光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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あ、ようやくヒロアカ18巻まで来たんや!!…今頃?昔の投稿ペースなら既に25巻なのか?


195話「善悪の恩情」

 

 

 

 

 

 

 

 ────〝超常〟────

 

 

 かつて、突如として人々にもたらされた謎の変異。超常黎明期だった頃は奇病や人外、化け物として恐れられ、個性を持つ者は迫害を受け、忍からは処分対象された。

 一方、ある一説では未知のウイルスがネズミを介し世界へ拡がったと言われている………が、明確な論拠がない。

 

 

 無数にある超常にまつわる推論の一つに過ぎない。

 

 また、とある推論では……憑黄泉神威が生み出した病の副作用、または有り溢れた力で人間に超常が降り注いだという言い伝えもあるが、それも明確な理論も根拠もない。

 

 

 超常黎明期の大混乱の中、いち早く統括し、忍の処分から個性を持つ人間を守り抜き、大いなる信頼と人望を掻き集めた伝説の逸話、オール・フォー・ワンの都市伝説がネットや掲示板、風の噂などで広まった。

 オール・フォー・ワンだけではなく、超常によって起こされた戦争、Dースクアッドを始めた超常による国際テロ、処刑執行者という正体不明、未知なる殺人鬼達の言い伝え。

 どれもこれも、個性という存在が発達してから、世界が轟き、普通という現代からかけ離れた日常は壊され、個性という存在が世界の構造を変えた。

 

 

 

 

「お前らも壊理も何も分かっていない…力の価値を、使い方を…!!〝個性〟を伸ばす事で飛躍する。

 俺は研究を重ねて壊理の力を抽出し、到達点にまで引き出すことに成功した。無論…子孫を残していけば、個性が混ざり合い強力な…俺のように危険な個性が生まれる…。個性って言うのは凡ゆる理によって定められている。

 

 そして、それを壊すのが壊理の個性さ」

 

 単に肉体を巻き戻すだけでなく、もっと大きな流れ…即ち、種としての流れ。変異が起こる前の形へと巻き戻し、個性が発現する前に戻す。それは個性に留まらず、忍術までも…その術としての存在そのものを消す事だって出来る。

 そういった意味では、忍に対抗できる力と言っても過言ではない。

 

「個性因子を消滅し、人間を正常に巻き戻す個性──個性や忍術で成り立つこの世界を壊す!!!理を破壊する力が…壊理だ!!」

 

 ファイナルフォームへとチェンジした治崎は、巨躯から伸びる無数の手で街中の住宅地を触れていき、瞬く間に分解していく。

 

「わわっ!?ちょちょちょ、ケーサツ!?ヒーロー早く来て!?」

「うわああぁぁぁ!!?」

「ママぁ!怖いよぉやだよ!!またヴィランが…!!」

「華子ぉ!!いやぁ…いやぁぁぁ!!!」

 

 家は崩壊し、砂塵の如く霧状の如く塵となり、台風のように宙を舞い、形成していく。

 住宅内には無関係者の民間人がチラホラ見える。

 昼食の料理を作っていた男性シェフ

 テレビを鑑賞してたごく普通の女子大学生

 何処かで見覚えがあるだろう、抱き合いながらその場で怯える親子

 

「分かるか!?何にも知らん馬鹿ガキ共が、感情論で動いていい品物じゃあない!!壊理は最高傑作なんだ!!!」

 

 そんな住宅街に轟く住民の悲鳴がBGMの代わりとなり、治崎は瞬く間にそれらを全て攻撃として鋭利な棘を作り出し、それを緑谷と雪泉に全力で矛先を向ける。

 

「その価値も分からんガキ共に、利用できる代物じゃあなィ!!!」

 

 そして背中、脚、溝、肩、腰、凡ゆる部位から護武皮の拳が迫り来る。予測不可能、縦横無尽、ゴム質により近距離から遠距離までに肉弾戦を持ち込める個性。

 それに加えて触れたものを活力吸収、または分解修復を上乗せしありと凡ゆる作用を発生させる。

 

「価値?代物?」

 

 パキィン────

 

 然し、それは凍てつく音ともに瞬時に空気が冷え浸る。

 まるで…一瞬にして世界が南極大陸に、それこそ雪積もる世界のように、空間が青く染まり、温度が急変する。

 

「なっ──」

 

 治崎が放った護武皮の腕を、的確に凍り付け、一瞬にして全て崩壊。強すぎる氷は、凍り付けしたものを崩壊させてしまう危険性がある。

 氷王の雪泉──いや、氷王だった雪泉は続け様に、氷によって触れられた部位から感染するように氷結化が進んでいる。

 

「な、んだと!?!」

 

 治崎は続け様に氷によって感染された部位に触れるも…

 

「っ!?!!!な、分解できない!?!!?」

 

 いや…それどころか、触れた氷にまた…感染が!!

