光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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119話「終幕」

 

 

 神ノ区で起きた、オールマイトとオール・フォー・ワンの死闘が幕を閉じて一夜明け。

 世間は騒然としていた。

 それは無理もないだろう。神ノ区半壊という大規模な災害に匹敵するレベルの被害、平和の象徴オールマイトの正体及びヒーロー活動引退、終いには世間に忍の存在が明かされたという事実。

 数々の事件に目を通せば、それは嫌がる程に人々の記憶に刻まれる事だろう。

 オールマイトという折れぬ平和の象徴の弱体化が判明され、半蔵という伝説の忍が世間に晒された。

 平和の象徴という言葉は、ヒーローからすれば心強い味方で、市民からすれば安堵の息から来る幸福感が湧き上がる弱者の味方、敵か

 すれば絶望と恐怖でしかない存在。

 存在してるだけで悪の抑止力となったヒーローは、二度と復帰叶わず再起不能となった。

 それだけで市民からして観れば不安と恐怖、絶望でしかない。

 忍に関しては最も大きな変化だろう。

 今まで御伽噺として曖昧に語られてた歴史の存在が暴露された事で、市民からの疑問の言葉が相次いでいる。

 エッジショットと言った忍風ヒーローなんて誤魔化せはしないし、マスコミを始め、多くの市民からは忍の存在と理由を問う嵐が絶え間ない。当然の帰結ではあるが、流石の上層部も表に出さざるを得ない形に成り果てたようだ。

 結果、忍の有様を最大限に誤魔化すことが出来たものの、最小限の範囲で忍の存在に対して不満と批判の言葉も上がったと聞く。

 忍は表社会から派遣された任務を全うする。これは誰もが聞けば世のため社会の為として、ヒーローの暗躍とて想像が付いたものの、人々のイメージとしては暗殺、破壊、奪取、諜報、隠密という如何にも忍らしいイメージもあり、敵という悪者イメージも付く為、良く思ってない人が殆どだろう。

 何より表社会に公表すらされない者なら尚のこと。裏では世間には晒せれない任務や暗殺などをしてるのでは?という記者達の言葉もあり、益々忍へのイメージが悪くなり、いつしか忍に対する社会への信頼と希望は無くなり、批判と酷評が大きい。

 それでもまだ最小限だ。もしこれが裏では殺し合いが起きてたなんて知れば、敵同士の争い関係やヤクザやギャングの縄張り争いなんてレベルでは済まされない。

 社会全体のイメージを悪化する以外の何でもない。

 忍と人間は違う。

 忍は死を覚悟して、世の為人の為に血で血を争う生き物だ。平穏な環境で育たれた人間とは違う。

 それでも昨夜オールマイトを庇った一人の老人、半蔵の勇姿や、ヒーローと共に救助活動を行なっていた忍達の活躍もあるため、一概的に忍が悪者と決めつけるのも無理があり、忍を悪く思わない者もいる。

 五分五分と言った形で、忍を良く思う者もいれば、まだ信頼出来ないと言い張る者もいる。

 

 忍の話題だけではなく、ヒーロー社会にも影響が訪れた。

 折れない平和の象徴という圧倒的な一位を誇る実力が途絶え崩れることで、社会の均衡バランスが崩れ去り、近々犯罪率が急激に上昇するという恐れが上がっている。

 

 

 忍に対する人々のイメージは悪化し、ヒーロー維持性も悪化。現代社会はヒビ割れたガラス細工のような、危機的な状況に陥っていた。

 これが、現代社会における状態。

 

 

 寝ても覚めても何も変わらない――現実である

 

 

 

 

 東京本部基地――高層ビルの会議室。

 静寂な室内は緊迫とした気迫が孕んでいた。中には警察庁上層部の長官が数名、善忍悪忍の上層部が数名、数枚の資料に目を通し難しい顔を浮かばせる。

 警察庁上層部と忍社会上層部とは特別な縁があり、国家機密に触れることから全て忍社会とヒーロー社会に関係ある件の殆どはこう言ったやり取りで手を組んでいる事がある。

 ヒーローと忍が協力関係を築き事件を臨む事が出来るのも、裏で警察の手続きや上層部の合意があるからである。

 少しでも害意が有れば、即対応する為にも必要不可欠な仕事でもある。

 今回上層部達が会議を開くのは尤も他ではない。

 

「昨夜の神ノ区半壊事件。特殊捜査官の塚内刑事を始め、警察の捜査によりますと捕らえた脳無は全てこれまでと同様に人間的な反応がなく、新たな情報は得られそうにありません。

