思ったより長くなっちったぁぁぁ!!
って事で続きをどうぞ!!
あ、因みに美怜の情報に関しては下の方にあります。
焔達とベルゼ兄妹との戦いを終えてから、焔紅蓮隊の基地と称する森林奥地の洞窟で、新しく家族として仲間に加わった美怜と共に洞窟で暮らしていた。
一人が仲間に加わるだけでも、今までとは大分賑やかになったもの…なのだが。
「このプラスチック製の四角形はなに?少し借りるわよ、コレに刺さってる黒いのはなにかしら?」
「あーーっ!!ちょっと美怜!だめ!保存してないのにUSB抜いたら…」
ブチッと抜いた音に、何故かパソコンの画面が停止した。それと同時に未来の激しい絶叫が響き渡る。
「あーーっ!?!私の15万するパソコンが逝ったーーー?!!」
「何これ、動かなくなったわ…つまらない……」
遂に故障(元々古かったのもあるため)してしまい、嘆く未来を他所に、心底興味を無くしたようにUSBケーブルをポイっと捨てる美怜は、悪魔か鬼畜のようだ。
賑やかになり過ぎて少し騒音地味たようにカオス化?となっている。
「美怜ちゃん…未来が泣いてるわよ…」
「そう。あら春花、貴女の持ってる薬物調合書の本借りるわよ。家にあった本にも調合書はあったけれど、外の世界の知識は新しくなってるから、照らし合わせ序でに読ませてもらうわね」
今度は春花の手に持ってた書物に興味を示したのか、微笑みながら物触して分厚い本に早くも熱が入っている。どうやら美怜にとって春花の薬は大変興味を唆られるそうだ。
「って未来のパソコンにもう興味なくしてるし…良いけど、本当に本を読んだり色んな事に興味を持つのねぇ…初めて会った時から知的好奇心が溢れてる子とは分かっていたけれど…」
「あら、知識を得る行為は全て研究よ?況してや前の家は限られた空間だったし、全ての書物は読み通したもの。
それに貴女の薬学にはとても興味や探究心が刺激されるわ…貴女は良い趣味を持っているのね…。然も私の知らない科学や薬物の知識も沢山あるんだもの、興味が尽きないわ」
「そ、そんなに…?!ある意味…美怜ちゃんにそう言われると嬉しくなっちゃうわぁ。それに私が発明した薬の魅力を誰も分かってくれなかったし…美怜ちゃんが初めてかも♪」
「ふふ、春花…貴女ってとても面白いのね、見てて飽きないわ。案外私達は趣味が合うと思うわ。
そうね、今度調合した薬で野生の妖魔にも飲ませてあげましょう?上手く活用すれば今後とも有意義な研究発展や未知なる知への開拓も夢じゃないもの。
問題は然るべき研究発展が可能な環境が整ってないのが残念だけど……まぁ、前の家も精々注射器や軽い薬物位しか無かったし、今と比べれば然程変わった変化はないから高望みできるものではないのも事実ね。取り敢えず春花と同じくらいの知識を身につけて助手位になれれば順調かしら」
「あかんわ、美怜さんと春花さんが手を組んだら間違いなく阿鼻叫喚やで。全力で止めなわしらまで巻き込まれるし」
聞いてて早々耳が痛くなる混沌とした会話に、あの日影でさえも手に頭を押さえつけて呆れている。
マッドサイエンティストの春花に、知的好奇心が旺盛な美怜…良くも悪くも相性は抜群であり、頭脳明晰という点では二人は息が合う。
「大丈夫よ、未来に薬を飲ませれば良いし…♪」
「春花様…?!」
「へぇ…被検体が居たのね。それならより効率よく研究が捗れるわ♪」
「ちょっとぉ!?!二人揃って鬼なの!?この悪魔!」
「安心しなさい、毒物に関してはそこらのモルモットやらを捕まえて実験するから。…毒といえば、この森にも毒を持ったマムシを見かけたわね…今度毒を抜いて薬物序でに武器として保管するのもありね…抗体を作るもよし…ふふふ、やるべきことが多くて嬉しいわ♪」
「はぁ……本当に幸せそうで何よりだこと……まぁ、気に入ってくれたのならいいけど…」
「ありがとう…♪」
「いや、褒めてないし!」
未来と美怜のやり取りも、まるで子供同士が冗談で談笑しあってるようで暖かく、ほんわかとした空間が漂っていた。
…美怜は新しい家に引っ越してからも、不服はなく楽しそうに過ごしている。春花の薬の話といい、未来との揶揄いといい、本人は何不自由なく面白そうに話し合ってるのを見て、早くも馴染めている様子だ。
事は数時間前に遡り、美怜から仲間に引き入れてくれという願いに焔達五人は予想外と言わんばかりに、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で目を丸くする。
「仲間にって…えぇ!?!アンタ、此処を守って生きていくって言ってたじゃないの…?!」
「ええ、でも…ベルゼ兄さんが死した今、空き家になったわ。住んでいた兄と妹は、居なくなってしまったもの。そして、この家は何方かが欠けてはならない…兄妹が居てこそ、成り立つものなのよ」
ベルゼ兄さん亡き今、この家は美怜だけのものとなり、そして兄を失った彼女からはもうこの家には用はない。
兄のいない、妹のいない家は、攻略打破された妖魔の巣となりこれ以上止まる理由も彼女には無くなったわけだ。
この家は、ベルゼと美怜が居たからこそ家として成り立っていた訳で、片方がいない此処は家ではなくなった。
「つまり、美怜ちゃんは此処での役目を終えた…と、解釈して良いのね?」
「そうね。兄妹というものは、時に互いを縛り付け合うものだもの…ベルゼ兄さんも、その事は理解していたわ」
愛が重ければ束縛し、縛り付けるという事象は人間関係でも多い問題だ。ベルゼと美怜も、お互いを大切に思い遣り愛し合っていたからこそ、互いが縛り合い、今の形になっていたのだろう。
「縛り付け合う…ね、美怜ちゃんの言ってる事は大いに理解できるわ…」
母の異常に歪んだ溺愛に縛り付けられた春花は、どこか皮肉が効いたように目を俯ける。だからこそふと思う…美怜とベルゼのような、純粋に愛し合う家族を見て嫉妬と羨ましさが心を募らせてしまう。
もし、自分もベルゼのように父や母に恵まれていたら…そう考えると、どこか複雑な心境になってしまうのは否めない。
「……それに、未来…と言ったかしら?……有難うね、兄さんのことを肉親と呼んでくれて。それについては感謝するわ」
