光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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記憶を取り戻そうと、ただ一つ…許されないもの、それは…母を殺め、仲間を苦しめた、妖魔という悪魔――




149話「ただいま」

 

 

 

 

 自分に記憶が戻ってから、全ての価値観が、世界が塗り替えられた錯覚に入る。元々、自分の記憶にそこまで興味を示さなかったからこそ、もっと早く気付くべきだったと多少の悔いは有る。もう一人の私を忘れ、取り残してしまった…

 でも、それも今日で終わった。

 仲間と供に蛇女の誇りを取り戻し、掲げようとする私も――妖魔を殲滅する強さに固執する私も、両方が私という存在で出来ており、私を映し出しているのだ。どちらが欠けても意味がない、だからこそ…私はもう一人の自分と供に未来を駆け抜け斬り開く。

 

「両姫の妹、両備と両奈…ただいま戻ったぞ」

 

 

 雅緋の慈愛に満ちた声に、面食らう二人は声を詰まらせてしまう。言葉が出ない。今までとは雰囲気も強さも違う雅緋は、まるで何か強さを手に入れたような、そして…最愛の姉である両姫の言葉を、自ら口に出すとは思いもよらず。

 

「忌夢、待たせたな。どこまでも美しく、私の側を支えてくれた、私の無くてはならない…親友」

 

「が…あ……ああッ、あ…」

 

 凶暴、正しく妖魔に似た忌夢は獣の如く叫びながら威嚇をするも、雅緋はそんなものどうでも良いと言わんばかりに、優しい笑みを浮かべる。

 

「すまない忌夢、リーダーのくせに私は…お前の苦労も心情も知らず、負担をかけさせてしまって…禍魂が復活したのか、覚醒か……いや、これは忍術の暴走か。

 こうなってしまったのも私か…まるで、あの時みたいじゃないか」

 

 両姫が殺され、怒りに狂った自分は血界突破を使役し、命の限り暴走を繰り返していた。そして、妖魔になりかけてた私を救ってくれたのが、血界反転をした忌夢…お前なのだろう?

 

「だが安心しろ…私が戻ったから、もう大丈夫さ…な?戻ろう、皆んなの所へ」

 

「雅…緋……」

 

 忌夢の禍魂が、浄化していくかのように少しずつ消えていく。だが、完全に消え去ることはなく、紫が亡くなったという現実が突きつけられた現在、忌夢の心はあと一歩といった形で晴れはしない。

 

「ゲェア゛ア゛ァァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛――ッ!!」

 

 けたたましい雄叫びが、二人の和む会話の空間を引き裂く。

 禍魂の忌夢にズタボロにされてた妖魔は体に負傷を負いながらも、殺意を孕ませた拳を振るおうと飛びかか――

 

 

「貴様は黙ってろ、トカゲの分際が――」

 

 

 るも、雅緋の威圧感ある眼光が、大砲の如く放たれ、全身に痺れが伝わった妖魔は地面に着地した後、距離を取るように後方へ飛び去った。初めて、相手から放つ威圧に恐怖を覚えた妖魔は、何が起きたのか訳わからず、暫く放心状態になってしまう。

 ただ、睨んだだけの押しつぶされる圧迫感は、妖魔からしても予想外だったろう。

 

「ぼくは…ぼ……ゔぅッ……!」

 

「忌夢、いっぱい辛い想いをさせてしまったな……だから忌夢、これが終わったら――親子丼を食べよう」

 

 えっ?

 たった一つの、優しさと温もりの言葉に、忌夢の瞳は光を取り戻す。これは、自我を取り戻したものなのか、興奮状態による気性の荒さは沈静化していき、体全身の強張った筋肉が解けていく感覚に陥る。

 忌夢の禍魂は紫の拒絶とは違い、彼女の場合は紫を失った喪失感と罪悪感、そして妖魔に対する膨大なる怒りから生まれたもの。ネガティヴに関しては禍魂の根元の原因なので、共通点が一緒なのは別に問題ではない。

