「はぁ…はぁ……取り敢えず、逃げられないよう拘束はしといたぞ」
何とか八斎會の鉄砲玉三人の幹部を打ち倒した雅緋は、鉛玉のように重く沈む体を動かし、蓄積された疲労の体に鞭を入れる。
脂汗を脱ぐい、チラリと横目に視線を送ると、気絶してる八斎會の三人は目元を布で覆い隠され、マスクは取り上げられ口元が露わにされていた。
「お前達にとって思い入れがあるか否かは知らないが…これ以上武器を隠されたりでもしてたら、引き受ける際に抵抗でもされて警察に支障が出かねない…悪く思うなよ」
探って見た結果、凶器になりそうな武器は一つも見当たらなかった。窃野に関しては一応服の中と言った念入りなボディチェックもして見たが、結局何もなかったので、まあ結果的には良しとした。
「どの位時間が経った…?思ったよりも時間を食ってしまったな……私が生きてる内でもせめて、アイツらの助力にならなければ…」
微かな時間とはいえ血界突破の発動、鉄砲玉とはいえ彼らの脅威な連携、其れ等は確かに雅緋に大打撃な体力を削っていた。
朦朧とする意識の中、気を確かにするように引き締めて、足に力を入れる。
「遅くなってしまったが、其処で寝転ぶ訳にもいかない――私はまだ、動ける」
遅くなってしまっても、せめて追いつかなければ。
その一心と、自分はまだ此処で倒れる訳にはいかないとの使命感が、雅緋を労働者のように無理矢理奮い立たせていた。
「私はまだ終わっていない…闘いも……勝負は此処からか――」
サー・ナイトアイ一行が部屋を出た扉に目を送る。
先程行われていた戦闘は、序盤に過ぎず――良くも悪くも結果は八斎會の幹部三名を無力化することに成功。
(これでも、奴等は単なる捨て駒か……総司達は合流出来ただろうか?)
落とし穴にハマった結果が三人のいる個室へ繋がっていたのだが…別ルートや穴に注意して上手く鉢合わせれただろうか?
などと思考を巡らせながら、足に力を入れて一歩一歩と進んでいく。
(……ダメだな、上手く体のコントロールが…やはり、血界突破の代償が思った以上に響くし、連続では使いにくいな…消耗が激しい……)
血界突破――憑黄泉戦ではかなりの疲労が蓄積されていたし、今のに比べればまだマシではあるものの、反動に慣れる訳でもなく。
「追いつかなければ……」
重い重い体に喝を入れ、扉を開けた――
一方――雅緋に後を任せ、先に決められたルートを真っ直ぐに突き進むサー・ナイトアイ一行は、順調と言った形で進んでいる。治崎との距離の差は把握出来ずとも、ミリオが先に出向いて足止めをしてると考えれば、距離は遠いとも言えない。
「妙だな…」
ふと、訝しげに口を開いたのはイレイザー・ヘッドだ。その言葉を耳にした雪泉は、不思議そうに小首を傾げる。
「何が…ですか?」
「此処の地下、入中とやらの妨害が全くない――見ての通り、地下の構造が全く変わっていない」
イレイザー・ヘッドの指摘に、一同は気付く。
入中の個性『ミミック』により、地下の構造を操作することで、歪んだ形になる。其れは勿論、一眼見ただけで簡単に見解出来るほどに、分かりやすい。
だが――此処から先は全く変化はなく、自分たち侵入者を妨げるような様子は全く伺えない。
「確かに変ですね…私たちに何の支障もでないというのは宜しくとも、それはそれで不気味で、何か向こうにも策があると考えても可笑しくないですね…」
「恐らく取り残された警官の方に意識を向いたか…何方にせよ、地下全体を操れるって訳でもなさそうだ。雅緋の推測は案の定、正しかったってことが証明付けられたな――」
入中による個性の操作が見受けられない限り、此方の様子が見えていないか、見ていないという説が浮かび上がる。
少なくとも、地下全体を把握し全て操作可能な訳ではないらしい。
其れが可能なら、自分達を圧殺して仕留めれば追われる心配はないのだから、その仮説が正しく機能してるのは本当のようだ。