 また元カグラである小百合が討伐したであろう妖魔の死骸を調べた結果、連合が所属している抜忍達が殺害した忍の血液だと判明。

 

 保管されていたという倉庫は消しとばされており、彼らの製造方法についつも追って調査を進めるしかありません」

 

 今回の神ノ区半壊を始めとし、オールマイトの引退と世間に明らかにされた忍の存在。

 

「そもそもよ、その倉庫というのもフェイクじゃねえのか?生体実験なぞ行える環境じゃねえし場も安易過ぎる。

 バーからも連中の個人情報は上がってねえんだろ?」

 

「第一、妖魔を創り上げてた本人はオール・フォー・ワンと名乗る巨悪だけで間違い無いのか?

 超常黎明期の頃、ティオ・ディアボリクスという研究者が妖魔の製造、及び実験研究をしていたと聞いた事があるが……」

 

「現在調査中です」

 

 連合に関する事件は靄のように有耶無耶にされ、探ろうにもまるで壁に阻まれてるかのように、一切情報に触れる事が出来ない。

 

「大元は捕らえたものの、死柄木弔を始めとした実行犯らは丸々捕り逃した……

 とびきり甘く採点したとして、痛み分けといったところか…」

 

「あろうことか、よりによって忍の存在が世間に晒された今、弁解の余地も誤魔化すことも出来なくなってしまった…」

 

「馬鹿野郎。伝説の忍に平和の象徴と引き換えだぞ。

 オールマイトの弱体化が世間に晒され、忍という社会に暗躍する日陰者も暴かれた…

 もう今までの絶対に折れない平和の象徴がいないと同時に、お前ら忍社会を取り締まる上層部達も、無闇な争いや私利私欲で忍を派遣する事が出来なくなった訳だ」

 

 上層部の半分は忍をカグラへと養成するべく、必要上な任務を与え成長を促せた。もう半分は私利私欲による争い、また国家機密や企業情報を探るなどの目的を始め、暗殺から諜報活動まで様々な任務を与えていた。

 しかし今はどうだろうか?

 

「我々が最善を尽くすのは忍へのイメージを改良、及び新たな平和の象徴を探さなければならない…オールマイトという穴を埋めるべく手を打たなければならねぇ…」

 

「たった一人にもたれかかったツケだァな…」

 

 オールマイトの背中を託し、甘えた結果。忍を駒として扱って来た上層部達の帰結。

 自業自得の反面、反省部分も含めこれから未来へ向き合うために改善しなければならない事が山ほどだ。

 

「超人社会、馬鹿も集まりゃここまで出来ると…全員が知った。

 俺は恐れ入るよ――最初期のプロファイリングじゃ子どもの癇癪とまで言われていた主犯格――死柄木弔の犯行計画は、数を重ねる毎に回りくどく、世間への影響を見据えたものになっている。

 しかもだ、抜忍・漆月と接触し関わりを持った事で、忍に対する社会も大きな影響を及ぼし、敵連合なんちう生温い犯罪集団へと変えやがった。

 忍をも殺害する敵や、漆月のように連合の悪意に魅かれた忍も集まり、戦力を急激に増やす術…

 

 死柄木は考え成長してる。そしてオールマイトが崩れ以前にも増して抑圧が無くなろうとしてる状況。連合は失敗する度に力を付けていく。これから連合の悪意に影響を受け、社会を反乱する忍も増えるはずだ…そしてまた連合へと赴く可能性も…

 

 こうも都合よく勢力拡大の余地が残っていくものかね?」

 

 そして上層部達は知らない。

 漆月の本名が天咲魅影であり、上層部達が過去に死んだと見なした人物と一致してる事など。

 そして、漆月も死柄木弔と供に成長し、以前とは違う彼女になったこと。

 もう幼稚で摩訶不思議な性格をした彼女ではない事を。

 

 本当の自分を取り戻したことなど、誰も知らない。

 

「手の内だと?結果論じゃないか?ネガティヴに考えすぎでは?」

 

「わからん…ただ確実に言えるのは、奴等は必ず捕らえなきゃならんことと、忍はこれからどう世の中を進めていくかだ…

 

 我々警察も〝敵受け取り係〟などと言われてる場合じゃあない、改革が必要だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京本部とはかけ離れた場所――とある医療病院。

