緑谷達が死穢八斎會と戦っていた頃、とある山間部にて敵連合捜査課の塚内警部と同じく、グラントリノに大きな動きがあった。
「この数日の間に目撃情報が集中した…連合で最も厄介なお前さんさえ捕らえれば、後は芋づる式って訳よ」
「グッ…!?」
深い森林地帯。
足裏をジェットで噴出する個性は、スピードを生かしたパワーを発揮し、敵連合の一人――黒霧を無力化し捕らえることに成功。
全身は刃物で傷が開かれ、服には多少の穴があり、縛られた形跡が残されていた。
因みに其れ等の傷はどれも、塚内警部達やグラントリノが付けたものではない。
「気を付けろ!頭と両手周囲にもワープゲートを出せる、そいつの拘束は難しい!!」
塚内警部の警告を背に、グラントリノは一息吐く。
思った以上に苦戦はしなかった。どちらかといえば呆気なかった…と言うのが妥当だろう。それ程にあっさりと、黒霧を無力化出来たのは、見た時から傷跡があったからだろう。
個性を発動させれば厄介なのに変わりはないが、それでも不意を突いて攻めれたのは大きな成果だ。
「いやはや…目立って…しまい、ましたか……折角、漆月が記憶を取り戻したというのに……此処でゲームオーバーになるとは。……私も随分と人気者になったそうで……」
地面に伏せられながら悪態を吐く黒霧は、名残惜しそうに自身の終わりを悔しそうに呟く。
警察官達が移動牢式を黒霧に嵌めながら、厳重体制を維持し続け、黒霧を制圧。
「是が非でも死柄木弔と漆月に手土産…言うなれば力を与えるべく、付き添うおつもりでしたが…どうやら貴方達の弛まぬ努力により、それも徒労に終わったようで…。
ところでグラントリノに塚内警部…ここら辺に野獣が出ると噂があったのですが…ご存知ありませんか?」
「………詳しくは署で聞こうか?」
これ以上悠長に話を設けては、またワープゲートを使って逃げられてしまう危険性が充分に高い。
気になる事、聴きたい事は色々あるが、まずは黒霧をタルタロスに連行しなければ話は始まらない。
だが次の瞬間、突如として地震が襲いかかる。
「ッ!?何だ!!?」
森全体が揺らぎ、小鳥達が空を飛ぶ。
静寂だった森は一瞬にして騒めき、何の予兆もなく起きたその地震の発生源は近くにあると直感で理解する。
「グラントリノ、塚内警部…彼の方が育てていたのは何も死柄木弔や漆月だけではないのですよ……
オール・フォー・ワンの忠実なる僕がその一人…その名も」
『黒霧、覚えていてくれ――この先、もし僕が居なくなってしまったら…弔を守れるのは君だけになる。漆月も独り立ちした時、弔達ばかり護衛は任せられない。となれば君1人では不安で心許ないだろう。ならば、彼等を頼るといい』
オール・フォー・ワン率いる残党――ギガントマキア。
キガースの神話に語られた巨人の戦士が、森をなぎ倒し顔を出す。突然現れた巨人に、警察部隊は直ぐ様彼に拳銃を向け警戒態勢に入る。そんな集団を蟻のように見下ろしながら巨人はこう言った。
「全ては――主の為に」
八斎會邸付近――朝の住宅街はヒーローとの抗争があった為、被害は目に見えている。
大きな穴、家屋倒壊、軽傷者など、被害は出ているがこれでもアレだけの出来事が起きたにも関わらず、朝一で被害が最小限に留められているのは奇跡的だと、事情聴取や調査をしていた警官が言っていた。
分解して融合し巨大化した治崎との戦闘で、軽傷者5名で家屋倒壊が4棟…普通に考えればもっと莫大な被害が出ており、最悪死人が出ていても可笑しくはないのにもだ。
被害を予め最小限にし、治崎を再起不能に陥れた緑谷と雪泉の成果は賞賛に値するものだろう。
しかも軽傷者5名はどれもかすり傷程度で、外傷的にも殆ど深くもなければ、後遺症が遺ると言った結果がないのが不幸中の幸いと言ったところだろう。
巨大化敵の制圧だけでも骨が折れると言うのに、被害をここまで大きく出さないというのは、プロヒーローでも中々に出せない結果だし、何よりも巨大敵との戦闘にそこそこ慣れてる波動ねじれも「でっかいのは難しいんだよ!」と言う程に。
さて、八斎會との抗争による被害の話はこれくらいとして――一方、抗争後に傷ついた者達は最寄りの大学病院へと搬送され、忍も含むヒーローや学生は皆、入院して安静を取るように言われていた。