 制御できない禍魂を抑える対処方法は

 一つは簡単、それは処罰すること。平たく言えば殺処分、殺してしまえば何ともないと言う、シンプル且つ殺伐で一番に好ましくない方法だ。

 一つは原因となった根元を解決させること。解決する方法の大半がそうなった元凶によって打開することも可能なのだ。

 一つは禍魂とは真逆、ポジティブでありネガティヴなかのとすらも上回る感情。これは相手次第だが禍魂とは怒りとネガティヴによって発生したのだ。ならばその歪んだ邪悪な気を取り消せば良いのだ。尤も、余程のことでない限り禍魂の暴走はあり得ないので、それを上回る衝撃を与えるのはかなり骨が折れるだろう。

 しかし、雅緋が記憶を取り戻したのならば、彼女が生きて心の奥底から忌夢と向き合うのなら、禍魂の暴走が治るというのは、あり得なくもない。

 

 

「前に約束したじゃないか、私の親子丼が食べたいと。なら、お前が死んでしまえば、食べさせてやることが出来ないじゃないか」

 

「雅緋…」

 

 正気に戻った忌夢は、瞳を潤わせる。紫を失った怒りは微かに残るも、それ以上に雅緋の優しさが嬉しかった。嘗て、記憶を取り戻し自分のことを見向きすらしなかった彼女に対して、しょうがない、でも元に戻ったようなもの、と勝手に認識していた。しかし、今を観ればわかる。彼女は、今と昔の彼女なんだと。

 そして、未来に向かって刃を掲げる彼女は、完全無欠な雅緋だと。全てを知っている忌夢だからこそ、解るのだ。

 

「だから先ずはゆっくり休め…後のことは私に任せろ」

 

 優しく頭を撫でる雅緋に、これまで蓄積された疲労感と過大なる負担が押し寄せ、瞼を閉じる。また…雅緋が暴走でもしてしまったら…と、ふと脳内に過ぎるがその心配もなさそうだ。

 今の雅緋は誰よりも強い、きっと両姫よりも強いんじゃ…少なくとも、この妖魔に負ける要素が何処にも見当たらない。大丈夫…雅緋なら、きっと。

 

 

 

「さて、両備と両奈。二人は忌夢を頼む」

 

「えっ、あ…うん」

 

 気絶し眼を閉じてる忌夢に、雅緋は二人を呼び抱え込ませる。浮かない顔を立てる二人は、何も言わずに忌夢を抱え込む。安全な場所へ避難しながら、せめて見届ける必要があると二人は判断し遠くながら雅緋を見つめる。

 

「……すまんな、待たせて貰って」

 

 忌夢から妖魔へ意識を変えた刹那、声色が変わる。言葉に重みが増し、憤怒の感情が表に出る。絶え間ない怒り、これは…母上が殺された時から既に消えることのないものだ。

 

「……そうだな、お前は負の感情を好んでるんだったな。だから、態と人を弄び、壊し、愉んでた。そうだろ?

 ――言葉は、分かるんだろ?」

 

 

 雅緋の問いかけに妖魔〝憑黄泉〟は何も動じず、図星を突かれたように急に静かになる。雅緋の放たれた常人ではない力量の気配を放たれたからか、自分の敗北が見えてるのか、はたまた見透かされたことに対しどんなリアクションを取れば良いのか、少なくとも先程の凶暴な妖魔から〝余裕〟という顔は完全に消え失せていた。

 

 有るのはただ一つ――コイツを殺すこと。

 

 

「憑黄泉、お前は何がしたい?なぜ人を殺める?

 何がお前という存在を創り、生み出した?人の不幸を見て楽しいか?」

 

 マグマのように煮え滾る怒りを通り越した言葉を孕ませ、妖魔に問う。嘗て母を殺めた妖魔、嘗て両姫を殺めては悲劇を生み出した妖魔。天竜衆の名前にどのような意味が有るのか、存じてはない。だが、イザナギと呼ばれた妖魔が両姫を殺めた理由は、あの場の流れを観てて言える言葉は

 

 

 ――ただ、普通に殺した。

 

 

 偶々そこにいた。

 特に理由はない日常茶飯事。

 邪魔だったからつい。

 

