え〜、ちょいと報告があります。と言っても間違ってたことを報告するだけですが。
142話「正しく害獣」のラスト編に忌夢が3年前、両姫を殺めたのはこいつなんだと言ってた台詞ですが、3年前ではなく5年前に直しました。後々思ったのが、雅緋が21歳なのに三年でなぜ?となりましたし、この頃両姫が殺された時の雅緋は蛇女に入学して直ぐだったので(詳しくは閃乱カグラバーストリニューアルを参照)、訂正しておきました。もしかしたら学炎祭編でも雅緋や忌夢に関して「ん?」と疑問に思うことがあると思いますが、その時は訂正してなかった、或いはし忘れてた点だと思うので、ご了承下さいませ。
今思えば、あの頃から記憶が曖昧になっていた。廃人から復活した自分が、一体どんな人間で、忌夢とどう接していたのかが、余り覚えていなかった。だからこそ、ふと思うこともあった。
昔の私は、一体どんな自分だったのだろうか――?
復帰した当初は、そんな事よりも蛇女子学園を崩壊させた愚か者供と、攻めに入った敵連合。そして母の仇である妖魔を全滅させる為に、とにかく必死だった。心に余裕の無かった私が、伊奈佐に良い道具として利用されたのも、あの頃の私から考えて防ぐことは出来なかっただろう。曇りに隠された記憶に興味を示さず、私は未来を生きようとしていた。
しかし…それだけでは、己を乗り越えたとは言えない。過去の自分を知り、其れと向き合う大切さを、私は自然と忘れていたのだろう…
だからこそ、今となってハッキリと解る。
最後に欠けてた記憶のピースが揃った時、私の記憶は蘇り、世界観が変わった。
脳が活発に動くような錯覚に見舞われながら、深淵血界の中で無限に湧き上がる忍の血を体内に巡らせる。多量の血を摂取することで、妖魔に受けた傷は塞ぐよう回復し、折れた骨や弱々しい体をそっと癒していく。まるで、数々の忍達が自分の傷を撫であやすように、守り…治し、強くしてくれる。
「昔の私は…こんな風だったな……」
以前に起きた記憶が蘇る前兆の頭痛とは違い、今度は的確に且つ、繊細に記憶が川のように流れ、フィルムが映像のように映し出される。そこには急激に押してくる激流とは違い、痛みも動悸も何も感じない、懐かしさに浸るような、そんな歓楽的な状態。
そう、あれは5年前――祈願した秘立蛇女子学園に無事入学を果たせた忌夢と雅緋がまだ一年生だった頃の物語。
「雅緋、お待たせ!」
蛇女子学園に入学してから初日に、幼馴染である忌夢は、天真爛漫な笑顔を浮かばせながら、両手で買い物袋を持ち上げ、自慢げに見せてくる。まるで女子高生のような、そんな楽観的な忌夢に、私は厳しめな視線を送った。
「どうした忌夢」
「御免ごめん、少し買い出しで遅くなっちゃって…」
買い出し?
よく見れば、鶏肉に卵、醤油に砂糖、玉ねぎにネギと言った食材がスーパーのビニール袋からはみ出すように見えていた。晩飯…は、学校側から出してくれるので、何ら問題ない筈だし、その辺しっかりしてる忌夢が忘れてるとは考え難かった。
「ほら、僕たち蛇女に入学したら二人で祝杯パーティーを挙げようって、昔約束してたじゃないか」
嗚呼、そう言えば中学に入ってからそんなこと言ってたな…なんて心の中で呟く雅緋は、決して口には出さなかった。
雅緋と忌夢は幼稚園の頃から仲が良く、忍家系の事情でよく遊んでたりしたものだ。そんな仲は、例え母が妖魔に殺されようと、二人の仲は引き裂くことなく続いていた。
「花嫁修業のように…トントントンって、包丁を振るって、いつでも雅緋を満足させれるように、料理の勉強を頑張ったんだ!ホラ、見てよこれ。何を作るか解るかい?親子丼さ!」
ピタリッ――とここで、空間内で時を止められたかのように、雅緋は硬直し、それと同時に表情は友好的な顔色とは裏腹に、段々と険しくなっていく。
――親子丼。
嫌いではない、寧ろ大好物と言っていい程で、母によく作って貰っていた。母さん特性の親子丼の味は今でも忘れられないし、またもう一度食したいと何度願ったことか。
しかし、そんなお日様のように晴々とする記憶は陽が沈むように消えていき、代わりに頭の中によぎったのは――
頭部を失った愛する母の遺体に、テーブルの上に置かれた親子丼。
――ただただ、己の愚かさに悔やみ泣きじゃくり崩れた、あの頃の自分を思い出す。
「悪いな忌夢…今夜は出来そうにない…」
気分が悪くなり、俯く彼女は忌夢から視線を外す。今はとてもそんな気分ではないし…正直、余り忌夢と関わりたくないというのか一番の本音だろう。