 ここへ来たのは何度目だろうか?覚えてるのは腹に穴を開けられ手術を施してからか、もう五、六年前の話になる。

 真っ白な天井、見慣れない床に医療ベッド。そして太陽の日差しが差し込む窓に、緑色のカーテン。

 患者服を着たオールマイトは、包帯で巻かれてる折れた腕を、巨悪を討ち取った勲章として、ヒーロー活動最後として、戒めな目で見ていた。

 

「私の中にあった残火は消え、平和の象徴は死にました」

 

 殆どが包帯や湿布で貼られており、見るからに痛々しそうな、元平和の象徴オールマイトは、窶れ細った姿でそう呟いた。

 

「しかし、私にはまだやらねばならぬ事があります…」

 

 しかし英雄、未だに死なずと瞳には強い信念を揺るがせていた。

 

「死柄木弔が志村の孫で…陽花の妹が漆月…天咲魅影なんだな?」

 

 病室には見舞いとして、グラントリノ、小百合、塚内刑事が来てくれた。

 因みに半蔵は昨夜の深夜に手術を施した結果、なんとか無事に成功したものの、二度と復帰することは叶わないそうで、忍として立つことすら出来ないそうだ。下手に動けば命に関わるとさえ病院の先生に言われてる。

 黒影の時と同じく、床に伏せ通常に体を動かせれるまで回復を待つしかないようだ。

 

「まさかあの子の妹がねぇ……。嫌なもんじゃなあ、オール・フォー・ワン。

 あの大馬鹿者にここまで転がされてたとは思わなんだ。思わず血圧が上がってしまうのぅ…」

 

 小百合は深いため息を吐き、暗い表情を浮かばせる。

 それはまるで、身内の訃報を聞かされたかのように辛く、何処か物悲しいような瞳を震わせていた。

 

「それは奴の発言だろ?根拠が薄いんじゃないか?それに、小百合さんと半蔵さんも含めて、先ずその先代の方の家族とは交流が無かったのか?」

 

 塚内は辛そうな表情を浮かべる三人を宥めるように口を開く。

 彼の言葉にグラントリノは「ああ…」と首を小さく縦に振り頷く。

 

 志村は夫を殺されており、我が子をヒーロー世界から遠ざけるべく里子に出しており、グラントリノ、俊典、半蔵、小百合、陽花には『私にもしもの事があっても、あの子と関わらないで欲しい…』と言っていた。

 それは、孫がヒーローや敵とは関係なく、平穏に幸せに暮らして生きて欲しいと願った、彼女なりの配慮である。

 

「成る程…漆月の方は?」

 

「赤ん坊の時に一度だけ、それ以来は一度も逢ってない。陽花の父親はオール・フォー・ワンに殺され、彼女とアイツの因縁が芽生えたのはそこからだ。

 母親は漆月を出産した後、命を落とした…」

 

 志村奈菜と関わりのある弟子、忍の身柄である陽花を警戒してなのか、はたまたオール・フォー・ワン自身による嫌がらせなのか、父親が任務の途中でヤツと遭遇し殺されたそうだ。

 一部では妖魔の材料として殺されたのでは?という微かな可能性の線も存在する。

 

「二人の約束が逆に…やるせないな……」

 

 塚内は心を痛めたかのような、少し苦痛混じりの表情を浮かばせ、視線を落とす。

 

「けど待てよ…それなら漆月があの魅影なら…

 

 なぜ()()が生えてない?」

 

「ツノ?」

 

 グラントリノの言葉に、そうだ!と意見が一致した小百合も目を開く。

 近くにいる塚内は陽花の妹のことを一切知らないので、解らない。

 

「塚内には話してなかったな…漆月が上層部達に狙われてる理由」

 

「?全忍を敵に回したからじゃないのか?」

 

「ああ、それはあくまで成長した漆月の話だ…幼少期の頃、アイツは呪われた子どもと謳われ、厄病扱いされていた。それが、あの忌々しいツノが原因でなぁ…」

 

 天咲魅影が幼少期だった頃から、上層部達は彼女を目に付け処分しようとしていた。

 その理由は少女の忌々しいツノにあった。嘗て大昔、厄災を齎す厄災神として謳われた神威がこの世に存在していたらしい。

 それは数多くの命を奪い去り、破滅へと導く呪われた化け物として世に名を轟かせ、言い伝えられて来た。

 唯一、抵抗出来たのは妖魔を滅せし転生の珠――()()という神により阻止する事ができ、厄災を振り払ったとか。

 それを忍の有様として、魔を滅する者をカグラと呼び、災厄を齎す者をカムイと名付けたそうだ。

 それが、カグラとカムイの名の由来――

 

