光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

193 / 253


思ったより早く投稿できた。昔は三日に一回だけど、今の状態としてこのペースは作者の私からして充分早いから…。




192話「救う人、救われる人」

 

 

 

治崎との死闘たるや混戦から壁に隔たれた別途の薄暗い通路。そこには平伏せられるように倒れてる男性と、その男の背中に腰を下ろす人影。

 

「う…うぅ…」

 

「アンタの事はよォ〜ッく知ってやすよ抹消ヒーロー・イレイザーヘッド」

 

目隠しをされ、倒れ伏せてはイレイザーヘッドと、死なない程度に加減して損傷を与えたクロノスタシス。

 

「メディア嫌いのアンタとはいえど、壊理の研究過程でアンタの個性を参考にしてやしたからね。それでも表で流される報道も無いんで、データそのものが貴重なんですが……良かった、裏ルートでアンタの情報を買えて」

 

「………ッ!」

 

「あー無駄です無理無理、アンタは今カタツムリ並みの動きしか出来ません。尤も…殺そうと思えば今すぐ殺せるんですけど、こうして殺さず隔離したってことは生かす価値があるッて事ですし?彼にとって壊理然り、イレイザーヘッド然り…個性を消すことそのものの能力は、治崎にとって大いなる魅力的な力なんですよ」

 

体が思うように上手く動かず、まるで1秒が1分とも一時間とも、長く感じるように動きが遅く、ナマケモノより遅く言葉通りカタツムリと同格の遅さだ。

 

「時間経過を待っても無駄です、短針で刺したんで一時間はそのままの効果」

 

玄野 針――個性『クロノスタシス』

時計の針のような頭髪を直線上に伸ばして刺すことで効果を発揮。受けたものの動きを遅くする。但し自身が停止した状態でなければ針を伸ばすことはできない。

 

「彼はね、一度決めたら止まる事は出来ないんですよ」

 

淡々と冷たく呟く玄野は、自身のペストマスクを取り、素顔を晒す。美形にして何処か渋さがあるが、それがまた若さとの顔立ちで美形として見える。

玄野は治崎との付き合いも長く、補佐と呼ばれるだけの事はある側近だ。

 

「どこまでしってるか分かりませんが…壊理ね、組長のお嬢さん何ですよ。

目的の為なら何であっても使い、果たす。オーバーホールッて男は、そういう人間なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、イレイザーヘッドとクロノスタシスとは別に、ルミリオンと壊理を安全に保護するように身を挺しながら二人の側から離れない切島と、レーザーブレードで壁を四角形に斬り捨てる麗王。

どうやら何とか治崎の個性によって妨害されずに避難できそうだ。

 

「壊理ちゃん待っててくれよ!直ぐに安全な所へ連れてくからな!」

 

先の戦闘で手も足も出なかった悔やみを何とか隠すように、切島は壊理を少しでも元気付けようと声を掛ける。仮免許試験で出た試験のFUCで経験した人命救助がここで生かされる。

 

「………」

 

それでも壊理の表情は決して晴れる事なく、自責の念で暗雲の如く積もっている。

 

こうなってしまったのも全て自分のせい──自分が関わって来てしまったものは皆、不幸になってしまう。殺されてしまう。

それは壊理が嫌という程、その光景を見せられてきたからだ。

 

現に、自分を守ろうと言わんばかりに、真っ先に飛び込んで身を挺したルミリオンが動いた結果、無個性となり彼を傷つけてしまった。

どんだけ認めたくなくても…「自分の行動や存在が人を傷付けてしまう」という結果に基づいて成り立ってしまう。

だからこそ…今自分がここで、ヒーローや忍達に保護されることも…この人達でさえも…傷付けてしまうのだと。

 

 

 

 

 

 

 

針地獄の如く、コンクリートの地面から無数に生える分解修復された障害物は、視界や移動範囲を制限させる。

 

(なるほど…破片となった地面は俺が触れたことにはならない…か)

 

対峙する三人を前に冷静に分析しながらも、治崎はそれぞれ一人一人を分析しながらも且つ、相手の動きを良く見て次の行動に移す。

 

(緑髪の男は…パワーとスピード特化といい…身体能力が高い…

雪泉は二人に比べればマシだが、予測と分析が出来てる…オマケに氷と風……風に舞った氷の破片は、触れれば凍り付けと…範囲が広くて厄介だ)

 

