光の灯る月が、暗い闇夜の中で三人を妖しく照らし出していた。
誰も使われていない、古びた廃工場に赴く人物は、敵連合のチーム、トゥワイスと龍姫、そしてレザボア愚連ドックスを壊滅させたであろう死穢八斎會の棟梁、若頭のオーバーホール――
「……ここが、お前らの拠点か?見るからに不衛生のようだが…」
「ああ!急に本拠地なんか連れてくかよ、面接会場ってトコ」
「悪いねぇ、敵や抜忍狩がいつ見張ってるか、追跡してるか分かんないし…尾行とかされたらたまったもんじゃないし」
ボロ臭い廃工場が拠点では無いにせよ、どの道こんな汚れた場所に入らなければならないと考えるオーバーホールは、眉をひそめる。
「おいおい、勘弁してくれ…こんな埃塗れの汚れた場所に入るのかよ……病気になりそうだ」
「安心しろ!中の奴らはとっくの昔に病気だ!!」
豪快に扉が開かれると視界に映る光景は、敵連合のメンバー数人に、我らのリーダーである死柄木弔が待ち構えていた。
「大物…ねぇ、随分と皮肉が効いてるもんだな敵連合…死柄木弔」
不愉快そうな口調、ゴホッと咳払いするオーバーホール。ペストマスクを付けてるとはいえ、潔癖症の彼にとってこんな薄汚れた空気が充満する廃工場で対談というのは、どうにも気が乗れないらしい。
仮称――〝面接会場〟と呼ばれる廃工場には死柄木弔を始め、鎌倉、トガヒミコ、Mr.コンプレス、闇、マグネ、蒼志、そしてオーバーホールを連れた龍姫とトゥワイスが揃っていた。
残りのメンバーは不在だそうで、漆月を始め、荼毘、黒霧、スピナーはまだ来ていない。
「龍姫ちゃんが見つけたの?見るからに危険な匂いがするなぁ……」
「ああ、充分に危険だよソイツは…」
「えっ、もしかして知り合い!?有名人かしら?」
鎌倉の心の底から漏れた本音に、死柄木は頷くように言葉を付け足す。危険人物と知ったマグネは驚嘆に似た言葉を上げてしまう。
「いや…前に先生から貰った資料で見せて貰ったことがある。そうだな…お前らが雄英に襲撃かました時だ……そん時にコイツのことを知ったんだ」
死柄木は、ゆっくりとオーバーホールに指を差す。
「コイツは死穢八斎會の若頭…オーバーホール――まあ、どんな奴かと一言で言うなら…極道だよ」
極道。
ヒーロー社会に於ける指定敵団体組織。
血も涙もない非道のヤクザ。
オールマイトが登場し輝きを増す前の世代、死穢八斎會は裏社会で暗躍をしていたと聞いたことがあるが、現在は弱小ヤクザというレッテルを貼られている。
「やだぁ!極道の若頭なんて初めて見たわ!鎌倉ちゃんの言う通り危険な香りがプンプンするわね!テンション上がっちゃうわぁ!」
「でも、私たちと何が違うのでしょうか?」
そんな重要且つ危険的な人物を前に興奮が昂るマグネとは正反対に、冷静に壁に寛ぐトガヒミコは首を傾げる。
高校生か中学生かさえあやふやな彼女は勉学には励んでいなかったとは言え、敵とヤクザの何が違うのか判らないそうだ。そんな彼女に「よ〜っし」と近くにいたMr.コンプレスは指を立てる。
「なんでも昔は裏社会を取り仕切る恐ーい団体が沢山有ったんだ。でも、ヒーローが隆盛してからは摘発・解体が進み、オールマイトの登場で時代を終えたのさ。
シッポ捕まれなかった生き残りは、敵予備軍って扱いで監視されながら細々生きてんのさ。ハッキリ言って時代遅れの天然記念物って訳さ」
「……間違っちゃいないな」
コンプレスの解説に、オーバーホールが口を開く。