「なら今の内に――」
「待て」
此処でサー・ナイトアイが立ち止まり、制止の言葉が投げられる。何か可笑しな点が在ったのか、彼は眼鏡をクイッと上げて、訝しげに見つめる。
「可笑しい――此処に上へ上がる階段が一本線となってたルートのはずが…二つの道に分けられ階段となっている…」
『!?』
サーの発言に一同は目を大きく見開く。
正規のルートだった階段が二つに分けられている…しかも、ミリオと別れる前は、治崎の分解と修復によって隔てた壁が障壁として邪魔をしていたのだが、今度は――ミミックによって作られた偽物のルート。
しかも何方か片方が本物、しかも予知で視たルートが分裂されたような形となってるので、これを見破れる術は持っていない。
「おいおい今度はルートが分断されてんのかよ!!予知ならこれもお見通しじゃねえのかサー・ナイトアイ!!」
「私が視たのはあくまで構成員の一人による未来!私たちが来たことで即座にルートを作り変えたと考えれば、予知でさえもどうにもならん!!」
まさか、自分達の妨害を他所に違うダミーのルートを複製していたとは、想像もしなかったのだろう。それならば自分達を圧殺しないのも、妨害が来なかったのも頷けるし、窃野達三人を全員で相手にしていたら、僅かな時間稼ぎでもっと複雑なルートに作り変えていたのだろう。
「こりゃ一体どうすれば…!」
「どうこう悩んで足を止めてるうちにまた構造を作り変えられたらたまったもんじゃねえぞ!何か此方も策はねえのか!?」
自分達が道に悩む――それだけで既に時間を稼いでるのが、入中にたっての思惑なのだろう。
自分には力が無いので、代わりに幹部や四天王をぶつけて殺し、戦力を確実に削るといった策士ほど、厄介な者はそういない。
「二手に別れるか…?」
「いやそれこそ相手の完全なる思うツボ…かと言って少数で行けば…」
「此処に銀がいれば確実に効率が良かったのですが、彼女が不在の今、悩みますね…」
少数で行けばピンチ、大人数で行けば時間のロスも掛かってしまう。
壁に潜り地下と同化する個性は余りにも厄介で、イレイザー・ヘッドがずっと個性を発動し続けても消せないのは、恐らく壁に這いずりながら、監視しているのだろう。
「ならば、半々に別れるかどうか…に、いえ…それこそ向こうの思うツボ。サー・ナイトアイ、此処で予知を視るのはどうでしょうか?」
「いや、それはダメだ。以前にも申したようにアレはダメ押し…今はまだ潮時じゃない」
今こそ潮時なのではないか?と雪泉は心の中で思ったものの、これ以上反論はしなかった。本人が嫌がってるのは一つの理由に含まれてるのだが、1日に一回しか使えないというリスクが高い為、幾ら出し惜しみをするなと言っても、自分のピンチを回避する為に使えないとも考えてしまえば、何とも言えなくなる。
自分の個性は自分が良く知っている――なので余計な事は口に出さないようにする。
「んじゃあ壁をぶち壊しながらってのはどうです!?違うダミーだったとしても、これくらいの薄い厚さなら簡単に隣に繋がれますよ!」
「おお、良い案やな烈怒頼雄斗!」
先程、治崎が駆使した壁を壊したことを振り返った切島の発言に、ファットガムは「でかしたで!」と声を張る。
確かに、これくらいの壁なら難なく隣へ行けるだろう…そしてパワーファイターは二人いる、つまり切島と緑谷のグループで二手に分かればなんて事もない。
「この先――鬼が出るか邪が出るか…ですね」
一同は構えを取り、階段を登り詰めようとした――
「……さて、ダミーのルートに四天王の『崎子』と『柔増』を配置した…ゴミどもの様子はどうだ?」
別の偽物のルートを作り終えた入中は、落とし穴へ繋げた三人の鉄砲玉の様子を伺いに赴く。他の連中の居場所は大体頭の中で予想(正規ルートへ真っ直ぐ進んでる為、そのまま戻りに行けば奴等もいる)出来てるので、どの位の足止めが出来たのかを探りに行ったのだが…