「えー、一応隅々まで調べましたが…緑谷出久さん。腕以外は何処も異常ありませんでした」
「あ、ありがとう…御座います……」
「因みに聞くけど、その異常な腕…一体どうしたら…てか何があってこうなっちゃったの君…」
「あ、えっとこれはその…というか他の皆さんは…?」
腕の骨にヒビが入っており、未だに後遺症が残っているその腕に疑問を抱える医師は、未だに凝視している。
治崎との戦闘で負った傷はエリの巻き戻しによって修復され、全回復した緑谷だが、どうやら無茶を通して歪んでしまった腕までは、巻き戻すことは出来なかったようだ。
その気になれば出来るのかもしれないが、コントロールが困難なエリが下手してもう一度あの個性を使えば、それこそ猿に巻き戻されるか消滅されるかだろう。
あの個性を浴び続けてなお、回復で済み、相澤先生の抹消で取り返しのつかない事態にならなかったのは、不幸中の幸いだ。
「俺が見ていたよ」
「相澤先生!!大丈夫なんですか!?」
「おい、ここ病院だぞ。無闇に声デカくして騒ぐな、あと俺は10針抜いた、問題ない」
問題ないと言える方が逆に心配だ。
「ほら、来い」と手招きする相澤に、緑谷は後を着いていく。医者からは安静にと言われてる以上、無理に動かすのはやめておいた方が良いだろう。
「大事なところで居てやれなくて済まなかった…」
「いえいえ…それで…他の皆は?」
「ああ、芭蕉は全身打撲に裂傷が酷いが命に別状はない。雅緋も顔面にヒビが入ったものの、後に遺るようなモノではないということ、ファットガムと天喰は骨折が何ヶ所か…
切島は裂傷が酷いが治療を受ければ直ぐに治るそうだ。麗王は腕や腹部による裂傷…どれも浅いから直ぐに治るだろう。丁度、専属の方々も見舞いに来てるそうだし面会してる当たり、大丈夫だろう。夕焼は何処も損傷がないらしい…本人曰く、生れつき治癒能力が高いってことで、致命傷を受けなければ軽傷辺りは大丈夫なんだろう」
何方も被害はかなり背負ってるようだ。
だが相澤が気掛かりになってるのは、天喰と同じく行動を共にした彼女がなぜ、無傷でいたのか。
彼女の技術が高く、戦闘面でもかなり上手だったとしても、天喰だけが怪我をして彼女に外傷がないというのは、俄に信じられないものだった。
夕焼が強いというのはそれこそ、通形ミリオ達と同じく、麗王と夕焼で実戦を積んでるので実力は見ている。
更に天喰曰く『斬口崎子』との戦闘で、怪我を負っているにも関わらず、他の者と比べて治癒能力が高いという点は、医者も「是非医学の研究に!」など申し出する位だその後夕焼は綺麗に丁重にお断りした)
「ロックロックも幸い内蔵を避ける形で刃が刺さっていたからか、大事には至らなかったようだし、雪泉は緑谷同様にエリちゃんの個性で巻き戻され、負っていた傷は回復済み…治療は特になく皆の安静を待ってるよ」
となれば全員とも命に別状がないという結果。
それに安堵の息を零す緑谷に、相澤は話を続ける。
「まぁ、雪泉の場合は安静を待ってるのもそうだが…今は…」
「…?」
「いや、時期に分かる。
それよりだ、話戻すぞ。エリちゃんはまだ熱も引かず眠ったまま…安全性も鑑みて今は隔離されている」
「隔離…ってことは、面会も出来ないんですか…?意識が戻ってからでも…」
「お前が得たあの子の情報を考慮した上での結論だ、人を巻き戻す個性をコントロール出来ない以上、何かの弾みでまた発動してしまえば、俺以外に止める術がいない。下手に何かしら個性が無意識に、または突然個性を発動してしまえば、俺が見てない時に事故が起きたらそれこそ責任は取れない。だから隔離させた方が良いって話だ」
幼い彼女は精神的に負荷があり、肉体的にも体力が小さいのと消費が激しい。これ以上下手に彼女と接触するのは望ましくないだろう。
「お前は全身を絶え間なく大破壊し続けることで接触し、雪泉は常に肉体を超えた忍術を発動し続けることによって、保っていた…そうだろ?」
「はい…」
「そんな方法を取れる人間はそういないし…居たとしてもあの子がそれを上回る出力で発動したというのならば、未知数な上に精神的にも今は、これが合理的だと思う。あの子の為にもな…安心しろ緑谷、隔離と言っても一時的にだ。彼女の心の負荷は壮大だし、体力が戻りつつ落ち着いたら、面会も可能になるそうだ」
