光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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177話「なんだお前」

 

 

 

 

 

 

 

 放たれた衝撃は、砲撃の如く吹き飛ばす。

 矛を振るうように一直線を描き、拳を虚空に突き刺すと、想像を遥かに絶する衝撃波が、部屋一面を覆い尽くす。天蓋のバリアは跡形もなく破壊され、ガラス細工が割れたような爽快音が鼓膜を貫き、衝撃に当てられた天蓋と乱波の二人は成す術なく大きく吹き飛んだ。

 

「矛と盾の勝負、こっちの勝ちや!!」

 

 ファットガムの逞しい勝利の宣言――とうに乱波と天蓋の二人組は気を失っており、聞こえてるかどうかさえ不明だが、一応勝負の決着だけはハッキリと伝えておこう。

 

「三下のザコと虚勢張って言うてたけど、これ芭蕉ちゃんいなかったら確実にお陀仏やった……それほどに」

 

 この二人組は強かった。

 凡ゆる欠点や弱点を、互いが補い弱点や死角をなくす――我々ヒーローが当たり前のことをやってるのを同じに、奴等もそれなりのコンビネーションで攻めてきた。

 今回は偶々、運が良かったのかもしれない…しかし、もし下手して他の人間、又は入中から相澤を庇ったのが自分一人だけだったらと想像するとゾッとしてしまう。

 意気投合するペアを敵に回すと恐ろしいというのが、改めて骨身に沁みて理解した。

 

「う……うぅ…ぁ……」

 

「おっ!芭蕉ちゃん目ェ覚めたか!?」

 

 腕で安全に抱きかかえられてる芭蕉は、微かな呻き声を上げながら、全身の激痛に表情を歪ませる。

 全面打撲、乱波の攻撃は下手すれば人間を簡単に殺めてしまう単純なパワーだ。鍛えられた忍学生でさえアレを食らえばどうなるかは検討も付かないが、墨字忍法で予め防御用として用意してた札を貼っつけてでも、この威力。

 もし何の策もなくただただ突っ込んでいたら、限りなく死んでた確率は極めて高い。

 

「あ、あの…私……眠って、た?」

 

「ちょいと気絶してたけど、凄いな芭蕉ちゃん。君がいたお陰で、俺は救われたんや。有難うなぁ…そんでゴメンな、こんな無理をさせて」

 

 気絶から目を覚ますのは早いものの、流石は忍だ。

 幾ら防御力を高めていたとはいえ、あの暴君の猛攻を受けてもなお、気絶から早く復活するのはタフネスというか…やわな鍛え方はされておらず、厳しい訓練を受けてきたのだと知る。

 

「私の、お陰…?」

 

「芭蕉ちゃんいなかったら確実に死んでた、そんでもって無理させた挙句、君のこと頼ろうとしなくて本当にゴメンな…!でも大丈夫やで、敵さんはもう倒し――」

 

 たから。その言葉を告げる前に、ガラリと小石が地面に転がる音が微かに聞こえた。音が反響してる為か、ただの聞き間違いではない。

 

 

「ま……だ、だ――」

 

 

 振り向き声の主に視線を送ると其処には、倒れてたはずの乱波が立ち尽くしていた。ボロ雑巾みたいな重傷で、見事に立ち上がってみせたのだ。

 

「え……?」

「はあぁ――!?!」

 

 二人共一同、驚愕する。

 芭蕉は微かに気を失った程度だったので、二人組が吹き飛ばされた過程は見てはいないものの、それでも壁にクレーターみたく凹んでたあの光景から、満身創痍で立ち上がるとは夢にも思っていなかったらしい。

 

 特に一番に衝撃を受けたのはファットガムだろう。

 乱波の一撃の打撃は強い――乱波が放った衝撃はゆえに200発は超えるであろう猛威。溜め込んだ衝撃を一気に放出した上に、下手すれば食らった相手すらも目を覚まさない可能性だって低いわけでもないのに、天蓋のような盾役でもないのに、矛の乱波は血を吐き捨てながらも、立ち上がる。

 

「お前…嘘やろ!?矛役やんけ!何で攻撃特化のお前が立ち上がれ…いや、盾役のバリアによって衝撃が…!」

 