「アレ?もしかして用事とか…?ま、まあ雅緋にも都合があるもんね!それじゃあ、明日なんてどうかな?」
「悪い、明日も無理そうだ」
「えっ?そうなの…?ん〜、じゃあいつ祝杯を挙げよっか?」
一つ一つ温もりと優しさに満ち溢れた忌夢の言葉に、雅緋は奥歯を噛み締めながら、厳しい視線を浴びせては、鋭い言葉を解き放つ。
「忌夢――何をヘラヘラ笑ってるんだお前は、一体何が可笑しい?」
「えっ?何が可笑しいって…」
雅緋の鋭い言葉に心を突かれる忌夢は、驚嘆の声を喉から発した。掠れてはいるが、少なくとも彼女にとってはそんな言われような身の覚えはないと顔に出てるみたいで、戸惑ってる様子が見受けられる。
「まさかだとは思うが…蛇女に入学出来たからと言って浮かれてる訳ではないよな…?」
「う、嬉しいんだよ!雅緋と一緒にこうして、希望した忍学校に入学出来てさ…それで…僕は雅緋の罪滅ぼしもしたいし…雅緋と一緒に…」
「下らんな…」
「へっ?」
それこそ誰もが聞けば間抜けに聞こえるような。素っ頓狂な声を上げる忌夢に構わず、雅緋は忍転身を終えて黒刀を握りしめる。黒く歪む漆色の業火はまるで全てを飲み込み焼き尽くすような異常感を漂わせている。
「笑顔なんて下らない。お前如きが罪滅ぼし…?なら、それに相応しいか私が実戦で確かめてみよう。
本気で殺す気で来い――」
忌夢の罪滅ぼしとは、謂わば母さんの死のことだ。
責めてる訳ではないが、母さんが死んだ原因は単に妖魔だけでは無かった。私と忌夢の落ち度にもある。
立入禁止という場所に、危険とは裏腹に感じる微かな好奇心に釣られた二人は、其処で遊んでいた。自分達も一流の忍になる為、ただの〝ごっこ遊び〟では満足する筈がなく、幼い自分達の軽はずみな言動でその場に足を踏み入れてしまった自分達。
立入禁止と言っても、少し不気味さが際立つのと蛇や熊が出てくるレベルだろうと、浅はかな考えをしていた自分達は知る由も無かった…
妖魔が住み着いてたなんて――
自分達に襲い掛かる妖魔に、腰を抜かしては足が竦み、立ち向かう勇気のかけらも無い。そんな絶体絶命の状況の中、帰りが遅いと駆けつけに来てくれた母さんが、突然目の前に現れて庇ったのだ。
そして、頭部を握りしめられては、果実のように手で握り潰した光景は、記憶の中に残ってるし、忘れたくとも忘れられない、永遠として染み付いたトラウマ。
文字通り頭を粉砕された母さんは、亡き者として死んでしまったのだ。
父が救けに来てくれた時、父さんに叱られずとも、自分達が情けなかった。
そんな軽い認識で、ただの遊び半分な好奇心で、母さんは死んでしまった。酷い言い方をすれば、母さんを殺したのは私と言っても過言では無い。
葬式の際、忌夢は涙と嗚咽を漏らしながら、私に誓った。是非、母の仇討ちをさせて欲しい…と。
当初の私は、忌夢の心を察して承諾した。目的は私も同じだし、もし仮に立場が反対であれば自分も申し込んでいるだろう。あの立入禁止の区域に足を踏みいれようと提案したのは忌夢だが、それに案じて頷いた自分も間抜けだ。
だが、私たちに落ち度があろうと、妖魔の意志など関係ない――私は、一匹残らず妖魔を滅する。
其れで、母さんが報われるのなら…これで、許してくれるのなら…そして、これで何も大切な物を失わずに済むのなら…
「忌夢…残念な結果だな。お前がここまで弱いとは……お前の実力に失望した」
戦いを終え刀を鞘に納めた雅緋は、深い溜息を吐き、瞼を閉じる仕草を取る。
模擬戦…とは言い切れない程に無残に散らばり火傷跡が見える訓練場、忌夢の体はボロボロで、対する雅緋はほぼ無傷だ。
「これでハッキリと解ったよ、お前は私と側にいるべきじゃない…とな。今日限りで、お前とは縁を切らせて貰う」
「――は?えっ…?」
余りにも呆気なく、唐突すぎる雅緋の告白に、忌夢の脳内は真っ白に塗り潰されていく。
思考が働かず、目を丸くしては喉に何かが詰まったような感覚に、何も言えなくなってしまう。
「忌夢、今まで世話になった…だが、これでもうお別れだ。お前なんかよりも、この蛇女には強い忍がごまんといる。私は、そんな者達と側に歩きたいと想っている」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!嘘だろ……?」
今まで誰よりも長く友人として生きてきた。
誰よりも大切に想う友達と縁を切る?