細々しくも、睨みつけるような目線は、とても良い印象では無いようだ。
「そういえば、敵連合と言や死柄木弔とは違うもう一人の、抜忍の筆頭、漆月はどうした?」
「残念ながら不在です。
私達も召集を掛けてるのですが、多忙の身なので…それに、不在にしろ死柄木弔がいるので、話は死柄木で良いでしょう?」
蒼志の言葉に「まあ、良いか…」と仕方なく頷く彼の素振りに何処か引っかかるも、特に気にしない様子で会話を続ける。
「それにしても意外ですわね…そんな八斎會と呼ばれるヤクザが…孤独の身であるなら兎も角、組織ですよね?そんな若頭が私たちに何の用でしょうか?」
冷徹で、且つ血の通わない闇の言葉が暗い工場内に響き渡る。
どれも死柄木が仲間に引き入れたのはバラバラな悪意…そんなネームドを持つ悪意を募らせた犯罪者の中はどれも単独だ。組織を持つリーダーというのは、前例が無い。
「もしかして貴方もオールマイトが居なくなっちゃってハイになったのかしらん?」
「いや、オールマイトよりも…俺はオール・フォー・ワンの消失が大きいな…」
マグネの言葉に首を横に振る極道の若頭。
オーバーホールの言葉に、表情が険しくも、不愉快そうに立てる死柄木弔は、眼を細くし相手を睨みつける。
オール・フォー・ワン――死柄木弔と漆月の先生にして師匠である、悪の象徴だ。現在こうして日陰者が暴れ狂い、犯罪事件が多発してるのも、元凶を探ればオール・フォー・ワンが原因だ。そう言う解釈で行くとなれば間違ってはいないのだが、どうやら相手の眼を見た限りだと、そう言う訳でもない個人的な事情がある様に見受けられる。
「オール・フォー・ワン…悪の象徴にして裏社会を支配する闇の帝王…俺がガキの頃は都市伝説扱いだった」
裏社会の支配者であるオール・フォー・ワンの下には、悪意を募らせた敵が、日本中に溢れかえっていたと聞く。ほぼ大半の敵がヤツの息が掛かってると聞くし、少しでも反逆の意思を見せてしまえば、全ての敵から注目を浴び、命を狙われると言われる程だ。
「日本を支配し、社会を混沌へと陥れたヤツは、老人達も恐れていたよ。死亡説が噂されても尚…な。
そんな混沌な社会の中、オールマイトという平和の象徴が不在の中、親父の話によると、巨悪が支配してた混沌な社会を変え、正そうとする者がいたらしい……」
「…………」
「俺には話さなかったが、ウチの親父が密かに他の組と対談しているのを聞いてな……確かに言ってた――〝カグラ〟という単語を口に出してたんだ」
オーバーホールも、また忍の存在を知り得る人物なのだろうか?疑問が残る中、沸々と不快感を煮えたぎらせながら、死柄木は黙って耳を傾ける。
「最初はヒーローネームか何かかと思ったよ…だが、調べてもそんな名前は一切出なかった。
隠語か何かか…とにかく、親父の話にはよくソイツの名前が出てたよ。
――それで、神野区で都市伝説と謳われ恐れられてた
激戦の中、オールマイトを庇う一人の老人が姿を現したことで、忍の存在が発覚した…その後、計画に乗り移るべく直ぐ様忍の情報を調べたよ。カグラとは、忍の中の最高称号だってな」
金や鉄砲玉を動かせば、直ぐに情報は手に入る。
レザボア愚連ドックスを始めとした外れも多かったが、その分大物の団体組織…名誉こそ無かったがそれでも充分に有意義となる情報を手にすることが出来たのは、オーバーホールの指揮と統括力による賜物だろう。
「そしてその対になるのがカムイ…カグラとカムイは対立し、平和の象徴と悪の象徴は啀み合い争いが勃発した…
