光と影に咲き誇る英雄譚   作:トラソティス

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最初「まだ終わんねー」と思ったけど敵連合サイドって割とスラスラ書けれるから案外落胆的にならなくて良いのかも?ということで始めます!(あんまり終わらない…嫌だ…と言い続けるのは作品自体にも失礼だしやめよう)




197話「次は俺たちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「八斎會から最寄りの敵病院へはこの高速に乗るのが一番早い。連絡ありがとね、トガちゃん有能でおじさん頭上がんねぇや」

 

 ゴオォと高速道路を走る自動車の音が風とともに吹き、トラックに揺られながら、Mr.コンプレスは無表情な仮面をつけながら最新型の端末で連絡を取る。

 横切る一般自動車など気にも止めず、まだ横目に見る運転手からは息が詰まりそうな程に心臓の鼓動を打たせながら、走ってることだろう。そりゃ天下の全国指名手配犯で名を騒がせてる敵連合、嫌という程に噂を立て犯罪行為を繰り返してるそれらは、市民も他人事のようには言えなくなってるのだ。

 

『連絡は仁くんの指示です。私は出久くんに見惚れていたので、寧ろ其方の手を煩わせてすみません』

 

「片方ねェけどな」

 

 連絡腰からはトガのクスクス笑う声に、もう一つは「戦え!」だの「逃げるんだよ!」など支離滅裂な男性の声が聞こえる。これはトゥワイスによるものだと理解を示すのに時間はかからない。

 

『暫く警察の動きを見てましたので…彼処にはヒーローの他にも手練れな忍達もいるって龍姫ちゃんや鎌倉ちゃんが言ってたので、下手に動くのは危険だと判断して見守ってましたけど…というか一部始終見てたので可能性は極めて高い方です』

 

 同じく鎌倉や龍姫は回収した荷物を持って次の準備に取り掛かってるようだ。次に京都へ行く移動手段になるような道具もなければ、自動車など免許はおろか講習を受けたこともない子供達なので無理だろう。

 トゥワイスは元々学生の頃、職場の関係もあって原付は当然、トラックなどの大型免許や普通自動車の免許など持っているので、もし自動車さえ盗めれば楽なのだが、生憎スーツに包まれてない現状、情緒不安定と支離滅裂で精神を酷く追い詰められてる軽い鬱病にもなっているので、還って危険を犯してしまうため、無理をするより落ち着くまで安静にしながら避難していた方が無難だろう。

 

『核の子は手に入れられませんでしたが…完成品が其方にあると考えられているのです。警察が極道達を捕まえてるなら、武器や所持品など押収して取り調べを行うでしょうし…まぁ、手放さなければの話ですが』

 

 当日になるまで核の子や異能破壊弾の完成品や血清品は見せてもらえなかった。逆に見せない…と言うことは、自分たちに見せてしまうのはかなり危険なリスク、または治崎にとっても不都合で起きて欲しくない事が実現してしまうケースが高かったからだ。

 治崎にとっては四人を雇い、あのまま手放して警察諸共捕まって連合の機動力と戦力を削ぎ落とすことで好都合な使い道を選んだつもりだろうが、それはどうやら大きな過ちだそうで、四人は見事に治崎の思惑を破ったのだ。

 

 

 

『それに…なかったとしても、アイサツはしておきたいでしょう?』

 

 

 

 最後のお別れになるのだから――

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい!!まさかあれは──…敵連合 死柄木弔!?!」

 

 護送車の敵受取係の運転手は、気が動転しそうになるも大きな声で叫ぶ。

 トラックの上に悠々と立つのは今では敵連合の首領・死柄木弔。まるで警察の動きが分かっていたかのように、先読みするように、警察の前に立ち塞がっていた。

 

「おいトカゲ!フラついてんぞ俺酔いやすいんだ、ちゃんと運転しろボケ!!」

 

 何時になく珍しく、怒り喚くのは荼毘。

 意外な事だが、乗り物には弱い彼は、今じゃご機嫌斜めな様子で、口も悪い。

 

