213話「そうだ、京都へ行こう」
見慣れぬ山外は外の空気が澄んでいるものの、温度は地上と比べて低くありつつ、息を乱しながら自然と汗が流れ出るのは、山を登ることに体力を消費するからだろう。
「ふぅ……此処なら暫くは行方を眩ます事ができるでしょう…」
蛇女から大きくマークを付けられた蒼志は、蒼い髪をサラリと払いながら一息吐く。
神野区一件後、オールマイトという平和の象徴が無くなってから既に月日が経っている。集団で動くより拡散して警察や忍を始めたヒーローの目を逸らす為とはいえ、流石に何度もこの生活を続けるのは酷というものがある。
尤も健気に仲間集めに励んでるのは荼毘と蒼志のみで、時代遅れの天然記念物たること死穢八斎會と一悶着あってから、慎重に行うようになった。
荼毘はゴミ掃除と言わんばかりに幾つもの焼死体事件が相次いでると聞いてはいるが、偶に同じ抜忍のチンピラグループから「あれアンタがやったんだろ!?」と変な噂が偶に立つのはどうにかして欲しい処だ。因みに其れを本人に伝えたら「知るか」の三文字で返された。
荼毘曰く女は嫌いとのことで、蒼志や他の抜忍女仲間とコミュニケーションを避けてるようにさえ見えている。
あの面倒な黒佐波とも多少なりとも会話を交えていたにも関わらずだ。
っと、そんな事はどうでも良いとして…蒼志は追跡や痕跡を途絶えるために一目にもつかない山岳地帯に目を付けた訳だ。
野宿というのも気が引ける話だが、後は死柄木や漆月が大きな事件を起こすか何かしてくれれば良い。
他人任せなのは百も承知、若頭オーバーホールの言葉通り、金がなければ計画を動かせない。そして自分達には資金が圧倒的に足りずにいる。
ならば贅沢するよりも、こうして金を費やないように努力しながら追手を眩ませ、仲間集めを行うのは非常にベストだ。
他の仲間達がどう過ごしてるのかは気になるが…
「……さて、蛇女を潰せなかったのはかなり惜しいですが…流石に漆月に憑黄泉を寄越せとは言いづらいですし、というか憑黄泉っていつ漆月の管理下になったのでしょうか?」
神野区一件後から憑黄泉という存在を知ったのはそう遠くはない。そもそも妖魔を使役していたという事でさえ初耳なのにも関わらず、さも当然のようにあの化け物は敵連合の支給物資となっていた。
脳無はまだ分かる。
初期からオール・フォー・ワンの手により改造を施されたという人間の形をした玩具。自立思考を持たず、命令通りに動く順従なる下僕。
複数個性を持つという事自体驚かされる自体なのだが、超常の真中こう言った事例もあるのかと楽観視しているし、幾らでも説明が付く。
だが、憑黄泉はどうだ?
一体何処で管理を行い、どう行方を絡ませ、どう言った形で漆月との接点があるのだろうか?
(そう言えば、憑黄泉は私の命令通りにするようにしたとも言ってましたよね…そこの構造的には脳無と変わらないのでしょうか?何しろ、調整や管理が必要と言った理由があれば、我々連合に負担を掛けまいと憑黄泉に任せないのも納得…)
まぁ、流石にそんな事が可能であれば此方も苦労はしないというもの。
それよりも仲間集めに励まなくては。
今は戦力が欲しい上に、まだ見ぬ破壊衝動に駆られた抜忍も少なくはないだろう。
下忍以下の実力に伴わない三下雑魚や、オーバーホールを始めた仲間になる気のない輩も集めるわけには行かないので、此方がきちんと見極めなければならないのだが…
「…気配がない辺り、追っ手は大丈夫みたいですね……取り敢えず寝床や食料など確保したいですが…」
「――お前が世を騒がせてる抜忍の一人か」
などと安楽していた途端、ドスの効いた不慣れな声が何処からともなく鮮明に耳を打つ。
「――ッ!?誰?!!」
反射的に背中に携えてた宝刀の鞘を抜き、刀身を輝かせながら警戒態勢に入る。
気配は無いし万全、視界には何処にも敵は映らない、にもかかわらず声はたしかに聞こえた。空耳にしては、心臓が嫌に高鳴っている上に悪寒がする……だが、其処はかとなくして枯れた木々から影を揺らしながら歩み寄ってくる異形な姿をした大男が姿を現わす。
「俺は獄獅狼――友に全てを捧げ、新たな救世主の為に再び全てを捧げに来た……忍を滅ぼし者の一人よ」
ギラリと並ぶ凶器に等しい鋭利な歯を見せ、黄色の狼と獅子を合わせた混合の顔立ちに、毛深く鍛え上げられた肉体は、地獄から這い出た狼。秘伝動物のケルベロスを持つ蒼志とある種、本物に近い冥府の番犬だ。
「匂いで解るぞ…貴様、『魅影』と幾重も接触しているな?奴が生かすのは利用価値ある同胞か、殺害マークを付けてるもの…グルル……追っ手から逃げてる様子を見た限り、血の匂いがない辺り、紛れもなく魅影の味方だろう?」
魅影?