「ッ――!?!」
入中の視界に広がる光景は、信じられないものだった。
拘束具で縛られながら目隠しされてる三人は、気絶をしていた。酷い傷痕に、死体、又は気絶してる者は誰一人としていない。
つまり、奴等は何の結果も残せず素早く、簡単にやられてしまったのだ。
時間的には約五分…だが、それでも充分に早すぎる…
「何をしてるんだこのゴミどもがあぁぁああぁぁーーーーーッッッ!!!!」
キエエェェェ!!と常人離れした憤りの奇声を荒げながら、入中は目を充血させる。
「オーバーホールに恩があったんじゃないのかぁ!!?何でテメェらは誰一人殺せず無様に…!!しかも救われないテメェらに衣食住も与えてやったのにぃ!!――いや、可笑しい…コイツらは確かにゴミだが、それなりに能力としては使えた……なのにコイツらの失態は一体……」
憤慨に満ちた入中は捲し立てながら、再起不能の三人に罵詈雑言を浴びせるものの、此処で何かに気づく。
幾らなんでも、能力が使える上に三人の連携はゴミでありながら驚異的なものだ…それらを簡単に駆使できるヒーローはいるにしても、それを可能に変えたのは誰なのかと。
先程は全員を一気に足止めにしようとしたが、その結果がこれとなれば…
「チィ――!!」
恐らく、三人を簡単に無力化できる人間が集団に紛れ込んでるか、或いはそれ以上の連携で決めた確率も充分に考えられる。
ならば後は簡単――より確実に戦力を削り落とせば、奴等の連携や脅威は消え失せる。
その為には――邪魔者を一人ずつ減らしていく。
ズボリ――聞き慣れない不快な音が鈍く聞こえた刹那、イレイザー・ヘッドの横から突如、柱状の壁が勢いを増して押し寄せた。
「ッ――!?!」
何の突拍子も、何の予兆もなく、突然襲い掛かって来た奇襲に、イレイザー・ヘッドは対応できず、そのまま穴を開けた壁に入れられてしまう。
「イレイザー!!」
「すいません…!どうやら――」
――無理そうだ…
間に合わない、時は既に遅し。
強化繊維で生み出された捕縛用の帯を投げるも、そのまま穴へと押せられ、結局窮地を脱せれない。
麗王と雪泉が素早く武器を取り、操作されてる壁の突起物を破壊しようにも、やはり時間が足らずのようで。
――先ずは貴様だ!お前は俺たちにとって厄介な人物だ!!
入中の狙いは正しいと呼べる行動で、個性を制限させるイレイザー・ヘッドを一人にさせ、鉄砲玉や四天王へ送り込ませるというやり方は、とても計算的で効率が良い。
「させへんで!!」
ドンッ──!!
誰かに強く押され、衝撃を受けた感覚を味わいながら、横へと視界がズレる。
「イレイザー!お前はよコイツの個性消せ!!」
原因はファットガム。
偶々、近くにいた彼はイレイザー・ヘッドを押し退けたことで、自分を犠牲に何とか助けることに成功した。
だがそれと同時に、ファットガムが代わりに壁の穴へと消えていく。
「すまないファット!!」
「気にす――」
最後の最後に言葉が途切れ、穴の中へと押し込まれ、姿を消してしまった。
ドォン!という衝撃音と共に、雪泉と麗王の二人によって振るわれた武器で変形した壁の柱を破壊するも、結果的には一人…いや、二人の戦力を失った。
「ファットガムまで…!畜生!!また、一人…」
切島の悔恨が混ざった声が虚しく響き、表情を歪ませる。
雅緋に続いて次はファットガム、自分をインターンとして雇ってくれた彼には感謝もした。
そんな自分を選んで迎え入れてくれた彼を此処で…
「あれ…ファットさんの近くにいた芭蕉さんは…?」
夕焼の言葉に気付いた一同は辺りを見回すも、彼女の姿は何処にも見受けられない。
いつから居なかった?いや…さっきまでは此処にいた…となると。
「まさか――!!」
ゴロゴロゴロ――バタン!
