一言、最近の前書きと後書き、書くことなくなって来た。
神野区、爆豪雲雀救出と敵連合一掃作戦に加担し敵のアジトへ赴いた雅緋と忌夢は大きな痛手を喰らい、一命は取り留めたものの、入院という形で傷を癒す事に専念していた。
体全身打撲。
一定量以上の失血。
腹部による外傷。
刃物による裂傷。
どれも傷は酷かった物の、雅緋の回復速度は他の忍学生と違い少し異常だった。
勿論、年齢的に歳が違うため(本人に言えば大変失礼だが)回復の速度に違いが生じるのも無理は無いが、其れにしては鈴音は兎も角、実の父である学園長よりも早く完治するというのは、何処か現実離れしてるような気もしなくは無い。
忌夢はOFAの超人間空気砲を喰らい、ベストジーニストが衣服を操り橋に寄せたので、ギャングオルカや虎、Mt.レディと同じく特に後遺症や深刻な傷を負わなかったので、問題はない。
だからこそ、雅緋の頑丈な体質には忍専門医の医者も驚いてるようで、過去にこのようなケースは存在こそしているが、滅多に見受けられないとのこと。少なくとも…廃人から復活する前までは…だ。
何がともあれ、それから約一ヶ月の時が過ぎ去り、大分回復を経た二人は、退院の日を迎える。
「随分と、日にちが空いてしまったな…」
入院してた分、学校から離れてた日数を確認し愚痴をこぼす雅緋は、病室で包帯を取り外していた。
「けど…これで僕たちもようやく復帰できる。皆んなが心配してるだろうし…早く戻ってアイツらを安心させよう」
隣で荷物の整理をしてる忌夢の言葉に軽く頷く雅緋。
神野区半壊後、病院に運ばれ手厚い治療を受けた雅緋と忌夢、次の日は選抜メンバーの三人がお見舞いに来てくれた。
紫は半泣きになって姉の忌夢に泣きつくように縋り、両奈も心の底から二人の無事が発覚して安心してた様子。両備は素直じゃない性格なので、ツンツンしながら何かを呟いてた記憶は残っている。
(そういえば…蛇女で伊奈佐と戦ったあの時も…無茶して皆んなで入院生活をしていたな…)
伊奈佐の野望とも呼べる悪事を阻止するべく、抜忍である焔紅蓮隊の連中と供に戦ったあの日のことは、今でも忘れられない。
己の壁を乗り越えたあの日、
旋風という忍が死したあの日、
両備と両奈の復讐に終わりを告げたあの日、
私達は本当の意味で、私怨を乗り越えた。
(あの頃が無ければ…私はずっと、一人ぼっちのまま…だったのだろうな)
強さこそ全て。
仲間というのは戦場で役立つ駒。
弱者を見るだけで吐き気を催す。
そんな冷酷無慈悲で強者に強く拘ってた自分…
(昔の私は……ん?昔の…私は……)
過去に浸ってた雅緋の思考が、微かに揺らぐ。
まるで平然とした水面に、一陣の風がひと吹きしたかのように、波に揺れる。
(昔の私は…何だった…?)
深淵血界。
禁・秘伝忍法――血界突破を発動した雅緋に掛かった負の代償は、記憶喪失だ。雅緋の記憶が曖昧なのは、蛇女子学園に入学してから全く記憶が抜けてる。
その前の過去は鮮明に覚えてはいるが、廃人と化して3年近くの年月が過ぎた為か、その頃の記憶部分は欠けていた。それはまるで、失ったパズルのピースのように。
「私…はっ?」
「み、雅緋…どうしたんだい?顔色悪いけど…」
異変に勘付いた忌夢の言葉に、はっと我に還る雅緋は「すまん、何でもない」と一言。
深呼吸をして落ち着かせる。
動悸に頭痛が起きたこと…まだ症状が治まっていないのだろうか?いや…そんなハズはない。もう既に体の傷は癒えてるし、これと言った問題点も見当たらない。医者からの検査で異常は無いと診断されたし、軽い発作か何かなのだろうか?