先程からこの化け物は何を駄弁ってるのだろうか?敵意はないようにしろ、この威圧感と圧倒的な存在感からして油断ならない。
「俺は…神野で友が消えたことに只ならぬ憤慨と悲哀を感じた……同時に、俺は待っていた。新たな次世代を担う魅影のお迎えを。
平和の象徴無き今を体現した時、必ずや俺の力が必要だと友から言われ、時期に処刑台(シスターズ)達も解放されるだろうと…」
「貴方、友やらシスターズやら言ってますが…分かるように教えてくれませんか?さっきから独りで勝手に話してるだけで見えないのですが…」
「故に、貴様のことは重々噂に聞いてるぞ…グルルルル…魅影と同じく、忍社会に反乱を齎し志す者だろう?
その名も蒼志……貴様との出逢いもまた、破壊へ導くための命運だとして、貴様に其れほどの価値があるかどうか」
「…はい?さっきから何を…」
「貴様という存在が果たして魅影の名を語るに相応しいか、仲間と呼ぶに価値のある実力があるか、貴様が何をもたらし何を語り、俺を説得できるか……さぁ、試そうか。
貴様は俺に何を見せてくれる?」
どうやら相手は闘る気の様だ。
このままでは不味い…然しそう易々と流してくれる様な雰囲気もないあたり、此処は闘うしかないのだろう。向こうがその気なら此方も応じるまでのこと。
だったのだが…
「弱い……この程度の実力で魅影の為に捧げようなど…!!使い捨ての駒でなければ納得がいかない…!!グルルルルゥゥァアアァァァ!!」
憤慨を燃やしながら吠える獄獅狼に、不愉快な気分が昂ぶる蒼志は、額に青筋を浮かべながら、激痛に身をよじらせて何とか這い上がる。
「さっきから黙って聞いてれば…一人語りで偉そうに…!」
(この大男にムカつく理由は多々ありますが…にしても明らかに可笑しすぎる…異形が彼の個性ではないのですか?忍術は扱ってない…にも関わらず、複数の個性を発現ている…!!)
一つ、角が生え筋力や炎を浴びても瞬時に再生を促し筋力増強を施す『鬼』という個性
一つ、素の力とは違う個性による『パワー』
一つ、『空間を裂ける』個性
一つ、身体の硬質とは比べ物にならない『ダイヤモンド』化
一つ、口から赤色の熱線を吐き出す炎系統の個性を超えた『破壊炎熱線』
軽く戦闘を交えただけでこれ程の個性が挙げられている。
複数個性の所有者を考えるとオール・フォー・ワンに脳無だけだと思ったが…
「ハッキリ分かった…貴様は何もない空っぽな抜忍だ…そうだろう?では何か?貴様の存在意義が何か示すことは出来るのか?貴様は何を残せた?」
何故か獄獅狼は、自分達に対して大きな存在意義を唱えている。その言葉が蒼志の心を抉っていく。
「全く…鬼門島の封印が解かれた今、『匂い』からして首吊り樹海が此方へ来るというのに……あの不届き者共に制裁を加えなければならないのも、また友の為たる使命であるにせよ……奴らと遭遇していれば殺されないだけでも幸い……」
「…ええ、そうですよ…!私は何も齎せない……あのクソ女に見向きもされず、連合でも貢献できず、蛇女を潰し損ねて、あぁ…私は確かに、何も為せれない弱者故の末端…!!ヒーロー殺しがその場にいれば粛清対象者認定の選抜補欠ですよ…!!」
それでも、自分が連合へ赴いたのは…圧倒的なる実力を示してあの憎き女を越えるため。
ヒーロー殺し基忍殺しと謳われたステインの意思などはどうでも良い。荼毘やスピナーは後継とかどうこう言ってたが、そんな話は心底どうだって良い。
「だからこそ…!!漆月率いる敵連合で私は強くなれると…!!そしてもう二度と誰にも見向きもされない弱者から、強者に変わるのだと…!!!
