これは、焔紅蓮隊が京都に行く前の、ちょっとした物語。
新章スタート!!!
やったあぁぁ!!ついに焔紅蓮隊編突入です!!今回の章は待ちに待ったストーリーなので、楽しみながらやっていこうと思います!!
199話「初めての忍務」
東京という場所は、小規模でありながら活気溢れ、関東地方平野中央部に位置しており、東京湾に面する都市である。
広域的地方公共団体と指すこの場所は、政治、経済、文化の中心であり、大企業が殆ど集中する都市は、流石は日本政治の本拠地であり、政治の代表と言っても過言ではないだろう。
無論、有名なヒーロー事務所や凄腕の特上忍などが集まるのも必然であり、政府と関わる以上は当然とも言えよう。
かつては江戸として呼ばれたこの東の都市も、過去の伝統も相まって人々から愛されている。
東京には無数の住宅街や23区もの地区、世界最大の都市と呼ばれており、ありとあらゆる大企業や政治、政府が関わるのは少し考えればわかること。
──だからこそ、東京本拠地にて上層部が集っていても何ら不自然ではない。
全忍最高上層部拠点、東京新都庁───幾つもの支部を構えてる上層部の基地は、外見からすれば大企業の本社や警察本部などが在り来りだろう。東京は都会にしてビルや建物などが無数に聳え立ち並ぶ故、上層部の反逆や襲撃を防ぐため、基地等は転々としている。
東京新都庁 全忍上層部本部──会議室
冷房も効いてる為か空気は涼しみ、数名の上層部が円卓のような机に腰を掛け面を合わせている。
「……オール・フォー・ワンに次ぎ、憑黄泉か…こうも世間を揺らがすことがあろうかて…のぅ?」
時は遡り、まだ神楽が京都で姿を現す前の事──上層部師範、80代後半の上層部が、ため息を吐きながら、被害規模や忍の存在が公になったことに、痛手を受けたかのように苦い顔をする。
「まあまあ、雷堂さん──過去のことは致し方ありませんわ♪それに、何も悩ましいことばかりではありません。寧ろオール・フォー・ワンが捕まって素直に喜ぶのが我々なのでは?」
面を向かってお気楽そうに物腰が柔らかく、他の上層部とは違って穏やかに話すのは『姫彪』──なんと、驚くべきことに外見の年齢は20代前後か後半という、上層部の人間にしては若々しく、何より殺伐と辛辣とはかけ離れ、慈愛に満ちている。
深い青色の長髪は綺麗に下され、綺麗なドレスコートを着こなしている。
「……何を言う、忍の存在が公にされ、憑黄泉が世に放たれた今…充分此方が痛手を受けている」
明王──姫彪と同じく最高上層部にしてそれなりの高い権力を持つ80代後半の白髭を生やした御老人が、怪訝そうな表情を立て、不快なため息を吐く。
「……え?何言ってるんですか明王さん?」
「……ん?」
「雄英高校では既に公になってるではありませんか──『私が半蔵学院の方々に雄英高校に在籍するよう手筈を整え、依頼をしたのは私自身』ですもの…忘れたとは言わせませんよ?」
「……そういう問題ではない、全国に何百年もの隠し通してきた忍が公となったのだ…そもそもの話、半蔵学院と協力態勢になったものの──漆月を捕まえられてないではないか。オマケに忍学生が1名拉致されたとも聞く、失態に続き成果がない!!貴様の見込み違いではないか?」
「随分とネガティヴな事を仰るのですね雷堂さんは。ヒーロー殺し、元い忍殺しのステインに抜忍の黒佐波は捕まえれたじゃないですか?それって、寧ろ半蔵学院や死塾月閃女学館の戦績を褒めてもいいですし、認めても宜しいかと──少なくとも、成果がない…とは、ない事ではないのでしょうか?」
喚き散らす雷堂など、赤子の泣き叫ぶ声のように可愛らしく、クスッと一蹴するように笑う女性は、忍上層部にしてはかなりまともな発言であり、駒扱いする忍に対してはヤケに思い入れがあり、慈悲がある。