治崎は戦闘に於いてよく頭が回る。

緑谷出久は身体能力が高いだけで、動きの線が見えやすく、オマケに行動も読めやすい。

だがそれを雪泉の忍法によって自然とカバーに入る。凍り付けにされた状態で観察からの行動に移るその過程を妨害してくる可能性がある。足を凍り付けにされたら身動きは出来ないし、かと言って手を封じられれば驚異の個性が使えないとあっては一気に形成逆転されてもおかしくない。

早急に雪泉を消すのが良いのだが…治崎はそんな単純じゃない。

 

 

(いや、1番厄介なのは…ルミリオンを育てた師だ…)

 

 

数キロもある印鑑を時速60キロで投げつける驚異的な神業を披露するサー・ナイトアイを前に、治崎の目は鋭く噛み付く様に睨みつける。

師を超えたにせよ、無個性になってもなお壊理を守り、態勢を維持し続けたルミリオンを育てた男だ。

一度味わった徹を二度踏む様なヘマはしない。

 

先に消しておくべき存在は──サー・ナイトアイ。

 

 

「雪泉は治崎の手を──緑谷は治崎に触れるのを注意しながら援護を!!」

 

「「はい!!」」

 

「良いのか?連携とはいえ…俺の前で策など語っても」

 

「予知を使わなくとも、先程の幹部の個性を使用したのを見て、どの道お前に策は通用しないだろう」

 

ならば分かりきったままでも良い…今自分たちにできる最善の選択肢を選び、進まで。でなければ全滅は免れない…

数個の投げつけられた印鑑を前に、治崎は左下腕から伸びた指を一瞬で触れて分解修復を行い壁を作る。ボゴン!バゴン!と破壊の効果音が鳴りながらも、治崎はもう一度盾となった壁を分解し、今度は雪泉と緑谷の方向へ針が伸びる様に構築される。

 

「私たちを…!」

 

「でも…僕らの前じゃ意味がない!!」

 

シュートスタイルを駆使し足で針壁を破壊して治崎に近づく。竜燐の個性に触れたら終わりの治崎の分解の手が4本。

圧倒的に緑谷としては治崎との相性は最悪──然も動きが読めてしまう様では向かってくるだけそれこそ鉄砲玉と同等。飛んで火に入る何とやら、無茶無理無謀の自殺行為。動く的だけ。

 

「その言葉、そっくりそのまま返そう」

 

瞬間──緑谷が壁を破壊するのを読めてたのか、足で蹴り終わったタイミングを見計らい、絶妙なタイミングでツルのように黄金の鱗を再構築して緑谷の脚部を突き刺す。

 

「あッ──がっ!?!」

 

「デク!!」

「緑谷さん──!!」

 

一瞬の隙が命取りとはこの事で、大きさは然程大きくはないものの、穴が空いては自慢のシュートスタイルは出血と筋肉の破壊をさせてしまうだけ…

 

「お前らのような旨みはよく知ってるよ──コイツの動きは単純で読みやすい…幾ら早かろうと関係ない」

 

パキパキと何かが割れるような音を奏でながら、4本の腕を地面に着け、地面を一気に分解する。

足場がなくなり、掠めたところを雪泉は風を使い浮遊を上手く維持する。風がまとわり氷の破片が宙を舞う。

 

「秘伝忍法──……!!」

 

「巨大な氷柱か…同じ手は食らわないぞ?」

 

模倣するように、治崎は巨大な一角の塊を、雪泉へと向ける。驚異的なサイズに、思わず此方も黒氷で対抗してしまう。本当ならば樹氷扇で分解した土を一気に吹き飛ばし治崎の個性で応用した攻撃を防ごうと思ったが…良からぬ方向へ進んでしまったようだ。

 

「くっ…!サー!!」

 

(これは…一見私達を仕留めてるように見えて…本題は私か)

 

サー・ナイトアイは治崎の狙いが自分だと見解すると、覚悟を決めたかのように、体を駆使して治崎の猛威に振るわれた腕を捌いていく。

掌に触れなければいいので、そこさえ忘れなければある程度最小限で抑えれる。

 

(緑谷と雪泉も…その気になれば殺せたろうに……二人はあくまで分断し私を率先して殺す……成る程。ルミリオンが苦戦する相手だ、個性にかまけた腑抜けではないようだ)

 

「お前が師なら…ただでさえ無個性になったルミリオンでも厄介だッてのに…もう二人に邪魔されながらでは効率が悪い」

 

