「春花、未来!お前たちは距離を取って遠距離攻撃!詠と日影は妖魔の動きに注意しろ!!」
相手の殺気に敏感な焔は、距離を取って各仲間たちに指示を出す。殺気というのは語弊で、正確には闘気だろう。
ベルゼという妖魔は拳を握り締めながら打ち合い、攻撃態勢に入っている。
春花も未来も軽く頷き距離を置き、近接戦を得意とする詠と日影は相手の動きに注意を払って、見極めながら攻撃の態勢に移る。
「下ガッテテ――ミレイハ、戦ワナクテ良イカラネ」
「有難う、ベルゼ兄さん」
かく言う相手は、ベルゼ兄さん1人で妹の前に立ち尽くし、美怜は兄の言葉に微笑を浮かべながら、数歩下がる。
妹想いある兄は、妹を守る為に1人で焔達の相手を臨む。妹は兄の言葉に頷き、戦闘には加わらない。
闘う相手はたったの一人――だが、先程までの妖魔と訳が違うこの妖魔に対しては、気を抜くことなく全力で闘った方が良いだろう。また、素性が知れない美怜と闘わなくて済むというのは、焔側にとっては幸いな事である。
「妖魔に頼ってる辺り――随分と口だけが動くだけじゃないか!!」
「あら?兄妹の言うことは互いに聞くものでしょう?」
焔は弾丸の如く一直線に地面を蹴り跳ねて、妖魔ベルゼに一矢報いようと六爪の剣先を胴体に切り刻む。
炎を纏いし熱き刀は、熱を通し、火傷を負わせる。学炎祭後も更に修行を極めた焔達メンバーの実力は、以前よりも更に上がっているだろう。そんな爪痕を残す攻撃を前に、ベルゼは斬られた胴体を痒そうに指でポリポリしながら
「妖魔術――【魔王ノ拍手】」
次の瞬間――バチィン!!と両手を打った衝撃が、爆音となり轟く衝撃波は目前にいた焔を襲う。
「ぐっ!?!があぁぁっ!?!!」
一瞬にして何が起きたか分からず、全てが破壊されたような感覚は、脳を麻痺させ感覚さえも鈍らせ、衝撃による肉体への負荷は、直撃なくとも一瞬で深手を負う。
「焔ぁ!!」
「焔ちゃん!しっかりして!」
未来は焔に叫びながら、遠距離射撃で呪いの光弾を連射していく。AIM、サバゲー、視力が優れ、銃撃戦での経験が豊富な未来は、動く的を百発百中当てれるのは当然と言って良いほどで、全ての弾丸はベルゼに被弾するも、何ともなさそうに兄は侵入者を排除しようとする。意識が朦朧とする焔を後に、他にも春花の順従たる傀儡が殴りこむも、其れを素手で受け止める。
「もろたで!」
「好機ですわ!」
春花の傀儡を素手で受け止めてるベルゼを、日影と詠は隙を突き、無防備な体に短剣と大剣…二つの刃物の武器が肉を突き刺す。
手応えある質量感、ズブリと嫌な音を立てては鮮血が走るものの、大きな悲鳴を上げる事はなく、ベルゼはゆっくりと此方を振り返る。
「なっ…抜けへん――」
こりゃアカン。
そう悟った日影は武器を抜き取ろうとするも、ベルゼは筋肉を強張らせて突き刺さったナイフを敢えて抜けないように固定する。
「これでも食らいなさい!秘伝忍法――『ニヴルヘイム』!!」
日影に狙いを付けたベルゼから意識を逸らすように、詠は秘伝忍法『ニヴルヘイム』で片腕から重火力を誇るボウガンでベルゼの顔面を集中砲火するように、狙いを付ける。
火薬特有の匂いが周りに充満し、土煙が巻き起こる。
「………」
――だがそれを、ベルゼはもう片方の手で顔面を守り、手で全ての攻撃を塞いでいたのだ。
プスプスと焦げたような焼き音を立てながら、火傷など被っていた片手は、また復元する。
「なッ――直撃したハズですが…」
ベルゼの人体外れたスバ抜ける耐久力に、詠も絶句する。苦痛の声もあげず、そのまま顔面の直撃を防いだ手で詠を握り潰そうと手を動かす。
「させるか――!!」
そして詠の前に素早く駆け立ち、守るようにして六爪でベルゼの手を弾く。どうやら意識は回復したらしい。それにしてはまだ早い方だろう、朦朧とする意識の中、無理矢理己を奮い立たせ、体制を立て直しては六爪でベルゼの片手を防ぐ。
(ぐっ…!重い……妖魔の攻撃をまともに防いだのはこれで…初めてかもな…!!)
