光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

168 / 253
167話「神白教官」

 

 

 協議会を終え、呼び出された個々のヒーロー達が事務所へ戻った後、サー・ナイトアイはグラントリノと話があると言い、二人だけは別の場所で残っている。

 時間が時間だからか、外は真っ暗で、街灯の光だけが点々と夜行を照らしてくれる。

 

「成る程、緑谷を差し向けたのは…私とオールマイトの仲を取り持つ為だったと。道理で、少年が私の事務所に…」

 

「いやまぁ、キッカケの一つにでもなるんじゃねェかと思ってな!歳食うと要らねぇ事ばかり…お節介が過ぎたか?」

 

「いえ、そんな事は有りません。十分に感謝してますし、貴方が認める程だ。理解できなかった私でも、オールマイトに近い狂気によく似てると思います」

 

 事務所内での採用試験とは別に、本人の前では口に出さなかった真実を、言葉に表すサー・ナイトアイに、グラントリノの口角が自然と釣り上がる。

 

「過去を振り返っても仕方ない。後継者を選んだのはオールマイト本人だ。そして背負られた弟子もまた、師匠の気持ちに応えるべく努力を重ねる。こう言う陳腐な台詞は俺の性にゃあ似合わねえが、アイツを見てると昔の俊典を思い出しちまってなぁ」

 

「グラントリノはオールマイトが学生時代の頃から既に…確かに、貴方の言葉には説得力がある。今も認めない私でも、思わず首を頷けてしまうほどに…」

 

 サー・ナイトアイの元相棒とは違って、グラントリノは昔からオールマイトを平和の象徴に育て上げるべく、指導していた身だ。雄英の元教師だったことも含めて、一つ一つの台詞はどうしても説得してしまう。年上、年季、何から何まで経験者として上だからこそ、どうしても納得してしまう。

 

「しかし、心掛けでは平和の象徴にはなれやしない…」

 

「陽花はよく言ってたな、「心なくして行動は移せない」って。心は人を動かす原動力だと…心掛けでも良いじゃねえか。それが人をより強く前に進ませてくれる。お前も俊典も奈菜も、一番大好きな言葉だったろ?」

 

「彼女の言葉一つ一つは、とても優しく太陽のように暖かく包み込んでくれる。言って欲しい言葉を投げかけてくれる、誰もが愛すべき人間だった。私も彼女の優しさや厳しさには尊敬の念を抱いております。しかし、先ほど協議会でも述べたように、私や私達は彼女のような聖人君子にはなれやしない。

 もし彼女のようになれば誰もが平穏に…いや、もう忍の世界など存在しないでしょう」

 

「お前さんの言ってることは分からんでもないし、予知の件で負い目を感じてるのも否定しない。

 アイツは、誰よりも真っ先に他人の幸せを思いやる女の子だ…だからこそ、平和を望み、『忍の世界を終わらせたかった』」

 

「………はい」

 

「忍の世界が終われば、無闇に争う必要もない…妖魔と戦うこともない、善忍と悪忍で殺し合いをしなくても済むと…今はそんな血生臭くはないが…」

 

「陽花は私やミリオと同じく、遥か先を見据えていた。

 これもまた、彼女が見た()なのでしょうか――?」

 

「陽花曰く、鍛えれば少し先の未来が見えるって言ってたし、お前の良き理解者だったもんなぁ。ただ、流石にそこまで先の未来は見えないだろう…きっと、長年の勘と優しさだろうな」

 

「実に彼女らしい」

 

 思い出すだけで微笑ましく、暖かく、優しく、愛情溢れた女の子。

 誰もが理想として、憧れるであろう最強の忍。勿論、その最強の仕掛けや種も重要人物しか知らないのだが。

 

「そういえば…オールマイトの後継者ばかり気に留めていたので忘れがちでしたが、忍社会では陽花の後釜として相応しい人物はいるのでしょうか?」

 

「アイツは両姫を後継者にしたかったそうだが、今となっちゃあ分からねぇ…今度小百合と会ったら聞いて見る。半蔵も黒影も忍の世界に不在な今、オールマイトのように纏めて支える柱がいない。象徴不在な今、俺たちと同じ戦力で穴埋めをするんじゃねえか?まっ、忍のやり方なんてどれも非効率的だけどな」