で、だ――今は日向も日陰も支配者がいない」
オールマイトもオール・フォー・ワンもいない。
ヒーロー社会も、忍社会も、それを支える象徴…或いは、その中心人物となり得る人間が存在しない。
「じゃあ――次は誰が支配者になるかって話だ」
今のNo.1はエンデヴァーという、万人受けの無い、転がされた一位を取得した元No.2ヒーロー。
ヒーローに於いても厄介な相手ではあるが、オールマイト程誰かを幸せや笑顔にさせ、光の柱となるような人間では無い。
一方で、オール・フォー・ワンのいない今、影の支配者は誰になるか…というのが問題だ。
個性を持て余した輩が、私欲を満たし、無駄に人を傷つけることしか能の無い暴虐の野人、社会に不満を持つ者、様々な人間が動き出してるこの何十万の中、支配者が決められる。
「おいおい…さっきから黙って聞いてりゃあお前…ウチの先生が誰か知ってての挑発か?」
今まで黙り込んでた死柄木は、鋭い声を低く発しながら一歩、前に出る。
「――次は、俺と漆月だ!!!」
死柄木の荒ぶる、でもって怒りを押し殺した叫びが、工場内に鮮明に響き渡る。ギラついた殺意孕んだ視線は、いつになく不気味で相手に恐怖を与えるものだ。
敵連合、そして先生の弟子である死柄木から言わせて貰えば、オーバーホールは不愉快な人間でしか無い。
先生のことを知らずの発言なら、無知は罪だと言えるのだろうが、態々知ってての発言には苛立ちを覚えてしまう。
何よりも、以前の死柄木ならば「次は俺だ」と自己中的な発言をするのが昔の彼だ。しかし、今は漆月を見ている。アイツは自分にとっては無くてはならない、理解者にして同じ立場の支配者だと、認めている証拠だ。
「今も勢力を拡大しつつ広げている、忍も敵も悪意に溢れ、やがて俺たちの下に集まり戦力も増えていく…!
必ずヒーロー社会と忍の世界を、ドタマのそこからブッ潰す…!!」
気に入らない者、正義だの平和だのとオールマイト無き荒んだ社会に希望をと改善し少しずつ修復を目論む社会を、壊す。
そして上層部や忍社会を亡き者にすることで、次の支配者は抜忍である漆月と、その同類にして同じ立ち位置に佇む死柄木が、支配者となり王となる。
今は理想を成し遂げず、拡大せずとも、少しずつ戦力も増せば強くもなる。その時だ――社会を壊すのは、今じゃ無くとも何れ…
「で、計画は有るのか?」
――は?
死柄木の悪意が鎮まるように、呆然とする。
唐突な発言に、眉をひそめる死柄木に、オーバーホールは悠長に語り出る。
「計画も現実味も実現性もない目標を妄想という、妄想をプレゼンされてもこっちが困る。
計画を動かすのに最初に必要なのは何だと思う?金と駒だ――んで、お前らは駒を集めて勢力拡大してどうする気だ?」
「貴方…私たちの仲間になりに来たのではないんですか?」
「俺は今、死柄木と話してるんだ。駒は黙って控えててくれ」
「なッ――コイツ…」
「待て蒼志、抑えろ……」
オーバーホールの眼中もない只の雑魚、駒だと見下された蒼志は、憎悪の感情を芽生えさせる。
嫌悪感を示す蒼志の漏れた声を聞き逃さなかった死柄木は手を掲げ制する。
「仮に…だ。お前が金や駒を揃えたところでどうする?どう金を使う、駒をどうやって操作する?どういう組織図を目指すんだ?
ヒーロー殺し〝ステイン〟を始め、殺人快楽〝血狂いマスキュラー〟脱獄死刑囚〝ムーンフィッシュ〟――どれも駒としては一級品だが…全員落としてるな?