「幾ら何でも、それは上層部の勘違いじゃないのか?昔の話…は良く分からんが、超人社会、ツノの生えてる人間なんていくらでも」

 

「じゃろうな。何も上層部の人間だって何も考えなしに漆月を処分しようなんて思っとらん」

 

 災厄を齎す神は、闇を好む化け物だ。影を蝕み、悪意を好み、戦場を血の海に変え妖魔も忍も見境なく殺し合わせる混沌を司る厄病神。

 その神威は、漆黒に染まる闇の粒子…靄を纏わせていた。

 その闇は触れた者に凡ゆる苦痛を、死を錯覚させる地獄の苦しみを味わう事となる。

 

 

「まさか……」

 

「上層部は漆月が厄災を齎す人間と…いや、化け物と見なし、処分として決した」

 

 

 漆月が多くの忍から命を狙われてた理由がコレだ。

 上層部の推測は間違う事なく、彼女は幼い頃体から溢れる闇の瘴気を身に纏い、触れた者が症状にかかり苦しんだと言うケースが見るようになった。

 それは正に、大昔に語り告げられた厄災神と同じ現象――漆月は厄災神の生まれ変わりではないか?という声が上がった。

 だがそんなの当の本人は知るはずがなく、魅影だった頃の彼女は純粋無垢な性格で、何かに対しても優しく無鬼畜無害な、何処にでもいそうな普通の幼い少女と変わらなかった。

 だから忍に命を狙われた彼女にとってはさぞ辛い事だっただろう。

 何も訳分からず自分を殺しに掛かる人間達、想像も付かない苦しみ、悲しみ、絶望、孤独、それらが彼女を追い込ませていた。

 

「ただ、前までは違ったんじゃぞ?たった一つ、上層部を説得する事が出来た者がいた。それが姉の陽花じゃ」

 

 実力や功績のある彼女は、たった一人で上層部と掛け合ったそうだ。

 どうか、あの子には手を出さないで欲しい…と。

 当初は彼女の言葉に耳を傾ける者は少なかったが、彼女の力なら厄災を止めれる事が証明され、望み通り陽花の意見を呑み込み一切手を出さなかった。

 しかし、現実とは非常なり――

 

「ただソレはあくまで姉が生きてる内だけ……陽花がオール・フォー・ワンに殺された途端、糸が切れたかのように魅影の処罰任務が下された。儂等が駆けつけに来た時はもう既に遅かった……あの子が逃亡していたんじゃよ」

 

 何人かの上層部はどうしても天咲魅影が邪魔でしか無く、結果上層部の人間が言い合った中だと、陽花が生きてる内だけ。

 よくよく考えてみれば、彼女の厄災を止めれるのは姉の陽花だけ。

 なら、陽花が亡くなれば誰も止める術が無い為、処罰を下すしかない。

 それが、上の答えだった。

 ただ、オールマイトと半蔵だけが大きな反対を述べた。

 それでも、平和の象徴とは言えど将来性の無い戯言と見なし、耳を傾けることは無かった。

 半蔵は幾ら伝説の忍であろうとも、元が忍の身であるが故でも、上層部の意見に反すれば半蔵の血筋も処罰すると脅された。

 この世に驚愕な害を及ぼすのであれば妖魔と変わらない。魅影を庇うのであれば、半蔵も世に災害を齎す人間とみなされ刃を剥かれる事になる。

 

「……そんな事が………」

 

「何件かヤツの生存確認が見れたものの、暫く時が流れ去ってから、魅影の消息を見た者は誰一人いなくなり、息を引き取ったと裏で告知された」

 

 しかし、それをまさかオール・フォー・ワンが引き取ったとは誰も思わなかった。

 確かにヤツなら考えそうな行動だ。それと同時に陽花の全てを奪い、あろうことか大半は彼女への嫌がらせと来た。

 オールマイトもその真実に本当に心が折れかけてしまった。

 

「あの子は化け物じゃ無い!人間です!!飛鳥くんや雪泉くんと何も変わらない、善良で優しさを持つ一人の女の子なんです!