妖魔との戦闘自体、対して数も少ない為仕方ないとはいえ、ベルゼの手を防ぐためでも精一杯。焔は歯軋りを立てながら、何とかこの状況…死者を出させまいと必死に耐え忍ぶ。
「……守ッタ?」
ベルゼは不思議そうに首を傾げながら、手を伸ばす腕の筋力を決して緩めない。それよりも、焔が詠を守ったことに少し驚いたような様子さえ微かに窺える。
焔が直ぐに回復して立て直した事に対してなら理解できなくもないが、様子ぶりからしてそうでもなさそうだ。
「仲間を守って悪いかよ!!」
そのままありったけの力を振り絞り、六爪でベルゼの手を弾き返す。腕が吹き飛び弾かれる感触を味わいながら、焔はその隙にと仲間達に振り向く。
「焔さん…!傷は…」
「無事だ!詠…いや、お前たち一旦引くぞ!!」
焔の一声に、一同は一瞬だけ動きが止まる。
あの焔が撤退命令を出すという事は、それ程危険な相手なのだろうと、理解するのに時間は掛からない。
少し闘いを通した程度だが、ベルゼは全く本気を出していない。かと言って今ここで無理に突進するのは駄策だ。
ならば態勢を立て直し、策を練って闘いに入った方が生存確率は高くなる。
皆からは「らしくない」と言うような印象を受けたのだろうが、我等がリーダーの言葉に潔く信じて行動する。
「僕達ノ家カラ出テイケ――!!!」
ベルゼは腕の筋力を強張らせ、一発虚空を殴るように拳を振るう。なんて事はない、その振るった拳から発せられた衝撃波は、焔達に更なる絶望を押し寄せる。
放たれた衝撃波は、廊下の壁や床をバキバキと破壊していき、足場も壁も全てをなぎ倒し吹き飛ばしていく。その衝撃波は、撤退を余儀なくされる焔達に襲いかかり、そして成すすべなく吹き飛ばされる。
「うぉっ!?!」
「ひゃっ?!」
「あかん…!!」
「きゃあッ――!!?」
「ちょっ――!!」
撤退をして正解だっただろう。距離的にもベルゼから遠ざかるように置いていた為、衝撃が緩和されたとはいえ、もしあのまま闘いを続けていれば、致命傷は免れなかっただろう。
元より、これ程の圧倒的なるパワーは素の実力とも言えよう…USJで雄英高校の生徒や半蔵学院の忍学生3名を苦しめた脳無や、平和の象徴オールマイトを沸騰とさせるような、シンプルで次元を通り越した超パワー。
成程…情報を持ち帰り策を練る忍達が――況してや上層部が認め派遣した忍達が手も足も出ず、この妖魔の巣窟から帰らない者と成り果て、今もこうして情報さえ掴めないのは、全部あのベルゼ兄さんが元凶だったんだ。
たった1つ、垣間見えたその圧倒的なる実力に、焔は痛感させられる。もしベルゼ意外にそれ以上に強い妖魔が此処にいるとすれば、それこそ此処での調査も殲滅も断念せざるを得なくなるほどに。
「お前たち、無事か――!!」
「ええ、大丈夫よ焔ちゃん。それより早く撤退して立て直した方がいいわね。流石に考え無しの真正面からの戦闘は無謀…自殺行為ね」
仲間の安否を確認する焔に、春花は何とか傀儡を駆使して未来と自分を抱えさせながら、愚痴を零す。
今までの妖魔とも、これまで闘ってきた敵とはレベルが違う――油断も隙も無かったのに、ベルゼの登場によって簡単に崩される。
動きは単純で、見極めれば…とも思っていたが、あれ程の馬鹿力を前に見せられては、下手に行動をするだけ命取り。此処は還って作戦や態勢を立て直す事が最優先だ。
勝利と闘いが全てである焔にしては、珍しくマトモな行動をしたとも言える。らしくないと言えばそうなのだが、今は指示も行動も考えて引くのが一番だろう。
逃げるは恥と言うが、今回ばかりは相手の戦闘力が余りにも高すぎる。下手にプライドばかり拘るより、此処は引いて仲間たちの命を守るのが先だ。
詠も、日影も、未来も、春花も、そして…歯を食いしばりながら撤退する焔達に――ベルゼ兄さんはこれ以上追撃しなかった。
それはそれで不幸中の幸いだと言うのに、焔の心の中では何処か納得がいかないのか、騒めく胸を抑えながら、闇の中へ消え去った。
「……大方、忍にしては中々の手練れね。ベルゼ兄さんを前に無駄な奢りもないし、連携としては申し分ない…。危険だと判断すれば下手なプライドで無駄な戦闘は避けて撤退する指導力。今まで出逢ってきた忍という連中とは一味違った……