 分解修復をしようと試みるも、分解される前に氷が感染し、個性機能が働かなくなる。

 これぞ…覚醒を超えた雪泉の秘めた忍術。

 

(そうか…!なら、氷に感染してない箇所に分解し修復すれば…!!)

 

 無事な手で無事な体の箇所に触れ、全てを分解し修復すれば、氷も元に戻るし解除する。

 頭の回転が早い治崎は直様試そうと行うも──

 

 ドッッッッ───!!!!

 

 重撃な一撃が、人中に炸裂する。

 壊理を担いだ緑谷が、治崎の巨躯を空へと殴り飛ばし、壊理が飛ばされないように背中で優しく支える雪泉。

 

 あれほど巨大な体を空中に殴り飛ばす緑谷のワン・フォー・オールは、体育祭の比ではない。

 これ程の強力な一撃は轟戦はもちろん、マスキュラーに放っ100%、火事場の馬鹿力によって放たれた1000000%とでは、天と地の差が激しく広がるほどに、圧倒的すぎる。更に放たれた衝撃により余波が放たれ、凡ゆる邪魔者を近づけさせない。

 

 

「がぁぁっっ…はッ…!!!」

 

 

 活瓶と分解修復によって融合された巨躯な体躯とはいえ、全てが治崎の体の一部、神経も通っていれば痛覚も働くし、未知なる部位による動作も自然と覚える。

 だからこそ──壊理の巻き戻しを発動しながらも常に体が耐えきらない程のパワーを出し切ることで、治崎には想像を超える痛みが、伝わってくるのだ。

 

「出久くん…強」

「あれ…治崎か?つか、なんだよアレ…緑谷ってやつ、こんなに…?マスキュラーを倒したのってやっぱ…」

「つか…黒佐波は?」

 

 一方、安全圏とは言えないが、避難地で傍観の立場だったトガと龍姫がポツリと呟いた。

 トゥワイスの声に鎌倉が反応して大穴を覗くと其処には──

 

 

「おい…オイぃ…誰かと思ったら…テメェ…雅緋かよぉ……」

 

 大蛇に噛み潰された黒佐波の体が、溶けていたところだ。

 

「抜忍・黒佐波か!?脱走したのか…いや、捕獲した今はいい。及八斎會の幹部三名は気絶し捕縛してある!!」

 

 体がボロボロになりながらも、絶・秘伝忍法『ヨルムンガンド』を発動し救援に駆けつけた雅緋は流石というべきか。蛇女の筆頭だからこそのタフネスさか。

 ヨルムンガンドに噛み潰された黒佐波はべちゃり!と体が溶けて泥化する。どうやら黒佐波でも、トゥワイスが複製で出した耐久値には敵わないらしい。

 

「雅緋…!そう、無事だったのね…なら!貴女はイレイザーヘッドの救出を!そしてウラビティと総司はサー・ナイトアイを連れて先に!

 体に固定されたトゲは抜かず!慎重に且つ安全に救急車に!!」

 

 リューキュウに竜翼で飛ばされた二人は、ぽっかり空いた大きな穴に飛ばされて、向かって行く。

 

「……この貸しは大きいぞ、私が運ぶまで死ぬなよ!ナイトアイ!!」

「早く…デクくんところへ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大空に放たれた治崎を、天を駆けるが如く、緑谷が担いでた壊理を雪泉が担ぎ、空を飛ぶ。

 風と氷を扱い、治崎との距離を詰めていく。

 

(壊理さんに触れてるだけで、意識や肉体が内側に引っ張られるように……これが、巻き戻し──)

 

