一週間暑い日が長く続きますので、熱中症には気をつけましょう。因みに作者はクーラー病にかかろうと大丈夫です。適応しますから。
二次試験を終えた受験者達全員は、月光と閃光の言われた指示に従い会場へと足を運び、試験の合格発表を目に通す。
採点方式はFUCのメンバーとヒーロー公安委員会(+月光、閃光の特別審査員含め)の二重減点方式で拝見し、個々の数値を見出していた。
つまり…早い話、危機的状況の中、どれだけ間違いのない行動を取れたのかを審査する形式なのである。因みに不合格ラインは50点に達した時点で落ちるらしい。
受かってる受験者は忍学生とヒーロー学生隔てる事なく同時に五十音順に並べてあるので、こうして気を配ってくれるのは有難い。
受かったか、受かってないか…の雑談流れた空気が辺りを支配する中、結果は――
半蔵学院
飛鳥、69点
柳生、84点
雲雀、63点
この通り、半蔵学院のメンバーは何ら問題なかったようで、難なく合格突破。
「やったーー!合格したー!」
「当然だ……他の学校とは違い、雄英側と手を組んでたことがオレ達の救いでもあるな」
「なんとか合格できたね皆んな!」
また、雄英側も飛鳥達と同じく殆どの生徒も合格に達しており、危なかった者もいれば当然…
「ふざ……けんなよ……!!」
試験に落ち、不合格点のラインに足を踏み入れた者も存在する。
爆豪勝己。
成績や実績、彼なりの才能センスを鑑みるにヒーローとしての実力は限りなく本物に近い。下手なプロヒーローよりも確実にレベルは上だろう。しかし其れはあくまで実績による結果論でしかなく、役割やヒーローらしい振る舞い、立場、其れ等の点は性格によってほぼ減点を食らってるので、爆豪らしいと言えばそうだし、脱落という言葉だけを見てみるとらしくなさもある。何とも歯痒い結果だろう。当の本人は奥歯を噛み締め苛立つ眼で何度も自分の名前を探している。
五十音順で並べられてる名前に、爆という文字すらも無いのにも関わらずだ。
「………」
そして実はもう一人、脱落者は存在する。
冷たい影に浸るような、無情の表情を映し出す轟焦凍の顔色は変わらなかった。
其れも当然だ。重傷者に「自分で助かれや」なんて批判的な言葉を浴びせ、救助らしい行動も見せない爆豪とは違い、やるべき時に私情を挟み真堂や伊吹に迷惑を掛けてしまう始末。とてもではないが、危機的な状況で喧嘩を起こし挽回しようと、試験に受かるほど世の中甘くはない。
「………」
「ヒエラルキーどんまい!」
「峰田くん、ここは空気を読もう」
横から背の小さな煩悩の塊が何か挑発じみた声を掛けて来たものの、特に気にする素振りを見せない轟は、貰った資料に目を通し溜息を吐く。
この資料は個々人の試験に対応するデータが載っており、合格点の上に不十分な点も存在するため、何が減点で何が間違えたのか、細かく書かれてるので有難いし、大勢の受験者の中、ここまで細かく詳細を記してくれるのは素直に凄いと思う。流石はヒーロー公安委員会。ちなみに忍学生は全て、月光と閃光が目を通し、結果論や注意書きも添えてあるので、あの二人も中々に素晴らしい。
「よ、よ、夜嵐…やっぱ無かった…」
「………」
轟が不合格なら、残りの二人も同じだろう。
