光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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えーやばい、焔紅蓮隊編もそうだけど処刑執行人編もやりたくなった。何年先になるかわからないけど、問題なのはメンバーをどうするかとかよね。
大分先を考えて執筆したり活動する漫画家さんとかどんなメンタルでやってんだ。



196話「終了」

 

 

 

 

「廻…?遅い…何だこの地震は…」

 

 一方、イレイザーヘッドとクロノスタシスにて。

 地上の激戦により揺れが生じて、八斎戒の地下ルートにまで響いてくる。イレイザー・ヘッドを捕獲し、個性によって動きに制限を掛けた。

 今のイレイザー・ヘッドはカタツムリ位の鈍い動きで、それこそスローモーションの状態だ。得意な戦闘武術も泣いている。

 

(まさかだとは思うが…廻、お前が負けるわけない…よな?)

 

 顰めっ面で倒れ伏せてるイレイザー・ヘッドに視線を戻し、一瞥する。治崎との付き合いが長い玄野は、誰よりも治崎を信用している。若頭補佐と呼ばれる所以か、志は治崎と同じく同志。

 

 ──私は知っている。ずっと見てきたから…お前が組の尊厳を守る為、ガキの頃からずっと、異常なまでに努力を惜しまなかったこと。どんな汚れ役を買おうと、組長の為に人生を捧げたお前を、俺はずっと背中を見てきた。

 

「もし廻が敗北した場合は…」

 

 せめて完成品と血清だけでも──二つをポケットにしまいながら、短刀を抜く。

 

(コイツの世話をしてる余裕なんてなかったんだ…!!)

 

 目隠しされたイレイザー・ヘッドは、動きが鈍く目隠しされた布を解くのもやっとな時間がかかってしまう。だが玄野には関係ない。

 これからイレイザー・ヘッドの背中を滅多刺しにするのだから。

 右も左も分からず、視界が遮断されてる暗闇の中は恐怖とも言えよう。

 

 

(───全ては組の為に、廻の為に───!!)

 

 

 明確な殺意と、柄を強く握りしめながら殺意を込めた短刀の刃先をイレイザーヘッドの背中めがけて振るおうとする

 

 ボボォウ──!!

 

「あッッつあぁ…!!!!」

 

 だが、その殺意込めし願い──虚しく届かず。

 黒き炎が玄野の腕を焼き焦がすように黒炎が襲ってきた。腕を抑えながら藻掻く玄野は、その張本人に自然と意識ごと視線を移す。

 

「リューキュウに頼まれたから来てみたものの、成程…間に合って良かった」

 

 多少ボロボロになりながらも、黒炎を飛ばしたのはただ1人、蛇女の筆頭──雅緋。

 掌の黒炎を纏いながら、刀を下ろす。

 

「熱いだろうが弱火だ…これでも大分手加減してるんだ──大人しく我々に捕まって貰うぞ」

 

 雅緋だけでなく、通路からバタバタと足音が何重にも重ねて聞こえてくる。どうやら警察が駆けつけに来たようだ、武装した警官が何十人も来て、速攻で移動牢式で拘束する準備に取り掛かる。

 

「その声は……」

 

「目隠し…そうか、メディアを嫌うお前が目を封じられると…その上にクロノの個性か。 相性が最悪すぎるな…」

 

 玄野が捕まるのを光景に、雅緋イレイザー・ヘッドの目隠しを取り、外傷チェックを行う。今のところは視認できるとして肩辺りだろう。出血してる部分を、常に持ち歩いてる包帯で縛り、傷口を抑える。

 

「すまない…教師とはいえプロヒーローの俺が……」

 

 ……いや、流石にクロノスタシスの個性を受けた上に目隠しをされてしまえば抗う術がないというもの。しょうがないだろう。

 

「いや、大丈夫だ。イレイザー・ヘッド!地上で治崎が暴走してる今、お前の目が必要だ。私が側にいる、安全は保証する──」

 

「雅緋…ああ、助かる」

 