小さく狭い洞窟のような通路を転がりながら、漸く何処かの部屋に出されたファットガムは、ムクリと起き上がる。
「…なんや、此処?」
何処に繋がってるのかは全く不明だが、薄暗い部屋にドラム缶が部屋の端に転がってる辺り、使われていない古い倉庫部屋だと見解して良いだろう。
埃や使われていない様子はない上に、使い古されてはいるが、汚れてはいないようだ。
「なんやよう分からん所に飛ばされたなぁ…」
ファットガムはポリポリと頬を掻きながら、小声で独り言を呟く。実際にサー・ナイトアイからは手短な最短ルート、地下全体を把握してた訳ではないので、先ず自分達が何処まで遠かったのかすら不明だ。
「むむむ…!」
「ん?なんや?」
自分より下から苦しくもがく声が聞こえたので、意識を声の主に向けると、其処には自分より小さな体をした少女が、ファットのお腹に沈んでいたのだ。
「芭蕉ちゃん何してん!?てか君なんで此処に!?!」
「ぷはぁッ…!はぁ…はぁ、すいませんファットさん…私」
取り敢えず呼吸が出来ずに苦しんでた彼女を出した。漸く息を吸えることに何とか一命?を取り留めた彼女は、肺に酸素を補給しながら、息を整える。
どうやらファットガムがイレイザー・ヘッドを庇う際に、彼女も同じ考えだったらしく、行動が完全一致した形として彼女も此の倉庫に送られたそうだ。
「まあしゃーない、それより芭蕉ちゃん気ィ抜くな。入中がそう容易くウチらを隔離させて戦力分散させるだけとは考えられへん。もしかしたら雅緋みたく次の刺客が来てる可能性はジューブンに――」
警戒しながら芭蕉に細心の注意を施す間中――ドン!と一歩足を踏み入れた大きな音が、個室に木霊する。
視界が余り晴れてないので気付かなかったが、人は既にいた。
ファットガムと芭蕉の視界に入った男は、金髪の髪を後ろにたなびかせ黒いペストマスクを着用した少し大柄な男。
丸太のように太い腕、全てを粉砕する強靭な拳が、迫り来る。
(無駄やで――どんな敵も、衝撃を沈めるだけや!!)
ファットガムは瞬時に防御の体制に入るよう腹部を剥き出したまま力を入れる。どんな衝撃や刃物も、自分の腹の中に静まる個性は、衝撃吸収に似て非なるもの。
ファットガムの個性による詳細は頭の中で覚えているので、彼女は瞬時に巨大な墨筆を敵に向ける。
(ファットさんが衝撃を沈めてるウチに、この男の戦意を――!!)
殴ってる間に畳み掛ける戦法なのだろうか、コミュニケーションを交わさずとも、己が共に役割を理解し果たそうとする意思疎通は、とても強い物だ。
――ボボボボボボボボボ――!!!