 天蓋の最大最高最防壁のバリアによって、衝撃が緩和された可能性。それが頭に過ったファットガムは歯を食いしばる。

 迂闊だった――バリアを壊しても、確実に敵の戦意を潰せる訳ではないと、何故解らなかった…

 そもそも乱波がまだ動けること自体が驚きだし、もう奴の衝撃を吸着する脂肪も残っていない。盾もなければ、肉弾戦こそは得意なものの、乱波と比べれば雲泥の差だ。

 

「わ、私……まだ、やれ、ます……から…ファットさんは……下がってて……」

 

「芭蕉ちゃん…?」

 

 ケホケホと咳き込みながら、弱々しい腕を震わせ、体を抱え込んでるファットガムの腕を掴む。

 口から血を流しながらも、少女は戦おうとする。

 

「無茶や!君もう本当に――」

 

「無茶して…当然なんです……私、いつも気が弱い上に……大事な時に動けなくて……そんなダメな自分のまま、変わらずには…」

 

「君…そこまで…」

 

 震える声を精一杯に喉に振り絞りながら、訴えるかのようにファットガムの顔を見つめる彼女に、目頭が熱くなる。

 そう言えば、自分の事務所に来る時だって――

 

 

『ほぉ、悪忍から志望が入るなんて結構珍しいなぁ!芭蕉ちゃん言うたっけ、こんなマイナーヒーローの事務所、入ろうとする奴結構少なくてなぁ、丁度環っちゅーヘボメンタルしてるビック3から一人、善忍の学生がおるんやけど、大丈夫か?』

 

『はい…!えっと、全然大丈夫です!』

 

 最初は君、すっごいオドオドしてたり気が動転してて、優柔不断な面が結構あったよなぁ…まるで環と夕焼の二人を見てる気分になったわ。

 

『本当に…私たち悪忍って結構、偏見な目で見られたりするので、採用して下さるだけでも嬉しくてつい頬が…』

 

 小動物みたいでなんか和むなぁ…って誰でも思ってまうやろ?こんな子が悪忍だなんて思わへんし、逆に善忍ですって言った方が採用率高くなると思うんやけど、政府や国には嘘は吐けないので、流石にそれはダメである。

 

『けど芭蕉ちゃん、どうしてこんなマイナーヒーローの事務所選んだんや?』

 

『えっと……私、結構近接戦…じゃなくて、武闘派と行った肉弾戦は得意じゃないんですけど、ファットさんは経験あるんですよね?』

 

『よお知ってんなぁ、まー隠すことじゃないから一応ネットのプロフィール紹介で書いてあったりするんやけどな。よーは苦手克服か!』

 

 こんな人気の低いヒーロー事務所は、プロフィールを載せても余り目を通してくれなかったりするので、こういう世間で注目を集めガチなヒーローの世の中でも特に気に触ることはないのだが、自分を見てくれるのは何かと嬉しい気分だ。

 

『あ、はい!その…私っていつも気が弱くて、優柔不断な場面とか、勇気が足りなくて足を引っ張ったりとか……あと、危なっかしい人を前になると竦んでしまったり…』

 

『んー、忍っちゅー所の生活や仕事の場面はよーわからんしエッジショットに聞けば解る思うけど、たしかにそうなると危なっかしいというか…ヒーローだと判断ミスは勿論、選択を遅らせると人質とか死んじゃうケースって割とあるしなぁ』

 

 最近は僧坊ヘッドギアの強盗誘拐殺人事件の凶悪犯や、辻斬惨殺事件のデス・マンティス、大量虐殺事件のムーンフィッシュなど、数えれば幾らでもいる。そんな凶暴な敵を前に躊躇や選択肢のミス、遅れた行動は自分の命を脅かしてしまうので、何にせよ彼女の弱気を治さなくてはいけない、という点に関しては一理ある。

 

『まあ戦闘の立ち回り全般、気の弱い所直すのはよー分かった。けど…それなら色々な事務所があるやろ?』

 

『あ、えっとですね…』

 

 忍学生には、就活や進学等にある面接はない。

 上層部が忍学校を卒業した者に、適当に名を呼んで、任務を与えるだけの話…駒の詳細など、強いか弱いかの優劣さえ知っていればそれで良い。

 だが…此方もヒーロー事務所を構える身…なので、ヒーローとしてのルールに則って貰うべく、軽い面接をしているのだ。

 

『その……お恥ずかしながら、大きな理由ではないんですけど…私、好みの性格から何かと大阪に興味がありまして……』

 

 ――好み?