 八斎戒襲撃にて幹部三名との戦闘と言い、クロノスタシスと言い、雅緋のお陰で最悪な事が起きないように未然に防げている気がする。

 イレイザー…いや、相澤消太としても雅緋や蛇女の皆は死力を尽くして我々に全力で協力し、目的へと向かっている。

 以前までは信用に値せず、危険視し、多少忌み嫌ってはいた。それもそうだろう、我が生徒達に危害を加えようとした者達に印象を悪くするのは自然の流れ──だが……

 

(生徒の安否といい…こうして俺の救助に赴くといい……有言実行してくれるな)

 

 窃野、宝条、多部の相手をしてた雅緋に「だから、結果と生徒を守ることで――俺の疑惑を晴らしてほしい」との発言、其れを引き受けこうして生徒を守り抜きながら、先生をも救った雅緋には、畏れ入る。

 

「生徒を守れと言いながら、治崎に分断されて俺が取り残されるなんてな……ざまぁない、だが──お陰で助かった」

 

「リューキュウと共に行くぞ!!」

 

 イレイザーヘッドを担ぎながら、そのまま来た道を戻りリューキュウの元へ向かう。

 刻一刻と猶予を争い迫り来る中、1秒も無駄には出来ない。

 

 

 

 

 

 

 噂をする中──空高い青空の下、激戦を繰り広げた治崎との決着が幕を閉ざすように、緑谷の一撃が治崎の意識をノックアウトする。

 マスクが破け散り、大柄な巨躯を力いっぱいに振り絞り、真下へ振り下ろす。

 住宅街の被害は最小限と言えば嘘になるが、元々治崎が分解と修復し荒んでしまった為、元も子もないだろう──なるべく被害を出さないような範囲で吹き飛ばす。

 

 

「うぅおおおぁぁぁああああああぁぁーーーーーーッ!!!!」

 

 

 腹の底から轟く雄叫びを上げるデク──戦意を失った治崎は為す術もなくその巨大な体ごと街へ叩き落とされる。

 白目向き、意識が途絶え、戦意失った治崎は立ち上がることすらない。

 ……なのだが。

 

 

「お……やじ……」

 

 無意識に、組長の名前をポツリと呟く。

 その無意識たる現状、手が動き出し、僅かに体に触れた──

 

「ッッぁあああああああーーーーーー!!!!!!」

 

 無意識領域による治崎は吠え、巨大な体を分解し、全てを分解してしまう巨大な手を作り出す。それは正に巨人の手──絶望を覆い尽くす支配を表す魔の手。

 たった一つの手が、とても大きく、どこか歪さを際立てていた。

 

「治崎──」

 

 倒されても尚、何度も己の前に立ち塞がり、敵として阻もうとするその有様──雪泉はそんな治崎を見て何処か自分と似た境遇を見出してしまう。

 治崎は善悪がどうであれ、目的が何であれ、自分の野望や理想のために、全てを捧げここまでやってきた。そして、緑谷や雪泉達を追い詰め、ヒーローのみならず忍にまで1人で対抗した。

 その男の不屈の執念たるや信念は──敵でありながら賞賛に値する。

 

 自分も同じだったろう…いや、同じだろう。

 善悪がどうであれ、黒影おじい様の為ならば何だってやろうとした──それが例え行き過ぎた正義であっても。

 

 学炎祭で黒影おじい様の為に忍の歴史に名を遺し正義を証明しよとするように、悪を殲滅し光だけの世界…黒影が望んだ世界を見せてあげようとしたように、自分も純粋だったあの頃は狂っていた。

 その純粋な心にして狂ったような信念は、そこに倒れ伏せても尚立ち塞がる治崎と影が重なる。

 

 

 ──思えば、アレは冬の1月の真冬。

 両親と他界した葬式の頃、静かに雪が降り帰り道のこと。

 

『けん、けん、ぱ!けん、けん、ぱ!』

 

 心に多く募る虚しさと寂しさ、両親が失ったという悲しみ。其れ等を少しでも和らげようとしてた中、おじい様と出逢った。

 

『お前も…1人か?』

 

 ふと、聞き覚えのない老人の声が背中に投げられた。振り向くとそこには、黒い傘をさしながら、何処か悲しそうに此方を見つめるおじい様の姿。だが当時の私はおじい様とは初対面──強いて言うなら頬に傷がある事しか知らなかった。

