光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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これにてようやく、待ちに待ったインターン編開始です!




インターン編
152話「インターン、始動!」


 

 

 

 憑黄泉に襲撃された蛇女子学園。

 予兆のない奇襲とはいえ、憑黄泉と呼ばれる得体の知れない妖魔を葬った戦績は大きい。況してや被害は最小限に収まり、死亡者は数人。とはいえ、この死亡者数は憑黄泉に殺された忍学生ではなく、警備を勤めてた学生だ。

 全員見るに酷たらしく焼殺されており、全身が黒焦。警備による警報が鳴らなかったのは恐らく、第三者による介入だと想定している。憑黄泉ではないのか?という微かな疑惑も残っているが、どうにもあの妖魔はまるで狙ってた…と言うより、タイミングを見計らい合わせて襲撃をかました様子だったらしい。

 妖魔という化け物は本来、忍との戦闘後によって出現するケースが高く、学校を狙って攻撃を仕掛けるのは滅多にないらしい。

 更に不雪帰の話によれば、憑黄泉は敵連合と関わっていると聞く。オール・フォー・ワンと大きな関わりを持ち、コンビだったと聞くが…

 何にせよ情報が不確定な上に、謎が多い。そんな連中に対しては恐らく〝何らかの条件や方法で憑黄泉を量産可能にした〟という説を考えていれば良いだろう。

 この案件は隠密に調査を進み、追って話すとのこと…蛇女子学園の襲撃も一見は最悪な不運では有ったが、何者かの意図でそうするよう仕向けたとならば、見過ごせない。

 

 一方、蛇女子学園の選抜メンバーの内、忌夢、両備、両奈の三名は酷い手傷を負った為、彼女たちは蛇女専門病院に入院し、治療に専念するそうだ。

 ……凶暴、暴走、暴力、全てに於いて最悪な要素を蓄えた憑黄泉を前に「死ななかった」というのは、殆ど稀に見ない。

 しつこいかもしれないが、過去に生徒が憑黄泉を討伐したケースは全くない。それなりの実力者がいるにせよ、それは世界の中でもたったの極数十名…相性によれば勝ち負けは変わるし、況してやあの妖魔自体イレギュラーな存在にして例外。最後に憑黄泉が姿を現した報告は、両姫と雅緋、忌夢との戦闘以来だ。

 なので入院しても、治療を受ければ退院出来るというのは、ある意味誇っても良い物だ。……別に誇る物でも無いのだが。

 因みに雅緋と紫、そして総司は軽傷でありながら命に関わる致命傷は受けていない。

 総司は肩を噛まれただけで、止血すれば大したことはなく、芭蕉も背中を打っただけで特にこれと言った問題もない。

 紫が唯一の謎であり、腹部を刺され貫かれたにも関わらず、穴は塞がり何ともないことから、一応検査は受けてるそうだ。紫本人も何故か話したがらないらしく、本人曰く「何れ、落ち着いたら話す…」と話を濁られた。

 …まあ、無理強いする訳にもいかないし、仲間の意見を尊重するのも筆頭の役目。それに急かさずとも何れ口に出すというのであれば、彼女を信じる他は無い。

 一方雅緋は傷こそはあるものの、どれも致命傷には至らず、血界突破の件も含め、一応検査は受けなければならないようだ。

 今後とも、体調に悪影響を与える可能性も決して低い訳でもない。そもそも学生云々関係なく血界突破を発動させること自体が体に大きな影響を及ぼす禁術なので、定期的な検査を受けるのは必然だろう。

 

「無茶をした…にしろ、とんだ厄日だったな」

 

 小尾斗の自然と吐き出した愚痴に、近くにいた雅緋は昨日の一件を思い返す。

 幾ら被害が最小限に抑えたにしろ、今後とも妖魔が続出する可能は低くはない。その上、聞く機会すら無かったが、憑黄泉が蛇女子学園を狙った理由も不確定なままだ。狙った理由…目的と呼ぶのが妥当か、ソレが解らない以上、最善たる対策のしようがない。

 目撃者さえいれば、かなり有意義に事が運び、対策案を練れるのだが…

 