「トカゲはダメだスピナーだ!!グラセフとマリカーで鍛え上げた俺のドライビングを信じやがれってんだ!!」

 

「何キレてんだうぜェ!!」

 

「お前がトカゲなんて言うからだよ!!」

 

 トラックの運転手は伊口秀一たることスピナー。どうやらトカゲと呼ばれるのは余程堪えるのか、嫌がる様子で頑なに否定する。

 

「…にしても本当にこれで良いのか?警察を襲うことが本当に〝真のヒーロー社会〟ステインの意思に沿うのか…俺は逡巡しているのだ!!」

 

「…必要な犠牲さスピナー、警察だって時間が動かなきゃ何もできない集団……あんまヒーローと変わらねえよ、それと運転頼むぜ」

 

 警察は世論ではそれなりに批判が多いが、其れはヒーロー殺しの意思には沿わないだろう…何事を成す事に無関係なヒーローと忍以外に手を出さない彼が聞けば、青筋を立てていた事間違いなしだろう。それに乗せられるスピナーも、やはりステインファンと言ったところか、死柄木弔の言葉に乗せられるしかない。

 

「気持ち悪ぃ…さて、早く片付けるか…闇も手伝え」

 

「承知致しましたわ」

 

 掌から蒼い炎が燃え上がり、揺れる。

 真ん中にいた闇は、コクリと頷きながら書物を広げたまま一歩、前に出る。相変わらず笑みは絶やさず、余裕そうだ。

 

「来るぞ!!」

 

 警察は瞬時に危険察知したのか、呼びかけるように声を張る。荼毘が攻撃を仕掛けてくることが目に見えるからか、然し運転手は車を避けようともせず

 そのまま勢いよく迫り来る蒼炎に飲み込まれてしまう。

 

「…ん?」

 

 炎を放ったのは兎も角、何かしら実感がない。

 炎で一旦視界が遮るとはいえ、感覚で分かるのは荼毘も場数を歩んできたからだろう。

 進行する車とともに風が切り、やがて炎が消えゆくと其処には、砂に覆われたパトカーが炎を遮断していた。

 

「敵連合!社会に仇なす悪鬼の徒!!」

 

 パトカーの助手席から飛び出すように現れたのはサンドヒーロー スナッチ。本名は日河原砂塵――個性は砂を操る個性であり、体が砂塵となっている。そこそこ有名なプロヒーローだ。彼のお陰で敵制圧も犠牲者を出さずに市民を守り抜いた記事などがよくメディアに取り上げられてる、知らない者が低いと言われるほどに、知名度が高い。

 

「ヒーロー!そりゃいるよなぁ、怠い!!」

 

 上からケラケラと笑う死柄木は随分と余裕そうで、逆に感心している。

 別にバカにしてるわけじゃないし、現状厳しく強化されたヒーローの姿勢、鑑みて護送車にボディーガードとしてヒーローを雇ってるのは目に見える。

 

「んだアイツ…」

 

「スナッチですか…でも護送車には彼一人、忍の気配はありませんわね。雇えなかったのか、そう言う規律か、人員が足りなかったのかしら…彼、一人しか居ませんわね」

 

「よし…スピナー!減速!!」

 

 相手の手数は少なく、警備が薄い。

 オマケに相手するのがヒーローと警察のみ、ならばやる事は簡単だ。死柄木の指示通りに、トラックが減速するとパトカーの距離が縮まり、それが狙いなのか、死柄木はパトカー目掛けて飛び込んでいく。

 

「射程距離!態々近づいてくるとは、好都合!!」

 

 スナッチは射程距離範囲内に入ったことを知ると、上半身を砂塵にし、死柄木の差し向けた凶器の手を封じ、拘束する。

 

「五指で触れて崩壊させる個性!ならば砂塵は掴めまい!!」

 

「……天敵ですね」

 