扱い方が分からなかったか?それとも扱いが下手なのか…」
他にも名も地名こそ上がってはいないが、雄英高校や半蔵と言った名高い名門校に対して憎悪を募らせた中学生――〝マスタード〟
凶暴性と気性の荒さから多くの忍から危険視され、両姫と死闘を繰り広げ、飛鳥に敗れた抜忍狩の狩人――〝黒佐波〟
この二名は特に調べたところ(黒佐波は不明だった)興味もないのだろう。
「そんなイかれた人間十余人も操れないで勢力拡大?笑わせるなよ、コントロールも出来ない力を集めて何になる?単なる時間と金の無駄なだけだろ?」
「ねぇ…オーバーホールくん君さぁ、僕らに喧嘩でも売ってんの?」
棘の刺す、敵対を見せ煽るような言葉遣いに、鎌倉は表情こそヘラヘラしてるものの、今鎌を握りしめてる手はギチギチと不快な音を立てている。
「別に争いに来た訳じゃない、そもそも仲間にして下さいなんて懇願もした覚えはない。俺が今日ここへやって来たのは話があるのと提案しに来ただけだ」
「提案…?トゥワイス、龍姫、仲間集めならせめて意思確認だけはしてくれ……話が違う」
てっきり仲間になるかと思いきや、提案と話に来ただけでは困る。
その為にここで態々待機していたにも関わらず、こんな厄介な相手をしなければならないのは死柄木にとってはとても喜ばしくないものだ。
「俺には目標がある、その目標を成すには計画が必要だ。そしてそれを実行する手筈も整えている。ただ一つ足りてないとすれば名声だ――そしてお前らは名声がある」
オーバーホールは両手を中央に位置させ手をゆっくりと広げている。まるで、全てを己が物とするような、そんな統括者の一面が垣間見えた。
「金も駒もある中、小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きは中々いなくてな…ただ名の膨れ上がったお前たちなら話は別だ――況してやお前らには抜忍という死んでも文句を言われない都合の良い駒がいる。俺たちの組織には忍のような手品を扱う輩は一人もいなくてな、社会に派遣された忍を対抗する術も必要となった今、抜忍をも集めてるお前らなら話は簡単だし丁度良い…
死柄木弔、漆月を始めとした敵連合、俺の傘下に入れ。次の支配者は、俺だ――」
「――帰れ」
オーバーホールの言葉を完全拒否する死柄木。
冷徹で血の通わない声で呟き下された言葉に、黙って見つめてたマグネが動き出す。
「ゴメンね極道くん。私たちね、誰かの下についてる為にここに集まってる訳じゃあないの」
棍棒らしき鈍器を手に取り、隠された布を取ると、そこにはSとNの磁石を現したマグネットアイテム、裏サポート会社のアイテムによって開発された品物だ。
「ねえ極道くんは知らないでしょ?何で
マグネは個性を発動させ、オーバーホールに磁力を付与させる。突然、磁石のN軸に吸い寄せられる若頭は微かに表情を歪ませる。
「この子達は、望みたくもない
マグネの言葉に、鎌倉の表情は穏やかになり、沸騰して頭に昇った血が治っていく。鎌倉にとってマグネは良き理解者であり、友達のことでも相談に乗ってくれてたりもした、姉御肌の頼れるお姉さん的存在なのだ。
「私もね、初めてこの組織の仲間になった時は忍なんて訳わかんなかったけど、この子達と交えて理解したわ」
初めて忍として好感を持てたのが龍姫だった。
望みたくもない者にさせられ、親子としての血筋よりも家柄を優先にし子を子とも思わない虐待紛いの家柄事情。
龍姫はそんな誰にも縛られない、自分のように苦しめられる人間が一人でも減ることを望んでいた。それを善しと思わず、忍を人間とも思わない連中…どれもマグネにとっては耐え難く、社会に対する怒りを増幅させるものだった。
「だから私も漆月ちゃん達と一緒に忍の社会を壊そうって。そしてこの子達が笑って自由を手にする幸せを、分かち合おうって決めたのよ…それにね、こないだ友達と会ってきたわ」
マグネの友人は一般市民であり決して犯罪者ではないが、マグネと同じ同類の…オカマではあるものの、気の利いた優しい人間だ。
「内気で恥ずかしがり屋で、私の素性を知っても尚、友人でいてくれたかけがえのない友達…彼女言ってたわ――「常識という鎖に繋がれた人が繋がれてない人を笑ってる」って」
「………」
マグネの語り言に無言のまま表情を動かさないオーバーホールは、そのまま薄い手袋を脱ぎ取る。
『――健ちゃんはそこから飛び出したんだよね…私は、飛び出す勇気も持てないや…だから、そんな健ちゃんはとってもカッコいいよ…』
友人の言葉を脳裏に浮かばせたマグネは、武器を掲げる。
「何にも縛られずに生きたくてここにいる…この子達は貴方に見下されるような弱い子達じゃない――私たちの居場所は私たちが決めるわ!!」
ガンッ!!