 改めて巻き戻しの個性を肌身で感じ、その超常過ぎる個性に思わず固唾を飲む。

 成る程…人間一人を簡単に消滅させる個性…何もかもを無に巻き戻す個性は確かに強力で、余りにも恐ろしい。非力な少女でも、黒影の孫を一人簡単に消せるのだから。

 治崎の言葉に同情する訳ではないが、彼女の存在が世界をひっくり返し、理を破壊し新たな秩序を齎すといっても過言ではない。

 

 強すぎる力は善意にも悪意にもなる、それは嘗て半蔵と敵対してた純粋すぎた雪泉が、一番よく知ってたから。

 

 

 

 

 

 

 

『雪泉…お前また喧嘩したそうだな』

 

 巻き戻る最中、記憶が蘇り回想する。

 これは小学生の頃だ──叢、四季、夜桜、美野里が帰って来た中、一番遅く帰ってきた雪泉は、ランドセルを背負いながら玄関の元で不貞腐れたように俯く。よく見れば喧嘩した後の傷が残っており、絆創膏が貼られている。

 

『………』

 

『学校から電話が掛かって来た、美野里も叢も心配してたぞ。一体何があったんだ…?』

 

 呆れてはいない、怒ってない訳ではない、だが…喧嘩した内容によっては変わる。

 電話からは口喧嘩が始まったといい、先に手を出したのは雪泉だと聞いた。彼女は元々暴力的な行為は好ましくない。然し唯一の点を除けばの話。悪いことになると頭に血が登り、見境がなくなるのが主に雪泉が引き起こす喧嘩の原因なのだ。

 この前は「ヒーローより敵の方がカッコいい」という男子の話し合いを聞いて突っかかり喧嘩となり、その前は「何人かが弱い者いじめをしてた」から、その悪事を許せなくて勝手に突っ込んだ。

 後者の方は雪泉の友人ではないとはいえ怒る気にもならなかったし、かと言って前者の様な事は注意が必要だ。

 

『…家族のことを、悪く言われた……』

 

 ぎゅっと両手で帽子を掴んで深々と被り、俯いたまま見上げようとしない。

 

『お前の家にお父さんもお母さんもいない、親なんていないくせに生意気だって…お前の家族は本当の家族じゃないって…悪く言われたから…』

 

 其れは前に雪泉と喧嘩した子達が、雪泉の事を良く思わず喧嘩を売ってきたのだろう。手を出してしまったのは雪泉だ…然し、喧嘩をふっかけたのは紛れもないいじめっ子たち。かと言って雪泉に敵う訳ではないのだが、それが帰ってより苛立ちと悔しさを増す。

 だからこそ売りことばに買い言葉で言ってしまったのだろう。

 

『叢も…夜桜も…四季も…美野里も……そして、お爺様も、大事な家族なのに……悪く言われて…だから…っ、だからっ…!!』

 

 雪泉にとっては耐え難いものだったのだろう。頬を膨らませながら、ポタリポタリと大粒の涙を一滴ずつ床に落とす。

 事情を把握した黒影はキョトンとした顔立ちで雪泉の話を聞きながら、納得した様だ。

 撒いた原因…と呼ぶべきか、喧嘩をしてしまう雪泉から始まったのだろうが、だからと言って喧嘩でも限度がある。雪泉も本当はもっと我慢してたのだろう、でも…今回ばかりはならざるを得なかったという訳だ。

 

『そうか、雪泉…お前は、俺たちのために…』

 

『ごめんなさい…喧嘩してごめんなさい…困らせて……ごめんなさい…ずっと我慢してたのに私……』

 

『良いんだ…大丈夫、よく…我慢してきたな、雪泉は…』

 

 両親が殺されて、孤独になって、本当は凄く苦しいのに、泣き叫びたい程悲しいのに…それを踏まえて更に我慢しようとしたのだ。

 

『家族を守ろうとしてくれて、有難うな──』

 

 黒影はそっと小さな身体を抱き寄せる。

 お爺様は元々肌が冷えてるけれど…でも、どこか温かい。温もりを感じて、心地よささえ感じてしまう。

 

 

 善だけの、光だけのある世界を望んだ黒影の腕の中には、眩くて美しい光を抱えて──

 

 

 

 