 あの妖魔はこんな程度の軽い認識だったのだろう。今ならより強く実感出来る。別に両姫を殺したことは、雅緋自身怒ってはない。忍の定めは死の定め、幾重もの忍が妖魔との戦闘で敗れ、命に危険を犯し帰らぬ者となったのは紛れも無い真実。

 だからこそ両姫が死んだのは、忍の定めに沿ったものだろう…だが、それはあくまで雅緋自身という話で、仲間を悲しませた怒りは想像の遥か何十倍にも重いだろう。

 

「死した命は戻らない。お前の、遊び道具として存在してるんじゃないぞ私達は」

 

 本来、雅緋は余り他人に質問を下す主義ではない。

 何故なら、それぞれ皆は背負う価値観が有って、己の信念の刃を掲げてるからだ。時には自分みたく他人に話せない事情だって存在する。そう言った意味も含めて彼女は、基本的に他人の心を探ろうとはしない。何処かの、心の隙間に寄せ入るような、巨悪とは違う。

 雅緋の義憤を募らせた言葉に、脳内がフラッシュバックする。

 

 

『ハハハッ、妖魔よ。私が一匹残らず滅してやろう!我が名は――神楽。終焉を刻めし者――』

 

『貴様ら妖魔は、一匹残らず駆逐してやろう!愛する神楽と供に!』

 

『失った命は二度と蘇らない。命とは尊い者…お前達妖魔の罪は決して誰にも許されない。忘れるな――私は何度でもお前の首に刀を振るおう』

 

 

 これは、何百年前の話だ?

 だがこれは決して己が体験したトラウマではない。妖魔の遺伝子細胞が、記憶に刻まれているのだ。

 だからこそ、雅緋から放たれる威圧はそんな先代達に引けを取らない強さに、動揺を隠せないのだ。まるで別人のように強く急成長を遂げた彼女は、妖魔からの視点では明らかに異常。

 

「………――」

 

 意を決した妖魔は、覚悟を決めて全身に力を入れる。

 ゾオォン!と聞き覚えのない効果音を発する妖魔の気は、増大に膨れ上がっていた。

 妖魔の竜鱗と呼ばれる硬い皮膚からは紫色の毛が腕、頭部、膝から生え伸び、少し気色悪く思えてしまう。これは、紫の毛…つまり、他者の血を吸って己の者として扱う生態系…ヤツの生体がどんな風に構成されてるかは不明だが、別に対してもう驚きもしなかった。

 前に、イレギュラーな存在とご対面し、闘ったことがあるからだ。ここまで言えば何の意味を指してるのか、解るだろうから皆までは言わないでおこう。

 

「カァァルァァァァア…ッ!!」

 

 蛇に似せた低く唸り声を上げる妖魔の野生的な威嚇。全身全霊を込めて嬲り殺しにかかる気なのだろう。対する雅緋は微動だにせず、刀の鞘を硬く握り締める。この心地いい感覚、妖魔との戦いでは絶対になかったこの温もりは、記憶を取り戻したからか、それとも…日神ノ紋章が発動したからだろうか、太陽を連想させる日輪の模様が、頬や胸、そして首からと侵食するように現れていく。

 以前の暴走とは違ったこの紋章からは、光の温もりが体内に沸き、心地良くしてくれる。凄く調子が良くなり、今なら余裕で傀儡を相手に死体で本物の山が作れそうだ。

 

「雅緋、悪の誇りを舞い掲げよう!」

 

 その言葉を合図に、再戦に入る。

 雅緋が先か、妖魔が先か、双方は地面を蹴り間合いを詰める。雅緋の拳が、妖魔の拳が衝突し、空間が揺さぶるよう衝撃の余波が生まれる。

 雅緋の腕はともかく、何度も戦を交えた妖魔の腕は既に限界を到達し、腕が弾け飛ぶ。

 

「ッッッ!?アガァアアァァアァァアア!?!!ア゛ァァァーーーッッ!!」

 

 消し飛んだ腕に猛烈な痛みが現れる。一方で雅緋の腕は健全といった形なのか、それらしい傷跡は見当たらない。肉の形を保っている。

 

(もっと血流を早め、限界の壁を越えるんだ…!意識しろ、体中の熱と呼吸、血の流れ、一つ一つの細胞を…!)

