光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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漆月「争いのない、何一つ危険のない安全で豊かで、平和な世界。平凡な世界を、皆んなは望んでいます。そして私達を始めた人間は、社会からは異常扱いされています。

でも、争いのない、平和で平凡で、何もない異常のない世界――それこそ異常なのです。つまり、私達からすれば皆んなが異常であって、貴方達も異常者扱いされるのです」




185話「なりたかった」

 

 

 

 

 

 切裂竜燐の個性は、〝人を傷つける〟個性だ。

 そう、幼い頃から両親から周りの人間に、嫌という程現実を突きつけられた。

 切裂の父親の個性が『竜』で、母親が『鱗』の個性。父が異形型なので、息子の彼が異形型の姿なのも頷けるだろう。

 

 小さい頃は、誰だって夢を見るものだ。

 個性があったら何をするか、何になりたいか、そこで幼児達はヒーローという職業に憧れを抱く。

 そりゃそうだ、弱気を助け、強きを挫き、悪に立ち向かう勇姿は、見ていて気持ちが良いし、何より評判だって良い。だからその大人達を見ていれば、誰もがそうなりたいと、願ってしまうのは不自然ではない。

 

 

 だから、俺は最初はヒーローに興味があった。

 偶々、父親が俺のために借りてきたDVDの、ヒーロー特集ってものがあって、小難しいことは分からないけど、でも…彼ら彼女らが役立つ場面は、見てて魅かれるものがあった。

 敵と立ち向かい、市民を救い出し、個性を駆使して困難を打ち破る姿は、カッコいいと思えたし、こう言うのを通して人は、夢や目標を持つのだろう。

 

 それが自然であり普通である事を、幼少期の頃から植え付けられた。

 

 

 

 でも現実ってのはそう上手くいかないもので、況してやヒーローになれるか否か、何者かになれるかは個性次第で決まる。

 それこそ、生まれた時から勝ち組か負け組かが既に決定打されるように。

 

『痛いよぉ…!!切裂くんが個性で僕を虐めるよぉ…!!』

 

 偶々、しつこくて煩い奴が俺にちょっかいを掛けて来たから、俺は腕を振っただけ。

 暴力はしてないし、虐めてもない。オマケに個性は生まれた時からずっとそうで、故意でも悪意も無かったし発動さえしていない。それなのに、被害者面した子どもが喚けば、悪意も何もない普通の子である俺は、悪者にされてしまう。

 

『切裂くんがよっちゃんを虐めた〜』

『可哀想、切裂くん酷いことするよねぇ』

『お父さんとお母さんってどんな人なんだろうね?』

 

 そして悪い評判が付け込まれ、風評被害に遭う俺は、そりゃあもう問題児扱いされてたさ。何も悪いことだってしてない、たまたまそういう個性だっただけで、良し悪しが決まる。

 

 

『切裂くん!どうしてそんな酷いことをするの?クラスの友達でしょ?』

 

 

 知らねえよ。大事な生徒なら、俺のような人間は叱られて良いのかよ。何で『そんなことになってしまったの?』だなんて聞いてやくれない。

 評価や印象ってのは、一度付け込まれれば深くなり、誰も見てはくれなくなってしまう。

 

『どうしてお前は人を傷付けたんだ!』

『先生やご両親から苦情が来たのよ!?なんて事をするの!!』

 

 何でそんな事を言うの?

 今までずっと、俺の側で支えてくれた親は、俺に罵詈雑言を浴びせてくる。なんで、俺の味方にはいてくれないの?

 何か事情や理由があるのかって、心配して聞いてくれないの?

 俺が何を言おうにも、〝言い訳〟だなんて言葉で全部片付けてしまう。

 そう、両親は俺のことなんて何とも思っていない。

 

 それは小学に続いても同じだ。

 

『先生ぇ〜!切裂くんが悪いんです、この子が僕達に虐めを強要しました』

『近寄らない方が良いぜ、アイツは触れたものを全部傷付けちまうんだ』

『先生!切裂くんが僕に暴力を振るってきましたぁ!僕は何もしてません!』

 

 個性による差別はどんどん続く。

 お前らは知らないだろうけど、こういう個性による虐めってのはリアルな話、割りとある方だ。中には〝個性障害者〟なんて、望んでもない輩もいる訳だしな。

 

 人は何もしなくても、悪者扱いされるんだ。

 ちょっとやそっとのキッカケで、人は大きく変わる。況してや俺みたいな人間が特にな。

 

『君のようなクズは、敵向きなんだよ』

『こりゃ進路に響くなぁ…親御さんと深く考えた方が良い…』

『どんな悪い事をしたって、全部アイツに責任転嫁すりゃ信じちまうよな!』

 

 悪い人間に耳を傾ける人間など、誰もいない。

 人は自分の私欲に眼が眩み、いざ非があれば、悪者に汚名を被せる。俺のような人間は、周りの人間から都合がよく、俺が何を言っても信じてくれやしない。

 そりゃそうだ、悪者の弁護や言い訳など誰が聞く?