「な、何よ急に…調子狂うじゃない……アンタは強いのね、私たちが言うのもなんだけど…復讐しようだなんて思わないなんて…私の知ってる人達はそう言う事に関しては復讐心を持つのに…」
「似た境遇に遭ったからと言って必ずしもそうなるとは限らないわ。況してやベルゼ兄さんが託した上に私達も覚悟の上で殺し合いをしたんだもの…恨むだなんてとんでもないわ」
それにベルゼ兄さんは妹を守るという義務と引き換えに多くの命を奪むて来た。幾ら悪いのが忍側とはいえど、殺し合いという場に置いてベルゼが死なない保証はないし、兄が死んだからと言って逆恨みする様なメンタルは持ち合わせていない。
「それに私の正体が忍であり、自分の存在に興味を持ち始めたの……忍としての本質に、この不条理で理不尽で、矛盾だらけなこの謎多き世界にも……だからこそ、貴女達でさえ良ければ迎え入れてくれないかしら?」
「………」
焔は暫し沈黙を長くした後、真っ直ぐ少女の瞳に向き合う。少女も揺るがない、純粋な眼を逸らす事なく、互いに向き合う。
「…私は問題ない、寧ろお前が言わなければ兄の命を背負い、お前と向き合う覚悟は決めていた。お前の兄を倒した私自身のケジメと責任の義を持って…」
「……それは貴女自身が私を仲間に引き入れたいのか、ベルゼ兄さんの死に負い目を感じているのか、どっちかハッキリして欲しいわね」
「決まってる、両方だ――」
美怜を焔紅蓮隊の家族として迎え入れる事も
大切な兄であるベルゼをこの手で殺めた事も
何方も譲れない本当の気持ちで、代え難い理由。片方だけで成り立つわけでは無い。
「両方…?」
「何方か一つを選べ、なんて選択肢は持ち合わせていない。何方も変え難い事実で、譲れない理由…だから私は、お前に恨まれようとどんな目で向けられようと、受け止める覚悟は出来ていた。
知ってるか美怜?悪は善よりも寛容だ――どんな物でも受け入れる」
窮屈で差別的で、綺麗事だけを受け入れる善とは違い、一つだけでなく全てを受け入れる。それは焔が蛇女に在籍していた頃から腐るほど覚悟を決めていた信条だ。
一つの理由だけでなく、凡ゆる理由も受け入れるのも、また悪忍としても寛容な心意気としても必要な事なのだ。
「ふふ……貴女も詠と同じく面白いこと言うのね。貴女にも益々興味が湧いて来たわ…。それに貴女達のような不自由のない自由さと、凡ゆる常識に縛られずにいる貴女達はとても魅力的ね…。
ベルゼ兄さんの死に対して、貴女達が責任や負い目を感じる事はしなくても良いのだけど…そこまで言うのなら仕方ないわね。
なら責任として私を楽しませ、対話をし、受け入れなさい。それが私をこの妖魔の巣という鳥籠から広い外の世界へ連れ出した責任と、兄さんを倒したと言う罪を背負う貴女達の責務と摂理…これで、良いかしら?なんてね」
「ああ、その罪と責任を受け入れよう――そして、ようこそ…焔紅蓮隊へ」
こうして奇妙な妖魔と忍の兄妹のお話は幕を閉じ、一人の少女は焔紅蓮隊として新たな仲間に加わった。
それから美怜の案内(元々家主として覚えていたからか)の元、時間は大して掛からず無事なんとか妖魔の巣から脱出した焔達。洞窟から出てみれば、外の景色はもうすっかり暗く染まっており、梟の鳴き声が静寂の森を静かに支配していた。
それから焔紅蓮隊の拠点へ戻る事も含めて、忍務に赴いてからは数時間が経過しており、たどり着いた時にはすっかり夜となってしまっていたのだった。
こうした経過を通して現段階に於ける。時間にしては遅いわけではないが、夕日が沈んだ頃合いからして19時半過ぎと言った所だ。
紅蓮隊の基地に到着した美怜はそこから今に至って興味深そうに、それこそ興味の対象があるものを手当たり次第探り触れるその姿は、さしずめ何も知らない純粋な女の子供のようだった。
誰とでも馴染め打ち明け、微笑んでる美怜を見て思わず頬が綻んでしまう。
「思った以上に馴染んでるじゃないか美怜。楽しそうで何よりだな」
愉快そうに会話する美怜に、焔が気にかける様に声を掛ける。幾ら美怜を受け入れたとはいえ、蛇女に在籍していた時は皆どこか殺伐としていた雰囲気もあった為、転校(春花が遠回しに)して来た雲雀でさえも周りに馴染むどころか、会話さえ覚束なかったというのに…。その点、美怜は平等に仲良さそうだ。
「ふふ…凡ゆる生物が生きていく中で最も適しており、尚且つ生きることに特化したものは『適応』よ?環境や状況に適応し、順応し、進化する生物こそ、現実に於いても社会においても生き延びやすいもの。生物として優秀に適してる証拠だと思わない?」
「なんというか、理学的だなぁお前は……」
「否定しないわ、事実だと自覚しているもの。それに貴女もそんな所に突っ立ってないで、こっちに来て話に混ざりなさいな。貴女との対話もしておきたいもの、皆んなで一緒に混ざりましょう?」
テーブルの上で円卓のように囲いながら、楽しそうに話す美怜は焔を誘うように手招きする。
馴染めたどころか対話を望むのを見た辺り、不服どころか満足そうだ。コミュニケーション能力も非常に高く、彼女の話も聞いてて飽きないものばかりだ。
「ふふ♪皆さん楽しいお話の途中で申し訳ありませんが、お食事の時間ですよ〜♪今日は忍務が終わってから作ったので、いつもより夕食の時間は遅いですが……」
「お!待ってたぞ詠!!すまないな…お前も疲れてるというのに…」
「いえいえ、食事の調理担当は私の仕事ですから…♪それに、焔ちゃんが一番心身ともに疲れてるのは事実ですし」
話の途中で食事の用意が終わり、円卓のテーブルの上に湯気が漂う皿がことりと置かれる。湯気が漂い、香ばしい香りが鼻をくすぐり、一気に空腹感が襲ってくる。
全員とも腹を空かせており、待ちわびたように出された食事に目を通す。
日影や春花は箸などを出し、未来は飲み物をコップに入れていく。
「美怜ちゃんもお口に合うと良いのですが…」
「調理…へぇ、貴女…料理も出来るのね。食材を調理し本来の素材より美味しくする過程…素晴らしい技術を持ってるのね。
だけど、これは何かしら?この…スープに浮かぶ緑の草は」
「これは野草です♪あぁ、ご心配なく…ちゃんと食べれるので、味は保証しますわ♪」