無理もない──姫彪は『国家最高上層部忍養成機関内閣特務機密特殊部隊管理官兼個性特務自衛隊中将第2部隊隊長』としての大規模な名を与えられた、陽花や雪不帰に引き負けない才覚を持っている。
何よりも彼女に雇われた忍は損害を出さず、ほぼ犠牲者が出ていないと言っても過言で、遣われる忍も彼女にならと志願をするほど、厚い人望に長けており、軍人や指揮官としての能力は申し分ないと言っても良い。下手に軽い女だと甘くみると、酷い手傷を追うことになるだろう。
「ぬぅ……」
「まぁまぁ…話を戻しましょう──今回は今年に起きた大事件のおさらい…基いこれからの再発予防と言ったテーマでしょうか。
何処から語れば良いのやら…なんて程に今年は色々ありましたからねぇ〜…」
「雄英高校が主に…な」
「まぁ…確かに──然し蛇女子学園という悪忍育成機関も今年は随分と騒ぎが起きてますし、何やら運命めいたものを感じさせられちゃいますねぇ♪」
「…………お主、楽しんでるであろう?真面目な会議だぞ?」
「いえいえ──真面目ですよ♪」
何処からどうにも巫山戯てる──なんて口に出しそうな位、緊迫感としてる中、常に自分のぺースを保ち続けてる女性は、流石は修羅場を潜り抜けてきただけの事はあるか、まるでこれまでの大事件がさも「どうでもいい」と言わんばかりに。
「あ、蛇女子学園と言えばぁ…『道元』はどうしてるんでしょうかね?」
その言葉に明王は僅かに顔を顰める。何やら反応を示したようだが、表情は立てないでいた。
「……大方、奴を欲しがってる大企業や裏で繋がってた者共が匿い、或いは息絶えてる可能性もある──現在も行方不明であり、消息が途絶え目撃情報は皆無に等しい…見つけ次第処罰をすると、既に全忍に耳に入ってるはずだが…?」
「あ、いえいえ!そういう意味じゃなくてですね…」
「…?」
「脳無となってタルタロスで一生を過ごしてる道元は、どんな気分で一生を過ごしてるんでしょうかッて意味です♪」
『ッ!!!!』
「何!?」
その場の一同が、驚嘆し息を詰まらせる。
威厳を保つ明王でさえも、彼女に目を見開いている。
「きっと何の考えもなくただただ無感情思考停止で、廃人の如く余生を過ごしてるのかしら…?あ、でも彼が脳無となってる以上はオール・フォー・ワンと無関係ではない事を指してるわけで…何があって脳無に変えたんでしょうかね?」
「待て!初耳ぞ?何処でその情報を――!!」
「自力で調べましたから、個人的に――♪」
調べれるものなのだろうか、確かにタルタロスにて申請許可やDNA鑑定をすればそれなりに調べ上げられるのだろうが、何も草の根運動のように一から全ての脳無を鑑定するのは効率が悪いし、それで道元が元になってるとはとても考えにくい。
「道元は元々、妖魔の精製…売買と言ったビジネスなど所詮は一部の計画でしかなかったそうです。そう──それ以上の目的があって彼は蛇女のスポンサーという隠れ蓑を利用しながら、伊佐奈の様に野望を企てた……彼が忍の階級がどうであろうと、敵連合が戦力を欲していたのならば、いえ…彼を無闇矢鱈に殺害、或いは脳無とまではいかなくとも幾らでも再利用はできたハズ……思考が停止してしまえば、妖魔も作れないどころか操り人形で終わってしまう──つまり、オール・フォー・ワンにとっては都合が悪く、且つ裏切られ利用されてしまう危険性もあった……
だから―――じゃないですか?」
「……何処までそれを――それ以前に、何処から…」
「だからこそ――私が最高上層部に適し、貴方達の知らない情報を得て提供することで、ここまで登りつめた事に大きく賞賛しているのでしょう?