けど、あの焔という忍……一見何も考えなしの猪突猛進型の人間かと思ったけど、ある程度思考能力はあるようね。判断としては悪くはないけど、ベルゼ兄さんを相手に飛び出しすぎなのは愚策。それでも仲間達に的確に指示を出したり、深追いする事なく情に流されるわけでもなく従う辺り、棟梁なのは一目瞭然。成る程ね、彼女ら四人も考えて動いてる上にあの人を信じて行動をするという事は、それなりに信頼とカリスマ性があるという事……。
数年ぶりのコソ泥さんにしては、そこそこやるじゃない」
一旦、引けの一手を使った紅蓮隊の後ろ姿を眺めながら、少女は黙々と考察を行う。
美玲と呼ばれる少女は、知的好奇心の塊だ。
些細な疑問や興味を持つものには非常に敏感で、知識を得る行為に欲が満たされる。況してやこんな不条理な世の中ならば尚のこと。
今まで家に侵入し、荒らしてきた忍達とは、何処か違う。先ず自分の命のために仲間を売らないし、美怜を狙わずベルゼ兄さんを相手に闘っていた。雑魚とは言えどこの家に住む妖魔達を殺したことに変わりはないが、忍の根本的な存在理由を知れば、彼女らが妖魔を倒さなくてはいけないという理由も、理解は示した。
(……外の世界には焔達の言った忍としての掟や常識があり、妖魔は必ずしもこの家のように穏やかな個体がいる訳では無い…か。だから忍達は妖魔が無害であることを知らない……
それとも、この家が特殊なだけなのかしら?となれば、侵入者達が碌に対話をすることもなく危害を加えるのも、妖魔が無害であることにさえ理解に及ばないのも筋が通るわね)
美怜は知っている。
妖魔とは元々、そこまで人間に害を成す存在ではないというのを。彼女からすれば野生の動物と大差がないレベルだったのだろう。
昔、書物で読んだことがある――虎や獅子は、人間を傷つけてる訳ではなくじゃれてるように見えて、人間としては害を為して殺されかけるという自然の中では割と聞く説。
それに美怜は生まれて一度も、外の世界へ旅立った事など一度もない。だからこそ、外の世界に住まう忍の常識に疎く、迫害を受けやすかった。
「……はぁ、困ったものね。外の世界に住む妖魔は。此方としてはとんだ風評被害よ、迷惑千万ね」
三つ編みの髪を指で弄りながら、悪態を吐く。
こんなデタラメで、外の連中のいざこざのせいで此方の有意義な時間と空間を、余所者に荒らされたり害を成すなど、不快不愉快極まれり。
少女は「ベルゼ兄さん」と呼び振り向く。
「焔…っていうあの連中、普通じゃなかったわね。兄さんもそう思う?」
「………ウン、ソウダネ。ミレイノ事ヲ狙ワナカッタ――アノ子達、動キガ慣レテルネ」
「ベルゼ兄さんも解るのね」
ベルゼ兄さんの返答に、少女は満足そうに掌を打つ。
これは「知能の低いベルゼ兄さんが、果たして何処まで思考能力が発達しているか」という実験だ。少女は知的好奇心が強く、それでいて実験に対しては最早趣味である。そして実験が検証されたことに、美怜は嬉しそうだ。
別に兄の体を実験で改造したり、従うように改造をだのという様な行き過ぎる狂った研究者ではないので御安心を。
因みに名前のない怪物だったベルゼ兄さんに名前をつけたのも美怜だ。名前の由来は『ベルゼブブ』――蝿の王という名目で付けた。
「それにあの子達、『私と同じように』能力まで使ってたわ。アレが忍術と言うのかしら?だとしたら…私は……」
何故美怜は今まで1度も、自分を妖魔と疑わず、人間とも考えなかったのか。どうして、外の世界からやって来る連中もいたにも関わらず、忍の扱う能力が忍術なのかさえ微かな疑惑を掴んでるのか。
其れは――知る術がなかったからに過ぎない。
外の世界から人間に情報を聞こうとしても、対話を望んでも、妖魔と居るだけで、この家に住んでるだけで、ベルゼ兄さんの妹だからと言うだけで、殺されかけたから。
話にすらならないと言ってもいいだろう…汚い言葉を投げかける忍、彼女を化け物と呼ぶ忍、殺さないでくれと命乞いする忍。中には忍ではなく一般人と言うべきか、本当に迷い込んだ人間が居たが、ある若き研究者を除いて逃がし事もあった。
だから――美怜達にとって焔達のように自分を殺そうとせず、彼処まで対話が出来たのは、実は彼女達で初めてなのだ。