「もう少し病院にいた方がいいんじゃ無いか?症状が残ったまま学校で訓練するわけにも…」
「心配は要らん…それに、個人的には病院に居続ける気もない…」
別に病院が不便だとか嫌いとかでは無いのだが、これ以上傷や異変も症状もない以上ここに留まる必要は無いし、欲を言えばこれ以上体を休めては鈍ってしまうのが嫌だからというのが本音だ。
小さな怠慢は大きな命取りとなる。常日頃から鍛錬を怠らない雅緋にとって、体を動かすなというのは酷な話であり、入院中はマトモに体を動かせず退屈していたのだ。
前に両備に「鉄アレイだけでも持ってきてくれ」と頼んだら医者にまで却下の言葉が下された時のショックは少し大きい。
「鈴音先生と父上にも報告して…それから」
「なんだ、既に荷造りの準備は終わってたのか。手間が省けて良かったよ」
刹那――聞き慣れない男性の声に瞬時に反応した雅緋と忌夢は、声主に警戒を示すも、敵意が無いことを理解した。
「ッ!――なんだ、小尾斗教官か…」
「なんだとはご挨拶だな。俺がこうして態々任務を後回しにして退院手続きのついでに様子見に来たのにその反応はおかしいだろ?女というのはいつもこうだ」
「聞き慣れない声だからてっきり何者かの刺客かと思ってしまっただけだ…無礼な反応に機嫌を損なわせてしまったのなら謝罪する――すまない」
深々と頭を下げ謝罪する彼女に、「ふん、まあ良いだろう…」と上から目線で口を開く。
「症状や傷の悪化はない、完治したな。
なら早速蛇女子学園に戻って訓練だ。久しぶり…と言えばいいか、多少は体が鈍ってるだろうが甘言は許さんぞ。徹底に取り組めよ」
「言われなくとも…」
「………」
相も変わらずネチネチした言動に雅緋は特に感情は変えていないものの、忌夢はかなり不機嫌そうだ。
しかし小尾斗教官は忌夢の表情など気にもせず、語り続ける。
「それと選抜メンバー二人に報告だ。
両備、両奈、紫の三人は仮免試験合格、選抜補欠は千歳以外は全員合格…アイツは補習を受けている」
「おお、そうか。三人とも、私が不在の間によくやってくれた…」
「紫…アイツ、僕がいなくても合格できるなんてやるじゃないか…!」
選抜メンバー三人の報告を聞き安堵の吐息を漏らす雅緋に、引きこもりの妹が無事に話題なく試験を合格したことに、嬉しさでいっぱいなようだ。
「一応現状の報告は伝えておいたからな。
それと、だ。俺は任務以外にも用事がある、余程の事がない限り俺に連絡はするなよ。俺から言えることは以上――」
呆気なく、素っ気ない態度に面食らうも、何事もなく病室を出る小尾斗に、糸が切れたように忌夢は「本当に嫌な教官だな…!」と軽く愚痴をこぼす。
「そもそも、雅緋に一言『これからも精進しろよ』とかも言えないのかい!?だいたい、女ならまだしも男性が雅緋を見て興奮しないのもおかしいし…」
「忌夢、お前も可笑しいぞ?」
若干、偏ってる忌夢にさり気なく一言添える雅緋は、手で髪を掻く。
小尾斗教官には何か思い当たる節や好き嫌いな部分もあるのだろうと軽い認識を受けてるため、余り気にしてはいない様子だ。
小尾斗教官と初めてご対面したのは、両備と両奈、紫がお見舞いから帰って数分のことだった。