 確かに大阪はそれなりに有名だし人気も良ければ活気も良いし、好みを挙げれば幾らでもあるので、検討がつかない。

 

『鉄板焼き……特に大阪の名物が大好きで、ファットさんもよく食べてるんだとか…』

 

 

 

 

 

 あの時は面白い子が来たなぁ思うて採用したなぁ。

 意気投合…はあるんやけど、彼女が弱い自分を変えたいと言った時から、大凡…採用は決まったもんやけど……まさか、この短期間で、よくここまで――

 

「ダメなんかやないで、芭蕉ちゃんはもう立派に強く――「そうだ女……勝負、しろ」ッ!?」

 

 ほんわかとした暖かな空気の流れを、一瞬で凍てつく乱波の声。よろりよろりとフラつきながら、獣は痺れた拳を力づくで握り締める。

 

「女、名前……なんだ?」

 

「えっと……ば、芭蕉と、申します……」

 

 突然、勝負しろと言った途端に名前を尋ねられた彼女は、正直に忍名を通す。素直に答えた彼女に

 

 

「そうか……芭蕉、覚えた。

 

 奥に応急処置できる部屋がある――芭蕉とデブ、付いて来い。傷の手当てをしてやる」

 

 

 乱波は吹っ飛んだ予想外な台詞を吐き捨てた。

 

『………えっ?』

 

 危機感マックスの流れから、突然治療してやると言われた二人は、ポカンと口を開けたまま茫然としてしまう。

 そんな状態が暫し数秒――

 

「罠やん」

 

 ファットガムが口を開いた。

 

「アホか、俺が罠を張るように見えるのか?」

 

 そんなファットガムの警戒に苛立つ乱波は声を低く荒げる。なんだこの妙なコントは…と思う矢先に――

 

「何の真似だ乱波よ!!どう言う了見で貴様、敵に塩を送るのか!?」

 

「…あァん?」

 

 乱波の背中は、天蓋の怒声を浴びてしまう。

 其れもそうだ――敵を始末しろと命じられたにも関わらず、任務は愚か、侵入者の治療など、敵としては余りにも虫が良すぎる。

 天蓋も身体こそ動かせないものの、乱波を制止するよう全力を尽くしてる。

 

 

「貴様の暴走を止め、コントロールするのが我の役目!喧嘩狂い故に欲望を貪る獣が、何故ここにいる!?全てはオーバーホール様の為なのだ!!

 侵入者を殺せ、嬲り殺しにしろ!貴様の役目は何だ?!」

 

 

 此処まで憤りと気が昂ぶった天蓋は今までに見たことがない。仲間割れ…なのかどうかは知らないが、恐らく其れに近い部類だろう。若干、今の流れに困惑する二人を御構い無しだ。

 

 ドォン――!!

 

 乱波は天蓋に近づき――思いっきし腹部を踏んづける。

「ごふッ…!」と酸素を全部吐き出されてしまう天蓋は、トドメを刺されたと言わんばかりに直ぐに気を失ってしまった。

 

「っるせぇんだよ、黙れや引きこもりが……バリア張る余力も無ェんだろ?其れに俺を止めたかったら言葉じゃなくて行動くらいしてみせろ。あのガ…芭蕉はそうしたぞ」

 

 白目を向いて伸ばせた天蓋には聞こえないと知りながら、乱波は悪態の言葉を放つ。

 天蓋が喧嘩が得意で無いのも、バリアという防衛の個性を得意とする仏の使いというのは、オーバーホールからは聞いているし、よくペアにもなったりする。

 しかし、喧嘩が出来ないから言葉だけでしか吠えないのは正直、うんざりしていたのだ。バリアを張れず、単に口だけで捲し立てられても鬱陶しいだけ。少なくとも芭蕉は天蓋とは違って行動で示したぞと、言葉を置いていく。

 

「さて、話をしようお前ら」

 

