光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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戦闘シーン、前までは難しいと言うのが一番でしたが、最近では割と好きになってきたり。
それと、今回は少し描写が厳しいと思います。
まあ、死の美の世界なので悠長なことは言ってられないんですけど…
そもそも閃乱カグラって胸と微エロが激しく主張したゲーム作品と認識が強いと思いますが、実際は殺伐とした殺し合いなんですよ。



142話「正しく害獣」

「お前から話とは珍しいじゃないか、雪不帰殿――俺なんかを呼び出して何の用なんだ?」

 

 女性に対して忌み嫌う発言は多少見受けられるも、なるべく毒舌口調を出さないようにしてる小尾斗に、対立するよう椅子に腰掛けてる女性は雪不帰。左右隣には月閃女学館中等部所属の月光と閃光もいた。

 艶掛かった漆黒の長髪は腰まで垂れ落ち、お滅多に目に掛らないであろう、美しき黒の衣装を着こなす容姿は、中々様になっている。

 黒とは対照的に、露出された肌には一切の汚れが無い。清き水のように透き通る白い肌は、雪泉の美白にも負けないだろう。白と黒を司る絶妙なバランスに、一般人が目を通せば息を呑むのも無理はなし。正に、美麗を文字通りに体現した理想の女性である。

 白と黒の羽毛で彩られ、調和を示す一際大きな扇子を胸元に当てながら、彼女は瞑ってた瞼を開け、小尾斗の目を合わせる。

 

「小尾斗教官…ようこそいらっしゃいました……本日はお忙しい中、私の屋敷へお越し頂き有難う御座います…」

 

 薄い桜色の唇から発せられた言葉は、冷気が篭り覇気は無い。しかし、雪のような冷たさと清楚感に満ちた言葉は、不思議と人の心を落ち着かせる。

 

「お疲れ様です小尾斗様、どうぞ自由に腰をお掛け下さい♪」

 

 相手をもてなし礼儀良く振る舞う少女――月光は手慣れた動作で椅子を下げて座るように催す。

 

「ふん、随分とまあ…優秀な忍学生を護衛として雇ってるんだな…確か、カグラ四天王マナの元で修行を受けてたんだっけか」

 

「ええ、よくご存知で。流石は嘗て供に()()()()()()()だけのことはありますね♪」

 

「別に大したことは無い…それに、中等部が妖魔の話を持ち出すな。本来なら忍学校を卒業した者にしか知られてはならない規則では無かったか?」

 

「心配は無用です……この二人は私が信頼に置ける逸材だと判断したまでのこと。だから…()()()()()()ことに関してもまた同じ…」

 

 雪不帰と小尾斗の対談の中、「失礼する…」と紅茶を差し出す閃光を横目で見やりながら、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「これから話すこと…?まさかその為だけに俺を呼んで来た訳じゃ無いだろうな?」

 

「察しの良いこと、誠に感謝申し上げます…正にその通りです」

 

「……一応、その話だけは聞いておくか…大した事のない話題なら俺は怒るぞ」

 

 ここまで来るのに大した時間は無い。

 ざっと1時間近く掛けてようやく現地に辿り着いた小尾斗。それでも本来ならカグラの身として与えられた任務は山ほど積もっていたのも事実であり、それらを全て後回しにしたのだ。

 これで特に何もない話であれば、幾ら陽花と供に忍の道を歩んだ彼女とは言えど、容赦はしない。

 特に手紙には話だけがしたいと書いてあっただけだが、またそれしか書いてないのは、〝敢えて他者に手紙を見られる危険性を配慮〟した結果と判断し、小尾斗は何も問わずこうしてやって来た訳だ。

 

 

「いえ、きっと貴方にとっても重要な話です……そう、雅緋さんについて、話があるのです」

 

「はぁ――?アイツの話?」

 

 

 何故、彼女が今回呼ばれる鍵となるのか?