 聞いたってどうしようも出来ないし、況してや人の命を救えは出来ても、心は救えないんだ。

 

 

 俺は、ヒーローなんかとっくに諦めちまったんだわ。

 

 

 人を傷付ける人間は、ヒーローなんかになれやしない。

 手を差し伸べた人間の手を触れた所で、キズが付くだけ。

 生まれた時から俺は、そうならざるを得ない運命だった。

 

 バカげてる?ああ、そうかもな――でも、もしこんな個性がなければ俺は、どうなっていた?

 もし、オールマイトのような個性だったら一目置かれるだろう。

 エンデヴァーなんてNo.2がどうとかほざいてるが、あんなのでも充分に強い。

 

 ただ漠然としてた夢は簡単に潰え、なんの目的もなくただただ世を徘徊する俺は、異常者なのだろうか?

 

 

 精神的に疲労が蓄積されたのか、心の中で誰かにすがることも許されず、誰かに助けを求めれない俺は、とても小さな声でポツリとこう呟いた――

 

 

『個性なんて…なくなってしまえば良いのに……』

 

 

 いつからか、たった小さな一言が、自分自身の心の中で大きく渦巻いていった。

 そうだろう?

 個性なんてものを持つから人は夢を見る。

 個性なんてものがあるから争いは絶えない。

 個性なんて不要物が、人の人生を決めつける。

 

 そうだ、全部個性が悪い。

 漫画やアニメで出てくる能力に、大きく憧れる人間なんて子どもだけ――実際にこんな迷惑なものを持っていると、人は後悔するのだ。

 これが植え付けられたならまだしも、望んでもなく生まれ持っていれば尚更だ。

 

 

『なぁ、お前…俺の仲間にならないか?』

 

 

 だから嬉しかった――俺に仲間ができたことが。

 人生で初めて、仲間と呼べる御方に出逢えたことが、何よりも嬉しかった。

 

『お前は俺とよく似ている。他の連中とは違って、個性のことをよく理解出来てる。メンバーが足りないんだ、夢を遂行するにも計画と金が必要…よし、お前ウチに来い。今日からお前は俺の仲間だ、切裂…お前の力が必要だ』

 

 若は、オーバーホールは、俺を受け入れた。

 こんな俺を必要としてくれた。

 初めて俺に仲間ができた。

 俺はもう孤独にならない。

 

 

 俺は生まれて初めて――希望を手に入れた。

 

 

 

 オーバーホールの計画は、簡単に言えば個性のない世界だ。

 個性なんて存在そのものが異常であって、病気の発生源だ。

 個性に苦しみ、悩み、争いが絶え間無くなる。

 

 小さな夢に心酔し、

 己の病気に溺れ、

 何者かになれるなどという戯けた夢を見る。

 

 

 そんなこと、あってはならないのだ。

 

 

 俺の中に渦巻いた思想は、実現化するように肥大化し、止められなかった。

 若に手を差し伸べてくれた、あの日からもう俺は…

 

 

 

 俺は――オーバーホールの駒となり、矛と盾になる。

 あのお方は…若は、俺に『一緒に夢を叶えよう』と言ってくれた。俺の夢と若が叶えたい夢は、同じらしい。

 仲間のみならず、同志というヤツだ。共感すべき理解者で、俺の救い手だ。

 

 

 そうだ、俺は若頭の為に……!!!