 苦しみから耐え、悲しみを我慢し、一人で抱えた少女は、嘗て力だけで全てを変えようとした。

 変革、善だけの世界…言うなれば破茶滅茶な話で、今思えばぶっ飛んでる。正直エリの巻き戻した状態で、本来引き出せない限界を超えた覚醒や、あり得ない忍術の強さを持つ雪泉は、その気になればそれなりに社会や秩序を乱すことは可能だろう。

 だがそれは所詮借り物に過ぎない…故に、雪泉が望んだ絶対的な力…もし、立場や状況、環境…時間軸が違えば、純粋過ぎた雪泉が壊理の力に魅入られてしまってたのなら、治崎と同じ末路になっていたのかもしれない。

 

 力とは飽くまで力…それは、善にもなり得て悪にでもなり、そして──悪意でしかない。

 どれだけお膳立てしようと、言い訳を垂れようと、幾らでも理不尽になれるのだから。

 

(お爺様、見てますか…?私は今、正義を…守るべき者の為に悪と闘っています。嘗ての私なら、ただただ刃を悪に向け殲滅の意に駆られていた…然し、今はどうでしょう…?)

 

 誰かを守りたい、

 守る為の戦い、

 正義としての使命、

 

 嘗ての雪泉は何方も望み、正義を志して貫いてきた。その筈なのに、今と昔ではこうも見方が違う。まるで別人のようで、不思議なものだ。

 私怨や憎しみによる感情論で動かされてる訳じゃない、ただ守るべき背中を、救われるべき光を背負い、雪泉は天を目指す。

 

 

(私は──黒影様と同じように、飛鳥さんの信念である刀と盾のように……私は、正義を貫けていますか?)

 

 

 誰もが認めれる、正義になれてるだろうか。

 ヒーロー殺しステインの時とはまた少し違った感覚だ、似てるようで何処か違う…この微妙な違和感が残りつつ、気持ちは全く別だ。

 

「大丈夫、私は一人じゃない…そして、エリさんも一人じゃない…」

 

 もう、やっと一人じゃないんだ、エリは。

 泣いていたら、苦しんでいたら誰かが守ってくれる。救われても良いんだ、守られても良いんだ。

 

「治崎っ……お覚悟!!!!」

 

 紅白色の瞳は、まるで刃物のように鋭い視線を飛ばし、絶対零度の氷が彼女を守り、敵を凍てつかせる。

 絶対零度(正義)は溶けることを知らない──

 

 

 これぞ、零帝の雪泉と名乗るに相応しいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大空に吹き飛ばされた治崎は、死すら生温い強烈な拳で吹き飛ばされ、未だに冷え凍る空気に肌の寒さを感じながら、朦朧とする意識の中に記憶が流れ込む。

 

『出来た…これが完成品。試作品を通して作るのに道のりが長かったが……これを見せれば組長はなっとくしてくれる』

 

 地下研究所で、個性因子の細胞を試験管に詰め込みながら、それを眺める。

 八斎會は此処まで生き延びたとはいえ、ヤクザという界隈が解体されていく中、肩身が狭まり、弱小と呼ばれ、やがて消えてしまう。潰れるのも時間の問題──親父はああ言ってたが、きっとこれさえ見てくれれば納得してくれる。

 

『完成品を作るのに1ヶ月…充分な研究機材と適切な環境がない状態とはいえ、研究費用によって金が潰えるのは随分と手間が掛かったが…取り敢えず、完成品が作れただけでも大きな成果だ』

 

 五体満足とまではいかないが、それでも完成品が作れたという事実が、その性能が、余りにも魅力的なものだろう。

 

『そして…次に血清品…これも完成品を作る過程で生み出したもの…この二つを市場にばら撒けば、市場を独占し、八斎會は必ず復活する』

 

 それこそ、失敗はあり得ないと言わんばかりか、寧ろ成功する事に疑いのカケラもない治崎は、だからこそこれまで長い月日を掛けて研究に没頭していたのだ。

 完成品と血清を作れば後は組長に報告するだけだ、この成功品を主にデータを元に複製を開始する。後は金と時間の問題だけになる。

 

 

『先ずは研究過程で精製した未完成品を幾つか世に出し存在を匂わせる。鬱陶しいヒーロー芸を無力化できる、それに食いつき欲しがる者が必ず現れる』

 

 早速組長に報告する治崎は、何処か胸を弾みながら生々と語り尽くしていく。

 