 くるり、と正面に向き直る乱波は、高揚しながら声色を変える。どうやらファットガムと芭蕉の二人組がえらく気に入ったのか、調子が良さそうだ。

 

「生憎、俺も殺しはしたいが両腕折れちまってな…まともに腕が上がらねえ……」

 

「何が言いたいねん」

 

「喧嘩だよ、殺し合いだ。俺は地下格闘技からやって来た…知ってんだろ?個性フル活用、バリバリ違法だらけのファイトクラブだ。俺はあそこで育ったようなものだ」

 

 地下格闘技――噂には聞いたことがある。

 場所や詳細は不明だが、上層部や警察、法律でさえも認められてない違法を犯す地下格闘技場があるのだと。

 殺し、武器、何でもござれ――金さえ払えば客だって簡単に入れる場所だ。乱波は10歳になってから、親の反動で喧嘩の道にめり込み、結果的に彼は地下格闘技の人間として生きてきた。

 其処には自分の個性や力をフル活用できる上に、大好きな喧嘩も喜んでやりたい放題…客も喜び自分も喜ぶ。乱波にとって地下格闘技場は正しく理想とする幻想郷――夢のような花園だ。

 

「ただなぁ…12歳の頃からもう彼処も飽きちまったんだ。俺と戦う奴らの殆どが武器を使ったり、卑怯な手段を使ったりで、真っ向勝負を挑むヤツでも少し殴られただけでベソかいて泣き崩れ、命乞いをしちまう……生き甲斐だった彼処はもう、腐ったも同然さ…」

 

 乱波はつまらなさそうに、自分の出でを語り、肩を竦める。

 それでも他に行き場はないし、特に考え事や物事に没頭できるかと言われれば無理、難しいことを考える柄ではないのは本人でも理解できる。ならば下手に野垂れるよりも、衣食住を与えられてる彼処で生きていた方がまだ楽ではある。

 ……尤も、生きてる心地さえ感じられないが。

 

「分かるだろ?やりたいことができない辛さ…!!

 命を賭すことでしか生まれぬ力!そのぶつけ合い!その身に宿した力のみで対抗する強さ!

 だから良い…良いんだよお前たち二人!特に芭蕉、俺はお前が一番気に入ったァ!!」

 

 昂ぶる感情を曝け出し、抑えられぬ衝動を解き放つ。

 乱波肩動は、芭蕉を見つめる瞳は、正しく獣…獲物を見据えた狼だ。

 

「芭蕉――俺は卑怯な手を使うヤツは大っ嫌いだ。そんなヤツは誰でも勝てる、勝負や痛いことに逃げてるだけの保身に走る臆病者はな…

 だが、お前は卑怯や汚い手を使おうと、俺を倒そうとするその一心が俺を此処まで追い込ませた…!!

 お前はそこら辺に転がる有象無象じゃない、勝利への執念に己の命さえ顧みず殺し合いに身を投じるお前は実に良い!!卑怯ではなく、正々堂々と真っ向勝負を挑んできたその勇姿はなおよし!!!」

 

 口角を釣り上げ、狂人は破顔う。

 

「再死合をしよう…!!傷を治せ…次は絶対に殺してやる!!!」

 

 その笑顔に若干、歪んだモノを感じ取れるが、それ程に彼女にご執心であり、気に入ったことを示しているのだろう。これを喜べば良いのかどうかはさておき…

 

「自分知ってるか?この後ヒーローや警察がごっつう来て捕まるだけや。君、ブタ箱行きやで?次なんてあらへんのや」

 

「煩え!今の戦いはドローだ!まだ誰も死んでない!コイツもお前も俺もまだ死んでないんだよ!!」

 

「なんちゅー滅茶苦茶な…なんで律儀にシップ則ってるんやお前…」

 

 他の鉄砲玉の幹部とは違い、最初っから最後まで危なっかしい、嵐のような輩だ。

 傍若無人――此処まで来ると何処か清々しさを感じてしまう。芯を貫くとか、己のルールに忠実なのだろう。潔さに関しては、感嘆とするものがある。

 

「す、凄い人ですね……」

 

「まあ、願わくば治っても大人しくしててくれば幸いなんやが…あの性格から考えてまず無理やな」

 