「!?!」
――だったのだが…僅かな数秒にも満たない速度で、何連撃もの殴打が炸裂。反撃の余地も与えず、そのままファットガムを吹き飛ばすように勢いを乗せ、渾身の一撃が彼を退ける。
「ぐおぉッッ――!!」
口から思わず血を吹き出したファットガムは、苦悶の表情に歪んでいた。反撃すら与えられなかった芭蕉は「えっ…?」と、恐る恐るファットガムに視線を向ける。
ヒーローコスチュームは、殴られた箇所がほぼビリビリに破れ、早くもダメージが入ったファットガムに、呆然とする。
衝撃や刃物さえ簡単に沈めてしまうファットガムを、ああも容易くダメージを与える光景は、インターンに入ってから一度も見たことがない。彼女は嫌な冷や汗を滴らせながら、彼を簡単に苦痛に歪ませた張本人に意識を向ける。
「俺は思うんだ――ケンカに銃や刃物は不粋だって。
持ってたら誰でも勝てる、そういうのはケンカじゃないし、卑怯な手段を使った勝負はケンカじゃない。
その身に宿した力のみで殺し合うのがベストなんだ…分かるかな?そういうところだぞ緑髪の女」
その男は突如、ジャブのように拳を振りながら己の価値観を口に出し、彼女に拳を向ける。
「忍って思うんだ。どうしてお前らは武器や毒なんか使わなきゃ人を殺せないんだ?其れは簡単――お前らが卑怯者で、ケンカも出来ない弱腰だから。
俺は軟弱者や卑怯卑劣なヤツは吐き気がする、だからお前らは絶対に勝ててるんだ。
つー訳で女、武器を捨てろ。己の拳のみで対抗し、俺に勝負を挑め。俺は正々堂々とした真っ向勝負をする人間が大好きなのさ、此処に来た時点で既に勝負は開始してる。そこのデブを見習え」
この男の名は『乱波肩動』
死穢八斎會八斎衆・鉄砲玉の一人、幹部にして単純なパワーファイターは、林間合宿に襲撃して来たマスキュラー、黒佐波を連想させる。
「ファット…さん!!」
「ゲホッ、ゴホッ!気にすんなや!」
彼女の切羽詰まった声に、咳き込みながら応答に答えるファットガムは、芭蕉を安静にさせるよう無理に気を貼る。
「おら女!さっさと武器を捨てろ!俺は喧嘩したいんだよ!!武器を使った闘いはフェアじゃない!!」
「ッ――!!」
流石の彼女も、彼の身勝手な傍若無人っぷりに嫌気が刺したのか、人を傷付けることに躊躇いが芽生えるも、何とか押し殺しながら武器を振るう。
対する乱波は彼女に呆れながら、肩を竦める。
ガキイィン――!!
「えっ…?」
突如――自分の攻撃が弾かれる感触が手に伝わる。
何もなかった空間は、瞬く間に緑色の何かが乱波をドーム状の如く包んで行く。
まるで鉄…いや、全てを弾き守り通す要塞。
「フム、衝撃を沈める個性を持つヒーローはファットガムか、そして其方の緑髪の清楚な少女は…ヒーロー学生か、いや…忍か?ヤツは武器を持ってるな…成る程」
静まる声が聞こえると、乱波の隣に並び立つのは同じくペストマスクを付け、目を瞑る男。
この男は『天蓋壁慈』――乱波と同じく、死穢八斎會八斎衆・鉄砲玉の一員だ。
「私は乱波、お前の嫌う卑怯者とやらの攻撃を防ぎ、お前はこの場の侵入者どもを一掃するよう排除する。
私とお前の個性の相性は良好、これ以上叶う者はいない」
「待て待て、俺は武器を持つ卑怯者とは闘いたくないからな。デブだけを殺すぜ?」
「案ずるな乱波、お前の力量ならオーバーホール様を除いて誰にでも勝てる。つまり、この少女が武器を手にした所で我らには勝てまい」
「成る程!それは盲点だったぜ!!」
天蓋は誇らしげと余裕を保ちながら、乱波は納得したように拳と拳を打ち合う。
「なんやよう分からんコントが始まっとんな……ちと痛手を食らっちまったけど、こりゃ引き締めんと本当にヤバい相手やな」
「………」
「…?どしたん、芭蕉?」
「硬かった…」
「??」
「刃が一切、通らなかった…そして向こうは…ファットさんの衝撃を沈めないほどの力量と、銃のような速さ…」