 

 そう言ってグラントリノは苦笑する。

 オールマイトの後継者が緑谷に対して、陽花の後継者は…本来ならば両姫であった。

 オールマイトや志村奈菜の関係者とは殆ど無縁に近い。

 始りの出逢いは、両親が殺され、妖魔に襲われていた所を陽花が救けてくれたそうだ。

 陽花に救われた人間は、彼女を慕う。

 其れはきっとオールマイトに近い何かがあるのだろう。彼女が現場に駆けつけてくれるのはとても嬉しい、幸せだ。存在そのものに安堵してしまう。

 褒めやかし過ぎてるのではない、事実だ。

 

「彼女に相応しい後継者が、現れると良いですね――」

 

 

 

 

 

 

 

 エリちゃんの居場所が解るまでの間、インターン生徒は待機となり、学業に専念する形に収まった。

 またインターンに関しては一切の口外を禁止とされている為、友人だろうと内容を話した時点で強制的にインターンの参加は取り消されるそうだ。

 緑谷はさておき、切島鋭児郎、麗日お茶子、蛙吹梅雨の三人は特に需要と言う訳でもなく、役割は薄いと相澤先生に断言された。そもそもの話、自分の意思で参加してる訳ではないので、無理に危険な場面に身を置く必要性は何処にもないと仰ったのだが、三人は身を引くことなく是が非でもエリちゃん救出と、意気込んでいた。

 制止の言葉も闇雲に消され兼ねない…そう判断し捉えた相澤は、敵連合の目的に触れる手前での活動は許可をするらしい。

 

 つまる話、皆がエリちゃん保護に奮い立つ。

 其れは忍学生も同じことだ――

 

 

 

 

「だぁッ――…!!」

 

 秘立蛇女子学園。

 汗と血と涙の結晶が染み渡る修練場に、雅緋の気迫溢れる声が空へと響く。通常の訓練でも、常にやる気と集中力を高め、熱心に取り組む彼女でも、今回は一味違う。

 

「――――」

 

 雅緋の的確な一撃の攻撃を、さらりと避けていく相手に、思わず心の中で舌打ちをする。

 

(どんな動きをすればあんな滑らかで簡単に捌かれるんだ…!!)

 

 珍しいことに、対戦相手はなんと小尾斗教官。

 カグラの称号を持ち、今は蛇女の教官として忍学校を養成し守り続ける役目を担っている。

 女性嫌い、陰湿で根暗で口を開けば罵詈雑言だらけの教官も、いざ戦うとなれば沈着冷静。爬虫類の捕食者のように獲物を見定める。

 雅緋の隙も油断もない剣技に、小尾斗はさも余裕そうに避け切っている。

 

「フンッ」

 

 余裕の序でに鼻で軽く笑うと、小尾斗教官は反撃の体制に入り、武器を振るう。

 

「ガッ――!?!」

 

 首筋に鋭い痛みが走り、思わず手の動きが止まってしまう。木刀が振るわれた事で、首筋に直撃した雅緋は苦痛に悶えながら、激痛が起きる首に手を置く。

 

「くっ…あぁ……」

 

「情けない。俺より力の有る奴が、俺に負けてるのはどう言う事だ。これが生身の実戦だったら6回は殺されてる」

 

 苦痛に悶える雅緋に今度は毒舌でじわじわと相手の精神を毒に浸していくのは、小尾斗教官の得意とする鬼畜な所業だ。

 雅緋は息を整えながら、痛みを無理やり押し殺し再戦を申し込む。

 

「もう一戦、願いします!!」

 

 覇気の篭った声が響き、小尾斗は面倒くさそうな顔を立てながら、木刀を握りしめる。

 だが…対して雅緋は真剣――何の変哲も無い木刀を相手に、漆黒に染まった劔での対抗。

 カグラと忍学生と言う優劣の差に対して、多少のハンデが必要なのは百も承知だが、何も知らない者から見れば小尾斗教官の方が不利に見えるだろう。

 しかも驚くべきことは、雅緋が秘伝忍法を使用してるのに対して、小尾斗は木刀だけ。秘伝忍法を使わず、剣技のみだ。

 しかしこの剣技もまた驚嘆すべきなのが、普通に武器を振ってるだけなのに、剣の軌道がまるで生きる蛇のように滑らかに変化し、予測不可能な攻撃が繰り出されることが脅威なのだ。

