光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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113話「オール・フォー・ワン」

同時刻、場所は打って変わって流れが変わり始め、覆された状況下。

爆豪と雲雀がワープ類の黒い液体に飲み込まれて直ぐだった。

 

「ぼえェっ!」

 

鎌倉の口から突如、黒い液体が溢れ出す。

脳無が送られた際に現れたこの謎の液体は正体不明であり、硫化水素に似た臭いが反吐が出そうなほど匂っていた。

 

「!しまった!」

 

逃げられる。

そう悟ったエッジショットは、合図一つで直ちに上忍や警察全てが動き出す。

連合を取り押さえようと、逃げられるよりもいち早く対処しようと全力を尽くす。

だが――

 

「グッ――」

 

「これ…はぁ!?」

 

連合のメンバー全員の口から、異臭漂う黒い液体が放出され、全員を飲み込むかのように、液体が全てを包む。

 

「おんのれ死柄木!漆月!逃がさん!!私も連れて行け!!」

 

オールマイトの手があと少しと言ったところで、死柄木と漆月の二人に届きそうだ。

だが、オールマイトの手が死柄木と漆月に触れた瞬間。

黒液体に飲まれた二人は、メンバー諸共バチャリ!と水が弾けた後のように、消えた。

オールマイトの声が虚しく消えていき、今回の作戦は後一歩と言ったところで取り逃がしてしまった形になってしまった。

 

 

「――申し訳ありません皆様ぁぁぁ!!!」

 

 

シンリンカムイの悔いを恨むような、責任を感じてる圧力に押しつぶされそうな声が、響く。

メンバーを拘束していたのにも関わらず、自分が今回の任務で重要な部隊として参加したにも関わらず、全員取り逃がしてしまった。

 

「お前の落ち度じゃないわい!!

それを言うのなら儂も同じこと…ワイヤーで拘束していたはずが…今じゃどうじゃ……この能力は一体……」

 

「拘束器具が取り残されてる…と言う事は、液体に触れたものをワープさせるのではなく、液体により発動した対象の人物にのみワープさせる個性か!」

 

黒霧のような、空間を繋げるワープ個性ではなく、対象の人物にのみワープさせる個性。

仮称「転移」の個性は、どう対処すれば良いかも不明だ。

もし突破口が解れば、この事態を防げたかもしれない。

そんな苦虫を噛み締めるような表情を浮かべながらも、脳無はオールマイトに襲いかかる。

数は五、六体。

どんな個性を所持してるのか、個体一体でレベルはどの位か、詳しくは知らないが――

 

 

「HAHA……全く、笑えねえぜ――」

 

 

笑顔は常に絶やさず、歯を食いしばりながらも、心は真逆。

義憤と悔いに、心を煮やしていた。

力強い拳が微かに震えている。

あの場で、二人を救えなかった後悔が、連合のメンバーを成す術なく取り逃がしてしまった不甲斐なさ、それらがオールマイト怒りに火をつける。

脳無がオールマイトの身体にまとわりつくようにしがみつくも、体の軸を回転し軽い竜巻が発生する。

 

「Oklahoma――SMASH!!!」

 

腰、左右の腕、首、足、胴体、執着するかのように食い付く全ての脳無を吹き飛ばす。

建物から吹き飛ばされた脳無は一気に戦慄し気絶。

立ち上がる動きも見えず、意識が無くなった。

オールマイトは体制を整え、静かに壊れた壁に外を見やる。

見てみると辺り一面、脳無、脳無、脳無、脳無だらけ。

警察も手を焼き重傷者が相次いでいた。

 

 

 

 

 

「これでも喰らえっス!」

 

ガン!!

華毘の渾身の鉄槌。

黒い金槌による重々しい攻撃を、脳無は背中に生えてるハンマーで防ぐ。

軽々しく数百キロはありそうな金槌を、脳無は豪腕な腕に生えてるハンマーで互角に渡り合っていた。

 

「ネコニャン!!」

 

「うっさいわね〜!気持ち悪いっての!!」

 

脳無の意味不明な奇声に、気味悪がり引きながらも、二丁銃で乱射する。

銃はライフルでもショットガンでもM-60でもない。

イルカをモチーフにした水鉄砲だ。

鋭いような、水の弾を脳無はドリルを地面に突き刺し、地盤が緩み割れた所を、二つの腕で持ち上げ、盾にする。

そこから背中にバズーカや小型ミサイルを精製し、撃つ。

 

「この野郎……早く倒れやがれ!!」

 

