再びリアルの活動が忙しくなったので、ペースが遅くなります。そろそろ焔紅蓮隊・妖魔ノ巣編を開始したいと切実に思うこの頃は最近何かしらと鬱になりかけです。
芭蕉とファットガムの二人組が戦場から離脱してしまってから直ぐのこと、取り残されたサー・ナイトアイ一行は冷静な判断で分断を図る。
「烈怒頼雄斗、麗王、環、夕焼は左側の階段を上がってくれ――デク、雪泉、イレイザー、ロックロック、警察の皆様は私よ方へ付いて来て下さい」
今にでも壁の波が背後から迫りつつあることを察しながら、短い時間で判断し、戦力を半分に分断させる。
生憎、壁を壊すのはデクと烈怒頼雄斗二人の役目なので、階段を上がって直ぐに壁を壊せば問題ない。
(――ちィ!!させるか…ダミールートの方で戦力を徹底的に潰してやる!!!個性消しも厄介だが…!)
入中も心情から察して大分焦っている御様子で、冷静さを欠けていた。滴る脂汗を垂らしながら、鉛のように重いコンクリートを操作して妨害に専念する。
「らぁ!」
「そりゃよ!!」
二人の意気投合のコンビネーションで、拳と蹴りが炸裂し、壁を見事に粉砕。バラバラと瓦礫が落ちゆく音を立てながら、壊した壁の奥には……
――黄金の鱗が隔てていた。
「えッ…!?」
「なんだ、これ?」
デクと烈怒頼雄斗の素っ頓狂な声の音量は、思ったより身近でよく聞こえる。二人だけでなく、皆も凛とした綺麗な鱗に目が行ってる。
「不味いな…まさか此処で『切裂』の個性がやってくるとは…」
「切…裂……って、リストに載ってた?」
成る程、まさか入中の『ミミック』と、切裂の個性を組み合わせるとは思わなかった…
となると、恐らくヤツもまた近いだろうと推測が伺える。
「構いません――壊しま「ダメだ!!!お前の体が裂けるぞ!」ッえ?」
デクが破壊しようと試みるも、サーの怒号に似せた静止の言葉に、思わず体が竦んで、止まってしまう。
「ヤツの個性は凡ゆる物を切り裂く鱗だ!お前の生身の拳や蹴りでは簡単に裂けられ致命傷を負う!下手すればお前の足が真っ二つになっても可笑しくないんだぞ!!」
足が真っ二つになる。
シュートスタイルやオールマイトの個性を引き継いだ緑谷からすると、想像を絶するものだ。最早、絶望と恐怖しか存在しない、強個性も良いとこだ。
青ざめる緑谷を他所に、鱗壁の向こう側で切島が「へっ!」と頼りらしい声が聞こえた。
「だったら尚更、俺の個性が頼りになるな!俺の『硬化』はなぁ…最強の矛にも盾にもなれるんだ!!」
漢気溢れる烈怒頼雄斗は、強く拳を握りしめ、闘志を熱く滾らせる。
切島の硬化は防御にも長けてるので、歩く盾が使い方次第によって矛になると考えた方が妥当だろう。
「だから――お前も消えろ!!!」
不慣れなドスの利いた、荒々しい声色に、皆の動きは止まる。切島が声の方向へ振り向いた途端、壁が押し寄せ軌道を変える。
「なっ!?」
そしてイレイザーを排除しようとする戦法を同様に、今度は切島を壁の穴に放り投げようと試みる。いつのまにか、切島本人でもすっぽりと入れそうな穴が空いており、力押しで抵抗してみるも、実技試験でのセメントス先生と同じ結果として、成す術なく押されてしまう。
「切島さん!!」
「クッソオオおおおおおぉおぉぉおぉぉ!!!」
麗王の危惧な声色に、切島は猛威たる雄叫びを上げる。
そう、切島の矛と盾という弱点のないと思える彼には、突くと脆くなってしまう弱点が存在する。
其れは、圧倒的な物理的干渉、対抗できない理不尽な現象――硬くなってもどうしようもない原理だ。
外部からの攻撃は防げても、痛覚を遮断するわけでも、神経を通さない訳ではない。冷気や熱、電撃、様々な感覚は皮膚を通して働くし、増して筋力を上げてる訳ではないため、ゴリ押し技の対応は期待できないのだ。
(畜生…!このままか?このまま押されちまうだけなのかよ!矛と盾で、皆の役に立つって決めたのによォ……!!これじゃあ俺…お荷物になっちまってるじゃねえか!)