 

 

 

 その為の犠牲なら惜しまない、どれだけ汚名を被ろうが慣れっこだ。

 エリさんの体をどう扱おうが、今まで拾ってきた駒をどう扱おうが、全てが若頭の思うがまま。

 それを邪魔する輩を、排除するのが、俺の役目、課せられた使命。

 

 俺は音本とクロノ以外の、あんな使い捨て供とは違う。若頭の野望を果たすことを許され、共に歩むことを赦された。

 

 

 凡ゆる犠牲を出し、大極な理想を遂げる為に、あれやこれやと根回しをしてようやく、その宿願が実り、果たす時が来たのだ。それを邪魔するということは、俺たちの生き方を、やり方を、願いを、阻むということだ。

 

 困ってる人間を救えず、目先の利益でしか動かない連中が、今になって都合が悪くなると動き出しやがって。

 そんな身勝手で、私欲に溺れてるお前らと、最初っから現実と大極な理想を叶える俺たちとでは、格が違う。

 

 もう誰にも止められない。

 この計画は絶対なのだ。

 失敗は許されない。

 

 此処で俺たちが止まれば、失敗してしまえば、もうどうすれば良いのか解らない。

 

 

 だからこそ、命を賭けることだって容易い。

 鉄砲玉とは違えど、自分の命すら賭せない人間が、大極な理想を成せるなど出来るわけがない。

 

 

 もう、治崎の為なら俺は――

 

 

 

 

「グオオオォォオォォーーーーーッッ!!!!」

 

 

 獣に勝り劣らずの咆哮は、凶暴化した竜のようだ。

 大地を轟かせる雄叫びは、全身を痺れさせ、圧倒的な恐怖を植え付ける。

 こんなのまるで化物だ。幾ら個性を活性化させるとはいえ、此処までの脅威を発揮させるとなれば大したもので、薬漬けでこうにもなるなど、現実的な思考では考え難いだろう。

 

「トリガーによる摂取は危険性、中毒性が高いと聞きますが…此処までとは……」

 

 人間という皮を脱ぎ捨て、立派な化物に成り果てた切裂の瞳は、ドス黒くて、怨念が宿っている。誰かを切り裂き、肉を抉る快感を欲するような獰猛な目玉は、見ているだけで背筋がゾクリとする。

 

「んなろぉ!!負けねえぞォォ!!!」

 

 安無嶺禍武瑠の状態を維持したまま、真正面から突っ走る切島は、とても真っ直ぐだ。小細工が出来ず、単純な事柄に大きく長け得意分野とする彼は、猪突猛進する。

 

 そんな切島に、切裂は野生の肉食動物のように、飛びかかる。

 

「うおォッ!?!」

「グァアルルルウゥ…!!」

 

 体を片手で抑えつけ、そのまま鋭利な爪を剥き出し、切島に爪の斬撃を食らわす。激しい金属音が鳴りながら、安無嶺禍武瑠の切島に、血を流させた。

 

「グァアっ…?!」

 

「切島さん!!」

 

 このままでは野生動物に襲われた一般人のように殺されてしまう。そう見解した彼女は、レーザーブレードを伸ばし、切島に夢中の獰猛化した切裂に刃を振るう。

 更に硬質化された鱗の前で、簡単に押し通せるとは微塵にも思っていない。だが、動かずにはいられない。

 

「秘伝忍法――【ZDグラデーション】!!」

 

 鮮やかで、見惚れるような美しき剣捌きは、黄金の軌跡を描き、星型のように残す。ゾディアック聖導会の勲章を映し出したように、綺麗な紋章は、無数の斬撃で鱗を削ぎ落とす。

 中には砕け、破片が散らばり、削ぎ落とされていく鱗に、切裂は意識を切島から麗王に変える。

 生憎、自我が残ってないからか、それとも意識を保つことに精一杯だからか、冷静な判断は取れていないそうで、簡単に此方に振り向いた。

 

「グォアアアアァアァアァァァッ!!!」

 

 猛烈な雄叫びを上げながら、四足歩行で突進し、食らいつくさんとばかり襲ってくる。

 

「秘伝忍法の効果が辛うじて通じたようで良かったです…ですが、此処からが本番……」

 

 此方に突っかかってくる敵をどうにかせねば、折角注意を向けさせた意味がなくなってしまう。この先をどうするか…凡ゆる攻撃を防ぎ、喰らえば致命傷は免れないであろう、個性が活発した敵をどう対処するかが重要な問題だ。

 

 飛び掛かり、一直線に向かう切裂を前に、麗王は軽くステップでも踏むかのように、最小限の動作で躱す。

 

(冷静な判断が出来てないのが、トリガーによる代償ですか…)

 

 この世界の殆どは、メリットと同時にデメリットが存在する。

 例えば入中常衣の使用したトリガーは、自分の個性を活性化させるものの、活動時間が短いもの、中には粗悪品で良好な物ではないものすら存在している。

 今回の切裂竜燐が使用したトリガーは、個性が活発になる分、思考力の低下だ。冷静な判断は愚か、正常な思考さえ利かない。

 単純な動きはともかく、でもとてつもなく厄介。コイツをこの場で倒せというのは、中々に無理がある。

 