初めは見知らぬ相手に動揺もしたが、教官になった所以と鈴音先生に父上たること、隼総が暫し入院期間で復帰出来ないことを知り、教官の立場として蛇女の面倒を見てくれるとのこと。
しかも蛇女子学園創始者の血縁、末裔であることに当時は驚くも、一目見て納得した。
体はか弱く筋骨隆々とした肉つきでは無くとも、実力は本物。技術や強者の気配は肌身で感じ取れた。
何しろカグラであり、父上よりも実力を秘めてる忍…彼が蛇女子学園の味方に付いてるのなら心強い。
…伊奈佐の時みたく、二の轍は踏みたくはないな。
「まあ何にせよ、これでようやく晴れて退院だ…
よし、では急ぐとしよう。鈴音先生に、父さんに報告してからな」
かくして、二匹の蛇たる戦乙女は、今日を以って病室から立ち去った――
秘立蛇女子学園。
悪忍養成学校…というのはとうに知っているだろうが、神野区の大事件を後にしようと、何も変わらず平然の日々を過ごしている。
一見、こうやって聞くと平和だな…と直感的に想像してしまうが、悪忍と名乗る忍学校は甘くはない。
それこそ、常日頃から命懸けで訓練に励んでいるので、言葉では実感出来ないのも致し方ない。
水遁、土遁、火遁、風遁、基本的に四種の術を学ぶのが忍学生の基本的な授業内容で、他は座学、対人訓練、今となっては仲間や雇い主である主人の身を守る護衛術も学んでいる。
その中で殆どの基礎や平均を上回り、マスターしている選抜メンバーは当然、成績も大変良い。
「……射程距離OK。西の風向き弱、少し狙う的をズラして…っと」
岩盤に支配された特殊訓練所。
視界の殆どが灰色の岩で覆われ、森林や草木と言った目立つ緑色は見ない。
岩石だらけの風景に映し出されるのは、何の変哲も無い木製の射撃専用の的と、獲物を品定めし、決行の
微動だにしない木偶の坊に対し、静かに呼吸を整える少女は、銃の引き金を引く。
発砲した音が、静寂な空気を打ち破り、火薬の鳴った音がこだまする。
「よしっ!今日も順調ね」
絶好調!と言わんばかりに無い胸を張る少女、両備は軽く息を吐き撃ち抜いた的に視線を飛ばす。
微かな火傷後に煙が舞い、狙いは百発百中という形で収まり、見事中心部分にヒットする事ができた。
両備からすればそもそも、こんな訓練は大したことは無いのだが、何事にも基礎や日頃の行いは大事だ。簡単で当たり前のことでも、人間は体が鈍ってしまえば感覚や動作を忘れてしまい、衰えた力が戻るのには時間をロスする。
だからこそ、感覚や腕が落ちないためにも、日頃の基礎練は絶対に欠かせない。
「次は…この前教官が仕入れてくれた鉄製スピード特化タイプの傀儡を五体、練習用で…」
「おーーい両備ちゃぁ〜ん!」
射撃訓練を…と口に出そうとするも、能天気な声が両備の思考を遮る。
「何よバカ犬、またお仕置きされたい訳?今訓練中でしょ?」
「きゃうぅ〜ん♪お仕置きは両奈ちゃん凄く嬉しいし、今すぐやって欲しいけど、今回は真面目な話をしに来ただけにゃん♪」
犬なのか、猫なのか、甘々な声色を発する彼女に色々と突っ込みたい言葉が有るが、取り敢えずスルーしておこう。
変態なバカ犬たること、両奈はルンルン気分でご機嫌が良さそうである。
「あのね〜〜、雅緋ちゃんと忌夢ちゃんが帰って来たんだよ〜!」
「へーあっそ……ってえぇ!?雅緋と忌夢が…本当に?もう戻ってきた訳?」