それに――何なのでしょうかね、道元の企みって…」
「……幾つか問題点があるな、不都合であれば道元を始末すれば奴らにとっても良かろうに――態々脳無に変えるなど…」
「それがあるんですよ――だって、忍が脳無になるってある意味彼で初めてじゃないですか」
その言葉に、空気が凍りつく。
どうして今までそんな事に気付かなかったのだろうと思わせるほどに。
「いえ…ひょっとしたら……もう既に彼の様な脳無という人形も作られているのかもしれません♪」
「お主…何処まで知っておる?勿体ぶらずに全てを話せ!!」
「これは推測でしかありませんけどね――幾らオール・フォー・ワンと言えども彼だって完璧超人ではありません。現に脳無格納庫の環境や脳無の在庫数、製造の場所としてはイマイチ…裏で協力者がいるとしましょう――個性を与える彼が、一から全て肉体に耐えれるように肉体改造や医療的な手術をしたとは思えません。現に微かですが…私の部隊が脳無を一体、雑兵程度ですが発見し捉えてます。
問題なのは、彼らが被検体であること――忍の肉体がベースとなった状態で、個性を与えられれば改造しても肉体が持つかどうか。彼が脳無として現れた以上、それが可能という証明……然しぶっちゃけ本番で、急ごしらえで改造して世に出されたとも言い難い…危険すぎる上に効率もやり方も悪い…そんなやり方を狡猾なオール・フォー・ワンがするとは思いません……何回かの人体実験、または既に作製された脳無がいる──と考えれば、脳無とは私達が思ってる以上に何か裏があり、忍の能力を持った脳無…それに極似した類がいる可能性はゼロではないと」
「脳無に似た者……か、今後とも現れると考えれば、過ぎた事とはいえそれなりに重要な鍵を担いそうじゃな…」
「保須市にてエンデヴァーやUSJで戦った黒い脳無には、どちらも再生型の回復系個性と素のパワーが他と比べて違う点…白や緑はプロヒーローで対抗できる事を考えて、生態系にも興味深い点がいくつも有り、同じ個性が複数あるのも調べました……おかしいですねぇ、超再生や筋力増加、他にも見ない個性は希少価値があると言うのに複数所持してるなんて…同じ個性が奇跡的に出た、なんてのは偶然にも話が出来すぎてますし…って、これは警察方に提供すべき情報ですね。まぁ、現に忍術と個性を併せ持ったタイプは例外を除いて今までに見てませんからねぇ……」
例外とはオール・フォー・ワンか。話が脱線してしまってるが、彼の様に併せ持ったタイプはまだ見ていない…調べ上げた中では道元のような忍から脳無になったタイプは見ていないのだろう。
「それに殺処分は低いと思いますよ、彼は騙し壊して奪う性格……何よりも死柄木弔という連合のリーダーがいるなか、無闇に消すより此方側で人形兵士にする事で利益に繋がる……彼のやりそうな手口ですね」
「待て、奴が捕まったのであれば脳無の作製や出現は無いのではないか?」
「……いいえ、先程も申し上げた様に私が派遣した部隊に脳無が確認し捉えたと言いましたね?それはつい三日前の出来事なんですよ。オール・フォー・ワンが掴まってから二週間経つ事を考え、その線は無さそうです」
「……隙もない女よのぉ、姫彪」
「上の人間として立つ者としては当然でしょう…♪何より、貴方達に切り捨てられるのも嫌ですからねぇ〜」
「結論を出せば、今後とも警察と同じく脳無の調査及び…連合の在り方を探る…以前と変わらんが…」
情報を知れただけでも成果は大きい――可能であれば道元の野望とやらも追求して行くとの事だろう──
(まぁ、あのおじ様の野望なんて、本当は知ってますけど…流石に此処で発言するのは不味いですねぇ…)
実際に彼女にとってはこんな会議自体本当はどうでもいいのだ──惚けている女に見えて、底が知れない女は、ある意味オール・フォー・ワンと同じ策士的な者…。
でなければこれ程有益な情報をポンポンと出さないだろう…現に彼女は他にも数十個の情報を隠してる。
彼女にとって情報とは武器──それを手放すか、核心として突くか、売るか、脅すか、全て彼女の自由であり独壇場。