 乱波肩動の無茶振りに、何処か苦笑気味な芭蕉。彼女も満更でもなさそうで、乱波に気に入られてること自体、嫌な気分ではない様子が垣間見える。

 

「しっかし芭蕉ちゃん、短期間で本当に変わったなぁ。強くなったでホンマ――」

 

 傍で身体を支えられてる芭蕉に、ファットガムの優しい言葉が放たれた。一体何を…と、彼女が口を開く前に、部屋の扉――ドアノブに手を置く乱波が問いかけてきた。

 

「おい、芭蕉――お前、デブが言ってたが、蛇女?が、どうとか言ってたな?なんだそれは」

 

「えっ?あ…えっと……私の今所属してる忍学校です……」

 

「組織じゃねえのか学校か!

 そうか……なぁ、お前は選抜を代表するもんなのか?」

 

「選抜代表なんてそんな…!私はまだまだ未熟で、選抜候補ですし…」

 

「へぇ…」

 

 先刻まで敵同士、殺し合いをしていたのに、今となっては軽く談笑するような仲となり、緊迫とした空気はもう何処にもない。

 

「じゃあ――蛇女は相当強え学校なのか……お前より上の奴らが沢山いるのなら、忍の世界も悪くねえのかもな」

 

 乱波肩動はどちらかといえば、敵よりも悪忍寄りだろう。

 芭蕉とは違って、殺戮に何の躊躇いもない、死地の上での命のやり取りには忠実に従い、己の命さえ顧みない。

 雅緋と戦った三人の鉄砲玉とは違ってかなり個性的に強い方面だ。

 

 

「益々気に入った。惚れたぜお前の悪の誇りってヤツはよォ――また、お前と殺し合いてェな」

 

 

 何がともあれ、乱波はとても嬉しそうに微笑んだ。(最後のセリフは物騒だが)

 其れは肉食獣が時に見せる優しさに近いもの……あのバトルジャンキーな彼からは想像もしない台詞に、思わず胸が引き締まる。

 

「良かったな芭蕉ちゃん、見てみ?君、今までずっと弱いって、未熟だって自分を言い聞かせてたのに、今じゃ俺みたいなヒーローどころか、強敵さんにまで認められてるんや」

 

 自分の傍で囁いてくれるヒーローに認められ、自分よりもずっと格上の存在に認められ、蛇女の誇りはより高く舞い掲げられた。

 今まで自分に対する強さや成長は実感など湧かないが、蛇女の皆んなや、エリを救うべく身を削ってる皆の役に立てた実感が、突然に溢れ出した。

 

「何でしょう……私、とても…嬉しいです……此処に来て…皆んなの役に立てた実感がして…」

「せや、芭蕉ちゃんは皆んなの役に立ったんや。俺一人だったら絶対に太刀打ち出来んかったし、助けられたわ」

 

 なんともほんわかな感じだろうか、まだ闘いは終わってはいないものの、それでも決着が付いたような流れだ。

 芭蕉は微笑みながら、ファットガムに支えられ、乱波の跡を付いて行く。因みに芭蕉が携帯していた墨札の「縛」で、気絶してる天蓋の身を拘束し、ファットガムが引きずる感じの絵柄は、何ともシュールなことだろうか。

 

 

 

 

 

 地下迷路を歩いてから数分後、一室の部屋に入ると中は殺伐とした医療室となっていた。

 鉄パイプ型の白いベッドが置かれており、後は丁寧に大きなダンボール箱が積み重ねられていたり、棚の中には包帯や薬品やらが収納しており、匂いもそれが原因か、消毒の独特とした香りが充満している。

 

「えっと、あったあった。これと後包帯だな」

 

 手慣れた動作で薬品やら包帯やらを取り出す乱波の絵面は意外性があり、物騒で口を開けば「喧嘩」「殺し合い」の言葉しか出ない単細胞の脳筋からは、想像も出来ない光景だ。

 いや、もしかしたら喧嘩の際に負傷して薬を使うのに慣れてるのかもしれない。

 

「芭蕉ちゃん、とりま今は休むでホンマ。此処で逆に無茶したところでわいら、お荷物になっちまうしな」

 