『飢餓感を煽ったところに完成品を高値で売り捌く、個性を完全に消滅できる代物だ──そしてある程度出回ったら今度は巻き戻しで個性を復活させられる血清をチラつかせる!!』

 

 ヒーローサイドには血清を

 敵サイドには銃と弾を

 

『エリの肉体が元であり、俺の個性を利用すれば独占体制で市場を支配できる!!そうすればヤクザが…八斎會が再び日本を裏から──』

 

『治崎』

 

 治崎の言葉が、組長に遮られる。

 

『ダメだと言ったハズだ──あの子を…人を何だと思ってんだ…』

 

 組長はこれまで以上に治崎に見せたことのない憤慨の顔色を沸騰させる。声が震え、聞けば身震いしそうな程に強く、威圧を含んだその声は、今まで治崎に何度も見せた怒りとは比にならなかった。

 

『お前、何度も言ったよな。あの子は道具でも何でもない……治崎、忘れたとは言わせねぇぞ』

 

 外道な人間には誰も付いてこない

 常に仁儀を押し通せ

 

 古い習慣があるとはいえ、組長の懐の広さや人道的な人間性に惚れ込んだ人間は数多い。勿論、治崎もその一人。

 だからこそ、違法薬や身勝手な理由で他者を傷つけ、あろうことか実の孫娘であるエリの肉体を利用して世界中に売り捌こうなど、鬼畜の所業でしかない。

 

 そんなことを、大事な孫娘を商売道具に利用されて、黙っておられる親など何処にもいない。

 

 

『治崎、ウチの考えに背きてぇなら…お前、もう出てけ』

 

 

 褒められるとは思っていなかった、それは想定内。

 多少の反対は出るのも、情が厚い組長なら仕方がない。

 だが、破門されることまでは想定外な返答で、何処か治崎の心に亀裂が生じる。

 

 ──あぁ、違う。違うんだよ組長……俺は、アンタの為を想って…アンタに拾われてから、ずっと恩を返したかっただけなんだ。

 あの日からずっと、ちっぽけで、何もかもが空っぽの病人だった俺に、唯一手を差し伸べてくれたのは、組長だけだったから。

 

『違う、拾ってくれたアンタに報いたいだけなんだ──』

 

 この個性を産まれ持ち、忌み嫌われてた自分を、1人だった俺を拾ってくれた親父に感謝してるから…どうしても、恩を返して報いたい。

 

 

『いいから…黙って見ててくれよ、組長(オヤジ)

 

 

 組長は恩人だ──英雄気取りの病人どもが組長を隅へと追いやった。

 計画が軌道に乗って俺たちがでかくなったら、修復するよ──楽しみに待っててくれ、組長…。

 俺が、八斎戒も組長も救うんだ──

 

 

 その為に使えそうな駒も増やした

 忍がヒーローと共存しやがった

 八斎戒と組長の夢を潰そうとする目障りな病人がいる

 

 

 組長の為に全てを捧げ、恩を返す。

 

 

 自ら組長を昏睡状態にさせ、寝たきりの植物状態にさせた癖に、組長の夢の為に黙らせ都合の良い解釈で野望を果たそうとする治崎は、異常にして異質。

 矛盾にして狂気、正気の沙汰じゃない。

 それこそ、何方が病人かが見分けもつかない程に。

 

 

「どいつもこいつも大局を見ようともしない!!!そして自分が何者かになれると──そう本気で思ってる現代病共が、組長を追い詰めた!!!」

 

 

 全てを分解し、全回復させ体勢を取り戻す治崎は、活瓶の個性によって住民の活力を吸収し身体の大きさを変え、護武皮のゴム質な皮膚を更に強度を増してなるべく衝撃の耐性を増す。

 分解、修復、活力吸収、ゴム、全ての個性をフル活用し2人を殺す魔の手を作り出し、全身全霊を込めて二人を排除する。

 

 殺意

 願望

 執念

 

 治崎は出し惜しみなく全ての機能と技術を活かし、完膚なきまでに捩じ伏せる。

 

「俺が崩すのはこの〝世界〟!!その構造そのもの!!目の前の小さな正義だけの…感情論のヒーロー気取りが──古くから伝えられた伝統と秩序ばかりに縛られ、鬱陶しい手品(忍術)で他者を傷つけ愉悦に浸る都合の良い(愚か者)が、たった一人のガキしか救えない正義気取りがぁ…!!」