芭蕉は黙々と、小さな声で独り言を呟きながら、苦虫を噛み潰したような顔で、相手の二人組を睨み付ける。
これは彼女でも直ぐに実感したのだろう実感したのだろう――この二人組、一筋縄ではいかない上に、先程の幹部三人とは違う。
「察しが良いな少女よ…そう、凡ゆる攻撃を防ぐバリアの盾、全てを粉砕し破壊する拳の矛――我々は矛と盾!!抜かりのない我々に、もはや敵なし!!」
刀と盾ならぬ、矛と盾――最強の矛にも盾にもなれる切島を具現化したかのような二人組のコンビは、確かに一筋縄ではいかない。
ファットガムの脂肪吸着でさえも、沈めきれないラッシュと破壊力、芭蕉の攻撃でさえも傷一つ付けさせないバリアは破る術もなく。
性格は反対だが、相性は良好、個性も強力な上にとても鉄砲玉とは思えない実力だ。
「まさかこのまま…私たち…二人に……」
「ッ…!!」
相手の弱点を補い、二人の連携と実力の高さに思わず怖気付いてしまう彼女は、体を震わせる。
天蓋と呼ばれる男はともかく、乱波と呼ばれる男の連打撃は凄まじく、常人が食らえば簡単にミンチになるだろう。
自分が血塗られた肉塊になると想像するだけで、身震いが止まらない。
「気い引き締めろや芭蕉――!!」
途端――黒色に塗り潰されてた彼女の思考は、ファットガムの葛藤により不安に積もった靄が晴れる。
「何のために雅緋が残した!総司の言葉をもう忘れたんか!?二人が託した想いを無下にするな!!此処で戦意喪失すればそれこそ敵の思うツボやで!如何にどう素早く敵を制圧できるかが勝利の鍵やで!」
敵を倒す前に自分の心が先に折れてしまえば、勝てる相手にも勝てやしない。追い詰められたから?だったら形勢逆転をすれば良い、失敗は挽回してフォローし合えば問題ない。
此方は脂肪吸着、墨字忍法――二人の組み合わせもまた強力なものだ、勝機は此方に無い訳では無い。
「フッ…喜べ乱波よ、向こうはまだ勝つ気でいるらしいぞ?」
「解ってくれたか良いデブだ!!」
沈着冷静と傍若無人、冷と熱を混ぜ合わせたような性反対な二人だからこそ、惹かれ合う性質があるのだろう。駄弁る余裕すらあるようだ。
「そう、ですね…!!此処で私が怖くて動けないじゃ…あの時と同じ、何一つ変われないまま――」
『スプリンガーのヒーロー事務所は何処ですか?』
また――あの時みたいに、
『どうして…教えてくれないんだ』
目の前の恐怖に目を逸らしてしまう、弱気な自分のままじゃダメだ。
自分は学生以前に忍であり悪忍――腐っても選抜候補メンバーの一員、此処で怖気付いて何も出来ませんでしたでは、後を託してくれた二人に申し訳ない。小尾斗教官に今度こそ怒られてしまう。他の皆んなにも合わせる顔がない。
「せや、芭蕉ちゃん。さっさとこのザコ三下ぶっ飛ばして、皆んなの所戻るぞ!!!」
相手が矛と盾ならば、此方も矛と盾で対抗するまでだ――
乱波くんは滅茶苦茶お気に入りです。
実際に黒佐波によく似た性質なのですが、唯一違うのは弱者は弱者で蹴落とし罵声を浴びせるのと、弱者だろうが誰であろうと自分に勝負を挑んでくる人間(拳のみ)が好ましいという違いかな。
乱波くんは名前的に忍者の名前でもあり、雲雀が春花様に利用されていた時、半蔵学院の超秘伝忍法書を取るための符牒の合言葉が、乱波だったんだよ。
乱波「俺は、忍だった??」
そして以前、感想で戴いた質問を返すのを忘れてたので此処でお送りしますね。
Q:最後に上鳴君と峰田君に質問です。
もしも、緑谷君と飛鳥さんが…キス(魚の名前ではないです)をしてる所を目撃してしまったらどう対応しますか?(あくまでもしもであります)
A:上鳴「緑谷てめええぇぇぇ!!!死ねやあああぁぁぁあ!!リア充かよ爆殺されろ!!」
峰田「ワカメ頭てめええぇぇぇ!!どうやら昆布にされてえみてぇだなこの陰キャクソ野郎ファ◯◯ュー!!!」
あっ、それと質問コーナーに関してはもしかしたら後書きに移行になるかもです。