今日で「妖魔が忍の敵」「妖魔は人間に害を成す」などと言った妄言にも等しそうなその真実は、彼女の知らなかった事実である。
敵としてならば、せめてティオ・ディアボリクスが遺したであろう研究資料に載ってた憑黄泉くらいか、それしか敵としての情報は思い付かない。
因みに妖魔の研究者――ティオ・ディアボリクスという人物に関しては研究資料がこの巣窟の教室に、物心が付いた時から発見したので、少女は直接会った記憶はないが、人物名自体や内容は覚えている。
「なら逆に外の妖魔は一体何をそこまで忍に害を与えるのかしら、何を目的としてるか、どういう理由で?同族である妖魔は共食いするのか、彼等に意思はあるのか、言語は話せるか、理解できるか……あぁ、考えれば考えるほどに未知が広がる…外の世界は、本当にどうなってるのかしら」
そして其れ等を解明したいと求める自分がいる。
これが少女の欲求であり、未知なる存在を知る行為こそ、彼女の言う研究なのだ。
「……やはり、殺さなかったり拷問に掛けなくて正解ね。まぁ拷問に関しては兄さんが目的としてやってたんだけども……兄さん?」
此処でベルゼ兄さんの様子に美怜は気付く。
普段はあのまま侵入者を執拗に追い、帰るまで追っていくにも関わらず、兄さんは此方に振り向き、対話を望んでいるようだ。
「ミレイ、ミレイ――話ガアルンダ」
「あら――何かしら、兄さん?」
ベルゼ兄さんの強い衝撃から何とか逃げ延びた焔達は、息を切らしながら、廊下を歩いていく。
大した怪我も致命傷もなく、軽傷ゆえに妖魔ベルゼからも追ってくる気配はなく、無事撤退する事に成功できた焔紅蓮隊は、何とか生き延びる事ができた。
「はぁ……はぁ……な、何なのよあの馬鹿力…し、死ぬかと思った……あんな化け物が、徘徊してるっていうの?ううん、あの妖魔が本当にあの子と兄妹なの…?」
「命からがら撤退できたとは言え、次はどないするん?正直あのベルゼ兄さんっちゅー妖魔、わしら5人で勝てるかどうか分からへんで」
汗びっしょりにして生きた心地のしない未来は呼吸を何とか整えようと集中し、日影は冷静でありながら次の対策を考える。この中で自称感情ない日影は沈着冷静と言うべきか、動揺せず一番に状況を打開しようと考える。勿論、考えるよりも言われて動く方が彼女としては性に合うのだろうが、日々心身ともに成長してる日影は、ただ言われて動くだけの戦闘マシーンの存在ではない。
「ええ…秘伝忍法もまるで歯が通らないですし…」
「だけど倒せない…ってことでもないんじゃないかしら?焔ちゃんでも妖魔の攻撃は弾き返したし…少しでも情報が持ち込めただけでも充分価値があるし、話し合って作戦を立てるのも…って焔ちゃん?」
詠は妖魔の攻撃が通じなかった事に多少困惑と微かな絶望を残し、春花は諦念せず打破できる状況を考える。そんな間中、春花は焔の様子に違和感を感じる。
心此処にあらずと言ったように、春花に呼ばれても反応せずそのままボーッと虚空を見つめていた。
「焔?」
「ん?あぁ、春花か…お前達、怪我は…大丈夫だよな?」
「大丈夫だけど…どうしたの?様子が変だよ?」
漸く呼び掛けに反応した焔に、未来は益々不審そうに目を丸くする。撤退を出した事にも意外ではあるが、其処は生死を分けた状況の中では仕方ないだろう。然し、その後の様子もどこか自信というよりも覇気が消え去ったかのように、靄付いている。
「いや…別に……」
「焔さんらしくないで。戦う時までは良かったのに、ベルゼ兄さんって妖魔に戦慄でも覚えたん?」
「あぁ、いや…そういう訳ではなくてな。たしかに強かったのもあったし、私達を簡単に殺せそうなくらい、そんな絶望感を一瞬で見せられたが…」
焔にしては珍しく弱気で、それでいてベルゼや美怜と出会ってから少し様子が変だ。
「ちょっと焔…?どうしたのよ…?らしくないわよ?そんな弱気になるなんて…」
「弱気になってたか?…はっ、確かにらしくないな私。いや…な、あの美怜ってヤツ。よくよく考えたら私に少し似てるなと思ってな」
『!?!』
考えもしない予想外な焔の発言に、未来は勿論のこと、日影、詠、春花は仰天する。自分達の実力に打ちのめされてるのかと思いきや、意外な言葉が返ってきた。
焔と美怜が似ている?