夜嵐イナサ、千歳も合格至らず、不合格点に陥り浮かない顔を浮かべる。
轟焦凍だけが悪いわけではない、当然の帰結。
解っていた、薄々…結果は目に見えていた。
しかし、こうも現実を突き付けられると、やはり辛いことには変わりはない。
「千歳以外、皆んな合格か…」
一方、秘立蛇女子学園選抜補欠メンバーは千歳を除き全員合格。凛とした美しい声を発する総司は、自分の点数を見ながら舌打ちをする。
「はうぅん、危なかったです〜。私51点です、他の皆んなも見せて下さ〜い!」
「わ、私は71点…初動から至らぬ点と、気が動揺し挙動不審な動きが見受けられるため、減点が…」
「なぬ!?総司90点じゃと!?何故そんな不満がってるのじゃ!?!」
「私は常に完璧主義者だ、100点というベストな点が出せないようではな…90点などと言う半端な点を貰おうと、頂点に立つこと出来ず喜べるか。寧ろ恥晒しまである」
だが内心実は喜んでたりもする総司は、表面では常に自分が上位であり完璧主義者を貫き通してるだけで、根は真面目で優しい忍なのだ。
これも、ほぼ誰にも見せずに自主訓練を通したお陰でもある。
「千歳さん…元気、出しましょう?」
「………」
隣で優しく声をかけてくれる芭蕉にすら振り向かない千歳は、過去と今の記憶や感情、何よりも芭蕉の先ほどの言葉に心揺らぐ彼女は、キュッと制服のスカートの裾を握る。
こうなったのは、自分のせいだ――私は…
「………」
そんな千歳を横目で、冷静に見つめる総司は、暫くして間を空け声をかける。
「千歳、ちょっとこっち来い」
「えっ?あっ、ちょっ!腕を引っ張らないで下さい!」
「お前たちはここにいろ、筆頭の待機命令だ。なに、直ぐに終わる」
引っ張られるまま、為すがままに総司に連れてかれる千歳は、彼女の唐突たる行動に頭の中で混乱しながら、何されるのか予想付かず、人並みのような集団を潜り抜けていく。
彼女の手に多少の違和感を覚えながら、それでも掴んだ手を離さず、彼女に従うしか道はない。
一体何をしようと言うのか…
しかし、人混みの視界が晴れ、ある人物の集団を眼にした私は、総司さんが何をしたいのか、私に何をさせたいのか、直感で理解した。
「雄英の諸君たち、愉しむ会話の中失礼するぞ!」
彼女の声に呼応するように振り向く雄英の全員は、息を詰まらせ驚くような表情を引き釣り立てる。
其れもその筈、何せ突然声をかけたのは総司であり、今彼女に引っ張られてるのは、千歳なのだ。
盛り上がってた会話は一気に冷めるように、沈黙と化す。
「えっと、総司さんだっけ?どうしたんです…か?」
「ふむ、千歳が皆に言いたいことが有ってな、是非耳を傾けて欲しい。ホラ、言え」
「言えって、何余計な事を…」
「お前、本当はコイツらに言うべき言葉があるんじゃないか?轟に対してなら尚更だろ?折角私が謝罪するチャンスを与えたんだ。お前の言葉で、ハッキリと伝えろ」
どうやら彼女は既に見通していたらしい。
総司の正論に物言えぬ千歳は、渋々と承諾し、彼女より一歩前に出る。そして――
「すみませんでした……」
謝罪の言葉を述べるのと同時に、深々と頭を下げる千歳に、一同は眼を疑う。
