃の記憶。

 誰も、誰も手を差し伸べてくれなかった自分の元に、一人の男が歩み寄って来た。

 

 

『誰も、君を救けてくれる人間は、誰一人としていなかったね…〝天孤〟くん』

 

 

 その声は血の通わない冷酷な声でありながら、弔にとってはとても温もりのある、暖かい声だった。

 

『ヒーローが、その内ヒーローが!口を開けば皆んなそればっか……皆んなそうやって言って、君を見て見ぬ振りをし続けて来たんだね、可哀想に……。

 

 そして、誰も…君だけを救けてくれなかった。一体、誰がこんな世の中にしてしまったんだろう――?』

 

 弔…いいや、天孤の頭の上に優しくて、温もりのある手が置かれる。

 その手は、どこか懐かしく、暖かく、そして心が微かに揺らぐ。

 

『君は何も悪くない――』

 

 あの人の言葉が、今の心を突き刺さす。

 誰も救けてくれなかった。

 見て見ぬ振りをされ、生きてきた。

 そこらの道端に転がるゴミのように、生きる意味すらも失い、絶望の頂点に達したその時に、まるで天からの救いの如く差し伸べられた一つの手。

 

 あの人だけは、違った。

 あの人は…俺を…

 

 

「正義なんて嘘だ……幻想だ……

 ……消えろ…きえろ消えろォ!!俺の前から!!」

 

 

 お前(オールマイト)という存在が!!!

 

 

 メンバー達が連れてかれる中、死柄木はオールマイトを睨みつけたまま、荒ぶる声で叫ぶ。

 その時、死柄木の視界に、たった一人の少女の姿が映る。

 その少女は必死に抗おうともがきながらも、手を差し伸べ死柄木の名前を叫ぶ。

 ヒーットアップしてるせいか、あまりよく聞こえない…だが次の瞬間。

 彼女の声が鮮明に聞こえた。

 

 

「死柄木……救けて…!!」

 

 

 漆月の、泣き叫ぶ声が、弔の心に響く。

 弔の、憎悪が膨れ上がる。

 何かが弾けたような音が、聞こえた。

 頭の中が真っ白になる。

 

「ヤツは今どこにいる死柄木弔!!!」

 

 オールマイトの最骨頂とも呼ばれる怒り孕んだ声。憤りは、止まる事を知らない。

 だが、それは死柄木も同じだ。

 

オールマイト(オマエ)が!!!」

 

 正義と名乗るお前が

 平和を語るお前が

 悪を潰すお前が

 俺の大切なものを、〝仲間〟を奪い去るお前が

 

 〝先生〟を殺したお前が――!!

 

 

『もう大丈夫――』

 

 

 

「――嫌いだ!!!」

 

 

 

『僕がいる――』

 

 

 嫌い。

 ただ嫌い。

 もう名前を聞くだけで、見るだけで、壊したくなるほどに、お前の事が大っ嫌いだ。

 殺してやる、この男だけは絶対に――

 

 殺意が爆発し、怒り孕ませた声で叫んだその瞬間。

 

 バシャアアァン――!!

 

 死柄木の声がトリガーの引き金を引いたかのような、絶妙なタイミングで、死柄木がいる左右の空間から、黒い液体が現れる。

 二手に別れたその黒い液体から、忌々しい姿をした化け物が、顔を出す。

 

「!?」

 

「なッ――」

 

「何イィィィ!?!」

 

 何もない。

 予兆も無く突然、怪奇は訪れた。

 

 脳が飛び出てるその化け物は、紛れもないその姿は、改人・脳無だった。

 

 骸骨に似せた頭部を持つ脳無、一つ目の脳無、それらが現れてはまるで死柄木を守るかのように、行く手を阻むかのように佇む。

 それだけではない、漆月の前に黒い脳無が現れ、上忍を一撃で吹き飛ばす。

 

「何で…?黒霧なの?」

 

 漆月は、涙で枯れた声で彼に視線を送るも、黒霧はぐったりとして気絶してる。

 そして黒霧の隣にも脳無が続出。

 

 つまり、この現象は黒霧のワープゲートによる個性ではない、違う個性の持ち主。

 しかしながら、この場にいる全員ともこのような現象を引き起こすワープ類の個性は誰一人とも持っていない。

 次から次へと、脳無は姿を現し、無限に湧き出てくる。

 