緑谷は右足の損傷と、雪泉は巨大な一角の塊を黒氷で相殺しながら耐え抜いている。つまり…一対一の状況を作り上げるこの形成が欲しかった。

治崎は相手が邪魔をするのであれば決して見くびったりはしない。全力で排除するのみ。その為には手段は選ばない。

 

「そして雪泉に使った分、地面は不安定…お前の動きに制限を掛け、俺は竜燐の翼で浮遊しながら円滑に事を進める。これは…お前が視えた未来か??」

 

「私は何もかも全て未来を視てる訳ではない、いつだって見据える先は──笑顔溢れるユーモアのある明るい未来。壊理ちゃんの泣いてる姿、苦しむ姿は、視るつもりもそんな未来にする気もない!!」

 

だからどうか…ルミリオンが命を懸けて守り通した少女を……私にも懸けさせてくれ。

全力で守り通す…ほんの数秒だろうと──

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ──

 

 

 

だが、それは本当に本当のほんの数秒で

 

「お、え…?」

 

「な…んと……」

 

いつだって現実は不平等で残酷だ。

 

「ッ──サー!!」

 

肉が抉れた音、幾ら遥か先を見据えるサー・ナイトアイでも…分解をする際の予測はできても、標的にされて仕舞えばそれすら無意味で、ルミリオンと比べても、師の方がずっと簡単で

 

 

「言った通りになるだけだって言ったはずだ──もう邪魔だ」

 

 

 

腕や足、腹部に黄金の鱗とコンクリートの地面で再構築されて無数の棘がサー・ナイトアイをこれでもかと言わんばかりに、滅多刺しにされていた。

 

「サーーー!!!」

 

「そんな…!!ナイトアイ!!」

 

緑谷の悲痛の叫び、雪泉の蒼白とした震える声。

それらも御構い無しに猛威を振るう治崎は、切島と麗王、ルミリオンの方向へと突っ走る──

 

 

「こうなったら…ルミリオン先輩だけでも早く先へ!!」

 

「こうなる以上、私達も己の使命を全うするまで…私たちでも時間稼ぎにはなります。早く──!!」

 

「みん…な……」

 

此方に危険が及ぶと理解するのは早く、切島は無敵の烈怒頼押斗になり、麗王はレーザーブレードで構えを取る。

満身創痍のルミリオンと壊理をこれ以上傷付けまいとする、二人の後ろ姿は勇敢──でも何処か無謀なようで、勝機の未来は余りにも薄すぎる。

 

死んでも止まらない治崎は、きっと殺す気で挑んでも止まらない。

 

 

「…もぅ…良いです……」

 

ふと、ルミリオンの近くで震えた弱々しい小さな女の声が、鮮明に聞こえた。

 

「ごめんなさい……私のせいで皆んなが…死んじゃう…殺されちゃう……ごめん、なさい……!!」

 

涙を流しながら、少女は皆んなに謝罪をしながら、己を責め立てる。ずっと蓄積した負の概念が、自分の行動によって他人が傷付いてしまうという概念が、彼女を縛り付ける。

 

 

 

 

致命傷を負ったサー・ナイトアイは、朦朧とする意識の中、己の死を前に治崎に触れた。

 

(伝えなければ…これから先に起こる未来…それが一体何か…どう治崎を捕まえるのか……打開策を…次の……一手を…)

 

 

サー・ナイトアイは絶命する前に個性を使用した。

予知は全面チームアップの会議でも述べた通り、発動するのには大きなリスクとインターバルが必要となる。

だから、最後の出しっぺとはいえど、確定した未来だけでも伝えなければならない…これからこの先、何が起こるのか。

 

未来予知で視てしまった未来は変えられない、確定のものへとなってしまう。では一体なぜか?

それは本人が何度も試したからである。だが──結果は変わらず。

見た未来と全く異なる行動を取っても、長くて数分の後に帳尻を合わせるように、元の流れに戻されてしまうのだ。

余分なカットを挟み込むだけ、そこから未来が分岐することは無かった。

 

これは自分がこの個性を発動することで、その人の未来が決定付けれれると知り、オールマイトの死を未来予知で視て以降、彼は他人の将来の予知を辞めた。

 

だから、サー・ナイトアイは治崎との戦いでも使わなかったのは、最悪な未来を決定づけてしまうのを恐れるため。

それは…全員が殺され治崎が壊理を連れて逃げ果せてしまうという、バッドエンドな最悪な未来。

 

それでも逆に、未来を視ることで治崎が捕まり壊理が救われる未来もあるのなら、一か八か…最後の悪あがきとでも呼ぶべきか、予知を使い治崎の未来を視た。

 