 其れこそまるで個性や忍術を発動してるのではないかと疑いをかけたくなるが、当の本人は忍術すら使用してないので何とも言えない。

 

 小尾斗はカグラの称号こそは背負っているものの、単純な強さは選抜メンバー内の紫は愚か、選抜補欠の芭蕉よりもやや劣り、学園内の忍学生の下忍と同レベル。

 にも関わらず、ただ剣技を極めただけでこれ程に天と地の差が開くのは、其れなりの経験を積んだからなのだろう。

 尤も――女性嫌いの小尾斗が雅緋の訓練に付き合うこと自体が稀であり、滅多に見ない光景なのだ。これでは明日は雨ならぬ槍が降ってきそうだ。

 

「遅い、鈍い、雑、全ての動きや経験値が欠けている――着いてくことすらままならんのか強者主義者が」

 

 弱者が強者に葬られてる…というのはこのことか。

 弱肉強食の世界が全てだと言い張る雅緋に対し、小尾斗は強肉弱食、価値観が真逆だ。

 女嫌いは勿論、強者こそが絶対と口先で言い張る人間は、性別問わず反吐がでるほど嫌悪を示すらしい。

 

「いえ…今日で全部、小尾斗教官をも上回ります…!!」

 

 ――どうやら、減らず口を叩く余裕は残ってるそうで、思わず不敵な笑みを浮かべてしまう。

 雅緋にとって、腕力も肉体の強さも弱い小尾斗教官が、自分をここまで滅多打ちにするなど、昔の自分でも想像付かない現象だろう。

 死穢八斎會の周辺地区をヒーロー達が調べてる間、待機状態の雅緋達は、この短期間でより己を磨くことに専念している。

 未知なる敵、情報も少ない今、実力を高めて損はないだろう。

 

「今日も雅緋、頑張ってるなぁ…」

 

 岩陰で、こっそりカメラを撮影するのは、親友の忌夢。どうやら雅緋の努力や汗水垂らす青春?(表現は合ってるのだろうか)をカメラに収めるらしい。

 

「ボロボロにされるのは癪だし、小尾斗教官を一発ブン殴りたい所はあるけど…我慢しよう……雅緋の揺れる胸、不敵な笑み、汗を流しながら戦う姿…綺麗だなぁ……えへへぇ、下着になって戦えばもっと良いんだけど…」

 

 前言撤回――親友ではなく変態だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 街の地区から隔離された女学園。

 秋の季節にも関わらず、白雪が積もり、ほぼ一年中雪祭り開催が出来ると断言しても良いほどだ。

 

 此処は――死塾月閃女学館。

 エリートとして選ばれた忍女学生のみが通い集うお嬢様学校だ。代々歴史に残るこの学園は、戦国時代よりも前に建てられたことから、忍の歴史としては最古に渡り、全国の中でトップに値する評価を誇っている。

 入学するのに厳しい分、忍学校を卒業した後は優秀な一人前の忍として活躍することになるだろう。

 それでも今の月閃の選抜メンバーは二人、雪泉と叢の2名が今日も訓練に励むのだったが…

 

「あっ、雪泉ちんじゃん!」

「やっほー!久し振り!」

「皆さん、元気そうで何よりです」

 

 ……何故か、三人は月閃に戻ってきた。

 

「み、皆さん!?」

 

 朝練として叢と一緒に訓練を受けようと(本人は同人誌の即売会「全年齢対象」にでる為漫画を描きたかったが無理矢理引っ張ってきた)してたのだが、朝の校門で三人が登校してる姿を見て、思わず驚嘆。

 いや、来て欲しくない訳では無いのだが、神野区という大事件の後にこうやって顔を合わせて再開するのが不思議というか、簡単に言えば寮のままで月閃には戻らないのかとばかり考えていたのだ。

 その前まではごく普通だったのだが…

 

「どうして…えっと、寮制になった今では外出は…」

 

「担任にも校長にもちゃんと申請して許可も貰ったし、大丈夫だって!」

「そうそう、其れに今日は教師の不在人手不足な月閃を指導する新しい「せんせー」が来るって話でしょ?」

 