伊佐奈と忍商会によって蛇女に介入したのも、関係なくはないのだ。
「さて…話を戻して……此方は現在、隊員ともに動かしてはいますが全国は特に問題ありません。また隊員からは敵連合の接触なしとのこと――現に憑黄泉も未確認ですね」
「これだけ捜査を広げて未だに捉えれないとは、笑えぬ話よ。成程、USJ襲撃によって名を高めた奴らもまた、考えて成長している…。こんな事を言うのもなんだが、このままでは奴らに成長を与えるばかりになる……な…」
「敵さんもバカではないですからねぇ、ここだけの話…オール・フォー・ワンには未だに残党がまだ何処かに息を潜めてるそうですよ。そう言った裏からの救援があっても可笑しくないですし――」
「どの道捕まえれば分かること…秩序を乱し者には罰を──じゃな」
「何だか黒影の事を思い出しますねぇ、陽花も私から見れば秩序を乱してるように見えますが…」
「お主の言い分は分からなくもない…然し我々に有益があったのも事実じゃ――幾ら完璧超人とはいえ、敵に回すと恐ろしき者よ…」
「………」
女性はその言葉に口角を吊り上げながら、何処か不敵に笑う。
まるで──自分なら止められてたかも、なんて言うような表情を悟られないように。
「……彼女、妖魔の巣も潰し回ってましたもんね」
「桃はどうだ?お主、軍人なのだろう?何度か対面した事はないのか?」
「そんな頻繁にでは無いですよ。口を開いても無視されるか無言を置き通すばかりで…コミュ障と上手くやるのってどうすれば良いんですかねぇ?今度対話術を磨いていきたいものですよ」
「抜忍になりつつ、孤独から軍などに下りおって……いや、奴を扱うには余りにも…手が余る」
抜忍の桃は、国家機密の妖魔殲滅特殊部隊軍人少尉の座に付いている現状、簡単に切り離す事はなかなかに難しく、1人手放すだけで比べ物にならない程に戦力に差が開く。
気に入らないもの、秩序を乱す者は簡単に消せる――然し、それと同時にデメリットやリスクが生じる。上層部も頭を悩ますことはあるが、愚かにも思いつきでは出来ないのだ。
それこそ独裁者なども作らないように。
「……あ、そう言えば…妖魔の巣で思い出したんですけどぉ、どうなったんですかね?『妖魔と手を繋ぐ少女』を目撃したという彼処は…♪」
「…………今は、彼処に割ける戦力はない。無害である以上、暫し様子見だ」
「それも可笑しいんですよねぇ…妖魔って人を襲い、喰らい、壊して殺す、醜ぅ〜い醜うぅ〜〜い化け物じゃないですか?人々の平穏と安全を脅かし、貪る悪意です。
そんな妖魔の巣が大人しており、何の音沙汰もないだなんて、不自然すぎると思うんですよ、
最近妖魔達の活動も頻繁なりましたし、マークしても可笑しくありませんけど」
妖魔の巣は基本、立ち入り禁止区域や海岸、洞窟など国家政府が禁止区域に指定している殆どの場所に妖魔の巣が存在されている。
況してや普通の人間が立ち入っていい場所ではないのは言うまでもなく、更に妖魔の巣へ赴くには上層部達の許可、或いは承認や依頼などによって立入が許可されている。
「………」
「言いたい事は分かりますよ、陽花の死後から彼女の様な有能な忍が消えてから任務に手一杯の忍達。彼女も元々余裕のない生活でしたが、オールマイト同様に穴を補いオール・フォー・ワンや天竜衆に向けて対策を練ってましたからねぇ〜、其処を気に留める余裕も無かったのは致し方ありません」
「……何が言いたい?」
「コレを受け付けれる抜忍に、任務を与えるというのは、効率が良いと私は思いますの」
「抜忍に?」
「ええ、確かに反社会的且つオールマイトが消えてから抜忍の活動は活発になり、我々に対する過激で攻撃的な面が色濃く出ました。
しかし、抜忍が任務を受けてはならないという決まりはありません。世界中に狙われど、追っ手が来ようと、この任務で有象無象を匂わせ近付ける……敵連合の彼女達に動きがない…とも言い切れません。危険なのは承知ですが、それを踏まえて任務を出すというのは戦力を割けずかつ、此方は捜査を続けて抜忍という反乱分子を少しでも消化するのは、我々にとっても悪い話ではないと思いますが……ね?明王さん♪」