 私はお師匠と陽花くんの約束を守るべく、死柄木と漆月を見つけなければ……二人を見つけて私は――……」

 

「ダメだ俊典、見つけてどうする?お前はもうあの二人を敵として見れてない、必ず迷う。

 素性がどうあれ犯罪者だ」

 

「グラントリノの言う通りさね。

 良いか俊典、情とは捨てるもんじゃ。何度も言わせるな。

 儂がカグラを辞めた理由も聞いたじゃろ?お主には紛れも無く断ち切ることの出来ない迷いが生まれておる。そんな様子であの二人に遭ったとしても、殺されるのが一番のオチじゃ。例え忍じゃない主でも、今回の件に関して儂は厳しいからね」

 

 オールマイトの言葉に、グラントリノと小百合は断固拒否と言わんばかりに言葉を遮る。

 二人の正論にぐぅの音を言えないオールマイトは、冷や汗を流し、唾を飲み込む。

 

「死柄木と漆月の捜査は、俺と塚内、小百合で行なっていく」

 

「ああ、それと巫神楽三姉妹も同行させて貰うよ。あの漆月相手となると、かなり骨が折れる」

 

「だからお前は、雄英に残ってすべき事を全うしろ。平和の象徴が死んだとしても、オールマイトは生きてるんだから。

 これから先はもっと忙しくなるだろうに、無茶をしろとは言わんが…程々にな」

 

 そうだ、自分にはまだやるべき事がある。

 その為には雄英で先生としての役を担い、教育を施す。

 そして緑谷出久という後継者を、次の世代を育む義務がある。

 他にもまだやらねばならぬ事が、教える事が沢山ある。

 こんな体になっても、自分にはやらねばならぬ事がまだあるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 打って場所は変わり、神ノ区を後に無事何とか轟と八百万と遭遇した緑谷達は、警察に爆豪と雲雀を送り届けた。

 当の二人は意外にも冷静で、雲雀はともかく爆豪は無口のままどこか吹っ切れてないような面で大人しく警察の指示に従い、安全の身柄確保及び、安否の確認を取るべく数時間警察に付き添えられた。

 

 一方、緑谷達は半日以上の時間をかけて、家路に辿り着いた。

 緑谷達雄英生は帰宅、一方忍学生である飛鳥、柳生、雪泉の三名は寮に戻る事に。

 飛鳥は何処か浮かない顔を立たせていた。それは無理もないだろう。祖父の半蔵が身を呈してオールマイトを庇い、腹に穴を開けられ治療を受けてると聞く。

 もし手術が上手く成功していなければ、確実に死んでいたであろう。

 それでも、半蔵が心配なのには変わりはないし、辛い思いをしたのも事実なのだから。

 

「では!」

「皆んな有難うな!」

「………」

「それじゃあまた学校で…」

「私は月閃所属ゆえ、夜桜さん達とは違いますが…いつかまた逢いましょう」

「うん、雪泉ちゃん有難う」

「お三方!真っ直ぐ帰ってくださいね?」

「本当に有難う皆んな」

 

 各々の生徒達は、道は違えど無事に家に帰ることが出来た。

 今思えばあんな事が起きた後、自分たちが生きてる事其の物が不思議でならない。

 無茶をしたとはいえど、生きてるなんて心地もあんまりしないし、何時もと何も変わらない日常を過ごしてる気分でもあった。

 だからなのか、あの事件を目の当たりにしてオールマイトが引退なんて事実が受け入れ難い。

 

 

 それでも、あの場で駆けつけなければどうなっていたのか…と考えると、自分達の行いが間違ったとも言い切れない。

 第三者の救い手で戦場が変わった事実に変わりはないし、オールマイトも押されてた。

 きっと、爆豪も雲雀も無事では済まなかっただろう。

 自分達は無茶こそしたが、その分後悔のないベストを尽くす事が出来た。

 

「退院……多分、斑鳩先輩や葛姉は知ってるよね……この事」

 

 隠密活動。

 病院で母と連絡を終え、切島から話を聞いた時、迷わず頷いた。

 しかし、斑鳩や葛城にはその事は伝えてない。

 

 

 そういえば、柳生ちゃんはどうしたんだろう?

 あの流れで斑鳩先輩や葛姉と一緒に病室から出てったのを見たのだが…

 とここで不意に疑問を浮かばせる飛鳥は、帰りたくないという僅かながらの気持ちを胸に抱き、帰宅路をぼんやり眺めながらトボトボと歩いていく。

 

 帰る場所は二択だ。

 一つ、半蔵学院の忍学科が住まう寮だ。

 本校舎とは少しかけ離れてるし、ここからの距離的に考えるとまだ30分位の道のりがある。

 今帰れば「飛鳥さん、何処行ってたんですか?」と斑鳩先輩にしつこく聞かれそうな予感がする。

 葛姉に限ってはセクハラ地獄で質問攻めされそうだ。

 葛姉の場合は物理的に嫌なのだが、斑鳩の場合は精神的に辛い。況してや爆豪と雲雀の救助へ当たったことが知れれば、確実に怒られる。

 自分たちの行いが間違ってたと皆に言われても、自分たちは後悔してないし、間違ったとは思えない。しかし頑固たる斑鳩さんに通用するだろうか?