 個性による相性が致命的に悪い。

 死柄木は触れたものは崩壊するが、それは実物をきちんと五指で触れてる事が条件で、空気や砂塵、水といったものは崩壊できない。それが正に現状を物語っている。

 然し死柄木弔も何も考えいない訳ではないし、況してや自分と相性が悪いなどと言うのは、個性を見て直ぐに見解した。

 …態と、捕まりに行ったのだ。

 掌のマスク越しでニヤリと不気味な笑みを浮かべながら、嘲笑う死柄木弔は、上手く計算通りに事が進んでいる。

 

「あらあらぁ…捕まってしまいましたわねぇ…」

「有名人じゃねえか、個性割れてると不利だよな」

「死柄木は視線誘導の囮、俺たちの出番だ。ショーを始めようぜブラザー」

 

 死柄木は視線を集める為の囮。

 主犯格が自ら前に出ることで、視線は自然と彼に誘導し、注目を浴び集め、無視など出来ずに捕まえさせる。手がいっぱいなスナッチは無防備、後はガラ空きだ。

 ならば後方に残った仲間たちが、やってくれる。自然の流れのように、後ろ三人の実力を充分に発揮させ、状況を打破する。

 

「パトカーフワリ空中浮遊!」

 

 マジシャンのように丁寧に礼儀正しい仕草をしては、圧縮した何かのビー玉をパトカー目掛けて投げ放つ。

 

 瞬間――文字通り、パトカーは何かの衝撃を受けたかのように、突然浮遊してしまう。

 

「この通り、タネも仕掛けもございやせん」

 

 正体は圧縮を解除した事で、ビー玉から巨大な岩が現れ、跡形もなく吹き飛んでしまう。

 スナッチもその衝撃に思わず体が大きく揺さぶり、その振動につい捕まえてた死柄木を離してしまう。

 

「弔さん、援護しますわ!」

 

 次に闇は札を地面に二枚貼ると、そこからは黒色に染まった漆黒の茨がツルのように伸び、空中で足場が不安定な彼の道を作り出す。安全に着地した死柄木はそのまま護送車へと突っ込み、窓ガラスに触れて割れさせる。

 

「させんわ!この…!!」

 

「貴方達は勝手に死んでて下さいまし♪」

 

 次の瞬間、片方の茨のツルは、跡形もなく空中に落下してきたパトカーをスナッチや運転手ごと跡形もなく、叩き潰し、右往左往に蹂躙し破壊する。

 砕け散る車の部品、運転手の悲鳴、真っ赤な鮮血が、空中の間に全てが起きる。

 

 見事に砕け散ると共に、死柄木が相手してた護送車の方も、運転手を崩壊させてハンドルを奪い曲げさせ、転倒させる。

 そして最後には茨ツルは死柄木の体を掴み、彼に被害が出ないように安全に隔離させる。後は転倒した護送車の勢いが止んで、乗り込むだけ。

 

「グランドセフトオート!!」

 

 某18禁指定された過激なゲームのセリフなのか、ハンドルを強く回転しながら、ゲームのセリフを吐くスピナー、大分様になってるようだ。

 

 

 

「くっ…うぅ!!」

 

 先程の闇による忍術の攻撃を食らった影響か、スナッチは横転し、運転手の警官を抱きかかえている。

 

「貴様ら…!なんたる鬼畜の所業!!」

 

 スナッチは憤慨を纏わせた声で震えながら、下半身は肉が抉れて多量出血しており、警官は黒い茨ツルを直撃で喰らったせいか、言葉には言い表せない酷い傷を負い、意識ともに呼吸も途絶えている。

 近くに自分が付いていながら、警官どころか敵に良いように利用され、蹂躙されるのは、長年ヒーロー稼業を務めた彼にとって、屈辱でありこれ以上にない実態だ。

 

「砂化で免れたかぁ…残念だったな!目の前の警官一人も救えねえでみっともねぇ、ヒーローは人命優先しちまうって聞いてたんだけどな」

 

 ぼぼぅ!と発火する炎の音が聞こえ、我に帰るスナッチ。背後から忍寄るは、悲惨な現状に打ちのめされてるスナッチを、さぞ嘲笑い蹴落とすかのように冷笑を浮かべる荼毘。

 