焔紅蓮隊定番の夕食は野草のスープ添え。
前は野草のスパゲッティと言いながら、湯気が出た野草炒めが出たりしたものだ。ニックネームの付けどころはさておき、結局は野草だけだという。
だが味は中々行けるもので、見掛け倒しとはこの事だが…初めて見る美怜はどんな反応をするのか…
「中々美味しそうじゃない、有難う詠。それでは頂くわ」
どうやらその心配も杞憂に終わったようで、本人は気にしてないらしい。野草にさえも顔を嫌がらずに美味しそうに呟く美怜に、詠は益々顔を綻ばせる。
「まぁ!そう言って下さるとうれ…あら、美怜さん素手で食べるのは行儀が悪いですわ。ほら、箸を使って」
「…?私には手があるもの、わざわざ使わなくても…」
「だーめ、ほら。あーんなさって?少しお熱いですので息をかけて冷ましますね」
「ん…分かったわ」
箸で野草を掴みながら、食べさせる二人は何だか姉妹というよりも親子みたいだ。
素手で食べようとする美怜には何処か野生児を感じさせる。
「ぷぷーっ!アンタ、箸も持てないのー?」
「さっきも言ったように今まで素手で食べてたもの。箸なんて使った事ないわ」
「うっ…なんかそうやって素で返されると……バカにしたつもりなのに…」
未来からすれば煽ったつもりでいたのだが、美怜には効かなかったようで通じていない。未来と美怜は妖魔の巣で会った時から衝突し合う事が多い。
相性にも問題があるし、未来が短期なのもあるが、流血沙汰にならないだけまだ可愛いものだろう。
「美怜さんはいつもどんなもの食っとったんや?外の食事にすら疎いっちゅーことは、食料とかどないしてたんやろ」
ここで疑問に持った日影の問いに、未来も打って変わって興味が湧いてきたそうだ。
「あ、それ私も聞きたい!素手で食べてたんだから、木の実とかかな?詠お姉ちゃんと同じ野草でも食べてたりするの?」
「食料はベルゼ兄さんから貰ってたわ」
「ベルゼさんは美怜さんのお世話が本当に好きだったんですのね、妹の為に食材を探しに行く…なんて素晴らしいのでしょう…!」
「いいえ、正確にはベルゼ兄さんの体の一部を貰った…と、言った方が正しいわね」
――えっ?
美怜の放った衝撃の言葉に、或る者は凍りつき、或る者は思わず吹き出してしまう。
「ちょっと!?吹き出しちゃったじゃない!!」
「失礼ね、正しい事を証言したまでよ。批難されるなんて、況してや汚いのは貴女の方じゃない」
吹き出しては怒鳴る未来に、煩そうに眉をひそめる美怜は、不愉快そうに表情を曇らせる。
いや、こんな事を食事中に話されたら誰だって未来の反応を取ってしまうのは致し方ないだろう。
「あ、あの…美怜ちゃん。それって一体どう言う…わ、私…言ってる言葉は分かるのに、理解しがたいものでして…」
「ベルゼ兄さんが妹の為にと自分の体の一部を引き千切って私にくれたのよ。美味しかったわ…♪新鮮な生き血に噛むたびに口の中に迸る肉の味…ふふ、例え貴女達がその場に居たとしてもあげないわよ?」
かなり戦慄を覚えた。
それを嬉々として語る美怜に、流石の詠も開いた口が塞がらない。他の四人…あの肉大好き主義者の焔でさえも引いているのだから。
「なんか…やめよこの話……流石に行儀が悪いもの…」
「先に話を振り出したのは日影でしょうに…」
「ほ、ほら美怜さん!箸を持って食べましょう?お代わりもありますし!」
「私、箸が持てないのよ。これ、どうやって使うの?」
「えっとですね…ほら、ちょっと指失礼しますわよ?」
「賑やかだなぁ…」
いつもと変わらなかった食卓も、紅蓮隊の空間も、美怜が一人介入しただけで華が咲くように彩り、より賑やかに明るくなる。
彼女一人の存在感がここまで効果を発揮するとは思ってもいなかったのだが…まるで彼女の存在が、焔紅蓮隊の原動力にもなってるみたいだ。
そう言った意味では、ベルゼは本当によく一人で妹を守ってくれたものだ。ベルゼがあそこまで妹を大切に思い遣れるのも、美怜と一緒にいるだけで幸せそうだったのも納得がいく。
(お前の妹は、私達が守って行く……だから、もう安心してくれ……)
殺した側が思うセリフではないのは百も承知。
だが――ベルゼは覚悟の上で、そのうえで私達に託したと言うのなら、責任は持たなくては行けないし、守りたいと思うのもまた悪いことではない。
仲間なら、家族なら、それ位は当然だろう。
綺麗事?上等だ――罪やベルゼの想いも背負うと言うのはこう言う事で、況してや自分たちに託された以上はそれに応えるのもまた、兄の弔にもなりそれが救いでもある。
逆にベルゼはこれ以上妹の為に血で自身を汚すことも、罪を被ることもしなくて済むと言うのなら、ベルゼは救われたと捉えても過言ではない。
多くの死者はベルゼを許すなとも言ってるかもしれない、許されざるを得ないかもしれない。だからこそ命を以って罪を償ったとなれば、これ以上語ると言うのは野暮というもの。
ベルゼも何も、悪の中の悪という訳ではないのだから――
(問題は明日、鈴音先生にどう説明をすれば良いかが問題だが……ふむ、どうしたものか)
鈴音先生には既に連絡を済ませておいた。
明日の早朝には彼女が来るだろうし、今は忍務を終えて遅いと言う事も含めて、安全と万端な準備も含めて今日は休もうという結果となった。
……いや、どんな結果になろうと私達が望んだ事であれば、悔いはない。美怜を上層部に引き渡さない…これは下手すれば自身達がより上層部からして危険因子と判断される可能性はあるが、元々抜忍として命を狙われてる以上は警戒する事にも変わりはない。
そうこうしてる内に食事はあっという間に過ぎ、各々は疲労もあってか明日の為にもと就寝の時間を迎えた。
体力や精神力も随分と磨り減ったのもあって、皆は熟睡をしている。
…一人を除いて。
「……んん?」
夏を終えてから涼しくなったというものの、夜になると少し肌寒くなってしまうのは拭えない。
寒さでつい目を覚ましてしまった焔は、眠たげな目を擦りながら退かしてた毛布を手に取る…が――
「ん?美怜は?」
五人分の布団しかなかったので、詠と一緒に(詠が一方的に誘い)寝ていた美怜がいない。詠自身はそれに気付かずぐっすりと眠っているようだが…美怜と寝る時などは「甘い香りがしますわ♪」と甘い香水器が抱き枕になったような気がしていたらしいが、寝ている彼女は気付いてない様子だ。