心の中で叱責混じりに叫ぶ烈怒頼雄斗は、悔恨と謝罪を入れ混ざった顔を浮かべる。
どうやら次にリタイアするのは、自分たちらしい…
「させません!」
これ以上切りがないと判断した麗王は、鞘に収めてたレーザーブレードを引き抜き、壁の波を縦横無尽に斬り裁く。
閃光の軌道が乱れる無駄も隙もない剣技は、見惚れてしまうほどに美しく、気高い。硬いコンクリートの壁を豆腐みたく斬り刻む麗王を鬱陶しいと肌身で感じた入中は、舌打ちをする。
(この女も邪魔だな……ならば、お前もお亡くなり願おうか!!)
再びもう一つの壁の波が押し寄せ、麗王の体を強引に押し付ける。物理的な干渉で、この勢いを殺すことは不可能なようだ。
「クッ…!こういう時こそ、銀がいれば何の問題もないのですが…!!」
幾ら自分が夕焼と共に雄英の生徒を全員まとめて相手に出来たとしても、無敵な訳ではない。
王者であろうと、楯突く者をねじ伏せようと、絶対的に約束された勝利があるなど、この世界には存在しない。
麗王もまた、何の術なくして、切島と同様に壁の向こう側へと放り込まられてしまう。
「烈怒頼雄斗!麗王さん!」
環の覇気のこもった圧は珍しく、メンタルの弱いサンイーターは瞬時に手を蛸の触手に変えて、二人を救出するよう試みるが…
ザクン――!!
肉斬る音が、鮮明に耳を鳴らす。
斬られた蛸の断面から血が溢れ、サンイーターは思わず顔の表情を痛みに歪ませる。
「なッ――んだ!?!」
「サンイーター!!」
既に刀を手に持ち豹変した夕焼は、獣の如く飛びかかり、サンイーターの蛸触手を切り落とした張本人に刃先を向けるものの…
「こーんなのさー、殴って殺せば良いんじゃねー?」
伸ばした声が、耳元に囁かれ、振り返るも遅し――数発の衝撃が横から襲いかかる。
「うおォッ――!?」
先手、数発の殴打。
訳も分からず攻撃を食らった夕焼は、なんとか吹き飛ばされた衝動を利用し空中を足で蹴り、見事に態勢を整える。
「――なんだお前」
不機嫌…というより、戦闘狂の眼差しを二人組に…特に刀を手に持つ幼女に問いかける夕焼に対し――
「お初目に、かかります。私は『斬口崎子』――八斎會の四天王と呼ばれています」
律儀に答える幼女――〝斬口崎子〟は黒いペストマスクと、赤黒い刀を二本、両方手に携帯しながら女の子らしい声を出す。瞳は血に染まったように赤く、母には何処か切り口やらの痕があり、髪はボサボサだ。年齢的には二桁もない…七歳相応の子供だろう。
「うぅ〜〜ん、ぼーくはー…『護武皮柔増』だよ〜。崎子と同じく〜…八斎會の四天王なんだーよーねーーー」
伸びた独特な口調はマイペース気味で、自分と同じ選抜メンバーの仲間である『牛丸』に似た喋り方だ。
「八斎會…四天王?」
鉄砲玉とは違う、聞いたことのない連中だ。
護武皮はリストには載ってたので、大方個性は知ってるものの、斬口崎子と呼ばれる幼女は不明…戸籍リストや名前すら知られていない、乱波、天蓋と同様に完全なる裏の人間だ。
抑も、斬口崎子と呼ばれる少女の名前自体が、敵ネームなのではとの疑いがある。
「はい、他の八斎衆の鉄砲玉とは違い、懐刀を含めた四天王は若頭・オーバーホール様の夢を追うことを許可された者」
「おーれたちーー、お前ら全員殺したーらさーァ、後を追って良ーて、言われたんだよなぁ〜ー〜」
他の鉄砲玉はあくまで足止め程度――しかし四天王は他の奴らとは訳が違う。
寄り辺のない人間を治崎自らが拾い、八斎會へと介入させ、治崎自身が認めた強者だ。故に、治崎の計画…野望を共に歩むことを許された特別な戦力だ。
「へぇ、下に出会った奴らとは格が違うって訳か」
「ゴミ共でももう少し時間が稼げれると思っていたのですが、なるほど…入中の妨害も含めてここまで来れたタフネスさは恐縮します」
「つ〜まり〜〜、俺たちの出番…って〜えー、わーけだねーーー」
乱波と同等の身長をした男は、言葉を伸ばしながらマイペースな口調で指を差し向ける。マスクは白のフクロウをモチーフにしており、体は一回りデカイ。
「テメェらがやるってんならよぉ…オレもやらざるを得ねえ訳だが…大丈夫なのか?ちびっ子のガキが一丁前に刀なんざ振り回してよォ」
「気を付けろ夕焼…あ、相手が幼女でも、油断は大敵…」