「問題はこれ以上、秘立蛇女子学園の本拠地を荒らされたくないのが本望なんだが……移籍するにしろ、不十分すぎるな。それなりの時間も費やしてしまう…如何したものか…」

 

 蛇女子学園の襲撃が、相手の忍学校による対抗戦や任務などの一環なら解らなくもない。この学園に妖魔の襲撃など前例がない(怨楼血の場合は召喚させたというのが正しいので話は別)。

 

「暫くは俺も、任務をほどほどにするべきか…余程のことでもない限り、恐らくは大丈夫だが…」

 

 これ以上、本音を言えば蛇女子学園のことなど知ったことではない。こんな自分をも見下していた学校に何の恩義も無いのだが…

 

(それでも、コイツらをまた憑黄泉の時みたく危険な目に遭わせ、殺されたでは…な。忍とはいえまだ卵、学生だ。コイツらを見殺しにする訳にもいかぬ)

 

 蛇女子学園には興味はない。

 学生であるコイツらとは赤の他人。

 基は任務の一環で教官を務めてるだけ。

 

 だが…もうそんな悠長な想いでやってられる状況でもないこと位、小尾斗だって知っている。教官だからこそ、任務だからこそ、己も蛇女を守らなければならない。

 

 学生だけではと舐めてる訳でもない。

 少なくとも雅緋は、格別だ。

 血界突破を取得し、憑黄泉を葬り去った雅緋は限りなく幅広い成長を見せてくれるはずだ。

 

「あの、教官…少し宜しいでしょうか?」

 

 資料に目を通し、思い悩んでた小尾斗に雅緋は口を開く。

 

「ん、ああ。なんだ?」

 

「実は――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え〜っと、ゴミ置く場所は…」

 

 雄英敷地内で、ゴミ袋を抱える緑谷は、考え事に浸りながら足早とゴミ収集所へ進んでいく。

 気に悩むことでもあるのか、険しい顔立ちに焦りの色が浮かんでいるのが、他人からして見れば直ぐに解る。

 

 

(インターンって何だ…!?明らか様に凄い置いてけぼりにされてるんだけど…!!)

 

 

 問題の原因は昨夜のクラス会話に有った。

 なんて事はない、爆豪と緑谷、飛鳥の三人組は謹慎を受けてるため、基地による外出は禁止されてるのだ(但し、清掃に関わる謹慎内容に触れるものは別)。

 帰ってくるのは大体遅くて6時半、7時近く。補修やヒーロー基礎学に於いて至らぬ点を語り合ってたのを耳にしたまでのこと。

 話せば長くなるので省略すれば、緑谷達が謹慎を受けてる真中、何やら校外活動(インターン)の件で盛り上がってる様子で、授業に出てない緑谷からすれば、皆との距離が遠のいてる事実が突きつけられ、焦りが芽生えているのだ。

 因みに爆豪は常にご機嫌斜めな様子で、緑谷と同じく自分が置いてけぼりにされてることと、仮免試験補習のことを含めてかなり鬱憤が溜まってるんだろう。

 飛鳥はインターンに関しては興味こそ湧いたが、どうしても参加できないらしい。因みにこの情報を知るのは相澤先生と飛鳥、雲雀、柳生の三人のみで、何処へ行くかは事前には知らせてくれないそうだ。

 林間合宿のとき見たく最悪な未来を防ぐのと、教師達で話題になってる内通者の話が挙がってるからだろう。

 何がともあれ飛鳥達三人の忍学生は別として、早い話、焦ってる緑谷は少しでも皆よりも先へ進み、空いた時間を埋めたいのだろう。空いた時間を埋めるのは人の何倍も努力しなければならない。座学も、ヒーローとしても、このままのペースであれば何れ…

 

「やあ君、掃除お疲れ!!」

 

 ニュッと、壁から顔が生えた不気味な物体に、緑谷は険しい顔立ちのまま、硬直してしまう。

 

「………」

 

 唐突過ぎるのと、自分に何が起きてるのかさえ全く理解が追いつかない緑谷は、何も答えない。そんな緑谷にニコッと微笑む顔は、今の状況とは釣り合わず、とても不気味だ。

 