「外にいるのか?」
ふと少しだけ不安になった焔は、颯爽と洞窟の出入り口に向かう。外からは月の光が照らし、夜空は綺麗な星で埋め尽くされている。森林地帯のここは都会や建物などない分、より空の明るさを感じる。これもまた大自然ならではだろう。
そうこうしてる内にと出入り口の近くには足を伸ばしながら尻をついて座り込んでた美怜が静かに読書をしている。
「こんな所にいたのか…相変わらず研究とやらに熱心なんだな」
「あら、焔じゃない。ふふ…中々寝付けれなかったの。文字を読んだり物事に集中すれば眠気も来るかと思ったのだけれど…環境が変わったせいか、中々に眠気が来ないのかもしれないわね。まぁ、その内慣れれば貴女達と同じ生活リズムに戻るでしょうけど…」
栞を挟みパタンと、春花に借りた薬物調合書を閉じる。分厚い本、借りたばかりだというのに半分もいってるのだから、美怜は本当に読書が好きなのだろう。
「まぁ、お前自身もあの家にいたんだし…いきなり引越しとなれば直ぐには難しいだろうな…」
「そもそも貴女達との睡眠時間も違うもの……まぁ、今日は刺激的な出来事が多かったのもあるし、貴女達がベルゼ兄さんを相手に一人も犠牲者を出さずに倒したのだもの…動いてない私と貴女達とで当然の結果だと思うけれどね」
「……お前は、本当に私達を恨まないんだな…」
「その話は終わったはずでしょう?」
「いやなに…そういう事じゃなくてだな、お前で初めてなんだ…前にも、とある悪忍の兄を半殺しにして、妹に恨まれ復讐をされ続けていた時期があってな…兄妹とはいえこうも違うんだなって改めて思い知らされた」
「貴女にもその様な過去があったのね…だから最初に恨むだなんて感情を押し付けてたの…それなら納得ね」
小路と旋風――あの兄妹は何方も焔の人生に置いて変えてしまう程の影響力を与えたものだ。特に小路に至っては影響という次元を超えて狂わされたと言っても過言ではないほどに。
一方で旋風は焔の人生よりも雅緋達が突き動かす原動力にもなった。そう考えるとあの兄妹とは避けては通れない何かがあったのかとさえ思えしまう。見えない何かの力に…。
「美怜も程々にしろよ?寝不足になって…では、朝が辛いだけだろうし…私はもう寝るが…」
「待って焔、貴女と丁度話がしたいと思ったのよ」
戻ろうとする焔を、美怜は腕を掴んで制する。
「なんだ、トイレか?それとも喉が渇いたのか?」
「此処に来たから基本的な生活ペースと事情は説明を受けたし覚えているわ。そっちの問題は心配ないの――」
「んじゃ何か?お腹が空いたのか?それなら明日までに」
「貴女はまず人の話を聞きなさい、その勝手な決めつけは致命的な点に繋がるわよ?」
顰めっ面で叱る美怜に、焔は少しバツが悪そうに美怜の話を聞くことにする。少し冗談のつもりで言ってたのだが…いや、こういう時はきちんと話を聞くべきだろう。
「話ってなんだ?」
「春花や未来、そして貴女からも忍の世界や条理については聞いたわね。凡そ理解は示したし、同時に私達の家に侵入者が多く来たのも合点が行ったわ。そして今になって貴女達が此処へ来たのも、貴女達が私を捕えろという忍務を受けたのも……この世界には個性と呼ばれる忍の力に似た超常――超能力を扱える人間が8割もの人口で締めているのも…とても魅力的で、時に本の常識と違う点もあって、中々興味が尽きないわ…」
「そうか…それで?」
「……貴女が、いいえ…貴女達がどうして抜忍になったのかについて」
「?それなら話しただろう?私は…道元と呼ばれる学園のオーナー…分かりやすく言えば主を斬ったことで、抜忍にされた…。まぁ、怨楼血を復活させたアイツを許すわけにはいかなかったとはいえ、何とか食い止められたからいいものの…本当に散々な目に遭った…」
「ええ…だからこそ、私はその点について可笑しいと思うのよ」
美怜の返答に、焔は一瞬で目を覚ました。
何…だと?と、言葉を吐く前に美怜は話を進める。
「妖魔を倒すことが忍としての役目…その妖魔を復活させた道元とやらは大きな罪と責任を持つ事になる。それはそれとして…妖魔を倒し蛇女の生徒たちの犠牲者を一人も出さずに救い出した貴女達が、どうして抜忍として罰せられたのかしらね?プラスマイナスゼロと考えれば、問題ないと思うけれど?」
「……それは、道元を斬ってしまった罪は重いからで…」
「そもそもの話、その時点で可笑しいのよ。反乱という罪は大きなものだけれど、忍としては一人でも妖魔を倒せる者が欲しいのでしょう?それなら貴女を罰する方が上層部側からしてデメリットだと思わない?それをあたかも使い捨てにして、貴女達を殺す様にさえ命じてる……ねぇ、本当に上層部は妖魔殲滅が目的なのかしら?私からすれば余りにも愚行で、その上に効率が悪すぎる…」
美怜の口は止まらない。
「寧ろ逆に考えれば、道元とやらの野望を決死の覚悟で食い止めた貴女を賞賛するのが成り行きではなくて?それとも妖魔よりも主君が大事なのかしら?だとしたら変ね?焔が止めなければ被害は大規模でより損害を生み出していたにも関わらず……幾ら上層部といえど、それくらいは予想できて当たり前…いえ、遥かに想定できる内容だというのに…まるで何ともない様に貴女を抜忍にした」
「……何が言いたい?」
「今の忍の世界には妖魔殲滅とは違う、裏の目的が存在するって話よ。この不条理な世界には、大きな矛盾に謎が広がるばかり…そしてその矛盾は、嘘と真実を表すもの」
「!?!」
その話に、焔は心臓が射抜かれたような衝撃を受ける。まさか…自分たちよりも忍の知識が少なかった彼女が、自分達との会話を得た知識だけで、美怜自身はその答えに辿り着こうとしていた。
「妖魔殲滅が忍の目的…それも本当に上層部の狙いかさえ、不明ばかりね…。
妖魔の存在自体が忍学校を卒業した者にのみ知らされること、その間は善忍と悪忍の抗争が絶えないこと、妖魔が生まれるケースが忍の血によって生まれること、そして忍の目的が妖魔を倒すこと…
私考えたの――だとするのなら、そこで幾つか可笑しな話が生まれてくると」