先ほどの忌み嫌う反抗的な態度とは違い、正直困惑してしまうのは無理もなかろう。それこそ、まるで喉に何かが詰まったような感覚に、絶句してしまう。
「初対面の貴方達に、無礼な振る舞いをしてしまい、大変申し訳有りませんでした…其れに爆豪さんも、神野区の一件が有るにも関わらず批判的な言葉を浴びせてしまったこと、大変深くお詫び申し上げます……
何よりも轟さん…貴方に多大な迷惑をお掛けして、誠に申し訳ありませんでした……」
頭を上げず、声を震わせる彼女に、流石の轟も面食らう様子だ。爆豪は「ケッ…嫌味かよクソが」と愚痴をこぼすも、千歳は何も反応の意を示さず、頭を下げ続けている。
正直、自分たちに敵意を示していた彼女がここまでするとは思ってもおらず、反応に困っている。
女子達も浮かない顔立ちだ。
「急に喧嘩吹っかけて御免なさいだぁ??おいおいおい、そんな虫の良い話があったら誰だって――」
「あー、なぁ爆豪、もう良いんじゃねえか?」
「あ゛ぁ゛…?」
苛立ちの連鎖に続く爆豪に、静止の言葉を投げかけた人物は、意外な事や、上鳴電気。
普段チャラいイメージがあり、個性を使い続けるとアホ面を晒す彼も、今回に限っては珍しく真剣な顔立ちだ。
「えっと〜、ホラさ。あの千歳ちゃんがこーして俺らに来て謝りに来たんだから、其れで終わりで良いじゃんか。な?爆豪」
「急にしゃしゃり出んなアホ面!」
「だから何でこんな時に限ってまでアホ面呼ばわりされなきゃいけねーのよ!?そりゃあ不合格で腑に落ちねえのも解るし、クラス内の実技テスト赤点、ヤオモモの力添えあっての執筆試験で赤点ギリギリの俺が合格してたら、そりゃあアホ面って呼びたくなるのも無理ねーけどさ…」
「無意識にディスってんのかテメェおい」
「まーまー。んでもさ、千歳ちゃん…だっけ。
こうして態々俺らに謝りに来たって事は、多分轟と関係してるのかもしれねーけどさ、俺らのことも悪いことしたなって思って、頭下げに来たんだろ?なら、もう良いじゃん。俺はバカだけど、悪いことしてないって思ってるヤツが、他所の所まで来て頭下げるヤツは居ねえと思うの、普通に考えて」
「………」
上鳴はバカでアホ面などと呼ばれているが、チャラいだのナンパ野郎なんて悪質なレッテル(事実なので)を貼られてるが、何も根は悪いのでは無い。
千歳は、震えてた体を休め、頭を上げずとも上鳴の言葉に耳を傾ける。
「あーでも!ホラ、あの時一次試験のこと、覚えてる?アレはちょっとやり過ぎだろって言うか…作戦の内ってのは解るんだけど、あそこまで酷くする必要はなかったんじゃ無いかなってのはあるかな。
ぶっちゃけ俺らヒーロー目指してる学生だし、千歳ちゃんの価値基準や物事の融通も違うと思う……」
今思い返せば、酷い暴言に、脱落者をクズ呼ばわりする彼女に、神経を疑ったりもした。
幾ら悪忍でも…いや、悪忍だからこそ本当に自分たちと協力関係を結ぶ気は有るのかと、不審に思ったりもした。
しかし、そんな彼女だからこそ、自分たちに頭を下げに来たのには、何かしらの理由と本当に謝罪したいと言う良心的な意味も含んでいるのではないかと、理解するのにそこまで時間は掛からなかった。
非情な彼女を目の当たりにした上鳴だからこそ、言える言葉なのだ。
「だからさ、もー終わり!