「……貴様、荼毘と言ったか。ここ最近、各地でヒーロー焼死体が相次いで見つかると記事にもなってるが、蒼志か貴様…何方だ?」

 

「お、もう俺の噂が立ってるのか、嬉しいね」

 

「遺族の気持ちを考えたことが無いのか!!!」

 

 

 虎の如く、砂によって造形した猛虎が、荼毘を襲う。下半身が無くなり、守るべき警官が死に絶えた尚、最後まで悪に屈することなく立ち向かう姿勢はヒーローの鑑とも言えよう。

 

 ボゥ!と瞬発力が高い炎を防ぎ、荼毘ごと砂で包み込もうとするスナッチは、憤慨と私怨も含めた攻撃を乗せる。

 

「効かんわ!貴様ら邪悪に屈するなどあってたまる――「ハイ、さよーなら」ッ」

 

 瞬間、今度はMr.コンプレスが腕を出しては砂と炎を含めたスナッチを圧縮する。

 言葉が途絶え、たった一つのビー玉と成り果て、圧縮されたその中は想像を絶するような地獄絵図だろう。

 砂は火を鎮火させる効果はあるが、個性だって身体能力の一つ…何時迄も個性が続くはずがなく、況してや下半身が無くなり体力も削られている。オマケに炎は防げても熱を感じないわけではないのだから、苦痛も熱さも感じる。

 つまり、スナッチは今…脱獄不可能な灼熱地獄に閉じ込められ、死ぬまで燃え続けているということだ。

 火刑――即ち火を扱うことによる死を意味表す言葉に相応しい。火を浴びると例え気絶してしまっても火による熱さや痛みによって強制的に意識を復活させ、また火に焼かれての繰り返し…死ぬまで永遠に続くそれは、地獄の業火のように苦しみもがき、地獄に相応しく残酷な死を迎えることだろう。

 荼毘に伏すとは、随分と皮肉が効いている。

 

「あっちち!砂って燃えねえよな…」

 

「砂化の状態だったにもかかわらず闇の攻撃で下半身が失われてたの見る限り、個性発動する部位が限られてんだろ。どの道出血多量や炎に抱かれて死ぬだろうな」

 

「なんだったら私の忍術と荼毘さんの個性を合わせて、火あぶり柱〜、なんてのも面白そうですわね♪」

 

「…お前、昨日何の本読んでた?」

 

「全国で起きた処刑方法です、個人的には鉄の処女とこれ、ファラリスの雄牛が好きですわねぇ♪」

 

「…トガと同じくお前もイカれてんなぁ」

 

「何言ってるんですか、社会に仇す私たちがマトモだと格好付きませんよ?そこは狂気っていうんです♪」

 

「闇ちゃんが言うと妙に説得力あるねー、確かにマトモな敵って居ないもんなぁ」

 

「狂気ねぇ…俺も確かに狂ってるって自覚はあるけどなぁ……やっぱ性格とかが色濃く出るんだろうな」

 

 そんな圧縮されたスナッチの断末魔など聞こえないのか、三人は談笑しながら背を向け後にした。

 

 

 

 

 

 

 ガガ…ガガ…と、金属音か何かが鈍く動く音が物静かな高速道路で不気味に驚いている。

 何かを蹴飛ばし、押されるようなこの音の正体は、直ぐに分かることだろう。

 

「なぁにが『次の支配者になるのは俺だ』だよ、負け犬」

 

 厳重に拘束処置された治崎を、ゴミでも見るかのように拘束台ごと蹴飛ばす死柄木弔の姿。音の正体はこれで、死柄木は目的とお別れのために、治崎とこうして再開を交わした。もっとも、穏やかな形ではないにしろ、死柄木は治崎を見下ろし、気絶から回復した治崎は半ば目が死んでるように何処か正気を感じないのは、八斎會として終わりを迎え、敗北してしまった虚無感によるものだろう。

 

「……俺を殺しに来たのか、死柄木」

 