蓮華は電撃を纏った桴で、脳無に真正面にぶつかる。

脳無は「ネホヒャン!!」と奇声を上げつつ、チェーンソーを唸らせ桴と鍔迫り合う。

しかし桴とは相性最悪で、チェーンソーの刃先が、桴を削り削ぎ落とすかのように、みるみると火花を散らしながら蓮華が押されていく。

 

「――ッくしょうめい!!ウチが押し合いに負けるなんざらしくねえ!!華毘!華風流!お前らも何でもいいから押してくれ!!」

 

「うっス!」

 

「そんなの言われなくても解ってるわよ!」

 

華風流は無数のイルカの形をした水玉を水鉄砲から出しては、脳無に襲いかかり、華毘の特大級の花火玉を脳無にブチまける。

水柱が天を覆い、爆破による火が脳無を飲み込むかのように燃え続ける。

押されてた蓮華は、優勢を取り直し桴を脳無の胸部に叩きつける。

まるで太鼓のドラムを叩きつけるかのように、リズムよく、心臓に振動が伝わるかのように、手を休むことなく打ち続ける。

 

「秘伝忍法――〝紫電〟!!」

 

「!――ッ!!――!」

 

奇声を上げる暇もなく、脳無は悶絶しながら走った蓮華の攻撃を浴び、もろに吹き飛び上忍と交戦中だった脳無にぶつかる。

 

「よっしゃあ!これでどうだってんだ……」

 

蓮華は息を荒くしながら、吹き飛ばされた脳無に視線をやる。

どうか、倒れて欲しい。

コイツだけじゃない、まだ脳無は沢山いる。

コイツだけで体力を消耗はしたくないという、心の隅に微かな懇願が芽生えるも

 

「ネホ――ヒャン!!」

 

脳無は、立ち上がる。

思考能力を持たない脳無に、諦めるという文字はない。

 

「嘘……でしょ?化け物過ぎでしょ……何なのよコイツら……」

 

わなわなと震える華風流の声に、三人は驚愕する。

一定以上のダメージも与えた。

巫神楽三姉妹は護身の民、特別な訓練を幼少期から受けてるので、他の忍学生とは実力は桁違い。

にも関わらず、脳無は苦しむことも、痛みに表情を変えることもなく、主人の為にと、破壊を続けんばかりに立ち上がる。

 

これが…脳無。

 

 

「踏ん張れ巫神楽三姉妹!お主らが唯一の要じゃ!」

 

ふと、心強い声が三人の耳に届く。

小百合様!と声を張り上げようとするも、小百合の目の前にいる怪物に、三人は一瞬で戦慄する。

 

小百合の目の前にいるのは、黒く堅い皮膚で覆われた外装、棘が生え、顔はドクロのような化け物で、身長はざっと二メートルに近い。

他の脳無とは違い、能が飛び出てないのが印象的だ。

 

そして、他の脳無とは桁が違うほどに禍々しく、不気味な気配を孕んでいた。

 

「小百合様……これって…」

 

蓮華の瞳に、微かな涙と、恐怖と、ただならぬ怒りが芽生える。

こいつは知っている…

前に一度、見たことがある…

 

だって、アイツは――

 

 

『ね〜ね〜三人とも、今度はかくれんぼして遊ぼうよ!もっとあそぼ?』

 

 

()()()を殺した化け物と同じ形をした姿だ。

過去と今が、積み重なる。

 

 

「ここは儂に任せんしゃい…

やれやれ、あのカムイ(大バカ者)め…オールマイトから聞いた話とは全然違うのう…

まだこんな大玉を隠してたのか…こりゃ間違いない

 

 

 

 

――妖魔じゃな」

 

 

ギュオオオォォォォーーーーーァアアア!!

妖魔の雄叫びが、建物に亀裂を生じさせる。

近くにいた上忍や警察、プロヒーローは耳を抑えるのがやっとといった形で、小百合にいたっては、妖魔の圧倒的威圧感の強さに、冷や汗を流す。

 

脳無格納庫にいた別個体の化け物。

赤い培養液に浸かっていた化け物の正体は、忍の天敵にして、異常たる化け物、妖魔だった。

それは伊佐奈が創り上げた妖魔とは違う、完全なるオリジナル。

血の塊のような、泥々とした生臭い匂い、歪な殺気、妖魔な訳がない。

しかし小百合は知っている、今ここで妖魔を出したということは、これは小百合や忍への憎悪による、嫌がらせなのだと。

オール・フォー・ワンは、そう言う人間だ。

 