 

 意識を集中すればそれ程に、雅緋に浮かぶ日神ノ紋章が浮かび上がる。瞳の色は赤くもあるが、血のような淀んだ色ではなく、まるで灼熱の炎を曝け出していた。

 

「憑黄泉ィィィィ――!!」

「ガァエエェェェェ――!!」

 

 双方は吠える。

 啀み、怒り、荒げ出す。

 太陽の使いと、月の使いは、お互いの使命と意思を持ち、ぶつかり合う。

 

「絶・秘伝忍法――【闇に染まりしDarkness】」

 

 光のない欲望と絶望の漆色が、全てを飲み込まんとばかりに憑黄泉を闇に染め上げる。黒の豪炎は辺りの空気を吸い、温度が急激に変わる。その炎の海を脱出しようと跳躍しようにも、炎に重りがついてるかのように、鈍くて余り動けない。これは…?

 

「そらぁッ!」

 

 パァンッ!と風船が破裂したかのような音と供に、妖魔の顔面が歪む。首に嫌な音が鳴り、骨の軋む音が鮮明に聞こえたような気分だ。そして何よりも雅緋はこの一定空間の中で、闇の炎を前に何ともないような動きをしている。まるで自分の絶対領域だと言わんばかりに、平然と。

 本来ならば自分の能力によっては無差別で己にも影響を与えかねない能力だって存在する。耐性があるものもいるが、雅緋の場合はそんなレベルとは少し違うような気もする。

 

「絶・秘伝忍法――【罪を滅ぼしrequiem】!」

 

 ザシュッ!ザシュッ!肉斬る音、血飛沫が飛び散り青紫色の液体が炎によって蒸発し、妖魔の前身は黒焦げだ。なすすべなく、意図も容易く人間に葬られるなど、これまであっただろうか?

 

「ガァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッ!!」

 

 妖魔術――【禍魂九頭龍覇衝】

 

 紫の忍術・禍魂と総司の忍術を取り込み解放させたこの異能は、周辺の全てを禍魂と尻尾の鎖鎌を振り回し、空間の全てを支配する。衝撃と鎌鼬の合わさったこの忍術は最適な様子で、雅緋が一面にばら撒いた漆色の業火は掻き消されていく。

 鬱陶しい灼熱の炎を退かすよう、振り払う尻尾を雅緋は

 

 ザンッ――と何の変哲もなく、平然と無慈悲に刀が下された。

 クルクルと何回転かしながら跳ね飛ぶ尾は、宙を舞い、炎が灯り、焼き尽くす。

 

「アガァバッ!?」

 

 突如として呆気なく尻尾を切断されたことに戸惑う様子を見せる憑黄泉は、切り落とされた尻尾に視線を移す。

 斬り落とされた尻尾は燃え続け、動くことが出来ない。憑黄泉の尻尾は虫の神経のように生命力が有り、切断された後でも活発に動くし、斬り離されてからも三日三晩は通常に動く。そんな妖魔の尻尾が、微動だにしないのは、明らかにこの女性の忍が原因であるというのは、率直で理解した。

 

「絶・秘伝忍法――…」

 

 そして雅緋は黒刀を妖魔に差し向ける。

 この見慣れないようで懐かしいような構えは…

 

 

「ク、ク…ゴ…ヤハァ…?」

 

 

 憑黄泉は口の中に溢れる血を流しながら、何かを問うように口を開く。言葉が聞き辛く、雅緋は何を言ってるのか解らない様子ではあったが、躊躇することなく動作を緩めない。

 

「【妖魔を罰せしParadiseLost】!!」

 

 瞬間――憑黄泉は想像を絶する猛攻を食らう。

 視界がブレ、肉片が飛び散るように血飛沫が激しく飛び、痛覚の伝達が送り切れない程に遅い。

 黒炎と光炎の、白と黒を司る炎の拳の乱打が、憑黄泉を滅するまで殴り続ける。何か打開策を打とうにも、この連打の打撃を、瞬間火力の高い猛攻を食らうのは、妖魔でも身が持たない。肉が保てず肉面が剥き出し、骨が何本か折れてしまう。

 

「ガッ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーッッ!!」

 

 憑黄泉の断末魔。

 痛みという感情から湧き出る悲鳴。

 先ほどの立場とは真逆な状況。

 何より気に食わないのが、雅緋の感情が憎悪や悪意ではなく、感謝と透き通った純粋な負の感情とは真逆な味…

 それは、憑黄泉が最も嫌厭する優しい感情だ。

 ……気にくわない。

 実に腹ただしい、なぜ怒らない?