「いいや?俺はお前が最もイヤがるような、嫌がらせをしに来た」

 

 思うがままに事が進み上機嫌な死柄木はとても饒舌だ。子供大人のような感じではないのだが、こう…言いたい事が山ほどあるのだろう。

 

「俺はお前が気に入らない、嫌いだからだ。偉そうだし、後こう…上から目線だしな」

 

 パツン!!と何かが破裂したような、それに似た擬音が治崎の腕から鳴る。一瞬の出来事、だが瞬時に痛みが激しすぎて顔を歪んでしまう。音の鳴る正体に振り向くと

 

「――俺も」

 

 嘗て、治崎によって片腕を分解されたMr.コンプレスが義手を見せながら、素顔を表す。腕が突如として消えている…恐らく圧縮による個性だろう…このような使い方もあると見ると、下手すれば頭を圧縮すれば一撃で相手の命を獲れる、致命傷を与えれる個性だ。

 

「私も…♪」

 

 次にコツコツと足音を立てながらやってきたのは、満面な笑みを浮かべながら死柄木の隣に並び立つ闇。何やら最新型の端末の液晶画面を、此方に見せるように向けている。

 

「あー…っと、なぁ…コレ箱二つあるけどどっちが完成品?まぁいいや、一応せっかくだし有り難く両方もらっとこ」

 

 死柄木は手始めに保管されていたカプセルと弾丸を、五指で触れないようにして調べている。

 一つは完成品、もう一つの箱が血清。異能破壊弾を手に持ってるのは死柄木達なので、血清品の方はいらないのかもしれないが、万が一ということもあるし、何方かが分からない以上はどの道持って帰らなくちゃいけないだろう。

 こういう時、ドクターがいるとどれだけ助かるか、痛感するほどに実感できる。

 

「返せ………」

 

「………」

 

 治崎の鋭く噛みつくような、威圧を含んだ声を聞いた死柄木は、大変つまらなさそうな顔をして、完成品と血清品を闇に手渡すように押し付ける。糸を読み取った闇は、巨乳の谷間に箱を二つ忍び込ませ、次にポチポチと指で液晶画面に触れて何かを操作している。

 

「あのなぁオーバーホール…個性を消したがってる人間がさぁ、個性に頼ってちゃいけねェよ…」

 

 悠々と立ち歩み、少し前屈みになって指で腕に触れた途端、ビキッと亀裂が生じる音が鳴る。

 ビキビキと枯れ葉を握りつぶすように亀裂が走り、腕が粉々になっていく。

 

「!!!」

 

 死柄木の崩壊は以前よりも速さを増している。其れは死柄木個人が心身共に個性も成長してることを証明付けている。数秒もすれば全身に回って粉々になってしまう。

 

「崩壊が全体に伝わる前に、切り離さなきゃな?」

 

 スッ…と懐からは映画にも出てきそうな大型のサバイバルナイフを取り出し、崩壊していく腕目掛けて、刃を振り下ろす。

 ザグッと肉を斬る不快な音がこびり付き、出血は止まらず溢れ出てくるばかり。

 

「よしっ――これでお前は晴れて無力非力の無個性マンになったわけだ」

 

 死柄木とコンプレスによって、治崎は両腕を失った。

 治崎の個性、オーバーホールは強力過ぎるあまり、使い勝手もよく触れただけで個性を発動できると言った強力っぷりを見せていた。

 だが、それはあくまで触れた前提での話――今のように両腕を切断し失うことによって、個性の制限、そして発動をなくす事が出来ると言った致命的な弱点も存在する。

 死柄木の言葉に大変、皮肉が効いている。

 

 

 そこで指鳴らしが合図だったのか、闇は端末を操作しながらこちらへ近付くと、画面に表示された映像を、治崎が見える範囲の距離にまで近づける。

 

「こ〜れ、何か分かりますでしょうか?」

 

「ッ!?!!」

 

 そこに映っていたのは、端末の映像に写されていたのは、俄かには信じがたいが…寝たきりの組長が写っていた。

 