「先ずオメーはそのヘボメンタルどうにかしろよな!」
相手が幼女と油断してるように見えたのか、沈黙し続けていたサンイーターが口を開くものの、豪快に笑いながらガラスのハートをいじられた。
「ああ、心配はご無用。私は戸籍には入っておらず、オーバーホール様に尽くすまで…その為の死とあらば、喜んで」
などとやり合いをしてる真中、崎子は外見の幼女とは思えない口調で、予想外な言葉を口に出した。
「…あ?」
「私がオーバーホール…若様に拾われたのならば、そのご恩に応えるまで。如何なる結果であろうが、どうこうするにせよ、私は若様の為なら人殺しなど容易い…」
「崎子はねぇ〜え〜、びんぼーにんがぁ〜、行きつく場所で育ったぁーーかぁ〜〜らねーーー。そこでぇ、オバホ様に拾われたからなぁ〜」
「護武皮、何ですかその呼び方は…訂正しなさい」
「乱波の〜マネーー、してみた〜」
斬口崎子――戸籍リスト及び、名前も不明…謎に包まれた幼女は、四歳の頃に貧民街で暮らしていた。
元々は裕福な家庭で暮らしてたら、気優しい一人の女の子だったのだが、個性が発現してから彼女の人生の歯車は狂わされた。
家庭内でのトラブルが起きてから、両親に捨てられ貧民街へ置き去りに――後に治崎と出逢うのはまだ先の話。
「なぁ、お前…忍家系で育ったのか?」
「?貴女には関係ないでしょう?私たちは敵対…ゆえに殺し合いに身を投じた場所で、敵の家系を知って何になります?」
「ああ確かに関係ねえな、オレはお前と今日で初めて顔を知ったし…けどな、敵味方関係なく純粋に疑問があったからだ」
「…?」
「忍として育ってきた訳でもねえ小さな女の子が、どうして死ぬのさえ臆せず、人を殺すことに何の躊躇もねえのかが知りたい」
小学生くらいだろうか、マスクも武器も捨てれば花が咲くような可愛らしい女の子なのに、どうしてこんな子供が殺人鬼みたく冷酷な残忍になったのか…
敵に対する意識、油断を引きつける、誘い込む訳でもない、夕焼自身が湧いた純粋な疑問である。
「夕焼、お喋りはよそう…!奴らの思うツボだ!」
「話した分だけ早く終わらせてやらぁ、だから少し黙ってろ」
環の忠告も突き飛ばすような吐き台詞は、夕焼にしては案外珍しいものでもある。好戦的で猟奇的な性格と雰囲気を漂わせてる彼女からは想像もつかないが、闘い以外に関しては割と聞き分けも良い。
「なんでテメェはそうなった。そこのゴム野郎はどうでもいい、ただお前がどうしてそんな人間になったのか…」
「其れを聞いて、貴女に…または貴女方に得する事でも?」
「ねえよ――難しいこと考えるのなんて今のオレには性に合わねえし……ただお前が治崎に拾われて、テメェがそうなるように、人を殺して虐げるようにしたのなら――
オレは治崎を全力でぶちのめす。ブタ箱入れるだけじゃ済まねえ程にな」
夕焼の気迫は、何処か威圧的で、暴力な部分を曝け出していた。
雄英と対立した時に見せた好戦的なバトルジャンキーとして見せてた笑顔は何処にもない。いつも刀を握れば180度性格が回転する夕焼は、珍しく怒りを露わにしていた。
「救世主への侮辱ですか?何も知らないくせに…親に捨てられ、命の危機から救われた私は、ただご恩を返してるだけですが?」
「本当に治崎ってやつが心優しい救世主なら、態々お前を人殺しに加担させたりしねーよ。ヒーローが人を助けて人を救えって命令すんのか。それと同じだよ」
壊理の体の一部を利用して、異能破壊弾を世界中にばら撒いてると知った時点でたかが知れてる。
仮に奴がそうであって、彼女を救うにしろ、普通なら手を汚すような人殺しにはさせない。そもそもの話、娘を都合の良い道具として利用しながら、血の縁がない人間を助け、人としての道に歩ませるとは考え難い。
「お前は利用されてんだよ。こういうのを洗脳って言うんだぜ?お前に恩を売っておきゃ、いざという時には利用しやすいだろ」
答えは簡単でシンプル――利用する為に恩を売ったに過ぎないのだ。
消極的に考えても、如何なる理論を説いても、彼が誰かを救うメリットなど、考えられない。