非道にならなければ、屑にならなければ世の中は生きてはいけないと…!!!そう、今まで信じて生きて来た…!!」
「………」
「それを見ず知らずのテメェが…!!知ったような口でしゃしゃってんじゃねェよぉぉぉ!!!!」
蒼志が誰にも見せた事のない一面を曝け出すのは、ある意味この場面が初めてだろう。
ステインも言っていたが、人は死を前に初めて本性を現すと語っていた。蒼志も同じなのだろう…抑圧されたその礼儀正しさと冷徹そうな見た目からして、爆発的に激しく怒りを燃やすその光景は、正に蒼炎。
「……それが、貴様か。成る程…」
「だぁから…何を勝手に納得したように…」
「魅影とは貴様の言う漆月の事だ――」
その言葉で一瞬、喉が詰まるよう思考が停止した。
それこそ、激しく酸素を取り込み全てを焼き尽くす炎が、一時停止するかのように揺らぎが止まる。
「…へ?」
「俺は奴に人を殺す技術と実力を極限に高めさせ、オール・フォー・ワンの後継者になるよう守り育てて来た。
全ては忍という世界を壊すため、それから新たな支配者として君臨するため、だがそれは単なる手筈に過ぎん……だからこそ、高尚たる夢を実現させるためには、女王を支える強き兵が必要だ。
そして、貴様は強き兵か…魅影を支え夢を共に歩むに相応しいか試していたのだ」
強き兵だけなら獄獅狼や脳無、憑黄泉だけで充分だ。
名高い実力を兼ね備えた忍なら分かる、然し蒼志と出逢いながらも納得はいかなかった。
「だが…貴様の言う非道にならなければ生きること叶わず、屑になろうと手段は選ばないのであれば…それを強さと認めるという説は一理あり――そして僅かながらに貴様に可能性を感じた。
貴様が魅影と共に歩むに相応しい人材かどうかを」
獄獅狼は悪意のある笑みを初めて見せた。
グルルゥと喉を鳴らしながら、狂気の爪を蒼志の頬に触れる。
「だから、もう少しの間だけ…一ヶ月間貴様を鍛えてやろう――そして貴様が実力を身につけ、俺が認めるようになれば……その時は蒼志、我が忍社会を滅ぼす同胞と認め、俺はお前の力になろう。貴様が危険に晒された時、呼び出したい時、全て応えて見せようぞ――その後は他の連中にも同じことを繰り返すが…」
「鎌倉や闇、龍姫に私と同じことを味わせると?」
「当然――使い捨てではなく共に歩む仲間であれば。貴様らはまだ知らぬだろう…カグラを名乗り始めた強豪ばかりが存在する事を」
忍社会を壊す行為は、それ即ち世界中のカグラからマークを付けられ、会敵することも意味現す。
世界no.1現段階で忍の象徴に近きリーダー 黒月
カグラ四天王 リュウ、マナ、金剛、白虎
死塾月閃女学館教官、神白
カグラではないが、現在行方を絡ませてる抜忍、桃
代表的な例は挙げたものの、それ以外にも充分危険視するカグラは多く存在する。そんなカグラ達でも、獄獅狼の行方はおろか、迂闊に手も出せないでいるとのこと。
そして此方に敵意のある抜忍達もまた同じ義理の事。
「俺を超えろとまでは言わず、負かせろとも言わん…だが、今の貴様らではこの先荷物となり、魅影の足を引っ張る。それは夢叶わず首を絞める行為…それだけは断じて許さん。
貴様らが本当に魅影の為にと戦えるのなら、これくらいは当然だろう?」
「はぁ……つまり、私は暫くの間は貴方と一緒でなければいけないと?追っ手とかはどうすれば良いんです?」
「俺が駆除する――要らぬ心配はするな。再び見極めよう…全ては、我が夢のため、主人の為、そして……悪しき混沌の世界の為へ」
神楽とは遥かなる山頂。