 

それは敗色濃厚の中、一縷の望みをかけて希望がありますようにと──

 

 

サー・ナイトアイが見た予知の未来…果たしてそこには何が映ってるか──

 

 

 

「ッ…!!!!」

 

サーは絶句した。それは…

全て真っ黒に塗りつぶされた未来。

更にそこから過去へ戻ると…

 

 

雪泉も、緑谷も、切島も、麗王も、ルミリオンも殺され、壊理ちゃんは絶望の顔で連れ去られ逃げ果せてしまうという、尤も最悪な未来が、恐れていた、見てはいけない未来を──視えてしまった。

 

 

 

「何を言ってるんだ…エリちゃん!気にしなくて良い…大丈夫…!まだ、何十人もの人間が君を…助けるために…動いてるんだよ!此処は…二人に任せて早く安全な──」

 

「でも…何十人ものの人が…私に関わったら、その人達も死んじゃう…殺されちゃう……」

 

「そんなことない!!君は…そんな事考えなくても良いんだ、だから──」

 

諦念し諦めるように絶望が覆うエリを必死に励ますルミリオン。そして次に防戦一方でなんとか治崎を食い止めてる切島と麗王。

分解して修復を行う障害物による針も、烈怒頼押斗では通用せず、麗王は軽い身のこなしと華麗なる剣捌きで対抗する。

 

(チッ…流石に他の奴らとは違って守り続けられても拉致があかない…これ以上粘られて増援が来てもややこしいだけ…こうなったら)

 

苦虫を噛み潰すように苛立つ治崎は舌打ちをしながら、腕を掲げて──

 

 

「『エリ!これで良いのか!?お前のせいでまたまた死ぬぞ!?これが望みか?本当にこのままで良いのか?エリ!!』

 

 

忌々しい掌から呟かれる声が、この場の空気を嫌に凍り付かせる。

麗王も、切島も、ルミリオンも、音本と呼べるだろう掌に注目してしまう。

 

「『言ったはずだ!お前に関わって来た奴らは皆死んでしまう!そういう呪いを生まれ持ってしまった存在なんだ!!これが現実、いつまでも病気に浸ってるんじゃあない!!!』」

 

耳が痛くなるような声と共に、壊理の脳裏には焼き焦げた様にこびり付くトラウマが、フラッシュバックを起こして蘇る。

 

自分が脱走する度に殺される世話係の構成員。

何度も分解されては修復を繰り返される生き地獄。

自分の安全のために命を懸けてでも、笑顔を絶やさず庇ってくれたお兄さん。

 

鮮明に蘇る度に心臓が握り潰されそうなほど痛くなり、苦しくなり、発狂して泣き叫びたい程の恐怖が、全身を駆け巡る。

 

「この野郎…!エリちゃんに何てこと──…」

 

「思わない──」

 

憤慨を噛み締めながら吠える切島の声を遮断するように、壊理が答えた。気がつけば体が勝手に動いており、治崎の方向へ足を運んでいる壊理。

 

「壊理…ちゃん!」

 

脚を損傷しながらも応急処置用に携帯していた包帯で止血を終えた緑谷。

 

「壊理さん!早くルミリオンさんの元へ――…!」

 

巨大な塊を全て破壊し終えた雪泉は、いち早く状況を知り戻れとの声をあげる。然し今の精神を追い詰められてる壊理には馬の耳に念仏だ。

 

「『なぁ壊理、コイツらが俺に勝てると思うか?この状況…ルミリオンなしで、子供達で何とかなると、本気で思うか?』」

 

「…ッ、思わない……」

 

その言葉に、一同は言葉を失う。

そしてその言葉を発してしまう壊理本人も、心が折れるように痛く感じる。

真実吐きによる個性は、相手の行動や作戦のネタを明かすだけでなく、こう言った精神的な攻撃方法もあるというのはルミリオンと音本の戦いで実証済みだ。

 

「『じゃあお前はどうするべきだ?』」

 

「……も、どる……」

 

正常な考えができず、真実や心に思った本音を、吐き出してしまう。本当は戻りたくない…でも、戻らなきゃいけない。只でさえ精神を被虐的に追い詰めてしまっているのに対して、治崎は傷に塩を塗るように、更に追い詰めるように、言葉を使い、逃げ場を無くし、精神を弱らせ抵抗も脱走もしないように此方側に誘き寄せる。

 

 

目的のためならば手段を選ばない──狡猾で残酷なやり手だ。

 