「食器のトレイね、可燃物と一緒に出して大丈夫だからね」

 

「あ、はい…」

 

 ようやく応答した緑谷の反応を確認すると、少年、と呼ぶべき男はニッと笑顔を浮かばせる。つぶらな目をした男は、壁に吸い込まれるよう消えていく物体に緑谷は…

 

 

 取り敢えず一言……――なんだこの人

 

 

「って思っちゃってるよねーー!!」

 

「わぁビックリした!!」

 

 

 消えたと思ったら今度は地面からヒョコッと顔を出す男に、緑谷は驚嘆の叫び声を喉から発する。

 危うく顔を踏んでしまいそうだったのを、何とか堪える。

 

「何なんですか貴方!?」

 

「何なんだろうね!ビックリするかなと思ってやってみたんだ!ドッキリ大成功!アレ一度やって見たかったんだよねオレー!」

 

 ハハハハハ!と豪快に笑う少年はまるでオールマイトの笑い方に似ている。何処かマイペースで相手の行動が読めないと言うのは、性格も含めてなんだと思うが、本当に何しに来たのだろうか…

 

「あっ、そうそう!ねー君だよね?元気な一年生って」

 

「元気な一年生…?」

 

 遠回しに問題児と言ってるのだろうか?

 確かに学校の時間外での個性使用に 喧嘩を起こせば問題児と言われても何も言い返せないが〝元気な〟という発言には少々引っかかる。

 

「まあ俺が来たのはぶっちゃけ、挨拶しておきたかったんだよね〜。それに俺が誰なのかは、何れ…ってよりも、近いうちに解るんだよね〜」

 

「は、はあぁ?」

 

「じゃね!」

 

 最後に意味深い言葉を残しながら、謎の男は去っていった。

 顔だけしか見えていなかったので、どんな格好をしているのかは不明だが、取り敢えず顔だけは覚えた。

 インパクトある人間だったので、そう簡単に忘れられないとは思うが、それにしては…何しに来たのか全く意味が解らない。取り敢えず挨拶しておきたかったことは確からしいが、だからと言って何故…?

 近いうちに?

 

(……アレ?でもあの顔、何処かで見た覚えがあるんだよなぁ)

 

 懐かしいような、脳の片隅に残る記憶を探るも、心当たりも無ければ縁は無い。しかし、初めて見た…と言うのもない、微かな既視感に眉を顰める緑谷は、考えても仕方ないとそのままゴミを出す。

 心に引っかかりながらも、緑谷出久は三日を迎えようとした。

 

 

 

 

 

 パソコンと睨めっこでもするよう、A組担当の相澤は、相も変わらず気の怠い目で作業に没頭している。

 明後日のカリキュラムを作成しているのだろうか、やけに熱心だ。

 

(インターンの説明として先ず雄英ビッグ3に……忍学生か…)

 

 ここで相澤は側にあった資料を手に取り再確認として目を通す。

 

(忍学生っちゃあ学生ではあるが、一応悪忍…雄英に他の学生入れるのもどうかって話な上に、悪忍と言うのは俺にはどうにも…信憑性やヒーローの面識も豊富な分、信頼度は有る。もう一人は善忍だし問題はねえが…)

 

 ヒーローインターン。

 校外活動とは、平たく言えばプロヒーローの指名の下で働く職場体験の本格版。

 その具体的な内容を、明後日の午前から話すのだ。

 本来ならインターンは2、3年生でしか活動は許されず、基本一年生は受け付けていない。それなのに説明もクソも無いのだが、平和の象徴が死んだ今、少しでも勢力を整え穴を補うべく、雄英側も許せる限り協力を惜しまずに行こうと言う話になったのだ。

 しかしそれでは「雄英体育祭は何だったのか」という結論になるのだがその心配は無用。

 体育祭での指名はあくまで経験を積むのと、ヒーローの社会の現実をより詳しく知ることを始めとしている。ヒーローとして何を学べるか、何を想うか、少なからず保須市では滅茶苦茶になった訳だが…

 インターンは体育祭の指名をコネクションとして使い、指名が有った事務所から駆けつけることが可能だそうだ。それでも都合によって取り扱ってくれないヒーロー事務所も有るそうなので、他を当たるという事はよくある話。