 どう考えても彼女はカグラですらない、彼女のことで呼ばれる筋合いは何処にも見当たらない。

 

「ええ…小尾斗さん。雅緋さんが何故、3年間廃人となったのか…理由はご存知でしょうか?」

 

「……任務中により、妖魔に襲われたトラブルが発生し、事故で廃人化した…とは聞いたが?」

 

「其れは本校に佇んでた者のみの情報…鈴音先生から聞いた話によりますと…血界突破を発動させたとか…小尾斗さんはご存知ですよね?血塊突破という禁術を――」

 

「知ってるさ。カグラにしかなれない者にのみ情報が取得可能な禁術は、生半端な学生では例外なく死ぬからな…しかも大人とはいえ、カグラでさえも血界突破――深淵血界を維持するのは困難だぞ。それでミスしたアイツもアイツだが…」

 

 血界突破とは、先程雪不帰が前述した禁術だ。

 空間内に染み付いた忍の血を取り込み、戦闘能力を飛躍的に上昇させる業。

 本来なら忍学生がこの禁術を身につけてる事自体が異常なのだが…悪忍の掟と女嫌いの小尾斗からすれば、そこまで詮索する気にはなれなかった。

 

「そう…だからこそ、彼女の身に何が起こるか解りません……」

 

「?…どういうことだ?」

 

 彼女の声はブレなくとも、その言葉の気迫に眉をひそめる。

 

「…そもそも、血界突破とはカグラですら失敗するケースが大きい…その上、禁術に手を染め成功した例はごく僅か…」

 

「偶々選ばれたんだろう?」

 

「それなら尚更、彼女の身に何が起こるか解りません……調べた結果、血界突破の秘伝忍法に成功し、無事生還できた忍は彼女を含めて――五人」

 

 ――はぁ?

 腹の底から漏れた言葉は、小尾斗の思考を停止させるのには相応しかった。

 たったの五人?もはや二桁すら越してないこの驚愕な数字は、明らかに異常。幾ら成功例が少ないとは言え、其れは余りにも…信じ難く、何よりも現実が脳に入らない。

 

「先代二名は殺され…今残ってるのが三人……カグラ四天王の『リュウ』に、妖魔狩りの『桃』…そして、蛇女子学園選抜筆頭の雅緋…

 現段階で確認されてるのがこの方達のみ…」

 

「そして桃と呼ばれる抜忍は10歳の頃に血界突破を取得した…消息は不明だが訃報は聞かされてない…カグラに尤も近い忍でもある…」

 

「解ってるそのくらい。一度だけ面識も有ったし、女とは言え気に食わんヤツだったのは覚えてるよ」

 

「話を戻しましょう…それで、問題はここから。

 なぜ態々血界突破と雅緋さんの話を貴方だけ話すのか…」

 

「後遺症か発動後に起こる今後の発作か?」

 

「…前例が無いだけで、今後そのような問題も起点すると考えて良いでしょうが……本当に話すべきことは別――それは…」

 

 

 ここから先は、決してカグラですら聞くことは困難だろう。

 雪不帰の真実に、あの小尾斗の顔色が真っ青になったのも、冷や汗を流すのも致し方なきこと…

 そして…雪不帰はカグラの中で5位以内の順位に入る強豪の忍…だからこそ、この情報を取得出来ても余り文句も言えないだろう。

 

 

「……そうか、情報提供感謝する。偽り…では無いとも言い切れんが…今のところ辻褄は合う」

 

「納得してくれましたか?」

 

「ああ……元々俺も目的は妖魔の殲滅。

 ただ、何も確証は無いのだろう?ヤツらの居場所も解らん以上、現状俺たちでは他の打ち所がない」

 

「だからこそ小尾斗教官、貴方も含めて…蛇女を守らなければなりません…それが例え貴方にとって辛き選択だとしても…陽花のことを想うのであれば…」

 

 

 もし、ヤツらの尻尾を掴めば…きっと――

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として現れた異形の化け物。

 轟音鳴り響いた後に残るは、殺伐とした沈黙。

 重圧と緊迫に支配された空間の中に、先程のほのぼのとした感情は消え失せていた。

 異形の化け物は――コイツは恐らく妖魔で間違い無いだろう。

 こんな姿をした人間など見たことがないし、個性の異形型だと言われても、首を縦に頷くことは難しい。

 衝撃から発生した土煙が晴れていくと、次第と姿が露わになる。

 首、両手首両足首には錆びて汚れた頑丈な手錠が装着されており、まるで奴隷教育を受けたような姿を物語っている。

 鎖と呼ばれてるものは既に引き千切られており、檻に収監された猛獣が自らの手で破り、解放されたような、そんな独特な雰囲気を感じてしまう。

 

 しかし、雅緋を含めた他の忍学生にはそんなことどうでも良い。

 

「妖魔……何故、急にこんな所へ――」

 

