死穢八斎會編…長くない??確か原作だと一年は掛かってた…
私が蛇女に入学してからの月日は、今思えばあっという間だった。
時間が流れるというのは早いもので、一年365日というのは、長いようで短い…そんな感覚だ。
蛇女子学園は悪忍の中でも歴としたエリート学校で、入学者は一年生だけでも何千は超える大規模だそうだ。
悪忍学校としてはかなり珍しく、1万の学生が所属する忍学校はそう多くはない。しかしその分選抜メンバーとして選ばれるのが五人なので、改めて蛇女子学園のハードルの高さに驚嘆してしまう。
その中でも選抜補欠メンバーも五人、空席なので狙うなら一先ずは補欠から、という手は有る。
一万人の忍学生の中で候補を含めた選抜の座が僅か10人の少数で決められてると考えると、とても乗り気…というよりも、気力が自然と抜けてしまう。
選抜メンバーは謂わば忍学校の代表人だ。
学校の顔立ちを保つのも含め、プライドや実力は高いし、学園の恥を晒す行為は決して許されない。
過激で厳しい立場に身を置かれ、周りから選抜の座を狙われ、実力や地位を維持し続けるのは並の忍学生では決して無理だろう。
「すっごい…此処が蛇女の本拠地…」
深い森林地帯に校舎が備わってるなど、思いもしなかったが…道理で善忍には気付かれない訳だ。
更にこの森林地帯はかなり危険で、道中は毒を持つ蛇や虫は勿論、蛇女の改良種である邪想草と言ったものまでが配置されており、一般人を立寄らせない険しい道に設置してあるのだ。
立ち入り禁止区域に指定しているのは基本、上層部のツテで回ってはいるが、此れは忍云々関係なく立入を禁じざるを得ないと感心してしまう。
そんなこんなで山に入ってから数時間、漸く蛇女子学園に到着した芭蕉は、本拠地の蛇女…聳え立つ天守閣を見上げながら呆然としてしまう。
念願の蛇女に入れたのが嬉しくて、つい浮かれてしまいガチだが、決して気を緩めてはいけない。
「ええっと、案内書通りに行けば…良いんですよね?」
蛇女子学園のパンフレットを見つめながら、指をさしたり周りの景色を確認したりと、繊細によりよく確認を取っている。其れは無理もない――何しろ蛇女子学園の校舎は忍学生が多いため、其れなりに敷地の規模が大きく、訓練所も含めると、大学よりも大きいのだから、まるで迷路だ。
パンフレットの地図を広げながら、熱心に場所を探して数十分後、ようやく蛇女の校舎に入ることが出来た。体感時間で言えば小一時間位なのだが、慣れない敷地と校舎に戸惑ってたり、感心してたりと見学してたからだろう。
一通り、学校内での説明を終えた一学年生は、即座に訓練所へと足を運ばせる。何でも入学式やらガイダンスといった行事はやる暇がないとの事で、教師による蛇女の校則を話せば即座に蛇女の生徒として訓練に励まなければならないらしい。
本来なら座学を終えてから、忍の訓練を開始するのが学校内での流れなのだが、蛇女子学園に入ったばかりの新人という理由で、先には蛇女を代表する選抜メンバーや上級生を紹介するそうだ。
その中では一学年全員が強制参加なので、何百を超える生徒を前にたったの四人の上級生が稽古を付けるのだから、緊張する分、俄然やる気が出るものだ。
因みに選抜メンバーが四人なのは、過去に選抜内の一人が卒業した為か、空席となっているらしい。
その空席を埋めるべく、全学年で空白の選抜メンバーの一人を抽選するそうだ。選抜メンバーに入る為の試合が開催されるので、一年生は勿論、先輩方も気合が充分に入っている。
「一年生の諸君、入学おめでとう。鈴音先生から話は聞いてるだろうが、初日から我々選抜メンバーが今日一日中に稽古を付ける。貴重な時間だ、至らぬ点や解らないことは私たちに聞けよ」
選抜メンバーの一人は、ひと塊りになってる一学年の集団を前にそう告げる。
容姿は褐色肌と強気な性格が印象強く、背中は7本の刀を所持している、目つきが冷たい先輩だ。