 授業の一環ではなく、生徒の任意によるこの活動は、そもそもの話、体育祭でプロから指名を貰えなかった者はインターンすら受け付けることは不可能。

 

(まあ一年生の受付…柱がいなくなった勢力による穴の補い、社会の秩序や治安を改善しようとするその趣向は、仮免取得のそれに近い旨趣だしな……問題なのはウチの学校の何人が参加するかってなる)

 

 そもそもインターンと言うのは先ほど前述したように、生徒の任意で行われる活動だ。学校側の行事でもない限り、インターンと学校の両方を両立させるのはかなり至難だろう。正直言って先生としては余りお勧めはしないが、生徒によっては合理的な週間でもあるだろう。ただ、勉学やヒーロー基礎学が疎かと見なせば、場合によって取り消すこともあるのだが…

 

(ウチの優等生は爆豪と轟、八百万の三人は間違いなく実力は通るが……)

 

 爆豪は緑谷と飛鳥と同じく謹慎(しかも二人より一日多い)な上に仮免試験の補習もある。轟も爆豪と同じく仮免取得に赴きそれどころでは無いのも事実。となると八百万くらいだろう。

 一方で…

 

(忍学生の三人は充分実力的にも問題はないが…確か校外活動には参加出来ねえんだったな)

 

 忍学生がインターンに参加出来ない訳ではない。寧ろ、より早くヒーローによる社会維持の姿勢と、忍の改善をよくするべく極力励んで欲しいのが本望らしい。特に由緒正しい善忍なら尚喜ばしいことこの上ないそうだ。

 それでも飛鳥達三名が参加できないのは、半蔵学院による担任からの命令だそうで、事情があるらしい。それだけ聞いただけで、殆どの詳細内容は知らされていない。

 林間合宿のような最悪な襲撃を未然に防ぐ為なのと、内通者がいるかの確認でもあるため、上の考えには納得がいく相澤は、拒否せず霧夜先生に一任した。

 ぶっちゃけ本当の担任は霧夜先生なので、何がどうにも自分が首を突っ込むこと自体では無いのだ。

 因みに明後日の校外活動の説明では、ビッグ3に二人の忍学生をクラスに紹介するつもりだ。とは言ったものの、彼ら彼女らのことは約一名を除いて詳しく知らない。

 では何故、忍学生の二人を参加させるのだろうか?

 根津校長の話によると「うち一名はオールマイトが信頼してるから、そして二人とも有力にして我々雄英高校の寮制、及び忍基地の資金に投資してくれてる方々だから」だそうで、この御世代だからこそ、協力と信頼を築くべく、是が非でも天下の雄英高校でご教授したいとのこと。

 転校…と言う話ではないが、恐らくインターンに参加する為、事前にヒーローの事に関して触れておきたいのだろう。

 

「Hay!なーに辛気臭え顔してんだイレイザー!もしかして例の問題児三人組に悩んでるとか!?」

 

「まあ、一応間違っちゃあいないが……てか近ぇ、邪魔だマイク」

 

 相澤の疲労と浮かばない顔立ちにフレンドリーに声を投げる活気良いお調子者はプレゼント・マイク。相澤とは雄英高校での同僚にして、何かしら声の煩い英語教師だ。

 

「HeyHey!最近疲れ溜まってるように見えるからよ、親友の俺が心配してるワケ!」

 

「そりゃあ忙しいからな。お前は相も変わらず元気そうで逆に何でこんなハイテンションになれるか不思議でしょうがねえ」

 

「聞きたい?」

 

「いらん」

 

 そもそもどうでも良いし、時間を無駄にはしたくない。

 合理的主義な相澤にとってマイクとは騒がしい男、と言うのが一番しっくり来るだろう。性格に於いても個性に於いても。マイクからパソコンに視線を戻すと、再び作業に専念する。そんな相澤にマイクもまたパソコン画面を覗く。

 

「あっ、俺この学生ちゃん知ってるぜ!いや寧ろ知らねえヤツってマイナーなヒーローや新人位じゃねえか?こんなお嬢様が悪忍なんて信じられねえよな、美麗と色気で騙すふじこちゃんみてえ!」