と、鈍く重々しい一撃が入る。
鈍器で頭部を強く打たれたオーバーホールは、微かに表情を歪ませ、指一本でマグネの腕に触れる。
「知るか、そんなもん」
ギギギギギギ――
「?」
不快な音、体の構図に異変が生じたことに気付いたマグネは、今自分に何が起きてるのかも分からず
――パァンッ!!!
肉体が弾け飛んだ。
「――――」
一同は、今自分達の目の前で何が起きたか、いや…何を目にしてるのか理解が追いつかず、茫然としてしまう。ポタポタ…と、真っ赤な血の雫が垂れ落ちる音だけが、今の工場内にしか聞こえない。
マグネの上半身は肉体と供に弾け飛び、下半身は人形のように、しかしその後バランスが保てずゆっくりと、後ろへ倒れ伏せてしまう。
「……先に、手を出したのはお前らだからな?」
「マグ姉ええぇぇぇぇえええぇーーーーーーッッ!!!」
トゥワイスと龍姫、鎌倉の悲痛なる絶叫が木霊する。
死んだ――目の前で仲間が、殺された。
死穢八斎會の若頭と呼ばれるオーバーホールに、殺害された。
「なッ――今何が…?」
「マグ姉さんが、殺された…ッ!?」
冷静沈着な蒼志と闇でさえも、唐突な出来事に動揺してしまう。
何のモーションも無く、
オーバーホール、若頭…この男、間違いなく危険人物だ。
「ウ、ソ……だろ?」
トゥワイスの横で、今の現実を受け止めれない龍姫は膝を崩し、表情を暗く、歪ませる。
自分がコイツを連れてきてしまったせいで、単なる好奇心と組織の仲間に役立つ為に招いた結果が、悲劇を生み出した。
「うわああああぁぁぁあああぁぁああーーーーーーッッ!!うっ、ぐぅ…うぅ…!マ、マグ姉が……!殺され…あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!!」
大切な仲間。
頼れるマグ姉。
悩みを聞いてくれた彼女が、目の前でオーバーホールに殺された。余りもの衝撃で、目に涙を溜め発狂する鎌倉は髪をぐしゃぐしゃと乱れさせ、喉が枯れる程の叫びを上げる。
「血が…ああ汚い…汚いなぁ!!穢れただろうが、これだから嫌なんだ…!!」
頭部に血を流しながらも、マグネを殺めたことにより血飛沫で返り血が服に染み付いたオーバーホールは、ゴミでも見るように汚らわしく、ゴシゴシと腕を擦る。
「ッ――お、まえ!!今、何て言った!!!マグ姉のこと悪く言うなああ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁーーーーーッッ!!」
完全に頭に血が昇りキレだした鎌倉は、額に青筋を浮かべながら両鎌を抜く。
許せない、マグ姉を穢れたような物言いに、理性が吹っ飛ぶ鎌倉はオーバーホールに刃先を向ける。
「よせ鎌倉!…闇、アイツを止めろ!!」
混乱の真中、それでも動じず冷静さを欠かせない死柄木は、適切な判断と対応を取る。死柄木の言葉に直ぐ様応える彼女はコクリと頷くと、呪いの文字で記された札を、地面に貼り付ける。
「鎌倉さん一先ず落ち着いて下さいまし!」
瞬間、巨大な黒く淀んだツルがコンクリートの地面を突き破っては芽生え、鎌倉の四肢に巻き付き拘束する。飛びかかった彼女なら、回避は不可能な上に冷静さを失ってる彼女だからこそ、こう言った手段での拘束は容易い。
「何するんだよ闇!コイツは僕らの仲間を殺したんだぞ!?何で止めるんだよ!」
「お気持ちは解りますが怒りに身を任せては己が滅ぶだけです!弔さんの命令でも有りますし、それに相手の個性が不明な以上、無防備に突撃してはマグ姉さんと同じ結末になってしまうのは貴女でも解るでしょう!?」
「嫌だ!僕はアイツが気に入らないんだ!!」
ジタバタともがき抗う鎌倉に、闇も気が昂りながら彼女を抑制する。忍術よりも個性の方が遥かに上なのは、種類や特性によっては変わるものの、これは余りにも…馬鹿げてる。強個性なんてレベルじゃない、下手すれば不正なチートみたいなものだ。
「一先ず俺が…!」
「ッ――!止めるんだコンプレス!」
鎌倉に続きMr.コンプレスが動き出す。
しかし、鎌倉ほど感情的にはなってはいないものの、冷静さは保っていた。別に怒ってない訳じゃない、ただ…このオーバーホールという余りにも桁違いなイレギュラーを無力化させるべく、己の個性で封印させるだけだ。
(確かにコイツは強え…が、圧縮で閉じ込めれば一先ず無力化できる!鎌倉ちゃんが暴走気味になってる中、今の場を治めるのは俺しかいねぇ…!)