 雅緋が次に漏らした言葉は妖魔に対する疑問の問いかけだった。

 言葉が通じないと理解していながらも、その本心は喉に伝わり口へと発せられた。

 しかし其の言葉が通じたのかどうかは定かではないが、此方の様子を伺っていた妖魔は突然――

 

 

「ガア゛ア゛ア゛アァァァアァアアーーーーー!!!」

 

 

 激しい号哭が辺りを震え立たせた。

 雅緋の言葉に呼応するかのように発せられたその凶暴な鳴き声は、尋常じゃない。

 軽く辺り一面に衝撃を放ち、鼓膜が激しく揺れ、耳が痛くなる。

 その猛烈な咆哮に耳が持ってかれてしまいそうな大音量は、マイクで馬鹿でかい声を上げるような威力と同じ。

 

「うっ…!うぅ…!いた…い…!脳が裂けるような声…何なのよ……!」

「ひゃあっ!?な、ななな何ですか…これ……いやぁ…うる……さい!」

 

 両備と紫は嘆声を上げるも、この大規模な咆哮の中、聞こえる者はいない。皆両手で耳を塞ぐので精一杯だからだ。

 雅緋、忌夢、そして痛撃に快感を得る両奈でさえも、表情を歪ませている。

 

(これは…妖魔の声だけなのか…?まるで個性や忍術を使ってるかのような破壊規模の大声だぞ!?)

 

 雅緋は心の中で呟く。

 その考えは正しいのか間違ってるのか、討伐する対象に今更どうとでもない事だが、それにしてもコイツの上げる声は余りにも常軌を逸している。

 

 シュン――ッ、と咆哮を一瞬で止めた妖魔は、土を蹴り飛ばし、視界に弾け飛んだかのように姿は消えた。

 何処へ?と声を上げる暇もなく、妖魔は――

 

「ウリィッ――!」

 

 ドガッ!怯み完全に隙が生じた両奈の腹部に拳を突き刺す。

 衝撃を表した効果音は、皆の背筋を凍りつかせるには丁度良いものだった。

 

「あッが――!?」

「両奈?!」

 

 両奈の苦痛に混ざった小さき悲鳴、両備が銃を構える暇すら与えず妖魔は、豪腕な手で首を掴み、真逆な方向へ身を乗しながら投げ飛ばす。まるでボール投げがどの位まで飛ぶのか、試験を測るかのような軽いノリ。しかし知性と言う縁とかけ離れた妖魔の判断は、戦場の中で正しい行動を起こしていた。そのまま鍛えられた脚力を使って吹き飛んだ両奈を追尾する。

 呆気に取られた皆も「早く追うぞ!両奈が殺される!!」と、雅緋の覇気含んだ言葉に乗じて追う。

 

 

 吹き飛んだ両奈の勢いは止まることを知らず、庭にある休息所として建てられた古い小屋の壁に大きく叩きつけられる。

 大きな衝動の音に、中にいた忍学生達は不思議な顔を立てながら外に出ては様子を伺う。

 

「何だ今の音?」

「突然叩かれた音が…って両奈さん!?」

「何じゃなんじゃ?訓練の息つく間にと思うて和菓子を食べてる最中に物騒な…ぬぬ?」

「はうぅん!?両奈さんどうしたんですかぁ!?」

 

 中にいたのは運が良いのか悪いのか、選抜補欠メンバーが揃っていた。総司は不可解そうに表情を曇らせ、芭蕉は両奈に驚き、芦屋は目を丸く開き、伊吹は驚愕の声を染め上げる。

 因みに千歳は仮免取得のため不在だ。

 

「あぁ〜…はぁ…はぁ……ちょっと、今の両奈ちゃん気持ち良いを通り越して痛みを感じるレベルなんだけど…

 み、皆んなも…早く逃げ――」

 

 しかし、痛みという感覚に腹部が残る両奈の忠告は、虚しく搔き消える。

 追ってきた妖魔はタイミングよく両手を合わせて腹部に叩き込む。激しい衝撃の余り、地面の岩盤はヒビが生じ、辺り一面に揺れが発生する。

 

「は――?」

 

 四人はその異常な現実を知らしめられたように、1秒の出来事に思考が白く塗り潰される。

 妖魔という、得体の知れない化け物を見れば、当然の帰結。

 

「ア゛ガアァァァアァアアーーーーー!!!ガァァ!!」

 