折角千歳ちゃんは可愛いんだからさ、もっと穏やかに考えよーぜ!なっ?他の皆んなも、もう良いよな?」
意外性を感じる一同は、お互い隣同士の人と顔を見合わせ、ぎこちなく頷く素ぶりを見せる辺り、恐らくは納得したのだろう。轟は個人的な話があると思うので、まだ話は終わってないが、少なくとも爆豪は…と視線を送る。
上鳴や周りの生徒の送られる視線に鬱陶しさを感じる彼は、くしゃくしゃと髪を掻き毟り「勝手にしやがれクソが、俺はもう疲れた」と一言言い残すと集団から外れるように何処かへ向かっていく。あの様子だと、どうやら納得したようだ。
「千歳……」
轟は一歩前に足を踏み入れる。
彼女はまだ、頭を上げて居ない。
彼が反応するまで、ずっとこうしているのだろうか…
「私は……昔、貴方の父親に酷いことを言われ、エンデヴァーへの嫌悪を示していました。
誰もが聞けば、下らないような、失笑する話です……私の愚かな私情で、他人に、況してや初対面の轟焦凍さんに迷惑をかけてしまった…
血の繋がりという理由で、貴方を見るたびにエンデヴァーを思い出して…ずっと不愉快で嫌いでした……だけど、貴方を恨む理由にはならない…
親は親で、子は子…エンデヴァーがああだから、息子がそうな訳無いと言うのに、バカみたいに嫌厭し避けて、貴方を不愉快な想いにさせてしまった…そして、今を招いてしまった私に責任があります………本当に……御免なさい……」
なんて思考に浸っていると、彼女は口を開いた。
一言一言の言葉の重みに、余程の責任と罪悪感が生まれてるのだろう。そう察した轟は口を開こうとするも
「轟ィ!お取り込み中失礼ッ!!」
別の方角から、野太い大声が聞こえ反射的に反応する。
腹の底から湧き出る熱意篭ったこの声の主は、間違いなく夜嵐イナサだ。
また、試験に脱落し轟焦凍、千歳と同じく原因のうち一人。
「ゴメン!!!」
高らかな身長を折り畳むように、全身全霊で頭に地面をぶつけるイナサ。簡潔に言えば、謝罪。その二文字を体現してるような行動に、目を大きく見開く。
千歳に続いてイナサまで…どういう流れだと心の片隅に困惑が生まれる。
「幾ら俺が私怨混じりでぶつけたとは言え、合格逃したのは俺の心の狭さのせいだ!本当にゴメン!!」
己に強い責任と罪悪感を背負う彼は、熱血漢にして根はとても優しくて真面目だ。だからこそ、そんな彼の友好的な手を振り払った自分は尚更、あの時の言動を悔やんでしまう。
頭下げる二人の姿を前に轟も、無言で頭を下げる。
「良いよ二人とも、俺の方も悪い…。原因は俺にあって、責める立場じゃねえよ…
夜嵐の場合、お前が熱く意見をぶつけて来たから、思い出せたこともあるし、あの時の振る舞いも…正直悪かったって思ってる。先に謝るのは俺の方だよ、すまねえ…。
千歳の場合は、俺が思い出してないだけで何かしたんじゃねえかって思ったけど…俺が直接、お前を傷付けてないことを知れて良かったし、安心した。
俺の親父が、お前に何をしたのか、千歳の過去に親父と何が有ったのかは知らない…
でも、俺もアイツの血が通ってる以上、千歳や夜嵐含めて、向き合わなきゃいけないって、ケジメがついた」
エンデヴァーが気荒い性格なのも、性根が屑なのも、息子である自分が一番よく知っている。それこそ、血反吐を吐くように。
だからこそ、周りの視線をないがしろにするのでは無く、ヒーローとしての道を進むのならば、受け止めなければならない。
「だから、父の代わりになって謝罪させてくれ…二人とも、申し訳ねえ…俺の親父が原因でお前らに不快な想いを背負わせちまって…すまなかった」
とても父親を憎み否定してた当時の少年とは思えぬ彼の言葉に、二人は頭を上げる。