「せぁッ!!」

 

 渾身の連撃を何度も叩き込む麗王は、1秒に数回の剣戟を叩きつけるも、歯が立たない。鱗は硬く、まるで鎧を装着した獣のようだ。追撃を構そうにしろ、反撃してくる竜の右爪に、咄嗟に攻撃の手を止めバク転して避ける。金髪にしなる長髪を掠め、微かに切られた髪は、宙を舞う。

 

「切島さんの回復には少々時間がかかるはず…後はこのまま私が時間を稼げば…」

 

 そうすれば、まだ打開するチャンスはある。

 そう錯覚した麗王は、思わず全身に違和感を覚える。

 

「痛ッ…!?これは――…」

 

 金箔に輝く粒が、彼女の体に所々付着している。いや…正確には小さな鱗が、麗王の体を突き刺しているのだ。よく見れば、忍装束が血に染まっていく。

 

「なっ…!!」

 

 バカな――鱗は投げられていないはずだ。

 それらしき動作も見当たらなければ、ただ突っ走り食らいつくだけだった…なのにどうして…?一体いつから?

 

 だが、その考えも束の間――麗王は切裂に体を掴まれてしまう。

 

「ぐッ――?!しまッ…」

「ガァルルルァァア!!」

 

 大きな体で、両手で麗王を捕まえた切裂は、そのまま体を握り潰そうと、力を込める。ぎゅううぅと締め付ける嫌な音が鮮明に聞こえ、表情を歪ませる麗王は、歯をくいしばる。

 このままでは非常にマズイ…体に付着した鱗が押し込まれるように、血肉の中に入っていく裂傷な痛みを味わう。

 

「ゴルァアァ!!ガアァァァァ!!!」

 

 このままでは意識ごと持っていかれそうになる。

 味わったことのない痛みに、肉が、血が、骨が、体の全てが悲鳴を上げる。

 

(マズイ…!このま、ま……では……)

 

 思わず、体の筋肉が言うことを聞かなくなる。

 このまま…押し潰されてしまう……

 

 

 ――私は……

 

 

『ねぇねぇ、お姉様!一緒にお花のかんむりを作りましょ?』

 

『初めまして麗王様!今日から私がボディーガードとして、一族から派遣された銀嶺です、妹様も、宜しく御願いします!』

 

『お姉様!大丈夫?立てる?転んじゃったの…?痛い?』

 

『私は、ずっと麗王様の味方ですから。もし、危険とあれば必ずや貴女様を守ります』

 

『お姉様!一緒に立派な忍になろうね!!』

 

 

『妹のことを思って自分を責められる君は、ヒーローにも負けない、立派な忍だ。もう大丈夫、私がいるよ――』

 

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、愛おしかった記憶。

 一つ一つが、かけがえのないページで、忘れられない思い出。

 

 姉の自分とは違い、何もかもが優秀で才能に満ち溢れた妹。

 忍家系にして、代々麗王財閥家を守り続けた一族の末裔である親友の銀嶺。

 そして、私と銀と、妹と3人で遊ぶ光景は、とても穏やかで幸せで…何もかもが満ち足りていたあの頃。あのままずっと平穏に暮らせたなら、どれだけ幸せで、どれだけ悲しまなかったか。

 

 ――どれだけ、あのままでいて欲しいと切実に願ったことか。

 

 

 でも、そんな平和は続くはずがない。

 平和のない世界など存在しないように、形あるものが必ず壊れるように、人が変わるように、あの日常は簡単に、呆気なく、血みどろにして壊れたのだから。

 

 

 妹が、私のお父様とお母様を殺さなければ、永遠に幸せな平和が続いていたのに。剰え、銀嶺の父と母にすら手を掛けた彼女は、もう私の妹ではないだろう。

 

 それなのに…もう、大切な妹でも何でもないのに……なんで、こんな時に限って……

 

 

 走馬灯。

 己の死を突き付けられた時に、人は数少ない確率で走馬灯、パノラマ記憶を体験する。

 基本的に17〜21歳未満で起こる現象である。

 唐突な死…とまでは行かないが、今見えたと言うことは、無意識に無自覚に、自分の死を直前に認めてしまったのだろう。脳や自分の意識内では違っても、本能が告げてるらしい。

 

 私は…なんの、為に……!!