「さあ…久しぶりに本気を出すかのう…ちと、荒くなるが、老い先短い人生の老婆の我儘、許しておくれ」

 

ゴウゴウと轟く音が、地面や空気を通して鮮明に伝わる。

この只ならぬ破壊力、鳥肌立つこの気配、小百合の本気が解放される。

 

 

「絶・忍転身!!」

 

 

見れば姿は白い輝きに身を包まれ、眩しい光に視界が覆われ、暗く暗雲がかった夜は、一つの光に照らされる。

妖魔だけでなく、脳無も小百合一つに意識を向ける。

 

「さあ、おっぱじめようじゃないか!!」

 

その姿は、もう誰もが知ってる老婆の姿をした小百合ではない。

長い髪がストレートに伸び、肌も何もかも若返ったかのような美貌。

文字通り、正真正銘若返ったのだ。

その姿は現役時代、かつてカグラとして生きてきた、最高称号を背負うに相応しい、最強の忍の姿だった。

 

その名も――ジャスミン。

 

 

生きる伝説、今ここに在り――

 

 

 

 

 

 

 

一望から見れば、この光景を一言にら簡潔に言えば「混沌」。

優勢だった立場は覆され、一瞬にして流れは変わり、今じゃ敵連合が優勢の立場に立った。

尤も、オール・フォー・ワンの一手でこうも戦況が変わるなど、思いもつかず、上忍達や警察、プロヒーローは全力を持って脳無の動きを止めていた。

そんな中ジャスミンだけでなく、圧倒的な戦力で敵の戦力を削ぎ落としている人物がもう一名。

 

灼熱の豪炎を、悠々と揺らがせ、脳無を翻弄していく強者。

体中の炎は、触れたものを火傷に負わせ、地獄のような業火を煮え立ちらせる男、轟の父親にしてNo.2の肩書きを背負うヒーロー、エンデヴァー。

息遣いは荒くとも、実力は本物。

あの脳無の大群を、灼熱の炎の海で一掃し、横には倒れた脳無の山が積まれていた。

 

「ふぅ……まだ、終わりは見えないな…!」

 

それでも、無限のように湧き出てくる脳無は、怖れなくエンデヴァーに襲いかかる。

脳無一体なら倒すことなど造作もない作業、だが圧倒的な数は暴力と為す。

一体で複数の個性を持つ脳無は、何体も束になり襲いかかる。

口からガトリングを乱射する脳無、腕が消化水を放出する脳無、圧倒的な増強形の個性を複数与えられた脳無、そこらかしら、脳無だらけ。

見飽きてしまう程に、見慣れてしまったせいか気味が悪くも思えない。

 

尽きない炎を放出しながら、エンデヴァーは延々と脳無を倒す作業を繰り返す。

そんな、精神的に追い詰められてる中

 

 

「大丈夫か皆んな!!!」

 

 

平和の象徴と謳われた男の発する言葉が、全員の耳に届く。

エンデヴァーは一瞬、炎を止め動きを止め、ほんの数秒間を置き

 

「大丈夫!?これを見て本気で言ってるのか貴様は!何処をどう見たらそんな疑問が浮かび上がるんだド阿呆がァ!!」

 

ああ、確かに。

とオールマイトは心の中で呟いてしまう。

見て見れば、小百合は口から血を流し、無理な体に鞭を入れ絶・忍転身を行いジャスミンの姿と成り果ててる。

あの姿を見るのは久方振りだ。

アレを発動したなら間違いなく今の彼女は本気を出してるのだろう。

だが、それはこれ以上限界に近い老体を更に酷く悪化させてるようなもの。

下手すれば死ぬケースすら高いのだ。

それを、妖魔と対峙している。

しかも本来、妖魔がここにいること自体、オールフォーワン自らが妖魔を造る事など、ありえないとさえ思えていたのに…

奴は悉く、我々の予想を裏切ってくれる。

 

巫神楽三姉妹を中心に、警察や上忍、プロヒーローは脳無の動きを止めている。

エンデヴァーという戦力をもってしても、脳無は一向に減る気配が見えない。

確かにそんな最悪な戦況の中、大丈夫か?と聞かれればそんな答えも返ってくるだろう。特にエンデヴァーは。

 

「流石のトップヒーローも老眼が始まったのか!?ならばNo.1なんて肩書きは捨ててしまえ!