 

 ……どちらにしても余り気乗りがしない。

 二つ、実家へ帰宅するか。

 祖父の家はかなり古く、テレビを始めとした電子製品の無い家だし、先ずじっちゃんが居ない以上帰っても余り意味がないだろう。因みにばっちゃんは家にはいない。自分が物心が付いた時から家出したからだ。

 

「お母さん…」

 

 となると、我が家だろうか?

 いいや、電話の後に面向き合うのは抵抗感があるので、余り寄りたくはない。

 今思えば半蔵学院に入学してから、最近親の顔を見ないなと物心が付いた。

 一流の忍を目指す為に修行を励むのは勿論、寮制なので親の身を離れるのは当然。

 しかし、忍になる為仕方ないと片付けてたが、よくよく考えれば親が子の身を心配するのは親として当然だし、況してや忍になるのに反対した母親なら尚のこと。

 

「う〜ん……どっちにしても怒られちゃうよね?皆んなはどうしたんだろ?」

 

 柳生ちゃんは実家に帰るって言ってたし(体の傷の問題で安静にする為)、雪泉ちゃんは月閃女学館に戻ると言っていたし、どちらにしろ自分も腹を括って半蔵学院に戻るしかない。実家に行けば喧嘩になってしまうし、何よりそんな気分ではない。

 

「じっちゃんの見舞い……は、ダメかな?」

 

 ふとじっちゃんのことが頭に浮かび、ポツリと声が漏れた。

 怪我を負った半蔵じっちゃんの容態も気になるし、孫の自分なら難なく通れるだろうと思ったが

 

「……あの事件の後に、顔を合わせるのも…何となく気不味いなぁ……」

 

 それなら、雪泉ちゃんや柳生ちゃん、他の皆んなでお見舞いに行った方が良い。

 そもそもじっちゃんは、飛鳥は目を覚まさない重傷を負ってるとしか知られていない。

 

「半蔵学院に戻ろう……」

 

 独り言を呟きながら、気分転換にと少し遠回りする。

 ちょっとした散歩だ。急いで帰る必要もないし、息抜きがてらに回るだけだ。

 そうして飛鳥は、海浜公園に辿り着く。

 ここは砂浜と地平線の彼方に広がる蒼い海が美しい、デートスポットとしてもかなりの人気を誇る場所だ。

 半年前まではゴミ広場として使われなかった場所だったが、誰かが綺麗さっぱりと片付けてくれたらしい。

 世の中ヒーローですらしない行事を代わりにやってくれる物好きなボランティアも居たものだなと思う。

 しかし今は昨夜の事件があってか、余り外に出る人もいなければ、ビーチに足を運ぶ者など自分以外誰も存在しない。

 

 ある一人を除いて――

 

「綺麗な夕日だなぁ……」

 

 蜜柑色に染まる夕日が沈んで行くのを見て、思わず見惚れてしまう。

 こうして外の景色を眺めるのも、心が落ち着いて、リラックスする時には良いかもしれない。

 ただ波打つ音と、潮風の匂いが、良い雰囲気だ。これならデートスポットとして人気なのも頷けるし、夏になるとここを活用する人が続出するだろう。

 

 なんて思いながら、辺りを見回すと

 

「アレ?あの人って……」

 

 飛鳥は自分の眼を疑う。

 砂浜で軽いジョギングを行なってるのか、痩せ細った身体を動かしてる、何処か見覚えのある姿。

 いや、見覚えなんてものじゃない。今日の朝、街で流れたテレビ映像でも観たし、新聞にさえ載ってる姿。

 相手は此方の存在に気付いてないが間違いない――

 

 

「オールマイト!」

 

 飛鳥は思いっきり大きな声をかける。

 ビクッと身体を震わせ反応する八木俊典もとい、オールマイトは飛鳥に視線を移す。

 ガリガリに痩せ細った身体、目は窪み、包帯で全身を巻かれてるその姿は、ミイラに近い印象を与えていた。

 

「飛鳥くんが、来た!!」

 