一方で、Mr.コンプレスが相手に近付く真中、蒼志は遠距離で刀を持ち秘伝忍法を発動させようとしていた。
(コンプレスに注目が偏ってる中、意識は向けられてない。私が彼に巻き添えを食らわせないように…秘伝忍法――【獄狼炎・鬼火】であれば、命に支障はない!)
彼女もオーバーホールの異端的な強さに驚愕と警戒を高めてるのだろう。排除しようとする意思が繋がり、連携を発動させる。
シュッ――ドススッ!
刹那――蒼志とコンプレスの二人は鈍い物理的な衝撃を受ける。
特に痛覚は感じなかったものの、今は何が起きたか気にする余裕すら無かった。
コンプレスがオーバーホールの肩に触れ、個性を発動させようとするも――
「はっ?」
圧縮が出来ない。
一瞬、頭の中が白と化し、思考が停止したMr.コンプレスは息を詰まらせる。
個性が、発動しない…いや、使えない!?
――また、それは…蒼志も同じこと。
「なっ、そ…そんな…!秘伝忍法が使えない!?」
顔面蒼白、己の忍術が使えないことに驚嘆の悲痛を含んだ声を発する蒼志は、試しに刀を振るって蒼炎を発動させようとするも、遁術すら扱えなくなってしまった。
「俺に――触るな!!!」
オーバーホールの怒声。
顔面が蕁麻疹で覆い尽くされる。
ここで初めて見せる激情。
怒り任せに軽く腕を弾き飛ばそうと振るわれ、Mr.コンプレスの片腕は、マグネの時と同じく弾け飛んだ。
「痛ッッてええええぇぇぇぇ!?!」
絶大なる痛覚。
尋常じゃないダメージ。
止まらない血流。
Mr.コンプレスは腰を抜かし尻もちを着いてしまう。マジシャンである彼の命とも、個性としての強さとも呼べるその腕は、オーバーホールによって無慈悲に失われたのだ。
「コンプレス!!――畜生…!憑黄泉さえいれば…!」
トゥワイスの嘆く言葉を無視する死柄木は、咄嗟に素早く動き出す。
シュッ――と放たれた注射器をモチーフにした形の弾丸を、死柄木は解っていたのか直ぐ様回避しオーバーホールの間合いに迫る。
身を屈め、死柄木の殺意と歪みを込めた掌が、オーバーホールに向けられる。
そんな異常な殺気を放つ禍々しい腕に、寒気を覚えたオーバーホールは、地面を分解させる余裕もなく――
「おい、盾!!」
〝盾〟という一言に、突如と見知らぬ男性が横から割り込んで来た。
ペストマスクに、ゴーグルと帽子を被った構成員は、若頭の命令通りに動き、盾となる。
五指によって身体は触れられ、名前も解らぬ不明な構成員は「うゔッ!?」と苦痛な呻き声を漏らした後、十秒も経たず全身が崩壊した。
「危ない所でしたよオーバーホール」
ふと、今度は聞き慣れない若い男性の声が天井付近から耳に届く。
盾役として死柄木に殺された構成員は既に肉としての原型を保たず、塵のように真っ赤に粉々にさせられ、地面が汚泥の塊と化す。
「ッ……そうか、成る程な。ハナからそうしてりゃあ、幾分わかり易かったぜ」
ボゴオォッ!と豪快に壁が破壊する音が、廃工場を轟かせる。
その正体は死穢八斎會のメンバー達、龍姫が目撃したであろう個性ある凶暴なメンバー達が勢揃い。
メリケンサックを装着させ、壁をぶち壊した巨漢なパワーレスラー。
巨漢な敵の背中から、何やらニョキリと飛び出た小さな人形のようなマスコット。顔そのものがペストマスクとなっている。