「おかしな…はなし?」
「まず、妖魔の存在が公に明かされてない…これ自体が大きな異常事態を来たしてるわ。妖魔によって忍が殺された数も被害も得体が知れず、忍の死者が今も妖魔によって続出されてることが事実なのであれば…尚更ね」
「どういう事だ…?」
「……生き残った妖魔はどこにいるのかしら?知能の低い妖魔が、人々に見つからずに公にさえ報道されない…これ自体が大きな意味を持ってるのだと私は思う」
「それは…妖魔を明るみになる事で、表社会や公共に大きな混乱を招くからだ。そして妖魔討伐の忍務が行き届くのも、その処理によるものだろう…」
「なら、なぜ今も妖魔が無くならないのか説明が付かないでしょう?況してや妖魔の目撃ケースさえ一般人からもないというのなんて、余りにも可笑しいも思わないかしら?いいえ…正確には知っていても他言しない者がいる。何にせよ、妖魔の存在を他言してはいけないんだものね」
「………」
美怜の証言に、焔の心は少しずつ揺れて行く。
「次に妖魔の存在を他言してはいけない…これにも私は罠があると考える。確かに不確定要素もある妖魔を下手に公共に話すことは混乱を招くこともある。それについては納得が行く…と、思わせる口実だというのもね。
逆に言えば、上層部はあの危険な妖魔という魔物を放置してる事になるんだもの。それだけでなく忍学生にさえ教えてはいけない決まりなんて……これもまた問題視される大きな点ね」
忍学生が未熟な実力で妖魔を倒しに行く事を禁じてはいる。それも焔が説明した通り…現に両備も両奈も妖魔を教えられてないからこそ、両姫の仇が妖魔ではなく雅緋だと誤解を生み、結果的に争いを生む形となった。
だが美怜の目は誤魔化せない。
「まず妖魔を倒すことを本当に考えるのなら、忍を一人でも多く妖魔殲滅に当てはめれば良い…。それを卒業するまで善悪の忍同士で無益に争わせる…学生とは言えど、善忍と悪忍が争う必要なんてあるのかしら?いいえ…そもそもの話、争わせる余裕なんてあるの?忍の数なんて無限にあるわけでもない…限られているのに、あたかも平気で使い捨ての駒の如く非効率的で消費が激しいやり繰り…妖魔殲滅が遠のいてさえ感じるわね」
「あっ……」
そうだ、と焔はここである事に気がつく。
蛇女にいた頃の焔は、善忍こそ私達の天敵であり悪忍としての宿命だとばかり考えていた。
だが抜忍となりアルバイト生活が地獄の様に始まってた間中、鈴音先生に言われるまで忍の本業が妖魔殲滅だとは知らなかった。
学生を卒業するまで教えない決まりにしろ、どうして…
「「では何故、初めっから目標を妖魔にしなかったのか――」」
此処で焔と美怜の台詞が重なる。
驚く焔を他所に、美怜は口角をゆっくりと釣り上げて微笑を浮かべる。
「あら、重なった…焔、もしかして貴女も薄々感づき始めたのではなくて?」
「いや…まだ……」
「そう、なら続けるわよ。幾ら未熟な忍学生を妖魔に当てず実力を育てるとは言えど、善忍と悪忍の抗争をして命を落とす者が増えるのは承知のはず。…いえ、善悪同士で命を落とす位なら妖魔と戦うべきではないと、私も最初は考えたのよ。でも…それで善忍と悪忍をわざわざ争わせる必要性なんて、それこそ何処にも感じられないわ。そもそも弱い忍を教育してこそ忍養成機関が成り立ってるものだし。
妖魔とは関係なく忍同士をぶつけ合せて命を落とす……貴重になれるだろう戦力を雛に孵化させる前に根を摘む行動。本末転倒ではなくって?それこそ妖魔を倒す前に、妖魔が脅威になりそうなものを敢えて減らしてる様にさえ感じられるわ」
焔達の抜忍に道元の野望、妖魔の存在、忍の目標、善忍と悪忍の抗争…この不条理だらけの要素を、美怜はパズルのピースの如く埋めていき、整理をして、砂浜でゆっくりとお城を立てる様に、推理して行く。
「なら結果論として言わずとも、妖魔の存在を隠す真似はしなくたって良い…する必要性がなくなるわけ。では、なぜ妖魔の存在を敢えて隠してまで、卒業してからいきなり教える形となったのか…ふふふふ、未熟な忍学生を下手に妖魔討伐に向かわせること以外に、何か他の事を隠してると思わない?それとも、違う思惑があっての事かしら?」
「………だとしたら、それは私たちに知られてはマズイことになるのか?」
「可能性は無いわけではないわ。でも大方、人の隠し事なんてバレてはいけないから隠すのでしょう?最初っから隠す必要なんて無ければ、こんな遠回しなことしなくても良いだけのこと…違わない?」
「…なんだか、美怜の話を聞くと…まるで…」
見えない糸で自分たちは動かし踊らされ、妖魔殲滅とは程遠い…何かに向かっている気がする。
「……ねぇ焔、話の途中で悪いのだけれど、確認させてもらうわね?貴女達は蛇女という学校で忍同士と戦ったりはした?」
「ん?あ、ああ…基本訓練だが、時に命を落とす様な過酷な修行を受けていたよ。医務室に運ばれてきた忍も後を絶たないくらい…」
「そう…そして、焔達は怨楼血が復活するまでこの事を知らなかったのね?妖魔が生まれる現象も、妖魔の存在も…」
「そうだが…話が見えないぞ?お前は、何をいきなり…っ」
美怜の質問に答えた焔に、美怜は確証たる微笑みを見せた。
「なら、可能性は確定にまで上昇したわ――上層部は、私たちに何かしようとしてるってね」
「何…っ!?!」
一体どうして、今の会話で美怜が確証にまで至るほどになったのか、先が読めない。
「妖魔が生まれる現象は、忍同士の血によって生まれたと言ってたわね?そこには善忍と悪忍による抗争…そこから妖魔が生み出される。これだけでも忍同士の抗争さえ辞めさせれば妖魔は生まれないのに…では、どうして蛇女には妖魔が生まれなかったのかしら?忍同士が訓練で争い血が溜まるケースなんて、沢山あったはずよ」
「…はっ!確かに!」
蛇女は悪忍の中でもトップクラスに入るほど有名で名が知れた学園。入校希望者はごまんといる上に半蔵や正しき善忍よりも、蛇女の生徒はかなり数多く存在する。
どうして気付かなかったのだろう…忍同士の血が妖魔を生むのなら、蛇女の訓練で血を流すあの場所でも妖魔が湧いても可笑しくはなかった。なのに…何で?