深淵たる海溝、絶頂まで高く極限まで深い。
神楽とは戦神の化身、平和の使者。
震えるほど強く、慈愛のかけらもない…。
神楽とは…
神楽とは…対妖魔に特化した究極の強者。
全ての忍は神楽に憧れる。
それは高き山脈であるから。
それは広き海原であるから。
神楽とは…
神楽とは…短い命の華が、妖魔を滅して咲き乱れる。
神楽とは…戦いの中で閃く一瞬の光。
数多の光に閃乱カグラが咲き誇る…。
神楽とは…これから始まるは儚くも美しい神楽の物語である。
真紅の忍達と神威、そして神楽が合間見えるとき、一体何が起こるのか…。
神楽とは…
神楽とは…憑黄泉神威の対となりて、闇夜に紛れし怨念を討ち払う太陽の権化。
狂気と厄災を破りし神にして、『百妖夜行』を止めし者。
山吹く悪しき病魔の竜から人々を護りて、原罪を滅ぼせし宿命。
嗚呼…邪悪な闇が眼を覚ますなら、慈愛の朝日が差し昇り、月と太陽の血争う百戦乱舞巻き起こるなり。
神楽とは…全てを照らす光なれ、数多の影は地に還り。
何処に光が帰る時、新たなる対の影が産まれけり。
光と影は対となり、輪廻の如く転生せよ。
新たな命が生まれるは、此処に想いが生まれ来る。
共に歩けや共に廻れ、光と影があるならば。
森羅万象として常世に廻れ、光と影よ。
廻れ時世、戻りきよ。
神楽とは…神威とは……。
これは、神楽に纏わる古き伝承の逸話。
太陽の神が現れし時、人々の平和は訪れ心を浄化する。
悪しき妖魔を滅しては、憎悪浴びし月神怒り荒ぶりて、邪悪に歪みし竜は姿を現し百妖夜行が舞い踊る。
全ての妖魔を滅し時、やがて命は潰え地に還り、輪廻の螺旋に宿るなり。
これぞ閃乱カグラ――少女達の宿命、尊くも儚き集結の華々である。
闇夜の道を颯爽と駆け抜け、延々と続く竹や雑木林を過ぎ去って行く。
満月が照らす今宵、冷え切った空気が肌を痛めつけ、たった一人の少女は小さな幼女を大事そうに抱え込む。
「居たぞ、追え!!」
男性の剣幕する声が背中から聞こえるも束の間、ダァン!ダァン!と銃声が鳴り響き、服や皮膚を掠める。
「チッ…!追っ手か…どうして忍商会の者達が突然と姿を現して……」
掠めた皮膚から赤い血が滴り、痛みを堪えながら背後から迫り来る影を睨みつける。歯を食いしばりながら、守り逃げ果せる事しか出来ない自分に苛立ちが込み上がる。
「…『奈楽』ちゃん、大丈夫?」
「…っ!はい、大丈夫です。心配いりません」
そんな想いも、柔らかな幼女の優しき声に心が洗われる。
オレンジ色のフードを被る少女、奈楽はニコリと微笑みながら心配そうに尋ねる幼女を安心させる。
そうだ、自分の使命はあくまで命尽きるまで守る事…守護者にして生まれついた宿命だ。
戦うことで万が一危険に晒される事となってはならない。
「大丈夫なら一発ヤらせても良いよなァ!?!」
途端に、頭上から野太い声が浴びせられ、上を振り向けば筋骨隆々とした巨漢が拳を大きく振りかざしている。
振るわれた拳を避け、片手に迫り寄る手を蹴りで払いのけ、追っ手から攻撃を許さず走り去る。
「あぁ、クソ…!やるなぁアイツ…」
「そのまま追え『邪淫乱闘』!この先は京の都…強行手段は難しくなる!!早くあの子どもを保護せねば!」
「わーってますって、そいや奈楽とかいう小生意気な雌は殺処分スか?」
「現時点ではな!佐門様からも邪魔する者は排除しろと言われたろ!」
「ちぇっ、あぁー…生ハメで強姦してやりてェなぁ、勿体ねぇ」
「鬼畜の性分とはいえ私情と仕事を弁えろ新人!!女など幾らでもいるだろう!!!