そもそもの話、自分を大破壊し続けるだなんて発想は思い付いたとしても実行しようとするには相当な勇気が必要だ。
痛みが消える前にと言っても、破壊し続けるだけでも並の人間…いや、手練でも人間は無意識に力の出力にセーブがかかってしまう。それすら通り越して限界突破なんてするんだから、そんな生徒を持った相澤としてはクレイジー過ぎるものだろう。
「また、巻き戻しによる個性…建物や地面には作用せず人にのみ…だったことを考えると、調整の訓練も気軽に行えるものじゃない…まぁ、それが可能であってもなかろうと、エリちゃんの容態を見る限り、彼女の個性には頼れないという意味だ」
「え?それってどういう…」
「お、着いた。雪泉、遅くなってすまないな」
病院の廊下にあるソファーで、腰を掛けながらテレビモニターを見つめながら、心臓の鼓動を抑えてる雪泉は、相澤に声をかけられ2人の存在にやっと気づく。緑谷も今気がついた。そうか…彼女はもう既に待機してたんだと思いながら、相澤の言葉に不安が過ぎる。
「いえ…大丈夫です……気分を和らげる為にとテレビを少し…ですが……
雪泉はチラ見とテレビモニターにもう一度視線を向ける。緑谷は小首を傾げ、相澤はそれどころでは無いと廊下の扉にある「手術室」に体を向けている。
テレビモニターには薄らと『京都にて抜忍発生!破壊活動による損傷、活発する抜忍による被害は後知れず…』と映されている。もし緑谷がこれを目にすれば、飛鳥達のことで心配になるだろうが、そんな事を考える猶予などどの道与えてくれやしない。
「お前らも受け入れるんだ。酷な話だが…覚悟はしてくれよ。丁度、彼も到着したところだ」
扉を開けたその先は――
「オールマイト…!リカバリーガール!」
痩せ細ったトゥルーフォームのオールマイトに、リカバリーガール。2人の顔にはどこか、覚悟を決めたようで、何処か悲しげな色も見える。
「バブルガールにセンチピーダー…という事は…」
雪泉は意を決したように悟る。
彼女は先に、相澤先生に話を聞かされた為、緑谷のように突然を言い渡されず何とか覚悟を決める時間があったが、それでも直面されると、辛いものがある。
「何で――「私が呼んだの…」バブルガール…?」
「だってサーはいつもオールマイトのこと…」
「泡田…」
薄らと目に涙を浮かぶバブルガールに、センチピーダーは優しく声を添えながら、ハンカチを渡す。
もう皆まで言わなくとも凡そ、目星が付いたであろう…緑谷の顔色はますますと悪くなる。
「手の施しようがなく、正直…生きているのが奇跡的で不思議な程に…」
「こうもなってしまっては治癒では何ともならんよ…」
医者の言葉に続いてリカバリーガールも諦めるように首を横に振る。残された時間は、そう長くはなく――逆に言えばもう少ししかない。そういう事だ。
ピッ――ピッ――
静寂な病院の治療室には、心電計の音が無機質に鳴り続けている。
呼吸マスクを装着し、失った左腕、空洞化した腹部には大量のチューブが繋がれていた。
彼は目を瞑ったまま、微動だにせずただひたすら静かに、己の死を待ち受けるばかり。
「ナイトアイ…!」
慣れ親む声に、サーナイトアイは微かに目を開ける。朦朧とする視界には、痩せ細ったオールマイト…懐かしきコンビが目に映る。
「オール……マイト………死で…漸く会う気に……?」
「返す言葉が見つからないよ…私は君に、酷い事を……」
負い目を感じたオールマイトは、喧嘩し別れを告げた後の事も含め、罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、申し訳なさそうに謝罪する。
「ナイトアイ!ダメだ…生きて!!」
「随分とかしこまってるじゃないか………私は別に…貴方を恨んじゃいない……それどころか、貴方にはただ、幸せでいて……いつまでも笑っていて欲しかっただけなんだ……陽花くんが死んだ後もあなたは……理不尽や…残酷な現実に…いつも正面から向き合い……1人で支えてきた…そんな貴方には……彼女の分も含めて…幸せでいて…欲しかった……だけなんだ…」
「そんな事ない!!私一人ではない、君がいたから何度でも立ち直れたんだ!!私一人だったら、とっくの昔に挫折してる…彼女がそうしたように…君も抗ってくれ!!これまでの償いをさせてくれ!!」
「償いなど…私も多くの人間に迷惑をかけてきた……」