 

「一応ウチら雄英の寮に忍基地に投資してくれてるしな…少しでも明るい社会と秩序を保つ行いをしたいって志はヒーローのソレと同じだが…」

 

 確かに悪忍とは思えないのもまた事実。

 どちらかと言えば善忍家系と見間違えるだろうし、正義感を装う悪党もいない訳ではないが、態々莫大な資金を投資してまでとも考え難い。何でもオールマイト曰く、知人も含めて彼女は信頼における人間だとのこと。校長も信頼における人物なので、良しと見なして良いのか躊躇はあるが、正直微妙な感じではある。

 

「たった一桁な歳の子がなぁ…その頃の俺だったらダチと遊んでた記憶しかねえぜ」

 

「お前の脳内は常にお花畑だろ能天気」

 

「俺だって英語の教師だしやる時はやるよ!?アレ?そういやこの家ってその分…」

 

「まあ、割と有名ではあるな」

 

 パソコン画面の忍学生を見て記憶を巡らせるマイクに、相澤は察したように軽く言葉を付け足す。

 彼女とは対面こそないが、噂は聞いてるし、実は表社会も取り締まってるお嬢様なのだ。そう言った点では斑鳩や叢も代わりは無いのだろうが、こっちは完全にヒーロー社会すら適応し溶け込めている。

 そんな女性に対して悪忍のレッテルを取り除いた上での一言は、大人子供。死柄木弔や漆月という以前の子供大人のような、幼稚的癇癪を起こす、子供が大人になったのではなく、大人な思考と柔軟性、社会に対して姿勢を持つ子供が大人な思考を持っている…と述べた方が良いだろう。

 大したものだと自分でも思うし、もし彼女がヒーロー志望の学生として雄英に赴いていたら、八百万すら渡り合えるかもしれない優等生。

 そんな彼女に対して疑わしくも有り微妙と答えるのは失礼かもしれないが、こうも敵連合の掌の上で転がされてることを実感すれば、そう言う気にもなるし、蛇女の件もあるので乗り気ではない。

 

(問題なのは、だ。この二人がどう生徒達に影響を与えるのか…と、またウチのクラスと交わりどう影響を受けるのか…だな)

 

 今の時代、柱が無くなってしまった以上、背負うものも庇うものもいない。日陰も日向も支える象徴がいない現在は、少しでも未来に待ち受ける理不尽に対抗するべく、チームアップに経験が必要だ。

 今年の一年生は本当に教え甲斐が有る。とても…去年や今まで当たって来たクラスとは違い、善い意味でも悪い意味でも…

 普通なら今頃、除籍処分を布告しクラスは6、7人になってるのだが、オールマイトがいないとはいえ、除籍処分ゼロと言うのはかなり珍しい部類だ。それでも生徒には容赦という文字はないが、それは担任による生徒の愛情とも呼べるだろう。

 

「さぁ、明後日が見物だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、金目の物はちゃんと…」

 

「ああ、確かに受け取った。これで問題はないな?」

 

 人気のない道端で、影に隠れながら金属製のカバンケースを手渡しするチンピラに、受け取ったことを確認した黒ずくめの男はホッと胸をなで下ろす。

 敵と思われる人物達は、人気のなく目立たない場所で闇取引を行なっていた。影者にとっての日常茶飯事のソレは、明らかに敵だ。ここ数週間、柱がいなくなったことで抜忍や敵が少しずつだが、でもって頻繁的な速度で犯罪活動を繰り広げてる模様だ。

 

「どーせなら、今確認を…」

 

「おいおい、俺のこと信用できねえのか?確かに金と例の薬品物は渡したぞ?」

 

「け、けどよぉ……」

 

 何やら疑心暗鬼と言ったように、信じられない口調をする敵に、不満を持つ敵は「文句でもあるのか?」と荒げた口調で指を胸に突く。

 

「じゃあ今確認したって問題は……いや、けど…」

 

「アレぇ?嘘じゃないなら別に中身確認したって問題ないじゃない♪」

 

「あッ、誰だテメェ?」

 