 

なぜ貴様はその場で立ち止まってる!?貴様は平和の象徴なのだろうならばさっさと親玉を倒しに行け!敗北は俺が絶対に赦さんぞ!!」

 

遠回しに「我々に構わず先に行け」というエンデヴァーなりの気遣いさと言葉に、オールマイトは瞬時に受け入れ理解し、「すまないね!」と炎のように燃える怒りの眼光を光らせ、その場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――パチパチパチ。

 

無音と成り果てた、朽ち果てた光景に、何の突拍子も無い拍手の音が、鮮明に聞こえる。

 

パチパチパチ、パチパチパチ――

 

世界の終わりを連想させられる景色、崩壊した街並、延々と続くかのような地平線の彼方。

この常識外れた空間は、文字通り異常というに値する。

 

――全滅。

上忍も、プロヒーローも、警官だって、束になっていた。

どんな輩が現れようと、太刀打ち出来る程の実力者揃い達がいた。

オールマイト程でなくとも、世界の五本の指に入るヒーローも忍もいた。

それを、たった一人の男はさも当然と言わんばかりに、人が意識しずに呼吸をするような感覚で、個性を発動しただけで、この破壊的な威力を出していた。

 

それでも、男は拍手を止めない。

それは挑発か、またはた…全員、この男に殺されずまだ息がある事に、経緯を表してるのか、この際はどうでも良い。

本当に、心底どうでも良い。

 

「流石No.4ヒーロー、ベストジーニスト!!

僕は全員を消し飛ばしたつもりだったんだ!!

 

普通なら、これを常人が喰らえば確実に息の根は止まるんだけどね。

タネは知ってるよ、皆んなの衣服を操り瞬時に端へ寄せ、威力を軽減させた。そうだろ?

君の精神力・判断力・技術…並みじゃ無い!」

 

感心するように平然と語るこの男に、ジーニストは霞む視界を無理やり払うかのように、目に力を入れオール・フォー・ワンを睨む。

 

「……コイツ……!そうか………はぁ……はぁ…こいつが…!!」

 

連合のプレーン。

作戦会議で塚内刑事を始めとした警官達から、予めの情報や連合に関して、知り尽くすだけ全部記憶した。

勿論、二つのアジトのどちらかにオール・フォー・ワンがやって来る事は聞いていた。

忘れてた訳でも無い、忘れるはずがない。

だが、まさか本人が直属やって来るのは、流石に誤算だった。

自身が危険と感じたら姿を現わすと聞いた。だが話が違う――

 

 

――からなんだ!?!

 

本当のプロはそんな物を言い訳にしていい筈が無い。

 

朦朧とする意識の中でも、ジーニストは諦めない。

まだ、皆んな息がある。

自分も、まだ個性は使える。

全ての力を振り絞り、不可能を可能にしろ。

 

「一流のヒーローは!!絶対に――」

 

 

――トッ

 

 

その瞬間。視界が真っ白の無に変わる。

意識が、まるで電池が切れたかのように、体の言うことが効かなくなり、腹部に強烈な激痛が走り出す。

 

「相当頑張ったんだね。よほど、ヒーローについて勉強して来たんだねジーニスト。

凄いなぁ、偉いなぁ、相当な努力を費やしてここまでよじ登って来たんだよね。

 

練習量と実務経験故にの〝強さ〟だ。

でも残念、君のは…要らないや」

 

 

君の個性は、弔の性に合わないな――

 

 

その言葉と共に、ジーニストは意識を無くし、完全に気絶する。

 

 

「儚いなぁ…一流のヒーローの精神論?

結果が全ての君らには、そんなもの要らないんじゃないかな?

 

努力と経験で語る君らには、偽善という言葉がお似合いさ――なぁ?鈴音」

 

オール・フォー・ワンは、嘲り笑いながら鈴音に振り向く。

彼女もジーニストと同じく立ち上がれずとも、意識はある。

もちろん、雅緋や隼総も意識はある。

ただ、忌夢や上忍達、警官やプロヒーロー達は、もう気絶していた。

 

「お前……は!!」

 

「お久しぶり、僕が誰で、僕が何者か…忘れて貰っちゃ困るからね。

感動の再会…にしては、余りにも酷だっかな?」

 

残骸のような建物が、殺風景な景色を照らし出し、悪の象徴は笑い声を抑えながら語り出す。

鈴音は歯を食いしばりながら、力無き体を無理やり動かそうとするも、叶わない。

 

「無駄だよ。

ジーニストの個性で威力は軽減されたとは言え、このダメージは君にとって深刻な筈。

No.4の実力を誇る隼総ならまだしも、君は以前、僕に破れたんだ。

 