考えれば真逆だろう、熱血で暑苦しい焔とは他所に美怜は冷血で物静かな沈着冷静のある人物だ。いや、それ以前に焔自身の口から他者と似てると公言するなど、らしくないと言うよりただただ驚きだ。
「………兄妹。……妖魔だからという理由だけで黙って殺されてろ……か…」
その言葉が頭の中で焦げ目のようにこびり付く。
焔は悪という道に関しては博識であり、それなりの定義や美徳を持っている。だからこそ、美怜に何処か納得や同情が湧いてしまうのだろう。
ただ悪だからと言うだけで差別や批判を受ける事に焔は慣れてるし、そう言う弱腰の相手など散々見飽きてきた。それと同じように、美怜もベルゼもただ妖魔として生きてるだけで、 殺されなければならないのだろうか?
確かに妖魔は人類の敵だ――然し其れは、妖魔が人間に危害を加えたらの話で、逆に何も罪を犯してない妖魔を、そこまで執着して処分すべきなのだろうか?
そんな行為が、カグラ同行以前に自分達に誇りがあるというのだろうか?
いや…何よりも、焔自身として何処か心の中で引っかかるのは、兄妹という事だろう。
焔は元とはい善忍家系で育っており、継ぐ者としてはたった一人っ子。だから妹や弟はもちろんの事、兄や姉など血の繋がった兄妹がいる訳では無い。だからこそ、兄妹という絆はああなのか――嘗て自分の人生を狂わせた小路と、兄の復讐の為に蛇女にやって来た旋風を思い出す。
小路が如何に屑とはいえ、妹の旋風とは血も繋がっており、あの兄妹の存在は焔に大きな影響を与えていたのも確かだ。
だからこそつい思い出してならない――美怜とベルゼという兄妹が、小路と旋風を何処か連想してしまうのを。
(やれやれ、私も随分と甘くなったものだな。昔の私なら、そんなもの関係なく切り捨てていたのに)
嘗て蛇女にいた頃の焔ならば、迷わず標的を仕留めるような残忍だった。命令とあらば、例え親だろうが子どもだろうが老若男女問わず斬り捨てる。其れが忍だというのも、嘗て半蔵学院との超秘伝忍法争奪戦の時にも吐き捨てていた。
然し、今となっては自分は随分と変わったのだと思う。飛鳥に影響を受けたのもそうだし、伊佐奈との戦いを交えて、己の目標も信念も新たに生まれた焔にとって、美怜のような自由気ままな在り方に、少し嫉妬に近い願望も現れてるのだろう。
彼女の言う言葉に反論をしなかったのも、正論だからであるからだ。
「……もう少し、あの美怜とやらの話を聞く必要があるかもしれないな…それに……」
『本当なら今ここで、ベルゼ兄さんにグチャグチャに嬲り殺されても可笑しくないのよ?』
理由がどうであれ、せめてあの元凶の妖魔は野放しには出来ない。
ベルゼは確かに正当防衛で忍を排斥し、平穏を守り続けてきたのかもしれない。それを決してするなとも言えない。
だが、美怜と話し合うにしても先ずはあの妖魔をなんとかしなければならない。妹にとって兄の言葉は聞くものだと言うが、端から見れば兄の妖魔など暴力装置。
それさえ止めれば、穏便に事を済ませることも出来れば、何とか情報は貰えるかもしれない。
何よりもしまたあの妖魔を放置し続けていれば、また此処にきた忍や人間など被害が出てしまう危険性もある。
少なからず、自分達が敵であると見られてる以上、争いは免れない。
「済まない皆んな、ちょっと良いか?」
その為にも、先ずは仲間達と共に態勢を立て直さねば。
焔ちゃんって原作でも殆ど正論ばかり言ってたり、悪の美学には惚れ惚れするような言葉を使ってるけれど、いざ美怜を目の当たりにして物も言えなくなってしまうと黙り込んでしまうという。