これほど、忌夢にとっての衝撃的な告白は無いだろう。そんな忌夢の心情など御構いなく、雅緋は背を向け遠ざけていく。
「嘘だろ?雅緋…嘘だって言ってくれえぇぇー!」
涙を流す忌夢の叫びは、虚無と化しこだまする。
訓練場に響く彼女の言葉に、手を添える者など誰もいない。忌夢は雅緋を友人としても少し違う意味としても愛することを止まなかった為か、雅緋(一人)を除いて誰も友達と呼べる者がいない。
だからこそ、雅緋と離れるのがどれほど辛いのか、どの位心が引き裂かれるのか…勿論、雅緋も知っている。
「はぁ!せいッ!!……はぁ、血界突破…やはり私にはまだ使えこなせないのか…?」
そんなこんなで三ヶ月が過ぎ、難なく選抜メンバーに入れた雅緋は、焦燥に染めながら喰らい付くすようにこれまでの時間を猛特訓に費やして来た。
日々を重ねることで強さを実感できるこの体感は、段々と雅緋を妖魔殲滅――カグラへと導いていた。別に憎しみや怒りを原動力として生きることは生物上としては不思議では無い。忍としてなら尚のこと、憎悪だろうと危険な橋だろうと道は道。ならば命尽きるまで我武者羅に走り続けば、より早くカグラへの道が切り開かれる。
大事なのはいつカグラになることではない――今すぐにでも、カグラにならなければ、辿り着くことは出来ない。
それなのに…鈴音先生からはこう言われた。
『雅緋、確かに今のお前の実力は学園の中でNo.1だ…だが、それと同時にお前は諸刃の剣と同じ……小物の妖魔でも簡単に殺られるぞ』
それを聞いた時、理解できなかった。
情念の劔こそ、忍の強さ――何が違う?私に何が足りない?私はまだまだ力不足だとでも言うのか?
解らない、分からない、わからない。
ただ、妖魔を駆逐する事だけを一縷の希望として突っ走って来た雅緋は、本当の強さを知る術はない。
いや…正確に言えば、その強さに気付かず、見向きをしないだけであって、答えは直ぐ近くにあるのだ。それを、雅緋が気付くかどうかだ。
鈴音先生は、学園長の話を聞いた上で彼女のことはよく知っている。妖魔の仇を討つという理念は間違ってはいないし、雅緋だけでなくとも妖魔が元凶で数々の命が朽ちているのは信じ難いが、今でも起きている。最悪、ヒーローや警察ですら手に出すと噂では流れている。
(私の何が……いや、鈴音先生から教わってない以上、自分で何とかするしか無いのだが……)
今思えば、あの時は単に焦っていただけではなく、力に固執する余り知的な考え方が出来なかったのだろう。
簡潔に言えば、脳筋…みたいな。しかし座学などは成績を落とすことは無かった。元々勉学は小学校の頃から出来てたし、知識を吸収する力も備えていた。
だが鈴音先生の言ってた本当の力とは、とてもそう言った座学的な意味とも思えなかったのだ。唯一、本当の力と思い込み、過信していたのは……中学の卒業が迫っていた時に偶然、古い書物を家の本棚から見つけた――血界突破の秘伝書だろう。
空間に染み付いた血を、大量に摂取し膨大な力を取得する禁術は、同時に命を危険に晒す物。
精神崩壊を始め、制御の難しさと供に体の負担が耐え切れず死を招くこの術は、カグラでさえも術を発動させるに困難な代物。だが、この術こそ命を賭けるに相応しい。
これがあれば、妖魔の殲滅だって――
昔から、私は何も変わってなかったのだろうか…まさか、あんな悲劇を生み出すなんて、その時は想像を逸していた――
「凄いじゃないか雅緋!先輩たちを黙らせるなんて」
隣で肩に手を置くのは忌夢。縁を切った…とはいったが、それでも話しかけること位は良いじゃないか、と言う理屈で会話を交える忌夢に、溜息を吐く。
「悪いが忌夢、お前も消えてくれ」
冷たい言葉を忌夢に投げ飛ばし、そっぽを向く。
朝、訓練早々に上級生達がよってたかって一人になってた雅緋を囲むように刃の矛先を向けて来た。