「つまり、善忍と悪忍の抗争の中でのみ妖魔が生まれる現象が発生する。では…それは一体何故かしら…ね?」
「…そういえば、お前の家にも…」
「ええ、妖魔同士で同類を増やしていたわ。でもそれは…互いに傷を出し合ってこそ成り立ったのだもの。そもそも妖魔さえいなければ増やすことができないし…で、私達の家に住んでいた妖魔は好戦的ではなく、人を傷つけようとさえしなかった。何方も温厚、そしてベルゼ兄さんは妖魔を従えることができる上位者――さて、ここから本格的な推理といきましょうか。
温厚な妖魔が生み出した妖魔は変わることなく遺伝子が引き継がれたかの様に温厚で、貴女達の知る妖魔は至って好戦的で凶暴…最初は、家にいた時の考察では環境による問題だと考えていたけれど、ある意味その条件に当てはまるわね」
「オマケにベルゼを除けば戦力もそこまで高いわけでもない…でも、外の世界の妖魔達が凶暴ということは…善忍と悪忍の…人と妖魔が生み出した個体に差が出るというわけか?」
「それも当てはまるわね…でも、それだけではないでしょう?善忍と悪忍は相反する存在。貴女の話を聞く限り、善忍と悪忍は互いを敵と見なし殺し合いをしていた…では、そこから生まれてくるものは憎しみ…。
つまり妖魔達が凶暴なのも、妖魔が生まれる本当の現象は??」
「…っ!まさ…か!いや、それだと私達は…!!」
「憎しみに埋め尽くされた忍の血が妖魔を生み出したのであれば、彼らが凶暴になるのは当然の理――つまり、妖魔が生まれる原因は、善忍と悪忍による抗争」
蛇女で忍の血が大量に溜まるにも関わらず妖魔が生まれないのも、美怜の家に住み着いてた妖魔が凶暴ではなく穏やかだったのも、妖魔が生まれる本当の現象も…
憎しみや敵対によって彩られた、ドス黒い血。
「忍学生を卒業するまで妖魔を教えてならないのは…学生が知ってしまえば、善悪が争う必要がなくなってしまうのを悟られるから。いいえ…争わせる事が出来なくなってしまうから。隠す事も、違う思惑も、どちらも二つとも絡んでくるわね」
「そ、それじゃあ私達は一体、何の為に戦ってきたんだ!?半蔵との戦いも、一体…私達は、何をもって戦ってるんだ…??」
雪泉達が悪忍を憎み復讐心でいた事も、焔達が悪忍として善忍を倒すべきという想いも、全ては作られた思想にして妖魔を生み出す原動力だったのだ。
「それはこっちが聞きたいほどね。逆にどうして…今までこの事に気がつかなかったのかしらね…それが不思議に思えるくらいに。
…その答えは、貴女達の強い感情や信念が、敢えて視野を狭め考えを固定させ、そう思わせなくするようにしていた…とすれば、無理もないわね。それだと貴女達も含め、何も知らない忍も…勘付いてる忍も、今までのことが全て否定されてしまうからだものね」
図星。
美怜は何から何までお見通しなのだろうか?外の知識に疎かった美怜が、焔達が知識を与えただけで、ここまで上りつめた。
「焔、貴女が教えてくれたのよ。妖魔のことも、忍の世界も。だからこそ、私もここまでの答えに辿り着けた…そう考えると、本当に貴女達と出会えたのが幸運……いいえ、それもまた運命なのかしらね。ベルゼ兄さんが託してくれた相手が貴女達で良かったと思えるわ…♪」
美怜は心底嬉しそうに、推理が解かれていく事による快感と開放感に至福を満たしながら語っていく。本当に末恐ろしい妹だこと…。
「さて、ここまで来れば分かるわね焔…。だとすると、妖魔がより効率よく的確に殲滅に近づける方法…それは、忍の争いを無くせばいい。これこそ、尤も理に適った方法だと思わない?いいえ…寧ろ平和的で殺伐としないわ」
「待て美怜!確かにお前の言い分は分かる、でも…!忍には妖魔以外にも人々の影として求められているんだ…表では流せない仕事、何より影で人を支え生業とし…」
「今の世代、ヒーローという職業があるのだから忍に頼らずとも良いと思うのだけど。今は何やらごちゃごちゃと騒がしいこともあるし、忍とヒーローが手を組むだなんて最近な事が増えてるだろうけど、妖魔以上に人を脅かすことって何かしら?」
これではっきりした。
本当は忍など、この世に存在しなくても済むのだと。少なくとも、忍同士の抗争は、禁忌と呼ぶに相応しいほどに、してはいけない事だと言うのも。
「…そもそも、妖魔の存在は思想によって形や個性が作られるの。ベルゼ兄さんは暴食の罪を元にして生まれたから…そうね、旧約聖書のキリスト教の悪魔…蝿を基にして生まれている。怨楼血も同じね、日本神話における大蛇を基に生まれた…妖魔には、ソースが必要なの。そして妖魔達は欲求を満たす為に行動をする、これはティオ・ディアボリクスが見つけた書物ね」
「ティオ・ディアボリクス?」
「ええ、書類や日記によって存在だけは知ったのだけれどね。彼は上層部から危険人物として全国指名手配犯され忍から逃げていたそうだけど…彼は人間や妖魔を実験して凡ゆる真実に辿り着こうとしていた…まるで私とそっくりね。もしかして、ティオ・ディアボリクスは知ってしまったからこそ危険人物扱いされたのかもね。こればかりは仮説に過ぎないけれど…」
猫は好奇心で死ぬ。
ティオ・ディアボリクスは重大な真実に到達してしまったからこそ、忍達も知らない妖魔についての成り行きを書類として残していたのでは?そしてそれを、あの家に住んでた美怜は知ってしまった。
「血は養分、絶叫は子守唄、色欲は鎮魂の役目…妖魔は三大欲求を満たそうと感知して生きている。そしてその血は何も忍だけではなく妖魔でも満たせれる……これで分かったかしら?妖魔という存在事態は、別に危険なわけでも無いの。寧ろ環境が優れていれば、有益な獣として人々に利益を齎せることも可能だそうよ?大昔、人々を守る為に妖魔を生み出した一家があったらしいわ。『天咲家』という忍家系にね…」
それが陽花と漆月と同じ家系を表しているのは、流石に知る術はないそうで。
「つまり妖魔は本来なら貴女達が思う程、必ず滅ぼせなんてものではないの。まぁ、流石に人間を良く思わない妖魔がいるのも事実ね、そう考えると妖魔殲滅という目標は、否定こそできないわね。少なくとも、害意のない妖魔までは殺さずとも済む話だし」
「…お前は、物知りなんだな」
「知識は刀にも盾にもなるのよ?それこそ自身の身を守ることも、仲間を守ることにも繋がるの……無知は罪という言葉は、知ろうとしないことを指してることだと私は思うけどね」
刀と盾という言葉に、どこか飛鳥の顔を思い出す。
最強のライバルにして、最強の友達。
常に死を隣り合わせに、悪を蝕む太陽のような彼女に、ある意味救われた焔は、少し顔を俯ける。
「話を戻すわよ。妖魔の存在を公から隠し忍学生にも敢えて教えず、善忍と悪忍を憎しみ合うように争わせ、妖魔殲滅という聞こえの良い言葉で忍に目標を示し、非効率的で忍の消耗を激しくさせる上層部…
これだけはハッキリと理解できたわ――上層部は、貴女達忍と妖魔に何かしようとしている」
それは妖魔殲滅とは程遠く、何か違う思惑が絡んでくる。
それは一体何なのか?