 口からドバッ!とケチャップのように赤い血が吹き出す。

 その光景に彼女はうわぁ…と思うものの、緑谷と本人は慣れてるので突っ込んだりはしなかった。

 飛鳥は砂浜の階段を下り、オールマイトに近付いて行く。

 

「あんまり大きな声で私の名前を呼ばないでくれよ?世間にはもうこの姿を告知してるんだし、色々と面倒事になってしまう…」

 

「あっ、ご…御免なさい……」

 

 世間にこの姿を曝け出してしまった今、トゥルーフォームの状態でも時折人に声をかけられる時がある。

 サイン責めや握手だけならまだ可愛いものの、ヒーロー活動の生活や事情まで聞かれてしまう始末で、とてもじゃないが話し辛い故に精神的にキツイ。

 

「あっ、そうそう飛鳥くん丁度良かった」

 

「ん?なんですか?」

 

「テキサス〜……スマッシュ!」

 

「!?」

 

 コツン…

 弱々しい拳を握り締め、オールマイトは力弱い拳で飛鳥の頭にコツンと拳を当てる。

 然程痛くない力加減でも、彼の突然たる行動に驚嘆の声を上げるのは無理はないだろう。

 飛鳥は目をまん丸にしたまま、オールマイトの拳を頭で食らったまま呆然としている。

 

「お、オールマイト?」

「なんで……」

「?」

「何で君らが神ノ区(アソコ)に居たんだ!!」

 

 突然、葛藤し出すオールマイトに、飛鳥は黙り込んだまま平然と、真っ直ぐとした瞳でオールマイトを見つめる。

 オールマイトが海浜公園にいたのは、連絡した緑谷と待ち合わせていた為。

 しかしどれだけ連絡をしても緑谷から返信が来ないので、こうして退屈凌ぎにジョギングを行なっていたのだが、ここで予想外だった事に彼女が来たので、折角と彼女にもここで叱ろうと、拳を振るった。

 しかしこんな美少女に強く殴る気もなければ、先ず力も無いのでどの道殴れない。

 

「全て無に帰るところだったんだぞ……あと少しで君らは!緑谷少年や飛鳥くん、雪泉くんも殺されてたんだぞ!あの男に!!」

 

 その気になれば、オール・フォー・ワンだって直ぐ様、全員殺すことが出来た。

 ただ、偶々運が良かっただけ。

 偶々物事が上手く行っただけ。

 偶々殺されなかっただけ。

 

 もし、少しでも運が悪ければ確実に殺されてた事には間違いないだろう。

 

 

「一体誰に似たんだか君は……本当に今でも思い出すよ…!」

 

 

 天咲光芭――忍名・陽花

 彼女の優しさと無茶っぷりは、飛鳥に負けず劣らずで、よく似ている。

 オール・フォー・ワン自身も、飛鳥は陽花と似ていると言っていた。

 だからもし半蔵の孫である彼女が、陽花に似ても似つかない彼女が殺されて仕舞えば、それこそ立ち直れない。

 また、最愛の彼女が殺された気がしてならないほどに。

 

「飛鳥くん私ね、知っての通りもう体を動かせる立場じゃなくなった…ヒーロー活動も出来ないし、片方の腕はもう使えないし神経が殆ど無い。ワン・フォー・オールの残火も完全に消えてしまい、二度とヒーロー活動に復帰する事さえ叶わなくなったよ私は」

 

 事実上の引退、マッスルフォームすらろくに維持できない衰えた体は、二度とヒーロー社会に羽ばたくことが叶わないことを証明していた。

 オールマイトに対する批判の声は無く、これまで無理を通して市民を守って来た彼の勇姿は、世代へと永遠に語られ続くだろう。

 

「緑谷少年は無茶する度に傷を負うし、君は忍学生だというのに、無茶な危険を冒すし…」

 

 忍学生でも、任務となれば無茶や無理を通す時はある。

 それが忍として活躍するのであれば、仕方ないこともあるだろう。危険を冒してまで何かを成し遂げるべき目標があるのなら、それが忍としての運命なら、通すべきなんだろう。

 しかし、今回の件は幾ら善意で働いたとしても、叱らなければならない。

 

「だから――君達が無事で本当によかった」

 

 すると、オールマイトは飛鳥の頭の上に掌を乗せる。

 

「えっ?」

 

「あんな危機的な状況で、君たちが無事でいられた事が何よりも嬉しかった。

 怪我もなくて本当に良かったよ」

 