 糸が千切れた妖魔は、まるで破壊を目的とするかのように、発狂の声を上げながら両手の拳を使って両奈を叩き込む。

 ダァン!ダァン!ダァン!と弾け飛ぶ音は、銃弾を連射させるような爆竹に似た音だ。

 一撃一撃が強烈たる故に、対処できない。

 

「あぁっ!があぁハッ――!!」

 

 両奈の苦痛と絶望に染まったその顔色に、もう変態地味た表情は何処にも残っていない。

 口から血を吐き、悶絶しそうになりながら、霞んだ視界を維持させながら妖魔を睨む。

 両奈の衝撃は基本、受け流されることがあるボディ。いわば脳無の衝撃吸収といった物理を無効にさせるに近い特殊体質を備えている。

 無効に出来ないものの、あの雅緋の猛攻さえも痛気持ち良いと声を張る程だ。多少痛みがあるというのは、其れ程に雅緋が強いという意味を表している。

 しかし、目の前で破壊と殺戮を行う妖魔は、もはや次元を通り越していた――

 

 最早一撃の一つ一つが強烈な痛みを鮮明に浴びさせている。

 豪腕な強筋で振るわれる暴行、痛みに泣き叫びそうな絵面は、もはや阿鼻叫喚と呼ぶに相応しい――完全なるリンチ。

 

 其れは、両奈の衝撃流しの容量を遥かに超える証明を裏付けていた。

 

 

 霞む視界に、遠のいていく意識。

 死へと招き入れるかのような感覚を堪能しながら、両奈は「ごめん、両備ちゃん、両姫お姉ちゃん…もう、ダメかも…」そう呟いた。

 最後として適してる言葉…

 

 しかし、そんな唐突すぎる暴行を、死を、理不尽を、許さない者が居るのも当然であるのだ。

 

「ガァィ…?」

 

 突如。身体に金属の感触が伝わる。

 まるで自身を()()()()()()()ようなデジャヴを感じながら、その鎖鎌にみるみると縛られ拘束されていく。

 

「伊吹、芦屋!お前は早く学園内の学生に報告だ!芭蕉は援護してくれ!」

 

 鎖鎌と声の主は総司。

 訳分からずな状況の中でも、迷いのない判断と適切な行動は、紛れもなくリーダーの座に相応しいだろう。

 二人は戸惑いながらも首を頷き、芭蕉は忍転身し「畏まりました!」と叫ぶ。

 

「ギエ゛エ゛ェ゛エ゛エエエエエーーーー!!!!」

 

 喉から発せられる奇声の咆哮に、二人は一瞬隙を見せ、鎖鎌の力を緩めてしまう。

 その一瞬を狙った妖魔は、「カァッ!」と喝を入れ鎖鎌から脱出し、総司目掛けて猛攻を振るう。

 

「芭蕉!」

「恐らく…これで!」

 

 芭蕉は墨筆を振るい、斬の文字を飛ばし妖魔を迎え撃つ。

 空間から現れた斬撃に、予測不可能な攻撃を妖魔は成すすべなく諸に喰らい、空中のまま落下する。

 しかし大したダメージは見受けられず、精々皮剥き程度だろう。

 

「ゴガァアァ!ウガアアァァアーー!!」

 

 筋肉を膨張させ、威圧感に溢れでた咆哮。

 獲物を邪魔され、始末し損ねた妖魔の怒号は、いつ聞いてもこの大音量は聞きなれない。

 

「さっきの声主は…お前だったか……にしても、見ない化け物だな……ヴィランの異形系の個性とも考え難いな…」

 

「はい…私も、あんな邪悪な気配を放つ生き物なんて…見たことが……」

 

 そもそもこの怪物はどうやって此処へ辿り着いたのか?

 見張り役の警備たちは何をしてた?

 そもそもコイツの目的は?

 第一、この怪物の正体は?

 まだ仲間はいると考えて良いのだろうか?

 考え出すとキリが無い。疑問が多すぎて意識が遠のいていくような気がした。

 

「選抜は何をやって…いや、我々でも何とか完封して見せるぞ!ここでコイツの餌食にされるのは真っ平御免だ!」

 

 瞬間、総司は鎖鎌を乱暴に振り回す。

 しかし、決してデタラメでは無い。

 昨日の仮免取得試験、肉倉に見せた技と同じく、一定範囲内の空間を支配する総司の技術は、いつ見ても油断も隙も無い。穢れた相手に近付けさせまいと強靭な鎖鎌がしなりをあげて振るわれていく。

 

「後は…相手の出方にもよるが……」

 