 ゴロツキと商売人の会話に無理矢理割り込む妖美な女性の声に、二人は反射的に振り向く。

 素敵な黒紫色の衣装に、スカーレットのような紅いスカートを履く女性、長く下された髪は透き通った水々しい水色を現している。

 

「ソイツが偽札をせっせと中に詰め込んで、薬品を偽装してアンタに手渡そうとしてる所…アタシ見たけど?」

 

「アァ?何デタラメなこと垂れたんだ?つか誰だテメェって聞いてんだろオイこら!!」

 

 絡むようにキレ出すチンピラに、女性は面白がるよう不敵な笑顔を浮かばせる。

 

「ホラ、こんな荒々しい態度取ってる辺り、図星でも突かれちゃった?」

 

「テメェ良い加減に…!」

 

「おい待てや、今の話本当なのか?」

 

 頭の血管がキレかけた男性は、彼女の顔面に殴り掛かろうとするも、取引相手は表情を怒りに染め上げ、青筋を浮かばせる。

 

「は?いや待てコイツは知らねえ部外者だろうが、何で俺の言葉よりもコイツの言葉を信じるんだよ」

 

「そんな部外者が態々こっちに来て口を挟んで偽物とか言わねえだろうがぁ!」

 

「はぁ!?やんのかテメェオイおいおい!!」

 

 緊迫とした空気に一人の部外者が介入したことで喧嘩の導火線に火がつき、爆発したことで喧嘩勃発。

 ゴロツキは個性「筋肉強化」で殴りかかり、商売人の個性「狼化」で、お互いが個性を使役し衝突する。そんな二人のやり取りに心底楽しむよう観戦する彼女に、冷静な声が響き通る。

 

「相変わらず、何考えてるか分からねえな漆月(お前)

 

 冷徹で血の通わない気怠い声に反応する漆月は、ニィ…ッと口角を微かに釣り上げる。彼女の瞳は、さも闇の中で輝きを増していた。まはで漆色に染め上げられた月は、美しくも禍々しい。

 

「面白いから良いじゃない荼毘、醜い奴らの罵り合いはいつ見てもオツなものよ」

 

「理解出来ねえ……トガや鎌倉もそうだが、お前も相当なようだな……況してや、人殺しならさておき、全くの赤の他人を引っ掻いてややこしい問題起こそうとする奴の気が知れねえ…」

 

「ふふ、これを理解不能と言ってると本当に忍に捕まっちゃわよ?それに焼死体が相次いで見つかってるって聞いてるけど、明らかにアンタの仕業じゃないの」

 

 ここの所、敵による頻繁的な殺し合いと焼死体が見つかっており、警察も手が焼いてると聞く。その焼殺事件の殆どは荼毘と断言しても良いが、敵同士の抗争による殺害事件は漆月が関わっている。無論、彼女の仕業だとは誰も気付かないが…

 

「俺は仲間集めで使えねえゴミを焼却してるだけだ。テメェの意図が読めねえ…まさかこんな遊びの為に連絡取れなかったとかじゃねえだろうな?」

 

「だーかーら、コレだからアンタはまだまだヒヨッ子なのよ荼毘。そりゃあ赤の他人が見ればそう見えなくはないけど…

 それに連絡取れなかったのは十悪性戒の奴らと警察の追っ手を撒いてたの。調べたい調査もあったし」

 

「……まあ良い、それより死柄木から収集がかかってる。それと蒼志が蛇女の奴ら全滅できなくて申し訳ないってよ。憑黄泉も無駄にしちまったって責任感じてるみてえだが」

 

「そう、弔の思惑通り動いて良かったわ」

 

 漆月の想定外な反応に荼毘は「は?」と声を漏らす。

 コイツ、知ってたのか?