言葉で許されない事だと解っている。たった一つの些細な事が原因で、拍車が掛かり、人は狂う。
ほんの僅かな理由が原因で、人は善にも悪にも染まりやすい。人間の心は強く生き続け、時に脆く壊れ易い。
嘗てのイナサや千歳がそうだ。
エンデヴァーにとっては、小さな子どもの事情や尊敬の眼差しなど、邪魔以外の何でもない、得無しの所業だと認識してるだろう。しかし、ほんの些細な事柄で今を生むのなら、改善しなければならない。少なくとも、今の父親はどう思ってるかは不明だが…
「ふっ、話は済んだようだな…では、私たちもそろそろ戻ろう…行くぞ」
勝手に連れて来ては帰ろうなんて身勝手では?と文句の一つや二つ、普通なら言ってるだろうが、もし総司がこうして強引にまで引き連れて来なければ、きっと和解すること叶わなかっただろう。
少なくとも今回の件で理解し認識したことは、轟焦凍は、エンデヴァーにはならない、ということだ。
親が親なら子も子、という様に、轟焦凍はきっとエンデヴァーのような屑に成り下がってしまうのではないかと言う、不確かな想像を頭の中によぎらせていた。だが、そんな心配は無用だったようだ。
これで少しは気が楽になっただろう…しかし、だからと言って自分のこれまでの経緯による犯罪や薄汚れた手が消え去る事は断じて無い。
それでも私は幸せになる資格も、生きて良い資格だって無い。
結局、轟焦凍との関係性が改善しただけであって、所詮は消耗品。この価値観だけは、轟焦凍だろうと芭蕉だろうと、上鳴だろうと、誰に言われても決して変えられはしない。
そう易々と変わって仕舞えば、私の手で散り去った命を否定する事になる。其れを捨て去るほどに、私はまだ化け物になっていない。
私は、救われなくても良い道具だから…気に病む事は、ないのだ。
一度傷付き壊れかけた心は、幾星霜と時が過ぎ去ろうと、治る事は難しい。況してや、人殺しの自分なら尚のこと。
己の暗く深い感情に浸りながら、私は総司さんの後ろ姿をついて行く。
流れや結果はどうであれ、無事仮免試験は終了。
仮免許可証を得た自分たちは、ヒーローや忍と同等の権利を行使できる立場となり、敵との戦闘や事件・事故から救助など、上からの指示がなくとも自分たちの判断で動ける事になるらしく、それと同時に行動の一つ一つに大きな社会的責任が生じることにも繋がるので、意識して立場を振る舞うことを常日頃から心がけるようにしなければならない。忍側では善忍はまだしも、悪忍の場合は規制化が進む一方だ。
オールマイトというヒーローにとっても忍にとっても、欠かせない偉大たる存在が力尽きた今、次は自分たちが規範となり抑制できる存在にならねばならない。
今回取得したのはあくまで、仮のヒーロー活動認可資格免許、イメージでは半人前程度の扱いで、殆どが自己防衛の為に存在しているような物である。
目良さん曰く、不合格に陥った受験者もチャンスはまだあるそうで、三ヶ月の特別講習を開き、個別テストで結果が出せれば仮免許を発行するらしい。
理由としてはこの先の未来に向かう社会への対応や、理不尽を覆し抵抗する術、そしてより多くの質の高いヒーローと忍を育て上げ、社会を築き上げる為。少しでもオールマイトの欠けた穴を補う為にも、最善を尽くす所存だそうだ。
その内一次試験を乗り越えた200名を最優先に育て上げ、至らぬ点を修復し合格させるのが見込みだそうだ。
当然、轟焦凍、爆豪勝己、夜嵐イナサ、千歳にもまだまだチャンスは有るので、絶望的という訳でもない。
三ヶ月、学校の行事や授業で忙しさが一層増してしまうが、これさえ乗り切れば、ヒーローとしての一歩を踏み出すことが出来ると言う訳だ。
こうしてようやく、僕たちはまた一歩、目標へと近づいて行く!!