 

『両親は…亡くなったのか?』

 

 当時、黒影お爺様は自分の娘やその夫が悪忍によって惨殺されたと知っているのに、質問をしてるのに何処か辛そうにしていた。

 

『これから…どうするんだ?』

 

『……分かりません、ただ両親と同じように忍になりたいと思っています』

 

 幼い頃の少女の声は、何処か寂しそうで温もりのない冷えきった声色だった。無理もない──あの頃は大好きだった両親が、善忍として大きく誇りを持ってた忍が、死んでしまうというのは、齢4歳児にしては酷すぎる。

 

『……そうか、なら──死んだ両親の理由を知りたいか?』

 

 そこからが、黒影お爺様との出逢いだった。

 運命が引き起こした奇跡とも言えようか、もし黒影お爺様と出逢わなければ、忍として拾われなければ…きっと選抜メンバーの四人や一緒に切磋琢磨できる仲間達とは会えなかっただろう。

 それこそ、一般人であればそれはそれでその時に選んだ道のりもあるし、友達こそ作れるだろうが、今のような幸せや、生きてる心地は感じず、只々亡くなった両親に対する喪失感や虚無感が延々と続いていたことだろう。

 

 

 だが今はどうだ?黒影おじい様と出逢い、忍としての過酷な修行を受けたのも、まだ叢達が来る前に雪不帰という少女と一緒に暮らしたのも。

 

 

 黒影おじい様──貴方が私を拾ってくれなければ…今頃灰色の、それこそ孤独に苦しみ寂しさに埋もれ、貴方の温もりも何も無くどうなっていたか分かりません。

 貴方が居てくれたから、私は1人じゃなくなった。

 叢雲さん、夜桜さん、四季さん、美野里さん、雪不帰さん、飛鳥さん達半蔵学院の皆様、轟さんや緑谷さんを始めた雄英高校の皆様、神代さん、貴方達という素敵な方々と出会えて、私は1人じゃなくなった。

 

 もう──孤独にならなくても、悲しまなくても良い。

 1人で涙を流さなくとも、友というかけがえのない存在が、心を支えて寄り添ってくれる。

 

 

 だから──

 

 

「黒影お爺様あああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッッ!!!!!

 

 

 そのご恩を、報う時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治崎廻は一言で言えば努力家だった。

 こんな残虐非道な事をして、努力家というのは無縁に等しいものだが、元はといえば自分を拾ってくれた組長の為に全てを捧げてきた。その為の努力なら惜しまずに使うし、遊ぶ暇などがあれば少しでも組長に恩を返すほどに、治崎は純粋だったのだ。

 

 小さい頃、両親がいない治崎はどういった経緯かは覚えていないが、組長に拾われたという事は、悲惨な人生を歩んでいたのだろう。いや…本人からして悲惨かどうかまでは定かではないが、少なくとも孤独であった。

 

『より辺がねぇならウチに来い――名前は?喋れるか?』

 

 過去のことなど覚えていないのに、組長との出逢いだけがなぜかこびり付くように記憶から離れない。

 人間の記憶というものは、ある程度不必要な情報などは処理して忘れるように出来ている。

 脳の容量など人間が百年生きて百年分の記憶を有しても問題ないとさえ言われる程に優れてる。

 

 今までのことは覚えてないのに、組長との出会いだけが記憶に残ってるということは、治崎にとって命の恩人であり、孤独だった自分を救ってくれた掛け替えのない存在というのは、小さい頃の治崎にとっても言わずも知れている。

 

 

 治崎が潔癖症になっていたのも、性格による問題でもあったが、それを作り上げたのは幼稚園の頃に読んだ個性の絵本や『個性で為人を判断するのはやめよう』などが原因だろう。

 幼い頃から生まれ持ったオーバーホールという分解と修復の個性は、強力すぎる所以に人から遠ざかれ嫌煙扱いされていた。

 それもそうだ、修復だけ見れば優しい個性に見えるが、分解という個性はそれは末恐ろしく、一歩間違えれば人殺し。

 