 殺意を向けろ、悪意を募らせ、憎悪を蓄えろ、なのに…なぜこの人間は、こんなにも心が綺麗なのだ…??

 

 

「雅緋ちゃん、凄ッ…」

「雅緋…一体何が……」

 

 安全範囲…と問われると何とも歯痒く答えづらいが、両備と両奈は被害を受けない範疇でソッと眺めていた。

 先ほどまで手も足も出ず、歯が立たなかったあの妖魔が、まるで赤子の手を捻るかのように、優勢な立場で葬ってるではないか。妖魔は断末魔を叫び、雅緋は悪への哀れさと、善意から来る怒りを込めて、妖魔を滅多打ちにしている。

 たった記憶を取り戻したという、二人にとっては訳分からない状況だったが、たったほんの数秒で雅緋が変わった。以前よりも強くなった、それだけは確かだろう。

 

 

 

 なぜだろうか、不思議と妖魔が憎くない。

 母を殺めた仇なのに、あの日をキッカケに、妖魔を怨み滅する為だけに鍛錬を通してきたのに…今の私は、心が清らかだ。まるで太陽の光で負の感情が浄化され、清らかになるような…穢れを落とし、汚れを消すような、そんな感覚が私の心の中で満たされていく。

 もう一人の自分と向き合い、一緒になったからか、どんな理由があろうと、確かにこれは異常…とも呼べるものだろう。だからと言って母を殺した罪を許すかと問われるとそうでもない。

 実際に妖魔は許してない、しかし昔ながら私怨は混ざっていない。私の心はただ、カグラとなってその使命を全うし、闇夜に生きし化け物を討つだけだ。

 

 ただ、それは…皆んなが願ったこと。

 コイツだけでなく、大勢の忍が妖魔という存在に命を落とした。そんな忍の血が、私の中で流れていく。

 

「血界突破…それは忍の血を取り組む危険な禁術だ――しかし、他者の血を取り組み己の力として扱うことができるとすれば??その血の量が、全ての血が流れてるとしたら?前世の忍や、今を生きし忍の血を、私が吸収すれば?その力は無限に膨らむんだ。だから、私は妖魔を討つべく努力を惜しまず励み、取得した。

 

 さァ、覚悟しろよ――今の私は限界という概念は無い」

 

 血界突破――発動させることで大量の血を体内に取り組み戦闘力を上げるこの忍術は、カグラの血も混ざっているのだ。つまり、今克服した彼女はカグラをも超えうる存在と成り果てた。

 それこそ、オールマイトやオール・フォー・ワンとですら良い勝負が出来るのではないだろうか。問題は時間によるタイムリミット…永遠に血を摂取する訳ではないので、体力面や精神面でもいつまで保つかは解らない。

 

「………」

 

 憑黄泉は察した。

 どう足掻いてもこの女には勝てないのではないか――と。血界突破……今の雅緋は大勢の忍が流した血を己のモノとし力を身につけた、それはつまり、雅緋には今大勢の忍達が彼女の血肉と化し戦ってるというなのか?

 ……これは、非常に不味い。

 しかし、マスターからの命令では蛇女子学園を崩壊させろとのこと、選抜メンバーが最低ライン。それすら合格に達してない上で逃げてもその先はどうすれば良い?