「…妖魔にも?」
「ええ、彼らを生み出してまで忍が戦うんだもの。では…上層部は妖魔にも何かをしようとしてる。わざわざ忍にだけ何かしたいのなら、妖魔と戦わせる義理はないわ。でも…その思惑に妖魔が絡んでくるとなれば、倒すべき対象を私達は調べる必要がある。そう思わない?対話さえ望もうとせず、見つけ次第殺そうとする…だからこそ、妖魔の謎は多いばかりでなくて?貴女が倒してきた妖魔にも、もしかしたら会話ができた妖魔がいたのかもしれないわ」
そう考えると、焔達が妖魔について詳しく知らないのも無理はない。いや…だが妖魔が喋ることなど、知能の低い妖魔が果たして…
「私はベルゼ兄さんだけが人語を喋れるような特別枠だとは思っていない。会話が出来るのであれば引き出すことで有益な情報が掴めるだろうし、場合によっては……ふふ、今までは私個人による分析に過ぎなかったけれど、貴女達と出逢って仮説が裏付けられたわね」
「もし…妖魔と私達を争わせるのが目的だとすれば…ただただ犠牲が産むばかり…」
「それどころか忍の少子化現象に高齢化も進んでいくわね。そしてやがて…妖魔殲滅を目論むどころか、忍が殲滅する日が近づいて来る…そして忍が消えてしまえば妖魔に抵抗できる者達はなくなり…今はより混沌と壊滅的な惨状となるのは確かね。まっ、私は名も知らない誰かの言いなりになんてなるつもりはないから、私は紅蓮隊の方が性に合ってるわ。
ベルゼ兄さんもそうだけど、私は何者にも縛られずに生きていく…そこに善も悪もない…自由な発想こそ、明日を切り開いていくのだとね」
「………」
「そういえば前述した時に倒されなかった妖魔はどうなるのかについてだけど…もし本当に容赦なく人を襲う化け物だとすれば、自制も効かずに公に場を出て被害が出てしまっても可笑しくないし、幾ら上の人間がお膳立てだの言い訳を並べても、知らない人間が居ないというのは些か不自然ね。
そこで私考えたの…知能が低い妖魔は何者かによって敢えて隠されてるのではないかと。こればかりは流石に考え過ぎかもしれないけれど、その容赦なく人を襲うと言われてるその妖魔が、忍にだけ狙いを定めるかのように集中して攻撃するのには裏がある筈よ」
言われてみれば、と此処で焔は考える。
妖魔を処理するにしろ失敗したにしろ、人を容赦なく襲うのが妖魔なのであれば、なぜ今まで公共の場で襲われずに居た?
そもそも、あれほどの凶暴な妖魔がどうして忍にだけ狙うのか?忍は妖魔を倒すことが目的として存在してると言った。
だからなのだ――今まで妖魔が忍だけを狙っていたことも、一般市民でさえも妖魔を見かけないのも…
そう上手く思考や思想を誘導させられていたことを、不自然に思わせずそれが自然だと考えさせていたことも。
「疑問なんてない、寧ろ忍が妖魔を倒すのが当たり前であり、妖魔は当然のように現れる。そういう思想を固めた概念を植えつけられ、あたかもそれに不自然さえ感じさせない…人は其れを奴隷根性と呼ぶ。成る程、忍は駒や手下などと呼ぶけれど、奴隷とはとんだ皮肉が効いてるわ。
では…妖魔はなぜ一般市民と忍の見分けがつくのかしらね?ベルゼ兄さんでさえ、見分けが付けれなかったというのにね。それなのに、人語を喋れない見かけ次第破壊活動を繰り出す妖魔が、どうしてかしら??」
焔はもう口を開かない。
美怜はどこまでも知的に溢れ、探求し、真実を追い求める。それが、彼女の欲求であり突き動かす衝動。
「……ねぇ、妖魔を従わせてる者がいると考えれば、この事象も考えられるのではなくて?」
「それが私たちが真に倒すべき敵になるのか?」
「あくまで推測に過ぎないけれどね…妖魔の生態に、貴女達の知らない知識や私が得た知識、そのどちらもない新たな生態系や真実があるとすれば、仮説の可能性は消えることにもなるけれど……でも何となく辻褄が合うわ」
確かに、なんて思ってしまうほどに。今までの美怜の仮説や真実、推理は全て辻褄が合う。
「そこで問題よ焔…これまでの事象も考えて、妖魔を従わせては忍達を争わせ、妖魔と忍の殺し合いという舞台を作り上げ、盤上から見渡しそういう仕組みへと誘導できるのに適したものって、何か分かる?」
そこで焔は、我に帰り全てが気がつく。
美怜がたどり着いた答えに、焔は全て点と点が繋がるように、彼女もまた美怜と同じく奴隷根性から放たれるように口を開いた。
「…上層部!!」
「そう、正解よ。上層部が私たちに何かしようとしてるのが確かだと証明できてる以上、その可能性はあるのも事実となる…。まだまだ謎と不安定要素があるけれど、ここまでチェイスできたのであれば上出来じゃないかしら?