 個性なんて正体不明、超常と呼ばれるコレは治崎にとっては呪いであり、病気そのものだ。

 一部、中国から主に頻繁に個性という超常を生まれ持った人間は、科学では証明されず、医療やその時の最新技術をもってしても治療出来なかったとさえ言われてる、不治の病。

 今となっては当たり前のように受け入れられているが、治崎にとっては病気そのものだ。

 

 況してや個性を持っていながら、何もせず人から忌み嫌われ、誰も見向きもせず判断する人が周りにいれば、嫌でもそうなってしまう。

 竜燐がそうであったように、治崎も望んでもなく生まれ持ってしまった個性に苦しめられていた。

 

 でもそんな組長は、知らなかったとしても手を差し伸べてくれた。

 今まで誰にも手を差し伸べられたことなんて、産まれて一度もないのに…それは家族の愛情や、親の温もりに近いもので、輝いて見えた。

 

 

 寝床、食事、養育費まで全部払い、面倒を見てくれる組長には感謝してもしきれないし、当時の治崎も何も最初っから歪んでた訳ではなく、今いる八斎戒による構成員達だって、治崎に優しくしてくれたし、治崎自身もこんな自分を受け入れてくれる大人達にも感謝していた。

 

 

 中学に至り、一年生になってから日が浅い頃に、治崎は問題行動を起こした。

 クラス内による暴力の問題事件、それが治崎が起こしたと知った時は、流石の組長も学校に足を運ばざるを得ない状況でもあった。小学生の頃はある程度、嫌がらせを受けても無表情で、やり返しもしなかった治崎が問題を起こすというのは、組長にとっては考えられない線だが…

 

 面談も終えて、その日の下校の雨…組長に「何で手ェ出した?」と書かれた。

 治崎曰く「お前の家族は敵野郎」と言われたそうだ。

 組長からすればよく言われる罵声…大人に上がり、社会に溶け込めばそう言われるのは自然なのだろうが、治崎にとっては我慢できなかったのだろう。それも雪泉と同じく優しくて純粋だったのか、厚い温情がある所以か、自分を受け入れてくれた組の人達や親父を悪く言われて許せなかったそうだ。

 

 自分のことをどう悪く言われようが構わない、小学校の頃もそうだったし、慣れていた。

 だけど……家族のことまで馬鹿にするのは、蔑むのは、治崎の堪忍袋の雄が切れるというもの。寧ろ此処で手が上がらない人間など、それこそ恩知らずと言われてしまうほどに。

 

『成る程…それでお前、居ても立っても居られずケンカしたのか…極道がカタギに手ェ出しちゃあいけねェよ…』

 

 その声に怒りは無かったが、厳しかった。

 それもそうだ、その頃の八斎會は弱小という由来もあるが、解体が進んでから肩身が狭いこともあるし、問題行動を起こすのは危険なのも分かるが…元々組長は無意味や私怨で一般人には手を出さないのと、薬や人身売買などは組に違反する事だったのだ。

 だから、組の門下…屋根の下に住んでる以上は組の掟も守らなくてはいけないし、暴力で解決するのは組長が嫌う事なのだ。

 

『けどなぁ…治崎』

 

 だけど、それでも組長にとっては嬉しい事だったのだろう。

 

『面子、守ろうとしてくれて…ありがとうよ』

 

 ゴツくとも分厚い手の皮が、治崎の髪に触れ、くしゃりと頭を撫でる。組長にとって、仲間を大事に想ってくれる治崎の心が、想いが、嬉しかったのだろう。

 

 

「組長いいいぃィィィィイーーーーーッッッ!!!!!」

 

 だから、あの時言ってくれた言葉が、誰よりも、何よりも嬉しかった。

 

 

 無意識により起こりし行動は、治崎を活性化するように、最後の力をありったけに振り絞り、巨大な手を作り上げ、雪泉と緑谷を押し潰すように、勢い強く腕を振る。

 

 零帝の皇剣が先か、治崎の最後の一手が先か、両者のどちらが決まるか――だが、何方が強いかなどの決着は付かなかった。

 

 我慢の限界が迎えたのか、今まで体を強張らせて抱きついていたエリの個性が暴走を始め、視可できるエネルギーのような無固定な波動が、雪泉や緑谷のみならず、治崎を飲み込んでいく。