「どんどん出てくるぞ!!」

 

 連合のメンバーを連行してた警察や上忍、付き添いとして側にいたプロヒーローですら、全員脳無に薙ぎ倒され、その場に倒れ伏せている。

 気絶してるものが多く、痛みで蹲ってる人間はほんのわずかと言ったところ。

 

「ど、どうなってるんすか!?全員拘束したはずなのに…訳わかんないッス!」

 

「取り敢えず落ち着い……ッ!おい華毘!」

 

「華毘お姉ちゃん後ろ!!」

 

 え?と彼女が首を傾げ後ろを振り向いたその瞬間。

 血のついたチェーンソーが唸りを上げながら、首を斬り落とすかのように華毘目掛けて降りかかった。

 

「ネホヒャン!!」

 

 バイザーで頭部を覆われた脳無は、奇声を上げながら数々の武器を背中から飛び出し襲いかかる。

 これは、八百万が発信機を付けた脳無。

 林間合宿襲撃に参加したメンバーにして、秘密兵器。そして付け加えれば荼毘専用脳無。

 だが、荼毘は気絶していながらも、命令されてないにも関わらず機能していた。

 主人と認めたものの言葉にしか反応しないはずの化け物は、あのお方の意思のままに破壊を繰り広げる。

 華毘は急遽対応すること叶わず、武器を手に握るも既に遅し。

 

「ハッ――!!!」

 

 パァン!

 と、風船が破裂したかのような衝撃音に、華毘はビクつきながらも、脳無が吹き飛ばされた光景に目まん丸にし、脳無の頬に裏拳をぶちかませた老婆たる小百合に視線を送る。

 あの一瞬でよくぞ華毘を救い、脳無に一撃を入れることが出来たものだ。

 しかし恐れるなかれ、ここは最早戦場だ。

 脳無が倒されても次から次へと姿を現わす。ゲームで言う無限ポップのような現象。

 

「怯むなお主ら!

 巫神楽三姉妹!この場にいる警察とヒーロー、上忍のサポートしつつ脳無を倒せ!!」

 

『はっ!!!』

 

 三人の声が重なり、瞬時に外に出る。

 しかし、外はエンデヴァーと大道寺、その他の数多くの警察がいると言うのに、何を…

 そんな疑問を抱いたシンリンカムイは、外を見る。

 何という光景か、外にも脳無が大量続出されていた。

 警察に襲いかかる脳無、忍を襲う脳無、ヒーローと対峙する脳無、数々の脳無は、皆流れるように動き始めてる。

 

「塚内!避難区域を広げろ!それにしてもジーニストは何してる!?作戦は完璧ではなかったのかド阿呆がぁ!」

 

「おかしい…先ほど連絡が入って脳無は制圧完了と報告が入ったはずなんだが…それにさっきから通信試してるんだけど一回も出ない……まさか…!!」

 

 最悪な結果が、頭の中を過ぎる。

 警察の身柄で、悪忍と手を組むのは引けたものの、今事件の為とあらば、悪忍にも協力要請を出し、脳無格納庫の制圧を目的として学園長を中心に、雅緋と忌夢の三人で赴いたのだが…プロヒーローと上忍、焼き石に水かもしれないが、警察がいた中、連絡が途絶えたとなると…

 考えられるのは…

 

 ――脳無格納庫から、ヤツが出現した可能性は極めて高い!

 

 状況はより混沌へと導かれる。

 先ほどまでかなり有意義で、優位な立場に居座ってたヒーロー達が、今じゃオールマイトや半蔵がいても大混乱となっていた。

 

 

 

 

 

 

 建物が半壊されたバーの床には、ドロドロと黒い液体が零れ落ちていた。

 脳無は連合のメンバーを守るかの如く、一人に集中するように集まり、手出しが出来なかった。

 そんな中、半蔵は爆豪と二人の手首を掴み、オールマイトに語りかける。

 

「取り敢えずお主二人は儂が遠く離れた場所へ連れて行く!!少しの辛抱だがオールマイトは――」

 

 その瞬間。

 ドボボ!と黒い液体が溢れ出る音が、半蔵の耳に伝わる。

 うぇっ!と吐き気を施すかのような爆豪と雲雀の声に半蔵はゾクっと背筋が冷えた。

 悪寒が背筋を凍りつくように。

 

 爆豪と雲雀は、苦しみながら黒い液体に飲み込まれてる。

 

「――!! 雲雀!爆豪!!」

 

「んだよコレ!クセェ…!」

 

「だ、だめ!の、飲み込まれ――……」

 

 半蔵とオールマイトの言葉など意味がなく、二人の声はそこで途絶え、オールマイトが必死に手を差し伸べ、半蔵は二人を抱きかかえたその瞬間

 

 バチャン!