何でも選抜メンバーの座を狙ってるらしく、選抜試験で一位になった私を殺すことで、返り咲くつもりだったのだろう。だが、どれほどの数で攻めてこようと、結果は同じ。ほぼ目に見えていたと断言して良い程に、勝負の差は歴然。番狂わせなし雅緋の勝利に収まった。上級生達を追い返したことなど心底どうでも良く、何事もなく木偶人形を切り捨てていた所だ。
「今のメンバーはまだマシだ。例え卑怯者と罵られる覚悟は有った。一方で、お前はどうなんだ?何の覚悟も感じ取れないお前が、私の側にいるな」
「覚悟なら僕にだってあるさ!雅緋の為に戦う…だから、僕も雅緋と同じ選抜メンバーに入れたんだ!」
「何ッ!?」
ここで初めて雅緋は驚嘆を上げた。
まさか――蛇女の中で猛者供がいる中、忌夢が選抜メンバーに?最初は何かの間違いだと思ったのだが、鈴音先生を始めた他の教師達からも言われたそうで、誤報では無いらしい。いや…ここまでの成果が挙がっている以上、変に疑うのは縁を切った相手でも流石に失礼だろう。
妖魔を除いてどんな相手だろうと、強者なら喜んで歓迎する雅緋にとって、失礼な言動だけは慎むのが、雅緋なのである。
「これで僕も雅緋の役に立てる、これ程嬉しく思えることは無いよ!」
「…ッ」
忌夢の幸せそうに綻ぶ笑顔の中で、心の底で舌打ちをする雅緋は、唇を噛みしめる。
(どうしてだ忌夢……お前は、私の側にいちゃダメなんだ……なんで解ってくれないんだ――!!)
突き放し、自分の心とは裏腹に酷い厳しめな言葉を浴びせても、忌夢は心を折れることなく子犬のように付いてくる。そんな忌夢の優しさと友人としての在り方に、喜びを押し殺す雅緋は、口を開く。
「良い加減に――ッ!」
キィン――ッ!バガァン!とここで、爆発の連鎖が起こる擬音が、耳を貫く。それにこの血みどろな空間に、この異様な気配…
「これは…」
「嗚呼、間違いない。妖魔の気配…忍もいるな、しかも二人」
黒く禍々しい気配に、荒々しい忍の気配…
肌身で感じ取れる尋常じゃない気迫に、体の芯が痺れるほどの体感に身を覚える。
「雅緋、どうする?」
「どうしたもこうしたもあるか、妖魔は皆殺し…当然、向かうに決まっている」
「解った!なら、行こう」
「おい、ちょっと待て…お前も付いてくるのか?」
「勿論だよ雅緋、嫌だと言われても付いて行くから」
「忌夢、お前の軟弱な姿勢では妖魔との闘いで無駄死にするだけ…お前は引っ込んでろ」
「無駄死にじゃないさ…雅緋の為に捨てる命は、無駄死にじゃないから…」
「――ッ」
言葉が詰まり、忌夢の善良な心に苦しくなってしまう。
こんなにも突き放すような、嫌われた言動の態度を取っているのに、それでも忌夢は…
「……もういい、勝手にしろ」
本当は来て欲しくない。
本当は忌夢だけでも無事に…
だから、態と嫌われるような反応を取ったのに…
本音の気持ちを抑え込み、走って行く。
森林を掻い潜る中、生い茂る緑を退かし爆破の連鎖が起こる方向へ突き走る。
近付くほどに妖魔と忍の気配がより濃くなり強くなる。その度に鼓動が速まり足に力が入る。そして緑の海を掻い潜ると供に視界に眩しい太陽の日差しが照らされる。
「これは…」
「貴女達も、忍の気配を察して現れたのね…」
広がる土地に、凛とした声が耳朶を打つ。
雅緋と忌夢が視界に捉えたのは、意外なものだった。
見かけたことのない忍学生の服に、少し傷痕が残っているもそれを掻き消すかのような、凛々しくも美貌に溢れた女性の容姿が、それを帳消しにする。