サー・ナイトアイはオールマイトに予知を使ったことで、殺される未来を見てしまった。そして、予知により見えてしまった未来は、永遠に変えることは出来ない。
それが本人が痛いという程に分かっていても、何度も未来を変えようと手を尽くした。
だがそれは…そんな努力など意味が無いと言うように、結局変えることは叶わなかった。
「未来は変わらない…だが、そんな絶対という存在を……緑谷と雪泉は打ち砕いてくれた…」
「私たち…?」
「変わることがない…変えられない…その考えがいつも…常に頭の片隅に……あったんだ。
だが…今日見たあの絶望の未来は………2人とエリちゃんのお陰で未来は変える事が出来た……」
今まで見てしまった未来は変わらなかった。
治崎によって2人が殺され、エリが治崎の手によって逃げ果せられる残酷で最悪なバッドエンド――だが、それを綺麗に塗りつぶすように、未来は変わっていた。
「思うに……エネルギーなんじゃないかな……」
サー・ナイトアイはこう考えた。
己が強く望む未来…疑念の余地が入らない強いヴィジョン――望む願望たるエネルギー…
それは緑谷や雪泉だけじゃなく、ミリオや雅緋、天喰や夕焼、ファットガムや芭蕉、全員が全員――強く1つの未来を信じ紡いだことで、そのエネルギーが結果となり、放たれた結果なのではないかと。
まるで機械仕掛けのように、一つ一つの行動さえもが約束されたかのように。
「未来は、不確かで……不安が沢山ある……でも、あって当たり前なんだ……そんな不安のなか、貴方は考えを改めてくれた……私はそれで充分救われた……私がいなくなった後は…陽花さんに会いに行くよ…もしかしたら雪泉…黒影も一緒にいるかもしれない……」
「サー…ナイトアイ……」
ただ――思い残すことがあるとすれば。
「サー!!ナイトアイ!!」
勢いよく開かれた病室の扉から、愛弟子の声が響く。
看護師から「まだ動いちゃダメですよ!!」と止められながら無茶をして此方へ駆け寄る辺り、彼らしいと言うべきか…だが、ナイスタイミングかもしれない。
「ミリオ先輩!」
「ダメだよ生きて!!死ぬなんてダメだ!!」
「ミリオ……辛い目に遭わせてばかり……師である私が…もっとしっかりしていれば……」
「そんな事ない!!貴方が教えてくれたから!俺は強くなれたんだよ!!貴方が教えてくれたからこうして生きてるんだよ!!!
お願いだよ!!俺にもっと教えてくれよ!!死んじゃダメだって!!」
大粒の涙を垂らしながら、訴えかけるように叫ぶミリオ。
そんな彼にサーは腕に力を入れて、無理矢理にと最後の力を振り絞る。
ああ――ミリオ、許してくれ。
最初はただ…器として引き入れただけだったんだ。
だが、私を慕い信じてくれるお前が、いつも背中を追い求め笑顔で照らすお前の姿が――いつしか私の誇りとなっていた。
振り絞った最後の力で、ミリオに触れて個性を発動する。
未来予知――人生最後に使うこの場面、師であるならば弟子を信じて未来を見届けよう。
それが、師としての責任であり――役目だ。
「………………大丈夫だミリオ――お前は…誰よりも立派なヒーローになってる……」
頬に触れた手は、ミリオの涙でいっぱいに濡れていた。それでも、そんな愛弟子の涙さえも、美しく清らかで、光が灯っている。
「この未来だけは、変えては行けないな…だから、笑っていろ――」
「う…っ!!うううぅぅ…!!!」
最愛の師の言葉に、声も出ず嗚咽と共に涙が止まらない。
最愛たる師匠――サー・ナイトアイの死に、泣き崩れるミリオ。
緑谷も、雪泉も、オールマイトも、この現状に思わず涙がこぼれてしまう。
オールマイトに至ってはコンビを組んでたほどだ。
また、陽花のように大切な人が消えてしまうというのは、裂ける程に痛苦しい。
「元気とユーモアのない社会に、明るい未来はやってこない……だから、胸を張って笑顔でいてくれ――」
それを最期に、サー・ナイトアイは言葉を終え、心電計の音が完全停止を鳴り示した。
ミリオの号泣たる絶叫だけが、この病室を埋めつくしていた。
サー・ナイトアイ死去――これにより、インターンの幕は下りた。
サー!!!サーナイトアイ!!!
ということで、今度こそインターン編終了です。
次回こそ焔紅蓮隊編をやっていきます!!
連続投稿宜しいか?