 雅緋の絶・秘伝忍法を諸に浴びながら、静かに生き永らえる可能性を捜索し打開策を考える。

 

 

 

 私は、大勢の人間に守られている。

 雅緋は心の中で呟きながら、振るう拳を一切緩まず、休ませない。一撃一撃が全力、それはまるで雄英高校のUSJに襲撃した敵連合の脳無戦を沸騰させる。

 肉削る拳の打ち合い、どちらも劣らず全力の限りで振るう拳の嵐、今の雅緋は正にその立場に置かれていた。拳を打つだけで衝撃が生まれ、妖魔の骨が、鱗が、肉が、抉れながら打ちのめされている。灼熱を灯したこの拳は、光と闇を司る。

 

 しかし、この禁術が無事に扱えるようになったのは、仲間のお陰でもある。

 忌夢が、紫が、両備が、両奈が、私の背中を支え、付いてきてくれたから。こんな訓練と強さにしか興味もない、女性らしさの欠片さえ感じさせない、男らしい私を、仲間という存在が満たし、心を潤わせてくれるから。その想いに応えようと、自然と力がみなぎり湧いてくる。

 

 私は一人じゃないんだ――私の背中には、仲間たちの想いが沢山に詰まっている。その光には、忌夢が、紫が、両備が、両奈が、鈴音先生が、父上が、母上が、手で背を押し助力してくれる。

 

 忌夢――昔ながらの幼馴染であるお前だからこそ、お前まで命を落とすことを恐れ、冷たく厳しめの言葉を浴びせてしまった。あろうことか廃人になった私に世話をしてくれたお前には、感謝の言葉でいっぱいだ…

 

 紫――お前は引きこもりで、よく暗い場所を好むよな。まるで冬眠する熊みたいだな…だが、姉の為に私のために、そして蛇女の為にと勇気を振り絞って部屋から出たお前を、賞賛する。大勢の人間からすれば小さな蟻の一歩だろうと、私たちからすれば大きな第一歩だ。私たちのために戦ってくれて、有難うな。

 

 両備――もし私と忌夢が忍学校を卒業したら、その時は両備、お前が選抜メンバーの筆頭となり、皆んなの手を引っ張ってほしい。お前は座学に於いても戦闘においても優秀な面がある。リーダーらしさも備わってるし、お前なら蛇女の未来を任せそうだ。嘗て、両姫が月閃の選抜メンバーの筆頭として月閃を導いたように。

 

 両奈――お前は…個性的というか、特殊な性格なんだなと思う。だが、お前は優しくも強い。巫山戯てるようにも見えるが、初めてお前と刃を交えた時は面食らったことでさえ鮮明に覚えているぞ。

 その優しさと強さは、お前たち二人の姉――両姫を沸騰とさせる。

 

 鈴音先生――短い間でしたが、この私にご指導を有難う御座います。私たちが強くなれたのは、先生の厳しい指導有ってのこと…貴女の恩義に応えるべく、カグラとなって妖魔を討ちます。

 

 父上、母上――こんな私を、ここまで世話をし育くみ、なんて言葉を掛ければ…

 母上は私のせいで、妖魔のせいで、尊い命が消えてしまった。その責任は私が取ります。だからあの世でも観てて下さい。私は仲間と共に未来を目指し、明日を斬り開きます。

 

 

 そして有難う有難う――もう一人の私よ…

 

 

 

 

「ミヤビィィィィイイーーーーーッッ!!」

 

 刹那――妖魔のけたたましい咆哮と供に雅緋の名を叫ぶ。

 まさか…コイツ、今になって言語を…?

 死の淵まで追い詰められ、決死の覚悟で叫んだ声なのか、はたまた妖魔による進化か…理由は定かではないが、どうやらイザナギで無くとも言葉はともかく喋ることも出来るらしい。

 

「オママ…ミヤ…ビィィィィイ!!ミヤビィィイイイィィ!!オデ、オデはハ!ま、マハ…マァダ…!」

 

「自分の死に際に対抗するべく、ついに言語まで身に付けるとはな……」

 

「ミィィイやァァァーーービィィィィイぃぃ!!」

 

 

 血に混ざった大声を出しながら、憑黄泉は雅緋の腕に喰らい付く。

 

「クッ…!」

 

「ガムッ――グジュル!」

 

 雅緋の腕は微かに止まり、妖魔は休むことなく顎を働かせ雅緋の腕を食い千切ろうと目論む。発狂し、理性も何もかも吹き飛んだ妖魔は、一心不乱に雅緋の排除を試みながら、本能が生き永らえる術を持つべく脱退することを命令する。しかし雅緋を消さなければ、追われてはいずれ屍となるのがオチだろう。