今の抜忍はテロリスト行為の様に、一般市民に手を出せば街を攻撃するなどと言った分にまで発展している。大体が個性を持て余した敵と手を組むというのはあるのだが、真に賢しい闇深き抜忍は潜伏し盤石をひっくり返す様な大事件を起こそうとする輩も少なからず存在する。
そう言った抜忍達を探し出すのも、任務という都合良いもので利用するのも、上層部なのだ。
「報酬金は8500万か…悪くはないが、随分と大きく出たな」
「本当なら危険度によって報酬を上乗せ出来ますけど…何ぶん情報が余りにも少な過ぎますからねぇ〜……天竜衆なんかがいたらざっと600億の額は出せますけど、そう上手くいきませんから…ねぇ?」
「………やはりお主、遊んでおるだろ?」
「いえいえ、そんな滅相な♪」
明王の威圧の声に、怯える様子もなく、ヘラヘラとお嬢様の様に嘲笑う女性は底知れず、「では任務の書類などは会議後、発行しますね」と言いながら机の上に置いてある熱い抹茶を啜る。
「んー…やはり私、ブランドに似合う紅茶が欲しいですわ。渋くて何だか私の方には合わないようで」
「この場の何十人が年寄りの中、良い歳したお主だけは違うからの、飲み物でグダグダ言うな、せめて珈琲にしておけ」
「キリマンジャロとかが恋しいですよねぇ……それと、良い歳って、貴方誰に向かって言ってるの?雷堂」
今まで物腰が柔らかく、如何なる対話でも余裕を崩さなかった彼女は、笑顔こそ絶やしてないものの、声に威圧が入り、鋭く見開いた目が上層部を射抜くように睨みつける。
「ッ!貴様!!歳が下の女子の分際で!!儂に向かって呼び捨てどころか、その物の言い草!!いつから貴様が儂より偉くなった!?!」
「損害を出し犠牲者増え、なお効率悪く有能な忍達を消費してる無能が、よく大口叩けますねぇ〜…一度吹き飛ばされたいのかしら??」
「お主ら辞めんか、雷堂も悪気はない…責め立てるな……会議の場だ、醜悪な会話を見せるな見苦しい…」
場を制圧するように声を出す明王に、不機嫌そうに睨む雷堂と、ふぅ…と溜息吐き「皆さま、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません♪」と開き直る姫彪。
「ならば余裕、或いは承諾してくれる忍を優先に任務を出すか…大方、何方も従う者など…」
「私としては心当たりがあるのですよ、私たちの任務に答えてくれそうな方々が♪」
「……?誰だ?」
「蛇女にて危険視されてた伊佐奈を捕らえ、抜忍でありながら忍学校を救った――焔紅蓮隊が」
『私達に任務が…?!』
焔紅蓮隊が拠点としてるアジト内で、五人の声が大きく響いてくる。山奥の森林に覆われた洞穴のような巣窟は、住むには良さそうなペースになっており、日常品として扱うタンスやテーブル、飾りや私物など必需品など備え、模様替えすれば中々様になるようで、殺伐とした無愛想な空間と比べれば、リフレッシュされて緩和されたことだろう。
「ああ…つい数日前に上層部が話し合い、伊佐奈の件を認めてお前たちに特別、カグラに近づくであろう任務が下された。然し強制的ではなければ、お前たちは抜忍――必ずしも従えという義理はない。どうする?」
テーブルの前に座りながら、軽く湯気立つ緑茶を啜りながら、任務の詳細を話すは鈴音。
久しく見るであろう事か、蛇女の教師を務めながら、今もなおリハビリを受けている。神ノ区のオール・フォー・ワンにてほぼ忍として戦場に立つのは不可能であると医者にも言われているし、それこそ焔達五人相手でもマトモに戦えないだろう……だから、蛇女の身でありながら、こうして抜忍である焔達を前にしても襲う気配も攻撃的な気配も微塵たりともない。
彼女は今、座学として蛇女の生徒達に知識を与えている。知識もまた、如何なる戦場でも役に立つ。