 

 と、水の弾ける音と共に二人は消えた。

 黒い液体は力なく、形を保つことなく床に落ち、べちゃりと広がり不安定な形を描いていた。

 

「――!!Noooーーーーー!!!」

 

 

 二人は、形なく黒い液体に飲み込まれ、そのまま床に落ちた。

 正確にはこれは黒霧の個性に少し似たワープ系の個性。

 どこに転移したかは不明、しかも独特とした臭い匂いが特徴の個性は、今までに見たことのない個性だ。

 そもそも、ワープなんて個性は希少故に中々に見かけない代物は、そう簡単に見つからないし、出会った事もない。

 ただ、もしこれが…〝混ざり合った〟個性なら?可能ではないか?

 では、それを可能とする人間は一体誰なのか?そして、この窮地な流れを完全に糸で操作するように仕組んだ人間は、一体誰なのか?

 

「ワープ系の個性などヤツには持ってなかったはず…だが!!」

 

「俊徳!コイツぁ間違いねえ…連合に不利な状況から一気に流れを打ち変わらせるこの仕組み……ヤツが動き始めた!!」

 

 浮き上がる水盆を、ひっくり返すかのように、意図も簡単に流れを変える事が可能な、計算的な男は、オールマイトやグラントリノの中で知ってる人物は、一人しかいない。

 

 

「……先生…」

 

 

 死柄木は、どこか幼い少年のような声で、安堵の息を吐き、名前を呼ぶ。

 いつも親しく、今では普通に名を呼んでたこの名前を呼んで、ここまで心が落ち着くようになるのは、久方ぶりだ。

 先生は、二度も自分を救けてくれたのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脳無の大群が連合のアジト周辺に続出する少し前、時間的に言えばそんな数分なんて生易しい時間すらかからない。

 時間は、二分前に遡る。

 オールマイト達が連合のアジトに突入し拘束したと同時に、ヒーローを先頭に、忍と警察は脳無格納庫を締めていた。

 沢山の脳無は無気力で、生きてるのかすら疑ってしまう程に、不気味さを実感させていた。

 主人の命令でしか動くことの出来ない改人・脳無は、文字通り操り人形でしかなかった。

 どれだけ、強力な個性を複数にして所持していたとしても、自分に意志を持っていなければ、本領を発揮する事はない。

 個性の質や、脳無による馬鹿力とかではない、それを抜きにして、思考能力を持たない脳無は、抵抗する事もなく、個性すらも使わず捕まったのだ。

 

 意志も、心も持たない人間は、もう人間ではない。

 

「うえぇ…ねえジーニストさん……早く終わらせましょうよキモチワルイよこれ!!

 ウチどちらかと言えばオールマイトの方に行きたかったなぁ〜…事件の重要性から重視してあっちの方が私の方が得策でしょう?

 捕縛系ならシンリンカムイさんに任せれば良いし」

 

「重要性と難易度を切り離して考えろ新人!

 それに下された任務は如何なる私情があっても全うし遂行しろ。

 

 嫌悪する任務も時に当たらねばならない事くらい頭の中に入れておけ」

 

 Mtレディは元はと言えばヒーローと言うよりも名誉や収入が欲しいだけで、特にヒーローとしての活動に熱い訳ではない。

 ニッチなファンが付いてて、新人時代で名を馳せたいという欲望ダダ漏れではあるが、巨大化という個性で負けフラグビンビンに立ってるにも関わらず、事件を解決してる彼女の実力は、本物ではあるのだろう。

 何よりも屁理屈ばかり言ってはいるものの、きちんと真面目に仕事に当たってる事から察して、まだ経験が足りないと考察できる。

 そこを配慮した上で新人に言葉を投げかけるジーニストは、周りをよく見ている。

 