 宣言の際に「さっさと皆の所へ戻るぞ」なんて啖呵切ってこのザマでは、皆に顔向け出来ないものの、これだけの負傷で戻った所でやれることなど殆どないだろう。

 それに人員は幸いまだ向こうには沢山いる上に、イレイザー・ヘッド、そして環が側にいるので問題はないだろう。

 

「治ったら殺すからな!早く治せよ!」

 

「ホンマ無茶言うなや!つか生かせ!」

 

 前までは敵であったのに、このコントの流れや組み合わせも、芭蕉からすればボケツッコミの漫才コンビにも見えてしまう。

 そんな二人のやり取りに苦笑しながら、芭蕉は疑問に思ったことを口に出す。

 

「あの…乱波さん。質問してもよろしいでしょうか?」

 

「喧嘩の質問か?」

 

「なんで質問=で喧嘩へと脳内変換するんや。どうなっとんねん君の頭は」

 

「あっ、いえその…強ち間違い、ではないのですが…」

 

 乱波のボケ、ファットガムのツッコミを終えて、芭蕉は少し言いにくそうに口を開いた。

 

 

「乱波さん…どうしてその、死穢八斎會の組に入ったのですか?」

 

 

 それは尤もな疑惑であり、乱波の話を聞いてなお不思議に思った芭蕉の質問は、ファットガムの心を代弁していた。

 

「乱波さんは強い人と、闘いたい…やりたいことをしたいのが生き甲斐なんですよね…?だとするなら、乱波さんが八斎會にいるのがどうしても見えなくて…」

 

「同意見やな、君なんでこんな弱小ヤクザなんて言われてる組に入ったん?君の家事情は解ったし、そもそも知名度も高くないのに何で此処なん?」

 

 二人の意見は正しいといえよう。

 喧嘩好き、バトルマニアの殺し合いを好む乱波からは、殺伐としたイメージしか相性が合わない。

 

「そりゃあお前…俺がオバホに負けたからだよ」

 

 乱波の声は嫌に静かで落ち着いていた。

 

「さっき言ったろ?俺が地下格闘技で飯食ってた人間だって。んで、偶々か、それとも俺の噂を裏で嗅ぎついたのか、突然俺の前にオバホが現れてな。是非ともウチの組に入れって言われたんだよ。まっ、当然勝負に委ねるわな」

 

「そ、それで……乱波さんは、負けてしまったと…?」

 

 

「いや、死んだ――秒殺されたよ」

 

 

 その言葉が、二人の心臓を震わせた。

 ドクン…!と、脈打つように、とても信じられない言葉が彼の口から出たものだ。

 嘘…とは一瞬だけ思ったものの、生憎向こうは嘘もつけず、妙な所が真面目な男。ましてお世辞でなくとも、嘘や冗談を言うようには見えないのだ。いや、乱波ならそんな嘘は吐かないし、する必要性はない。

 

「と、思ったら一瞬で元通り。目の前が真っ暗になったかと思いきやな…んで、約束は約束。俺は晴れて八斎會の組に入ったよ。

 それでも俺は好きこのんで此処に入った訳じゃないし、その後にも俺は喧嘩を仕掛けた。殺し合い――結果は0勝5敗、5回殺されて5回生き返された。俺はオバホを殺すために此処にいる」

 

 乱波の一つ一つの言葉に声が出ない。

 勝負に負けて組を入ったのは解る、しかしあの乱波を前に意図も容易く…

 

「あの乱波さんを……瞬殺?」

 

「つかちょい待てや…つまりオーバーホールは…あの目にも止まらぬ瞬速と人間を軽くミンチにできるパワーを持つ乱波くんを…捌いてたっちゅーことか?」

 

 正確には、打撃…ダメージすら与えられず、乱波は見事にオーバーホールに完敗したということ。

 オーバーホールの個性は強力だからだろう…乱波の拳に触れて分解したのかもしれないが、それにしてはあのパンチを避けれるとは考え難い。

 

 つまり、素の力で乱波の速度を上回り、オーバーホールの個性で乱波を殺しては蘇らせたと考えられる。

 

 

「治崎は何が目的なん?エリちゃん言う幼女を監禁して、変な薬を捌いてるんやろ?裏の話は聞いとるし、もうバレバレやけど…なんでそんな力を持ちながら、戦闘は部下任せで逃げるか隠れるかしてるんや?」

 