 相手の行動パターンによって動きや体制も変えなければならない状況…相手の能力や行動が不明である以上、下手に動けば両奈の時みたくリンチにされるのがオチだろう。

 

 しかし、妖魔は総司の想像を上回る行動パターンに出た。

 何の躊躇も無く、大海原に飛び込むように、彼女に目掛けてジャンプし突っ込んでいく。

 余りにも無謀で、脳筋が出そうな行動、面食らう総司はそれでも力を緩めない。

 

「ウギャァ…!」

 

 対する妖魔は己の体をハリネズミの如く回転させ、尻尾を縦横無尽に振るい叩く。

 まるで、総司の鎖鎌を真似たような繊細な動きは、知性も理性も一切感じさせない化け物が成せる技とは思えない。

 

「ま…さか……」

 

 総司の支配してた空間を、容易く看破し接近することに成功した妖魔は、大きく口を開く。

 そして、両腕を掴み――

 ガブリッ!肩に牙を食い込ませ、噛み付いた。

 

「がはッ――!」

「総司さん!」

 

 芭蕉の言葉が虚しく消えるよう、妖魔は尻尾を伸ばし、薙ぎ払う。

 尻尾の攻撃を受けた芭蕉は、跡形もなく吹き飛び、背に岩をぶつける。

 

「芭蕉!ぐっ!?」

 

 今度はその尻尾を総司の反対側の肩に、鋭い尻尾を突き刺す。

 猛獣の牙、鋭利な刃物、二重の激痛が総司を襲い、獲物を離さないよう彼女の清らかで美しい体をキツく抱きしめる。

 この絵面だけ見るセクハラを受けてるように見えなくも無いが、この状況だと地獄絵図にしか見えない。

 

「アッ、ア゛ッ、ア゛ア゛ァァァアーーーン!!」

 

 久しぶりの血肉。

 柔らかな食感。

 新鮮な血の液体。

 それらはこの妖魔の心や体を潤わせ、幸福を満たしていた。

 もし表示マークのアイコンで表すのなら、ハートマークがお似合いな程に。

 

(私は…こんな汚らわしい獣に……殺されるのか――!?)

 

 彼女もまた、両奈と同じく死を錯覚する。

 狩りを行う捕食者は、時に狩られる側に回る、弱肉強食の世界をより強く証明付けさせた。

 己が捕食される感覚を、痛みと共に堪能しながら…

 

「総司さん!!もう、やめて下さい!!」

 

 芭蕉はふらつきながら体を起こし、弱々しくも涙を流しながら近づいていく。

 しかし体に力が入らない。

 恐怖が体を支配する。

 仲間の死が迫り来る絶望を味わいながら。

 

「もうやめてェ!!!」

 

 一心不乱に貪る妖魔に、制裁が下される。

 彼女の言葉に呼応するよう、妖魔は突然頭を掴まれ、彼女を掴んでた四肢の力が緩む。

 バギャァン!と鈍い音が、彼女の涙を止めるには丁度良かった。

 妖魔は訳分からずと何者かに殴られ、生い茂る木々の方へと吹き飛んでしまう。

 

「すまない!皆無事か――!」

 

「み、雅緋さん!」

 

 選抜リーダー、雅緋の登場に希望と安堵の息を漏らす芭蕉。対する雅緋は己の不甲斐なさに舌打ちをする。

 

「両奈!総司!」

 

 忌夢の叫ぶ声に、意識が曖昧な両奈と総司は、反応する。

 これでも全力疾走で駆けつけた選抜メンバー。別に怠けてたわけでもない、我武者羅に走った結果、危機一髪な流れになってただけ。たったほんの数分でこれ程の被害を齎すとは…猛獣を通り越してもはや害獣である。

 

「両奈!しっかりしなさいよ!アンタ、あんなトカゲ野郎に殺られるタマじゃないでしょ!?」

「ひ、いやぁ…!総司さん…肩が血塗れ…両奈さんも傷が酷い…!」

 

 両備は両奈の両肩を掴みながら、必死に言葉を投げかける。

 両奈は悶絶しながらも「大丈夫…だよ、両備ちゃん…」と優しく答えを返す。

 その言葉に、大丈夫なんて安心感含まれてない。

 聞いただけで解る、その声は掠れており酷い深傷を負ってる事など。

 いや、そもそも姿見て無事じゃないのは充分理解はできてる。

 それでも…双子の姉が死んでしまいそうになるのは、心が引き裂かれるほどに辛い。

 両姫お姉ちゃんの時と同じ想いをしそうで――

 対する紫は、二人の重傷に軽く眩暈がして、顔を青ざめる。

 

「クソッ!私としたことが…こんなので何が選抜メンバーの筆頭…私の不甲斐なさが二人を……」

 

 グシャッ!ベキシッ!