 

「だからなんだ――」

 

 覇気のある声に、怯えは無い。

 強者の瞳は、揺るがない。

 深淵は、妖魔を赦さない。

 

 雅緋は片方の腕で憑黄泉の腹部に強烈な拳を炸裂させる。そんな妖魔は思わず口を離し、それと供に己の血を吹き出すも、関係まいと打撃を与えることに集中する。

 それでも我武者羅にと腕を千切るべく、食い付き、自身の首を無理矢理と言った形で捻じ曲げ、デスロールする。腕に悲鳴と絶えない血が溢れ出るが、関係ない。

 

「妖魔…憑黄泉――お前は、嘗ての私だ」

 

 意を決した雅緋は、妖魔にそう告げた。

 

 

「血界突破に失敗し、妖魔になり…暴れ狂う化け物……忌夢がいなければそんな未来もあっただろう。そして己の力に固執する姿は妖魔と変わらない。

 

 だからこそ、そんな者が私を、お前を生み出してはいけない。これ以上、お前たちの好きにはさせない。だから――」

 

 光と闇が、一つに収まるようにと集合する。

 本来は、陰と陽、光と闇、白と黒は交えない存在だ。対照的で、意味も反対で色も違う。忍の善と悪が交えない、隣り合わせと同じ例え。しかし、雅緋のソレは――可能にしてみせた。

 善と悪が分かち合い、交えることがあり得ないという不可能を――血界突破の新たな忍術で発動させた。

 

 

「生・秘伝忍法――【白と黒のDead or Alive】」

 

 

 さぁ、終焉へ――

 

 





前書きは少年誌とかの漫画で言う煽り文なんで、後書きは作者のコメントです。または遊び半分でべべたんとの質問コーナーとか、オマケとかやっちゃう感じです。
更新遅れて大変申し訳ない…リアルで思ったより忙しく手がつけられない位だったので(私情もあるが)、日曜に明日投稿しますと言っておきながら日にち空いてしまった…うわあぁぁぁ!!
とまあ、謝罪は終えて…作者ようやくを以ってヒロアカのワンズジャスティスプレイしてます!と言っても、発売当日に買って少し時間が経ってからですが…そうですね、前話に投稿した日にプレイしました。本当は初日からやりたくて仕方なかったのですが、何ゆえモンハンのトロフィー取得で手がつけれなかったんです。サイズトロフィー、難しいよね!普通は後回しにするんですが、モンハンとなると調査クエだのオンラインだのがあったりするので、後回しにすると更に厄介なんじゃ無いかなと思い、徹夜をしてまでやってましたね。ようやく報われ、ヒロアカに没頭ですwwやってる内にハマっては熱中、更には集中し過ぎて時間まで忘れてしまう末路です。個人的にはマスキュラー結構気に入ってます。メッチャ強い上にパワーキャラでは爆豪にオールマイトと引けを取らず、中々に強力!
敵として厄介なのが荼毘と轟かな。氷だと強制的に止まるし炎で遠距離と、かなり強い上に荼毘なんかオンライン対戦で遠距離攻撃ばっかされて焦りましたよwwしかも遠距離操作可能て。
操作方法がまだ慣れないとはいえ、勝っても負けても楽しく思えるのは、やはりヒロアカだからか。因みにウォールラッシュチャンスのとき、女性キャラが埋め込まれてたのはちょっと笑いました。操作的には閃乱カグラにも近い上に、親近感も湧きカグラーの中にはヒロアカのワンズジャスティス買ってる人もかなり見たので、閃乱カグラとヒロアカ好きな方は是が非でもこの作品を楽しんで頂けたらなと思います。


特殊ボイス回収。

雪泉「蒼き炎と氷…どちらが勝る…か」
蒼志「良いでしょう。相手にとって不足なし…貴女の首、いただきます」

両備「月閃の頃、両備は後輩だったけど…蛇女に入ってから強くなったわ!両備を見くびらないことね」
雪泉「良いでしょう。相手が元後輩だろうと、悪忍だろうと、やるからには全力で行かせてもらいます」