 

 エリの巻き戻しが強力すぎる為か、飲み込まれた治崎は融合した活瓶力也、護武皮柔増を分離させるのみならず、三人の蓄積したダメージでさえも巻き戻して回復させてしまった。

 それでも途絶えた意識は回復できない為か、気絶している。

 

「治崎!確保しました!!」

 

 そこで全速力で駆け走り、体術を駆使して腕を拘束したのは麗日お茶子。お茶子は治崎の手に触れないよう細心の注意を払いつつ、地面にひれ伏させている。

 

「同じく、活瓶力也と護武皮柔増を確保!!早く三人を移動牢式で移動させろ!!」

 

 愛用の真紅に染まった鎖鎌で二人を捕縛した総司は、大穴に向かって大きく声を叫び出す。

 大きな穴から這いずるように出てきたのは、リューキュウ事務所に雅緋達。そして警官達も付いている。

 

「状況は!?」

 

「ナイトアイは後方にいます、周辺住民には避難を呼びかけました!治崎はデクくんと雪泉ちゃんが!!でも二人とも様子がおかしくて…ここの周辺の温度が低下して…」

 

 冷気が濃くなっているのか、お茶子の吐く息も白く、纏わりつく冷気に触れてるだけで痛みが走る。

 

「うぐっ!?ぁああぁぁあああーーーっっ!?」

「〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!」

 

 緑谷と雪泉が、言葉にならない激痛の叫びが鼓膜を震わせる。壊理による巻き戻し、その暴走のせいか、止まる気配は微塵も無い。

 

 

 嫌!!止まって!!止まってよ…!!この人たちが死んじゃう!!!

 

 

 エリは何度も心で叫びながら訴えかけるも、個性は留まらず、更なる進行が加速して二人を消滅させるまで巻き戻そうとする。エリ自身の意思など関係なく、個性は暴走し続ける。

 それもそうだ、使い方も分かってないエリが巻き戻しを止めたりするなどかなり至難の業ともいえよう。

 

 

『壊理――お前は呪われた存在なんだよ』

 

 

 止まってよ――!!!!

 

 

 壊理は涙を流しながら、何度も何度も訴えかける。それこそ無意味だと言うのに、その願いが虚無のように何も起こらない。

 

「2人が超パワーアップして治崎を倒してから…急に倒れて…苦しみだして!!」

 

「クッ…遅かったか?」

 

「いや…まだ間に合う…」

 

 お茶子の言葉に絶句する雅緋。そんな彼女にそっと手を添えるは、捕まってた所を助け出したイレイザー・ヘッドだった。

 気付いた雅緋は、すぐ様に見せるようにイレイザー・ヘッドの頭を上げて視界を映させる。

 

(すまん緑谷…雪泉!俺が見ておく…!!)

 

 抹消の個性で、エリの個性を強制的に消すことで、巻き戻しによる個性の暴走は止まる。何も相澤の個性は単に戦闘戦によるだけでなく、こういった暴走する個性を止める為の役割も担っているのだ。

 

「!」

 

 抹消したことにより、エリの個性は停止する。

 少女の願いが届いたのか、巻き戻しによる個性は呆気なく止まり、少女は糸が切れたかのように気絶する。

 個性は体力に伴い使うことで体力が消耗する。しかもこれだけ小さな女の子だ、これだけ個性を発動して気を失うだけでも不幸中の幸いだろう。

 

「と、止まった…?」

 

 初めて体験する巻き戻しによる強い衝動を受けながら、雪泉は息を切らして少女を見る。

 

「こ、これで…無事に任務…」

 

 緑谷の途切れる言葉を紡ぐ声に、ハッと我に返る。

 そうだ――八斎戒の構成員は逮捕し、目的の核であるエリは救出する事に成功…。

 これで、漸く終わったのか。

 

 長きに渡る死闘は、一日の僅かな時間を掛けて終わったのだ。

 

 

「被害者がいないか確認を!救急車ありったけ呼んで!!それと敵連合のメンバーが近くにいるかもしれない…捜索を!!」

 