 雅緋の心底悔やむ嘆きの言葉の矢先に、木々の薙ぎ倒される音が、皆の耳に伝わる。

 大木を片手で掴み、武器にしながら振り回す妖魔は、殺意の眼光を放っていた。

 

「ガルルア゛アァ!!ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァア!!!」

 

「アイツ…」

 

 穢らわしい化け物は、何度も何度も奇声を荒げる。

 まるで其れは、獲物に対する警戒と威嚇。

 そんな妖魔に、鋭い衝撃が放たれた。

 

「ガバッハ――!」

 

「クソトカゲ野郎が!!!さっさと地獄へ堕ちろ!!」

 

 正体は両備、スナイパーライフルで何度も射撃を繰り出し、銃弾が妖魔の体に食い込んでは当たる。

 青紫色の血飛沫を飛び散らせながら、苦痛の喚き声を挙げる妖魔。得体の知れない謎多き妖魔から流れる血は、とても生物上のものではない…。

 両奈を傷つけられた怒りに、両備は止められない。

 

「皆んな!ここは小尾斗教官を呼ばないと不味い!雅緋も、早く学校の生徒を連れて逃げよう!」

 

「何を言うんだ忌夢!確かに連絡はしたが…それまで全生徒が保つとも思えん!ここは私達が食い止めなければ…」

 

「ダメなんだよ雅緋!それで()()()()()()()()()()()覚えてないんだろ!?!」

 

 ピタリ…ここで時空か静止したように、雅緋の身体の動きは止まる。

 

「……どう言うことだ、忌夢?」

 

「雅緋…やっぱりまだ記憶は戻ってないんだね…

 聞いてほしい、雅緋に両備と両奈も――…」

 

 忌夢の言葉に、何故か良からぬ予想が頭をよぎる。

 心臓の鼓動が早まるような、痛む動機を抑えながら、忌夢の言葉に耳を傾ける。

 

 瞬間――一秒にも満たない時間の中、僅かながら数々の記憶の断片が、脳を埋め尽くしていく。

 

 

『忌夢、今まで世話になった…だが、これでもうお別れだ』

 

『嘘だろ?雅緋…嘘だって言ってくれえぇぇー!』

 

『血界突破…やはり私にはまだ使えこなせないのか…?』

 

『やったじゃないか雅緋!先輩たちを黙らせるなんて凄いよ!』

 

『悪いが忌夢、お前も消えてくれ』

 

『雅緋、確かに今のお前の実力は学園の中でNo.1だ…だが、それと同時にお前は諸刃の剣と同じ……小物の妖魔でも簡単に殺られるぞ』

 

『運命とは何と理不尽な事でしょう…抜忍に続いて今度は貴女達と戦わなければならないなんて…』

 

『なぜ、月閃の忍がここに…?』

 

『皆んな逃げて!!この妖魔は今までと違ッ――!』

 

『両姫!!忌夢!!!』

 

『カグラに実る前に摘まさせて貰ったわ、この雑草供が…陽花と言う阿呆に憧れた鬱陶しい蝿よ…』

 

『貴様ああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!!!』

 

 

 数々の記憶が、感情を司る。

 冷や汗は止まらず、頭痛は止まない。

 だが、その外の景色や声、音は確かに聞き取れる。

 

「5年前、僕と雅緋、両姫を襲ったあの妖魔…そして、両備、両奈、お前たちの姉を殺したのは…あの妖魔なんだ」

 

 

 忌夢の衝撃な告白に、声を詰まらせる三人。

 害獣の正体――其れは少女たちの人生を狂わせ変えてしまった、姉の仇。

 

 

 




本当ならもっと早く投稿したかったのですが、買い物が忙しくて投稿遅くなりました。
それはそうと、皆さまそろそろ夏休みが終わった頃ではないでしょうか?大人の社員の方達は何も変わらず出勤する人もいれば、学生としては夏休みが終わってしまいい憂鬱だと思う方もいるのではないでしょうか?その時はこう言い聞かせましょう。

まっ、頑張ろ――と。
軽い気持ちで良いんです。
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