二人の退院に心を踊らせる両備の顔はご満悦そうで、頬が綻んでるようで、見てるこっちも自然と微笑ましくなってしまう。
その笑顔はとても、過去に雅緋と忌夢を殺そうと復讐の計画を立ててた頃とは程遠く、綺麗だ。
「連絡くらいくれれば良いのに…」
しかし、それなら別に電話だの連絡してくれれば、自分たち三人だけでも迎えに行けたものを…まあ、雅緋のことだから「蛇女本拠地に侵入が来たとして、排除は誰がするんだ?」と口を開きそうで、雅緋の言葉が安易に想像出来てしまう。
「雅緋ちゃんも忌夢ちゃんも会いたがってるし、さっ!行こ行こ〜♪」
「ったく、バカ犬は…でも」
この日だけは…子どもらしく素直に喜ぼう。
姉の両奈に手首を掴まれ、引っ張れる両備は何処か嬉しそうに釣られ、修練所を後に二人は仲間の迎えへと突っ走る――
修練場から蛇女子学園の距離は、忍学生に比べればそう遠くない。
岩盤だらけの殺伐とした場所から、左右前方後方全てが闇と緑で支配されてる森林地帯を抜けてようやく蛇女子学園の本拠地へと辿り着ける。こう言い表すと実に短く思えるだろうが、距離的には4km。選抜メンバーからすれば朝の爽快たる軽いトレーニング、勿論侵入者や余所者である曲者を排除するべく様々な罠も設置していたりするので、本校の生徒でなければとても掻い潜れない仕様になっている。
品種改良した邪草々が生い茂った草道に、クサヘビやマムシの出血毒の成分を塗った毒矢、視界に映った獲物にのみ反応する石像に擬態した傀儡蛇。下手すれば命を落とす危険性な罠があるため、まず修練場に辿り着くだけで骨が折れる。
毒物や危険物を平然とこの場で扱うことや訓練で強いることが出来るのも、悪忍のみ違法が許されるからだろう。公共の場ではなく、訓練目的というのなら、支障は無いだろう。
「雅緋、忌夢!」
「二人ともお帰りなさ〜い♪」
「雅緋さんに…お姉ちゃん……良かった、無事に退院できたんだ……良かった…ね?べべたん」
二人の帰りを笑顔で向かい入れてくれたのは、懐かしくもあり見慣れたいつものメンバーの三人だ。
両備は胸を弾ませ歓喜の声を上げ、両奈はマイペース且つ可愛げのある声に、一般男性なら惚れてしまうだろう。
紫はネガティヴで根暗っぽい雰囲気を曝け出してはいるが、二人の復帰に心底喜んでるようで、相棒…いや、大好きなべべたんを力強く抱きしめる。
「ああ…少し見ない間に、随分と逞しくなったな三人とも」
「紫、僕がいない間に訓練サボって引きこもり生活してないだろうな?」
歓喜に満ちた再開。
一ヶ月間の不在でありながら、生死を分けた戦場に戻って来たその感動は、まるで戦争から帰還した兵士のようだ。
イレギュラーな相手に深手を負うも、命に別状がないことに安堵の吐息を吐く一同。
仲間がいなければ、きっとこうして出迎えてくれることも無かったのか…と反面的に思えてしまうも、今はこの喜びを堪能したい。
「全く、もし雅緋と忌夢が死んじゃってたらって想像したら…両備は危うくあの化け物相手に復讐する所だったじゃない!」
「両備ちゃんオールマイトが勝って大号泣してたよね〜、雅緋ちゃんが無事だって知った時は鼻水まで垂らしてて可愛かったの〜♪」
「黙ってろ雌豚!テメェの◯◯◯に鉛玉ぶち込まれてェか!!」
「きゃううぅ〜〜ん!良い!それ絶対に良いよ両備ちゃん!」