 

 凡ゆる全てを否定し、一瞬で分解させる個性を発揮し、巨大な手を作り出す。

 

「──俺の邪魔をするなあぁぁ!!!!!」

 

 たった1人のガキしか救えない人間が、秩序、構造、異能、革命さえも引き起こし、全てを覆し理を壊すエリを手渡して堪るものか。それだけじゃない──今までの過程や研究として潰えた努力、1日も欠かさず組の復活と組長の為に鍛錬を続けたあの血と汗の結晶を、こんな奴らに全部ダメにされて堪るものか。

 

「俺の前から消えろ──!!!」

 

 

「デクさん──今です!!」

 

「ッ…?!!」

 

 

 雪泉のその言葉に、治崎は一瞬だけ思考が停止する。

 気配で察知し振り向くと、いつの間にかデクが背後を取り拳を構え、此方へ向けている。

 それも──壊理を背負って。

 

(ッ…!!?瞬きした瞬間に背後を…?いや、そもそも壊理は雪泉が……)

 

 背負っていた筈なのに、視線を外してもないのに…何故、緑谷出久が背負ってる?まさか…本当に──

 

 目にも追えない速度で?

 そんな事が可能なのか?

 有り得ない、不可能だ。

 

「お前は必ず…ダメージが蓄積したら分解して回復する」

 

 一瞬で全てを分解し、一瞬で修復させる個性はとても強力で、死柄木の上位互換とも呼べる希少な個性は、とても魅力的で使い道も多ければ限りなく強い。

 だが──オールマイトから託されたワン・フォー・オールを、フルに100%機能を発揮出来れば、それは正しく全盛期のオールマイトに近いレベルで、渡り合える。

 前までは、譲渡されてからは個性を使う度に木偶の坊となり、非合理的で、誰かに心配されるばかりだった。

 

 でも──今はまるで…本当に、憧れたオールマイトの様に、それこそ爆豪勝己が勝つ姿に憧れたように

 

 

「目の前の小さな女の子1人も救えないで──皆を救えるヒーローになれるかよ!!!」

 

 

 圧倒的な力で、理不尽を壊し、逆境を乗り越え、敵の持つ悪意を尽く粉砕するように、翻弄する。

 何度も炸裂する拳は、空間を震えさせ、鼓膜を揺るがす音が何重も響き、融合で作り上げた巨躯を悉く壊すようにすり減らし、吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ナイトアイ…デクくんと雪泉ちゃんが殺されるって本当ですか…?」

 

 リューキュウ事務所のメンバーが壊して作った大穴から、地上へ戻ったお茶子は、ナイトアイを支えなが蒼き大空を見上げてポツリと呟いた。

 

「殺されるどころか、2人とも無傷な上に…寧ろ治崎は…なんだ、あの闘いは──」

 

 完璧主義者の総司も、固唾を飲み戦いを見守りながら、本音を零す。

 まるで別次元──話にならない、言葉で表せない…いや、言葉で現せれるのかさえ有耶無耶な程に、滅茶苦茶な戦いだ。

 神ノ区にて悪の象徴オール・フォー・ワンと平和の象徴オールマイトが戦ったあの激戦区の出来事を沸騰とさせる。

 

「ああ…確かに、私が見た未来は、苦しみ藻掻く緑谷出久と、跡形もなく殺される雪泉…2人は殺された──そんな未来を観た。然しこれは…この未来は……」

 

 知らない──とでも言いたげなそうに、眉をひそめて困惑な顔色を立てていた。今まで未来を見た者は如何なる手段を用いても変えること叶わず、覆すことなく、決定打された未来がそのまま現実と化した。

 だがサー・ナイトアイが見た予知の結果は、完全に違った。

 

 

 まさか──本当に未来が…変わったのか?

 

 

 そして、治崎のマスクが衝撃の波に乗り、破けて宙を舞う。

 勝負の行方に、変更された未来に、どうやら終止符が打たれたようだ。

 






あと少しで八斎戒も終わります。
えー色々愚痴もあったりマンネリ化が続いた中、漸く終われたという達成感(まだ終わってないけど、書きやすくはなってきた!)が、何だかふつふつと湧いてきた気がします。これからも、やる気が出れば少しでも執筆を続けれるよう最低限の努力は続けていきたいです。

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