君が今回の任務に出張すること自体が、奇跡でしかないんだから、無理はするものじゃないよ」

 

「あっ……くッ…!!」

 

この男の一つ一つの言葉が、怒りを沸騰させる。

まるでマグマのようにグツグツと煮え滾るこなよ怒りは、かつての自分を想像する。

神威討伐の任務で、自分は初めて彼に負けてしまった。

そして、オール・フォー・ワンは、鈴音の大切なものを、絶えない笑顔で奪ったのだ。

 

 

スーパー忍者になる、最高の一流の忍になる夢を――

 

 

重傷を負い、後遺症も酷く、忍として生きていく事は出来ないと聞いた時は、己の不甲斐なさと共に、あの男を憎んだ。

己の弱さも一理ある…だが、あれ程の実力があれば、いつでも自分を殺せたのに、彼は態と生かしたのだ。

 

それは生きていく上で、二度と忍として生きられない彼女の不幸を、笑顔で嘲笑う為に過ぎなかった、単なる嫌がらせだ。

 

「だからもうお休み、君はもう二度も負けてしまったね。

忍として、教育者として、僕に破れた君は、敗北を悔いながら、憎悪を燃やして一生を過ごすと良い」

 

この男の言葉全てを聞いてるだけで、怒りを通り越してどうにかしてしまいそうだ。

たった一人の、興味本位な単なる嫌がらせで、自分の人生が狂わされたのだ。

怒らないわけがない。

 

「き……さま……!」

 

今まで黙って聞いてた隼総は、歯を食いしばりがら、近くにいる雅緋を抱きかかえたまま、地面にひれ伏している。

強い、強すぎる。

今まで鉢合わせた妖魔よりもずっと強い…

いつ以来だろうか?

ここまで苦戦を強いられたのは……

 

「……ああ隼総か、君とはここで初対面かぁ……どうだい?妖魔に家族を殺された気分は、辛かったろう?」

 

「黙れ!貴様は最早人間ではない……妖魔と同様…!ならば私が……」

 

「父…上…!」

 

重傷に、体中の激痛に耐えながらも、雅緋は息遣いを荒くしながら、隼総の服を握りしめる。

ダメだ、父上まで逝ってしまう…

そうなれば私は…!

最悪な予想が、頭の中を過ぎる。

早く止めなければ――

 

 

――トッ

 

 

嫌な音が、凍りつくかのように再び聞こえた。

隼総の腹部もまた、ジーニストと同じく見えない何かの衝撃を喰らい、彼は静かに瞼を閉じた。

 

「父上!!!」

 

「怒りに身を任せて立ち上がれる位なら、死んでった忍の先人達は苦労なんてしない。

それにあれだろ?

忍の定めは死の定め、任務で失敗した忍が死ぬ事は、何ら不自然ではない、自然の摂理なんだろう?

なら、悲しむ事はない。

ホラ、隼総や君も言ってたじゃないか…

弱い忍は罪、万死に値すると。なら、僕は何も悪くもない、怨まれる理由も、叩かれる口も僕にはない訳だ」

 

自身の犯した罪など知らない。

そんなのこの男からすればどうでも良い。

それは、忍とヒーローへの憎悪から来る本音なのか、これも単なる嫌がらせなのか、理由は定かではないが、どの道雅緋の逆鱗を傷つけるのには、充分だった。

 

 

――お前…だけは……

 

『雅緋。悔しければ、妖魔を狩れ…妖魔を倒す、カグラとなるんだ――』

 

――オール・フォー・ワン…貴様だけは…!!

 

 

「絶対に許さな――!!」

 

 

――トッ

 

 

そこで、雅緋の視界も揺らぐ。

一瞬にしか満たさないが、それでも…それでも雅緋の意識を途絶えさせるのには充分だった。

 

「雅…緋…」

 

鈴音の枯れる声が、涙と共に聞こえる。

守れなかった……負けてしまった……雅緋や隼総すらも、この男には敵わなかった。

何が…忍だ……

雅緋に続き、鈴音も絶望に身を染めながら意識を途絶えてしまった。

 

「ハッキリ言って聞き飽きたんだよ、君らのそう言う憎まれ口は。

だからもう少し表情を歪ませて欲しかったけど、一度大切なものを失った君らじゃ、効果はあまり効かないのかなぁ…?