「これで全部か?」

 

「ああご苦労様、鈴音さん。それにしても彼女、隼総の娘も凄いな、一瞬にして的確に脳無を確保した。

 

 お手柄だ」

 

「雅緋は俺がいなくても、充分に強い忍さ……悪忍とややヒーローから批判を受け入れガチだが、それでも屈さず必死に誇りを取り戻そうとするプライドと精神は、俺ではなく彼女自身の強さだ……」

 

 隼総は、雅緋の父親にして蛇女子学園の学園長の役目を担ってる、世界の中で五本の指に入るほどの実力を誇る、カグラに近い忍だ。

 幼少期の雅緋を妖魔から守った、雅緋にとっての誇らしい父親であり、命の恩人でもある。

 

「脳無は今は起動していない、襲いかかる気配も微塵とも感じないが気を抜くな!

 警察はいち早く移動牢式で脳無を連行しろ!コイツ等は複数の個性を身に宿してる!何かする前に無気力にさせるんだ!」

 

 雅緋の指示でいち早く了承する敵引き取り係は、二文字で返事を返し、速やかに脳無に移動牢式で拘束する。

 彼女はリーダーの素質がある。

 そう言った事に関しては、今回の任務ではかなり適任者ではないのだろうか。

 

「雅緋!奥の部屋に妙なものを発見したんだけど…来てくれないかい?」

 

「忌夢、本当か?……何が起こるか解らない…私と忌夢だけでは不安だな…父上と一緒に調べるか……」

 

 その妙なものが、何があるのか……想像もつかないが、何か危険だというのは察知した。

 もしかしたら、脳無の中で最も強力な個体が隠されてるかもしれない。

 

 

「ラグドール!我だ虎だ!返事をしてくれ!どうしたと言うのだ!?」

 

 虎の懸命な叫び声が倉庫に響き、それに駆けつけに来たギャングオルカが「どうした?」と声を張る。

 

「チームメイト、息があるようだな良かったじゃないか」

 

「ああ、特に問題は無さそうに見えるがおかしいのだ……何度呼びかけても反応しない…ずっと、気力を抜かれたまま呆然としてるのだ…

 ラグドール!返事をしてくれ!」

 

 闇に拉致されたラグドール、一見見た目的には特に問題は無さそうで、最初こそ安堵の吐息を吐きたものの、彼女のこの反応しない様子に、正直何が起きたか心配でならない。

 ギャングオルカは「取り敢えず彼女は救助隊員に身を預けよう、精神科医の専門家がいる、その医者に頼もう」とラグドールの背中をさする。

 仲間の安否に不安な虎に優しい声を掛けてくれるギャングオルカは、見た目に反してかなり優しい。

 それぞれのヒーローが、想いやり、絆を紡ぐ。

 これが、現代に生きるヒーローと忍。

 互いに互いを信頼し合い、現状を打破するそれは、間違いなく切り離す事のない仲間との友情だった。

 

 それを、コンクリートの壁から覗き込むように見てた緑谷達は、脳無の格納庫に驚かされながらも、迅速に対応し処理するヒーロー達に、心の吐息が漏れる。

 良かった…肝心の爆豪と雲雀の二人がいないと言う事は、間違いなくオールマイトの方なんだろう。

 二手に分かれて行動を取り、その結果自分たちはそうではない、脳無格納庫に行き着いてしまった訳だ。

 そもそも、彼ら彼女らは情報量も少なければ、確信もなかった。

 ただ、ヒーロー達の方が情報量が秀でただけ。

 ただ、ヒーロー達の方が実力も確信も強く持っていただけ。

 

 たったそれだけの事でも、数の多いチームと連携により、ここまでの成果を発揮するとなると、流石過ぎて物も言えない。

 

「ヒーロー達すげぇ…!俺たちが来るよりも早く善処してたんだな!」

 

「雅緋ちゃんと忌夢ちゃんもいる…お見舞いでいなかったのは、この事件に協力してたからなのかな?」

 

「善忍や悪忍との共闘だけでも、今思えば不思議ですのに……ヒーローだけでなく警察も来るともう、言葉が見つかりません……」

 

「虎さんにギャングオルカさんもいますわね…確かギャングオルカさんは昔は丑三ツ時水族館で経営をしてたと噂で聞いたことがありますが……」

 