試験終了の帰り道。
仮免許を取得した生徒たちは、晴れやかな気持ちで嬉しそうに心踊ってる人間が見えるのは、数から察してごく僅かで、大半は受からなかった者も多く、浮かない顔立ちをしてる生徒たちが多いだろう。
しかし受験に合格しても浮かない顔立ちをしてる生徒は、確かに存在する。
「ふぅん、仮免試験の結果は5人中4人が合格したわけか…へぇ、ふぅ〜ん。そうかそうか、4人ね…つまり、一人試験に落ちた不合格者がいるという訳か…へぇ。
まあ、一つの試験会場に2100人もの中から200人に合格者が絞られる訳だしたな、合格も一筋縄でいかないだろうなぁ……うん、うんうん。
だかな、仮の免許試験であって本番ではないよな?幾ら合格率が低かろうとあんな低レベルな試験で不合格者が出てることに俺は軽い頭痛がするんだが…
まあ試験は試験だしな、一応受かった訳だが…お前は言ったよな?『私に死角など無い、全員必ず受かってみせるから要らぬ心配はするな』って言ってたよなぁ総司。俺はお前の言葉を一欠片も信じてはいなかったが、ここまで清々しく俺に嘘を吐く日が来るとは思ってもいなかったよ。
まあ何がともあれ、低レベルだろうと受かったことには変わりはない…そこまでしてお前が完璧主義者を貫き通したいのなら、そこまでして完璧という自惚れた名誉を大切に維持したいのなら、敢えて一言…
――褒めてやっても良いぞ、総司」
秘立蛇女子学園選抜補欠メンバー一同である。
彼女たちは現に、上から目線で見下ろす教官の説教を浴びている真っ最中なのである。伊吹は興奮のあまり息遣いが荒くなり、芭蕉や芦屋は耐え忍び、千歳は憤りを隠すように目を瞑り、総司は屈辱と恥に心を痛め唇を噛みしめる。
目の前にいる男の名は――小尾斗
半々羽織の和服に、背には蛇女の紋章を背負っているのが特徴。口元は包帯で覆い隠し、黒い眼はまるで爬虫類の蛇に似せている。
首元には二匹の蛇、アオダイショウとマムシを巻き連れており、二匹は総司を睨みつけている。
現在、秘立蛇女子学園の教官の立場にして不在たる鈴音の代わりを務めている身。正真正銘――彼は歴としたカグラである。
(クッ…だから教官は来て欲しくないんだ…!覚悟はしていたが、やはりここまで責められるのはキツイ…寛容な私としても、限度というものがある…)
総司は心の中で悪態を吐きながら、表情を出さないようにと恥じらいと屈辱に身を焦がしながら強く拳を握り締める。
「先程両備から報告があってな。紫、両備、両奈は難なく仮免試験を突破、ゆえに選抜メンバーは誰一人欠かさず仮免許を取得したそうだ。
で??一方、お前たちは何だ?何で脱落者がいる?何食わぬ顔で平然と突っ立っている?
なぁ、千歳」
総司から千歳に標的を定めるように捲したてる小尾斗に、僅かに力む千歳は何も言い返さず、俯せている。
「そ、そんな言い方…しないで下さい教官!ち、千歳さんばかりが、悪いわけじゃ、ないんです…よ?だ、だから…あまり悪口を言うのは、やめて…下さい…!」
「そうじゃそうじゃ!別に仮免許だろうと素直に喜んだって良いであろう?何故に儂らがお主に叱られる立場にならんといかんのじゃ!」
「はううぅん、ダメ…小尾斗教官のネチネチした毒舌の言葉責めが…快感を刺激しますうぅ〜!」
責められる千歳を庇うように、芭蕉、芦屋、伊吹(若干偏ってるが)の三人が抗議する。
確かに教官からすれば大したことでは無いのだろうが、自分達からして見れば、一流の忍を目指す第一歩なのだ。
「シャアァァーーーーーーッッ!!!」
「シュルルルルーーーッ!!」
『ひっ!?』
無表情で何も言い返さない小尾斗の代わりに、「黙れや」と吠えて威嚇をする二匹の蛇に、三人はゾッと悲鳴を上げる。
まるでご主人様を守る忠実な僕のように見えるアオダイショウとマムシは、小尾斗の身体を守るように巻き付いて行く。
「お前ら全然ダメだな。
何故叱られる?結局お前らは其れすらも解らない低レベル…だからいつまで経ってもお前らは下忍なんだ格下なんだ。
仲間だからこその連帯責任だろう?お前らの大好きな仲間というヤツだ。仲間の為に一緒になって罵倒を受けるのも叱られるのも当たり前、其れが普通だ違うか?」
ネチネチネチネチとしつこく言葉で責める彼の正論にぐぅの音も出ない一同は、怒りを鎮めて気を保つ。
ぶっちゃけ、教官を言葉で表すのなら実力のある卑怯者だ。
「千歳。俺は一体何のためにわざわざ時間を費やしてお前らに稽古を付けてやったんだろうな?