「私は特に…小尾斗教官が煩くて…引きこもり続けるならネット解約は愚か…除籍処分されるって脅かされてましたから…」
両備と両奈は平常運転。
紫は穏やかでマイペースな口調で話すも、その声色に危機感は感じ取れない。
「そ、そうだったのか…それで、ボク達がいない間、蛇女内で何か問題は無かったか?小尾斗教官は特に話ては無かったみたいだけど…」
「いえ…特には…あっ、お姉ちゃん……私ね、仮免試験…無事に合格できました…」
「あっ、それなら私も。試験なんて両備からすれば朝飯前だっつーの♪」
「でも両備ちゃん月閃相手にどう接すれば良いかってテンパってたよね」
「いい加減にその口閉じないと絞め殺すわよ!?」
両備と両奈は元々月閃女学館所属の、由緒正しい善忍家系で生まれ育ったのだ。
昔は復讐心で頭がいっぱいだったとはいえ、月閃女学館の生徒たちは皆家族同然のように、親しみ対等に接していた。悪忍を滅することを第一の目標にしてた彼女に少し嫌気が刺してたが、それ以外では気優しい仲間だった。
――雪泉先輩、短い間でしたが、お世話になりました。
しかし、雅緋の復帰の知らせに勘付いた双子姉妹は、ある計画を練り上げ蛇女子学園に転入。
復讐を終えたら、自分たちもあの世に…天国に待つ大好きなお姉ちゃんに会いにいく…
そう決めていたのに、焔紅蓮隊に伊奈佐の件が有り、復讐という美化には聞こえない私怨は幕を閉じ、雅緋と和解。月閃を抜け、蛇女子学園に転入するも悔いはないし、自分たちの決めた道にとやかく言う資格は無いのは百も承知…なのだが。
仮免試験当日、自分たちの前に現れたのは…
『あれー?両備ちゃんと両奈ちゃんだー!』と美野里
『ほう、まさか月閃を抜けた貴女達とご対面とは…面白いですね』と夜桜
『蛇女はどう〜?レッツエンジョイ!って感じ〜?』と四季
…揃いもそろって、裏切っただのと罵詈雑言が降ってくるかと予想していたのに、こんなにも呆気ない対面に思わず唖然としてしまってたのは今でも鮮明に記憶が蘇る。
そもそも、悪忍を滅ぼすが第一主義だったあの月閃女学館の選抜メンバーが、何故ゆえに悪忍学校に転入した自分たちにここまで友好的に接してくれるのか、不可解だった。雄英高校のB組もいたわで兎に角、仮免試験は両備にとって一波乱巻き起こった、忘れられない日であった。
「そうか…月閃も……」
「これで手加減して落ちたなんて話になったら、僕は許さないからな?」
「お姉ちゃんも…雅緋さんを見過ぎて事故ったり…しないでね?」
「黙れ紫!それとこれとは話が別だ!」
どっちも変わらないような…と心の片隅で呟く紫。
まあ…雅緋ラブの変態エッチメガネに雅緋を見過ぎるなと言った方が、それはそれで大暴れして事故を起こしやすそうなイメージが安易に考えつくが、本人には言わないことにした。
「さて、感動の再会も終わった所で…だ。最初に訓練を始めるか…身体も動かしてない今、鈍った体では戦場に身を置いても死の危険が大きい…」
鈍い身体。
僅かに衰えた筋肉。
己の技量を高める。
こうして、やっと待ちに待った訓練を再開できることに、心底懐かしさと愉悦に浸る雅緋は、自然と口角が吊り上げていた。
(待っててくれ父さん…母さん……私は一日でも早く、カグラになるべく強くなってみせる…!