「お、やじ…??」

 

 急激に、心臓が嫌に脈を打ち、高鳴る。

 寝たきりの組長は相も変わらず、目を瞑ったまま表情を微動だにしない、植物状態になっている。

 勿論、組長がなぜ映像に流れ出てるのかは不明として、そこから紙袋を被った憑黄泉が左右に一匹ずつ現れる。

 

 その憑黄泉二体が持ってるのは、サーベルナイフとアサルトナイフ、凶器を見て治崎は全身の血の気が鮮明に引く感覚を味わう。

 闇や死柄木が今、自分に何をさせようとしてるのか、皆まで言わなくとも直感で理解した。

 

「おい…?何の真似だ…!?!組長は関係ねぇだろ!!?!」

 

「これは事前に撮ってる映像ではなく、ビデオ越しですので…最後のお別れとして何か掛ける言葉はありますか?」

 

「ハンカチでも持つか?あ、悪い――両手無かったわな、失敬失敬、おじさん片腕なくしちゃってるから、多少同情しちゃうぜ。自分でやっておいてなんだけどさ、此処からが最高のショーになるんだし…な?」

 

「組長に何しやがる!!!!今すぐ離せ!!!離しやがれゴミども!!!!」

 

「お前もゴミだろ――騒いでたってやることは変わらねえぞ?」

 

 血走った目で、これまでに聞いたことのない怒号と焦りっぷりに、ニタニタと悪質な笑顔を浮かべる死柄木は、端末に向けて指をクイッと回す。

 

「言っただろう?俺はお前に嫌がらせをしに来たって――尤も、お前らが潔く俺らと対等に仲間に入ってくれたら、後悔なんてしなくても済んだのになぁ」

 

 映像には組長と憑黄泉の二体、この二体は以前トガ達元出向組が黒柴と打ち合わせして合流した時の、彼女のボディガードを勤めてた憑黄泉である。

 そんな三人の前に、映像の端から新たに現れたのは、黒柴粒子。D-スクワッド組織のリーダー格にして、漆月の右腕の一人。

 

『此方、黒柴粒子――敵ネーム『ダークマター』現在、八斎會の組長の処刑を実行する。殺れ、お前ら』

 

 人間の言葉を理解している憑黄泉。

 元々そういう風に訓練を強いられたのか、単に懐いたのか、原因は不明だが妖魔である憑黄泉は彼女の命令に頷き、凶器を首に当てる。

 

「よく見とけよオーバーホール、気に入らないものを壊される光景ってのをさ」

 

「やめッ――!!!」

 

 次の瞬間。

 液晶画面に表示されてる映像は、迸る血液で画面いっぱいになった。

 首を切断され、アサルトライフで体全身を撃ち抜いていく銃弾の嵐、その発砲音。

 脳内に焼きつかれるように、治崎は目の前で自分を拾って助けてくれた命の恩人の死を、残酷な形で見せられた。

 

「…………」

 

 今、自分はどんな顔をしてるのだろう。

 そんな考える事でさえ、治崎の心に余裕はなくなり、死柄木に触れられたように、心が崩壊していく。

 

「はい。これでお前を支えてた信念というのも、原点というのも、たった今失いましたとさ――お前に味方をしてくれる奴も、仲間も、努力も、全部ぜんぶお前の手には残らなくなっちゃったな?なぁ、オーバーホール…」

 

 コツコツと歩み寄りながら、治崎に語る途中で笑いをなんとか押しこらえてるも、所々に嘲笑が漏れてしまってる。

 自分の思い通りに事を運ばせ、嬉々とする死柄木は、治崎と目を合わせる。

 

 

 

「お前が費やしてきた努力はさぁ!全部俺のもんになっちゃったよ!!」

 

 

 

 そして勝ち誇った満面な、個性以上に恐ろしくて凶暴な、悪意を曝け出した笑顔を治崎に向けて、見下ろし、高らかに宣言する。

 

「これでお前は実の命の恩人を報いるどころか、仇で打つ形になって、組長は元に戻らず俺たちの良い玩具にされて――本っっっ当に惨めなもんだぜオーバーホールぅ!!