全く…止まれ其処の馬の骨!死を以ってその無様な死体の醜態を曝け出せ雌餓鬼!!」
銃に口を当てて罵声を浴びせると、引き金から放たれた銃弾は醜悪な魔物のような異形の姿をした弾が、自動追尾し奈楽を狙う。
「全く…鬱陶しい!!」
これは避ける事は不可能…蜻蛉の如く軌道を変えて意志があるかのように永遠に狙ってくる。
この忍法は少々厄介…
「ミギャアあァァーーッ!!」
「ふっ!はっ…!」
背中を喰らおうとする異形の弾を、体の軸を回転させ上手く回避し、蹴りで弾を消し飛ばす。
もう一つ放たれた弾はバク転し自動追尾する弾の脳天を狙うようかかと落としで叩き潰す。
「そして一瞬の隙を俺は見逃さない」
其処で仮面を身につけた男は、空洞になってる右目を飛び出し狙いを定めて圧迫するよう地面に叩きつける。
まるで柳生が放つ鬼の眼のように瞳術を扱う青年は、避けようとする奈楽の行動を許さんと言わんばかりに、息の根を止めに掛かる。
「がっ…?!」
何とか躱そうにも避けきれず、頭を殴られた奈楽は意識が飛びそうになりながらも、幼女をより強く抱きかかえては態勢を上手く整え背後を向けて目的地にまで逃げて行く。
頭から血が流れ視界が邪魔になるのが鬱陶しいが…仕方ない。
…いや、目的地があったにしろ逃げ続けねばなるまい。
何処へ行こうと安息の地などない。
「渋とい…っ!」
倒れず仕留め損ねた奈楽に舌打ちをする瞳術遣いは、苛立ちながら怪訝そうに睨み付く。
情報通りとはいえど…護神の民は忍や他の人間とは違う古くから生き残った種族。そう易々と殺させては貰えないらしい。
「守ります――この命に代えても」
その為に…その為だけに、自分はこの世に生まれてきたのですから。
逃げ続ける奈楽、そしてその背後を追い求める忍商会の幹部が三人の影。まだまだ京都に着くには時間が大きく掛かり、このままだと他の幹部達と合流する危険性も高くなるだろう…が、例えそうなったとしても、この命に代えても守らなくてはならない。
それが、自分に課せられた使命なのだから。
そして朝日が差し登り、物語は始まり、加速する。
「よーし!忘れ物はないな?行くぞお前たち!!」
紅蓮隊のアジトである洞窟から姿を現わす筆頭を始め、後から付いてくる五人に焔は元気よく確認をする。
「食料のタッパーともやしは最大限に詰めましたわ!」
「お菓子は三百円までにしたよ!」
「わし、京都行った事ないんやけど必須なものってないんやろ?」
「本やノートパソコン、雑誌や本…春花、研究器具はちゃんと欠かさずあるわよね?」
「はいはい、ちゃんと持ってるわよ美怜ちゃん。全く…旅行でも研究したいだなんて…こう言った日ぐらいは羽を伸ばしてみたら?」
それぞれが胸を弾ませながら意気揚々と旅行を楽しみにしているのが目に映り、本当に詠が京都の旅行券を当ててくれた事に改めて感謝する。
美怜の研究器具に関しては最初こそ辞めておけと制したのだが「京都先で何が起きるか分からない、用意は万全にしておくべき」と聞かず暇な時間さえあればやるつもりだそうだ。
「よっし、じゃあ行くぞ!」
こうして、紅蓮の少女達もまた京都へ赴こうとする。その先に待ち受ける混沌たる戦場が待ち構えてるともいざ知らず。