 

まあ良いやお疲れ様。

ああそれと雅緋、君は確か悪の誇りを取り戻すとか言ってたね。

残念、取り戻すどころか、またとんだ汚名を被ってしまったねぇ……」

 

けど、仕方ないか。

たった一言で、人の信念を全て捻じ曲げ、圧倒的な力でひれ伏させるこの男に、敗北という文字は無い。

この男に、人間という常識は無い。

勿論、理屈なんてこの男に通じるはずがない。

 

「母親を亡くした位で、そんなムキにならなくても、君には他の生き方がお似合いだと思ったんだけど……

強いて言えば、悪忍の君らなら、弔の気持ちを解って欲しかったかな…

 

不幸面を掲げてるかもしれない、君の人生の殆どはさぞ、辛かったんだろうけど…君なんかよりも――

 

漆月の方がずっと無残な生き方をしてたよ。何せ彼女は、幼い頃から人間とすら認めてくれなかったんだから、君と比べればそうだな…

 

周りに空飛ぶ蚊蜻蛉がお似合いかぁ、ハハハ――」

 

悪の象徴は微笑む。

嘲笑う。

何せ彼は、カグラを超越した超人。

人間の理を超えた化け物なのだから。

悪は悪を踏み潰す。

その光景は正しく、弔がステインを踏み台にする姿と同じものだった。

 

「忍も、ヒーローも、全然大した事無かったなぁ…」

 

実力者揃いだった敵に対して、彼はつまらなさそうに、口から愚痴が溢れだした。

オール・フォー・ワン。

かつて何千人何万人、何十何百万…いや、それすらも超えるだろう命を摘み取った男は、まだ命を摘み取る気でいる。

 

 

そんな男のすぐ近く、コンクリートの壁。

奇跡的に壊されなかった壁の向こう側、オール・フォー・ワンの視界に入らないその壁越し、八人は息を詰まらせていた。

 

絶対的な力。

圧倒的な恐怖。

絶望と悪意。

 

言葉が、出ない。

 

 

――何だ…何だアイツ!?何が、起きたんだ?

 

轟焦凍は想う。

 

――全部、掻き消された…!!

 

切島鋭児郎は想う。

 

――お爺…様…黒影おじいさま…!アレは……アレは一体…!?

アレが、悪の象徴……巨悪と呼ばれる存在…!

 

雪泉は想う。

 

――ダメだ…アレに立ち向かったら、オレ達全員、アイツに殺される…絶対に殺される…!!

 

柳生は想う。

 

――逃げなくては…解っているのに…!

 

八百万百は想う。

 

――頭では解っていても、身体が…動かない!!

 

飯田天哉は想う。

 

 

――身体が動かない!!!

 

 

全員は想う。

 

圧倒的絶対的な悪意に、この場の全員は吐き気を抑え込む。

飛鳥は両手で必死に口を抑え込み、微かな呼吸音すらも聞こえる。

緑谷は両手で腹を抑え、吐き気を押し殺す。

たった一つの恐怖で、ここまで違うのか。

オールマイトに似たこの凄まじいオーラは、余りにも異質で、彼が忍から天敵と呼ばれてた理由が、今ではハッキリと納得出来る。

上忍やプロヒーローも、警察もやられた。

その時間は、わずか一秒未満。

 

刹那と呼ぶに相応しいその一瞬にも満たない短時間、オール・フォー・ワンは全てを吹き飛ばし一掃したのだから。

 

恐怖に身体を震わせながらも、少し経つと、壁腰から液体が滴り落ちるような音が聞こえた。

 

 

「ゲボッ…えぇぇ!臭えぇ……!んだよコレ!」

 

「うえぇん……気持ち悪いよぉ……」

 

 

それは、爆豪と雲雀の、連合に拉致されてた二人の声。

オールマイト達が救けたハズの二人は、オール・フォー・ワンの元に転移された。

 

(――かっちゃん!――爆豪(くん)!!)

 

(――雲雀(ちゃん)(さん)!!)

 

八人とも、思わずその場で叫びだしそうになるも、その衝動を何とか危機一髪と言った感じで防ぎ、抑え込み、息を荒くする。

どうして此処に?という疑問が、八人の頭の中に靄が付くようとどうしても離れられなかった。

あの二人が、この場にいる事自体が、どう言っても異常でしかない。

 

「悪いね二人とも、こんな手荒な歓迎で」

 

「あぁ、?」

 

「誰…?