全身黒のマントで覆われ、銃器を掲げるハック帽子がお似合いな男。
全身が煌めく鱗を覆い、トサカを生やした異形な男。
海のように深い青色な短髪をした少女。二本の黒刀を手に持ち壁を切り捨てる彼女は、蒼志とは少し雰囲気は似ているが、血のように紅い瞳は濡れてるようで不気味な印象が残る、容姿的には10歳に近いだろう。
全身が白のコートで覆われ、Mr.コンプレスと蒼志に何かしらの銃弾を撃ち込んだ男。
どれもこれも曲者ばかりの敵だ。全員がペストマスクを被ってる。
特に龍姫は小さな黒いマスコットのような人形と、刀を軽々と向ける少女には、見覚えが無かった。
「待て!尾行はされてなかったハズ…!」
「ちょっと待て!話が違うぞ仲間は置いてくッて…それにコイツらも了承してたのに…!」
「大方、どいつかの個性だろ」
突然の急襲に慌てるトゥワイスと龍姫を他所に、死柄木は取り乱れることなく冷静に状況を分析し、思考を働かす。
「遅い…」
「すいやせん、しかし即効性は充分でしたね」
即効性…彼が撃ち放った銃弾の性能だろうか、謎が増えてしまったものの、恐らく相手は〝個性や忍術を無効化〟に出来る術を持ち合わせているらしい。
イレイザー・ヘッドのような個性の類ならあり得なくもないが…生憎、そんな様子にも見えない辺り、何らかの手段が奴らにはあるのだろう。そう見解した死柄木は、気に入らない相手に対する憎悪を燃やしながら、静かに目を細める。
「悪いな…俺も出来ればコイツらを呼びたくは無かったが…やむを得ない。
穏便に事を済ませたかったが、残念だよ敵連合。こうなったら冷静な判断を欠く…そうだな、戦力を削り合うのも不毛だし愚策だ…利害が一致しないし、丁度死体は一つ、キリも良い…一度頭を冷やして後日また話そう。
そうだな、駒の腕一本はまけてくれよ」
「おい待てよ巫山戯んな!!!」
オーバーホールの吐き捨てる言葉に、黙ってた龍姫が憤怒の募らせた声を上げる。
「こんな事しやがって…タダで済むと思ってんのかよお前…!!」
「テメェブッ殺してやる!!!」
「弔くん私刺せるよ、刺すね」
「コンプレスさん!今すぐ応急処置を致しますから、暫しお待ちを…!」
「コイツ…!僕をイジメてた嫌いな奴等とそっくりだ……斬り裂いて切り刻んでやる!!お前なんか、お前なんかああぁぁぁぁ!!」
敵連合と死穢八斎會の面々は、一触即発と言った雰囲気で、その気になれば迎撃できるような態勢になっている。全員向こうの個性が知らない上に、蒼志とコンプレスが無力化となった今は、かなり厳しい。
一同は空気を騒めつかせながら、殺意と憤怒の憎悪を膨張させる。
「……駄目だ」
「何でだよ!!」
「責任取らせろ!!」
「何言ってんだよ弔!気に入らないものは壊して良いんだろ!?僕はアイツらが大っ嫌いなんだ殺させろよ!!」
死柄木は、敢えてここは牽く。
憤る仲間たちを止める一言に、トゥワイスと龍姫、鎌倉が過激に反応する。特に鎌倉の言葉遣いは以前と比べてやや荒々しくなり、優しかった気の穏やかな口調が崩壊している。
「ハハッ、負け犬の遠吠えだなぁ!もっと泣いてろ、若が本気出しゃあテメェら全員、地獄に落ちてたろうがァ…!」
「賢明な判断だな、死柄木弔」