 ああ、成る程。

 もうこの話は既に知れ渡って…というより、恐らく雄英の根津校長辺りが三人を呼んで話したのだろう。

 正確には美野里さんの「せんせー」というのは新しい教官だ。自分たちをより強く、一人前の忍に鍛える為の…

 

「大方想像は出来ました。初日、初めてお会いになる事も含めて挨拶はしておかなくてはなりません。だから早朝に…」

 

 幾ら雄英高校に転校(任務の都合上)したからとは言えど、彼女ら三人の本部は死塾月閃女学館である。

 忍の存在が明らかになった今、その影の印象は少し薄れてはいるものの、月閃女学館の居場所は忍学生を除いて知られていない。

 

「どんな方、というのは聞いてはおらぬのじゃが……校長曰く、死ぬ気で頑張って励むと良いって言われましたが…」

 

 最初っからいきなりハードル高めの言葉に、不安が過ぎる。

 

「でも美野里達はあの事件もあってあんまり外にはでちゃ駄目なんじゃ…」

 

 いつ何処で誰が彼女達の素性を監視しているか不明な以上、無闇に…いや、頻繁に月閃に戻るのは宜しくないだろう。

 こうやって聞くと監視ストーカーの被害者の発言に聞こえるが、超常社会の今、写輪眼だの千里眼だの扱う忍がいても可笑しくない世代なので、警戒に越したことはないし、少なくとも雄英は厳しい警戒態勢に慎まないと駄目なのだろう。

 

「恐らく私たち向けの言伝ですね其れ…」

 

 一体どんな輩なのだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り朝の訓練を終え、久しく皆と一緒に並んで教室へ入っていく雪泉達五人は、誰もいない空き教室に足を踏み入れる。

 此処は選抜メンバーの五人のみが選ばれた特別教室――クラスの人数は勿論五人。教師や教官を除いた選抜メンバー以外は立ち入り禁止とされており、用や相談等は許可を得てからでないと入れないシステムになっている。

 謂わば職員室のようなものだ。

 自分たちだけの教室は、静かでありながらも、五人全員が揃う光景に、懐かしさと嬉しさがこみ上げてくるのは、自然な流れだろう。

 そんな和む空気の中、教室の扉が開かれたことで、一陣の風が吹かれたように流れが変わる。

 

 入って来たのは見慣れぬ大人…月閃の教師陣の中では見かけない顔なので、先ず在籍してた人間ではないのは確かだろう。

 女性は自分達を見渡すと、軽く一礼してから教壇の前に立ち、漸く綺麗な唇を動かす。

 

 

「初めまして皆様――本日から死塾月閃女学館の教官を務めて頂く『神白』です、どうぞ宜しく」

 

 教室に入り、教官がやってくる時間は丁度と言っていいタイミングだった。チャイムの五分前ピッタシ、教室に入ってくる姿勢は相澤消太に近いデジャヴ感がある。

 

「貴女が、私たちを指導する新たな教官……」

 

 雪泉は思わず息を呑みながら、彼女の容姿を見つめる。

 綺麗な肌、純白で汚れ一つ残さない白髪は短いハーフアップ、熱の篭らない瞳は冷たくとも美しい。

 隅から隅まで綺麗な清潔さを保つ容姿は、言うなれば容姿端麗。カグラの称号を持つ女性は大抵美しいが、神白教官の場合は女性すらも尊敬を抱き、見惚れてしまう。

 美しい…いや、綺麗と言うべきか、クールで物静かな印象が更に彼女に魅力を与えてるのだろう。あの雪泉でさえも、思わず見惚れてしまっていたのだから。

 

「スッゲー美人じゃん!やっば、これシズエが見たら絶対発狂するって!!」

「半蔵おじいちゃんのような人じゃなくて良かったね!」

「おぉ…漫画のキャラクターデザインにピッタリ…よし、次のヒロインはこの人をメインに…」

「皆さん静かにして下さい!教官がまだ自己紹介したばかりでしょう?!」

 

 三人の雑談に注意を施す夜桜は、大分様になってるようで、いつになく自信が高い。雄英で培われたリーダーシップや長年長女として蓄えたお母さん気質は、今も衰えていないらしい。