 すると、オールマイトは痩せ細った身体で、彼女を抱きしめた。

 陽花と面影が重なってる飛鳥を、まるで亡くなった盟友と再会したかのように。

 オールマイトの頬に一筋の涙が滴る。

 

「もう、これ以上大切なものは奪われたく無いんだ……だから、君らが生きててくれて良かった……」

 

 嘗て悪の象徴は陽花の全てを奪い去り、あろうことか師匠の孫である志村天狐を、陽花の妹である魅影を、奪ったのだ。

 だから、もうこれ以上自分の大切な存在を奪われて欲しくない。

 だから嬉しかった。

 誰も失わず、守り通し、彼女達は危険に身を冒してでも無事に成し遂げることが出来たのが。

 小百合が言ってたように、先生としてまだ甘い部分があるだろう。

 それでもこれを喜ばずにはいられない。

 

「オール……マイト」

 

 飛鳥は弱々しい声で、喉を振り絞るように声を出す。

 

 

「ワン・フォー・オール…平和の象徴としての次の世代は緑谷少年だ……けどね、君らがもし、忍を目指すのなら…カグラを超える気で臨んでほしいと思ってる」

 

 私の体では、戦うことも、災害救助もろくにままならない。

 しかし、先生として教えること、伝えることは出来る。

 自分が生きてるのなら、この命を違うことへ使うことだって出来る。

 

 

「私は雄英の先生として、そして君たち次世代へ託される忍達の先生になりたい」

 

 

 ヒーローとして復帰することが出来なくなっても、次世代へと受け継がれる子達を強く、教育する事は出来る。

 もう、オール・フォー・ワンのように二度と大切な全てを奪われない為にも、最善の手を尽くす。

 嘗て、志村菜奈が私にそうしたように、陽花くんが次世代の忍達に想いを託そうとしたように、今度は私が師匠と親友の為に動く。

 私の命は、そのためにあるんだ。

 

 

「だから、この先頑張ろうな!!――カグラになるのは、君たちだ」

 

 

 飛鳥の眼には、目一杯の涙が溜まっていた。

 じっちゃんの時といいオールマイトと言い…なんで泣かされるんだろう。

 なんで、私たちの為にここまで必死になってくれるんだろう…なんで?

 

「なんで、オールマイトは……私たちの為に……そこまでして?」

 

「私が平和の象徴としてだけでなく、亡き親友の分まで、生きて頑張ろうって思ったんだ。あの子がやり残したことを、私が全うする為、そして、私自身の余計なお節介さ――」

 

 余計なお節介は、ヒーローの本質なのだから。

 

 

「あ……ああ…………あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁあああ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!」

 

 

 彼の優しさに、飛鳥は身を包まれながら腕の中で泣いた。

 緑谷のように、オールマイトの事に関して詳しくはない。

 しかし、オールマイトはこんな自分たちに命を懸けてまでも育て、守ろうとしてくれる。

 それが嬉しくて、でもオールマイトが引退してしまって、色んな感情がごっちゃ混ぜになる。

 

「君もまた、私の大切な生徒だ。だから、先生が生徒のために励み頑張るのも、当然なんだ」

 

 カグラになるのは、何も一人だけじゃない。

 忍の数だけ、カグラになれる可能性があるのだから。

 

 

 オール・フォー・ワン。

 お前のシナリオはきっとこうなんだろう?死柄木弔は悪の象徴として、漆月はカムイとして想いを次世代へと後継したんだろう?

 もう、これ以上お前の好き勝手にはさせない。私がソレを赦さない。

 だから、ヒーローに戻れなくても、それでもお前の思惑通りにはさせやしない。

 

 

 こうして、オールマイトによる平和の象徴としての時代は終幕し、海浜公園に渡る静かな海風の音だけが、漂っていた。

 

 

 

 

 

 




師匠はヒーローを目指すオールマイトと、忍を目指す陽花を弟子として育て上げた。
オールマイト視点からすれば、弟子は緑谷出久、飛鳥は勿論弟子のつもりで精一杯励むつもりですが、彼女だけを特別扱いするつもりはないので、本当の弟子と言われると首を縦にして頷けないですね。
まあでもオールマイトがなぜ、飛鳥を弟子のように接するのかと言えば、亡き親友の陽花と面影が重なったから。が一番の理由ですかね。
陽花がどんな人物像だったか、閃乱カグラリメイク版の雪泉や雅緋の過去のエピソードがあったように、陽花の過去編もやっていきたいですね。
勿論、意外な事に両姫の過去編も考えてあるので楽しみにして頂ければ幸い。

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