「なんだ、雲雀はいないのか…となると、オールマイトの方に駆けつけに行きたいが、それでは隠密行動の意味にはならないか……」

 

 それぞれ言葉を漏らす。

 今思えば、自分たちのやったる事は誰にも認められないエゴに過ぎない事だ。

 もっと強く言えば、本来はしてはいけない行動だ。

 学生の身として保護下にいる自分達が、自分の身勝手我儘な感情論を押し付けて、行動して良いわけがない。

 しかし、このままプロヒーロー達がいてくれるのなら心強いし、大事にならなくて済む話だ。

 飯田は「俺たちの出番は無いようだ、ならここで引き上げよう!」と強い言葉を掛けてくれた。

 そうだ、自分達はあくまで救出する為にやって来たんだし、これ以上は野暮だ。

 連合の方もヒーロー達が捕らえてるし、何の問題も心配もいらない。

 

 結局、緑谷達と飛鳥達は、何もせずままそのまま、今回の事件は幕を閉じ――

 

 

「すまない虎。

 前々から良い個性だと思っててね、弔に追加で頼んで……貰うことにしたよ」

 

 

 ――なかった。

 たった一つの、冷酷で不気味な声が、少年少女の歩む足を止める。

 緑谷と飛鳥は、その言葉にどこか違和感を覚え、振り向く。

 幸い壁で身を包み隠してるので、見られてはいないし、都合よくこちらだけ確認する事は可能だが、何故だろう…どうしてもその不気味な男性の姿だけ、見えなかった。

 

「止まれ貴様!連合の者か!!」

 

「こんな体になってしまって…()()()()()()()()()()()()()()()

 

 不自由な体は、いつになっても窮屈な気がするよ……」

 

 ギャングオルカの制する言葉に聞く耳持たず。歩む歩を止めず、男はさも悠然と語りながら歩み寄る。

 

「そうか、ならばもっと窮屈にしてやろう」

 

 ガチ!!とキツく縛る音が、室内に響く。

 ベストジーニストの個性だ。

 

 ベストジーニスト〝個性〟 ファイバーマスター。

 服の繊維を自由自在に操るこの個性は、簡単に言えば服を着用してる人間は彼に抗う事が出来ない。

 因みにスウェットを操るのは苦手で、得意なものと、苦手なものもある、意外と繊細な個性だ。

 

「貴様、連合の伏兵か!」

 

 雅緋の黒刀の刃先が、その男に向けられる。

 その黒刀は、赤黒い禍炎を纏い、灼熱の炎に思わず近くに火照ってるだけで火傷を負いそうだ。

 しかし、男は雅緋に刃を向けられてながらも、平然と何ともない様子で立っていた。

 ここまで来ると不気味さを通り越して恐怖でしかない。

 

「お前の後ろにあるソレは何だ!?言え!さもないと本気で致命傷を負わせるぞ…!」

 

 忌夢の葛藤にた言葉を発しながら、如意棒を男の胸に当たるか当たらないかのギリギリラインで寸止めしている。

 それでも、男の動きに変化はない。

 男の後ろには、赤い培養液が入った、世にも奇妙な化け物の姿をした異形で歪な生命体は、明らかに他の脳無とは違った。

 何か特殊な生命体のような…その正体が何かは理解できない。

 更に言えば、その化け物よりも今目の前にいる男が余程恐ろしいのだが…

 それでも、恐怖を無理やり押し殺してでも、二人は後ろに退かない。

 

「二人ともその態勢を維持しててくれ。何らかの個性を使う筈だ」

 

 ジーニストの個性は服の繊維を操ることが可能なだけで、個性そのものを封じれる訳ではない。

 もしも念力と言った個性で攻撃されれば、ジーニストでも対処出来ない。

 尤も、相手の姿すら見えない以上、何者か解らなければ、どう言った個性かも解らない。

 なので、最新の注意を払うのはプロとして当然だろう。

 

「けどジーニストさん…もし一般人だったりしたらどーすんですか!?もしかして誘拐された人かもしれませんし…」

 

「状況と立場を考えろ!その一瞬の躊躇が現場を左右し、遂行できたはずの任務が失敗という形で終わる事になる――」

 

 ジーニストを中心に、警察や上忍が取り押さえるようにその男に近づく。

 

「いいか、敵には何もさせ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来れば、弔の邪魔はよして欲しかったなぁ…」

 

 ジーニストの声が途絶え、瞬きする暇すら遅く感じるその瞬間。

 世界が新しく変わり、塗り変えられたかのような、悲惨な光景が映し出されている。

 男は宙に浮き、それでも何も動じず、声色を変えず、平然と一人で物語る。

 何が起きたか?