 

「良かったって…想定済みだったのか?」

 

「まー、そりゃあね。二度も襲撃くらって学校全滅なんて余程の弱小忍学校じゃなければあり得ない。蒼志の母校なら、多少のリスクだって考えてる」

 

「じゃあ何で敗北が解った上で行かせたんだ。テメェも知ってたなら、憑黄泉も無駄にしなくて済んだろ。益々解らねえな」

 

「ん〜…敗北を知った上で行かないのと、承知の上で敢えて危険に挑むのとでは、経験の価値は大きく左右されるわ。少なくとも、敗北した上で優先に生き戻るのなら、って限られた話だけど」

 

 きっと弔なら、仲間を統括し指示するリーダーとして、蒼志に憑黄泉を合わせて蛇女を襲撃。その際勝とうが負けようが、林間合宿みたく経験が生まれる。死柄木はその成長を敢えて利用するよう蒼志に一度、敗北と蛇女の実力を目の当たりにし、成長へと促すことが目論見だったのだろう。少なくとも、漆月は死柄木の考えを見抜いた上で了承したのは確かだし、仲間一人一人に大きな成長を与えるのも、支配者にして上に立つ者の役目だと踏まえている。

 

「そもそも蛇女の場所知ってんのは私と蒼志だけだし、あれ以来皆んな拡散するようバラけてるから、一緒くたになって襲撃は難しいからねぇ…私も行ってあげても良かったけど、場所は遠いし…黒霧がいてくれれば話は別だけどね」

 

「……ほーん」

 

 荼毘は確信した。

 以前の漆月は単に死柄木の思想に便乗したり、自分の意思が無いようにと、訳分からない奴だったが、今彼女と直接言葉を交えて理解した。

 コイツは、何も考えてないように見えて…今はちゃんと考えてやがる。

 まるで遥か先を見据え、己の利益になるようカラクリのように仕組んでる陰湿的な手は、確かにオール・フォー・ワンに似ている。それはまた死柄木弔も同じこと。

 この敵同士の殺し合いも、何らかの理由があるのだろう。本人は命の殺し合いに愉悦や価値を見出せてると言ってるが…

 

「んじゃ、私たちの基地に戻りましょうか。っとその前にこれ見終わってからね…♡」

 

「はぁ…」

 

 しかし、こう無駄に見えるようで、実はこんなどうでも良い争いにも価値はあるのだろうか?そう考えると、漆月の行動は連合の利益に繋がるのだろうか?

 

(やっぱ解んねえ…つーか、女でマトモなのって殆ど居ねえじゃねえか…闇も、マトモかどうかってより不気味だしな…マシなのは龍姫と蒼志位だろうな……)

 

 ボサボサな髪を掻きながら、漆月の隣に立つ荼毘はいっそのこと「二人を燃やして薪にしてやろうか」という考えが頭によぎったが…

 

「あっ、そうそう荼毘。アンタに提案…協力して欲しい事があるんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二日目、反省文を相澤先生に提出し無事に何とか謹慎が解けた緑谷は、皆との実力差を埋め取り戻すべく爆豪よりも一足先に復帰した。

 

「皆んな!ご迷惑おかけしましたぁぁ!!」

 

 ヤケに気合が入ってるのも、緑谷らしいのやららしくないのやら、鼻息が荒く機関車のように噴出する。

 

「デクくんお疲れ!」

「うむ!謹慎を終えて反省した様子だな!」

「えぇ〜…戻ってこなくて良いのにオイラもっとコキ使いたかったよ〜…」

 

 皆の労いな言葉(約一名、変態が可笑しいが)を貰う緑谷は、息巻くように実力を埋めようと必死な様子だ。微かな会話で得たその焦燥に、何もできない三日間は緑谷にとって地獄に近いものだ。

 

「皆んなとの開いた差を埋める為にもっと頑張らないと!!」

 

「おっ、ソレ良いな。そう言うの好きだわ俺!けどその分飛鳥達が居ないのがまたなぁ」

 

 緑谷が謹慎復帰後、飛鳥も謹慎こそ解けたが彼女たち三人とも雄英から少し離れるそうだ。

 何でも人には言えないらしく、口止めされてる上に本人達も何処へ行くから知らされてなかったらしい。となれば、今このクラスはヒーロー学生のみとなる。何らおかしくない、雄英にとってごく普通なことでも、忍学生がいないとこうも違うのか…と、現実を噛みしめる。

 

「やあ皆んな、おはよう」

 

 学校のチャイムが鳴り出したと同時に一斉になって静まり着席するA組クラスの面子。このやり取りはもう慣れたというよりいつもの事なので、誰が突っ込んでも動じない。

 

「以前話してたインターンの話に入る訳だが、職場体験とどう違うのかこれから教える。まあ但し、今回教授するのは俺ら教師じゃねえ…」

 

 教師じゃない?