「鈴音先生が来たかと思えば…いきなり任務だと!?よっしゃあぁぁ!!今日はついてるな!詠のくじ引きの券と良い、上層部からのお墨付きの任務といい…カグラに近づけるって、こんなに美味い話は滅多にないぞ!!」
確かに、なんて言うほどに、今回の焔紅蓮隊は余りにも幸運を呼び寄せている。努力の賜物のお陰か、ジリ貧と言えど、窮屈な生活をしていたからか、その成果は大きいと言えよう。
「いやったあぁぁぁ!!抜忍になってからの初めての任務ね!!これで成功したら報酬金貰えるわけでしょ?それなら野草生活とはおさらば出来るわ!!あ、何なら今月の諦めてた限定フィギュアも買えるって訳だから……」
「未来さん?お金の無駄使いはさせませんわよ?私がしっかり管理して……もやしが何百袋買えるのでしょうか?」
「なんで詠お姉ちゃんはお金の使い方がもやしに方向転換しちゃうのよ!!」
「しっかしまぁ、これで暫く地獄のアルバイト生活に苦しまずとも生活費は稼げたんちゃう?春花さんも何回も面接落ちてるし」
「まぁ、申し訳ないとは思ってるし反省はしてるわ。けれどこんな好機が訪れるなんて…棚からぼたもちどころかショートケーキまで付いてきてるわ♪」
焔紅蓮隊の一員は大変、機嫌が良かった。
伊佐奈の件からの後は、蛇女の追っ手が来ることは少なくなった。それは勿論、多忙という意味もあるし、今となっては神ノ区の事件後というのもあって、中々抜忍討伐の任務には回らないのだろう。というか多分、向こうの事だからスケジュールが埋まりすぎて相手にできないという理由が大半だと思う。
それも紅蓮隊にとっては充分な利益が増している。
抜忍として狙われている身としては、真面目にアルバイトをしてる中でも蛇女の追っ手に見つかり、何度も狙われかけてる事もあったし、隙さえあればと突っかかってくるのも少なくはなかった。主に頻繁に起きてたのは『旋風』という因縁のある忍が特に焔に対してしつこく狙っていたが、今となってはもう関係ない話だ。
「それにしても鈴音先生…怪我、大丈夫なんですか?」
「ふ…っ、私も元とは言え教え子に心配される身になったか……まぁ、今回受けた任務は余りにもスケールが大きすぎたしな」
都市伝説扱いされたオール・フォー・ワンは、蛇女の座学にはないが、それでも悪忍の中ではチラチラと噂は立っていた。雑談スレやネットなどで一般人が都市伝説的な話を知っているのだから、別に忍達が知らないのは可笑しい事ではない。
未来なんかは蛇女に居た頃は暇さえあればパソコンを使ってネットサーフィンなどしていたし、ハッキングに対しはプロ並みだから、実は彼女はその都市伝説の話も知っていたりする。ある意味紅蓮隊の中では知識があるといっても良いだろう…珍しく。
「私のことは気にするな、でなければこうして態々足を運んでお前達のアジトに赴く理由などないだろう。私も忍を引退しきれてはないが…それなりに少しでも自分が何か役に立てることはと、己のやるべき事は全うしているつもりだ。戦闘だけが全てじゃないぞ」
流石は母校とはいえ、私達を育て上げただけの事はあるな、と焔は僅かながらに口角を釣り上げる。
脳の殆どが筋肉質で、春花からは「脳筋」「猪突猛進」など言われてる焔にとっては戦闘以外で役に立つことなど、数えるほどしかないが、そう言った姿勢に尊敬を向けるのは、やはり蛇女にいた頃も憧れが強かったのだろう。
「それで鈴音先生…その、任務ってどんなのなの?」
ここでちょこんと恐る恐る手を挙げたのは未来。
居ても立っても居られないのか、少し興奮気味だ。いや…久しぶりの任務な上に無名に等しい(伊佐奈の件で実は名前は少し上がってる)自分たちに任務など、どんな内容なのか気になっているのだろう。
それもそのはず、確かに戦績が良かったにしろ、内容によってはハードルも高ければ、低ければそれなりに…な感じでもあるだろう。最も、鈴音先生が直々に来てこうして任務を下すのなら、余程の事なのだろうが、詳細を知らなければ幾ら喜んでも話にならないのは確かだろう。