 

 

 そうだ、何の為に忍になったんだ。

 あの時言ってもらったじゃないか…オールマイトに。自分が殻に閉じこもり、塞ぎ込んで、引きこもりになって、現実から目を背き、心に余裕がなくなった私に、優しくしてくれたじゃないか。

 

 

 神ノ区の時だって、一体どれ程の苦痛を浴びせられようと、それでも他が為に拳を突き上げて来たじゃないか。

 平和の象徴として、立ち続け、勝ち続け、守り続け、皆を笑顔にさせてくれた。

 そんなオールマイトがいなくなった、穴を埋める。

 

 心を助けてくれた彼の気持ちにも、あの時の恩を返す為にも、仲間や皆んなの為にも――今此処で負けてはいけないのだ。

 

 

 

 

「離しやがれえええぇぇええぇ――!!!」

 

 竜にも負けない、熱のこもった雄叫びが、意識を呼び覚ます。力を入れてた腕が緩んだのか、激痛が軽くなり、切裂は麗王から切島の方角へと意識を向ける。

 烈怒頼雄斗の体力が戻ったのか、再び安無嶺禍武瑠の状態に戻し、猪突猛進の如く突っ込んでいく。

 

 さっきと同じなのに…それでも、切島は諦めない。

 足に力を入れると、地面に亀裂が生じる。そのまま踏ん張った脚力を利用し、高く飛びかかる。

 硬い拳を握りしめ、そのまま拳を翳して

 

 

「何でなんだよぉ!!!」

 

 

 真っ直ぐそのまま

 

 

「そんなに強え個性が、俺よりもずっと強い個性もってんならさぁ!!なんで――」

 

 熱い魂の底から叫びながら

 

「ヒーローにならなかったんだよ!!!」

 

 拳を突き出し、顔面を殴打する。

 硬化したとはいえ、安無嶺禍武瑠という最骨頂の硬化に高めても、皮膚が切られ、肉が露わになり、骨に痛みが伝わる。

 ズキズキと血が流れると共に発症する痛みは、何度味わっても慣れないもので、硬化してなお痛みを味わうというのは、大阪での敵対時だけだろう。

 

 もし、切裂竜燐が誰かに声をかけられたら。

 もし、治崎ではない誰かが救いの手を差し伸べたら。

 もし、ヒーローや周りの人間が彼に気付いてあげたら。

 もし、切島のように懐の広い、心が優しい少年だったら。

 もし、そんな孤独な彼を別の誰かが理解してくれたら。

 

 凡ゆる〝もしも〟の可能性が湧いてくる。

 その〝もしも〟が叶えていれば、彼も八斎會の一員にならずに済んだのに。彼の心だって、存在だって救われたのに。

 個性という概念そのものが、超人社会が、彼を苦しめた。

 

「ガゥッ――ハ…!!」

 

 どれだけ皮膚が割れようと、痛みが走ろうと、その拳を止めない限り、諦めない限り、折れることはない。

 強くてカッコよくて、理想とするヒーロー像は、決して折れない人間だ。

 

 

 切島の拳に応えたのか、彼の漢気溢れる魂の叫びに心が折れたのか、ドス黒くて獰猛化した瞳に、小さな白い光が生じた。

 

 もし、治崎ではなく切島鋭児郎のような人間と出会ってたら、きっと……

 

 掴んでた麗王の手を離してしまい、切島の勢いを乗せた拳が炸裂し、体のバランスが不安定になり、蹌踉めく。

 

「感謝します――切島さん…いいえ、烈怒頼雄斗!!」

 

 

 

 麗王は彼に一目見やり、短く感謝を告げると

 

 秘伝忍法――【ライトニングブレード】!!

 

 

 光輝くレーザーブレードを強く握り締め、自身の持てる力全てを振り絞るように、巨大な白く光り輝く剣が、振り下ろされた。

 

 

 





前書きにて一章に一回は必ず、漆月の愚痴的なものを呟きます。

漆月「私の出番無さすぎ〜。これでもこの作品が成り立ってんの私なんですけど〜?だって私が原因で忍供が動いたんだよ?
えっ?たかが敵に存在を言いふらしただけでこうにもなるかって?分かってないね、私は敵に存在こそ吹き込みはしたけど、それだけで大事になる訳ないっしょ!上層部の言葉って便利でしょ?心にも思ってない言葉を並べるだけで、お前らのような能無しは簡単に騙されるんだからさ♪あっ…すみません……汚い言葉を並べてしまって…グスッ……そうですよね……そもそも最初っからそうやって始まったと認識さえしてしまえば…皆は疑いがなくなってしまいますもんね……怖いですね…言葉って…地位も名誉もある、上という存在の発言は、無意識に説得してしまうのですから……」


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