まぁこんなもの、ちょっと観察さえすれば簡単に分かることなのに…やはり内側では気づかないことも、外側の私からすれば見方が違うから分かりやすくなるのかしら?何にせよ、こればかりは焔紅蓮隊に入ってる以上、放っておくわけにはいかないものね」
美怜もここまでくると早くも頼もしささえ感じてくる。流石はベルゼざ自慢するだけの妹だ。本当に、忍務で美怜を渡さないと決めて正解だった。
「…いや、道元や伊佐奈のように腐った上の存在が居たんだ。居ない事が不自然だというのもたった今思い知らされた…。美怜、一人でここまで………推理や仮説でも話してくれて感謝する」
「私は思うべき事、真実を話したまでよ」
「もし上層部がそうだとすれば…いや、でも待てよ……上層部は妖魔が同類を増やすことをどうして話さなかったんだ?知らなかったのか?それとも……鈴音先生からは話は聞かされてもないしな…」
「……その鈴音とやらが誰かはさておき、私の家は侵入者である忍が情報を持ち帰ることは出来なかったわ。そして妖魔についての生態系も、あの家だけは誰も知らなかった。それってつまり私の家を知らなかったから、その知識について触れれなかったのではなくって?上層部の考えが不明な以上、下手に動くことも出来なければ謎ばかりが深まるし、考察が山というほど浮かんでくるけれど…これ以上の追跡は現段階では難しいわね」
「それでも大きな進歩だ、このことは詠達にも…」
「待って、これは二人だけの内緒にしておきましょう…?」
「…?どうしてだ??」
「下手に情報を与える事は致命的な点にも繋がりやすいし情報漏洩になる危険性も高いわ…それに…あの子達はまだ研究対象だし」
「研究対象ってお前なぁ…まぁ、お前の場合は調べたいって意味なんだろうけど、アイツらは口は堅い。おまけに疑いなんて…」
「疑ってるわけじゃないの、単にあの子達はまだよく分からないだけ…情報は有限よ。詠はどこか母性的というか、過保護というか、ベルゼ兄さん味を感じるけれどね…ふふ、気に入ってもらえてること自体も嬉しいし、こう見えても貴女達のことは信頼してるのよ?じゃなきゃ付いてこないもの…」
そこまで言われると何処か照れくさくなるが…気に入ってもらえてよかったのは此方も同じだ。
「さて…と。すっかり夜も遅くなったし、私も眠たくなってきたわ。やはり複数の問題を解きほぐしていく作業は知的好奇心を掻き立てられるわね、これもまた醍醐味というもの…。私は寝るけれど、このことは他言無用で…また、何かあれば話はするから…ね?」
「お前がそこまで言うなら分かったよ…私もこの事は誰にも言わない。それに…お前がどう考えてたり、何をしようとしてるのかも見てて分からないことだらけだ私は…」
「あら、人の気持ちなんて誰もわからないし…分からないからこそ面白いのではなくて?その未知に興味を示すものもいれば、畏怖する者もいるけれど…」
「…やっぱりよく分かんないな」
「それでこそ興味が示すというものよ…昔、河豚に毒があると理解していながら毒の除去も知らずにどんな味か食べてみたいと思う欲求と同じように」
「凄い例え方だな…」
「まぁ何にせよ、ここは興味が尽きないことばかりが連鎖的に起こりうる…だからこそ素晴らしい。
私はね焔、この不条理な世界の謎を解明するだけでなく、貴女達と共に目的を歩むつもりでいるわ。
だから…目的と共に貴女達のことや外の世界の常識、知識、情報も吸収していくつもりよ。改めて、宜しくね――」
ニコッと満面な笑みを浮かべた美怜、それは彼女が偶に呟く「感情がない」と言ってた日影に似た無感情とは正反対の、明るい笑顔。それは本当に嬉しそうに、楽しそうに、そして…ベルゼ兄さんが望んでいたその笑顔は、本人でさえも自覚がなく、それでも闇夜の中でも美しいくらいに輝いていた。
そんな彼女が見せた一瞬の輝かしい笑みを向ける美怜にムギュッと、つい反射的に焔は紅蓮隊のアジトへ戻ろうとする後ろ姿を抱きしめる。
「っ?焔…?どうかしたの?」
「ああ…此方こそ改めて宜しくな、美怜――私は、これから先はお前の命も背負って守っていく…」
それは、自分もまたベルゼが役目を全うしようとしていたように、焔もまた純粋に美怜を大切に想いやる。
嘗て悪忍として蛇女に在籍していた冷酷無比の絶対強者と比べ物にならないほどに柔らかく、満面な笑みで言葉を返した。
焔紅蓮隊の日常は、より明るく希望に満ちていく。
そして少しずつ、京都へと赴く日もまた近づいていく――
美怜 CV(種崎敦美)
本名 ??美怜
階級 無
所属 焔紅蓮隊
好きな食べ物 甘いお菓子全般(特にプリン)
趣味 研究、読書、水泳
誕生日3月1
身長151
スリーサイズ B65/W49/H64
血液型AB型
出身地 ???
戦闘スタイル 近距離戦闘、指揮官、後方指揮、情報分析
ステータスランク A
パワーS
スピードC
テクニックS
知力S
協調性A
秘伝動物 ??? アナコンダ
謎多き少女美怜。
妖魔の巣にて物心付いた時から妖魔のベルゼ兄さんと一緒に生きて来た。妖魔に襲われず、ベルゼ兄さんに保護され育てられた事から自身を妖魔であると思い込み、妖魔として生きていた。
人語は襲って来た忍をベルゼ兄さんが捕虜し拷問にかけた際に、忍達の発する言葉から人語を覚えた。難しい文字なども、とある迷い込んだ研究者を捕まえ知識を教わり、彼女自身文字を覚えたことによって妖魔の巣に古くからあった文字などを解読し、知識を得ていた。
忍から迫害を受け、ある程度年月を重ねてから自分とベルゼ兄さんは別の存在であるのを薄々と気付くも、血や種族など関係なくお互い兄妹であり続ける事を決め、家に留まっていた。
それから数年間忍による襲撃は無かったものの、焔紅蓮隊との出会いを機に少女の運命は変わる。
ベルゼ兄さんの死後、妹としての役目を終えた美怜は、兄が信じて託した紅蓮隊に興味を持ち、仲間になる事を望む。
また焔紅蓮隊に入り新たな家族として過ごす事になった美怜は、焔達の力になると同時に、矛盾と不条理だらけのこの世界に潜む影の真実を突き止めることを目標にする。
知的好奇心もあり、その貪欲な知への執着と自由奔放な性格から、周りを困らせたり、悩ませたりすることもしばしばあれば、語らいに対立してしまう事も頻繁である。
幼い見た目に理系的な人間であり、毒舌にして饒舌で感情表現が苦手な部分やマッドサイエンティスな一面もあり、紅蓮隊のメンバー全員とは気が合うのも本人は悪く思わず、楽しんでいる。
他人を揶揄い反応を見ることに楽しんでる一面はあるが、そんなやり取りを悪く思わず人の感情や心理による研究を行っているそうだ。
因みに彼女は妖魔と人間のハーフでもなければ100%の人間であるにも関わらず、妖魔に好かれる体質を持っている。
そして生まれつき忍術を持っている事から、忍の家系である可能性が極めて高い事も判明。
好きな言葉は知恵は万代の宝。