「ああ、そうだったな…大事なのは任務内容だ――お前達、この前話した妖魔の話は覚えているか?」
「覚えるも何も…私達は道元が復活したであろう怨楼血に酷い目に遭わされた…忘れたくとも忘れられないし、そもそも忍として志す以上、忘れるものじゃあない…」
「なら話は早い…その妖魔達が住み着いてる巣窟の駆除…というべきか、調査に当たって欲しい」
「調査…?妖魔討伐じゃなくて?」
「それに近いと思って貰っても良い。今回指定された妖魔の巣、どうにも情報不足な上に、前々から上層部が派遣した忍達に調査を向かわせたものの、生還者が殆どいない…生きて帰った忍が一人、その証言によると――『妖魔と手を繋いだ少女がいた』とのことだ」
『!?!』
鈴音の衝撃的な内容の告白に、一同は固唾を呑む。
妖魔とは、忍の血肉が集まった事で生まれた化け物であり、伊佐奈や道元の野望には必ずと言って良いほどに妖魔というワードが出ている。況してや焔だって直に怨楼血と戦っている。
他にもどの妖魔がいるかなど知りもしないが、少なくとも手を繋ぐだなんて平和的なことが、受け入れ難い。
「報告を聞いた上層部は速やかに武装や戦力を万全に整え、報告者と共に迎え行ったようだが、その後の消息は不明……中で何が起きてるかは分からないし、連絡が途絶えた今もなお詳細は不明だそうだ」
「妖魔と手を繋ぐ少女…確かに聞いたことありませんわ…」
「最悪、その少女が妖魔を使役していれば、やってることは道元や伊佐奈と変わらんしなぁ……何が目的か知らんけど、野放しにはしておけんし…」
「嗚呼、妖魔は私たち忍の敵だ――それに、丁度いい…カグラの称号を持つ忍が、妖魔と戦えるのだろう?まだカグラでもない私たちが立ち挑めるとは、絶好の機会だ!!」
詠は訝しげに首をすくめ、日影は自慢のナイフの手入れをし、焔の闘争心は燃え上がる。
どうやら任務に不満はないようだが…
「で、でもさ…その妖魔と手を繋いでた少女って…妖魔の巣からは出ないのかな…」
と、此処で弱気にも声を震わせるのは未来だった。
「あら、未来さん…怖いのですか?」
「ち、違うわよ詠お姉ちゃんのバカ!!…その、妖魔の巣にいるなら、外の世界に出て私達を襲ったりしないのかなって…確かに聞いてる限りだと向こうが怪しいけどさ…なんかここまで聞くと逆に不自然で……」
確かに、なんて思えるほどに未来の発言は的確だった。
襲われてしまうのなら外に出て避難所を見つければ良いものだ。それなのに忍が向かっては消息が絶え、妖魔の巣から出ないということは、理由があるのではないかと思う。
「よく気付いたな未来。そう…先程申したように情報が少なすぎる…勿論可能であればその理由も調査してくれれば助かるのだが……なぜかその妖魔の巣から、妖魔が出たということも、少女が出たという情報も、全くないのだ──」
その事に、またもや全員とも黙り込む。
「だから上層部は十年前から今もずっと放置してたのだ…いや、正確には観察と言ったほうが良いか?
私たちが妖魔討伐として巣窟に向かっても失踪者が増えるだけ…然し其方が危害を加えて来なければ?」
「…襲わなければ良い、逆に襲うことが私達によるデメリット…だから、情報も少ないし危険視もされてなかった訳なのね」
そこで春花は理解した。
情報が全くない上に、これほど異常な任務なら…情報が不足してるのなら、彼女達が外に出てる可能性は極めて低いものだと。
然し人員を割く暇もない今、こうして何処にも所属してない自分たちが選ばれたという訳か……と。
「ああ、上層部も無所属のお前達に任務を与えてる以上、失敗に対してもそこまで気にしないようだ。情報さえ持って来れれば上出来だそうだ……少数精鋭のお前達に、未知なる妖魔の巣を攻略するのは至難の業だからな」
「なるほどねぇ…だから妖魔の殲滅も入ってるけど、巣窟の調査がメインってわけね」
「いや、厳密に言えばそうなるが…それも単なる可能であれば…だそうだ」
「…?つまり??」
「今回の任務は――妖魔と手を繋いだ少女を捕えろとのことだ」