竜人のような、トサカの異形敵は相手を蔑むよう見下し、小さな着ぐるみを着た人形のような敵は、指を差す。
「直ぐにとは言わないが…できれば早めにして欲しいな。よく考えてみてくれ…こう、自分達の組織とか色々。冷静になったら電話で連絡してくれ」
連絡先を床に放り投げるオーバーホールは、壊れた壁の空洞へと歩んでいき、八斎會のメンバー諸共、消え去って行った。
不穏な空気は爆竹のように爆ぜ、微かな因縁が大きな種を成長させた。敵連合と死穢八斎會の対立関係は後味の悪い方向へ加速する。
「うぅ…ぐす……はぁ…はぁ……ゴメン…ゴメン、なさい…死柄木……」
死柄木の方へ、トボトボと歩み寄る龍姫は、潤った瞳に涙を流しながら、嗚咽に似た言葉を繋ぎ、謝罪する。
「私……アイツを呼ばなかったら……マグ姉が殺される事、無かったのに……皆んなの役に立てると思って、連れてきたのに……ゴメン、本当に……」
龍姫は姉御肌に似た、強気な性格を兼ね備えているが、所詮は中学生。精神的に忍としても甘い彼女にとって、敵同士の抗争という殺伐な空気にはまだ溶け込めていないのだろう、脆く弱い部分が存在する。そんな彼女が、涙を流するのも、不自然ではない。
そんな彼女に、死柄木弔は――
「……気にするな、と言ったらマグネのことが晴れないだろうが、今回の失態はお前とトゥワイスの所為じゃない。俺たちの為に、善かれと思って行動したんだろ?
お前が気に悩んで、頭を下げるのなら、もうそれで充分だ――……」
……え?
死柄木の余りに意外な言葉に、色んな意味で驚嘆する龍姫。本来なら、癇癪を起こして殺されても文句は言えないのに…昔の死柄木ならば、ここで完全に龍姫とトゥワイスを殺していたはずだ。
膝を崩し、拳を何度も床に打ち付ける鎌倉の嘆きだけが響き渡るこの殺伐とした異様な空間の中、死柄木は目を細く、咬み殺すような瞳でオーバーホールが去って行った方角を見届ける。
「……死穢八斎會、オーバーホール……」
次の支配者は――誰か。
ヒロアカグラ・マスターズカード
改人・脳無(USJ版)
個性技:クレイジーブレイク
敵三体に大ダメージを与える[クールタイム中]
必殺技:デストロイファントム
敵一体に超絶ダメージを与え、3ターンその敵の防御力を50%下げる[コスト中]
リーダースキル
敵連合の攻撃力・体力を30%アップ
パッシブスキル
【ヒーローキラー】[ヒーロー]への攻撃力が50%アップ
【忍キラー】[忍]への攻撃力が50%アップ
自身が攻撃をする度に体力を小回復。
リンクスキル
敵連合 攻撃力10%アップ
対象キャラクター 敵連合メンバー+脳無
USJの激戦 攻撃力50%アップ
対象キャラクター オールマイト+脳無
命令主と悪意の傀儡 攻撃力50%アップ
対象キャラクター 死柄木弔+脳無
雄英高校と半蔵学院が結託を誓い、お互いの成長を高め、授業の一環としてUSJに赴いた雄英生と忍学生、教師を含めた者達の前に現れた敵連合のメンバーが内1人。
オールマイト並みのパワー設定に改造し、【ショック吸収】、【超再生】という個性を与えられた〝対平和の象徴〟は、心無い改造人間。
今の社会に生きるヒーローと忍を葬り虐殺する為だけに生まれてきた、死柄木弔専用の殺戮破壊兵器である。