 

……!ねえ爆豪くんアレ!!」

 

雲雀の驚嘆な叫びに「なんじゃオラァ!」と叫び振り向くと、そこにはただただ「無」が広がっていた。

歪でありながらも、その破壊的な世界観は、二人を硬直させるのには充分だった。

この街が何処なのか、此処が何処なのか解らない。

それでも、何十人も人が倒れてる地平線は、どう見ても歪としか言い表せなかった。

ただ、これだけは理解できる。

こんな、こんな漫画も幽霊もビックリするこの状況を作り上げたのは、間違いない…

 

「テメェ…が、やったんかこれ」

 

爆豪の問いかけに

 

「うん、そうだよ」

 

なんの声ブレもなく、平然と答えるオール・フォー・ワン。

 

「君らと話したい事は山ほどあるが…ホラ、君たち二人の仲間が来たよ」

 

オール・フォー・ワンが指差す方向は、なんの変哲もない、ごく普通の壁。

その壁越しには、八人ともしゃがんでいる。

まさか…!と言いかけたその途端

 

「うえぇ!ゲホッ!」

 

「ガハッ…!」

 

「気持ち…悪いぃ…!」

 

次々と黒い液体から姿を現わす連合メンバー。警察に引き取られてた連中、気絶してた連中、シンリンカムイと半蔵に身動きを封じられてた連中は、一人残らずオール・フォー・ワンの元へ転移された。

当然、連合のメンバーも何が起きたか解らずといった所で、更に気絶してる黒霧と荼毘に至っては関係ない話だ。

 

「ゲホッ!ゲホッ、はぁ…はぁ…何…これ?

何が起きて…」

 

「ここは一体…何処なのでしょう?」

 

漆月と蒼志の声に構わず、オール・フォー・ワンは、弔に歩み寄る。

彼は、彼だけは知っていた。

この転移による現象も、脳無が現れたのも、眼に映るこの壊れかけた世界のような光景も、それらが全て先生の力によるものだと、知っていた。

 

「弔、君はまた失敗したね」

 

先生の声が、重々しく聞こえる。

その声には怒りなど微塵も感じない、だけどこの場にいる皆んなは、開いてた口を閉ざすのには充分な程に、その威圧感は凄まじかった。

 

「けど、決してめげてはいけないよ。

こうして、君は仲間を取り戻せた。漆月という君にとっての、最愛のコンビも取り戻せた。彼女は君の良き理解者だ、その事を決して忘れるな」

 

でも、その威圧感は嘘のように消える。

アレだけ、ヒーローや忍に対し嫌がらせをし続けて来た彼は、悪に対しては優しく接する。

それこそ、まるで悪の救世主のように

 

「漆月、君もね。

ずっと辛かったろうに…君も、何も悪くないのに、罪すら背負ってない君は、多くの人間に殺されかけた。

忍どころか、そこらの一般人は、君を受け入れてくれなかった…けど、そんな辛さも、もう要らない」

 

「え……?」

 

――ちょっと待て。

どうして、どうして貴方が、私のソレを知ってるの…?

黒霧から、少しだけ話を聞いたことがある。

 

『あのお方は、常に未来を見据えてる人間だ…どう動けばどう転がるのか、先生はソレを知っている…

 

あのお方に知らない知識など存在しない。

完全たる万能者と呼んでも過言ではない存在…

漆月もいずれ、あのお方の素晴らしさが解りますよ』

 

 

――どうして、私のことまで…?!

 

 

「漆月、僕は君にも感謝してるんだ。

もし君が連合に赴かなければ、彼女たちとも会えなかった…それこそ、連合は忍の力も、抗う術も無かったんだと想う…」

 

まあ、他にはいるが…幼い弔には()()()は酷すぎる。

なによりも、漆月。

君という存在がいたからこそ、僕もまた君に出会う事が出来たのだから。

 

「弔の仲間たちも。抜忍もだ。

いいかい?君らは決して、捨て石なんかじゃない。

君らは忍の世界から追放され、社会に苦しみ生きてきた。

 

だから、君らは負け犬でも何でもない。

今がある事を誇れ」

 

悪の象徴は優しく語り告げる。

オール・フォー・ワンは、昔はよく仲間を一つにまとめていた。

個性的で激しく、凶暴な悪意をまとめるのも、組織のボスとしてのあるまじき姿だ。

だが恐れるなかれ、彼は衰弱して弱体化した状態で、素がこれなのだ。

片手一つで全てを吹き飛ばす力、たった一つ破壊的な存在に、恐怖で鎮めさせる圧倒的な気配、それらが兼ね合わせても、彼は弱ってるのだ。

 