ポニーテールを揺らがす彼女の名前は『焔』――選抜メンバーの二年生であり、気高い雰囲気を漂わせている。強気で時に冷たくとも厳しいが、実力は自分たちと比べれば天と地の差が開くほどに、別格だ。
他にも後ろで待機してた三人が軽く自己紹介をしていく中、私はある学生の名前を聞いて茫然としてしまう。
「春花さんと同じく、三年の『日影』や。ほな、よろしゅうな」
日影――かつて、悪忍になれるかどうかと悩み明け暮れてた自分に、希望を持たせてくれた女性だ。
対面して言葉を交えた訳でもなく、窮地な状況下で助けてくれた訳でもなく、ただ彼女の強さや魅力に惹かれ、憧れた、自分にとっての理想とする存在。
「まさか……日影さんが、悪忍だったなんて……」
最初は夢かと思ったけど、現実だった。
嬉しいと喜ばしい感情は湧いたが、当初は衝撃が強かった余り、その時は本当に口を開けたままポカンとしてしまってた。
だが思い返せば確かに日影が悪忍になっても可笑しくない点は幾つか存在する。
学生なのにも関わらず、あれほどのアクロバティックな動きや、滑らかな動作、蛇の如く獲物を仕留める目つき、ヒーロー希望者とはまた違った異質な強さを彼女は備えていたので、そう考えると何かしらの合点は付く。
まさか自分が悪忍としての道を歩むきっかけの一つとなった人が、志望した蛇女子学園に所属していたなんて、誰が予想できたことか。想像できるわけがない。
「でも…これって……」
だがそれと同時に気付いた事…それは、自分の未来へ歩む力を与えてくれた彼女と、身近にいられること。それが自分にとってどれだけ幸福なのか。
日影本人にとっては身に覚えのない出来事でも、自分としては大変嬉しいものだし、感謝すらしている。
――これはきっと、運命なのかもしれない。
なんて恋愛小説でありきたりな台詞を言いがちではあるが、少なくとも自分にとって、この出逢いは奇跡にも等しい。僅かな出逢い、大したことのない事柄、それでも自分が目指したい目標へ向かって行けるのは、彼女がいたからだ。
選抜メンバーの全員が軽く紹介を終えた所、私は迷わず日影さんの所へ行って稽古をつけて貰った。
私以外にも殆どの生徒が集まっており、大した話は出来なかったものの、彼女と一緒になって訓練を受けて貰えたのはとても嬉しかった。
本人は全く感情を露わにしないものの、そもそも上級生の立場な上に、自分たち大人数を相手にするのは大変だから、鬱憤してたのかもしれない。
それでも僅かだが、言葉を交わしてお喋り出来たのは、蛇女入学初めての思い出だ。
これからこの先、日影と出逢う日は増えていくのだろうか?少なくとも同じ学校で住まうのだから、逢おうと思えば逢えるのだろうが、彼女は自分達と違って選抜メンバーの人間なので、そう簡単に話し合えるとは限らない。
「はぁ…日影さん、今日も素敵だったなぁ……」
それでも芭蕉にとって今日一日会話できただけでも満足してるようだ。頬を紅く染め上げ、表情は柔らかく緩んでいる。
彼女の中に芽生えてた小さな懸念の眼差しは少しずつ、自分の中で大きく成長し大きくなっていく感覚がする。
「クールな所とか、冷静な表情とか……あと無邪気な顔立ち…あぁ、凄いなぁ日影さん。私がそうなりたい人が、まるで鏡として現れたみたい…」
などと、夜を照らす月明かりの下、斜断化した草原に腰かけた芭蕉が恋した乙女のように独り言を呟いてると。
「呼んだ?」
不意に暖かな感情に浸っていると、尤も愛おしい声が耳を打つ。自分以外にも夜を外出してるとは思わず、振り返ってみると、其処には確かにいた。日影先輩が――
「あっ、えっ!?ひ、日影先輩…!!い、一体いつから…?」
「今来た所や、今日の夜は丁度ええ風が吹いてるしな。ちょっと当たろうかと思ってな。そしたらあんさんがブツブツ呟いててな。ワシの名前を呼ばれた気がするから声かけたんや」
ああ成る程…と心の中で納得しながら頷く。