 

「…………」

 

 当の本人は黙ったまま視線を向けてくる。非常に気不味い雰囲気が、場の空気に重さを増していく。

 

「あ、あの…!私は――「死塾月閃女学館選抜メンバー筆頭の雪泉、黒影の孫にして止めどない才覚を備える、優秀な忍学生ですね」えっ…!?」

 

 いても経っても居られず、席を立ち上がり自己紹介をしようとした矢先、沈黙してた彼女の口が再び開けば、先に自分のことを知っていたそうだ。

 

「他にも雪泉と同学年の叢、二年生の夜桜、一年生の四季と美野里。内三名が任務の都合により雄英高校への転校――貴女達の詳細は予め目に通しておいたのでお気になさらず」

 

 静かで綺麗な声は透き通っており、荒ぶる心や雑念を振り払うような心地良さを感じるのは、気の所為では無いのだろう。

 

「まあ尤も…雪泉、貴女はカリスマ性もあってか中等部の忍学生でも知らぬ者は早々いないと聞きます。学炎祭でより注目を集めた貴女を知らない者はほぼいないと断言しても良いでしょう」

 

 淡々と言われるとなんてコメントを返せば良いのか悩む雪泉は、ただ苦笑を作るしかなかった。

 ニューチューブで放映されていた為、彼女の名前や顔は忍社会では割と知名度が高く噂されている。無論、黒影の孫というのはカグラや腕の立つ忍しか知り得ない情報でもあるが…

 

「私が来たことで、以前の担任教師とは変わった訓練内容に変更致します。勿論、異論は認めません。今日からより一層厳しい毎日が送られますが、頑張って」

 

 淡々とドライな口調で、バッサリとそう言い捨てた。

 普通は「宜しいですか?」と異論を受け付けたりするものなのだが、流石は教官、生徒の反論には聞く耳持たずだ。

 

「あの…具体的にどんな……」

 

「最初に始める訓練で説明します。折角なので、貴女達三人もこれを機に訓練を受けましょう」

 

 どうやら三人も強制参加らしい。

 薄々と気付いていたが、カグラクラスの教官になると、教師とは違った厳しさがあると言うか…

 とは言ったものの、雄英に在籍していると言う形なので、流石に毎日訓練を強いる訳でもないらしく、今日だけだそうだ。

 

「はい!美野里から質問!」

 

 元気よく明るみの質問に、神白は軽く「どうぞ」と言葉を発する。

 

「神白ちゃんは…「ちゃん付けは無しで」…神白教官はどうして月閃の教官になったんですか?」

 

 自己紹介としては余りにも早く短い台詞だったので、美野里が質問をする。そう言えば名前だけしか聞いてないし、どうして突然教官が今日自分達の指導に回ったのか…気になる点は幾つか存在する。

 

「最初に挙げるのは上層部からの命令です。もう一つは個人的に興味が湧いたから…」

 

 二つ目の理由を口に出すと、何処か少し笑ったような気がして、胸を躍らすような物言いだった。

 個人的に…という言葉に少し引っかかりながら、その微笑んでる顔はとても可愛らしい。

 

「理由は、今の所それだけです」

 

 上層部からの命令、個人的な興味…恐らく本部分は上層部に当たるだろう。そう言えば近頃、違う忍学校にはカグラが教官となって忍生徒を鍛え上げてるらしい。

 なので、神白教官が月閃の教官に就いたのも不自然ではなく、エリート校と優秀な忍学校と考えて、寧ろ妥当だと考えるべきだ。

 神白教官の好きな事、嫌いな事、もっと具体的な内容を知りたがっていたが、彼女に「其れは今となっては関係ない」と軽くあしらわれ、気になる内容もほぼ聞けず仕舞いに終わったのは語るまでもない。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 訓練を終え、自室に戻る雪泉は疲労に悩みながら溜息を吐く。全身が悲鳴をあげており、骨にまで染み渡る激痛に、インターン当日はきちんと動けるのかどうか心配になってきた。

 どれもこれも全部、神白教官の異常なメニューのお陰(所為)だ。

 