「ふっ…無駄なことよ。そんな事を貴様らに話すと思うか?」

 

 ファットガムの質問責めに、気絶から回復した天蓋は不敵な笑みを浮かべながら小馬鹿にするようは発言を取る。

 

「そもそも貴様らは敵以前に組織の秘密をバラす愚か者など此処には存在し――「ヤクザ者の復権だとよ」――なっ!?!」

 

 存在した(いた)乱波(愚か者)が。

 

「詳しい事は直に聞いてねえが、オバホとクロノが話してんのを偶然にも聞いちまってな、異能破壊弾を大量に闇市場に流出して世界中にばら撒くんだと「よせ!やめろ!!」――今の世代、ヒーローやら忍やらでごっちゃ混ぜになってりしたろ?その勢いの波を上手く利用して社会の支配者になるんだってさ「やめるんだ乱波!!」つまり、個性や忍術のない世界を作り変えるんだってよ。

 俺は支配だの能力破壊だの心底興味ないが、ただまあデカイ事件だってのはバカな俺でも解るわなぁ…「頼む!!いい加減に口を閉じてくれ!!やめろと言ってるのが聞こえんのか乱波よ!!!」――その為に戦力と金が必要らしい」

 

 全力必至に訴えかけ、言葉を遮ろうとする天蓋を無視しながら、乱波は治崎の悪事と計画をペラペラと喋りまくる。

 正直、部下が簡単に口を割って話すとは考えもしなかったが、わくよく考えれば乱波は治崎を殺す為に此処に滞在し、忠誠心はほぼないので、秘密にする理由がないのだろう。

 

 

「それが終われば――実行の日はもうすぐそこらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少々遡り、別の地下室。

 何処か、左も右も分からない別の場所にて――四人組が二手に分かれて対立している。

 

「……なんだお前」

 

 その内一人、刀を持って豹変した夕焼は、自分と同じ刀を持った幼女に問いかけた。

 

 

「お初目に、かかります。私は『斬口崎子』――八斎會の四天王と呼ばれています」

 

 

 又もや激突――夕焼と対立するは、凶器を持った七歳の幼女。

 

 

 

 







月閃中等部のご報告&キャラクター紹介!

天蓋壁慈

所属・死穢八斎會
好きなもの・瞑想、宗教
誕生日・不明
身長・不明
血液型・不明
出身地・不明
戦闘スタイル・援軍防御、味方援護

ステータス ランクD

パワーE
スピードE
テクニックB
知力B
協調生S

月光「さぁ今日もやって参りました!キャラクター紹介、今回は死穢八斎會の鉄砲玉、天蓋壁慈です!」

閃光「以前紹介した乱波とは真逆な人物だな。私や乱波、夜桜先輩のようなパワーファイターとは無縁…実力はさておき、バリアという王道な個性を持つ、敵に回すと厄介な相手だ」

月光「私も身体能力は自慢こそは出来ませんが…軽いレスラーの人ならあしらえれますけど…能力や策に関して長けてる部分は、私と同等かも?まるで私たちの月閃姉妹とよく似てるわね!」

閃光「うっ、なんかそう言われると否定できないが…言われてみれば確かにそのような気も…する…
飛鳥の言う刀と盾を映し出したような二人組だったな。そう言えば天蓋は八斎會に入る前は宗教として働いてたんだよな?」

月光「ええ。彼は昔、月神宗教と呼ばれる集団の中で、仏の身として使われてたそうよ?」

閃光「月神…?宗教というか、カルト的なのはあまり好ましくないな…よく分からん」

月光「まあでもどんな宗教なのかは私もわからないけど…知人曰く、困ってる人や、理不尽によって悩まされる人間を教祖様が導いて、救済してくれるんですって!孤児院みたいに、恵まれない子供までも拾ってくれるらしいですし…んん?そうなると天蓋さんもそう言った救済活動を続けてたんですよね?」

閃光「なんか想像できないな…必要とされてる身に仕えるという方針は私たちと同じで変わらなくもないが…」

月光「き、きっと天蓋さんも救われたんじゃないのかしら?」

閃光「だが、人を救済して月…?雪泉先輩の言う月の正義みないなものなのか?」

月光「…さぁ?でも、悪い所じゃないって話は確かだけど…」
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