全部聞かれてた訳ではないし、小さい声だったのでよく聞こえなかったそうだ。何がともあれ、本人に対しては聞かれたくない本音だったので、良かったと胸をなで下ろす。
「そういや今日、わしの稽古付けて貰ってた子やな。名前聞くの忘れてたわ…えっと」
「あ、そういえばそうでしたね…」
大人数を一人で相手にしてた上に、名前を教える機会すらなかった為、日影が彼女の名前を知らないのは無理もない。それでも、あの人数の中で自分のことを覚えててくれてたのは、かなり嬉しい。
それもそのはず、日影にとって自分が気にしない、又は興味のない物は何であろうと全く覚えない上に直ぐ忘れてしまう性質なので、彼女の顔を覚えてたのは確かに喜ばしいものだろう。
「わ、私は芭蕉と申します……えっと、その…こ、これからも宜しくお願いしまする!!」
「しまする?」
「……………ごめんなさい日影先輩、今のは忘れてください」
そして緊張してつい言葉を噛んでしまうのも、芭蕉の特徴的な部分だ。顔を真っ赤にしながら俯く芭蕉に、日影は小首を傾げる。
「あーっと、芭蕉さんか。どうや?蛇女の様子は…言うてもアレか、まだ初日だから慣れるの大変やと思うけど」
「あっ、お気遣いありがとう御座います……確かに敷地や校舎が広くて覚えるのは大変ですけど…こんなの全然、苦じゃありませんから」
蛇女子学園は大きな学園なので、中には一学年の生徒は迷うことがあるらしい。因みに日影もよく学校内に迷ったことがあるので、新学年の生徒達の心情は痛いほどに察せれる。
中でも教室に入るのに遅刻した者はペナルティの追加もあり、一時期は大変だったのを日影はその身に染みらせている。
「そうか、芭蕉さんは真面目で頑張り屋さんなんやね。どんなに厳しくても大丈夫やと思うよ」
その心を持っていれば。
感情はなく、心の声が小さい日影にしては、ヤケに優しくて珍しい台詞だ。
「ひ、日影さんがいるから…俄然、頑張れるんです……」
「ん?」
「あ、いえ…何でも御座いません…」
小さな声で呟いてたら、隣に座る日影が反応したようで、咄嗟に何事もないように首を横に振る。
「あの…日影さん、良ければ今夜、少しお話でも……」
「ん?あー、ええよ。わしも今日は特にやることないし、詠さんのもやし話に付き合うよりかは断然」
もやし話が何かは知らなかったものの、それから夢のような時間だった。敬愛する人と隣で話し合ったり、解らないこと、不安なこと、様々な声を日影さんは聴いてくれた。
「大丈夫やで、芭蕉さんは優しいからなぁ。わしにはないモンやけど、きっと誰かに必要とされると思うでアンタは――」
日影も心の何処かで嬉しかったのだろう。
芭蕉の優しさが、かつて自分を拾ってくれた親代わりの、大好きな日向に。
髪の色、優しさ、心の落ち着くような暖かさは、冷徹で心のない戦闘マシーンと怖れられた日影の心を和らげていた。それは本人自身も気付かぬ程に、温もりが心地よく、懐かしささえも感じてしまう。
だからこそ、日影も芭蕉に優しく、かつて日向に言えなかった言葉を、出すことが出来たのだろう。
互いが互いに良い影響を与え、それが利益となり成長を施す。
人と人との繋がりは確固たるもので、時にその出会いは人の世界観や人生を変えさせる。
気が付かなくとも、無自覚でも、其れは影響を受けてる証拠なのだ。
日影の、たった一人の憧れの先輩が口に出した言葉が、なによりも嬉しくて、自分の心に残る大切な宝物だ。
貴女はいつも、私の心に元気を与えてくれる。
力の源として、明るく安らかな気持ちにしてくれる。
そんな理想な貴女が、何より大好きで、愛おしくて……貴女がいてくれるだけで、私…ここまで来れましたよ。
まだまだ未熟で、貴女に比べたら程遠い…だけど貴女みたいにどんな窮地や恐怖を前にしても、怯まずに堂々と前に出たい。
その一心が、今となっては此処まで貴女を求めるなんて、当時は思いもしなかった。
――日影さん、皆んな…私は、役に立てたかな?