 先ず最初に行われた修行の訓練内容は、1回でも良いので神白教官に攻撃を当てること。それを終えた者は休息を与えるという、序盤からは余り厳しいとは呼び難いものだった。

 しかも、神白教官は軽く動くだけで攻撃は繰り出さないし、武器も持たないので体に当てるのを防ぐ術がない。

 こう聞くと何とも無いように聞こえるのだが…

 

『では此処に50体の傀儡を動かしますから、貴女達は傀儡に攻撃を〝当てない〟ように、そして傀儡の攻撃に当たらないようにしっかりと私に攻撃を当てて下さいね。あっ、因みに傀儡を一体への攻撃、破壊をした場合、または傀儡に攻撃を当てられた場合はその回数により私の秘伝忍法で貴女達を殺さない加減で攻撃します』

 

 ……何が凄いかと言うと、今まで一度も受けたことが無い、斬新でハードな訓練を何なく受けさせていくスタイルだ。しかもその上罰が容赦ない。

 傀儡を破壊する訓練は入学初日でも受けたし、傀儡の攻撃に当たってはならないというのも頷ける。

 忍学校卒業試験では、傀儡の攻撃を受けた時点で忍の採用試験は不合格となり、結果的には社会に出ることも叶わない、今までの時間と労働が無駄となり泡となりて消えてしまうのだ。

 だが…これ程の数を相手に逃げ回る(カグラ)教官に攻撃を当てるのは、かなりハードルが高い。しかも間違えて傀儡に攻撃を当ててしまい、破壊してしまう危険性を考慮すると、中々にヘビーな内容だ。

 

 その訓練を終えれば次に出された課題が――

 

『次は私がひたすら木刀で貴女達を攻撃しますから、上手く受け切って忍耐力を鍛えて下さいね。気絶した後は目が覚めてから訓練開始として襲いますので、悪しからず』

 

 受け身の訓練である。

 攻撃を躱す回避術を身につけるのならまだしも、カグラの太刀筋を敢えて食らって無理矢理忍耐力を鍛えろという無茶振りには、悍ましさを感じた。

 美野里は「ごめん神白ちゃん。何言ってるか美野里、全然分かんないや」と、何故かニコニコしながら煽りモードに突入してしまったのは今でも覚えている。

 

 他にも忍術強化として忍術を長時間扱う訓練(夜桜、四季、美野里は強化合宿で経験済み)、無駄な動きを無くす訓練…とにかく、無事に帰れる保証はないと言うのが、今日を以って初めて知った。

 

『明日からは学校だけでなく環境や地形を利用した訓練も加えていこうと思いますので、今日のところは挨拶がてら終了としましょう』

 

 ……いや、挨拶がてらって何!?!

 またもや一同が、心の中で口を揃えた瞬間だった。

 

「うぅ…流石は教官、訓練内容が人一倍厳しく、宣言通り厳しい毎日が送られそうですね……体が保つかどうか…」

 

 特に厳しかったのは木刀による受け身の訓練。

 手加減してるとはいえ、一撃食らっただけで意識が吹き飛ばされそうになってしまうので、我武者羅になって耐え抜くしかなかったのだが、問題なのが其の訓練がいつ終わるのか、という合格基準がイマイチだった。

 本人に質問をしたら『気分で』と言われた時は酷かった。実はこの人滅茶苦茶怖い人じゃ…いや、もう既に怖い人なのだが、とにかくいつ終わるのか分からない訓練をやらされるのは、とても悍ましい。

 

「雪泉――」

 

 すると、背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ると書類を抱えてる教官が、此方に近付いてくる。どうやら自分に用があるらしい。

 

「はい、何でしょうか?」

「この後、お時間は宜しいでしょうか?」

「時間、ですか?ええ、今日はインターンには参加しなくても良いので全然…どうかしたのですか?」

 

 雪泉は首を傾げながら尋ねると、彼女は瞼を閉じて軽く深呼吸をする。

 瞼を開けると同時に、柔らかな口が動き出す。

 

 

「個人として、貴女にお話ししたいことがありますので…良ければ、一緒に語らいでもしませんか?」

 

 




その頃の美野里

「あ〜!こんな所に高級なチョコケーキが!四季ちゃんのかな?誰もいないから…食べちゃっても問題ないよね?」

注意:チョコレートケーキは神白教官のおやつです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。