 これからお前は咥える指もなく、ただただ眺めて生きていけ!!頑張ろうな!?

 

 生きることは劇的だろう?死ぬよりかは全然良いだろう?大丈夫――お前が生きてることは、俺たちの踏み台となった証として証明されて行くんだからさ、せいぜい無個性としての余生を過ごしてろよ、な?」

 

 死柄木の一語一句の言葉にもう声が出ない。

 命の恩人である組長に恩を返したかった、元はと言えばたったそれだけの事なのに…その為だけに手を汚してまで次々と計画を進め、努力を重ねてきたのに。

 こんな奴らに緑谷や雪泉と同じく計画を壊されて、挙句に個性があるにもかかわらず無個性にされてしまって、誰よりも異能を無くす世界を夢見た治崎に、因果応報の如く自分に返って来て、夢が叶った時に組長を治すつもりだったのに、その組長が目の前で殺されて、もう修復すら不可能で――ありとあらゆる理不尽な悪意が、治崎の心を崩壊し、腹わたから煮えたぎる憤慨と憎悪、悔恨、悲哀が、全て全て全身に駆け巡り溜まって行く。

 

『面子――守ろうとしてくれて、有難うよ』

 

 ふと頭の片隅に掘り起こすように、回想された記憶、それは嘗て自分に暖かい手で頭を撫でてくれた、組長のあの時の笑顔。そんな笑顔でさえも、今じゃもう元に戻らない。

 オーバーホールという、分解にして修復の個性があるというのに、両腕を失った事でもう復元は不可能なのだ。個性があるにも関わらず無個性で、然も散々壊理を呪いと呼んでいたのに…まるで此方が呪われてるみたいじゃないか。

 

 たった一つの家族…八斎會という居場所。

 其れの復活はもう叶わず、今日の1日によって完全なる崩壊に追い込まれ、治崎にとって死刑宣告に等しい程に、終わりを告げていた。

 

 この世界における大体が、原点というものを持ち超常が現実となった今を謳歌している。

 先代の英雄達や、闇に生きし敵達も同等で、其れは変わらない。

 だが…原点というものを壊された時、人はどうなってしまうのだろう??

 

 

 

「おーい!死柄木、闇、Mr.!警察がそろそろ追ってくる!早く車に戻れ!!荼毘はもう戻ってるぞ!」

 

 高速道路の中心で、火災と転倒した自動車のなか、スピナーの声が静まった空間に声が聞こえる。

 

「さて、最高のショーも終えた事だし俺たちはトンズラさせて貰うか…お後が宜しいようで」

 

「では御機嫌ようオーバーホールさん♪そして永遠にさようなら、踏み台役になって下さり、有難う御座いますね。大変、良い眺めが見れそうです」

 

 Mr.コンプレスも闇も、凡ゆる負の感情とただならぬ想いに顔が歪んで行くのを見届け、死柄木は背を向けると懐にしまっていた掌を顔に付ける。

 

 静寂と炎に包まれた高速道路を歩む中、死柄木はふとある事を思い出す。

 

『――次は、俺と漆月だ!!!』

 

 あの廃工場で治崎と衝突したあの出来事。

 何方が支配者になるか、仲間になるか、治崎の傘下に入るかとの交渉にて、死柄木が放ったあの言葉。

「訂正しておこう…」と小声でつぶやきながら、死柄木は高らかに

 

 

 

「次は――俺たちだ」

 

 

 

 そういうと、次の瞬間――背後からはただならぬ治崎の、聞いたこともない断末魔が静寂を突き破り、BGMになるかのように、今の死柄木達の姿は、正しく支配する側となった。

 

 

 

 これにて、長かったようで短いような…そんな八斎會との因縁は完全に終わりを迎えた。

 





投稿遅くなった理由。
仕事の連勤が半端なかったのとゲームにハマってたのは勿論のこと、実は焔紅蓮隊編を密かに書き溜めていた件。

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