 具体的に、でもって効率の良い方法。

 時間を有意義に活用するのが大好きな相澤にとって、この方法は正しく彼らしい考えだ。

 

「そして仮免取得で実感したとは思うが、今後とも忍と供に手を打つことだってある。言わばチームアップと強化、連携にコミュニケーションが必要。早い話、プロになりゃあ忍と供に協力し合う日は必ず訪れるって訳だ」

 

 だから、と相澤は不敵な笑みを浮かべる。

 相澤が「よし、入れ」と軽く一言、その言葉に反応すると、扉から五人の学生が現れる。

 

「多忙の中、空いてる時間を埋めて来てもらった。紹介しよう、彼らがビッグ3、そしてこの日のために態々と遠いところから遥々やって来た忍学生の二人だ」

 

 今日、相澤ですら初めてご対面する二人。

 さて、A組は対応できるかな?

 

「雄英高校A組の皆様、本日は宜しく御願いします」

「わ、私からも……宜しく、お願いします……」

 

 一人は長く垂れた清楚で美麗な長髪に、騎士道を連想させるよう、固められた鎧を身に纏う女性。

 一人は白い長髪に、肌は褐色で引っ込み思案がある女性の肩には、黒い鴉が立っている。

 

 

「ゾディアック星導会に、遠野天狗ノ忍衆…悪忍と善忍の忍学生にして、選抜メンバーの筆頭の方々だ」

 

 

 新たな善忍と悪忍が隣り添え、合わさった。

 

 






特殊ボイス

鎌倉「君、痺れる子?じゃあ血ィ流したら、電流でビリビリしちゃうのかな?」
上鳴「何この子…超怖え……」

夜桜「儂の拳はゼッテェ負けねぇ!テメェの性根ごと、打ち砕く!!」
黒佐波「良い…良い!!お前だよ!俺はお前のような戦闘女と闘いたかったぁぁぁ!!!分かってんじゃねえか良し!!殺ろう!」

切島「よっしゃあ!掛かって来い夜桜ぁ!俺こそ最強の盾だぁ!」
夜桜「言いましたね?なら儂こそ最強の矛…この勝負、儂の勝ちで宜しいですね?」

芭蕉「た、戦うしか…無いのなら!」
切島「よし、来い!俺は誰であろうと受けて立つぜ!」

雲雀「どうしたら雅緋さんみないな大人の女性になれるの〜?」
雅緋「ッッ!があああぁぁぁぁぁぁ!?!そ、それを…言うなぁ!!」

ステイン「貴様も、私怨混じりの贋物か!消えろ偽善者」
斑鳩「いいえ、私はただ…貴方という悪を斬り捨てにきただけのこと。私は、友や人々の為に、善忍としての責務を全うするまで!」

ステイン「徒らに力を振り撒く犯罪者も、贋物が蔓延る偽善者も、貴様と同じく、粛清だぁ!!」
雅緋「例え悪だのと罵られようと、私はそれでも、蛇女の誇りを掲げるべく、喜んでその悪役を引き受けよう」

陽花「皆んなの笑顔を守る為に…影から、そして光として、私は皆の太陽となって多くの方が笑顔になれるよう、舞い忍びます!」
ステイン「はぁ…!良い、実に良い!!素晴らしい…貴女様こそ、忍の象徴!!オールマイトのコンビ!!俺なら貴女様に殺されても…!」

不雪帰「世界を変えること…それは、いけないことなのでしょうか?」
ステイン「お前は、話の解るヤツだな」

不雪帰「この世界は、弱者も強者も皆、平等に背負わなければならない……だからこそ、この世界に柱など、もう必要はない。一人で全てを背負うことなどない。全ての人間が、悲しみと怒り、苦しみを分かち合うのです」
緑谷「なら、僕が新たな平和の象徴だ!!!皆んなに辛くて苦しい想いなんかさせるかよ!!」

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