 

「でも──その代わり…この人達は見逃して……」

 

その反面、壊理は自分を捨て他者の安全を最優先に選ぶ。例えそれが救われるのなら…己をも顧みない。

 

「皆んなを…元通りにして…!」

 

自分の命よりも、いや…己を犠牲にしてでも、他者の事を考えられる壊理。こんな状況、泣き叫びたくて、でも保身に走るような情さえ無くすほどに追い込まれた少女は、ある意味異常だ。

そして彼女を異常にしたのも治崎である。

 

「何をバカな事を…壊理さんは早く…ルミリオンさんのところへ……」

 

「そうだよな──お前は自分のせいで他人が傷付くよりも、自分が傷付く方がずっと楽だもんな」

 

そして壊理がそうならざるを得ないことも、他人の命を優先するような心優しい事も、熟知している。

 

「ッ!貴方という人は…!!だま──」

 

「まだ分からないのか雪泉とやら、お前らはコイツを救うべく命を懸けて動いてるんだろうが…そもそもそれが大きな間違いだ。

 

ルミリオンならまだ望みはあったが、奴で芽生えた淡い期待が砕かれ、コイツにとって最も残酷な仕打ちをしてることに──」

 

こうなる様に全てを仕組み、調教し少女の心を犠牲にする治崎が残酷な仕打ちとは、これ程皮肉が効く言葉はないだろう。

 

 

 

「お前の正義も、お前らも、何一つ求められちゃいない──」

 

 

 

そして高らかに見下ろしながら、雪泉の正義も、ここに居る皆の存在ごと、全て否定するかの様に言葉を吐き捨てる。

 

「何だよ…それ…!!」

 

苛立ち義憤に溢れる緑谷の声は、重々しく、治崎を睨み付ける。

 

「ならば聞こう、ルミリオンが無個性になったのは誰のせいだ?その師が死んだのは誰のせいだ?

ぜーんぶ…エ──」

 

「悪いのは貴方でしょう…!!そうやって、小さな子に罪を擦り付けて…極道ともあろう者が聞いて呆れる…!」

 

緑谷だけでなく、雪泉も食いつく様に、これまでにない義憤と正義感が、折れる事なく彼女を突き動かす。

 

「壊理さんは何も悪い事なんてしてないでしょう!?何故、被害者が加害者扱いされなきゃいけないんですか?

 

無個性にしたのも、サーをこんな目にしたのも、実行したのは貴方です!!この子には何の罪もない!!」

 

「罪はないとは…両親を()()()奴に対して随分とした言い様だな」

 

「現に…まだ私たちは生きている…貴方がどれだけ強くても、私たちが死んでない以上は、まだ──」

 

「そうだよ…!!余計なお世話だとしても、壊理ちゃんが泣いてる以上──ヒーローは綺麗事を実践するお仕事さ!!

 

だから!お前の言った全員が死ぬだなんて未来変えてやる!僕らが全員生きて壊理ちゃんを助ける!!!」

 

二人の目はまだ死んでない。

不屈の闘志、諦めという言葉など辞書にない二人は、どれだけ現状に打ちのめされようと、この子を救うために動き出す。

現に緑谷は何処か林間合宿のマスキュラー戦を沸騰とさせる。

 

「諦めが悪いとこうも救われな──」

 

ビシリッ──

 

ため息交じりに心底呆れる治崎の言葉が、天井の亀裂と共に途絶え、全員の視線が重々しい音に注目する。

それは数秒も経たぬ内に、破壊された。

 

ドゴオォォン──!!と豪快な破壊と共に、外から発する太陽の日差しが照らされる。

それと同時に大きな影が覆い、人影もチラホラと見える。

 

「アレは…?」

 

落下してくるのは、玄関の前でリューキュウ事務所に取り押さえられてた八斎會鉄砲玉──活瓶力也、だが最初に一眼見た時と違い、Mt.レディと渡り合える程のサイズに変化している。

そして力也の首元にかぶり付き、体を抑えてるリューキュウと、力也の首元を鎖鎌で巻いてる総司、波動を飛ばしてる波動ねじれ、他にも蛙吹梅雨に麗日お茶子もいる。

 

「ケロ…!」

 

「えっ、ちょ…デクくんなんで彼処に…?!」

 

「せめてもの…これが蛇女の誇りだ!!その脳内にしかと埋めておけ!」

 

「ドンピシャ!!」

 

 

運命は、違う方向へと加速する。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。