俺の時間はどうする?失った時間は巻き戻すことも出来ない、結果を出せないヤツに時間を払った俺が馬鹿みたいじゃないか?
あろうことかお前の不合格という事実が俺の顔に泥を塗ったんだ。
良いか?解らないようだから教えてやるよ。
雅緋は復帰に掛かるのに一週間入院による治療が必要と医者から言われたよ。だが忌夢はまだ治療が必要で戻るのに時間がかかる。鈴音も意識こそ回復したが忍として動くとは叶わない、学園長の隼総は手酷い大きな重傷を負い、後遺症が残るそうだ。まあ、鈴音見たく生活に支障が出ないよりかはずっとマシだがな…
選抜メンバーが不在の場合は代わりにお前ら補欠メンバーが穴を埋めて選抜の役目を全うするんだ。
神野区後、善かれ悪かれ社会は、未来は廻り始め時間も増えていく。当然、蛇女からも救援の依頼や選抜のやつらが不在になることもある。
つまりだ、選抜メンバーの穴をお前らが埋めなければならないんだ。その穴は一体誰が埋める?人手が足りない今、有象無象の学生、下忍にすらなれてない忍学生が多すぎる中、補欠が必要なんだ自覚しろ」
「…………」
忌み嫌うようにネチネチとしつこく執念深く言葉を浴びせる小尾斗に、千歳は無言のまま頭を下げる。
「申し訳ありません…私の不甲斐なさで、教官の気持ちに応えることが出来ず、迷惑をかけてしまい…深く反省する所存であります……次の結果に応えるよう、頑張ります……」
全て事実。
小尾斗の正論に言葉が出ないのは必然。
これが下忍とカグラの、天と地の差。
「……ふぅん、ようやく意味のある言葉が聞けたな。
そうか、へぇ…次の結果ねえ…うん、それも敢えて信じないようにしておこう。
これ以上お前らの説教に垂れてると、明日に備えてる任務に出向出来なくなっては困るからな」
最後の最後まで嫌味の連発に苛立ちが積もるも、ようやく教官がいなくなると全員はホッと息を吐き、開放感に脱力する。
「あ〜…疲れたのぉ…何なんじゃあの教官は……鬼じゃ悪魔じゃ…」
「でも、確かに人当たりが悪い教官ですけど…私たちは感謝しないといけませんし、歯向かうことは出来ませんからね…」
「嗚呼…何せ小尾斗は、秘立蛇女子学園創始者の末裔だからな…現段階で全ての費用は小尾斗が莫大な金を投資してる訳だし、強くは言えない…」
小尾斗はカグラにして数々の妖魔討伐の任務を難なく遂行している、屈指の実力を持つ忍だ。
今まで成功し報酬を得た金額は殆ど手につけておらず、全ては蛇女子学園の校舎に注ぎ込んでるので、もし彼が不在になって仕舞えば、それこそどうにもならない。
「千歳さん…気に病むことは無いですよ。小尾斗さんも言葉は強いですけど、私たちの為を思って言ってるんですから…ね?」
しかし、鈴音や噂に聞いてた伊奈佐とは違いこれまた意外なこと、彼は如何なる場合においても余程のことがない限り、手を上げないのだ。
女子に謀略を払った姿など、芭蕉からして見て一度もない。
「解ってます、解ってますから…だから、少し静かにさせて下さい…」
ぶっきら棒な口調で冷静に答える彼女も、どうやら気に悩んではいないらしく、どこかホッとする芭蕉は「そうですか…」と苦笑を浮かべるのであった。
路地裏。
空はもう夕暮れを迎え真っ黒に塗りつぶされている。そんな闇夜の中、人気のない一本道へと進む一人の少女、士傑の生徒である現見ケミィは着信音の鳴る携帯に手を伸ばし耳を当てる。
『やっと繋がった!!おい、お前今までどこ行ってたんだ!?