雪泉「貴方のような救いようのない悪こそ、絶対悪です!この雪泉、黒影お爺様の想いを引き継ぎ、悪を討つ!」
黒佐波「正義とか悪とかんなもんどうだって良いんだよ。ようは勝ちゃあ良いんだからさぁ!!」

グラントリノ「黒影の孫か、稽古付けといてやる!お前がどんなものか、確かめる必要があるしな」
雪泉「貴方様と黒影お爺様にどのような繋がりかは存じませんが、宜しくお願いします!」

焔「来たな、連合の親玉…死柄木弔!お前の野望は、私が止める!」
死柄木「気に入らないなぁお前、ならお前の矜持を壊してやるよ」

焔「おいおいご老人…年寄りだからって若者に余計なお世話をするな、怪我じゃ済まんぞ?」
グラントリノ「ハハッ、言うねぇ受精卵小僧!だったらグダグダ言ってないでかかってきんしゃい!怪我、負わないよう加減はしといたる」

焔「お前が…ヒーロー殺しか…!なんて威圧と殺気だ…体の奥が熱で満たされる…」
ステイン「お前の信念もまた良い、認めよう…その情念の刃、折れるが先か、朽ちるが先か…俺が確かめてやる!」

焔「お前…酷い火傷だな。相手にするには、少し抵抗感があると言うかなぁ」
荼毘「伏せろ、テメェの理屈でしゃしゃり出てんじゃねえぞ、腐れ女が」

焔「そこまで血が見たいのなら、私が流してやるよ!紅蓮の刀が、お前も血も燃やし尽くしてやろうじゃないか!」
マスキュラー「良いねぇ!物分かりの良いシンプルな女は嫌いじゃねえぜ!身体の奥底からウズウズが止まらねえぇ!!」

緑谷「ええっと、その…貴女が敵かはどうかはさておき…殺さない加減で、宜しくお願いします!」
焔「仮に私が敵だった場合、殺さない加減で手合わせなどしてくれると思うな、やるからには全力でかかって来い!」

飛鳥「オールマイト先生、宜しくお願いしますね!」
オールマイト「ハッハッハッ!任せなさい飛鳥くん!半蔵さんの孫だからこそ、私もその想いに応えよう!」

切島「飛鳥、お前…こう前向きな所、漢っぽいぜ!」
飛鳥「私…女の子なんですけど…」

飛鳥「私、貴方みたいな暴力だけで人を痛めて楽しむ人間には、なりたくない!!」
マスキュラー「良いじゃねえか!人間、やりてぇことやるのが一番だぜぇ!?あっははははは!!」

トガヒミコ「飛鳥ちゃんかぁいい♡最強のお友達になってくれますかぁ…♪」
飛鳥「はぁ…?何を、言ってるの…この娘、一応、私を殺しに来てるんだよね?敵連合なんだよね…?」

飛鳥「本当に、貴方はこんなことが好きで、暴力を振るうの?」
龍姫「私だって…本当はアンタ達みたいになりたかったよ」

グラントリノ「まだ若造どもに遅れを取るわけにはいかんのでな、半蔵の孫がどんなものか、ちぃと老人の俺が確かめたる!」
飛鳥「えっと、お、お爺さん大丈夫なんですかぁ!?」

飛鳥「仲間を道具扱いする貴方には、絶対に負けたくない!!」
伊佐奈「なんだテメェ、何にも知らねえガキが、喋るな烏滸がましい」

特殊ボイス、下手すればキャラ一人一人に繊細に考えれるんですがね。今日は後書きでのコメントもあったのでここまでにしておきます。
そしてアニメ2期!PV第2弾観て衝撃だったのが、あの飛鳥が「忍に正義なんて存在しない、刀と盾なんて無意味だったんだよ」と闇落ちしてしまってるうぅぅ!?!しかもアニメでPBSやってるし、半蔵学院の仲間たちが…やられた?だから飛鳥あんなんなっちゃったのかな?
とにかく10月12日が楽しみで待ち遠しいです。可能であればアニメの話も入るかな?けど不雪帰が謎すぎるから展開が…

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