木々の奥には、この女性と闘い破れたであろう大の大人が倒れ伏せていた。抜忍…なのだろうか、忍新聞で見かけたような顔付きだ。両腕が黒く頑丈で物騒な籠手を装着し、最近付けられたであろう顔には筋一本の刀傷が斜めに残っている。これは恐らく刀の傷跡ではなく、彼女の武器、ショットガンによる銃弾で負ったものだろう。筋骨隆々とした凶暴そうな相手を倒したと思われる。とてもそうにも見えないが、彼女から放たれてる馬鹿デカイ闘気が、二人を納得させた。
見かけによらず…とは、このことだ。
「忍学生…やはり……私は蛇女子学園の選抜メンバー筆頭・雅緋!」
「同じく、忌夢!」
「私は死塾月閃女学館選抜メンバー筆頭・両姫です」
彼女は月閃の両姫。両備と両奈の姉にして母親代わりとして務めている。そしてこの事件を後にいずれ、二人の双子は雅緋の復讐を果たすべく転校してくるのだ。
「チッ…よりによって善忍か…」
「運命とは何と理不尽な事でしょう…抜忍に続いて今度は貴女達と戦わなければならないなんて……」
まるで都合が悪いような物言いだった。
しかし雅緋にとっても気持ちは同じなもの。何せ彼女の目的は善忍と争う事ではなく、妖魔と闘うことが目的なのだ。
頭を悩ませる双方――刹那、異常な殺気が風のように押しのけ、空気の流れが一気に変わる。
「ッ――!来る…気を付けて下さい、ヤツが来ます!!」
「ヤツ…?」
両姫はまるでさも来ることが解ってたかのように、武器を握りしめ雅緋と忌夢の二人組とは違う方角に意識を向ける。
ガサガサッ!ガサガサッ――!!
草むらを描き走る音、草木の葉が揺れ不快な音を奏でて行く。その音はやがて近付く度に強くなり――
「カロロギャーッスーーッ!」
黒き竜が姿を現した。
聞き慣れない奇声はとてもこの世の者とは思えず、甲高い声に鼓膜が激しく揺れる。
二足歩行の漆色に塗られた竜人は、幼く見えてまるで子供のようだ。頭部は水晶玉のように丸く、首には赤いスカーフを巻いており、下半身はジーパンを着用、その上に足はランニングシューズを履いている。
この妖魔は、現在進行形で蛇女子学園を襲ってる妖魔と同じ種類だ。外見が幼く見えたり、奴隷のような格好では無かったが…
「ッ!――これが、妖魔か!」
母の時以来姿を見てない雅緋と忌夢は、化け物を目前に驚愕する。改めて直視すると、この世界にこんな化け物が生きてることさえ疑問を抱いてしまう。
妖魔は青紫色の唾液をボタボタと地面に垂らしながら、獲物を凝視する。
「憑黄泉…気を付けて下さい、この妖魔は
どうやら両姫は妖魔の存在だけでなく、この化け物の情報も既に知っていた様子だ。しかし彼女もまた同じ忍学生となると、一体何故この妖魔の詳細を知り得ているのか、理由は不明だったが、一先ずこの化け物を倒すことに専念する。
(両備ちゃん、両奈ちゃん…お姉ちゃん、絶対に生きて帰って見せるね……そして、陽花さん…見てて下さい。貴女の仇も、討ち果たして見せますから――)
「お姉ちゃんは清く正しく真っ直ぐに、忍の道に舞い準じます――両姫、鎮魂の夢に沈みます!!」
善と悪が隣り合い、謎の妖魔――憑黄泉に立ち向かう。
????「妖魔は何処から生まれたのだろうか?そもそも、いつ妖魔という存在が確認されたのだろうな?そもそも奴等の目的は?何を理由に生まれたのか?
謎が謎を呼び、この全てが解明された時、我々は其の者を必ずや駆除せなければならない。
ん?私の正体はもしや前回の後書きで登場した白い化け物の事では無いのかって?いいや、私は??では無いよ。全くもって別の存在…ふむ、しかし愚かなものだ…人間という物は。
家族が、母が死んだからと言ってあそこ迄力に固執するとは…所詮は感情に飲み込まれ、力に溺れた哀れな人間か…そう言う者こそ死に逝くのだ……何を急ぐ必要がある?皆死ねば最後は楽園で暮らせるのだから。決して蔑んでる訳ではない。死者である者が敵討ちを本気で臨むだろうか?危険に晒してまで我が子に敵討ちをさせるなど、普通の考えではあり得ない…と、そう思ってはいるのだがねぇ」