 次々と飛び交う声は、警察やヒーローなどが指示をしたり活動に行っている。

 負傷者は担架に運ばれ救急車に乗せられたり、移動牢式によって連れてかれる八斎戒のメンバーなど、こうして見ると任務が終わったのだと実感する。

 勿論、ミリオも救急車に載せられたし、麗王や切島も無事だ。

 

「おかしいな…確かに構成員は全員だが……あと一人、八斎戒の組長が居ないぞ?」

 

「一応、医療器具のような道具があるが…移動させのか?とにかく隅まで調査しよう」

 

 ただ1名、組長が居ないというのは不思議だが、どの道地下ルートの八斎戒邸は調べなくてはいけないので、やるべき事は変わらない。

 

 

 

 

「エリちゃん、気絶してから発熱が…」

 

「私の氷で何とか熱を下げられないでしょうか…?」

 

「とりあえず病院へ運ぼう」

 

 個性の暴走による副作用や、興奮作用による体温上昇かだろう。どの道救急車で運んで適切な処置や治療を受けるしかない。

 

「緑谷…」

 

 ふと名前を呼ばれた事に反射的に反応する緑谷は、声主の方向へ意識を向ける。

 

「ナイトアイ!!」

 

 重傷を負いながらも、体が貫かれたナイトアイは、酸素マスク越しで緑谷に話し出す。

 

 

「……私の見た未来とは違う未来…どういう理屈かは分からないが、お前は私の願いを現実に…起こして見せた………お前は未来を、捻じ曲げた―――ありがとう」

 

 

 これは――一人の少女を助ける物語。

 

「ナイトアイ!僕、言いそびれたことがあって…オールマイトが生きるって!合わせる顔がないって…だから!!…だから、必ず会いましょう!会って、話を!!だから、頑張って!!!」

 

 運ばれていくナイトアイに必死になって言葉を放つ緑谷に、静かに目を瞑るナイトアイは、何処か落ち着くように、最後を悟るように、瞑る。

 

 必死で興奮気味な緑谷の肩に、雪泉がそっと手を添える。

 

「怪我人が多い今、手放しで喜ぶ状態ではないですが…今はそっとしましょう…ナイトアイが重傷な今、私たちは…」

 

「うん…そうだね……ごめん」

 

 

 ──AM9:15分にて終了──

 

 

 

 

 

 

 

 高速道路にて、分厚い黒の装甲を纏いながら走り出す護送車。その中には八斎會組員が15名乗せられている。

 いずれも重傷で、警察たちは胝棚の敵病院へと輸送されている。然るべき治療を受けてから、治崎は今回の件といい騒動を起こした為、タルタロスに連行されるようだ。彼処にはオール・フォー・ワンを始め、マスキュラーに、ムーンフィッシュ、ヒーロー殺しステインに、伊佐奈など、極悪人達が収容されている死すら生ぬるい監獄だ。

 

「所持品は押収済み、件の弾丸のほかに報告には無いカプセルを確認し…」

 

「ん?なんだ…トラックの上に人影が…」

 

 警察が取り調べを受けてる中、警察の運転手は何かに気づいたようだ。トラックの上に人影など、余程の肝が据わってるのか、どちらにしろ只者では無いだろう。

 

 だが、そこで見たのは…いや、見てしまったのは……

 

 

「なぁ…将棋ってさ――要するに玉を奪れば良いんだよな?」

 

 

 敵連合の首領、死柄木弔──他にも荼毘や闇、Mr.コンプレスも付いている。

 

「死柄木さん、ゲームの次は将棋にハマりまして?私もこれが終わったら是が非でも相手になって欲しいですわ♪」

 

「そんな単純なのじゃねえけどな」

 

「はいハーイ!トガちゃんの言ってた通り来たぜ、うん!お疲れ様、じゃあ後は漆月ちゃん所に行って合流して、その後俺らも終わり次第京都に向かうから!」

 

 

 まだ、終わってくれそうにないようだ。




この小説でここまで行けたの二年なのに、実際に八斎會で起きてたことって一時間によるものらしいよ?
時間感覚って怖いね。

そして八斎戒も終わり!と思いきや?お決まりのパターンなんですわぁ。
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