鈴音先生も…見てて下さい……)
病室で寝たきりの父上。
弱き体を休め、安静にし蒼天を見上げる鈴音。
そして…妖魔に殺された天国の母さん。
(妖魔に殺された…と言えば、両姫も…話では聞いていたが……)
前述の通り、雅緋は記憶が曖昧で、完全に取り戻してない状態だ。
だから両姫が何を言ってたのかは今となっては解らないし、知る術もない…しかし、両備と両奈の二人が自分の仲間である以上、幾ら忍の身とはいえ…仲間の背中を、命を守るのも筆頭たるリーダーの役割だ…自分は、皆に背中を押され支えるだけでなく、今度は自分が、皆んなの背中を支えて押してあげるんだ。
嘗て、焔が仲間にそうしたように…
今度は…私も……
刹那――雅緋の思考は停止した。
漆色に塗り潰された禍々しい悪寒が、背中を走り、黒き瘴気が雅緋の全身を覆い尽くす。
突如として脳内再現されたイメージに、戦慄を覚えた彼女は即座に反応する。
「――ッ!?」
ただならぬ気配に自然と体が動き、震わせる雅緋は腰にかけてた刀に手を取る。
そんな彼女の動きに四人は、首を傾げて雅緋を見つめる。
「ん?雅緋…どうし――「伏せろ忌夢!紫!!」――えっ?」」
彼女が口を開くも、無反応にすら間に合わないと判断した雅緋は飛び付き押し倒す形で――二人を救ける。
それと同時に、衝撃により発した余波と轟音が、五人の鼓膜を揺らがす。
激しい突風、両備と両奈は学校の石壁に背を持たれながらもその身を耐え、忌夢と紫は地面に背を付け、雅緋は二人にもたれかかるよう倒れ伏しながらも、降ってきた
土煙が巻き起こり、晴れる時間も待ってはくれず、人影が煙を強引に振り払う。
一歩、踏み出したことで確認されたのは、足だった。
その足は、人間とかけ離れた形をしていた。
鎧と鱗が混ざり合い、黒紫色に染め上げられた体色はアメジストの宝石を連想させる。
しかし、足の指は前で三本踵が足指の関節に出来ており四本。まるで鳥のような足跡だ。
晴れて登場したのは――竜の姿をした妖魔。
眼は黒く塗り潰され、頭は退化してるのか水晶玉に見える、鉄壁な要塞をも砕け割るような頑丈そうな頭部。
指は爪のように鋭利に尖っており、まるで刃物のようだ。
序でに尻尾は長く、蜥蜴や鼠、蛇のようにしなっており、何メートル以上伸びてるのかは不明だ。
この場にいる選抜メンバーは直感で理解した――コイツが、妖魔なのだと。
少なくとも、忌夢にとってはこの妖魔を目撃したことで、軽く戦慄を覚えたのは、無理もない。
「妖魔かッ――!!!」
こんなにも早く、母の仇たる妖魔の存在に立ち向かえるとは!
願望と怒気の感情がインクのように混ざり合い、自然と全身に力が入る。かく言う両備と両奈は、呆然としていた。
(アレが…妖魔…!よりによって何で急に…!?)
心の中で悪態を吐く両備は、目を細めて敵を睨みつける。
妖魔は、大好きな両姫お姉ちゃんを殺した姉の仇…許されるはずのない、仇打ちを前にするも、足が竦み、震えが止まらない。
何より、何故よりによってこんな時間に限って妖魔が来るのか…謎や突っ込みどころは満載だが…今は――
「アア゛ア゛ェエ゛エ゛アア゛ア゛ァァーーーー!!!」
瞬間――けたたましい妖魔の咆哮が、天を貫き大地を揺らがせ空を突き破る。
金属音に似た不愉快な鳴き声と血を求める雄叫びが、耳を突き破るかのような勢いで発せられる。
「あ、アイツは……嘘だろ…?」
忌夢の顔は真っ青に変貌。
まるで、本物の悪夢を今こうして目の当たりにしてるかのような、そんな…絶望を噛みしめる彼女は、震える手で武器を取る。
突如とて襲来した妖魔、対峙するは五匹の蛇乙女――
う〜ん、区切りとしてはここら辺かな?
眠気がピークに達してこんな感じです…文書力がもっと欲しいですねぇ…って最近よく思います。