――トガ!!』
姿がドロドロと滑りある液体が、顔や身体を溶かしていき、正体を現したのはトガヒミコ。
士傑高校の制服や帽子を被りながら、ニヘラァと薄気味悪い笑顔を浮かべる彼女は「えへへ〜♪」とルンルン気分で足を運ぶ。
『定期連絡は怠らなよ!一人捕まれば全員が危ないんだ!』
「大丈夫なんです其れに素敵な遊びも出来ましたし、有意義な時間を過ごせました。
龍姫ちゃんに伝えといて下さい――
頬を赤らめ、目を細める彼女は、スカートのポケットから一つの試験管を取り出し、一滴の血をのほほんと眺めなが宣言した。
「緑谷くんの血をゲットしました。これで彼の姿にも変身できますよぉ〜♪って」
トガヒミコ ――個性『変身』
他者の血を摂取することで、他者の姿に変身できる。
闇夜に住まう悪意は、血塗られた牙を研ぎ磨き、月夜に照らされる彼女は夜を歩く。
キャラクター紹介&シノビマスター。
小尾斗
本名・???
所属・秘立蛇女子学園(一時的な教官としての立場)
好きなもの・蛇の飼育観察、冷やし中華
誕生日・3月9日
身長・167㎝
血液型・AB型
出身地・不明
戦闘スタイル・近接戦闘、指揮官
ステータス ランクS
パワーD
スピードS
テクニックS
知力S
協調生B
秘伝動物 ヤマタノオロチ
秘立蛇女子学園の教官にして創始者の末裔。蛇女を創り上げ歴史に名を馳せる一族。
何故か女性と蛇女子学園を嫌ってる。ネチネチした喋り方や毒舌が絡み合い、最高に相手を不快と苛立ちに染めるのが上手な忍。
実力は本物で、カグラの称号を担いでいるその腕っぷしは伊達ではない。雅緋の父、学園長の隼総よりも腕が立つと噂されている。
シノビマスターカード
忍法:水蛇苦
敵三体にダメージを与え、3ターン敵の防御力を50%ダウンする[クールタイム小]
秘伝忍法:蛇神水ノ災
敵全体に大ダメージを与え、高確率でその敵を猛毒にする[コスト中]
リーダースキル
秘立蛇女子学園の攻撃力・体力を30%アップ
パッシブスキル
攻撃を受けると稀に毒を付与させる
毒を必ず無効化
攻撃を仕掛ける度に命中率を20%アップ
リンクスキル
秘立蛇女子学園 攻撃力10%アップ
対象キャラクター 蛇女子学園メンバー+小尾斗
同族嫌悪 攻撃力30%アップ
対象キャラクター 焔+小尾斗
作者のコソッと、裏話!
作者「小尾斗くんは基本蛇が好きです大好きです。4歳の頃、初めて友達になれたのが人間ではなく、小さな野生の蛇で、友達のいない小尾斗くんに懐いてました。
今彼はカグラという称号を得てるので、私情に使ってるとすれば、ペットショップに行って蛇を買って飼育したり、蛇専用の飼育場所を設けて快適な環境を整えていますので、凡ゆる蛇は全て小尾斗くんの家族です。小尾斗くんにとっての家族は蛇だけです。
因みに今連れてるのが、アオダイショウ、ジムグリ、コブラ、マムシ、ヒバカリの五種類です。蛇愛好家です。
あと余談ですが、前話の後書きで喋ってたキャラクターは小尾斗くんです。分からないっていう声が上がってたので報告しときました」