「爆豪くんに雲雀くんもね、弔が君らを駒として必要だと判断したから、僕は動き出す事が出来たんだ。

 

敗北をしても、失敗を繰り広げても、それでも何度でも立ち上がれ弔。

 

その為に、先生(ボク)がいるんだよ」

 

弔の教育には、経験が必要だ。

本当なら、自分の手で下せば事は有意義に進むだろう。

だが先生が態々直接手を下さないのは、弔の教育のためにならないからだ。

何事にも経験は必要だ。

だが、こう言った弔の身に危険が及ぶ非常時ならば、手を下す。

それが、先生だ。

 

 

「――全ては、(キミ)の為にある」

 

 

オール・フォー・ワン――全ては一人の為に。

 

悪の象徴は、黒いマスク越しで微笑みながら、手を差し伸べる。

黒いマスクはまるでドクロをリスペクトしたかのような、不気味な金属製のマスクに包まれていた。

師匠の差し伸べられる手に、弔は……

 

「先生…」

 

ただ、眺めていた。

この世界で、誰も自分を救ってくれなかった。

けど、この人だけは違う…先生だけは。

先生は、また自分を救ってくれた。

 

 

「言っただろう?もう大丈夫――〝僕がいる〟って」

 

 

悪の囁きに、異常な空間に包まれた二人は、険しい顔を立てる。

あの男は、只者じゃない。

危険すぎる、あれが本心なのかどうかは、二人には理解出来ない。

だが、本物なのだろう。

悪の絆というのは、師弟関係の繋がりというのは、良かれ悪かれ、双方に繋がってるのだから。

 

 

そして、壁越しに佇む八人は、息を押し殺しながら、考えていた。

最善な策を、どう対処すれば、どう動けば救えるのか。

 

――考えろ…この状況でどう動けば良いのか!!

 

緑谷は必死に考え、思考を無理矢理働かせる。頭のいい緑谷でも、最善策が思いつかない。

恐怖という概念に支配され、心が囚われながらも、それでもどう動けば二人を救ける事が出来るのか。

 

――ダメだよ…怖いから動けないなんて、そんなの絶対ダメ!!

 

飛鳥は「うっ…!」と本気で吐きそうになる嘔吐感に悩まされながら、心の底から無限に溢れ出る恐怖を振り払いながら、二人を救ける為に脇差の刀を握る。

手に汗が握り、滴り落ちる。

 

距離的にワン・フォー・オールを使えば一秒で爆豪と雲雀の二人を救ける事など造作もない。

だが、救けることができるだけで他はどうする?

救けた後、一秒未満で全てを吹き飛ばす事の出来るアイツから、果たして逃れることが可能なのだろうか?

仮に出来たとしても、それはあくまで自分自身なだけあって、飛鳥や他の皆んなはどうする?

無論、全員この男に殺される。

自分たちの死を錯覚させる、この男の気迫だけで、ここまで解ってしまう。

それでも、どう動けば良い?

 

 

このままだと、二人が――!!!

 

 

ガバッ!

 

緑谷出久の思考は、友人の手によって止められた。

体も、思考も、飯田に止められる。

緑谷だけではない、飛鳥も彼に止められた。八百万は切島と柳生を、轟は雪泉を、どうやら彼ら彼女らも考えは同じだったらしい。

 

――俺が、僕が、私が、〝止める〟!!!

 

友を危険から守る為に、体を張ってでも止める。二人はそう決意したのだから。

 

 

 

「……ああ、やはり来てるな」

 

 

――ドクン!!

嘘だろ?そう心臓から口が飛び出そうな程に、全員はその場で凍りつく。

見られてない、忍だって完全に気配を消している。

にも関わらず、この男は知っているのか。

この場に学生がいることを。

口調から察して、恐らく爆豪と雲雀の二人を奪還しに来ることは最初っから予想がついてたのだろう。

 

オール・フォー・ワンは静かになんの変哲もない壁に、顔を向ける。

そして――

 

 

ズドオオォン!!!

 

 

「全てを取り戻しに来たぞ!オール・フォー・ワン!カムイ!!」

 

危険(ピンチ)な場面に、平和の象徴(オールマイト)がやって来た。

 

「また僕を殺すか、オールマイト」

 

悪の象徴(オール・フォー・ワン)は、オールマイトの拳を素手で受け止める。

 

 

〝平和の象徴〟対〝悪の象徴〟――

善と悪の頂上決戦は、これにて開戦する。

 

 







善と悪の衝突!
最強のヒーローと最強の敵が、今ここで戦う――



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