強く、なれたのかな……いつも心が弱くて、どうしようもないダメな自分を変えたくて、ここまで成長した私は、蛇女の誇りを掲げれたのかな…?
願わくば、日影さん…貴女と肩を並べて一緒に、蛇女の誇りを背負いたかったなぁ…でも、それは叶わない夢となり、貴女は私のいない場所でいない時に、去ってしまった。
どうして消えてしまったのだろうと、嘆いてたけど…でも、泣いてるばかりじゃダメですよね。
いつまでも怖くて、肝心な時に動けないじゃ、一流の悪忍になんてなれませんもの。弱くて何も変わってない私のままじゃ、日影さんに顔向けできない。
だから、私――強くなります。
弱くても、未熟でも、此処から…少しずつ前へ進んで、貴女とまた肩を並べれる日が来ますように。
蛇女の皆んなと一緒に誇りを背負って、一人の蛇女の生徒として…沢山の人達の役に立ちたい。
私は――蛇女の誇りを……そして、私の為に託してくれた皆んなの気持ちに応えたい。
総司さん、雅緋さん……私は、上手くやれたかな?
――私は…蛇女の誇りを掲げれましたか?
「敗因一つや!!この女を甘く見とった俺もお前らも!!!!」
気を失い気絶してる彼女を片腕で抱き抱えながら、ファットガムは拳を強く握りしめる。
涙を流しながらも、男は吠える。彼女のお陰で紡いでくれたこの機会は、決して無駄にはしない。
そして許せなかった――彼女は弱いと見込みながら、上手く頼ろうとしなかった己の不甲斐なさ。
惰弱、格下、軟弱、全てにおいて彼女を見下してた二人組、自分にも他人にも憤りを隠せないこの感情。
全て芭蕉という女性を甘く、弱く、認めていなかった事実が、何もよりも許せず、勢い余って己を殴りたくなる。こんなにも頼りになって、自分の命すら顧みず、勇敢に立ち挑んだ彼女を、軟弱呼ばわりするのはあってはならない――絶対に赦されない。
「最大最高最防壁ィ!!」
「――無駄だ天蓋、バリア解け…破られる」
絶体絶命に直面し、危険だと見解した天蓋は、直ちに焦る衝動を無理やり押し殺しながら、バリアの硬度を最骨頂に強化する。
そんな天蓋のバリアも無駄あがき、焼け石に水程度でしかならないことを悟った乱波は、不敵な笑みを釣り上げる。
一触即発――痺れる空気が強く流れ込み、ファットガムも乱波も拳を強く握りしめる。
さぁ、最後の決着をつけよう。
結果が見えていようと、何であろうと、せめて借りはキッチリ返しておかねばなるまい――
「思い知れや――芭蕉ちゃんが掲げた蛇女の生徒の誇りを!!!!」
そして――魂を。
最弱によって動かされた賽は形勢逆転を成し、見事に最強の矛と盾を、文字通りに吹き飛ばす。
ファットガム――個性『脂肪吸着』
打撃や刃物等、脂肪で沈ませることによって衝撃を蓄え維持することが可能。但し許容量を超えてしまうと、ダメージとなり身体に影響を受けてしまう。
また、脂肪を燃やして吸着をなくすことで、蓄えた衝撃を放つことも可能なため、最強の矛にも盾にもなれる。
矛盾コンビによる闘い――此処で決着。
そして中途半端に終わった為か、短い。