 そんなもの知るはずがない。

 この男を除いて――

 

 

 ギャングオルカは、鈴音、雅緋は、忌夢は、隼総は、虎は、Mtレディは、上忍及び警察官は、筆頭のジーニストは、跡形もなくこの男に吹き飛ばされた。

 

 簡潔に言えば、反撃や行動、呼吸する事すら早く、この男は複数もの個性を使い、今の現状を作り出していた。

 そして、確保してた筈の脳無の姿は今じゃ何処にも見当たらない。

 赤色の培養液に使っていた化け物の姿もいない。

 

「折角、弔が自身で考え自身で導き出したんだ……

 ようやく、弔の元に仲間も集まり始めたんだ。それを君らが邪魔するなら、僕もとことん付き合おう」

 

 目の前には、建物も何もない。

 地平線とゴミのように崩れた何軒もの高層ビル。

 地面には黒い液体が微かに床に散らばってるものの、そんなもの関係ない。

 あの一瞬で、この男は全てを無に変えたのだ。

 上忍も、プロヒーローも、警察も、この男に手を足も、出す術なく倒された。

 

 

「弔は成長してるんだ。

 教育者として、先生として、彼の邪魔はさせないよ――」

 

 

 そして、その場の近くにいた緑谷達は、動くことが出来なかった。

 冷や汗が滝のように垂れ、吐き気を無理やり留めながら、口で手を抑えながら、呼吸の音すら立てないようにと、踏ん張っている。

 もちろん、緑谷だけではない。

 飛鳥も、飯田も、切島も、八百万も、柳生も、雪泉も、絶え間無く延々と続く恐怖に身を震えさせながら、存在を悟られないようにと身を隠している。

 何が起きたか解らない…目の前で起きた事を直で見てても、それでも解らなかった。

 

 

 ――一瞬にすら満たされなかった。

 

 あの一瞬の出来事、何が起きたのか、何があったのか解らなかった…!!

 ただ、ハッキリ言えることは…この男はヤバイ!!!

 

 飛鳥と緑谷は、この男を知っている。

 会ったことも、会敵した事もない。でも、この男が何者で、連合の誰なのか、直感で解ってしまっている。

 

 本能が言っている――〝逃げろ〟と。

 

 一秒にも、一瞬にも満たされない瞬間の中、その男の気迫は――僕らに、私たちに、死を錯覚させた。

 

 

 緑谷は、飛鳥は、前に個性に関して話してたオールマイトとのあの会話を思い出す。

 

 

『君たちはいずれ、その巨悪と対決しなければならない……かもしれない』

 

 

 そのかもしれないというもしもの不安定な言葉。

 巨悪と言う、禍々しい絶対悪。

 悪の権化、悪の象徴――

 

 

(――嘘だろ……ウソだろ!?オールマイト……じゃあ、あの時話してた会話……あの男は……)

 

(――そんな……じっちゃんは、あんなのと戦ってたの…!?

 じっちゃんのあの傷は…あの人が……付けてたの?

 じゃあ、あの人がまさか……)

 

 

 ――オール()フォー()ワン()

 

 

「――さて、やるか」

 

 

 悪の象徴、オール・フォー・ワン。

 忍の天敵にして、オールマイトの最愛のコンビである陽花を殺め、全てを支配していた男が、全てを葬り去り、全てを奪い、壊し、殺す為に、今動き出す。

 

 圧倒的絶対的最強悪。

 悪の象徴は、正義の前で微笑む。

 ヒーロー達の敗北が、ここで――

 




巨悪、リプート!
最悪の魔の手が、襲いかかる。
最悪にして最恐の男は、正義なんて感情も、慈悲もない。
全てを奪う為に、再び社会に恐怖を与え、弔の愛弟子の為に、動き出す。


全ては、一人のために――

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