自分の娘を下らない野望、悪事や金儲へと私欲を満たす人間が、人を助ける道理が見当たらない。ならば治崎にとって彼女を助ける理由は、戦力を増やして己の利益となるように仕向ける。するとどうだろうか、立派な忠誠心を持つ駒の誕生だ。
窃野、宝生、多部の三人組も例外ではない。
「なるほど、考え方に関して貴女の仰る理論は正しい…しかし、それを私に話して何になる?」
「お前が誰一人とも殺してねえなら、まだ充分に希望はあるだろうが。お前が武器を下ろして投降さえすりゃ…まだ道はある。治崎が隠れてる、または逃亡を図ってることくらい此方もお見通しなんだよ」
「お断りします――見ず知らずの赤の他人の話を聞く道理こそ、私たちには何処にもない」
僅かな一縷の望みも、無機質な彼女の冷酷さに無慈悲に打ち砕かれてしまう。
もし人を誰も殺してないのなら、其処からの説得も可能だったし、小さな子どもを相手にするのは少々野暮だから。
しかし――治崎の忠誠心は本物で、相手に何をどう言われようと、殺戮兵器と化した幼女の心は動かない。
「そぉ〜〜言うーーこと〜なんだよ〜ねー。犯罪者〜にさぁ、和解〜とーかさ、説得〜とか?そん〜なの古いってぇ。そんな時代は白亜紀から絶滅して〜るんだァーよ」
相も変わらず喋り方が独特で、伸びた口調はいい加減に喧しいのだが、右から左へと聞き流す。
「そうか、やっぱり聞いてくれねえか…」
出来れば潔く降参して欲しかった。刀を持った夕焼は確かに凶暴で気が荒々しいが、内心は優しくて、それこそ豹変する前の彼女と同等で変わらぬ性格の持ち主なのだ。
「だから言ったんだ…これ以上の立ち話はよせって…」
「皆んなの所へ戻ってくれるなら時間ロスは削減できるだろ。ちゃちゃっと終わらせりゃあ良いだけの話だ」
隣で溜息混じりに愚痴を零すサンイーターに、夕焼は鼻を鳴らしながら不敵な笑みを浮かべる。
「何を惚けた事を仰ってるのです?私達に勝てることを前提で話を進まないで貰えますか?」
黒い鋼の刀が、夕焼目掛けて振るわれる。
あの一瞬で間合いを詰め、躊躇もなく殺しにかかる彼女の動作は、間違いなく手慣れている。
小さな幼女からは考えも付かない歪な速さと動き。夕焼は体の軸を捻らせなんとかして狂刃を躱すものの、刃先が肌を掠めて傷口が付いてしまった。
「ッチィ――!!」
微かな刃の痛みが走り、思わず歯を食い縛る夕焼は、舌打ちをする。褐色肌に付けられた刃の傷口からは血が滴り流れ、痛覚が働く。無駄のない動きと、鍛錬された身のこなしは、とても七歳とは思えない。
「相手がガキだ、大したことない、武器を持ってるだけ…そう思ってるおつもりでしょうか?」
「テメェもいつまで良い気になってんだよ、ガキ」
誇らしく崎子がそう告げると、夕焼も台詞を吐き捨てながら、不敵に笑う。
パキィン――!!
折れた嫌な金属音が木霊する。
左手に持ってた崎子の刀の先端部分の刃が、折られたのだ。あの時夕焼は、躱すと同時に振り下ろされてない武器を狙って、凶器を完全に破壊しようと目論んでいたのだろう。バランスと態勢が上手く合わずに、先端部分だけ欠かせてしまったようだ。
「……なるほど、これはこれは…盲点だ。まさかあの態勢で反撃が出来ると…下手なヒーローよりかは断然、強敵だ」
「ね〜ねーー、これもう殺って良い流れ〜?ねぇ、もうお喋りィ〜終わっーたーのー?」
「ええ充分よ護武皮、私の斬撃と貴女の打撃……2組コンボなら確実に仕留めれます。尤も、ヘマさえしなければですがね」
斬撃と打撃。
これはまた奇妙な組み合わせだ…乱波と天蓋の矛盾コンビのように、互いの弱点や欠点を補う訳ではなく、猛攻――攻撃特化に発達したコンビだ。
「夕焼…!あの子は俺が惹きつける…だから護武皮は俺が…」
「いや、お前はさっき蛸の足斬られたろ。あっちは体の部位をゴムみてえに伸ばして打撃を与える野郎だ…刀持ちはオレに任せな」
だが、此方はファットガム事務所で研修を重ね続けてきた二人組だ。簡単にやられる玉ではないし、
切島もいない、鋭利な金色の鱗壁を破壊する術は、緑谷達には持ち合わせていない。
戦力分散の策は、まんまと入中の思惑通りとなってしまったらしい。
共闘――勃発
ん?あれ、思ったより少ないかな?もうペースが空いてしまってるので感覚が…取り敢えず、小説読んで文章力補わないと…